特許第6286112号(P6286112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6286112-炭素繊維開繊シートの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6286112
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】炭素繊維開繊シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D02J 1/18 20060101AFI20180215BHJP
   D06M 15/55 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 10/00 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 11/34 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   D02J1/18 Z
   D06M15/55
   D06M10/00 A
   D06M11/34
   D06M101:40
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-557002(P2017-557002)
(86)(22)【出願日】2017年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2017029724
【審査請求日】2017年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-164727(P2016-164727)
(32)【優先日】2016年8月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】堀本 歴
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正道
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/142109(WO,A1)
【文献】 特開2009−197143(JP,A)
【文献】 特開平03−008866(JP,A)
【文献】 特開2010−111957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02J 1/00−13/00
D02G 1/00− 3/48
D06M 10/00−11/84
D06M 13/00−15/715
D06M 16/00
D06M 19/00−23/18
D06M 101/40
C08J 5/04− 5/10、5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維開繊シートの製造方法であって、
サイジング剤が付着した炭素繊維未開繊トウを表面活性化処理する工程と、
前記炭素繊維未開繊トウを開繊してシートとする工程を含むことを特徴とする炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項2】
前記開繊する工程において、炭素繊維未開繊トウを屈曲して通過させるための押さえシャフトと、前記炭素繊維未開繊トウの幅方向に振動する開繊バーで構成される少なくとも一対の開繊手段により炭素繊維未開繊トウを開繊する請求項1に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項3】
前記未開繊トウはボビンに巻かれた状態で複数本供給され、前記押さえシャフトと開繊バーにより幅方向に振動されて幅方向に拡開されるとともに開繊され、1枚の開繊シートにされる請求項1又は2に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項4】
前記開繊する工程において、炭素繊維未開繊トウを屈曲して通過させるための押さえシャフトの端部と開繊バーの端部の高さの差△Hは5〜30mmである請求項1〜3のいずれかに記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項5】
前記炭素繊維開繊シートの幅は、構成繊維本数1000本当たり0.5〜5.0mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項6】
前記サイジング剤は、エポキシ系樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項7】
