(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平均繊維径が50〜300nmであり、最大繊維径が1μm以下であり、繊維径の標準偏差が300nm以下であり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長の標準偏差が20μm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が20〜50であるセルロース繊維及び水を含む分散液であって、
0.8重量%濃度でセルロース繊維を含む水分散液において、25℃における粘度が1〜100mPa・sである分散液。
原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、前記分散液中の原料セルロース繊維をミクロフィブリル化するミクロフィブリル化工程、ミクロフィブリル化した原料セルロース繊維を酸で加水分解する加水分解工程を含む、
平均繊維径が50〜300nmであり、最大繊維径が1μm以下であり、繊維径の標準偏差が300nm以下であり、最大繊維長が100μm以下であり、繊維長の標準偏差が20μm以下であり、かつ平均繊維径に対する平均繊維長の比が20〜50であるセルロース繊維の製造方法。
ミクロフィブリル化工程において、原料セルロース繊維の平均繊維径を0.01〜0.2μm、平均繊維径に対する平均繊維長の比を500〜1500に調整する請求項4又は5記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、各種添加剤、例えば、不織布状シートの強度を改善するための添加剤(強化剤又は紙力増強剤など)、濾過性能を向上させるための濾過助剤、食品添加物、電池セパレータなどに広く利用されている。セルロースナノファイバーとしては、バクテリアなどが産生する微生物由来のセルロースや、植物由来のセルロースの水分散液を機械的な剪断力によりミクロフィブリル化したセルロースなどが知られている。
【0003】
例えば、特開2005−60680号公報(特許文献1)には、平均繊維径が4〜200nmの繊維とマトリックス材料とを含有する繊維強化複合材料が開示されており、前記繊維として、バクテリアセルロース、特に、離解処理されていない三次元交差構造を有するバクテリアセルロース構造体が好ましいと記載されている。
【0004】
また、特開2011−26760号公報(特許文献2)には、原料繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーで前記分散液をホモジナイズ処理するホモジナイズ工程を含む製造方法により得られたミクロフィブリル化セルロースが開示されている。この文献には、ミクロフィブリル化セルロースとして、平均繊維径1μm未満、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)1000〜10000のミクロフィブリル化セルロースが得られている。
【0005】
しかし、バクテリアセルロース、ミクロフィブリル化セルロースのいずれも、繊維長が長く三次元的に交絡した繊維集合体を含むため、水などに対する分散性が低く、水分散液の粘度が高いため、取り扱い性が低い。
【0006】
一方、植物由来のセルロースを化学処理する方法として、Cellulose Nanocomposites Processing, Characterization and Properties, Daniel Bondeson(非特許文献1)には、木材由来の微結晶セルロースを硫酸で加水分解処理することによりナノサイズのセルロースウイスカーを製造する方法が開示されている。
【0007】
しかし、この方法では、微小なセルロースは得られるものの、アスペクト比の低いロッド状微細セルロース(セルロースナノクリスタル)が得られ、繊維状セルロースは得られない。
【0008】
さらに、特開平7−1020
73号公報(特許文献3)には、積算体積50%の粒径が8μm以下であり、2重量%の水分散液の20℃における粘度が50cps以上である微細セルロースが開示されている。この文献には、前記微細セルロースのアスペクト比は3以下が好ましいと記載されている。前記微細セルロースは、セルロース系素材を超高圧ホモジナイザーと媒体ミルを併用して磨砕する方法により得られ、ホモジナイザーに供されるセルロースとして、パルプ等を鉱酸などにより軽度に加水分解した後、粉砕したセルロースを用いることが記載されている。実施例では、10%塩酸中で105℃、20分間加水分解した後、高圧粉砕装置でミクロフィブリル化している。
【0009】
しかし、この微細セルロースは、アスペクト比が小さく、繊維径が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[微細セルロース繊維]
本発明の微細セルロース繊維は、ナノメータサイズの微小な繊維径を有し、かつ適度な繊維長(アスペクト比)を有している。
【0021】
すなわち、微細セルロース繊維の平均繊維径は50〜300nmであり、好ましくは60〜250nm、さらに好ましくは70〜200nm(特に80〜150nm)程度である。繊維径が大きすぎると、ナノメータサイズによる効果が低減し、小さすぎると、製造が困難となる。
