【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の技術的課題の解決策は、特許請求の範囲にて特徴付けられている実施の形態により達成される。
【0005】
特に第1の態様では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してI317位及びI105位のアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。特に、本発明の単離ポリペプチドはI317位、I105位、又はI317位及びI105位の両方に任意のアミノ酸置換を有することができ、I317位、又はI317位及びI105位の両方におけるアミノ酸置換が特に好ましい。置換アミノ酸は特に限定されず、イソロイシン(I)を明らかな例外とする任意のタンパク質を構成するアミノ酸とすることができる。しかしながら、置換アミノ酸はイソロイシンよりも空間の狭い、すなわち体積の小さいアミノ酸であるのが好ましい。これに関する特に好ましいアミノ酸はグリシン(G)、ロイシン(L)、プロリン(P)、スレオニン(T)、システイン(C)、セリン(S)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、バリン(V)及びアラニン(A)であり、バリン(V)及びアラニン(A)が最も好ましい。
【0006】
このため特に好ましい実施の形態では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは、該野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317G、I317L、I317P、I317T、I317C、I317D、I317E、I317N、I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。
【0007】
別の特に好ましい実施の形態では、本発明は、野生型バチルス・サブチリスS−アデノシルメチオニン(SAM)シンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導される単離ポリペプチドであって、該単離ポリペプチドは、該野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列を含む、単離ポリペプチドに関する。
【0008】
これに関連して「野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ又はその生物学的に活性のある断片から誘導されるポリペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに関して上記で規定されるアミノ酸置換が少なくとも1種含まれている場合に、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに本質的に対応するポリペプチドに関連するものであることが意図される。さらに、上記用語は、得られるポリペプチドがSAMシンターゼの生物活性を保持している場合に任意数の更なるアミノ酸置換、付加又は欠失を含み得るポリペプチドに関連するものであることが意図される。これに関連して、本明細書で使用される「SAMシンターゼの生物活性を保持している」という用語及び本明細書で使用される「その生物学的に活性のある断片」という用語は、当該技術分野で既知の標準SAMシンターゼ活性アッセイにて求められるように、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼの活性の少なくとも0.1%、少なくとも0.5%、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも50%、好ましくは少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも82%、少なくとも84%、少なくとも86%、少なくとも88%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも97.5%、少なくとも98%、少なくとも98.5%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、100%、又は100%超を有するポリペプチドに関するものである。
【0009】
更なるアミノ酸置換、付加又は欠失の数は一般的に、得られるポリペプチドの生物活性に関する上記条件によってのみ制限されるが、得られるポリペプチドは、野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに対して少なくとも50%、少なくとも52.5%、少なくとも55%、少なくとも57.5%、少なくとも60%、少なくとも62.5%、少なくとも65%、少なくとも67.5%、少なくとも70%、少なくとも72.5%、少なくとも75%、少なくとも76.25%、少なくとも77.5%、少なくとも78.75%、少なくとも80%、少なくとも81.25%、少なくとも83.75%、少なくとも85%、少なくとも86.25%、少なくとも87.5%、少なくとも88%、少なくとも88.5%、少なくとも89%、少なくとも89.5%、少なくとも90%、少なくとも90.5%、少なくとも91%、少なくとも91.5%、少なくとも92%、少なくとも92.5%、少なくとも93%、少なくとも93.5%、少なくとも94%、少なくとも94.5%、少なくとも95%、少なくとも95.25%、少なくとも95.5%、少なくとも95.75%、少なくとも96%、少なくとも96.25%、少なくとも96.5%、少なくとも96.75%、少なくとも97%、少なくとも97.25%、少なくとも97.5%、少なくとも97.75%、少なくとも98%、少なくとも98.25%、少なくとも98.5%、少なくとも98.75%、少なくとも99%、少なくとも99.25%、少なくとも99.5%、又は99.75%の同一性を有することが好ましい。
【0010】
さらに、「上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してI317位及びI105位のアミノ酸置換からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列」及び「上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)又はその生物学的に活性のある断片のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI317Vからなる群から選択される少なくとも1種のアミノ酸置換が含まれるアミノ酸配列」という用語は、本明細書で使用される場合、各アミノ酸配列、すなわち(i)上記野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に本質的に対応し、(ii)上記配列に対して上記アミノ酸置換の少なくとも一方を含み、かつ(iii)上記で規定されるような任意の更なるアミノ酸置換、付加又は欠失を含み得るアミノ酸配列に関連するものであることが意図され、また上記更なるアミノ酸置換、付加又は欠失の数は得られるポリペプチドの生物活性に関して、好ましくは野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼに対する得られるポリペプチドの同一性に関して上記で規定されるようなものである。
【0011】
