【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、精研削あるいは研磨対象のレンズのコバ形状、すなわち外周面形状は、一般に真円ではなく、外径寸法のバラツキも大きい。このために、従来においては、レンズホルダーにおけるコバ受けによって取り囲まれているレンズ保持面に、外径寸法にバラツキのある加工対象のレンズを装着できるように、コバ受けの円形内周面の内径寸法を、加工対象のレンズのコバ外径寸法に比べて僅かに大きくしてある。したがって、レンズをレンズホルダーに保持した状態においては、レンズのコバとコバ受けとの間には微小な隙間ができることがある。
【0008】
隙間が生じる場合には、レンズホルダーにレンズを装着した状態において、レンズホルダーのレンズ保持面の球芯と、当該レンズ保持面に接するレンズのレンズ球面の球芯との間に僅かなズレが生じるおそれがある。このような球芯のズレが生じると、加工工程(精研削工程、研磨工程)において、レンズは偏心回転しながらレンズ加工皿のレンズ加工面に押圧されて加工が行われ、加工側のレンズ球面が真球にならない。
【0009】
また、一方のレンズ球面の加工時と他方のレンズ球面の加工時とでは、レンズ外周面とコバ受けの内周面との干渉状態が変化するおそれがある。この場合には、加工後の両側のレンズ球面の中心軸線(レンズ光軸)にズレが生じるおそれがある。
【0010】
このように、コバ受けの付いたレンズホルダーを備えた球芯式加工機を用いてレンズ球面を精研削加工あるいは研磨加工する場合には、レンズ球面の加工精度が低下するおそれがある。
【0011】
一方、コバの無いレンズのレンズ球面の加工においては、レンズホルダーに芯出しされた状態でレンズを正確に貼り付けるという余分な工程が必要である。レンズ加工の作業効率を改善するためには、このような工程を省略できることが望ましい。
【0012】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、コバ受けを用いることなく、あるいはレンズをレンズホルダーに貼り付ける作業を必要とすることなく、正確に芯出しされた状態で加工対象のレンズをレンズホルダーとレンズ加工皿の間に装着することのできる球芯式加工機のレンズ芯出し方法を提案することにある。また、当該レンズ芯出し方法によって芯出しされたレンズに精研削加工あるいは研磨加工を行うレンズ加工方法を提案することにある。さらに、当該レンズ加工方法を用いてレンズのレンズ球面を精度良く精研削加工あるいは研磨加工することのできる球芯式加工機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、レンズのレンズ球面に精研削加工あるいは研磨加工を施すために、球芯式加工機のレンズホルダーとレンズ加工皿の間に、前記レンズを芯出しされた状態に装着する芯出し方法であって、
前記レンズホルダーに前記レンズを真空吸着するレンズ吸着工程と、
前記レンズの前記レンズ球面を、前記レンズ加工皿における前記レンズ球面に対応する球面形状のレンズ加工面に対して所定の押圧力で押圧するレンズ押圧工程と、
前記レンズの吸着を解除するレンズ吸着解除工程と、
前記押圧力で前記レンズが押圧されている前記レンズ加工皿を、前記レンズ加工面の中心と当該レンズ加工面における前記レンズホルダーの中心軸線上に位置する球芯とを通る回転軸線回りに、所定の回転速度で回転し、前記球芯を
揺動中心として所定方向に所定の揺動角度で揺動することにより、前記レンズ加工面の球芯に前記レンズ球面の球芯を誘導する回転・揺動工程と、
を含むことを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、一方の面に第1レンズ球面が形成され、他方の面に第2レンズ球面が形成されたレンズにおける前記第2レンズ球面に精研削加工あるいは研磨加工を施すために、球芯式加工機のレンズホルダーとレンズ加工皿の間に、前記レンズを芯出しされた状態に装着する芯出し方法であって、
前記レンズホルダーにおける前記第1レンズ球面に対応する球面形状のレンズ保持面に、前記レンズの前記第1レンズ球面を真空吸着するレンズ吸着工程と、
前記レンズ保持面に吸着した前記レンズの前記第2レンズ球面を、前記レンズ加工皿における前記第2レンズ球面に対応する球面形状のレンズ加工面に対して所定の押圧力で押圧するレンズ押圧工程と、
前記レンズ保持面に対する前記レンズの吸着を解除するレンズ吸着解除工程と、
前記押圧力で前記レンズが押圧されている前記レンズ加工皿を、前記レンズ加工面の中心および当該レンズ加工面の球芯を通る回転軸線回りに所定の回転速度で回転し、前記レンズ加工面の球芯を
揺動中心として所定方向に所定の揺動角度で揺動することにより、前記レンズ保持面の球芯に前記第1レンズ球面の球芯を誘導すると共に、前記レンズ加工面の球芯に前記第2レンズ球面の球芯を誘導する回転・揺動工程と、
を含むことを特徴としている。
【0015】
球芯式加工機においては、レンズホルダーとレンズ加工皿とが、加工対象のレンズを挟み、位置決めされた状態で対向配置される。すなわち、レンズホルダーの中心軸線上(レンズ保持面の中心および球芯を通る直線上)に、レンズ加工皿のレンズ加工面の球芯が位置し、当該球芯を揺動中心としてレンズ加工皿が揺動する。本発明の芯出し方法では、このように位置決めされるレンズホルダーのレンズ保持面とレンズ加工皿のレンズ加工面に着目し、これらの球面形状を利用して、レンズ保持面の球芯とレンズ加工面の球芯を結ぶ直線上に、加工対象のレンズの両側のレンズ球面の球芯を結ぶ直線が一致する芯出し状態を形成している。
【0016】
