【文献】
J. Biosci. Bioeng.,2006年,Vo.102, No.6,pp.485-496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エリンギ発酵エキス配合物が医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、又は浴用剤であることを特徴とする請求項4記載のエリンギ発酵エキス配合物。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0017】
キノコには多糖としてβグルカンが多く含まれている。しかし、一般に、グラム陰性細菌にはβグルカンを単糖に分解する能力がなく、そのままでは炭素源として利用できないと推定される。また、キノコ成分の中に、細菌の増殖を阻害する因子が含まれる場合がある。そこで、本検討では、これらの条件を踏まえ、下記の実験を行った。
【0018】
1.エリンギ素材にパントエア・アグロメランスの培養阻害作用がないか
・おから培地での確認
・合成培地での確認
・エリンギの自己融解処理
*1の必要性の確認
【0019】
2.エリンギ素材でパントエア・アグロメランスが増殖できるか
・種々の加工エリンギによる検討
・エリンギ粉末添加量の検討
(エリンギ粉末とはエリンギ子実体(可食部分)を温風や凍結乾燥などで乾燥させたものをミキサーなどで粉砕し、粉末化したもの。)
【0020】
3.発酵培養物中のβグルカンの測定
なお、本実験は予備実験として、すべてn=1(一つの条件で実験を行った試験数。すなわち一つの条件で行った試験数は1であるという意味)で検討している。基本プロトコールは、50mlのチューブにエリンギを加えた培地を調製し、これにパントエア・アグロメランスを加え、37℃で一晩培養する。その後に遠心分離により沈殿物(パントエア・アグロメランスまたはおからやエリンギの残渣固形分)を回収し、これに1〜5mlの蒸留水を添加し、90℃で20分間処理と37℃15分間の超音波処理でLPS (糖脂質)の抽出を行う。遠心上清をサンプルとしてリムラス活性(エンドスペシー(生化学工業社)による測定)によりLPS量を測定する。培養の条件により増殖菌体量の実験間誤差が大きいので、今回は標準的培地であるLB(ルリアブロス)を基準培地として使用し、培養して得た菌体のLPS抽出サンプルのリムラス値を100%として表示した。通常LB培地で培養すると100μg/ml程度のリムラス値が得られる。なお、懸濁物があるので、吸光度での菌量は測定していない。
【0021】
*1: キノコにはβグルカン加水分解酵素が含まれている。そのため、キノコは自身の酵素により自己融解をおこし、細菌が栄養源として利用出来る糖を生産する。
【実施例1】
【0022】
(おから培地でのパントエア増殖におけるエリンギの影響について)
エリンギがパントエア・アグロメランス培養を阻害する可能性を調べる。おから培地で検討する。
【0023】
Exp. 1 材料と方法
100mlあたりの培地の組成を示す。
処方1:グルコース(2g)+M9(Na2HPO4: 0.6 g、KH2 PO4:0.3 g、NaCl: 0.05 g、NH4Cl: 0.1 g、1 M MgSO4: 0.1 ml、1 M CaCl2: 0.01 ml)
*1
処方2:グルコース(2g)+M9+おから(1g)
*2
処方3:グルコース(2g)+M9+おから(1g)+エリンギ粉末(1g)
*3
処方4:グルコース(2g)+M9+おから(1g)+乾燥エリンギ(5g)エキス
*4
処方5:グルコース(2g)+M9+おから(1g)+生エリンギ(5g)エキス
*5
LB培地:トリプトン(1.0 g)+イーストエクストラクト(0.5 g)、NaCl(0.5 g)
*6
【0024】
試験方法
各培地にLB培地で前培養したパントエア・アグロメランスを1ml添加し、35℃で24時間振盪培養した。培養後、3500rpmで10分遠心分離し、集菌し、5mlの蒸留水に溶解し、90℃20分間加熱処理を行い、その後、3500rpmで10分遠心分離し上清を調整した。上清中のLPS量はエンドスペシーで測定した。
