特許第6286043号(P6286043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6286043-デマッピングエラーの検出 図000156
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286043
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】デマッピングエラーの検出
(51)【国際特許分類】
   H04B 3/32 20060101AFI20180215BHJP
   H04M 11/06 20060101ALI20180215BHJP
   H04L 27/38 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   H04B3/32
   H04M11/06
   H04L27/38
【請求項の数】15
【全頁数】45
(21)【出願番号】特願2016-532331(P2016-532331)
(86)(22)【出願日】2014年7月31日
(65)【公表番号】特表2016-533089(P2016-533089A)
(43)【公表日】2016年10月20日
(86)【国際出願番号】EP2014066525
(87)【国際公開番号】WO2015018740
(87)【国際公開日】20150212
【審査請求日】2016年4月4日
(31)【優先権主張番号】13306127.5
(32)【優先日】2013年8月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】391030332
【氏名又は名称】アルカテル−ルーセント
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヌズマン,カール
(72)【発明者】
【氏名】ファンデルヘーヘン,ディルク
【審査官】 和平 悠希
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/057954(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/102917(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/044264(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 3/32
H04L 27/38
H04M 11/06
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクタリングコントローラ(130)であって
少なくとも1つのそれぞれの妨害回線(L)からベクタリンググループの被妨害回線(L)への与えられたキャリア周波数(k)における少なくとも1つのクロストーク係数を推定するための、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つのそれぞれの系列の与えられたキャリア周波数における変調のために、直交するクロストークプロービング系列のセット(131)から少なくとも1つのクロストークプロービング系列(Smt(k))を少なくとも1つのそれぞれの妨害回線に割り当てるように、またクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列が少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上で送信されている間に、与えられたキャリア周波数において被妨害回線に結合された受信機(210)によって連続的に測定されたエラーサンプル(Ent(k))を受け取るように構成され、
ベクタリングコントローラが、受信されたエラーサンプルにおけるデマッピングエラーの検出のために、受信されたエラーサンプルを直交するクロストークプロービング系列のセットからの少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列(Tmt(k))と相関させるようにさらに構成され、少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列が、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上でのクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列の送信中に、ベクタリンググループのどの回線によっても積極的に使用されていない、
ベクタリングコントローラ(130)。
【請求項2】
ベクタリングコントローラが、直交するクロストークプロービング系列のセットから所望の数Mのクロストークプロービング系列を割り当てられず、デマッピングエラーの検出のために利用可能であるように保つようにさらに構成される、請求項1に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項3】
直交するクロストークプロービング系列のセットが、N+M以上の長さLのクロストークプロービング系列を含み、Nがベクタリンググループのサイズを表す、請求項2に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項4】
ベクタリングコントローラが、受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが検出された場合、少なくとも1つのクロストーク係数の推定のための受信されたエラーサンプルを廃棄するようにさらに構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項5】
ベクタリングコントローラが、受信されたエラーサンプルに基づいた新しいクロストーク推定と少なくとも1つのさらなるクロストーク推定との加重された組み合わせを使用して、少なくとも1つのクロストーク係数を推定するようにさらに構成され、
新しいクロストーク推定に適用される重みが、受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが検出されたかどうかに応じている、
請求項1から3のいずれかに記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項6】
ベクタリングコントローラが、受信されたエラーサンプルに基づいた新しいクロストーク推定と少なくとも1つのさらなるクロストーク推定との加重された組み合わせを使用して、少なくとも1つのクロストーク係数を推定するようにさらに構成され、
ベクタリングコントローラが、新しいクロストーク推定がどれだけ信頼できるかを決定するために、受信されたエラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させるようにさらに構成され、
新しいクロストーク推定に適用される重みが、新しいクロストーク推定のそのように決定された信頼性に応じている、
請求項1から3のいずれか一項に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項7】
少なくとも1つのさらなるクロストーク推定が、先のクロストーク推定サイクル中に得られたクロストーク推定である、請求項5または6に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項8】
少なくとも1つのさらなるクロストーク推定が、与えられたキャリア周波数の近くのさらなるキャリア周波数において得られたクロストーク推定である、請求項5または6に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項9】
受信されたエラーサンプルが、与えられたキャリア周波数における受信された周波数サンプル(311;312)と、受信された周波数サンプルがその上にデマッピングされるそれぞれの選択されたコンステレーションポイント(321;322)との間のエラーベクトル(331;332)を示す、請求項1に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項10】
ベクタリングコントローラが、受信されたエラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させた結果を統計値において使用するように、また受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが存在するかどうかをある信頼度で決定するために、その統計値を閾値と比較するようにさらに構成される、請求項1に記載のベクタリングコントローラ。
【請求項11】
閾値が、与えられたキャリア周波数におけるノイズレベルに依存する、請求項10に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項12】
統計値が、
【数1】
によって与えられ、Mが、デマッピングエラーの検出のための割り当てられていないパイロット系列の与えられた数を表す非ゼロの正の整数であり、uおよびvが、エラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列のうちの与えられた1つと相関させたものの実部および虚部をそれぞれ表す、請求項10または11に記載のベクタリングコントローラ(130)。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載のベクタリングコントローラ(130)を備える、アクセスノード(100)。
【請求項14】
アクセスノードが、デジタル加入者線アクセスマルチプレクサDSLAMである、請求項13に記載のアクセスノード(100)。
【請求項15】
少なくとも1つのそれぞれの妨害回線(L)からベクタリンググループの被妨害回線(L)への与えられたキャリア周波数(k)における少なくとも1つのクロストーク係数を推定するための方法であって、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つのそれぞれの系列の与えられたキャリア周波数における変調のために、直交するクロストークプロービング系列のセット(131)から少なくとも1つのクロストークプロービング系列(Smt(k))を少なくとも1つのそれぞれの妨害回線に割り当てるステップと、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列が少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上で送信されている間に、与えられたキャリア周波数において被妨害回線に結合された受信機(210)によって連続的に測定されたエラーサンプル(Ent(k))を受け取るステップとを含み、
方法が、受信されたエラーサンプルにおけるデマッピングエラーの検出のために、受信されたエラーサンプルを直交するクロストークプロービング系列のセットからの少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列(Tmt(k))と相関させるステップをさらに含み、
少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列が、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上でのクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列の送信中に、ベクタリンググループのどの回線によっても積極的に使用されていない、
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有線通信システム内におけるクロストーク推定に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストーク(またはチャネル間干渉)は、デジタル加入者線(DSL)通信システムなどの、多入力多出力(MIMO)有線通信システムにとって、チャネル障害の主要な発生源である。
【0003】
より高いデータレートを求める要求が高まるにつれて、DSLシステムは、より高い周波数帯域に向かって進化しており、近隣通信回線(すなわち、ケーブルバインダ内のツイスト銅線ペアなど、その長さの一部または全部にわたって近接している通信回線)間のクロストークは、より顕著(より高い周波数、より大きい結合)になる。