前記表面活性化処理は、オゾン酸化処理、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理である請求項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項8】
前記炭素繊維開繊シートには、さらに幅方向の連続性を維持するための補強材を貼り合わせ、加熱して一体化する工程を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【請求項9】
前記補強材がスクリムである請求項8に記載の炭素繊維開繊シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開繊し易く、欠点の少ない炭素繊維開繊シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化樹脂(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化樹脂は、高強度、軽量等の特色を生かして、ゴルフクラブのシャフト、釣竿等の各種スポーツ用品、航空機、自動車、圧力容器などに広く応用され或いは今後の応用が期待されている。繊維強化樹脂の一般的な成形方法として、例えばハンドレイアップ法、スプレーアップ法などの接触圧成形法、フィラメント・ワインディング(FW)法、引き抜き法、連続積層法などの連続成形法などを使用して目的の成形物に成形している。マトリックス樹脂は、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂やポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂が使用されている。また、マトリックス樹脂との親和性を高めるため、マトリックス樹脂に応じたサイジング剤を強化用繊維表面に付着させている。
【0003】
従来技術として、サイジング剤が付与された炭素繊維未開繊トウを加熱して柔軟化させた状態で開繊する提案がある(特許文献1)。また、アクリル基とエポキシ基を有する炭素繊維用サイジング剤を使用する提案(特許文献2)、サイジング剤を付着させる前の炭素繊維表面をオゾン酸化させる提案もある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172562号公報
【特許文献2】特開2000−355884号公報
【特許文献3】特開2009−79344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術のサイジング剤を付着させた炭素繊維未開繊トウは、単繊維同士が分離しにくく、開繊しにくく、欠点が発生し易いという問題があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、サイジング剤を付着させた炭素繊維未開繊トウを用いても、単繊維同士が分離し易く、開繊し易く、欠点が発生しにくい炭素繊維開繊シートを得ることができる炭素繊維開繊シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の炭素繊維開繊シートの製造方法は、炭素繊維開繊シートの製造方法であって、サイジング剤が付着した炭素繊維未開繊トウを表面活性化処理する工程と、前記炭素繊維未開繊トウを開繊してシートとする工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、サイジング剤が付着した炭素繊維未開繊トウを表面活性化することにより、単繊維同士が分離し易く、開繊し易く、欠点が発生しにくい炭素繊維開繊シートを得ることができる。すなわち、未開繊トウを表面活性化することにより、各炭素繊維表面に付着されたサイジング剤が酸化等により活性化され、単繊維同士を分離し易くなる。これにより、未開繊トウを開繊し易くし、欠点が発生しにくい開繊シートを得ることができる。また、表面活性化により炭素繊維とマトリックス樹脂との濡れ性を良好にしてマトリックス樹脂の含浸性をさらに高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施形態のトウの開繊装置の模式的断面図である。
図2図2は同模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
通常の炭素繊維未開繊トウ(以下、「未開繊トウ」ともいう。)は、マトリックス樹脂との親和性を上げるために各炭素繊維にサイジング剤が付着した状態で販売されている。本発明はこのような市販のサイジング剤が付着した炭素繊維未開繊トウを表面活性化し、単繊維同士を分離し易くする。これにより、未開繊トウを開繊し易くし、欠点が発生しにくい炭素繊維開繊シート(以下、「開繊シート」ともいう。)が得られる。また、炭素繊維の表面活性化によりマトリックス樹脂との濡れ性を良好にしてマトリックス樹脂の含浸性をさらに高めることができる。
