(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286001
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】圧延用複合ロールの外層材の製造方法及び圧延用複合ロールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/00 20060101AFI20180215BHJP
B22D 13/02 20060101ALI20180215BHJP
C22C 37/00 20060101ALI20180215BHJP
C22C 37/06 20060101ALI20180215BHJP
C21D 5/00 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
B21B27/00 C
B22D13/02 502H
C22C37/00 B
C22C37/06 Z
!C21D5/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-187823(P2016-187823)
(22)【出願日】2016年9月27日
(62)【分割の表示】特願2014-170139(P2014-170139)の分割
【原出願日】2014年8月25日
(65)【公開番号】特開2017-35735(P2017-35735A)
(43)【公開日】2017年2月16日
【審査請求日】2016年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001438
【氏名又は名称】特許業務法人 丸山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻本 豊
(72)【発明者】
【氏名】大段 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 広之
【審査官】
川崎 良平
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−075808(JP,A)
【文献】
特開2009−221573(JP,A)
【文献】
特開2010−279989(JP,A)
【文献】
特開平07−068304(JP,A)
【文献】
特開平06−335712(JP,A)
【文献】
特開2000−051912(JP,A)
【文献】
特開平08−092698(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0225761(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00
B22D 13/00
C22C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延用複合ロールの外層材の製造方法であって、
質量%にて、C:1.8%以上2.5%以下、Si:0%を越えて1.0%以下、Mn:0%を越えて1.0%以下、Ni:0%を越えて0.5%以下、Cr:3.0%を越えて8.0%以下、Mo:4.0%以上10.0%以下、W:0%を越えて2.0%以下、V:0%を越えて10.0%以下、B:0%を越えて0.01%未満、残部Fe及び不可避的不純物を含んでいる合金溶湯を遠心力鋳造する、
ことを特徴とする圧延用複合ロールの外層材の製造方法。
【請求項2】
前記合金溶湯は、質量%にて、前記Moは4.19%以上6.3%以下であり、前記Wは0.43%以上1.7%以下である、
請求項1に記載の圧延用複合ロールの外層材の製造方法。
【請求項3】
前記合金溶湯は、質量%にて、Nb:0.01%以上2.0%以下及び/又はTi:0.01%以上1.0%以下をさらに含有する、
請求項1又は請求項2に記載の圧延用複合ロールの外層材の製造方法。
【請求項4】
前記遠心力鋳造時の凝固速度は、8mm/min以上である、
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の圧延用複合ロールの外層材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法により前記外層材を遠心力鋳造した後、前記外層材の内側に内層又は中間層と内層を、鋳込む又は焼き嵌めする、
ことを特徴とする圧延用複合ロールの製造方法。
【請求項6】
前記外層材に前記内層又は前記中間層と前記内層を、鋳込む又は焼き嵌めした後、オーステナイト化温度から700℃までのロール表面での冷却速度を900℃/h以上とする焼入れを行なう、
