特許第6286036号(P6286036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286036人工補因子の合成のためのS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ変異体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286036
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】人工補因子の合成のためのS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ変異体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180215BHJP
   C12N 9/10 20060101ALI20180215BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20180215BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20180215BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20180215BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20180215BHJP
   C12P 19/40 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12N9/10
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   C12N5/10
   C12P19/40
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-525590(P2016-525590)
(86)(22)【出願日】2014年9月4日
(65)【公表番号】特表2016-534719(P2016-534719A)
(43)【公表日】2016年11月10日
(86)【国際出願番号】EP2014002398
(87)【国際公開番号】WO2015067331
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】13005228.5
(32)【優先日】2013年11月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513012185
【氏名又は名称】ライプニッツ−インスティチュート フュア プフランツェンビオケミ スティフチュング デス エーフェントリヒェン レヒツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディッペ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ブラント ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ヴェッスヨハン ルートガー エー.
(72)【発明者】
【氏名】ロスト ハネス
(72)【発明者】
【氏名】ポルツェル アンドレア
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01659174(EP,A2)
【文献】 国際公開第2003/008591(WO,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02071022(EP,A1)
【文献】 米国特許第06312920(US,B1)
【文献】 特表2011−505148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼから誘導される、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又は配列番号7のアミノ酸配列を含む単離ポリペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載のポリペプチドをコードする単離核酸。
【請求項3】
請求項2に記載の核酸を含むベクター。
【請求項4】
請求項2に記載の核酸又は請求項3に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項5】
好適なS−アルキルホモシステイン、S−メチルビニルホモシステイン、又は他のホモシステイン誘導体と、請求項1に記載のポリペプチドとを反応させる工程を含む、S−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH−OR、−(CH−SR若しくは−(CH−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体を生体触媒により生成する方法。
【請求項6】
S−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH−OR、−(CH−SR若しくは−(CH−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体の生成のための請求項1に記載のポリペプチドの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は野生型バチルス・サブチリス(Bacillus subtilis:枯草菌)S−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してI317位及びI105位のアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関するものである。本発明は更に、SAM誘導体の生成のための単離核酸、ベクター、宿主細胞、使用及び方法それぞれに関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんど全ての酵素触媒メチル転移反応が補因子S−アデノシルメチオニン(SAM)に依存する。そのため、この化合物の可用性がバイオテクノロジー、例えば貴重なファインケミカル及び薬剤の製造における対応するメチルトランスフェラーゼの適用に重要である。