【0011】
本発明において、開繊とは、トウを構成する多数本の炭素繊維を幅方向に解き分けて薄いシート状又はテープ状にすることをいう。好ましい厚さは0.02〜0.4mmであり、さらに好ましくは0.02〜0.3mmである。本発明で称する炭素繊維未開繊トウは3〜60Kが好ましく、さらに好ましくは12〜60Kである。ここでKは1000本のことであり、市販品のラージトウは、例えば50K(50,000本)の場合、 通常の幅12mm程度である。
【0012】
前記開繊する工程において、炭素繊維未開繊トウを屈曲して通過させるための押さえシャフトと、トウの幅方向に振動する開繊バーで構成される少なくとも一対の開繊手段により開繊するのが好ましい。未開繊トウは押さえシャフトで押さえられた状態で開繊バーにより幅方向に振動されるため、未開繊トウは幅方向に拡開され開繊される。開繊バーと押さえシャフトは断面が円形、楕円形、長円形等が好ましく、この中でも長円形が好ましい。とくに開繊バーは上面と下面に未開繊トウを接触させることができることから、断面は長円形が好ましい。開繊バーと押さえシャフトからなる開繊手段は2〜4対設けるのが好ましい。このようにすると効率よく開繊できる。
【0013】
前記未開繊トウはボビンに巻かれた状態で複数本供給され、前記押さえシャフトと開繊バーにより幅方向に振動されて幅方向に拡開されるとともに開繊され、1枚の開繊シートにされるのが好ましい。これにより、複数本の炭素繊維未開繊トウから広幅の開繊シートを効率良く作製できる。
【0014】
前記開繊する工程において、炭素繊維未開繊トウを屈曲して通過させるための押さえシャフトの端部と開繊バーの端部の高さの差△Hは5〜30mmとするのが好ましく、より好ましくは10〜20mmである。前記差の分、炭素繊維未開繊トウは屈曲して通過され、振動する開繊バーの表面に接触して開繊されやすくなる。前記高さの差△Hは、最初は高く、だんだん低くしても良い。開繊バーは、振幅1〜20mmが好ましく、より好ましくは2〜10mmであり、振動数10〜100Hzが好ましく、より好ましくは20〜50Hzである。これにより、未開繊トウを効率よく開繊できる。
【0015】
前記開繊シートの幅は、構成繊維本数1000本当たり0.5〜5.0mmが好ましい。具体的には、前記開繊シートの幅は、50Kまたは60Kなどのラージトウの場合は構成繊維本数1000本当たり0.5〜1.5mm程度であり、12Kまたは15Kなどのレギュラートウの場合は構成繊維本数1000本当たり1.5〜5.0mm程度である。1本当たりのトウの構成繊維本数が増加するほど、繊維の捩れが大きくなり開繊しにくくなるので、開繊シートの幅も狭くなる。これにより、炭素繊維メーカーの販売する未開繊トウを拡開し、使用し易い開繊シートとし、様々な成形物に供給できる。
【0016】
サイジング剤は、マトリックス樹脂と親和性の高いものを使用することが多く、本発明にはどのような種類のサイジング剤でも適用できる。好ましいサイジング剤は汎用性の高いエポキシ系樹脂である。サイジング剤の好ましい付着量は0.1〜5.0重量%であり、さらに好ましくは0.2〜3.0重量%である。
【0017】
前記表面活性化処理は、酸素存在下のオゾン酸化、波長400nm以下の紫外線照射及びプラズマ処理からなる群から選ばれる少なくとも一つの処理であるのが好ましい。これらの表面処理はサイジング剤を活性化する効率が高いからである。この中でもオゾン酸化は酸素存在下で行うことができるが、他の方法でも可能である。
【0018】
オゾンの発生方法としては、無声放電方式、沿面放電方式、紫外線照射方式、電気分解方式などがある。大容量のオゾン生成には効率の面から、主に無声放電方式が利用されている。現在、放電型オゾナイザとして最も一般的に用いられている放電方式である。空気中に一対の平行電極の一方または両方に誘電体(主にガラスやセラミックス)の層を設け、両電極間に交流高電圧が印加されると無声放電が生じる。オゾン濃度は例えば40000ppmとする。処理時間は2〜30分間が好ましい。炭素繊維未開繊トウは空気存在下に置かれて酸化処理される。
【0019】