請求項5に記載の圧延用複合ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延に用いられる圧延用複合ロールの外層材及びこれを外層とする圧延用複合ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延に用いられる圧延用複合ロールは、鋼板と接する外層にすぐれた耐摩耗性、耐肌荒れ性及び耐クラック性が求められている。このため、ロール外層を構成する外層材には、ハイス系鋳鉄材が用いられている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
近年、生産性向上の面から圧延ピッチが短くなり、ロール外層表面の熱負荷が増大している。また、圧延される鋼板も薄く且つ硬くなっており、ロール外層の摩耗も増大している。
ロール表面は、圧延時に1000℃程度の高温と30℃程度の水冷に繰り返し晒されるため、熱衝撃により表面ヒートクラックが発生したり、さらにはミクロ的な組織脱落が発生する。これらのヒートクラックや組織脱落の程度が浅いと耐肌荒れ性が良いと言われる。ヒートクラックや組織脱落は、最終凝固部分となる粒界の共晶炭化物に優先的に発生しやすい。
【0004】
外層は、凝固後に中間層又は内層の溶湯による熱やオーステナイト化等の高温熱処理による加熱に晒される。この加熱時に、外層材の粒界の共晶炭化物の融点を超えるような温度まで上昇すると共晶炭化物が一部溶損し、キャビティが形成されていることがわかった。キャビティの形成により外層の耐肌荒れ性が低下し、ロール表面の損傷が深くなることからロール寿命が短くなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−320819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハイス鋳鉄材からなる外層は、Cr、Mo、W、V、Nb、FeなどがCと結合して、主としてMC型の炭化物を形成する。この炭化物は、常温及び高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。圧延時に熱衝撃を受けることで、外層表面に亀裂が発生するが、発明者らは、MC型炭化物に比べて熱衝撃に弱い粒界の二次共晶炭化物に部分的な溶損が存在することを解明した。
【0007】
そして、二次共晶炭化物に部分的な溶損が発生する原因が、二次共晶炭化物中のBであることを突き止めた。すなわち、B濃度の高い溶湯を鋳造すると、二次共晶炭化物にBが濃化して混入し、二次共晶炭化物の融点が低くなり、部分的な溶損が発生しやすいことを見出した。
【0008】
しかしながら、Bは、鋳造時の溶湯清浄化としての作用や、焼入れ性を向上させる有効な成分であり、Bを微量ながらも含有させることで、良好な焼入れが可能となる。
【0009】
本発明の目的は、二次共晶炭化物中のB量を微量に含有させることにより、二次共晶炭化物の強度及び融点を高め、耐肌荒れ性を改善することのできる圧延用複合ロールの外層材及びこれを外層とする圧延用複合ロールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の圧延用複合ロールの外層材は、
圧延用複合ロールの外層材であって、
質量%にて、C:1.8%以上2.5%以下、Si:0%を越えて1.0%以下、Mn:0%を越えて1.0%以下、Ni:0%を越えて0.5%以下、Cr:3.0%を越えて8.0%以下、Mo:4.0%以上10.0%以下、W:0%を越えて2.0%以下、V:0%を越えて10.0%以下、B:0%を越えて0.01%未満、残部Fe及び不可避的不純物を含んでいる。
【0011】
外層材は、質量%にて、Nb:0.01%以上2.0%以下及び/又はTi:0.01%以上1.0%以下をさらに含有することが望ましい。
【0012】
外層材の鋳造時の凝固速度は、8mm/min以上とすることが望ましい。
【0013】
外層材は二次共晶炭化物を含み、前記二次共晶炭化物の溶融温度が1100℃より大きいことが望ましい。また、外層材表面におけるB濃度の質量%をB(t1)、外層材内面におけるB濃度の質量%をB(t2)としたとき、B(t2)−B(t1)≧0.002であることが望ましい。
【0014】
また、本発明の圧延用複合ロールは、
上記外層材を外層とし、該外層材の内側に内層又は中間層と内層を具える。
【発明の効果】
【0015】
本発明の圧延用複合ロールの外層材は、上記のようにB量を調整することにより、二次共晶炭化物に含まれるB量を低減することができる。これにより、二次共晶炭化物の強度の向上を図ることができるから、凝固後に1100℃程度の高温に晒されても二次共晶炭化物が溶損することを防止できる。溶損部分のない二次共晶炭化物を有するハイスロールの外層は、優れた耐肌荒れ性を発揮できる。
【0016】
本発明の外層材を外層として用いた圧延用複合ロールは、二次共晶炭化物の強度が高く、耐肌荒れ性にすぐれる。従って、圧延時に外層表面の組織脱落を低減することができ、外層表面の研削頻度を低減することやこれに伴う外層の消耗を低減することができる。