細胞代謝において、この汎用メチル供与体はSAMシンターゼ(SAMS)によるL−メチオニンのアデノシル化により形成される。しかしながら、SAMの酵素合成は生成物であるSAMによりほとんどのSAMSが阻害され、それにより変換の停滞、低収率、又は生きた全細胞生体触媒では、補因子の不十分な可用性が起こることから、産業用途には適していない。加えて、ほとんどのSAMS酵素はそのアミノ酸基質の構造変化を許容しない。そのためこれらの酵素は人工メチオニン誘導体から補因子類似体を合成する能力を欠いている。特徴付けられている多数のSAMS酵素の中でも、2つのタンパク質のみがS−エチル−L−ホモシステイン(エチオニン)をS−アデノシルエチオニンへと相当に変換する。しかしながら、これらのタンパク質は非天然の長鎖又は官能化アルキル基の転移を可能にするSAM誘導体の合成には適していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、SAM、及び人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH−OR、−(CH−SR若しくは−(CH−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル、好ましくはC〜Cアルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体の生体触媒による生成に使用することができるSAMシンターゼの変異体を、好ましくは工業規模にて提供することであり、該変異体は従来のSAMシンターゼと比べて広い基質特異性、高い触媒効率及び生成物阻害の低減を呈する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の技術的課題の解決策は、特許請求の範囲にて特徴付けられている実施の形態により達成される。
【0005】
特に第1の態様では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してI317位及びI105位のアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。特に、本発明の単離ポリペプチドはI317位、I105位、又はI317位及びI105位の両方に任意のアミノ酸置換を有することができ、I317位、又はI317位及びI105位の両方におけるアミノ酸置換が特に好ましい。置換アミノ酸は特に限定されず、イソロイシン(I)を明らかな例外とする任意のタンパク質を構成するアミノ酸とすることができる。しかしながら、置換アミノ酸はイソロイシンよりも空間の狭い、すなわち体積の小さいアミノ酸であるのが好ましい。これに関する特に好ましいアミノ酸はグリシン(G)、ロイシン(L)、プロリン(P)、スレオニン(T)、システイン(C)、セリン(S)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、バリン(V)及びアラニン(A)であり、バリン(V)及びアラニン(A)が最も好ましい。
【0006】
このため特に好ましい実施の形態では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは、該野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317G、I317L、I317P、I317T、I317C、I317D、I317E、I317N、I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。
【0007】
別の特に好ましい実施の形態では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは、該野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。
【0008】
これに関連して「野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導されるポリペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに関して上記で規定されるアミノ酸置換が少なくとも1種含まれている場合に、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに本質的に対応するポリペプチドに関連するものであることが意図される。さらに、上記用語は、得られるポリペプチドがSAMシンターゼの生物活性を保持している場合に任意数の更なるアミノ酸置換、付加又は欠失を含み得るポリペプチドに関連するものであることが意図される。これに関連して、本明細書で使用される「SAMシンターゼの生物活性を保持している」という用語及び本明細書で使用される「その生物学的に活性のある断片」という用語は、当該技術分野で既知の標準SAMシンターゼ活性アッセイにて求められるように、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼの活性の少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、100%、又は100%超を有するポリペプチドに関するものである。
【0009】
更なるアミノ酸置換、付加又は欠失の数は一般的に、得られるポリペプチドの生物活性に関する上記条件によってのみ制限されるが、得られるポリペプチドは、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに対して少なくとも50%、少なくとも52.5%、少なくとも55%、少なくとも57.5%、少なくとも60%、少なくとも62.5%、少なくとも65%、少なくとも67.5%、少なくとも70%、少なくとも72.5%、少なくとも75%、少なくとも76.25%、少なくとも77.5%、少なくとも78.75%、少なくとも80%、少なくとも81.25%、少なくとも83.75%、少なくとも85%、少なくとも86.25%、少なくとも87.5%、少なくとも88%、少なくとも88.5%、少なくとも89%、少なくとも89.5%、少なくとも90%、少なくとも90.5%、少なくとも91%、少なくとも91.5%、少なくとも92%、少なくとも92.5%、少なくとも93%、少なくとも93.5%、少なくとも94%、少なくとも94.5%、少なくとも95%、少なくとも95.25%、少なくとも95.5%、少なくとも95.75%、少なくとも96%、少なくとも96.25%、少なくとも96.5%、少なくとも96.75%、少なくとも97%、少なくとも97.25%、少なくとも97.5%、少なくとも97.75%、少なくとも98%、少なくとも98.25%、少なくとも98.5%、少なくとも98.75%、少なくとも99%、少なくとも99.25%、少なくとも99.5%、又は99.75%の同一性を有することが好ましい。