【0025】
*1:グルコース(2g)に90mlとなるようにM9と蒸留水を加え、懸濁液を調製し、オートクレーブして培地とした。ただし、MgSO4は別に10mlで融解し、オートクレーブ後にその他のものと混ぜ合わせてグルコース培地100mlを作成した。
*2: おから粉末(おからを温風でかんそうしたもの)(1g)、グルコース(2g)、M9、蒸留水を*1と同様に操作して、おから培地100mlを作成した。
*3: おから粉末(1g)、エリンギ粉末(エリンギ可食部を温風で乾燥後、粉末化したもの)(1g) 、グルコース(2g)を混ぜ、M9、蒸留水を加え、これを*1と同様に操作して、エリンギ粉末培地100mlを作成した。
*4: 乾燥エリンギ(エリンギ可食部を温風で乾燥したもの)5gを蒸溜水で8時間浸し、吸水させた後に、水分を除き、エリンギの表面を70%エタノールで殺菌後、無菌的に細かく砕き、37℃で2日間置き、3500rpm×10 minで得た液体におから粉末1gを混ぜ、M9、蒸留水を加え、これを*1と同様に操作して、乾燥エリンギエキス培地100mlを作成した。
*5: スーパーで購入した生のエリンギ5gを*4の70%エタノール処理以降と同様にして得た液体におから粉末1gを混ぜ、M9、蒸留水を加え、これを*1と同様に操作して、生エリンギエキス培地100mlを作成した。
*6: LB:LB培地(トリプトン1.0
g、イーストエクストラクト0.5 g、NaCl 0.5 g)に100mlとなるように蒸留水を加え、懸濁液を調製し、オートクレーブしてLB培地100mlを作成した。
【0026】
結果
図1に示すとおり、おから培地(処方2)にエリンギ粉末1%を添加(処方3)してもパントエア・アグロメランスの培養は阻害されなかった。一方、乾燥エリンギエキスの添加(処方4)によりおから培地でのパントエア・アグロメランスの増殖性が増強された。
【実施例2】
【0027】
(M9とグルコース培地でのパントエア・アグロメランスの増殖におけるエリンギの影響)
おから培地でエリンギが悪影響を与えないことがわかったので、おからを除いたM9培地で培養が可能か検討を行った。
M9とグルコース培地でエリンギがパントエア・アグロメランス培養を阻害しないか予備的に調査した。
【0028】
Exp. 2
100mlあたりの処方を示す。調整方法はExp.1に準じる。
処方1:グルコース2g+M9+エリンギ粉末(5g)
処方2:グルコース2g+M9+乾燥エリンギ(5g)エキス
処方3:グルコース2g+M9+生エリンギ(5g)エキス
処方4:グルコース2g+M9
LB:LB培地
【0029】
試験方法
各培地にLB培地で前培養したパントエア・アグロメランスを1ml添加し、35℃で24時間振盪培養した。培養後、3500rpmで10分遠心分離し、集菌し、5mlの蒸留水に溶解し、90℃20分間加熱処理を行い、その後、3500rpmで10分遠心分離し上清を調整した。上清中のLPS量はエンドスペシーで測定した。
【0030】
結果
図2に示すとおり、エリンギ粉末(処方1)、乾燥エリンギエキス(処方2)、生エリンギエキス(処方3)ともに、グルコース+M9培地(処方4)と同等以上のパントエア・アグロメランス培養効果を示した。
【実施例3】
【0031】
(エリンギ培地でのパントエア・アグロメランスの増殖)
M9培地でもエリンギの添加は阻害を与えなかったので、エリンギと窒素と金属イオン(M9)を添加しただけの培地で培養できるか検討を行った。
【0032】
Exp. 3
100mlあたりの処方を示す。調整方法はExp.1に準じる。
処方1:エリンギ粉末(1g)+M9
処方2:乾燥エリンギ(5g)エキス+M9
処方3:生エリンギ(5g)エキス+M9
処方4:グルコース(2g)+M9
LB:LB培地
【0033】
試験方法