【0017】
<成分限定理由>
本発明の圧延用複合ロールの外層を構成する外層材は、ハイス系鋳鉄材であり、以下の成分を含有する。なお、以下において、特に明示しない場合、「%」は、質量%である。
【0018】
C:1.8%以上2.5%以下
Cは、主としてFe及びCrと結合してM
7C
3型の高硬度複合炭化物を形成すると共に、Mo、V、Nb、Wなどと結合して、MC型、M
6C型、M
2C型等の高硬度複合炭化物も形成する。この高硬度複合炭化物形成のために、 1.8%以上のC%が必要であり、より好ましくは1.85%以上である。一方、2.5%を越えてCが含有されると炭化物量が増すと共に脆くなり、耐クラック性が劣化するため、2.5%以下と規定し、より好ましくは2.25%以下である。
【0019】
Si:0%を越えて1.0%以下
Siは、湯流れ性の確保及び脱酸のために必要な元素であるため添加する。一方、1.0%を越えると焼入れ性が低下し材質が脆くなるため、Siの含有量は0%を越えて1.0%以下とする。
【0020】
Mn:0%を越えて1.0%以下
Mnは、硬化能を増す働きがある。また、Sと結合してMnSを生成し、Sによる脆化を防止するのに有効な元素である。一方、含有量が多くなりすぎると靱性の低下を招くため、Mnの含有量は0%を越えて1.0%以下に規定する。
【0021】
Ni:0%を越えて0.5%以下
Niは、高温硬度を低下させるため、少ない添加量が望まれるが、大型の圧延用複合ロールを作製する際に、熱処理時に十分な焼入速度が得られない場合や、本発明のように低C高V系の材質で材料自身の焼入れ性が悪くなる場合に、焼入れ性改善の目的で添加する。Niの含有量の下限は望ましくは0.01%とする。一方、Niは、0.5%を越えると高温硬度の低下が大きくなるため、上限を0.5%、望ましくは0.3%とする。
【0022】
Cr:3.0%以上8.0%以下
Crは、基地中に固溶し焼入れ性を改善する。また、MoやWと共に共晶炭化物を形成する。焼入れ性を改善するには、Crを3.0%以上含有させる必要があり、逆に8.0%を越えると、共晶炭化物が多くなり、材質の引張り強さが低下するため、Crは、3.0%〜8.0%に規定する。望ましくは、Crは、3.5%以上6.5%以下とする。
【0023】
Mo:4.0%以上10.0%以下
Moは、Fe、Cr、Nb、Wと共にCと結合して、主としてM
7C型、M
6C型、M
2C型の複合炭化物を形成し、常温及び高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。このため、少なくとも2.0%以上、望ましくは4.0%以上含有させる。一方、あまりに多く含有すると、残留オーステナイトが安定化し、高硬度が得られ難くなるため、上限は10.0%、望ましくは7.0%に規定する。
【0024】
W:0%を越えて2.0%以下
Wも同様に、Fe、Cr、Mo、Nbと共にCと結合して、複合炭化物を形成し、常温及び高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与するため含有させる。一方、あまりに多く含有すると、靭性の低下をまねき、耐ヒートクラック性を悪化させる。このため、上限は10.0%に規定する。望ましくは、Wの上限は2.0%とする。
【0025】
V:0%を越えて10.0%以下
Vは、Fe、Cr、Mo、Wと共にCと結合して、凝固時に主としてMC型炭化物を構成し、常温および高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。
【0026】
Vを含むMC型の炭化物は、常温及び高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。このMC型炭化物は、厚さ方向に枝状に生成し、基地の塑性変形を抑制するから、機械的性質、さらには耐クラック性の向上にも寄与する。一方、あまりに多く含有すると、炭化物が偏析を起こし易くなる。このため、Vの上限は10.0%、望ましくは8.0%に規定する。
【0027】
B:0%を越えて0.01%以下
Bは、基地中に溶け込んだBによる焼入れ性の増大効果を有するため含有させる。Bの含有量はその下限を0.0002%とすることが好適である。圧延用複合ロールのように質量の大きな鋳物の場合、冷却速度を速くすることは一般に困難であるが、焼入れ性の向上により、良好な焼入れ組織を得易くなる。一方、含有量が多すぎると二次共晶炭化物の融点が下がり、材質が脆くなり好ましくないため、鋳鉄材における含有量は上限を0.01%となるようにする。
【0028】