【0022】
さらに、微細セルロース繊維は、均一なナノメータサイズであり、ミクロンオーダーサイズの繊維を実質的に含有しないファイバーであってもよい。繊維径分布の標準偏差は、例えば、300nm以下(例えば、1〜300nm)、好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下程度である。さらに、微細セルロース繊維の最大繊維径は1μm以下であり、例えば、500nm以下、好ましくは400nm以下、さらに好ましくは250nm以下程度である。
【0023】
なお、本発明において、前記平均繊維径、繊維径分布の標準偏差、最大繊維径は、電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径(n=20程度)から算出した値である。
【0024】
特に、本発明では、前述のような微小な繊維径を有しているにも拘わらず、従来のミクロフィブリル化繊維やバクテリア繊維に比べて短い繊維長を有するとともに、酸処理により切断されたロッド状セルロースよりも長い繊維長を有する適度なアスペクト比(繊維長/繊維径)を有している。具体的には、平均繊維径に対する平均繊維長の比(アスペクト比)は10〜100であり、好ましくは15〜80、さらに好ましくは20〜50(特に25〜40)程度である。本発明では、このように、ナノサイズの平均径を有するにも拘わらず、適度なアスペクト比を有するため、水分散液などにおける取り扱い性を向上できる。
【0025】
微細セルロース繊維の平均繊維長は0.1〜100μm程度の範囲から選択でき、例えば、0.3〜50μm、好ましくは0.5〜30μm、さらに好ましくは1〜10μm(特に2〜5μm)程度であってもよい。
【0026】
さらに、微細セルロース繊維は、繊維長も均一であり、繊維長分布の標準偏差は、例えば、20μm以下、好ましくは0.1〜20μm、さらに好ましくは0.1〜15μm(特に0.5〜10μm)程度である。さらに、微細セルロース繊維の最大繊維長は100μm以下であり、例えば、0.1〜50μm、好ましくは0.1〜30μm、さらに好ましくは0.1〜20μm(特に0.1〜10μm)程度である。
【0027】
本発明では、機械的処理の後に、加水分解処理を行うため、繊維径及び繊維長が均一であるが、その理由は以下のように推定できる。すなわち、セルロース繊維は、長さ方向に結晶部位と非晶部位が交互に存在し、酸処理すると非晶部分が優先的に分解し、結晶領域が残存すると言われている。ミクロフィブリル化されていない繊維では、繊維径方向でも非晶部分が存在するため、酸処理すると長さ方向及び径方向の両方向で分解が生じ、繊維サイズ(長・径)の揃った繊維を得ることは困難となると推定できる。これに対して、ミクロフィブリル化された繊維では、機械的処理において優先的に縦裂き(径方向での分割)が進行するため、アスペクト比の高い繊維が得られる。そのため、ミクロフィブリル化繊維を酸処理すると、確率的に長さ方向の非晶部分が優先的に分解されるため、長さをコントロールでき、繊維径及び繊維長が均一な微細セルロース繊維が得られると推定される。
【0028】
微細セルロース繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、バクテリアセルロースのような異方形状(扁平形状)であってもよいが、植物由来のナノファイバーの場合、通常、略等方形状である。略等方形状としては、例えば、真円形状、正多角形状などが挙げられる。略円形状の場合、短径に対する長径の比は、例えば、1〜2、好ましくは1〜1.5、さらに好ましくは1〜1.3(特に1〜1.2)程度である。繊維の横断面形状が略等方形状であると、塗膜の均一性を向上できる。繊維の横断面形状が略等方形状である微細セルロース繊維は、植物由来のセルロースをミクロフィブリル化して酸で加水分解することにより得られる。
【0029】
微細セルロース繊維の材質は、β−1,4−グルカン構造を有する多糖類で形成されている限り、特に制限されない。微細セルロース繊維としては、例えば、高等植物由来のセルロース繊維[例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(コットンリンター、ボンバックス綿、カポックなど)、ジン皮繊維(例えば、麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(例えば、マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然セルロース繊維(パルプ繊維)など]、動物由来のセルロース繊維(ホヤセルロースなど)、バクテリア由来のセルロース繊維(ナタデココに含まれるセルロースなど)、化学的に合成されたセルロース繊維[例えば、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロースなど);カルボキシアルキルセルロース(カルボキシメチルセルロース(CMC)など);アルキルセルロース(メチルセルロース、エチルセルロースなど)などのセルロース誘導体など]などが挙げられる。これらのセルロース繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0030】