各培地にLB培地で前培養したパントエア・アグロメランスを1ml添加し、35℃で24時間振盪培養した。培養後、3500rpmで10分遠心分離し、集菌し、5mlの蒸留水に溶解し、90℃20分間加熱処理を行い、その後、3500rpmで10分遠心分離し上清を調整した。上清中のLPS量はエンドスペシーで測定した。
【0034】
結果
図3に示すとおり、各エリンギとM9を添加した培地(処方1〜3)だけでパントエア・アグロメランスが培養できることが明らかとなった。特に、エリンギ粉末(処方1)は培養効果が高い。以上の結果は、エリンギが炭素源として利用出来ることを示している。
【実施例4】
【0035】
(パントエア・アグロメランス培養におけるエリンギ粉末量の検討)
これまでの実験結果から、エリンギがパントエア・アグロメランス培養に阻害を与えずに使用出来ることがわかった。さらに、エリンギとM9の併用でパントエア・アグロメランスを培養出来た。そこで、培養素材として有用性を高めるために、エリンギ粉末からの免疫賦活物質(まず期待されるのはβグルカン)を含んだサンプルを調製するために、エリンギ粉末添加量について検討した。
【0036】
Exp. 4
100mlあたりの処方を示す。調整方法はExp.1に準じる。
処方1:エリンギ粉末(1g)+M9
処方2:エリンギ粉末(2g)+M9
処方3:エリンギ粉末(4g)+M9
LB:LB培地
【0037】
試験方法
各培地にLB培地で前培養したパントエア・アグロメランスを1ml添加し、35℃で24時間振盪培養した。培養後、3500rpmで10分遠心分離し、集菌し、5mlの蒸留水に溶解し、90℃20分間加熱処理を行い、その後、3500rpmで10分遠心分離し上清を調整した。上清中のLPS量はエンドスペシーで測定した。
【0038】
結果
図4に示すとおり、エリンギ粉末(処方1〜3)は1〜4%添加で大きな変化は無く(エリンギ粉末(1g)は濃度1%に相当する)、LB培地(処方4)と同等の培養が可能であった。
【実施例5】
【0039】
(エリンギ粉末エキス(C)のパントエア・アグロメランス培養検討)
パントエア・アグロメランス培養に粉末が入ると工業的に培養しにくい可能性があるので、エリンギ粉末エキスでの培養を検討した。
【0040】
Exp. 5
100mlあたりの処方を示す。エリンギ粉末5gを100mlの蒸留水に懸濁して懸濁液を作成した。これを120℃/20分間オートクレーブ処理した。この懸濁液を3500rpmで10分遠心分離して上清を回収し、5g/100ml(5%)のエリンギ粉末エキスとした。この20ml、40ml又は80mlに、蒸留水10mlに塩類(M9のうち、Na2HPO4: 0.6 g、KH2 PO4:0.3 g、NaCl: 0.05 g、NH4Cl: 0.1 g、1 M CaCl2: 0.01 ml)を加えてオートクレーブしたものと、別にオートクレーブした0.1 M MgSO4の1 mlを加え、それにオートクレーブした蒸留水を加えて全量が100mlになるように調整し、各濃度のエリンギ粉末エキス培地100mlを作成した。
処方1:エリンギ粉末(1g)エキス+M9
処方2:エリンギ粉末(2g)エキス+M9
処方3:エリンギ粉末(4g)エキス+M9
LB:LB培地
【0041】
試験方法
各培地にLB培地で前培養したパントエア・アグロメランスを1ml添加し、35℃で24時間振盪培養した。培養後、3500rpmで10分遠心分離し、集菌し、5mlの蒸留水に溶解し、90℃20分間加熱処理を行い、その後、3500rpmで10分遠心分離し上清を調整した。上清中のLPS量はエンドスペシーで測定した。
【0042】
結果
図5に示すとおり、エリンギ粉末(4g)エキス添加(処方3)が比較的よいパントエア・アグロメランス増殖が観察された。
【実施例6】
【0043】
(エリンギ/パントエア培養液中のβグルカン定量)
エリンギ培地によるパントエア・アグロメランス培養後の熱水抽出物には、これまでのパントエア・アグロメランス培養方法(小麦、大豆、コメなど)と比べて新しい免疫活性化成分としてβグルカンが含まれていることが期待される。そこで、エリンギ培養パントエア・アグロメランスの熱水抽出物中のβグルカン量を定量した。(標準物質として味の素の静注用レンチナンを使用)