すなわち、位置決めされたレンズ保持面とレンズ加工面との間に、所定の押圧力で加工対象のレンズを挟み、この状態で、所定の回転速度でレンズ加工皿を回転させると共に所定の揺動角度でレンズ加工皿を揺動させる回転・揺動工程を行う。これらの回転および揺動に伴う摺動により、レンズ保持面とレンズ加工面の間に移動可能な状態で挟まれているレンズは、力学的に最も安定した位置に自動的に移動する。
【0017】
換言すると、レンズのレンズホルダー側の面が平面の場合には、レンズ加工皿の側のレンズ球面は、その球芯がレンズ加工面によって当該レンズ加工面の球芯に向かう方向に誘導され、芯出し状態が形成される。双方がレンズ球面となっているレンズの場合には、当該レンズの第1レンズ球面はその球芯がレンズ保持面によって当該レンズ保持面の球芯に向かう方向に誘導され、第2レンズ球面はその球芯がレンズ加工面によって当該レンズ加工面の球芯に向かう方向に誘導される。この結果、レンズ保持面の球芯とレンズ加工面の球芯を結ぶ直線上に、加工対象のレンズの両側のレンズ球面の球芯を結ぶ直線が一致する芯出し状態が形成される。
【0018】
ここで、レンズが自動的に芯出し位置に速やかに移動できるようにするためには、前記回転・揺動工程において、前記押圧力は前記レンズの前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)の精研削加工時あるいは研磨加工時における加工用押圧力よりも小さく、前記回転速度は前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)の精研削加工時あるいは研磨加工時における加工用回転速度よりも遅く、前記揺動角度は前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)の精研削加工時あるいは研磨加工時における加工用揺動角度よりも小さいことが望ましい。
【0019】
特に、前記押圧力は前記加工用押圧力の1/5〜1/2であり、前記回転速度は100rpm〜500rpmであり、前記揺動角度は、前記中心軸線から、前記レンズ球面の開角の1/30〜1/10であることが望ましい。
【0020】
本発明によれば、コバ受けを備えたレンズホルダーを用いてレンズの芯出しを行う必要が無いので、レンズホルダーとして、コバ受けの無いレンズホルダーを用いることができる。すなわち、レンズ保持面の外周縁にレンズのコバ(外周端面)に当接可能な円環状の突出部が備わっていないレンズホルダーを用いることができる。
【0021】
また、本発明によれば、コバの無い形状のレンズを、レンズホルダーのレンズ保持面に芯出し状態に貼り付ける作業を必要とすることなく、芯出しされた状態でレンズホルダーとレンズ加工皿の間に装着できる。この場合には、レンズホルダーの外径寸法を加工対象のレンズの外径寸法よりも小さくしておけば、コバの無い形状のレンズの芯出しも、コバのあるレンズと同様に行うことができる。
【0022】
次に、本発明の球芯式加工機を用いたレンズ加工方法は、
上記のレンズ芯出し方法によって、前記レンズ保持面と前記レンズ加工皿の間に前記レンズを装着するレンズ芯出し工程と、
芯出しされた前記レンズを前記レンズ保持面に真空吸着して保持するレンズ保持工程と、
前記レンズ保持面に吸着した前記レンズの前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)を前記レンズ加工面に対して加工用押圧力で押圧し、この状態で、前記レンズ加工皿を所定の加工用回転速度で前記回転軸線回りに回転すると共に前記加工面の球芯を中心として所定の加工用揺動角度で揺動して、前記レンズの前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)に加工を施すレンズ加工工程と、
を含むことを特徴としている。
【0023】
本発明のレンズ加工方法のレンズ加工工程では、精度良く芯出しされた状態でレンズがレンズホルダーとレンズ加工皿の間に装着され、真空吸着によってレンズは芯出し位置に保持される。よって、レンズ球面を精度良く真球に加工することができる。
【0024】
ここで、前記レンズ保持工程では、前記レンズの形状に応じて前記レンズを前記レンズ保持面に保持する真空吸着圧力を調整し、前記加工工程では、前記レンズ球面(前記第2レンズ球面)に対する加工の進行に応じて、前記真空吸着圧力を調整することが望ましい。真空吸着圧力を調整することで、レンズ保持面に吸着されるレンズの変形を抑制できる。これにより、精度良くレンズ球面(第2レンズ球面)を真球となるように加工できる。
【0025】
次に、本発明の球芯式加工機は、
レンズ保持面を備えたレンズホルダーと、
前記レンズ保持面に対峙可能なレンズ加工面を備えたレンズ加工皿と、
前記レンズホルダーを、前記レンズ加工皿に対して、当該レンズホルダーの中心軸線に沿った方向に相対的に移動させる移動機構と、
前記レンズホルダーのレンズ保持面に加工対象のレンズを真空吸着させる真空吸着機構と、
前記レンズ加工皿を、前記レンズ加工面の中心および当該レンズ加工面の球芯を通る回転軸線回りに回転する回転機構と、
前記レンズ加工皿を、前記中心軸線上に位置する前記球芯を揺動中心として揺動する揺動機構と、
前記移動機構、真空吸着機構、前記回転機構および前記揺動機構を駆動制御するコントローラーと、
を有し、
前記コントローラーは上記のレンズ加工方法により、加工対象のレンズの芯出し動作、前記レンズを前記レンズホルダーに保持する動作、および前記レンズの加工動作を行うことを特徴としている。
【0026】
ここで、前記レンズホルダーとして、コバ受けの無いレンズホルダーを用いることができる。この場合には、前記レンズ保持面の外径寸法を、加工対象のレンズの外径寸法よりも小さくすればよい。