さらに、微細セルロース繊維は、用途に応じて、α−セルロース含有量の高い高純度セルロース、例えば、α−セルロース含有量70〜100重量%(例えば、95〜100重量%)、好ましくは98〜100重量%程度のセルロースで形成されていてもよい。さらに、本発明では、リグニンやヘミセルロース含量の少ない高純度セルロースを使用することにより、木材繊維や種子毛繊維を使用しても、均一な繊維径を有する微細セルロース繊維を調製できる。リグニンやヘミセルロース含量の少ないセルロースは、特に、カッパー価(κ価)が30以下(例えば、0〜30)、好ましくは0〜20、さらに好ましくは0〜10(特に0〜5)程度のセルロースであってもよい。なお、カッパー価は、JIS P8211の「パルプ−カッパー価試験方法」に準拠した方法で測定できる。
【0031】
これらのセルロース繊維のうち、酸処理による加水分解が進行し易く、適度なアスペクト比を有するナノファイバーを調製し易い点から、高等植物由来のセルロース繊維、例えば、木材繊維(針葉樹、広葉樹などの木材パルプなど)や種子毛繊維(コットンリンターパルプなど)などのパルプ由来のセルロース繊維が好ましい。
【0032】
微細セルロース繊維の結晶化度は、80%以下であってもよく、例えば、20〜80%、好ましくは30〜80%、さらに好ましくは60〜75%(特に65〜75%)程度であってもよい。バクテリアセルロースのように結晶化度が大きすぎると、適度なアスペクト比を有するナノファイバーを得るのが困難となる。
【0033】
なお、本明細書では、結晶化度は、X線回折の測定(理学電機(株)製「RINT1500」で測定できる。詳細は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0034】
微細セルロース繊維の脱水時間は、API規格の脱水量に関する試験方法に準拠して、0.5重量%濃度の繊維スラリーを用いて測定したとき、例えば、2000〜7000秒、好ましくは3000〜6000秒、さらに好ましくは4000〜5000秒程度である。脱水時間が大きいほど、平均繊維長/平均繊維径比の高い繊維形状となるが、本発明の微細セルロース繊維は、適度な保水力を有している。
【0035】
[微細セルロース繊維の製造方法]
本発明の微細セルロース繊維は、原料セルロース繊維を溶媒に分散させて分散液を調製する分散液調製工程、前記分散液中の原料セルロース繊維をミクロフィブリル化するミクロフィブリル化工程、ミクロフィブリル化した原料セルロース繊維を酸で加水分解する加水分解工程を経て得られる。
【0036】
(分散液調製工程)
原料セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、0.01〜5mm、好ましくは0.03〜4.5mm、さらに好ましくは0.06〜4mm(特に、0.1〜3.5mm程度であり、通常0.1〜5mm程度である。また、原料セルロース繊維の平均繊維径は、0.01〜500μm、好ましくは0.05〜400μm、さらに好ましくは0.1〜300μm(特に0.2〜250μm)程度である。
【0037】
原料セルロース繊維の結晶化度は75%以下であってもよく、例えば、10〜75%、好ましくは30〜70%、さらに好ましくは50〜65%(特に55〜65%)程度であってもよい。バクテリアセルロースのように結晶化度が大きすぎると、加水分解工程で加水分解が充分に進行しないため、適度なアスペクト比を有するナノファイバーを得るのが困難である。
【0038】
溶媒としては、原料セルロース繊維に化学的又は物理的損傷を与えない限り特に制限されず、例えば、水、有機溶媒[アルコール類(メタノール、エタノール、2−プロパノール、イソプロパノールなどのC
1−4アルカノールなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジC
1−4アルキルエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル(環状C
4−6エーテルなど))、エステル類(酢酸エチルなどのアルカン酸エステル)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトンなどのジC
1−5アルキルケトン、シクロヘキサノンなどのC
4−10シクロアルカノンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン系炭化水素類(塩化メチル、フッ化メチルなど)など]などが挙げられる。
【0039】
これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。また、これらの溶媒のうち、生産性、コストの点から、水が好適であり、必要により、水と親水性有機溶媒(C
1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。
【0040】