更なる実施の形態では、本発明の単離ペプチドはアミノ酸置換I105G、I105L、I105P、I105T、I105C、I105S、I105A及びI105Vからなる群から選択されるアミノ酸置換を更に含む。
【0012】
好ましくは更なる実施の形態では、本発明の単離ペプチドはアミノ酸置換I105A及びI105Vからなる群から選択されるアミノ酸置換を更に含む。
【0013】
好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号2のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0014】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号3のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0015】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI105Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号4のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0016】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317V及びI105Aを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号5のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0017】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317A及びI105Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号6のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0018】
更に好ましい実施の形態では、本発明の単離ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列を含み、該アミノ酸配列は野生型バチルス・サブチリスSAMシンターゼ(配列番号1)のアミノ酸配列に関してアミノ酸置換I317V及びI105Vを含有している。本発明の単離ポリペプチドは配列番号7のアミノ酸配列からなるのが更により好ましい。
【0019】
更なる態様では、本発明は本発明によるポリペプチドをコードする単離核酸に関する。このような核酸は特に限定されず、一本鎖又は二本鎖のDNA分子、RNA分子、DNA/RNAハイブリッド分子、又は人工及び/又は修飾核酸分子とすることができる。「本発明によるポリペプチドをコードする核酸」という用語は本明細書で使用される場合、各ポリペプチドのコード配列を含む核酸分子、及び各ポリペプチドのコード配列に対して完全に相補的な配列を含む核酸分子に関連するものであることが意図される。
【0020】
更なる態様では、本発明は本発明による核酸を含むベクターに関する。好適なベクターは特に限定されず、当該技術分野で既知である。これらのベクターとしては例えば、プラスミドベクター、例えば既知の発現ベクター、特にpET28a(+)等の細菌発現ベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター及び人工染色体が挙げられる。
【0021】
更に別の態様では、本発明は本発明による核酸又は本発明によるベクターを含む宿主細胞に関する。好適な宿主細胞は特に限定されず、当該技術分野で既知である。これらの宿主細胞としては例えば、細菌細胞、例えば大腸菌株K12、例えば大腸菌BL21(DE3)に基づく細胞等の組換えタンパク質発現に既知の細菌細胞、バチルス・サブチリス等のグラム陽性菌細胞が挙げられるが、更に酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞及び哺乳動物細胞も挙げられる。
【0022】
更なる態様では、本発明は、好適なS−アルキルホモシステイン、S−メチルビニルホモシステイン、又は他のホモシステイン誘導体と、本発明のポリペプチドとを反応させる工程を含む、S−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH
2)
n−OR、−(CH
2)
n−SR若しくは−(CH
2)
n−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル、好ましくはC
1〜C
4アルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体を生体触媒により生成する方法に関する。
【0023】
本発明の方法を用いて生成することができるSAM類似体は特に限定されず、用いられるSAMシンターゼ変異体の基質特異性及び選択される開始生成物のみに依存するものである。例としては、S−エチル−L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルエチオニン、S−n−プロピル−D,L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルプロピオニン、S−n−ブチル−D,L−ホモシステインから生成されるS−アデノシルブチオニン、及びS−メチルビニル−D,L−ホモシステイン由来のS−アデノシル−S−メチルビニルホモシステインが挙げられる。
【0024】
最後の態様では、本発明はS−アデノシルメチオニン(SAM)、及び/又は人工アルキル鎖若しくはアリル鎖、若しくは−(CH
2)
n−OR、−(CH
2)
n−SR若しくは−(CH
2)
n−Hal(式中、nは1〜3であり、Rはアルキル、好ましくはC
1〜C
4アルキルであり、Halはハロゲンである)タイプの鎖を有するSAM類似体の生成のための本発明によるポリペプチドの使用に関する。この態様では、生成することができるSAM類似体及びそれらの各開始生成物が本発明の方法について上記で規定されている。
【0025】
本発明はSAM及びSAM類似体の生成に、特に工業規模にて有利に使用することができるSAMシンターゼ変異体を提供する。本発明によるSAMシンターゼ変異体は、好適な宿主細胞にて高度に発現することができ、高い生産性、生成することができる広範なSAM類似体をもたらす広範な開始生成物のための広い基質特異性、及び生成物阻害の低減を特徴とする。これらの特徴から、本発明によるSAMシンターゼ変異体は工業環境にてSAM及びSAM類似体の大量生成に理想的な候補物質となる。
【0026】
SAM及び類似体の生体触媒による生成に適したSAMS酵素を得るために、バチルス・サブチリス由来のタンパク質を合理的タンパク質設計により改善した。活性部位にごく接近して位置する2つの保存されたイソロイシン残基(I105及びI317)の置換によって、酵素の基質スペクトルが人工メチオニン誘導体まで広げられた。105位及び317位への空間の狭いバリン残基又はアラニン残基の導入により変異体がもたらされ、該変異体は炭素数2〜4の置換基を保有するメチオニン及びS−アルキルホモシステインを変換することができるものであった。野生型酵素とは対照的に、変異体I317V及びI317Aは生成物阻害による影響をあまり受けず、SAM及びその長鎖類似体の調製合成に有益であることが分かった。加えて、これらの変異体を適用することで、メチオニンを成長培地に添加した際に原核細胞宿主において高レベルの細胞内濃度のSAMを生成することができる。