オゾン酸化処理の別の例としてエキシマランプ照射がある。エキシマランプとは、誘電体バリア放電の短時間放電が多数生じる特徴を生かして、希ガス原子や、希ガス原子とハロゲン原子によって形成されるエキシマからの光を放射する放電ランプのことである。エキシマランプの代表的放射波長には、Ar2*(126nm)、Kr2*(146nm)、Xe2*(172nm)、KrCl*(222nm)、XeCl*(308nm)などがある。ランプは石英ガラスの二重構造になっており、内管の内側には金属電極、外管の外側には金属網電極がそれぞれ施され、石英ガラス管内には放電ガスが充填されている。電極に交流の高電圧を印加すると、2つの誘電体の間で細い針金状の放電プラズマ(誘電体バリア放電)が多数発生する。この放電プラズマは高エネルギーの電子を包含しており、かつ、瞬時に消滅するという特徴を持っている。この放電プラズマにより、放電ガスの原子が励起され、瞬間的にエキシマ状態となる。このエキシマ状態から元の状態(基底状態)に戻るときに、そのエキシマ特有のスペクトルを発光(エキシマ発光)する。発光スペクトルは、充填された放電ガスによって設定することができる。好ましい照射条件は波長によって異なる。波長172nmの場合、光強度は例えば5〜6mW/cm2とすると、照射時間は0.5〜30分程度が好ましい。波長222nmの場合、光強度は例えば40〜60mW/cm2とすると、照射時間は2〜30分程度が好ましい。ランプと被処理物との間に空気層(ギャップ)があると、波長172nmの場合、空気中の酸素が光エネルギーを吸収してオゾンが発生するので、オゾンによる酸化作用も起きる。
【0020】
別の表面活性処理方法として低圧水銀ランプ法、プラズマ照射処理法もある。低圧水銀ランプ(低圧UVランプ)は、点灯中の水銀圧力が100Pa以下の水銀蒸気中のアーク放電の発光を利用する。発光管にはアルゴンガスなどの希ガスと、水銀又はそのアマルガムが封入されている。波長185nm,254nmなどの紫外放射のランプがある。光強度は例えば40〜60mW/cm2とする。照射時間は2〜30分程度が好ましい。
【0021】
プラズマは一般的には気体を構成する分子が部分的に又は完全に電離し、陽イオンと電子に分かれて自由に運動している状態のものである。プラズマ処理装置を使用して炭素繊維にプラズマ照射する条件は、照射量としてワット密度(W・分/m2)で表現すると、1000〜50000W・分/m2が好ましい。また、窒素ガス又は窒素+酸素ガス雰囲気で処理速度(被処理物移動速度)0.05〜1m/minが好ましい。
【0022】
以上の処理は単独でも任意に組み合わせても良い。これらの処理により、繊維表面のサイジング剤を活性化し、開繊し易くし、マトリックス樹脂との濡れ性をさらに良好にして含浸性をさらに高めることができる。より具体的にはサイジング剤の分子を切断したり、水酸基、カルボニル基、カルボキシル基、アンモニウム基、或いはこれらの遷移状態の中間体や類似基を形成して活性化されると推測される。
【0023】
マトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でも使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂などが使用可能であるが、これらに限定されない。熱硬化性樹脂としてはエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが使用可能であるが、これらに限定されない。
【0024】
前記炭素繊維開繊シートには、さらに幅方向の連続性を維持するための補強材が一体化されるのが好ましい。補強材としては、例えばガラス繊維製スクリム、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン製スクリムやネット等を溶融一体化して貼り合わせたり、エポキシ樹脂等の樹脂粉末を振り掛けて加熱しても良い。これにより炭素繊維開繊シートは幅方向が連続し、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、シートとしてとして取扱い性が良好となる。補強材はマトリックス樹脂と親和性のある樹脂を選択するのが好ましい。
【0025】
次に図面を用いて説明する。以下の図において、同一符号は同一物を示す。図1は本発明の一実施形態のトウの開繊装置の模式的断面図であり、図2は同模式的斜視図である。この開繊装置1の主要部は、トウの幅方向に振動する開繊バー6a,6b,6cと、トウを押さえる押さえシャフト4a−4d,5a−5dで構成されている。炭素繊維未開繊トウ3aは複数本の供給ボビン2aから供給され、押さえシャフト4a−4dと開繊バー6a,6b,6cの間を屈曲して通過し、未開繊トウ3aは押さえシャフト4a−4dで押さえられた状態で開繊バー6a,6b,6cにより幅方向に振動されるため、幅方向に拡開され開繊され、開繊シートとなる。複数本の未開繊トウ3bも同様に、供給ボビン2bから供給され、押さえシャフト5a−5dと開繊バー6a,6b,6cの間を屈曲して通過し、未開繊トウ3bは押さえシャフト5a−5dで押さえられた状態で開繊バー6a,6b,6cにより幅方向に振動されるため、幅方向に拡開され開繊され、開繊シートとなる。この開繊シートはガイドロール7a上で一列に配列されシート状となり、ガイドロール7bを通過した後、スクリム供給ローラ10からスクリム9が供給され、加熱装置11内で一体化される。スクリムが一体化された炭素繊維開繊シート8は巻き上げボビン12に巻き上げられる。得られた炭素繊維開繊シート8は、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、一体化したシートとしてとして扱えるようになる。図2の矢印13a−13cは開繊バー6a,6b,6cの振動方向を示す。