【0044】
Exp. 6-A
測定に用いたサンプルを示す。
処方1:エリンギ粉末(4g)+M9培養後の抽出物(Exp.4の処方3を用いて培養したパントエア・アグロメランスの抽出物と同じ)
処方2:エリンギ粉末(4g)エキス+M9培養後の抽出物(Exp.5の処方3を用いて培養したパントエア・アグロメランスの抽出物と同じ)
LB(Exp.5のLBを用いて培養したパントエア・アグロメランスの抽出物と同じ)
SL-100:小麦発酵抽出物(小麦を培地成分としてパントエア・アグロメランスを培養させて得た菌体を熱水で抽出した液体で、糖脂質を1%含有するもの)
【0045】
Exp. 6-B
5%EP懸濁:エリンギ粉末(4g)+M9培地
5%EP上清:エリンギ粉末(4g)エキス+M9培地
【0046】
試験方法
βグルカン量はファンギテックG(生化学工業社)で測定した。
【0047】
結果
図6に示すとおり、SL-100(小麦発酵抽出物)やLB培養熱水抽出物にはほとんどβグルカンは含まれていない(
図6-A)。一方、エリンギ粉末添加培地中(
図6-B 5%EP懸濁)にはレンチナン換算で114mg/mlのβグルカンが含まれていた。
【0048】
(考察)
エリンギをM9と混合しただけの培地でもパントエア・アグロメランスはLB培地と同等以上の増殖を示し(
図3)、また、エリンギ粉末から調製した培地で培養させた糖脂質素材は高濃度(66mg/ml)のβグルカンを含有していた(
図6-A 処方1)。すなわち、エリンギを培養素材にしたパントエア・アグロメランス培養物の熱水抽出物にはLPS(糖脂質)とβグルカンの両免疫賦活物質が存在する。これまで、小麦粉、米ぬか、おからなどでパントエア・アグロメランスを培養してきたが、βグルカンを含む物は素材化していない。また、βグルカンとLPS(糖脂質)の相乗効果として、それぞれ単独で得られる効果の相加よりも、2.5倍高くなることが確認されている(特許文献2、優先日において非公開)。以上より、エリンギを用いたパントエア・アグロメランス培養物は、新規性があり、パントエア・アグロメランスの発酵基質として用いると、パントエア量が10倍になるなど、予想できない効果が認められ、製造法に関しても進歩性があることが明らかである。従って、成分、製造法について訴求力が高く、格別の効果を示す新規素材の候補になり得ると判断された。このため、説明した発酵及び培養方法によって得られるエリンギ発酵エキスは、鎮痛、睡眠導入、感染症予防、抗アレルギー、抗がん、生活習慣病予防などの健康を維持する作用が誘導出来ると考えられる。ヒト以外にも、ペットにも応用可能である。
【実施例7】
【0049】
(エリンギ/パントエア培養液の睡眠誘導活性)
マクロファージは脳内に存在し、神経の維持機能をしている事が近年示されている。また、マクロファージから睡眠誘導物質が複数産生されることが知られている。例えば、ノンレム(non-rapid eye movement: Non-REM)睡眠を誘導するIL-1β, PGD2、REM睡眠とNon-REM睡眠の療法に関連するGM-CSFなどが示唆されている。エリンギ粉末から調整した培地によるパントエア・アグロメランス培養後の熱水抽出物の睡眠誘導作用を細胞レベルで評価するために、脳内マクロファージの培養細胞としてマウスマイクログリア細胞株のC8-B4細胞と、ヒトのマクロファージモデルとして汎用性の高いTHP-1細胞を用い、IL-1βとGM-CSFの産生誘導能を測定した。
【0050】
Exp. 7
ヒトマクロファージ細胞株THP-1細胞を用いた。