【0010】
さらに、「上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してI317位及びI105位のアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列」及び「上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列」という用語は、本明細書で使用される場合、各アミノ酸配列、すなわち(i)上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に本質的に対応し、(ii)上記配列に対して上記アミノ酸置換の少なくとも一方を含み、かつ(iii)上記で規定されるような任意の更なるアミノ酸置換、付加又は欠失を含み得るアミノ酸配列に関連するものであることが意図され、また上記更なるアミノ酸置換、付加又は欠失の数は得られるポリペプチドの生物活性に関して、好ましくは野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに対する得られるポリペプチドの同一性に関して上記で規定されるようなものである。
【0011】
更なる実施の形態では、本発明の単離ペプチドはアミノ酸置換I105G、I105L、I105P、I105T、I105C、I105S、I105A及びI105Vからなる群から選択されるアミノ酸置換を更に含む。
【0012】
好ましくは更なる実施の形態では、本発明の単離ペプチドはアミノ酸置換I105A及びI105Vからなる群から選択されるアミノ酸置換を更に含む。
【0013】
好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0014】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0015】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI105Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0016】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317V及びI105Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0017】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI105Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0018】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317V及びI105Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0019】
更なる態様では、本発明は本発明によるポリペプチドをコードする単離核酸に関する。このような核酸は特に限定されず、一本鎖又は二本鎖のDNA分子、RNA分子、DNA/RNAハイブリッド分子、又は人工及び/又は修飾核酸分子とすることができる。「本発明によるポリペプチドをコードする核酸」という用語は本明細書で使用される場合、各ポリペプチドのコード配列を含む核酸分子、及び各ポリペプチドのコード配列に対して完全に相補的な配列を含む核酸分子に関連するものであることが意図される。
【0020】
更なる態様では、本発明は本発明による核酸を含むベクターに関する。好適なベクターは特に限定されず、当該技術分野で既知である。これらのベクターとしては例えば、プラスミドベクター、例えば既知の発現ベクター、特にpET28a(+)等の細菌発現ベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター及び人工染色体が挙げられる。
【0021】
更に別の態様では、本発明は本発明による核酸又は本発明によるベクターを含む宿主細胞に関する。好適な宿主細胞は特に限定されず、当該技術分野で既知である。これらの宿主細胞としては例えば、細菌細胞、例えば大腸菌株K12、例えば大腸菌BL21(DE3)に基づく細胞等の組換えタンパク質発現に既知の細菌細胞、バチルス・サブチリス等のグラム陽性菌細胞が挙げられるが、更に酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞及び哺乳動物細胞も挙げられる。
【0022】
更なる態様では、本発明は、好適なS−アルキルホモシステイン、S−メチルビニルホモシステイン、又は他のホモシステイン誘導体と、本発明のポリペプチドとを反応させる工程を含む、S−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH−OR、−(CH−SR若しくは−(CH−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル、好ましくはC〜Cアルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体を生体触媒により生成する方法に関する。
【0023】
本発明の方法を用いて生成することができるSAM類似体は特に限定されず、用いられるSAMシンターゼ変異体の基質特異性及び選択される開始生成物のみに依存するものである。例としては、S−エチル−L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルエチオニン、S−n−プロピル−D,L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルプロピオニン、S−n−ブチル−D,L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルブチオニン、及びS−メチルビニル−D,L−ホモシステイン由来のS−アデノシル−S−メチルビニルホモシステインが挙げられる。