なお、外層材の鋳造時に晶出する微細なMC炭化物等の一次炭化物に比べ、最終凝固する粗大な二次共晶炭化物には、基地よりもBが多く濃縮されるとともに、基地のB量の増加に伴って二次共晶炭化物中のB濃度はより高くなる。二次共晶炭化物は、Bの濃度が高くなると二次共晶炭化物が粗大になるのに加え、融点が下がる。このように二次共晶炭化物の融点が下がると、外層凝固後の中間層又は内層の溶湯による熱やオーステナイト化等の高温熱処理時に、二次共晶炭化物が溶融し、キャビティ状の溶損が生じる。そして、粒界の二次共晶炭化物が他の部分に比べ脆いため、圧延の肌荒れはこの二次共晶炭化物に優先的に発生するが、この溶損は、その傾向をさらに促進してしまう。しかし、外層中のB量を調整することで、この問題を解決することが出来る。さらに、外層材の凝固速度を10mm/min以上とすることで、Bを基地中に留め、二次共晶炭化物中のB量を低減できるから、溶損の発生を抑えることができる。溶損の発生を抑えることができたことにより、外層の耐肌荒れ性を向上することができる。また、外層材の内面におけるB濃度と外層材の表面(外面)におけるB濃度に濃度差を設けることで、外層の高温熱処理において均質な材質が得られる。B濃度差は、溶湯へのB添加を分割する等により調整できる。具体的には、外層材表面におけるB濃度の質量%をB(t1)、外層材内面におけるB濃度の質量%をB(t2)としたとき、B(t2)−B(t1)の値は0.002以上であることが好ましい。より好ましくは0.003以上である。
なお、B(t2)−B(t1)の値が大きすぎると、外層材内面におけるB濃度が高くなりすぎるため、0.008以下であることが好ましく、より好ましくは0.005以下である。
【0029】
上記外層は、さらに以下の成分を含有させることができる。
【0030】
Nb:0.01%以上2.0%以下及び/又はTi:0.01%以上1.0以下
Nbは、Fe、Cr、Mo、Wと共にCと結合して、主としてMC型の炭化物を形成し、常温及び高温硬度を高めて耐摩耗性の向上に寄与する。また、Nbは、MC型炭化物を微細分散するとともに、組織を微細化する効果があり、機械的性質、さらには耐クラック性の向上にも寄与する。このため、Nbは、0.01%以上、望ましくは0.1%以上含有させる。一方、あまりに多く含有すると、炭化物が偏析を起こし易くなる。このため、Nbの上限は1.0%、望ましくは0.5%に規定する。
【0031】
また、Tiは、溶湯中で酸化物を生成して、溶湯中の酸素含有量を低下させ、製品の健全性を向上させると共に、生成した酸化物が結晶核として作用するために凝固組織の微細化に効果がある。一方、あまりに多く含有すると介在物となって残存する不都合がある。このため、Tiを添加する場合でも、含有量は0.01%以上1.0%以下となるようにする。
【0032】
本発明の外層材は、上記成分を含有し、残部はFe及び不可避的に混入する不純物で形成される。
【0033】
また、残部にはP及びSが含まれることがあり、その場合、以下のように成分を規定することが好ましい。Pの含有量が0.08%、Sの含有量が0.06%を夫々越えると、耐酸化性、靭性が低下するから、P及びSは夫々0.08%以下、0.06%以下好適である。望ましくは、P及びSの上限を0.05%以下とする。一方で、Pは、被削性を向上させるので0%を越えて含有させることが好適であり、0.015%以上含有することが望ましい。また、Sは、Mnと化合して被削性を向上させるため、0%を越えて願湯させることが好適であり、0.005%以上含有することが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、発明例である実施例3の試験片に染色浸透探傷検査を行なった写真である。
【
図2】
図2は、比較例2の試験片に染色浸透探傷を行なった写真である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の圧延用複合ロールは、圧延に供される外層と、外層の内側に中間層及び/又は内層と、軸材によって構成することができる。内層を構成する内層材として、高級鋳鉄、ダクタイル鋳鉄、黒鉛鋼等の強靱性を有する材料を例示でき、中間層を構成する中間層材としてアダマイト材を例示できる。
【0036】
外層は、上記成分の外層材の合金溶湯を溶製し、たとえば、遠心力鋳造や静置鋳造によって鋳込むことができる。遠心力鋳造は、縦型(回転軸が鉛直方向)、傾斜型(回転軸が斜め方向)や横型(回転軸が水平方向)の何れであってもよい。
【0037】
外層材の鋳込み時に、凝固速度は8mm/min以上とする。凝固速度の調整は、鋳型を空冷や水冷することで実施できる。
【0038】
このように外層材の凝固速度を規定することで、基地に含まれるB量を増やすことができ、二次共晶炭化物へのBの混入を抑えることができる。
【0039】
鋳造された外層材には、内層又は中間層と内層を鋳込んだり、焼き嵌め等することで圧延用複合ロールが作製される。