ホモジナイズ処理に供する原料セルロース繊維は、溶媒中に少なくとも共存した状態であればよく、ホモジナイズ処理に先だって、原料繊維を溶媒中に分散(又は懸濁)させてもよい。分散は、例えば、慣用の分散機(超音波分散機、ホモディスパー、スリーワンモーターなど)などを用いて行ってもよい。なお、前記分散機は、機械的撹拌手段(撹拌棒、撹拌子など)を備えていてもよい。
【0041】
原料セルロース繊維の溶媒中における濃度は、例えば、0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%(特に0.5〜3重量%)程度であってもよい。
【0042】
(ミクロフィブリル化工程)
ミクロフィブリル化工程では、前記分散液中の原料セルロース繊維を、慣用の方法、例えば、叩解処理、ホモジナイズ処理することなどによりミクロフィブリル化できる。ミクロフィブリル化工程では、主として、原料セルロース繊維の繊維径を小さくできる。
【0043】
叩解処理では、例えば、慣用の叩解機、例えば、ビーター、ジョルダン、コニカルリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナーなどを利用できる。
【0044】
これらのうち、リファイナー処理が好ましく、ディスククリアランスは、例えば、0.1〜0.3mm、好ましくは0.12〜0.28mm、さらに好ましくは0.13〜0.25mm程度であってもよい。ディスクの回転数は、例えば、1,000〜8,000rpm、好ましくは1,300〜6,000rpm、さらに好ましくは1,600〜4,000rpm程度であってもよい。処理回数(パス回数)は、1〜50回、好ましくは5〜40回、さらに好ましくは10〜30回程度であってもよい。
【0045】
ホモジナイズ処理では、慣用の均質化装置、例えば、ホモジナイザー(特に高圧ホモジナイザー)を利用できる。なお、必要により、前記分散液を前記方法により叩解処理(予備叩解処理)した後、ホモジナイズ処理してもよい。
【0046】
高圧ホモジナイザーは、内部に狭まった流路(例えば、小径オリフィスなど)を備え、前記分散液を狭まった流路を通過させることにより、圧力を負荷し、容器内壁などの壁面に衝突させることにより、剪断応力又は切断作用を付与するタイプの装置であってもよい。このような高圧ホモジナイザーにおいて、流路を通過させるための圧力(又は高圧ホモジナイザーへ分散液を圧送する圧力)は、例えば、30〜100MPa、好ましくは35〜80MPa、さらに好ましくは40〜70MPa程度であってもよい。パス回数は、例えば、1〜100回、好ましくは3〜50回、さらに好ましくは5〜30回程度であってもよい。
【0047】
さらに、ホモジナイズ処理の条件としては、特公昭60−19921号公報、特開2011−26760号公報、特開2012−25833号公報、特開2012−36517号公報、特開2012−36518号公報に記載の方法を利用でき、特に、繊維径の小さいセルロース繊維を製造する場合、特開2011−26760号公報、特開2012−25833号公報、特開2012−36517号公報、特開2012−36518号公報に記載の方法のうち、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザーによるホモジナイズ処理を利用してもよい。
【0048】
ミクロフィブリル化工程では、加水分解工程において、繊維の微小化を円滑に進行させるために、原料セルロース繊維は、繊維径及び繊維長を所定の範囲に調整する必要がある。
【0049】
ミクロフィブリル化された原料セルロース繊維の平均繊維径は、例えば、0.01〜0.5μm、好ましくは0.01〜0.3μm、さらに好ましくは0.01〜0.2μm程度である。ミクロフィブリル化された繊維の繊維径が大きすぎると、加水分解が充分に進行せず、目的の繊維を得ることができず、小さすぎても、フィブリル化された繊維のアスペクト比が小さくなる。
【0050】
ミクロフィブリル化された原料セルロース繊維の平均繊維長は、例えば、50〜500μm、好ましくは100〜300μm、さらに好ましくは100〜200μm程度である。また、アスペクト比は、例えば、20〜3000、好ましくは100〜2000、さらに好ましくは500〜1500程度である。
【0051】
(加水分解工程)
加水分解工程では、ミクロフィブリル化された原料セルロース繊維を酸で加水分解することにより、セルロース繊維のアスペクト比を適度な大きさに調整できる。特に、植物由来の原料セルロース繊維では、適度な結晶化度を有しているためか、加水分解が充分に進行し、アスペクト比が適度な大きさになるとともに、繊維径も小さくできる。
【0052】
酸としては、酢酸やリン酸などの弱酸であってもよいが、加水分解性の点から、強酸が汎用される。強酸としては、例えば、無機酸(塩酸、硫酸、硝酸等)や、有機酸[スルホン酸類(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのハロゲン化脂肪族スルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの芳香族スルホン酸等)、カルボン酸類(トリフルオロ酢酸、モノ、ジ又はトリクロロ酢酸などのハロゲン化カルボン酸など)など]などが例示できる。これらの酸は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、塩酸や硫酸などの無機酸(特に硫酸)が好ましい。