対照にパントエア・アグロメランス由来の精製糖脂質(LPSp)を用いた。LPSpは、ELISA法(特許文献3)にて測定したLPSp濃度で1ng/ml、10ng/ml、100ng/mlおよび1000ng/mlの4用量とした。エリンギ培地によるパントエア・アグロメランス培養後の熱水抽出物(エリンギ発酵エキス)は、ELISA法にて測定したLPSp濃度で251μg/mlのものを、RPMI-1640培地(和光純薬社)で希釈して、LPSp濃度としてそれぞれ、1ng/ml、10ng/ml、100ng/mlおよび1000ng/mlになるようにした。エリンギ粉末は、エリンギ発酵エキスに含まれるエリンギ粉末濃度と同濃度の水懸濁液を調製して、エリンギ発酵エキスと同じ希釈倍率で、10%の牛胎児血清(ハナ-ネスコ社)を含むRPMI-1640培地を用いて希釈して試験に用いた。
【0051】
陰性対照は培地のみとした。THP-1細胞を8×10
4細胞/100μl/wellに調整し、96 well平底プレートに播いた。希釈サンプル100μlをTHP-1細胞に添加し、24時間、CO
2インキュベーターで培養した。培養上清を150μl回収し、-80℃で測定まで凍結保管した。培養上清中のIL-1β、G-CSFを市販のELISA(バイオリジェンド社)で測定した。
【0052】
結果
LPSpとエリンギ発酵エキスを添加した場合に、それぞれ用量依存的な培養液中のIL-1βの上昇が認められた(
図7)。エリンギ粉末単独ではIL-1βの誘導は認められなかった。エリンギ発酵エキスでは、LPSpの場合に比較して1〜1000ng/mlの測定したすべての用量においてより高いIL-1β値を示した。
【0053】
GM-CSFの場合もIL-1βと同様な結果が得られた。LPSpとエリンギ発酵エキスを添加した場合に、それぞれ用量依存的な培養液中のGM-CSFの上昇が認められた(
図8)。エリンギ粉末単独では、陰性対照と同様にGM-CSFは検出限界以下であり、誘導は認められなかった。エリンギ発酵エキスでは、LPSpの用量よりも少量でLPSpに比較して極めて高いGM-CSF値を示すという、予想出来ない優れた効果が認められた。
【0054】
Exp. 8
マウスマイクログリア細胞株 C8-B4細胞を用いた。
試験操作はExp.7と同様に行った。培養上清中のIL-1β、G-CSFを市販のELISA(バイオリジェンド社)で測定した。
【0055】
結果
LPSp、エリンギ粉末およびエリンギ発酵エキスを添加した場合に、それぞれ用量依存的な培養液中のIL-1βの上昇が認められた(
図9)。エリンギ発酵エキスでは、LPSp 1000ng/mlと同濃度の用量において、LPSpの場合に比較してより高いIL-1β値を示した。このことより、LPSpと共存する他の成分がIL-1βの産生に相加・相乗的に働いたことを示唆された。GM-CSFの場合もIL-1βと同様な結果が得られた。LPSpとエリンギ発酵エキスを添加した場合に、それぞれ用量依存的な培養液中のGM-CSFの上昇が認められた(
図10)。エリンギ粉末単独では、陰性対照と同様にGM-CSFは検出限界以下であり、誘導は認められなかった。エリンギ発酵エキスでは、用量によってはLPSpよりも少量でLPSpに比較して極めて高いGM-CSF値を示すという、予想出来ない優れた効果が得られた。
【0056】
考察
IL-1βはウサギへの静脈内投与または脳室内投与で一過性のノンレム睡眠を誘導することが報告されている(非特許文献1)。また、GM-CSFは脳室内投与でレム睡眠とノンレム睡眠を共に誘導することが報告されている(非特許文献2)。今回エリンギ発酵エキスがマイクログリアからIL-1βとGM-CSFを誘導したことから、エリンギ発酵エキスがノンレム睡眠とレム睡眠の誘導を促進することを示している。
【0057】
LPSはラットへの静脈注射や腹腔内注射で大脳皮質や、海馬、視床下部などのマイクログリアのIL-1βを誘導することが知られていることから(非特許文献3)、エリンギ発酵エキスの経口でもマイクログリアからのIL-1βやGM-CSF誘導に働く可能性はあると予想される。
【0058】
なお、睡眠と成長ホルモンの関係が知られているが(非特許文献4)、GM-CSFは脳下垂体でソマトスタチンを誘導することで成長ホルモンを誘導することから、エリンギ発酵エキスは睡眠と成長促進に作用する可能性も示唆される。