【0004】
クロストークを緩和し、有効スループット、到達距離、および回線安定性を最大化するために、異なる戦略が開発されてきた。これらの技法は、徐々に、静的または動的スペクトル管理技法から、マルチユーザ信号調整(またはベクタリング)へと進化している。
【0005】
チャネル間干渉を低減させるための1つの技法は、合同(joint)信号プリコーディングであり:送信データシンボルは、それぞれの通信チャネル上で送信される前に、プリコーダを一緒に通過させられる。プリコーダは、プリコーダと通信チャネルとの連結が、受信機においてチャネル間干渉を僅かしか、またはまったく生じなくさせるようなものである。
【0006】
チャネル間干渉を低減させるためのさらなる技法は、合同信号後処理であり:受信データシンボルは、検出される前に、ポストコーダを一緒に通過させられる。ポストコーダは、通信チャネルとポストコーダとの連結が、受信機においてチャネル間干渉を僅かしか、またはまったく生じなくさせるようなものである。
【0007】
ベクタリンググループ、すなわち、その信号が一緒に処理される通信回線のセットの選択は、良好なクロストーク緩和性能を達成するためにかなり重要である。ベクタリンググループ内では、各通信回線は、グループの他の通信回線内にクロストークを引き起こす妨害回線と見なされ、同じ通信回線は、グループの他の通信回線からクロストークを受ける被妨害回線と見なされる。ベクタリンググループに属さない回線からのクロストークは、外来ノイズとして扱われ、除去されない。
【0008】
理想的には、ベクタリンググループは、物理的に著しく互いに相互作用する通信回線の組全体に一致すべきである。そうではあるが、国家規制方針および/または限られたベクタリング能力を理由とするローカルループアンバンドリングが、そのような網羅的な手法を妨げることがあり、その場合、ベクタリンググループは、すべての物理的に相互作用する回線のサブセットのみを含み、それによって、制限されたベクタリングゲインをもたらす。
【0009】
信号ベクタリングは、一般に、分散ポイントユニット(DPU)内で実行され、そこでは、ベクタリンググループのすべての加入者回線上で同時に送信される、またはそれから同時に受信されるすべてのデータシンボルが利用可能である。例えば、信号ベクタリングは、中央局(CO)に配備される、または加入者構内により近いファイバがフィードされるリモートユニット(路上キャビネット、電柱キャビネットなど)として配備される、デジタル加入者線アクセスマルチプレクサ(DSLAM)内で有利に実行される。信号プリコーディングは、(顧客構内に向かう)ダウンストリーム通信に特に適しているが、信号後処理は、(顧客構内からの)アップストリーム通信に特に適している。
【0010】
線形信号プリコーディングおよび後処理は、行列積を用いて有利に実施される。
【0011】
例えば、線形プリコーダは、送信周波数サンプルのベクトルの、プリコーディング行列との行列積を実行し、プリコーディング行列は、チャネル行列全体が対角化されるようなものであり、すなわち、チャネル全体の非対角成分、したがって、チャネル間干渉は、ほぼゼロに低減する。実際に、1次近似として、プリコーダは、それぞれの妨害回線からの実際のクロストーク信号に受信機において破壊的に干渉する逆位相クロストーク前置補償信号を被妨害回線上で直接信号とともに重ね合せる。
【0012】
同様に、線形ポストコーダは、受信周波数サンプルのベクトルの、クロストーク除去行列との行列積を実行し、クロストーク除去行列も、チャネル行列全体が対角化されるようなものである。
【0013】
したがって、プリコーダまたはポストコーダ係数を適切に初期化または更新するためには、実際のクロストークチャネルの正確な推定を取得することが最も重要である。「Self−FEXT Cancellation (Vectoring) For Use with VDSL2 Transceivers」、ref. G.993.5と題された、2010年4月に国際電気通信連合(ITU)によって採択された勧告では、送受信機は、256個のDATAシンボルごとの後に定期的に発生するいわゆるSYNCシンボル上でダウンストリームまたはアップストリームパイロット系列を送信するように構成される。G.993.5勧告では、パイロット信号送信および干渉測定が、それぞれの伝送回線上で同期を取って実施されるように、アクセスノードが、SYNCシンボルをベクタリングされた回線上で同期を取って送信および受信することがさらに仮定される(スーパフレームアライメント)。
【0014】
与えられた被妨害回線上において、トーン当たりまたはトーンのグループ当たりベースで特定のSYNCシンボルについて測定されるようなスライサエラー(または受信エラーベクトル)の実部および虚部の両方を含むエラーサンプルが、さらなるクロストーク推定のために、ベクタリングコントローラに報告される。エラーサンプルは、与えられた妨害回線からのクロストーク結合関数を得るために、その妨害回線上で送信される与えられたパイロット系列と相関させられる。他の妨害回線からのクロストーク寄与を拒絶するために、パイロット系列は、例えば、「+1」と「−1」の逆位相シンボルを含むウォルシュ−アダマール系列を使用することによって、互いに直交させられる。クロストーク推定は、プリコーダまたはポストコーダ係数を初期化するために使用される。
【0015】
プリコーダまたはポストコーダ係数がひとたび初期化されると、クロストーク係数は、クロストークチャネルの初期推定における任意の残存エラーのためばかりでなく、任意のチャネル変動のためにも追跡され続ける。これは、一般に、与えられたコスト関数に関する、今の場合は残存クロストーク信号のパワーに関する最適解に向かって徐々に収束する、最小平均2乗(LMS)法などの反復更新法を用いて達成される。
【0016】
理想化された線形モデルでは、G.993.5勧告通りの直交パイロット系列は、非常に有効であり、クロストークチャネル(初期化)の、または残存クロストークチャネル(追跡)の正確で偏りのない推定を常に生成する。そうではあるが、非線形効果のせいで、クロストーク推定は、プリコーダまたはポストコーダ係数を実際のクロストークチャネルから遠ざける、望ましくないオフセット(またはバイアス)を有し得る。
【0017】
例えば、高クロストーク環境では、すべての妨害回線上で送信されるすべてのパイロット系列からのクロストークベクトルの和は、受信周波数サンプルが復調器の決定境界を越えるようなものになり得る。結果として、エラーベクトルが、誤ったコンステレーションポイントに対して報告され、公称または残存クロストークチャネルの推定にオフセットをもたらす。
【0018】
G.993.5勧告では、理想的な予想送信ベクトルが、受信機によって推定される。パイロットとして使用され得るベクトルのセットは、2つの状態に制限され:すなわち、2位相シフトキーイング(BPSK)変調と等価な、通常状態(+1)と逆転状態(−1)とに制限される。受信機は、最も可能性が高い半平面を決定することに基づいて、送信ベクトルが何であると予想されるかを決定し(デマッピング操作とさらに呼ばれる)、これは、特定のトーン自体の情報のみを使用する。4位相シフトキーイング(QPSKまたは4QAM)復調が、代替的に、パイロット検出のために使用され得、その場合、デマッピングは、最も可能性が高い象限を決定することに基づく。
【0019】
デマッピングエラーの場合、すなわち、受信機が送信コンステレーションポイントとは異なるコンステレーションポイントを選択した場合、報告されるスライサエラーは、完全に誤った値を有する。ベクタリングコントローラは、受信機内でデマッピングエラーが発生したという事実に気づかないので、これは、クロストーク結合係数の、したがって、プリコーダおよびポストコーダ係数の計算において大きな不正確さをもたらす。
【0020】
デマッピングエラーを扱うための可能な知られているソリューションは、複数のトーンにわたる複数のデマッピング決定を使用することである。特定のSYNCシンボル内のすべてのプローブトーンがすべて、与えられたパイロット系列からの同じ特定のビットを用いて変調されるならば、複数のトーンを使用して、合同推定を行うことができる。この技法は、単純なトーンごとの決定よりもロバストであるが、信号対雑音比(SNR)が非常に低い環境では、受信機は、依然として誤った決定を行い得る。周波数依存パイロット系列(FDPS)が使用される場合、この技法は、パイロット値が所定数のトーンの後に定期的に繰り返すという事実を使用して、依然として適用され得る。
【0021】
そうではあるが、当技術分野における実験は、少なくともいくつかの受信機モデルが、BPSKまたは4QAM復調グリッドとともにトーンごとの決定を使用し続けており、それによって、デマッピングエラーの可能性を高めていることを示している。
【0022】
別の知られているソリューションは、使用されるパイロット系列の受信機への伝達である。利点は、受信機がもはや決定を行う必要がないことである。不都合は、パイロット系列を変更するために毎回メッセージを送信することは、煩わしく、初期化プロセスにおいて遅延を導入し、ベクタリングコントローラがオンザフライでパイロット系列を変更する柔軟性を低下させることである。
【0023】
また別の知られているソリューションは、完全な受信ベクトルの報告である。利点は、受信機がもはや決定を行う必要がないことである。しかしながら、このソリューションは、分解問題に悩まされ:SNRが高い場合、非常に高い度合の除去を実現することを望む。ノイズを下回るレベルまでクロストークを低減することは、エラー信号が、受信ベクトルと比較して、非常に小さい値まで低減されることを意味する。G.993.5勧告におけるエラーフィードバックのための最も効率的な選択肢は、2進浮動小数点形式を使用する。収束プロセス中にエラーベクトルはより小さくなるので、一定の相対量子化誤差を維持しながら、指数が減少する。したがって、エラーフィードバックのためのビットの数が少なくても、収束プロセス中に絶対量子化誤差が減少する。完全な受信ベクトルが報告されるべきである場合、ワード長は、MSB側ではそれが最大の直接信号を表すことができ、LSB側ではそれが最小のエラー信号を表すことができるようなものである必要がある。したがって、いくらかの絶対的な不正確さが存在する。収束の最後のステージにおいて、この絶対量子化誤差は、相対的に大きい不正確さを生じさせる。これを打ち消すためには、受信ベクトルを符号化するために、多くのビットが必要とされ、そのことが、測定フィードバックのために必要とされる帯域幅を増加させ、したがって、エンドユーザのためのアップストリームデータレートを低下させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】「Self−FEXT Cancellation (Vectoring) For Use with VDSL2 Transceivers」、ref. G.993.5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、知られているソリューションの上述の弱点または難点を軽減または克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線からベクタリンググループの被妨害回線への与えられたキャリア周波数(k)における少なくとも1つのクロストーク係数を推定するためのベクタリングコントローラは、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つのそれぞれの系列の与えられたキャリア周波数における変調のために、直交するクロストークプロービング系列のセットから少なくとも1つのクロストークプロービング系列を少なくとも1つのそれぞれの妨害回線に割り当てるように、またクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列が少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上で送信されている間に、与えられたキャリア周波数において被妨害回線に結合された受信機によって連続的に測定されたエラーサンプルを受け取るように構成される。ベクタリングコントローラは、受信されたエラーサンプルにおけるデマッピングエラーの検出のために、受信されたエラーサンプルを直交するクロストークプロービング系列のセットからの少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させるようにさらに構成される。少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列は、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上でのクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列の送信中に、ベクタリンググループのどの回線によっても積極的に使用されていない。