【0040】
望ましくは、圧延用複合ロールには、焼入処理を施す。Bは、焼入れ性を向上させることができるが、本発明では、Bが二次共晶炭化物に濃化していない分、基地中に多く含まれているから、焼入れにより基地の硬度をさらに高めることができる。
【0041】
本発明に係る外層は、上記成分、凝固速度を施すことで、二次共晶炭化物のビッカーズ硬さを例えば1500HV〜1900HVとすることができる。このように硬さが上がったのは、二次共晶炭化物のB量が低減したためであると考えられる。
【0042】
そして、上記外層材を外層として構成される圧延用複合ロールは、二次共晶炭化物の粗大化を抑制するとともに、強度及び、融点が上がったことで、熱処理や圧延時の熱衝撃を受けても二次共晶炭化物が欠落や溶損することを防止できる。
【0043】
作製された外層の表面を観察したところ、MC型炭化物の面積率は7%〜15%、二次共晶炭化物の面積率は1%〜6%、残部基地であった。Bの含有量を調整し、さらに、凝固速度を調整したことで、二次共晶炭化物の成長を抑えることができた。これは二次共晶炭化物の面積率を低く抑えることができたことを意味している。また、外層におけるB量を測定したところ、外層表面におけるB量は0.006%であり、外層内面におけるB量は0.009%であり、外層材表面におけるB濃度の質量%をB(t1)、外層材内面におけるB濃度の質量%をB(t2)としたとき、B(t2)−B(t1)の値は0.002以上であった。
【0044】
本発明の外層材を外層として用いた圧延用複合ロールは、二次共晶炭化物の強度が高く、耐肌荒れ性にすぐれる。従って、圧延時に外層表面の欠損を抑えることができ、外層表面の研削頻度を低減やこれに伴う外層の消耗を低減することができる。
【0045】
本発明の外層材を外層として構成される圧延用複合ロールは、とくに、操業安定性が求められる熱間仕上げ圧延の前・中段スタンドへの適用に好適である。
【実施例】
【0046】
高周波誘導溶解炉にて、表1に示す各種成分の合金溶湯を溶製し、遠心力鋳造を行なった。鋳造時の外層材の凝固速度は8mm/min以上となるように調整した。表1中、実施例1〜5は発明例である。なお、比較例1及び比較例2は、B量が0.01%を越える外層材である。
【0047】
【表1】
【0048】
外層材を鋳込んだ後、内層を鋳込み、圧延用複合ロールを作製した。
【0049】
得られた圧延用複合ロールに焼入れを施した。焼入れは、大型扇風機を使い強制空冷を行い、オーステナイト化温度から700℃までのロール表面での冷却速度を900℃/h以上となるようにした。
【0050】
焼入れを施した実施例及び比較例の圧延用複合ロールについて、機械加工を施した後、一辺が30mm以上は有し、厚さ10mm程度の試験片を夫々複数ずつ切り出し、表2に示すように、1050℃〜1125℃の温度で30分保持し、各試験片に染色浸透探傷検査を実施し、その表面の状態を観察した。表2中、「○」は染色浸透探傷検査において溶損が確認されなかった試験片、「×」は溶損が確認された試験片である。
【0051】
【表2】
【0052】
表2を参照すると、発明例である実施例1乃至実施例5はいずれも、1050℃〜1125℃で30分保持した場合であっても、二次共晶炭化物の溶損が生じていないことがわかる。
図1は、発明例3の試験片の写真である。
図1を参照すると、試験片の表面に指示模様が観察されていない。
【0053】
これは、実施例の試験片において、凝固速度を8mm/minとしたことにより、Bが基地中に多く残存し、二次共晶炭化物への混入を抑えることができたことを意味する。すなわち、二次共晶炭化物への濃化したBの混入が防がれたことで、二次共晶炭化物の硬さを向上でき、高温で保持した場合であっても二次共晶炭化物が溶融したり欠損することを防止できていることがわかる。
【0054】
一方、比較例は1050℃では二次共晶炭化物に溶損は確認できないが、1100℃以上では溶損が確認されたことがわかる。
図2は、比較例2の試験片の写真である。
図2を参照すると、試験片の表面の複数箇所に二次共晶炭化物が溶存した指示模様が観察されている。
図3は、
図2の指示模様の拡大写真である。図に示すように、指示模様より、組織が欠落していることがわかる。これは、二次共晶炭化物にBが濃化して混入した結果、二次共晶炭化物が高温によって溶融したことを意味している。
【0055】
なお、実施例についても、1150℃×30minの条件で保持した場合には、二次共晶炭化物の溶損が確認された。
【0056】
上記説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは範囲を限縮するように解すべきではない。また、本発明の各部構成は、上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。