【0026】
前記において、スクリム9はガラス繊維製の厚み0.25mm、単位面積当たりの質量15g/m2のシートとし、加熱装置11内の温度は180℃、滞留時間は1.55分とした。ガラス繊維には熱可塑性樹脂が付着している。熱可塑性樹脂としてはエチレン酢酸ビニル共重合体等がある。スクリム以外であっても、例えばエポキシ樹脂粉末を振り掛けたり、樹脂製ネット状物を貼り合わせても良い。これにより炭素繊維開繊シートは幅方向が連続し、構成炭素繊維がバラバラになることはなく、シートとして扱えるようになる。
【実施例】
【0027】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
(1)炭素繊維未開繊トウ
炭素繊維未開繊トウは三菱レーヨン社製、品番:PYROFILE TRH50 60M、形状:ラージトウ フィラメント50K(50,000本, 幅12mm程度)、単繊維直径6μmを使用した。この炭素繊維未開繊トウにおいて、炭素繊維にはエポキシ系化合物がサイジング剤として付着されている。
【0029】
(2)炭素繊維未開繊トウの表面処理
炭素繊維未開繊トウのオゾン酸化処理は、密閉空間に炭素繊維未開繊トウを入れて、オゾン雰囲気にさらして行った。具体的には、密閉可能な容器中に炭素繊維未開繊トウを入れ、室温25℃で30分間オゾン酸化処理をした。密閉可能な容器に酸素ボンベから酸素を供給して、下記のオゾンガス発生器でオゾンを発生させた。オゾン生成能力は、1ユニットで2.16g/h(電圧100V、酸素ガス濃度90%、流量1L/min)のものを3台使用して約6g/hとなる。オゾン発生器は、メーカー:リガルジョイント社製、型番:ORZ−3.2、生成方法:無声放電、オゾン濃度:40000ppmを使用した。
【0030】
(3)未開繊トウの開繊手段
図1に示す開繊装置を使用して開繊した。6個の供給ボビンからそれぞれ前記(1)の炭素繊維未開繊トウが供給され、開繊バーの端部と、押さえシャフトの端部の高さの差△Hは10mmとし、開繊バーは、振幅6mm、振動数30Hzで振動させた。開繊シートの巻き上げ速度は20m/分であった。このようにして開繊幅35mm/50K、厚み0.2mmの開繊シートを巻き上げた。6個の供給ボビンは、各ボビンが50Kであり、製造された開繊シートの幅は50Kの未開繊トウから得られる幅のほぼ6倍であった。
【0031】
(4)開繊シートの評価
得られた開繊シートは目視により毛羽立ちを観察し、下記の評価基準により評価した。
A:毛羽立ちがほとんどない。
B:毛羽立ちが多い。
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0032】
(比較例1〜2)
比較例1〜2は表面処理の無い炭素繊維未開繊トウを使用して開繊した結果である。
【0033】
【表1】
【0034】
表1から明らかなように、実施例1は毛羽立ちが少なく、傷つき欠点が少なく、良好な炭素繊維開繊シートが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の炭素繊維開繊シートは、風力発電に使用するブレード、ゴルフクラブのシャフト、釣竿等の各種スポーツ用品、航空機、自動車、圧力容器などに広く応用できる。
【符号の説明】
【0036】
1 開繊装置
2a,2b 供給ボビン
3a,3b 炭素繊維未開繊トウ
4a−4d,5a−5d 押さえシャフト
6a,6b,6c 開繊バー
7a,7b ガイドロール
8 炭素繊維開繊シート
9 スクリム
10 スクリム供給ローラ
11 加熱装置
12 巻き上げボビン
【要約】
炭素繊維開繊シート8の製造方法であって、サイジング剤が付着した炭素繊維未開繊トウを表面活性化処理する工程と、前記炭素繊維未開繊トウ3a,3bを開繊してシートとする工程を含む。開繊工程においては、炭素繊維未開繊トウ3a,3bを屈曲して通過させるための押さえシャフト4a−4d,5a−5dと、トウの幅方向に振動する開繊バー6a−6cで構成される少なくとも一対の開繊手段が好ましく、押さえシャフト4a−4d,5a−5dの端部と開繊バー6a−6cの端部の高さの差△Hは5〜30mmであるのが好ましい。これにより、サイジング剤を付着させた炭素繊維未開繊トウを用いても、単繊維同士が分離し易く、開繊し易く、欠点が発生しにくい炭素繊維開繊シートを得る。
図1
図2