【0027】
本発明の一実施形態では、ベクタリングコントローラは、直交するクロストークプロービング系列のセットから所望の数Mのクロストークプロービング系列を割り当てられず、デマッピングエラーの検出のために利用可能であるように保つようにさらに構成される。
【0028】
本発明の一実施形態では、直交するクロストークプロービング系列のセットは、N+M以上の長さLのクロストークプロービング系列を含み、Nは、ベクタリンググループのサイズを表す。
【0029】
本発明の一実施形態では、ベクタリングコントローラは、受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが検出された場合、少なくとも1つのクロストーク係数の推定のための受信されたエラーサンプルを廃棄するようにさらに構成される。
【0030】
本発明の一実施形態では、ベクタリングコントローラは、受信されたエラーサンプルに基づいた新しいクロストーク推定と少なくとも1つのさらなるクロストーク推定との加重された組み合わせを使用して、少なくとも1つのクロストーク係数を推定するようにさらに構成される。新しいクロストーク推定に適用される重みは、受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが検出されたかどうかに応じている。
【0031】
本発明の一実施形態では、本発明の一実施形態では、ベクタリングコントローラは、受信されたエラーサンプルに基づいた新しいクロストーク推定と少なくとも1つのさらなるクロストーク推定との加重された組み合わせを使用して、少なくとも1つのクロストーク係数を推定するようにさらに構成される。ベクタリングコントローラは、新しいクロストーク推定がどれだけ信頼できるかを決定するために、受信されたエラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させるようにさらに構成される。新しいクロストーク推定に適用される重みは、新しいクロストーク推定のそのように決定された信頼性に応じている。
【0032】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのさらなるクロストーク推定は、先のクロストーク推定サイクル中に得られたクロストーク推定である。
【0033】
本発明の一実施形態では、少なくとも1つのさらなるクロストーク推定は、与えられたキャリア周波数の近くのさらなるキャリア周波数において得られたクロストーク推定である。
【0034】
一実施形態では、受信されたエラーサンプルは、与えられたキャリア周波数における受信された周波数サンプルと、受信された周波数サンプルがその上にデマッピングされるそれぞれの選択されたコンステレーションポイントとの間のエラーベクトルを示す。
【0035】
本発明の一実施形態では、ベクタリングコントローラは、受信されたエラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させた結果を統計値において使用するように、また受信されたエラーサンプルにおいてデマッピングエラーが存在するかどうかをある信頼度で決定するために、その統計値を閾値と比較するようにさらに構成される。
【0036】
本発明の一実施形態では、閾値は、与えられたキャリア周波数におけるノイズレベルに依存する。
【0037】
本発明の一実施形態では、統計値は、
【数1】
によって与えられ、Mは、デマッピングエラーの検出のための割り当てられていないパイロット系列の与えられた数を表す非ゼロの正の整数であり、uおよびvは、エラーサンプルを少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列のうちの与えられた1つと相関させたものの実部および虚部をそれぞれ表す。
【0038】
そのようなベクタリングコントローラは、一般に、DSLAM、イーサネット(登録商標)スイッチ、エッジルータなどの、COに配備される、または加入者構内により近いファイバがフィードされるリモートユニット(路上キャビネット、電柱キャビネットなど)として配備される、アクセス設備上での加入者デバイスからの/への有線通信をサポートする、アクセスノードの一部を形成する。
【0039】
本発明の別の態様によれば、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線からベクタリンググループの被妨害回線への与えられたキャリア周波数における少なくとも1つのクロストーク係数を推定するための方法は、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つのそれぞれの系列の与えられたキャリア周波数における変調のために、直交するクロストークプロービング系列のセットから少なくとも1つのクロストークプロービング系列を少なくとも1つのそれぞれの妨害回線に割り当てるステップと、クロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列が少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上で送信されている間に、与えられたキャリア周波数において被妨害回線に結合された受信機によって連続的に測定されたエラーサンプルを受け取るステップとを含む。方法は、受信されたエラーサンプルにおけるデマッピングエラーの検出のために、受信されたエラーサンプルを直交するクロストークプロービング系列のセットからの少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列と相関させるステップをさらに含む。少なくとも1つの割り当てられていないクロストークプロービング系列は、少なくとも1つのそれぞれの妨害回線上でのクロストークプロービングシンボルの少なくとも1つの系列の送信中に、ベクタリンググループのどの回線によっても積極的に使用されていない。
【0040】
本発明による方法の実施形態は、本発明によるベクタリングコントローラの実施形態に対応する。
【0041】
基本的な考え方は、エラーフィードバックにおける決定エラーを検出する目的で、利用可能なパイロット系列のセットのうちのいくつかのパイロット系列を確保しておくというものである。それらの確保された、または割り当てられていないパイロット系列は、クロストーク推定のために積極的に使用されず、より具体的には、対象とされるクロストーク推定サイクルの経過中は使用されない。これは、ベクタリンググループのサイズよりも大きい長さのパイロット系列を使用することによって、または与えられたクロストーク推定サイクル中にはクロストーク推定をベクタリング回線のサブセットに制限し、1つもしくは複数の先行もしくは後続するクロストーク推定サイクル中にはそのように除外された回線を対象とすることによって達成される。
【0042】
次に、与えられたクロストーク推定サイクル中に収集されたエラーサンプルは、報告されたエラーサンプル内に1つまたは複数のデマッピングエラーが存在するかどうかを決定するために、割り当てられていないパイロット系列のうちの各1つと相関させられる。以下で本明細書の詳細な説明において説明されるように、ある信頼区間内でデマッピングエラーを検出するために、適切な統計値および対応する閾値が決定される。(1つまたは複数のデマッピングエラーが発生したが、デマッピングエラーが検出されない)検出し損ない比率が、与えられた信頼閾値(例えば、0.01)を下回り続け、一方、(何も発生しなかったが、デマッピングエラーが検出される)フォールスアラーム比率が、度を越さない(例えば、50%を下回り続ける)ように、検出器が設計される。与えられたノイズレベルにある場合、デマッピングエラーの検出のために利用可能な割り当てられていないパイロット系列の数が多いほど、統計値はより信頼できるものになる。
【0043】
デマッピングエラーが検出された場合、クロストーク推定およびベクタリング性能へのデマッピングエラーの影響を軽減するために、何らかの訂正アクションが行われる。一実施形態では、訂正アクションは、デマッピングエラーによって損なわれたエラーフィードバックを使用して生成されたクロストーク推定を無視するというものである。別の実施形態では、損なわれたクロストーク推定を先の推定または近くのトーン上で行われた推定と組み合わせるために使用される重み付け係数は、クロストーク推定が損なわれていない場合に使用される重み付け係数よりも小さくすることができる。
【0044】
提案されるアルゴリズムは、ダウンストリーム通信およびアップストリーム通信の両方に対して使用され得るが、ダウンストリーム通信に対して特に役立つ。実際に、アップストリーム通信の場合、それぞれの回線上で使用されるパイロット系列についての知識は、(デマッピング情報が回線チップセットによって供給されるならば)DPUにおいて直接的に利用可能であり、アップストリーム受信機によって行われた誤った決定を訂正するために使用され得る。
【0045】
添付の図面と併読される実施形態についての以下の説明を参照することによって、本発明の上述および他の目的および特徴がより明らかになり、発明自体が最も良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】アクセス設備の概略を表す図である。
図2】本発明によるアクセスノードを表す図である。
図3A】デマッピングエラーがない場合の受信周波数サンプルの測定エラーベクトルを表す図である。
図3B】デマッピングエラーがある場合の受信周波数サンプルの測定エラーベクトルを表す図である。
図4】ノイズ標準偏差に応じてのデマッピングエラーの検出のために使用されるテスト統計値gの平均値および分位値のプロットを表す、16個の割り当てられていないパイロットを使用する場合の図である。
図5】ノイズ標準偏差に応じてのフラット検出器およびランプ検出器についての閾値のプロットを表す、やはり16個の割り当てられていないパイロットを使用する場合の図である。
図6】シングルユーザSNRに応じてプロットされたフラット検出器についてのフォールスアラーム比率および検出し損ない比率を表す、やはり16個の割り当てられていないパイロットを使用する場合の図である。
図7】シングルユーザSNRに応じてプロットされたランプ検出器についてのフォールスアラーム比率および検出し損ない比率を表す、やはり16個の割り当てられていないパイロットを使用する場合の図である。
図8】真の値に応じてのノイズ標準偏差のエスティメータについての平均値および信頼区間のプロットを表す、8個の割り当てられていないパイロットを使用する場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1には、COにあるネットワークユニット10と、1つまたは複数の光ファイバを介してネットワークユニット10に結合され、銅線ループ設備を介して様々な加入者構内にある顧客構内設備(CPE)30にさらに結合された、リモート配備DPU20とを備える、アクセス設備1が見られる。
【0048】
銅線ループ設備は、共通アクセスセグメント40を備え、その中で、加入者回線は、互いに近接しており、したがって、互いの中に、および加入者構内への最終的な接続のための専用ループセグメント50の中にクロストークを引き起こす。伝送媒体は、一般に、高カテゴリ銅の非シールドツイストペア(UTP)から成る。
【0049】
DPU20は、共通アクセスセグメント内で引き起こされるクロストークを緩和するために、およびそれぞれの加入者回線上で達成可能な通信データレートを高めるために、ループ設備上で送信されている、またはそれから受信されているデータシンボルを一緒に処理するためのベクタリング処理ユニットを備える。
【0050】