【0024】
最後の態様では、本発明はS−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH−OR、−(CH−SR若しくは−(CH−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル、好ましくはC〜Cアルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体の生成のための本発明によるポリペプチドの使用に関する。この態様では、生成することができるSAM類似体及びそれらの各開始生成物が本発明の方法について上記で規定されている。
【0025】
本発明はSAM及びSAM類似体の生成に、特に工業規模にて有利に使用することができるSAMシンターゼ変異体を提供する。本発明によるSAMシンターゼ変異体は、好適な宿主細胞にて高度に発現することができ、高い生産性、生成することができる広範なSAM類似体をもたらす広範な開始生成物のための広い基質特異性、及び生成物阻害の低減を特徴とする。これらの特徴から、本発明によるSAMシンターゼ変異体は工業環境にてSAM及びSAM類似体の大量生成に理想的な候補物質となる。
【0026】
SAM及び類似体の生体触媒による生成に適したSAMS酵素を得るために、バチルス・サブチリス由来のタンパク質を合理的タンパク質設計により改善した。活性部位にごく接近して位置する2つの保存されたイソロイシン残基(I105及びI317)の置換によって、酵素の基質スペクトルが人工メチオニン誘導体まで広げられた。105位及び317位への空間の狭いバリン残基又はアラニン残基の導入により変異体がもたらされ、該変異体は炭素数2〜4の置換基を保有するメチオニン及びS−アルキルホモシステインを変換することができるものであった。野生型酵素とは対照的に、変異体I317V及びI317Aは生成物阻害による影響をあまり受けず、SAM及びその長鎖類似体の調製合成に有益であることが分かった。加えて、これらの変異体を適用することで、メチオニンを成長培地に添加した際に原核細胞宿主において高レベルの細胞内濃度のSAMを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】SAMシンターゼ酵素を示す図である。バチルス・サブチリス由来の精製SAMシンターゼ(レーン1)、並びにその変異体I317V(レーン2)、I317A(レーン3)、I105V/I317A(レーン4)、I105A/I317A(レーン5)、I105V/I317S(レーン6)及びI105S/I317S(レーン7)のSDS−PAGE。
図2】バチルス・サブチリス由来のSAMシンターゼのモデルを示す図である。A)SAM(空間充填表示)が2つのモノマー単位間に結合したテトラマーの三次構造。B)結合した生成物SAMを有する活性部位。より大きい官能基RとのSAM誘導体のドッキング空間が2つのイソロイシンI105及びI317により制限されることから、イソロイシンI105及びI317を部位特異的変異誘発の対象とした。C)活性中心における基質類似体S−n−ブチル−L−ホモシステイン及びアデニリルイミドジホスフェートの配置。矢印は触媒反応の際の求核攻撃(短い矢印)を示している。反応に伴い、タンパク質の立体構造変化が起こり、これによりアミノ酸側鎖により立体障害(長い矢印)が引き起こされることになる。
図3】メチオニン及び誘導体の変換を示す図である。基質濃度に応じた、バチルス・サブチリス由来のSAMS酵素(A)、及びその変異体I317V(B)、I317A(C)、I105V/I317A(D)又はI105A/I317A(E)により触媒されるアミノ酸基質の変換率。L−メチオニン(白丸)、D,L−メチオニン(黒丸)、D,L−メチオニン−(メチル−D3)(×)、D,L−エチオニン(灰色円)、S−n−プロピル−D,L−ホモシステイン(白三角)、S−n−ブチル−D,L−ホモシステイン(黒三角)又はS−(2−メチルビニル)−D,L−ホモシステイン(灰色菱型)との反応を反応中に補基質であるATPから放出されるホスフェートを分光光度的に求めることにより評価した。
図4】SAM及びSAM誘導体の形成を示す図である。バチルス・サブチリス由来のSAMシンターゼ酵素(A)又はその変異体I317V(B)及びI317A(C)によるSAM及びSAM誘導体の形成。対応するラセミアミノ酸(10mM)由来のメチオニン(黒丸)、エチオニン(灰色丸)、S−n−プロピルホモシステイン(白三角)及びS−n−ブチルホモシステイン(黒三角)のL−エナンチオマーの変換を等量の酵素(10mU ml−1)の存在下にて行った。反応をHPTLCにより分析した。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は下記アミノ酸配列を開示している。
【0029】
【表1】
【0030】
本発明は下記の実施例において更に説明されるが、それらに限定するものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1:
野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼの組換え発現
大腸菌における補因子S−アデノシル−L−メチオニン(SAM)の可用性の課題に対処するために、内因性SAM合成の増進を想定した。そのために、バチルス・サブチリス由来のSAMシンターゼ遺伝子をベクターpET28a(+)にクローニングして、大腸菌BL21(DE3)に導入した。精製酵素(図1、レーン1)を高収率(培養物1l当たり59mg)にて得ることができた。タンパク質がメチオニンのD−エナンチオマーにより阻害されないことから(図3A)、このアミノ酸の更に安価なラセミ混合物を基質として使用することができる。
【0032】
実施例2:
SAMシンターゼ変異体の生成及び特性化
天然の補因子であるSAMの再生に加えて、組換えSAMシンターゼ変異体(図1、レーン2〜レーン7)を、人工アルキル鎖を有する補因子類似体の合成に適用した。
【0033】