【0053】
加水分解は、水分散液中で行われるが、分散液中での酸(特に硫酸などの強酸)の濃度は、例えば、0.1〜10重量%、好ましくは0.3〜8重量%、さらに好ましくは0.5〜6重量%(特に1〜5重量%)程度である。酸の濃度が低すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が大きくなりすぎ、酸の濃度が高すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が小さくなりすぎる。
【0054】
加水分解は、加熱下で行ってもよく、加熱温度は、例えば、50〜120℃、好ましくは60〜110℃、さらに好ましくは70〜100℃(特に80〜100℃)程度である。加熱温度が低すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が大きくなりすぎ、加熱が高すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が小さくなりすぎる。
【0055】
微細セルロース繊維の繊維径及びアスペクト比(特に繊維径)は、加水分解の処理時間で調整してもよく、1時間以上程度の範囲から選択でき、例えば、5〜100時間、好ましくは10〜80時間、さらに好ましくは20〜60時間(特に30〜50時間)程度であってもよい。処理時間が短すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が大きくなりすぎ、処理時間が長すぎると、繊維径及びアスペクト比(特にアスペクト比)が小さくなりすぎる。
【0056】
加水分解処理後は、慣用の方法で、アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属化合物など)を用いて、pHが7程度になるように中和し、濾過などにより精製した後、水で洗浄してpH7に調整してもよい。
【0057】
[分散液]
本発明の微細セルロース繊維は溶媒に対する分散性に優れているため、微細セルロース繊維及び溶媒を含む分散液を調製してもよい。
【0058】
溶媒としては、分散液調製工程の項で例示された溶媒を利用でき、分散性に優れる点から、水が好適であり、必要により、水と親水性有機溶媒(C
1−4アルカノール、アセトンなど)との混合溶媒を用いてもよい。
【0059】
本発明の水分散液は、微細セルロース繊維が適度なアスペクト比を有しているため、繊維同士の絡み合いが抑制され、粘度が小さい。微細セルロース繊維を水に懸濁させて、0.8重量%濃度にした懸濁液(分散液)の粘度は、例えば、1〜100mPa・s、好ましくは5〜80mPa・s、さらに好ましくは10〜60mPa・s程度である。粘度は、B型粘度計を用いて、ロータNo.は粘度に応じて、粘度範囲が1mPa・s以上80mPa・s未満ではNo.1を、80mPa・s以上400mPa・s未満ではNo.2を、400mPa・s以上1600mPa・s未満ではNo.3を、1600mPa・s以上ではNo.4を選択し、60rpmの回転数で、25℃における見かけ粘度として測定される値である。なお、フィブリル化の程度が小さかったり、繊維径が大きいと、水への分散性が低下し、均一な懸濁液が得られず、粘度を測定することができない。本発明の分散液は、微細セルロース繊維がナノメータサイズでアスペクト比も適度に小さく、分散液の粘度も低いため、塗布性に優れており、ムラなく均一で平滑な表面を有する塗膜が得られる。
【0060】
分散液中における微細セルロース繊維の濃度は、例えば、0.01〜10重量%、好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜3重量%(特に0.3〜1重量%)程度であってもよい。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。セルロースナノファイバー及び実施例及び比較例で得られた不織布の評価は以下の方法で測定した。
【0062】
[繊維径及び繊維長]
実施例及び比較例で得られた微細セルロース繊維は、水希釈(0.5重量%)した後、コロジオン支持膜上に直接滴下し、余分な水分をふき取った後に、10000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、ばらばらになった繊維を20点抽出し、平均繊維径及び平均繊維長を求め、アスペクト比を算出した。
【0063】
[粘度]
実施例及び比較例で得られた微細セルロース繊維は、水で希釈し所定濃度(0.8重量%)で300ml調整した後、B型粘度計(東洋計器(株)製、ローターNo.は粘度に応じて前述のように選択)を用いて、所定条件(25℃、60rpm、60秒攪拌後の値)で粘度測定を行い、5回測定した平均値とした。
【0064】
[分散性]