図2には、同じベクタリンググループの一部を形成すると仮定されるN個のそれぞれの通信回線LからLを通して、N個のCPE200から200に結合された、本発明によるDPU100が見られる。
【0051】
DPU100は:
− N個のDSL送受信機110から110と、
− ベクタリング処理ユニット120(またはVPU)と、
− VPU120の動作を制御するためのベクタリング制御ユニット130(またはVCU)と、
を備える。
【0052】
送受信機110は、個別に、VPU120およびVCU130に結合される。VCU130は、VPU120にさらに結合される。
【0053】
送受信機110は、それぞれが:
− デジタル信号プロセッサ(DSP)111と、
− アナログフロントエンド(AFE)112と、
を備える。
【0054】
CPE200は、それぞれのDSL送受信機210を備える。
【0055】
DSL送受信機210は、それぞれ:
− デジタル信号プロセッサ(DSP)211と、
− アナログフロントエンド(AFE)212と、
を備える。
【0056】
AFE112およびAFE212は、それぞれ、デジタルアナログ変換器(DAC)およびアナログデジタル変換器(ADC)と、信号エネルギーを適切な通信周波数帯域内に制限しながら、帯域外干渉を阻止するための送信フィルタおよび受信フィルタと、送信信号を増幅し、伝送路を駆動するためのラインドライバと、できるだけノイズを小さくして受信信号を増幅するための低ノイズ増幅器(LNA)とを備える。
【0057】
AFE112およびAFE212は、低い送信機−受信機結合比を達成しながら、送信機出力を伝送路に結合し、伝送路を受信機入力に結合するためのハイブリッドと、伝送路の特性インピーダンスに適合させるためのインピーダンス整合回路と、絶縁回路(一般に変成器)とをさらに備える。
【0058】
DSP111およびDSP211は、それぞれ、ダウンストリームおよびアップストリームDSL通信チャネルを操作するように構成される。
【0059】
DSP111およびDSP211は、診断または管理のコマンドおよび応答など、DSL制御トラフィックを移送するために使用される、ダウンストリームおよびアップストリームDSL制御チャネルを操作するようにさらに構成される。制御トラフィックは、DSLチャネル上でユーザトラフィックと多重化される。
【0060】
より具体的には、DSP111およびDSP211は、ユーザおよび制御データをデジタルデータシンボルに符号化および変調し、ユーザおよび制御データをデジタルデータシンボルから復調および復号するためのものである。
【0061】
以下の送信ステップが、一般に、DSP111およびDSP211内で実行される:
− データ多重化、フレーム化、スクランブリング、誤り制御符号化、およびデータインターリービングなどのデータ符号化、
− キャリア順序付けテーブルに従ってキャリアを順序付けるステップと、順序付けられたキャリアのビットローディングに従って符号化ビットストリームを解析するステップと、おそらくはトレリスコーディングを用いて、ビットからなる各チャンクを(それぞれのキャリア振幅および位相を有する)適切な送信コンステレーションポイント上にマッピングするステップとを含む信号変調、
− 信号スケーリング、
− 逆高速フーリエ変換(IFFT)、
− サイクリックプレフィックス(CP)挿入、ならびにおそらくは、
− 時間ウィンドウイング。
【0062】
以下の受信ステップが、一般に、DSP111およびDSP211内で実行される:
− CP除去、およびおそらくは時間ウィンドウイング、
− 高速フーリエ変換(FFT)、
− 周波数等化(FEQ)、
− そのパターンがそれぞれのキャリアビットローディングに依存する適切なコンステレーショングリッドをあらゆる等化周波数サンプルに適用するステップと、おそらくはトレリス復号を用いて、予想送信コンステレーションポイントおよび対応する送信ビットシーケンスを検出するステップと、キャリア順序付けテーブルに従ってビットからなるすべての検出チャンクを再順序付けするステップとを含む信号復調および検出、ならびに
− データデインターリービング、誤り検出および/または訂正、デスクランブリング、フレーム識別(frame delinetion)、および多重分離化、などのデータ復号。
【0063】
DSP111は、合同信号プリコーディングのために逆高速フーリエ変換(IFFT)ステップの前に送信周波数サンプルをVPU120に供給し、合同信号後処理のために高速フーリエ変換(FFT)ステップの後に受信周波数サンプルをVPU120に供給するようにさらに構成される。
【0064】
DSP111は、さらなる送信または検出のために、VPU120から訂正周波数サンプルを受け取るようにさらに構成される。代替として、DSP111は、さらなる送信または検出の前に、初期周波数サンプルに追加するために、訂正サンプルを受け取ることもできる。
【0065】
VPU120は、伝送路上で引き起こされるクロストークを緩和するように構成される。これは、予想クロストークの推定を前置補償するために、送信周波数サンプルからなるベクトルをプリコーディング行列Pと乗算することによって(ダウンストリーム)、または被ったクロストークの推定を後置補償するために、受信周波数サンプルからなるベクトルをクロストーク除去行列Qと乗算することによって(アップストリーム)、達成される。
【0066】
行列PまたはQにおいて、行nは、特定の被妨害回線Lを表し、列mは、特定の妨害回線Lを表す。交差には、被妨害回線L上において妨害回線Lからのクロストークを緩和するために、対応する妨害者(disturber)送信または受信周波数サンプルに適用されるべき結合係数がある。例えば、最初に最も強いクロストーク源に割り当てられる限られたベクタリング能力のために、またはさらに例えば、いくつかの回線は互いに顕著に相互作用しないという事実のせいで、必ずしも行列のすべての係数が決定される必要はない。未決定の係数は、好ましくは、0になるように設定される。
【0067】
また、レガシ回線など、ベクタリング操作がサポートされない、または可能にされないが、他の通信回線にやはり顕著に干渉する通信回線Lのみが、ベクタリンググループ内における妨害回線と見なされることに注目すべきである。したがって、行列PまたはQの対応する第n行の非対角係数は、すべてが0になるように設定される。
【0068】
VCU130は、基本的には、VPU120の動作を制御するためのものであり、より具体的には、ベクタリンググループの伝送回線間のクロストーク係数を推定し、そのように推定されたクロストーク係数からプリコーディング行列Pの係数およびクロストーク除去行列Qの係数を初期化および更新するためのものである。
【0069】
VCU130は、最初に、ダウンストリームクロストーク推定のために送受信機110によって使用するそれぞれのダウンストリームパイロット系列、およびアップストリームクロストーク推定のために送受信機210によって使用するアップストリームパイロット系列を構成することによって開始する。伝送回線に積極的に割り当てられるパイロット系列は、{Sn=1..Nと表され、相互に直交するパイロット系列のセット131から選択される。
【0070】
VCU130は、デマッピングエラーの検出のためだけに、相互に直交するパイロット系列のセット131からM個のパイロット系列{Tm=1..Mをさらに確保し:これらのパイロット系列は、どの伝送回線にも割り当てられない。
【0071】
したがって、相互に直交するパイロット系列のセット131のサイズは、N+Mよりも大きく、直交性要件を満たすために、パイロット系列{Sn=1..Nおよび{Tm=1..Mの長さもそうある。
【0072】
代替として、VCU130は、パイロット系列を伝送回線の制限された組に割り当てることができ、それによって、デマッピングエラーの検出のために、いくつかのパイロット系列を解放する。いずれのパイロット系列も割り当てられない回線からのクロストークは、学習され得ないので、VCU130は、ベクタリンググループ全体についてのクロストーク係数を得るために、後続のクロストーク推定ラウンド中にアクティブなパイロットを再割り当てする必要がある。
【0073】
VCU130は、ダウンストリーム通信のためにリモート送受信機210によって、およびアップストリーム通信のためにローカル送受信機110によって、パイロットデジットの検出中に測定されるような、それぞれのスライサエラー{En=1..Nを収集する。
【0074】
図3Aに関して、パイロット信号を変調および復調するためにBPSKが使用されると仮定すると、スライサエラーは、クロストーク前置補償または後置補償の後の等化受信周波数サンプル311と、通常状態(+1)に対応する受信周波数サンプル311をデマッピングするために受信機によって選択された参照コンステレーションポイント、今の場合はコンステレーションポイント321との間のエラーベクトル331として定義される。
【0075】
図3Aには、逆状態(−1)に対応するコンステレーションポイント322も、受信周波数サンプルをデマッピングするための決定境界線340と一緒に示されている。受信周波数サンプル311が、決定境界線340によって区切られた右上の半平面に属する場合、最も可能性が高い送信周波数サンプルとして、コンステレーションポイント321(+1)が選択され、受信周波数サンプル310が、左下の半平面に属する場合、最も可能性が高い送信周波数サンプルとして、コンステレーションポイント322(−1)が選択される。
【0076】
今度は図3Bに関して、パイロット信号を変調および復調するためにBPSKが使用されると依然として仮定すると、伝送回線上で被った強いクロストークのせいで決定境界線340を越えた別の受信周波数サンプル312が示されている。結果として、受信機は、通常状態(+1)が送信されたにもかかわらず、受信周波数サンプルを誤ったコンステレーションポイント322(−1)上にデマッピングし、したがって、誤ったエラーベクトル332を報告し、それによって、クロストーク推定プロセスを著しく偏らせる。
【0077】
VCU130は、妨害回線Lから被妨害回線Lへのクロストーク係数を推定するために、それぞれの被妨害回線L上のエラーサンプルEを、それぞれの妨害回線L上で送信されたパイロット系列Sと相関させる。
【0078】
VCU130は、エラーサンプル内に何らかのデマッピングエラーが存在するかどうかを決定するために、エラーサンプルEを、割り当てられていないパイロット系列{Tm=1..Mの各々とも相関させる。デマッピングエラーが存在する場合、VCU130は、これらの破損されたエラーサンプルに基づいた新しいクロストーク推定を無視すること、または先のクロストーク推定もしくは近隣周波数におけるクロストーク推定と組み合わされるときに、この新しいクロストーク推定により低い重みを適用することなど、いくつかの訂正アクションを取る。
【0079】
VCU130は、新しいクロストーク推定に影響するノイズの分散を特徴付け、したがって、この新しいクロストーク推定がどれほど信頼できるかを決定するために、エラーサンプルEを、割り当てられていないパイロット系列{Tm=1..Mの各々とさらに相関させる。この信頼性情報は、例えば、最小分散組み合わせを使用して、この新しいクロストーク推定を先のクロストーク推定または近隣周波数におけるクロストーク推定と組み合わせるときに、さらに使用され得る。
【0080】
今から、図2によるDSLシステムのための数学的モデルを与え、VCU130によって使用する、受信エラーサンプル内のデマッピングエラーを検出するための信頼できる統計値を導出する。
【0081】
チャネルモデル
ベクタリンググループ内にN個のDSL回線を有するシステムについて考察する。通信は、0からK−1までのラベルが付けられたK個のDMTトーン上で行われる。トーンは、独立したチャネルと考えられ得、我々は、特定のトーンkに注意を集中する。一般に、必要な場合は常に、トーンインデックスを表すために、x(k)などと上付き文字を使用する。ダウンストリームおよびアップストリーム動作の両方が考察される。
【0082】
システムの周波数領域モデルにおいて、複素信号Λx(k)を、回線LからL上のトーンk上でダウンストリームとして送信される複素信号からなるベクトルであるとし、ここで、Λは、エントリΛnn=σを有する対角行列であり、σは、回線L上の送信パワーであり、xは、回線L上でダウンストリームとして送信される単位パワー複素信号である。そのとき、ベクタリングなしの場合、受信機210における受信信号は:
【数2】