これらの研究のために、直鎖(D,L−メチオニン−(メチル−D3)、−エチオニン、−プロピオニン及び−ブチオニン)、分岐(D,L−イソプロピオニン及び−イソブチオニン)、不飽和(D,L−メチルビニルホモシステイン)及び官能化(D,L−ヒドロキシエチオニン及び−カルボキシメチオニン)アルキル基を有する一連のS−アルキルホモシステインをD,L−ホモシステインチオラクトンから合成し、クローニングした(野生型)SAMシンターゼによる変換について調べた。しかしながら、酵素はこれらのメチオニン誘導体のいずれも許容しなかった。
【0034】
大腸菌由来のタンパク質の結晶構造(PDBコード1XRA)に基づく相同性モデルから導かれるように、2つの保存されたイソロイシン残基により形成される疎水性の溝が、嵩高いアルキル残基を有するアミノ酸基質からの補因子類似体の生成を妨げる(図2)。そのため、部位特異的突然変異誘発により両残基を体積の小さいアミノ酸に置き換えた。特にI317は基質選択性に重要であることが分かった。変異体I317Vはメチオニンに加えてエチオニンも変換させる(図3B)。I317が更に小さいアラニン残基により置換される場合、対応する変異体はエチオニン、プロピオニン、ブチオニン及び不飽和D,L−メチルビニルホモシステインに対して活性がある(図3C)。最後に、両イソロイシンのアラニンへの置き換えによって、人工長鎖基質のみが許容されることとなる(図3D)。
【0035】
実施例3:
SAMシンターゼ変異体によるSAM誘導体の生成
基質スペクトルが広いことに起因して、変異体I317V及びI317Aを調製規模でのSAM誘導体であるS−アデノシルエチオニン、−プロピオニン、−ブチオニン及び−S−メチルビニルホモシステインの生成に使用した。それらの化合物は0.2mmolのD,L−アミノ酸から合成し、SP−Sephadex C−25上でのカチオン交換クロマトグラフィにより精製した。L型のアミノ酸に関連する収率は8%〜25%の範囲であった。カテコール−O−メチルトランスフェラーゼにより生成されるSAMの酵素変換で試験されるように、調製物は生物活性型の補因子を含んでいた(総SAMの80%〜92%)。
【0036】
実施例4:
更なるSAMシンターゼ変異体の特性化
触媒回転及び基質スペクトルの決定における重要な役割に対する317位の影響を他のサイズの小さいアミノ酸残基及びサイズが中程度のアミノ酸残基の導入により更に確認した。脂肪族(I317G、I317P、I317L)又は極性(I317E、I317D、I317N)アミノ酸にて置換した酵素は活性の強い低減を示した(5.4nmol 分−1 mg−1以上)。他方、システインによる置換によって相当に活性のある酵素が生じ、該酵素が変異体I317Aと同様にメチオニン及びホモログを変換させた(5mM D,L−メチオニン、−エチオニン、−プロピオニン及び−ブチオニンの変換についてそれぞれ59.4±0.4nmol 分−1 mg−1、16.4±0.7nmol 分−1 mg−1、8.4±0.3nmol 分−1 mg−1及び6.0±0.3nmol 分−1 mg−1)。
【0037】
実施例5:
二重突然変異型SAMシンターゼ変異体の特性化
基質認識における近接イソロイシン残基I105の役割を更に調べるために、変異体I105V/I317A及びI105A/I317Aを生成した。酵素の活性中心のサイズが大きくなるにつれて、天然基質であるメチオニンの変換(図3D図3E)が徐々に低減する。その一方で変異体は長鎖基質を選好する。野生型酵素(図3A)と比べて、変異体I105A/I317A(図3E)の基質特異性は逆転している(S−n−プロピルホモシステイン>S−n−ブチルホモシステイン>エチオニン>>メチオニン)。そのため、立体効果はSAMS酵素による基質変換において主要な役割を果たし、いくつかの基質に対する選択性は2つのアミノ酸位置のみの置き換えにより操作することができる。
【0038】
実施例6:
SAMシンターゼ変異体によるSAM誘導体の合成
野生型タンパク質、並びにSAM及び類似体の合成に適した基質特異性を有する変異体(I317V及びI317A)の適合性を高性能薄層クロマトグラフィにより評価した。酵素がアミノ酸基質のD−エナンチオマーにより阻害されなかったことから、メチオニン及びその誘導体をこれらの反応におけるその立体異性体のラセミ混合物として有益に適用することができた。野生型酵素によるSAM形成の時間経過を図4Aに示す。いくつかの他のSAMSタンパク質について記載されるように、この酵素は生成物であるSAMにより阻害され、それにより変換の停滞及び低収率が起こる。これとは対照的に、この生成物阻害は変異体I317Vでは完全になくなり(図4B)、突然変異型酵素I317Aの場合では顕著に低くなる(図4C)。したがって、調製合成反応におけるSAMS−I317Vによるメチオニン及びエチオニンの転換により、アミノ酸基質についての高い変換率がもたらされた。この合成は速度実験と同様ではあったが、より大規模に行った(200μmol)。生成物収率が最大に達するような長期のインキュベーション(18時間)後、L−アミノ酸の84%及び89%が変換された。変異体I317AによるSAMのn−プロピル−及びn−ブチル類似体の生成において、8時間の反応時間後、43%及び28%の変換を達成することができた。SP−Sephadex C−25上でのカチオン交換クロマトグラフィによる生成物の精製後、SAM及びそのホモログはそれぞれ25%、17%、8%及び11%の最終収率にて回収することができた。H NMRにより証明されるように、酵素により生成されるSAMは大過剰(90%超)の生物学的に活性のある(S,S)−エピマーを含んでいた。興味深いことに、S−アデノシル−L−エチオニン、−プロピオニン及び−ブチオニンの調製物はキラルスルホニウム中心に対してラセミ体であり、これはカラム精製における強酸性条件下でのより迅速なラセミ化により引き起こされるものと考えられる。
【0039】
実施例7:
S−アルキルホモシステインの変換についての動態パラメータ
表1に示されるようなバチルス・サブチリスSAMシンターゼ及びその変異体によるS−アルキルホモシステインの変換についての動態パラメータを、基質濃度に応じたメチオニン及び類似体の変換率から算出した(図2)。該変換率は当該技術分野で既知の標準SAMシンターゼアッセイにより、すなわち切断されたホスフェートの分光光度的な検出により求めた。
【0040】
【表2】
図1
図2
図3
図4
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]