実施例及び比較例で得られた微細セルロース繊維を所定濃度(0.5重量%)になるように50ml調整した後、遠心分離機(ベックマン・コールター(株)製「Avanti HP 30I」、ポリテトラフルオロエチレン製サンプル管40ml)を用いて、所定条件(25℃、2000rpm(484G相当)、5分)遠心沈降に供した。遠沈管の上澄みを回収した後、120℃で4時間乾燥して、上澄みに含まれるセルロース繊維を定量し、上澄みの固形分濃度を算出した。尚、遠心後の上澄みの固形分濃度が遠心前の濃度(0.5重量%)に近いほど、分散性が良いと考えられる。
【0065】
[表面粗さRa]
実施例及び比較例で得られた微細セルロース繊維を所定濃度(0.5重量%)になるように調整した後、ガラス板に1ml滴下し、120℃で1時間乾燥した。乾燥後、レーザー表面粗さ計((株)キーエンス製「KS−1100」)にて、ガラス板上のサンプルの表面凹凸形状を計測し、Ra値を求めた。
【0066】
[表面ムラ]
表面粗さRaを測定したサンプルに対して、表面の均一性を目視で確認し、4段階の以下の基準で評価した。
【0067】
1:ムラがなく均一である
2:わずかにムラがある
3:ムラがある
4:ムラが多い
尚、「ムラ」とは、塗布表面における試料濃度が一様でないために色の濃淡として表れるさまを意味する。
【0068】
[結晶化度]
セルロースI型の結晶化度は、試料のX線回折を測定することにより求めた。X線回折の測定は、適当量の試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(理学電気(株)製「RINT1500」)を用いた。詳しくは、セルロースI型の結晶化度の算出はSegalらの手法(L.Segal,J.J.Greely etal,Text.Res.J.,29,786,1959)、並びにKamideらの手法(K.Kamide et al,Polymer J.,17,909,1985)を用いて行い、X線回折測定から得られた回折図の2θ=4°〜32°の回折強度をベースラインとして、002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出した。
【0069】
χc=(I002c−Ia)/I002c×100
[式中、χc:セルロースI型の結晶化度(%)、I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度、Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度を示す]。
【0070】
実施例1
(分散液調製工程)
市販のLBKPパルプ(丸住製紙(株)製、平均繊維径21μm、平均繊維長3.5mm、結晶化度60%)を用いて、1重量%水スラリー液を100リットル調製した。
【0071】
(ミクロフィブリル(MF)化工程)
次いで、ディスクリファイナー(長谷川鉄工(株)製、SUPERFIBRATER 400−TFS)を用いて、クリアランス0.15mm、ディスク回転数1750rpmとして10回叩解処理し、リファイナー処理品を得た。このリファイナー処理品を、破砕型ホモバルブシートを備えたホモジナイザー(ゴーリン社製「15M8AT」)を用いて、処理圧50MPaで20回処理した。得られたミクロフィブリル化繊維の平均繊維径は0.1μm、平均繊維長は150μm、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)は1500であった。
【0072】
(加水分解工程)
ミクロフィブリル化工程で得られたセルローススラリー20kgに、硫酸濃度が4重量%となるように、64重量%硫酸を1.3kg添加し、95℃で14時間反応した。反応終了後、40℃まで降温した後に、水酸化ナトリウムで系内のpHが7程度となるように中和し、濾過した。濾液がpH7となるまで、水でリンス(洗浄)を繰り返し、微細セルロース繊維を得た。
【0073】
実施例2
加水分解工程において、反応時間を20時間にする以外は実施例1と同様にして微細セルロース繊維を得た。
【0074】
実施例3
加水分解工程において、反応時間を40時間にする以外は実施例1と同様にして微細セルロース繊維を得た。
【0075】
比較例1
加水分解工程を行わない以外は実施例1と同様にして微細セルロース繊維を得た。
【0076】
比較例2
比較例1よりも解繊の程度が緩い市販のセルロース繊維(ダイセルファインケム(株)製「セリッシュKY−100G」、平均繊維径0.3μm、平均繊維長350μm)を、実施例1に記載された加水分解工程に供して微細セルロース繊維を得た。
【0077】
比較例3
市販のセルロース繊維(旭化成(株)製、平均繊維長100μm、平均繊維径20μm)を超音波ホモジナイザー((株)SMT製「UH−600S」)を用いて、連続・60秒発振(パワーコントローラーにおけるOUTPUT目盛り6)の条件で処理し、微細セルロース繊維を得た。
【0078】
実施例及び比較例で得られた微細セルロース繊維の繊維サイズを表1に示し、他の評価結果を表2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
表2の結果から明らかなように、実施例の微細セルロース繊維では、粘度が低く、塗膜の表面特性が優れていた。一方、比較例1及び2の微細セルロース繊維では、粘度が高く、塗膜の表面特性が低下した。また、比較例3の微細セルロース繊維では、繊維径の大きいロッド形状であるため、表面特性が低下した。