であり、ここで、Hは、要素Hnnが、直接チャネルゲインを表し、要素Hnmが、回線Lから回線Lへのクロストークを表す、N×Nチャネル行列であり、
【数3】
は、背景ノイズを表す。
【0083】
プリコーディング行列P=I+Cを用いるプリコーディングを適用する場合:
【数4】
を得、ここで、
【数5】
は、残存チャネル行列である。
【0084】
チャネル行列をH=D(I+G)のように分解し、ここで、Dは、直接ゲインDnn=Hnnからなる対角行列であり、Gは、m≠nの場合は、エントリGnm=Hnm/Hnnを有し、Gnn=0である、受信機関連の相対クロストークチャネル行列である。
【0085】
固定グリッド上で受信信号をスライスする前に、受信信号は、周波数領域等化器(FEQ)を通過し、送信パワーが、補償される。これら2つの操作の結果は、正規化受信信号:
【数6】
であり、ここで、
【数7】
および
【数8】
は、それぞれ、正規化残存チャネル行列および背景ノイズであり、Θ=R−I=G+C+GCは、正規化残存クロストークチャネル行列である。
【0086】
SYNCシンボルの間、送信値xは、受信機210によって高い信頼性で推定され、エラー信号を形成するために、受信信号から減算され得る。ベクトル形式では、エラー信号は:
e=r−x=Λ−1ΘΛx+z (1)
によって与えられる。
【0087】
エラーフィードバックが動作可能である場合、これらの複素エラー値は、VCEに返送され、ゼロに至らしめたい正規化残存クロストークチャネル行列Θを推定するために使用され得る。
【0088】
今度は、複素信号Λxを、回線LからL上のトーンk上でアップストリームとして送信される複素信号からなるベクトルであるとし、ここで、Λは、エントリΛnn=σを有する対角行列であり、σは、回線L上の送信パワーであり、xは、回線L上でアップストリームとして送信される単位パワー複素信号である。そのとき、ベクタリングなしの場合、受信機110における受信信号は:
【数9】
であり、ここで、Hは、要素Hnnが、直接チャネルゲインを表し、要素Hnmが、回線Lから回線Lへのクロストークを表す、N×Nチャネル行列であり、
【数10】
は、背景ノイズを表す。
【0089】
アップストリーム方向では、チャネル行列を
【数11】
のように分解し、ここで、Dは、直接ゲインDnn=Hnnからなる対角行列であり、
【数12】
は、m≠nの場合は、エントリ
【数13】
を有し、
【数14】
である、送信機関連の相対クロストーク行列である。
【0090】
ダウンストリームおよびアップストリームにおいて異なる表記の使用が有益である。1つの重要な特性は、これらの表記を用いると、異なる長さの回線が存在する場合であっても、相対クロストーク係数が、一般に1よりもはるかに小さくなることである。ダウンストリームでは、チャネルHnmおよびHnnの両方は、同じ伝搬距離を有し、距離は、受信機210nに関係する。他方、アップストリームでは、同じ伝搬距離をカバーするのは、チャネルHnmおよびHmmであり、ここでは、距離は、送信機210mに関係する。
【0091】
ポストコーディング行列Q=I+Cを用いるポストコーディング、続いて、対角行列Fによって表される周波数等化(FEQ)、およびパワー正規化を適用する。受信機は、ポストコーディングされたチャネル(I+C)Hの逆となるようにFを構成し、それは、クロストークが小さい場合、
【数15】
をもたらす。したがって、これら3つの操作の後の補償信号は:
【数16】
によって与えられ、ここで、
【数17】
は、正規化残存チャネル行列であり、ノイズ項は、
【数18】
である。
【0092】
ノイズ項は、ポストコーダ設定に依存するが、この依存は、実際上そうであるべきように、Cの係数が1に対して小さい場合、無視され得る。
【0093】
一般に、Θ=R−Iを正規化残存クロストークチャネル行列であるように定義する。この残存クロストークをゼロに至らしめたい。
【0094】
SYNCシンボルの間、送信値xは、受信機110によって高い信頼性で推定され、エラー信号を形成するために、補償信号rから減算され得る。ベクトル形式では、エラー信号は:
e=y−x=Λ−1FΘDΛx+z (2)
によって与えられる。
【0095】
エラーフィードバックが動作可能である場合、これらの複素エラー値は、VCE130に転送され、ゼロに至らしめたい残存クロストークチャネルΘを推定するために使用され得る。
【0096】
クロストーク推定アルゴリズム
残存クロストークチャネルΘからエラーサンプルeへのマッピングは、ダウンストリーム(1)とアップストリーム(2)とで非常に類似しているので、この説明の残りは、ほとんどがアップストリームとダウンストリームとに共通している。しかしながら、量zはアップストリームとダウンストリームとで僅かに異なる意味を有することに留意されたい。また、ダウンストリーム通信を説明するときに、受信機関連の相対クロストークGが参照される場合、アップストリーム通信を説明するときには、送信機関連の相対クロストーク
【数19】
によって置き換えられるべきである。
【0097】
パイロットベースのクロストーク推定の場合、SYNCシンボル上でパイロット系列を送信する。すなわち、N×Lパイロット行列Sを定義し、ここで、Sntは、時刻tにおいて回線n上で送信される複素シンボルを変調する2進値「1」または「−1」である。系列は、周期Lで繰り返され、すなわち、時刻tにおいて送信される値は、τ=t mod LであるSnτである。Sを直交するように選択し、これは、SS=LI、すなわち、N×N単位行列のL倍であることを意味する。
【0098】
単位パワーにスケーリングされた4−QAMのコンステレーションポイント00を、a=(1+j)/√2によって表し、ポイント11を、−aを用いて表す。そのとき、周期tにSYNCシンボル上で送信される値は、x(t)=aSntである。
【0099】
ダウンストリームの場合、すべての回線上のL個の連続するSYNCシンボル上で受信されるエラーシンボルは、N×L行列表記で、
E=aΛ−1ΘΛS+Z
と書き表され得る。
【0100】
各回線上で受信されるエラーサンプルの系列をパイロット系列の各々と相関させることは、エラー行列Eにパイロット系列の転置を右側から乗算することによって、行列表記で表され得る。結果の非正規化相関は:
U=ES=aΛ−1ΘΛSS+ZS=aLΛ−1ΘΛ+ZS
の形式を取る。
【0101】
この相関演算は、複素エラーサンプルの加算および減算のみを含み、乗算が必要とされないことに留意されたい。最後に、非正規化相関は、残存クロストークの偏りのない推定を得るために正規化される。すなわち:
【数20】
であり、ここで、ノイズ項は:
【数21】
である。
【0102】
計算によりすぐに、クロストーク推定の分散が:
【数22】
であることが示される。
【0103】
今度はアップストリームの場合、回線LからL上のL個の連続するSYNCシンボル上で受信されるエラーシンボルは、N×L行列表記で、
E=aΛ−1FΘDΛS+Z
と書き表され得る。
【0104】
各回線上で受信されるエラーサンプルの系列をパイロット系列の各々と相関させることは、エラー行列Eにパイロット系列の転置を右側から乗算することによって、行列表記で表され得る。結果の非正規化相関は:
U=ES=aΛ−1FΘDΛSS+ZS=aLΛ−1FΘDΛ+ZS
の形式を取る。
【0105】
この相関演算は、複素エラーサンプルの加算および減算のみを含み、乗算が必要とされないことにやはり留意されたい。最後に、非正規化相関は、残存クロストークの偏りのない推定を得るために正規化される。すなわち:
【数23】
であり、ここで、ノイズ項は:
【数24】
である。
【0106】
計算によりすぐに、クロストーク推定の分散が:
【数25】
であることが示される。
【0107】
デマッピングエラーの影響
先行セクションでは、受信機が送信パイロットシンボルaSntの正しい推定を有すると仮定された。ノイズおよび干渉状態に応じて、ならびに受信機によって使用される推定方法に応じて、この仮定は常に有効ではあり得ない。
【0108】
以下では、受信機は、各サブキャリアごとに独立して4つのQPSKコンステレーションポイントのうちの1つに常にデマッピングし(これは最悪の状況である)、デマッピングポイントがaSntに等しくない場合に生じる結果を検査すると仮定する。
【0109】
パイロットサイクルにおいてすべての回線上で受信されるエラーフィードバックは:
【数26】
であり、ここで、
【数27】
は、デマッピング信号の行列である。
【0110】
【数28】
と書き表すことができ、ここで、Unt∈{0,1}は、時刻tにおいて受信機nによって引き起こされた実部デマッピングエラーの数を表し、Vnt∈{0,1}は、虚部デマッピングエラーの数を表す。ほとんどの場合(すなわち、ほとんどのトポロジにおけるほとんどのトーンでは)、行列UおよびVは、ゼロである。他の多くの場合、UおよびVは、少数の非ゼロ要素を含む疎行列とすることができる。SNRが非常に低いトーンの場合、UおよびVは、密になり得る。表記を簡潔にするために、
【数29】
と定義することもできる。ここで、演算C=AoBは、行列の要素ごとの乗算を表し、すなわち、各行インデックスnおよび列インデックスmについて、Cnm=Anmnmである。そのとき:
E=aΛ−1RΛS+Z−aS+W=aΛ−1ΘΛS+Z+W
を得、ここで、Zは、背景ノイズであり、Wは、デマッピングエラーである。
【0111】
先に説明された線形クロストーク推定アルゴリズムを適用すると、以前と同じ結果(Θの偏りのない推定)に加えて、Wに起因する追加項を得る。追加項は、行列形式では:
【数30】
である。
【0112】
したがって、Θnmの推定は、項:
【数31】
だけ破損される。
【0113】
特定の被妨害回線Lについて考察すると、和は、デマッピングエラーをこうむるSYNCシンボル上で取られさえすればよく、すなわち、Wnt=0である項は、和から外れる。
【0114】
ただ1つのデマッピングエラーが存在する、例えば、U(n,τ)=1であると仮定する。そのとき、各妨害者Lについて、破損項は、
【数32】
であり、大きさは、
【数33】
である。プリコーダを直接的に構成するために、結果の推定が使用される場合、一次的に、デマッピングエラーが、各妨害者からの干渉を
【数34】
である加法性因子だけ増加させ、その結果、被妨害回線Lの干渉が、合計
【数35】
だけ増加する。部分的な除去を用いるシステムでは、エラー項は非ゼロプリコーダ係数に対してだけ発生するので、和は、除去される妨害者にわたって取られる。パワーレベルがすべての回線上で近似的に等しい場合、単一のエラーの影響は、強度が2N/Lの相対干渉を追加することであり、ここで、Nは、除去される妨害者の数である。
【0115】
例えば、パイロットの長さがL=256、除去される妨害者がN=96であるシステムでは、単一のデマッピングエラーは、被妨害回線の信号対雑音比(SNR)を、(信号パワーは1に正規化されるので)−10log10((2×96)/(256×256))=25dBに制限する。与えられた被妨害回線上における追加のデマッピングエラーは、干渉のほぼ線形の増加を引き起こし、したがって、回線が256個のSYNCシンボル上で10個のデマッピングエラーをこうむった場合、SNRは、この例では、約15dBに制限される。
【0116】
複数の推定サイクルにわたって、プリコーダが改善される場合、デマッピングエラーの数は、時間につれて変化し得る。システムが、デマッピングエラーを起こすのに非常に良いプリコーダに収束するまで、デマッピングエラーは、さらなるデマッピングエラーをより起こしがちにする干渉を引き起こすことが起こり得る。他方、システムは、理想に向かっても収束し得、デマッピングエラーの数は、時間につれて減少する。
【0117】
今から、クロストーク推定の正確さに対するデマッピングエラーの影響を決定することにしよう。最初に、推定行列の各行の正確さを推定することに説明を絞る。これは、デマッピングエラーがある場合にも、またはない場合にも有益である。
【0118】
基本的な考え方は、エラーフィードバックを、アクティブな回線上で使用しているパイロットに直交する割り当てられていないパイロットと相関させることが、残存クロストーク推定に影響するノイズおよびデマッピングアーチファクトのレベルの良好な統計的推定を提供するというものである。
【0119】
n.が、回線L上におけるL個のSYNCシンボル上のエラーフィードバックを表す、エラーフィードバック行列の第n行であると見なす。
【0120】
n.=aσ−1Θn.ΛS+Zn.+Wn.
を得る。
【0121】
このエラーフィードバックを、割り当てられたパイロットSm.と相関させた場合:
【数36】
を得る。
【0122】
第1項は、(パワー調整およびaによる除算の前の)Θnmの正しい推定であるが、第2項は、背景ノイズの影響を表し、第3項は、デマッピングエラーの影響を表す。
【0123】
を、割り当てられたパイロットSに直交する割り当てられていないパイロット系列である1×L行列とする。エラーフィードバックを、割り当てられていないパイロットTと相関させた場合、残存クロストークチャネルと関連付けられた項は脱落し、ノイズ項およびデマッピングエラー項だけが残される:
【数37】
【0124】
結果のサイズを検査することによって、クロストーク推定に影響するノイズおよびデマッピングエラーのサイズについての良好な見当を得る。
【0125】
この問題の正確な分析は、WがSおよびZに依存するという事実によって複雑化される。いくらかの前進をするために、いくつかの独立近似を行うことができる。これらは、確かに、パイロットが(通常のウォルシュ−アダマール行列におけるように)決定論的な反復構造を有する場合は、有効ではない。しかしながら、パイロットが、ランダム化ウォルシュ−アダマール構造から引き出され、割り当てられたパイロットの数Nおよび割り当てられていないパイロットの数Mが、小さすぎない場合、あるランダム近似は、ある程度は良好に機能するように思える。特に、Wは固定されており、ZおよびTはランダムで、ゼロ平均で、独立しているという見方をすると:
【数38】
を得る。
【0126】
W、Sm.、およびZに関して同様の近似を行うと、ρ(S)におけるエラー項の予想される平方された大きさは、近似的に同じであり、すなわち、
【数39】
である。
【0127】
したがって、相関結果ρ(S)の分散の推定を得るために、いくつかの割り当てられていないパイロットTを取り、|ρ(T)|の経験的平均を計算することができる。最後に、
【数40】
であるので、
【数41】
の分散は、
【数42】
である。
【0128】
デマッピングエラーの検出
割り当てられていない相関結果ρ(T)に対する信号処理を実行することによって、デマッピングエラーの存在を検出し、実エラーおよび虚エラーがいくつ存在するかを決定することを試みることができ、またはエラーが発生したSYNCシンボルを識別することを試みることさえできる。ここでは、少なくとも1つのデマッピングエラーが存在するかどうかを検出する問題に説明を絞る。
【0129】
このセクションでは、単一のデマッピングエラーが存在するかどうかを決定するための最適および準最適なテストを設計する。このケースのための許容可能なテストを設計した後、次に、それが複数のデマッピングエラーの場合に許容可能な性能を与えるかについてチェックすることができる。
【0130】
2つの仮説の間のテストに関心がある:
− H:デマッピングエラーなし
− H:単一のデマッピングエラーが存在する。
【0131】
割り当てられていないパイロットTを特定の被妨害回線上のエラーフィードバックと相関させた結果についての先の表現:
【数43】
について考察する。
【0132】
以下では、
【数44】
と再正規化し、その結果正規化されたデマッピングエラー
【数45】
が、複素整数グリッド上に落ちるようにすると都合が良い。やはり、(1つの特定の被妨害回線に集中することができるので)下付き文字nを省き、パイロット系列Tを参照するために下付き文字mを使用することにしよう。そのとき:
【数46】
を得る。
【0133】
ρが分散η=(L/2)Var[Z]で複素正規分布するとしているので、帰無仮説の下では、すべてのSYNCシンボルtについて、W=0である。非帰無仮説の下では、Wτが集合{1,−1,i,−i}内の値のうちの1つを有するような1つの特定のシンボルτが存在し、他のすべてのSYNCシンボルtについては、W=0である。そのとき:
【数47】
と書き表すことができ、ここで、zは、分散がηの複素正規ノイズである。パイロット値Tmτを、{1,−1}からの等確率のランダム値として、
【数48】
を、Tmτとは独立して等しい確率で4つの値を取るものとして、モデル化することができる。
【0134】
(干渉ではなく)背景ノイズに起因する受信機におけるSNRのための表記γを導入することも有益である。これは、ただ1つのユーザがアクティブであるときに得られるSNRであるので、ときにはシングルユーザSNRと呼ばれる。γを先に定義された量に関連させるために、Zが与えられたエラーサンプルにおける背景ノイズ項であること、およびコンステレーションポイントは±(1+i)であるので、このスケールにおける信号パワーが2であることに留意されたい。したがって、線形スケールでは:
γ=2/Var[Zt]=L/η
である。
【0135】
今では、明確に定義された(well−definedな)仮説テストを有する。ネイマン−ピアソンの補題は、そのようなテストにおいてフォールスポジティブ(すなわち、何も発生しなかったが、デマッピングエラーが検出される)検出エラーとフォールスネガティブ(すなわち、実際には発生したが、デマッピングエラーが検出されない)検出エラーとの間の可能な限り最良のトレードオフを得るための技法を提供する。最適なテストは、以下の形式を取る。
【0136】
ベクトル
【数49】
を得るために、エラーフィードバックを、M個の割り当てられていないパイロットの組と相関させると仮定する。尤度比
【数50】
を、すなわち、ベクトル
【数51】
が帰無仮説の下で発生する確率に対する、それが非帰無仮説の下で発生する確率を計算し、比が何らかの指定された閾値θを超えた場合に検出を宣言する。閾値を変化させることによって、フォールスポジティブ検出およびフォールスネガティブ検出の比率が、トレードオフさせられ得る。例えば、フォールスネガティブ比率を規定レベルよりも低く維持した上で、フォールスポジティブ比率を最小化することができる。
【0137】
尤度比が、
【数52】
の別の関数の関数として表現され得る場合、例えば、
【数53】
と書き表すことができる場合、統計値
【数54】
を計算し、この値を適切な閾値と比較すれば十分である。上で提示された問題の場合、尤度比を明示的に書き表し、それを十分な統計値に簡略化することができる。
【0138】
【数55】
の実部および虚部を
【数56】
のように書き表した場合、十分な統計値は:
【数57】
であることが分かる。
【0139】
ηが小さい場合、この十分な統計値は、より単純な関数:
【数58】
によって良好に近似される。
【0140】
準最適なテストは、このより単純な統計値を閾値と比較することによって設計され得る。
【0141】
幸いなことに、単純化された統計値に基づいたテストは、我々に関心があるシナリオでは、最適なテストから実質的に区別可能ではないことが分かる。他の関連する統計値も使用され得る。主要な要件は、デマッピングエラーが存在しない場合の統計値の分布が、デマッピングエラーが存在する場合の統計値の分布とはできる限り異なるべきであるというものである。
【0142】
今から、2つのデマッピングエラーを検出するための適切なテストを設計することにしよう。場合によっては、2つのデマッピングエラーは、1つよりも検出するのが難しくなり得ることを性能結果においてすでに見た。これは、(5)において、2つのSYNCシンボルtおよびsが、Wmt=−Wmsとなることが可能であり、その結果、Tと相関させるときに、2つのエラーが互いに打ち消し合うためである。この問題は、エラーWおよびWが、ともに実数である場合、またはともに虚数である場合(それを一卵性双生児(identical twin)と呼ぶことがある)に発生し得る。一方が実数で、他方が虚数である場合(二卵性双生児(fraternal twin))、それらは、互いに打ち消し合うことはできず:この状況は、単一エラーよりも検出するのが常に容易である。以下では、したがって、一卵性双生児の場合に説明を絞る。
【0143】
単一のデマッピングエラーについて上述したのと同じ手法に従って、二重のデマッピングエラーについての最適な仮説テストを定義することができる。しかしながら、単一エラーは、二重エラーよりも一般的であるので、また単一エラーに対して最適化されたメトリックは、二重エラーに対しても良好に機能するように思えるので、テスト統計値として単一エラーのメトリックを使用するだけである。次のセクションでは、単一エラーおよび二重エラーの両方を考慮して、テスト閾値をいかにして決定すべきかについて説明する。
【0144】
SNRレベルに対するテスト統計値の依存性
使用する特定のテスト統計値
【数59】
を選択したので、この統計値の分布が、様々な仮説および背景ノイズレベルにどのように依存するかを理解する必要がある。以下の恒等式から開始する。Aμ,λ=|μ+λZ|を、平均がμ、分散がλの正規分布する変数の絶対値であるとする。便宜的に、Aμ,λの平均および分散を、それぞれ、m(μ,λ)およびv(μ,λ)によって表す。そのとき:
【数60】
であり、ここで、Qは、Q関数を表し:
E[|Aμ,λ]=μ+λ
であるので:
v(μ,λ):=var[Aμ,λ]=μ+λ−m(μ,λ)
を得る。
【0145】
様々な場合においてテスト統計値
【数61】
の分布を分析するために、これらの量を使用することができる。我々のモデルでは、
【数62】
は、2つの部分の和から成るランダム変数であることに留意されたい。すべての仮説の下で同じであるノイズ項は、分散がη=L/γの複素正規であり、その結果、実数成分および虚数成分は、分散λ:=η/2=L/2γを有する。デマッピングエラー項は、その分布が仮説に依存する、複素整数格子上の値を取るランダム変数である。
【0146】
(6)における
【数63】
の定義を思い出されたい。便宜的に、表記:
【数64】
を定義することにし、その結果:
【数65】
である。
【0147】
およびSは独立であるので、テスト統計値の累積分布関数(CDF)
【数66】
がSおよびSのCDFの積で表される。なぜなら
【数67】
であるからである。
【0148】
ケース0−デマッピングエラーなし:このケースでは、SおよびSの両方は、形式A0,λのM個のランダム変数の経験的平均であり、そのため、それらは、平均:
【数68】
および分散:
【数69】
を有する。
【0149】
Mが程々に大きく、分布の裾の端のほうについて推定しているのではない場合、SおよびSの分布を、CDFが:
【数70】
であるガウシアンとして近似的にモデル化し、その結果:
【数71】
である。
【0150】
与えられた分散λについて、フォールスアラーム確率がεを下回ることを保証するために必要とされる最小閾値θは、等式:
【数72】
を解くことによって得られる。
【0151】
この等式は、Q関数の逆関数に関する:
【数73】
として明示的に解かれ得る。
【0152】
このケースでは、最小閾値は、ノイズの標準偏差λにつれて線形に増減する。
【0153】
【数74】
の平均値、およびε=1%のフォールスアラーム確率のために必要とされる閾値θは、それぞれ、実線カーブ401および破線カーブ402のようなλに応じて、図4に示されている(M=16)。
【0154】
ケース1−単一のデマッピングエラー:このケースでは、エラーによって影響された成分であるSまたはSのどちらかは、形式A(1,λ)のM個のランダム変数の平均であるが、他方の成分は、形式A(0,λ)の変数の平均である。一般性を失うことなく、デマッピングエラーは実数であると仮定する。そのとき、E[S]=m(1,λ)、Var[S]=v(1,λ)/Mであり、一方、E[S]=m(0,λ)、Var[S]=v(0,λ)/Mである。やはり、ガウシアン近似を使用して:
【数75】
を得る。
【0155】
与えられた分散λについて、検出し損ない確率がεを下回ることを保証する最大閾値θは、等式:
【数76】
を数値的に解くことによって得られる。
【0156】
【数77】
の平均値、およびε=1%の検出し損ない確率のために必要とされる閾値θは、それぞれ、実線カーブ403および破線カーブ404のようなλに応じて、図4に示されている(M=16)。平均は、λが小さい場合は近似的に一定であり、単調に増加する。他方、1%分位値は、(増加する分散のせいで)最初は減少し、ほぼ0.69において全体の最小に達する。フォールスアラーム確率および検出し損ない確率はともに、破線カーブ404が破線カーブ402よりも上にある限り、1%よりも低く保たれ得る。
【0157】
ケース2−二重のデマッピングエラー:ここでは、両方のデマッピングエラーが実数である、または両方が虚数であるより難しいケース(一卵性双生児シナリオ)において、二重のデマッピングエラーのケースについて考察する。一般性を失うことなく、両方のデマッピングエラーは実数であると仮定する。そのとき、エラーフィードバックを、割り当てられていない各パイロットTと相関させた場合、2つのエラーが建設的に強め合う50%の可能性と、2つのエラーが互いに打ち消し合う50%の可能性とが存在する。そのとき、Sは、タイプA(0,λ)およびA(2,λ)の変数の混合であるランダム変数の平均である。ランダム変数Bがそのような混合である場合、その1次モーメントおよび2次モーメントは:
【数78】
【数79】
【数80】
である。
【0158】
次に、E[S]=m(λ)、var[S]=v(λ)/Mを得、一方、虚数成分は、統計値E[S]=m(0,λ)、Var[S]=v(0,λ)/Mを有する。やはり、CDFについてのガウシアン近似を使用して、
【数81】
を得る。
【0159】
与えられた分散λについて、検出し損ない確率がεを下回ることを保証する最大閾値θは、等式:
【数82】
を数値的に解くことによって得られる。
【0160】
【数83】
の平均値、およびε=1%の検出し損ない確率のために必要とされる閾値θは、それぞれ、実線カーブ405および破線カーブ406のようなλに応じて、図4に示されている(M=16)。単一エラーのケースと異なり、
【数84】
の分散は、2つのエラーの建設的および破壊的な和によって導入される変動性のために、λ→0のようにはゼロに近づかない。平均および1%分位値はともに、λに応じて単調に増加する。これが理由で、二重エラー閾値θは、λの低い値では、単一エラー閾値よりも厳しいが、λのより高い値では、その反対のことが当てはまる。
【0161】
他のケース:我々は、我々の検出器が実部デマッピングエラーおよび虚部デマッピングエラーのすべての組み合わせに対して良好に機能することを望んでいる。我々が(単一および一卵性双生児)エラーを調べた2つのケースは、統一的に最も厳しいケースであると思われる。すなわち、他の任意の組み合わせについて、検出し損ない確率は、これら2つのケースの最大の検出し損ないよりも低いはずである。したがって、許容可能な性能または単一および二重デマッピングエラーを与えるテストを設計すれば十分である。
【0162】
検出器設計
先のセクションの結果は、必要とされる決定閾値の限界を、ノイズレベルλの応じて示す。実際には、ノイズレベルは、事前に分からず、テスト内で明示的に使用されるべき場合は、推定されなければならない。このセクションでは、閾値を設定するための2つの戦略について考察する。戦略にかかわらず、λがあるレベルを下回る場合だけ、低いフォールスアラーム比率および検出し損ない比率が、同時に達成され得る。テストを設計する際、検出し損ない比率に制約を課し、フォールスアラーム比率も低く維持することができるノイズレベルを最大化しようと試みる手法を取る。
【0163】
フラット検出器:第1の戦略では、すべてのノイズレベルλについての検出し損ないに対する望ましい上限を普遍的に保証する単一の値θを選択する。そのとき、検出規則は、単純に、
【数85】
である場合は常に、デマッピングエラーを宣言するというものである。
【0164】
ランプ検出器:第2の戦略では、λを推定することを試み、この推定を使用して、閾値θを最適化する。デマッピングエラーに鈍感であるが、およそλ=0.3を下回るノイズレベルの場合にだけ正確なλの推定を使用する(説明においてさらに理解されたい)。この戦略では、
【数86】
である場合に、低い検出し損ない比率を保証する閾値θを決定する。この閾値は、推定ノイズ
【数87】
が大きく、
【数88】
である場合に適用される。推定ノイズ
【数89】
が小さい場合、線形増加する閾値
【数90】
を使用する。
【0165】
先のセクションの分析を使用して、最小の検出し損ない閾値θ(λ)およびθ(λ)を、背景ノイズレベルに応じて計算することができる。そのとき、フラット検出器のための全体的な閾値は:
【数91】
として計算され、ランプ検出器のための閾値は:
【数92】
として計算される。
【0166】
図5には、最初に図4において与えられた、M=16個の割り当てられていないパイロットのケースについての
【数93】
の統計値が、再びプロットされている。加えて、実線カーブ501は、フラット検出器によって使用される検出限界、すなわち、θ(0)の値によって限定される、定数値θ=0.45を示している。破線カーブ502は、ランプ検出器によって使用される検出限界、すなわち、λ≦0.3では線形増加する値、λ>0.3では定数値θ=0.58を示している。Mを増加させると、検出し損ない閾値(破線カーブ402、404、406)は、対応する平均値(それぞれ、実線カーブ401、403、405)の方により近く引き寄せられ、閾値θおよびθが増加することを可能にし、それが、今度は、低いフォールスアラーム比率でサポートされ得る分散λを増加させる。
【0167】
この図では、実線カーブ401がカーブ501または502と交わるノイズレベルλ*は、それぞれ、帰無仮説(デマッピングエラーなし)の下で、テスト統計値
【数94】
の平均がテスト閾値θまたはθに等しい点を示す。この点では、(これらの分布については、平均と中央値とは近似的に等しいので)フォールスアラーム確率は、約50%に達する。したがって、λ*は、低フォールスアラーム動作の右端の限界と考えられ得、λ*を上回るノイズレベルでの動作は、高いフォールスアラーム比率をもたらす。与えられたパイロット長Lに対して、対応するシングルユーザSNR値γ=L/(2λ*2)を計算することができる。γを下回るシングルユーザSNRを有するトーンに検出器を適用することは、高いフォールスアラーム比率をもたらす。
【0168】
今度は、そのように設計されたフラット検出器およびランプ検出器のそれぞれの性能を検査することにしよう。先のセクションでは、以下の基準を用いて設計されたデマッピングエラー検出器を得た。与えられた設計(フラットまたはランプ)内において、単一および二重デマッピングエラーの場合の検出し損ない確率がε=0.01を下回ることを保証しながら、フォールスアラーム性能をできる限り低く維持することを試みた。このセクションでは、設計された検出器の性能を検証するための、モンテカルロシミュレーションについて報告する。実験では、いくつかの仮説の各々:デマッピングエラーなし、二重(一卵性双生児)デマッピングエラー、3つのデマッピングエラー、および4つのデマッピングエラーの下で、M個の複素ランダム変数を生成した。ランプ検出器のケースでは、使用する適切な閾値を決定するために、推定分散レベル
【数95】
を計算した。どちらの検出器を用いても、テスト統計値
【数96】
を計算し、それを閾値θと比較した。最後に、正しくない各結果は、フォールスアラームまたは検出し損ないとして分類され、フォールスアラームおよび検出し損ないの平均比率が、100000回の試行において計算された。このプロセスは、エラー比率をシングルユーザSNR γに応じて生成するために、λの様々な異なるレベルについて繰り返された。
【0169】
図6および図7には、M=16個の割り当てられていないパイロットを使用する、フラット検出器およびランプ検出器のそれぞれについて、シングルユーザSNRレベルγに応じてのフォールスアラーム比率(カーブ601、701)が、デマッピングエラーが1つ(カーブ602、702)、2つ(カーブ603、703)、3つ(カーブ604、704)、および4つ(カーブ605、705)の場合の検出し損ない比率とともに、プロットされている。
【0170】
すべてのケースにおいて、検出し損ない比率は、設計通り、ε=0.01によって制限される。一般に、フラット検出器は、高いSNRにおいて最悪の検出し損ないを有するが、ランプ検出器の場合、最悪の検出し損ないは、ランプのブレイクポイントである約32dBにおいて生じる。システムパラメータの他の値についても、同様のカーブが計算され得る。
【0171】
背景SNRレベルの推定
このセクションでは、ランプ検出器のために使用される背景ノイズレベルエスティメータ
【数97】
についての詳細および動機を提供する。実際の背景ノイズレベル1/γ(したがって、λ)が知られている場合、各状況について、閾値は、完璧に最適化され得る。しかしながら、実際には、λの推定は、デマッピングエラーが存在する場合、簡単ではない。しかしながら、我々の用途では、それが低い場合、すなわち、SNR γが高い場合、λを推定すれば十分である。ランダム変数
【数98】
は、複素整数グリッド上に存在するデマッピングエラー項を伴った、分散が2λの複素正規ノイズの和であることを思い出されたい。λが小さい場合、デマッピングエラー成分は、
【数99】
を複素整数グリッドに単純に丸めることによって、高い確率で回復され得る。丸め関数を
【数100】
と表すと、ノイズは、
【数101】
と推定され得る。
【0172】
単位分散を有する実正規変数Xの場合、
【数102】
である。したがって、
【数103】
のノイズ成分の実部および虚部の標準偏差λを推定するための1つの方法は、エスティメータ:
【数104】
を介するものである。
【0173】
この推定は、λが、u−「u」がノイズの実数成分を正確にキャプチャするなどするように十分に小さい場合、(有効に)偏りがない。λが増加するにつれて、これはもはや成り立たなくなり、エスティメータは飽和する。以下の図8は、エスティメータ
【数105】
についての経験的に測定された平均802および95%信頼区間803を、標準偏差λ801に応じて示している。
【0174】
行われた主要な観察は、推定標準偏差が
【数106】
を満足する場合、偏りのない状態にあり、ηのかなり正確な推定を有すると仮定することができるというものである。他方、
【数107】
である場合、偏りのある領域にいることがあり、
【数108】
を有することがある。
【0175】
エスティメータ
【数109】
は、入力の整数シフトによって影響されないので、デマッピングエラーが存在するかどうかにかかわらず、同じ分布および性能を有する。したがって、ランプ検出器では、(小さい場合は)ノイズレベルを決定するために、またはノイズレベルが大きいと決定するために、
【数110】
を最初に使用する。適応閾値
【数111】
が、しかるべく設定され、その後、統計値
【数112】
が、閾値と比較される。
【0176】
適切に設計されたランプ検出器では、常に
【数113】
である。
【0177】
【数114】

【数115】
および
【数116】
についての式を検査することによって、相関値
【数117】
が、すべての割り当てられていないパイロットについて
【数118】
となるほど十分に小さい場合、我々は、
【数119】
を得、帰無仮説を選択することを理解することは容易である。したがって、いくつかの計算は、
【数120】
を明示的に計算する必要なしに、このケースでは帰無仮説を直接的に宣言することによって省かれ得る。
【0178】
VCUの実際の実装
上述の分析およびシミュレートに基づいて、ここでは、VCU130内で使用するための推奨されるデマッピングエラー検出器を明示的な形式で提示する。
【0179】
入力パラメータは:
− 検出器タイプ−フラットか、それともランプか、
− 使用される割り当てられていないパイロットの数M、
− 検出し損ない比率ε、
− パイロット系列長L、
である。
【0180】
テストのための入力データは、(特定のトーン上の)複素エラーフィードバック値の系列{E}、t=0,...,L−1である。また、長さLのM個の割り当てられていないパイロット系列は、値Tmt∈{−1,1}によって指定される。
【0181】
フラット検出器:フラット検出器は、以下のステップを有する。
ステップ1:式(7)を使用し、Mおよびεに基づいて、閾値θが計算される。これらの値は、例えば、テーブル内に事前計算しておかれ得る。
ステップ2:各m=1,...,Mに対して、相関値:
【数121】
および
【数122】
を計算する。
ステップ3:テスト統計値:
【数123】
および
【数124】
を計算する。
ステップ4:max{S,S}>θである場合、デマッピングエラーを宣言する。それ以外の場合、デマッピングエラーはない。
【0182】
ランプ検出器:ランプ検出器は、以下のステップを有する。
ステップ1:式(8)を使用し、Mおよびεに基づいて、閾値θが計算される。これらの値は、例えば、テーブル内に事前計算しておかれ得る。
ステップ2:各m=1,...,Mに対して、相関値:
【数125】
および
【数126】
を計算する。
ステップ3:各m=1,...,Mに対して、uおよびvを最も近い整数値に丸め、
【数127】
および
【数128】
を得る。
ステップ4:すべてのm=1,...,Mに対して、
【数129】
および
【数130】
である場合、デマッピングエラーなしを宣言する。それ以外の場合、次のステップに進む。
ステップ5:式(9)によって、標準偏差推定
【数131】
を計算する。
ステップ6:閾値
【数132】
を計算する。
ステップ7:テスト統計値:
【数133】
および
【数134】
を計算する。
ステップ8:max{S,S}>θである場合、デマッピングエラーを宣言する。それ以外の場合、デマッピングエラーはない。
【0183】
上述の検出器を実装する際、様々な簡略化が利用され得る。例えば、uおよびvの定義における係数1/√2は、明示的に計算されるのではなく、閾値内に組み込まれ得る。
【0184】
デマッピングエラーの影響の緩和
考察され得るデマッピングエラーの4つのタイプの検出および訂正が存在する:
− 推定クロストーク行列
【数135】
の各行の正確さを推定する。
− 特定の回線のエラーフィードバック内にデマッピングエラーが存在するかどうかを推定する。
− 特定の回線のエラーフィードバックにいくつのデマッピングエラーが影響するかを推定する。
− どのデマッピングエラーが発生したかを正しく決定し、それらを正確に補償する。
【0185】
上述のものをツールとして使用して、デマッピングエラーの効果を緩和するために、以下の戦略が使用され得る:
− 推定エラー、特に反復エラーを起こす傾向がより小さいパイロット系列を設計する。例えば、ランダム化されたアダマール構造を使用する。
− クロストーク推定の正確さを推定し、この情報を追跡において多かれ少なかれ積極的に使用する。
− デマッピングエラーの存在を検出し、関連付けられた残存クロストーク推定を廃棄し、またはより少ない重みを与える。
− 特定のデマッピングエラーを検出し、対応する訂正を、関連付けられた残存クロストーク推定に対して行う。
【0186】
検討する次のステップは、推定の正確さについての推定を使用することが、この問題を回避する助けになり得るかどうかである。このアイデアは、初期化から以降、プリコーダ更新は、正確さが乏しいと思われる場合は非常に保守的となり、正確さがより良好である場合はより積極的になるというものである。これは、正しいプリコーダに収束する際の助けとなるはずである。
【0187】
クロストーク測定の正確さの推定の使用
デマッピングエラーが存在しない場合であっても、エラーフィードバック信号の、割り当てられていないパイロット系列との相関が、どのようにしてクロストーク推定の正確さについての有益な情報を生成することができるかについて説明した。このセクションでは、このアイデアについてのさらなる詳細を提供する。
【0188】
先に説明されたように、DSL回線に割り当てられ、SYNCシンボルを送信するために使用される多数のパイロット系列{S)}を有し、また他の割り当てられていないパイロット系列{T}を有し、すべてのパイロットが相互に直交していると仮定する。以前とは対照的に、今度は、デマッピングエラーが存在しない、すなわち、W=0であると仮定する。そのとき、回線n上のエラーフィードバックサンプルEn.を、割り当てられたパイロットSと相関させた結果は:
【数136】
をもたらすが、割り当てられていないパイロットTと相関させると、値:
【数137】
をもたらす。
【0189】
どちらのケースにおいても、決定論的な成分と、ランダムな成分とを有し、ランダムな成分は、背景ノイズをパイロット系列と相関させた結果である。ランダムな成分は、同じ被妨害回線についてのすべての相関結果について統計的に同じであり、分散:
【数138】
を有する。
【0190】
値vは、平均して、相関結果ρ(S)がそれらの平均値にどれほど近いかを表現する。分散vが小さいほど、クロストーク推定
【数139】
は、より信頼性が高い。特に、クロストーク推定
【数140】
は、相関結果のスケーリングされたバージョンであるので、分散:
【数141】
を有する。
【0191】
割り当てられていないパイロットと相関させた結果は、ゼロ平均であり、同一に分布するので、それらの分散を、割り当てられていないパイロットの数Mが増加するにつれてより正確になる、通常の経験的な分散推定:
【数142】
を使用して、推定することができる。次に、結果をσ/σによって正規化することが、推定
【数143】
における不確実さの推定を与える。
【0192】
異なる被妨害回線上および異なるトーン上におけるクロストーク推定の信頼性についての見当を有することは、ベクタリングされたシステムにとって非常に有益であり得る。この情報は、異なる推定が新しい推定に組み合わされ得る方法の最適化を可能にする。
【0193】
一実施形態では、異なる時刻において行われた残存クロストーク推定の分散についての知識は、複数の推定を最適に組み合わせて、時間につれてプリコーダ係数の正確さを高めるために使用され得る。特定の被妨害者(victim)と妨害者のペアについて、時刻tにおいて、理想的なプリコーダ値の推定
【数144】
を有し、この推定の分散がw[t]であることを知っている(または推定する)と仮定する。プリコーダをこの値になるように設定し、その結果、時刻t+1において、プリコーダ値が、
【数145】
であると仮定する。時刻t+1におけるエラーフィードバックを使用して、分散がv[t+1]である残存クロストークの推定
【数146】
を得る。そのとき、
【数147】
は、分散がv[t+1]であるCの新規の推定である。線形重みを使用して、新規の推定を先の推定と組み合わせることができ、結果の更新された推定の分散を最小化するようにそれらの重みを設定することは、最小分散組み合わせと呼ばれる。最小分散組み合わせを適用すると、新しい推定:
【数148】
を得る。
【0194】
新しい推定は、分散:
w[t+1]=w[t]v[t+1]/(v[t+1]+w[t]) (10)
を有し、それは、w[t](およびv[t+1])よりも常に小さい。分散w[t]およびv[t+1]は、実際には知られていないが、上で説明されたような割り当てられていないパイロットとの相関が、各ステージにおいてv[t+1]を推定するために使用され得る。分散w[t]の推定は、式(10)を使用して反復的に維持され得る。
【0195】
別の実施形態では、クロストーク推定の分散についての情報が、異なるサブキャリア上で行われたクロストーク推定を最適に組み合わせるために使用され得る。例えば、僅かな個数kのトーンによって隔てられたトーンfとトーンf+kの2つが、同じ理想的なクロストーク係数Cを有することが予想されると仮定する。トーンf上のエラーフィードバックを使用して、分散がv[f]の推定
【数149】
を得、トーンf+k上のエラーフィードバックを使用して、分散がv[f+k]の推定
【数150】
を得る。やはり、最小分散組み合わせの原理を使用して、組み合わされた推定:
【数151】
を形成することができる。
【0196】
両方の推定が同様の分散を有する場合、新しい推定は、単純に2つの平均である。他方、一方の推定が他方よりもはるかに高い分散を有する場合、組み合わせ手順は、より信頼性の高い測定にはるかに大きい重みを与える。推定の正確さにおける周波数依存の理由は、(無線周波数進入などが原因の)周波数依存ノイズ、または周波数依存送信パワーを含むことができる。
【0197】
デマッピングエラーを検出し、デマッピングエラーによって影響された残存クロストーク推定を廃棄する緩和技法は、この手法の拡張と考えられ得る。すなわち、デマッピングエラーが存在する場合、結果の推定を全く信頼できないと考え、推定分散
【数152】
を形式的に無限大に設定することができる。最小分散組み合わせ原理を適用する場合、これは、デマッピングエラーを伴う測定を廃棄することに対応する。例えば、形式的に、v[f]=∞、v[f+k]=1である場合、最小分散組み合わせ原理は、
【数153】
であることを命じ、基本的に、損なわれた測定を無視または廃棄する。
【0198】
「含む」という用語は、その後に列挙される手段に制限されると解釈されるべきではないことに留意されたい。したがって、「手段Aと手段Bとを含むデバイス」という表現の範囲は、構成要素AおよびBのみから成るデバイスに限定されるべきではない。それは、本発明に関しては、デバイスの関連構成要素がAおよびBであることを意味する。
【0199】
「結合される」という用語は、直接的な接続のみに限定されると解釈されるべきではないことにさらに留意されたい。したがって、「デバイスBに結合されたデバイスA」という表現の範囲は、デバイスAの出力がデバイスBの入力に直接的に接続される、および/またはそれとは逆向きに直接的に接続される、デバイスまたはシステムに限定されるべきではない。それは、Aの出力とBの入力との間に、および/またはAの入力とBの出力との間に、他のデバイスまたは手段を含む経路であることができる、経路が存在することを意味する。
【0200】
説明および図面は、本発明の原理を単に例示しているにすぎない。したがって、当業者は、本明細書では明示的に説明または示されてはいないが、本発明の原理を具体化する様々な構成を考案することができることが理解されよう。さらに、本明細書で述べられたすべての例は、明らかに、もっぱら、本発明の原理、および発明者らが貢献した当技術分野を進展させる概念に対する読者の理解を助けるという教示的な目的で、主として意図されており、そのような明確に述べられた例および条件に限定するものではないと解釈されるべきである。さらに、本発明の原理、態様、および実施形態、ならびにそれらの具体例について述べる、本明細書のすべての言明は、それらの均等物を包含することが意図されている。
【0201】
図に示される様々な要素の機能は、専用ハードウェア、および適切なソフトウェアと関連付けたソフトウェアを実行することが可能なハードウェアの使用を通して提供され得る。プロセッサによって提供される場合、機能は、単一の専用プロセッサによって、単一の共用プロセッサによって、またはいくつかが共用され得る、複数の個別プロセッサによって提供され得る。さらに、プロセッサは、ソフトウェアを実行することが可能なハードウェアを排他的に指すと解釈されるべきではなく、限定することなく、デジタル信号プロセッサ(DSP)ハードウェア、ネットワークプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などを暗黙的に含むことができる。リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、および不揮発性ストレージなど、従来型および/または特注型の他のハードウェアも含まれ得る。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8