特許第6286145号(P6286145)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286145
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】陰圧治療装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 27/00 20060101AFI20180215BHJP
   A61M 35/00 20060101ALI20180215BHJP
   A61M 1/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   A61M27/00
   A61M35/00 Z
   A61M1/00 140
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-152647(P2013-152647)
(22)【出願日】2013年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-20014(P2015-20014A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2016年4月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100129207
【弁理士】
【氏名又は名称】中越 貴宣
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【弁理士】
【氏名又は名称】三雲 悟志
(72)【発明者】
【氏名】岡野 はるか
(72)【発明者】
【氏名】藤堂 栄彦
【審査官】 芝井 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−105841(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0118096(US,A1)
【文献】 特開2010−000159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 27/00
A61M 1/00
A61M 35/00
A61B 17/00
A61F 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷部を覆って閉塞部を形成する被覆材と、
前記創傷部の洗浄または治療の少なくとも1つをおこなうための液体を貯留した液体供給容器と、
前記液体供給容器から前記閉塞部内に液体を供給する供給流路と、
前記閉塞部内から廃液が排出される吸引流路と、
前記吸引流路に前記廃液を吸引する吸引手段と、
前記吸引流路の途中に配置され、前記廃液を収容する収容容器と、
前記閉塞部の圧力を測定する圧力測定手段と、
前記供給流路につながる分岐経路と、
前記分岐経路に接続された圧力調整手段と、
を備え、
前記圧力調整手段と前記吸引手段が、前記圧力測定手段で測定された圧力値に応じて前記閉塞部の圧力を制御し、
前記圧力調整手段で前記閉塞部の圧力を調整する際に、大気圧空間に開放して前記液体を閉塞部に向けて押し流して前記閉塞部の圧力を制御する陰圧治療装置。
【請求項2】
前記分岐経路に液体検知手段または非透水性のフィルタの少なくとも1つを備えた請求項1の陰圧治療装置。
【請求項3】
前記液体検知手段が前記液体を検知すると前記圧力調整手段が作動する請求項2の陰圧治療装置。
【請求項4】
前記分岐経路が前記供給流路に接続される位置は被覆材から20cm以内の位置である請求項1から3のいずれかの陰圧治療装置。
【請求項5】
前記分岐経路を介して閉塞部の圧力を測定する圧力測定手段を備えた請求項1から4のいずれかの陰圧治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創傷部を陰圧に保持して治療する陰圧治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、創傷部を治療するための装置が種々開発されている。例えば、創傷部を陰圧に保持して治療する陰圧治療装置が挙げられる(下記特許文献1参照)。その陰圧治療装置100は、図5に示すように、創傷部12を覆って閉塞部38を形成する被覆材14、創傷部12に対する洗浄や治療をおこなうための液体16を貯留した液体供給容器18、液体16を閉塞部38に供給するための供給流路20、閉塞部38から廃液22を排出するための吸引流路24、吸引流路24に廃液22を吸引する吸引手段26、廃液22を収容する収容容器28、吸引流路24に接続された圧力測定手段PS、および収容容器28に接続されたロータリー弁102を備える。創傷部12から生じた老廃物や滲出液は、閉塞部38に供給された流体16と一緒に廃液22として閉塞部38から排出される。廃液22は液体のみでなく、気体も含まれる場合がある。
【0003】
また、図6に示すように、被覆材14に圧力測定手段PSおよびロータリー弁102を接続する場合もある。上記の各流路20、24は柔軟性のあるチューブで構成される。さらに、圧力調整手段PSやロータリー弁102を被覆材14、吸引流路24、または収容容器28に接続するためにチューブ104を用いる。
【0004】
吸引手段26の吸引力によって閉塞部38の圧力が陰圧になる。特許文献1には、圧力測定手段PSで測定された圧力値をロータリー弁102にフィードバックすることによって適切な陰圧値にすることが記載されている。
【0005】
しかし、図5の陰圧治療装置100であれば、閉塞部38内が過陰圧になって、適正値に戻そうとしてロータリー弁102を開けたとき、吸引流路24内の廃液22が閉塞部38内に逆流するおそれがある。閉塞部38から排出した廃液22が再び閉塞部38に逆流することは好ましくない。
【0006】
また、図6の陰圧治療装置100'のように、被覆材12にチューブ104を取り付け、そのチューブ104に圧力測定手段PSやロータリー弁102をつなげると、閉塞部38に接続するチューブ数が多くなり、創傷部12への設置に手間がかかったり、装置構成が複雑になる。さらに、閉塞部38内が過陰圧になって、適正値に戻そうとしてロータリー弁102を開けたとき、閉塞部38内の液体16の流れを乱すことになり、圧力調整後に流体16の流れが安定するまでに時間を要する。閉塞部38で液体16の流れが乱れると、滲出液中の有害物質が創傷部12付近に滞留することになり、治療に影響する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許4990759号(図11a、図11d)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、閉塞部への廃液の逆流を防止し、かつ閉塞部内の流体の流れを乱すことなく閉塞部の圧力を制御できる陰圧治療装置を提供することにある。また、閉塞部に直接つながるチューブ数を増やさずに、創傷部へ容易に設置できる陰圧治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の陰圧治療装置は、創傷部を覆って閉塞部を形成する被覆材、液体を貯留した液体供給容器、閉塞部内に液体を供給するための供給流路、閉塞部から廃液が排出される吸引流路、廃液を吸引するための吸引手段、廃液の収容容器、閉塞部の圧力を測定する圧力測定手段、供給流路に接続された分岐経路、分岐経路に接続された圧力調整手段を備える。
【0010】
吸引手段の吸引力によって閉塞部内を陰圧にする。液体供給容器から供給流路を介して閉塞部に液体が供給される。吸引手段の吸引力によって、創傷部から生じた老廃物や滲出液が、閉塞部に供給された流体と一緒に廃液として吸引流路の途中にある収容容器に収容される。圧力測定手段は閉塞部の圧力を測定し、測定された圧力値に応じて、圧力調整手段と吸引手段が、閉塞部の圧力を所定の陰圧値に保持する。圧力調整手段が閉塞部よりも上流側の供給流路の分岐経路に接続されているため、圧力調整手段による圧力調整時に、閉塞部に廃液が逆流したり、閉塞部内の流体の流れを大きく乱すことがない。
【0011】
分岐経路に液体検知手段または非透水性のフィルタの少なくとも1つを備える。液体検知手段は供給流路から分岐経路に逆流する液体を検知することができ、非透水性のフィルタは逆流を停止させる。
【0012】
液体検知手段が液体を検知すると圧力調整手段が作動する。圧力調整手段が作動すると、例えば分岐経路が大気圧空間に接続されて分岐経路に逆流した液体が供給流路に戻される。
【0013】
分岐経路が供給流路に接続される位置は、被覆材の近傍である。閉塞部から分岐経路の接続位置までの距離を短くでき、圧力調整手段による圧力調整時に閉塞部に流れ込む流体の量を最小限にできる。
【0014】
分岐経路を介して閉塞部の圧力を測定する圧力測定手段を備える。閉塞部に圧力測定手段を接続するための新たなチューブを追加する必要がなく、装置構成が複雑にならない。さらに、分岐経路が供給流路に接続される位置が被覆材の近傍であれば、分岐経路を介して圧力調整手段により閉塞部の圧力をより正確に測定できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、閉塞部よりも上流側に圧力調整手段が配置されているため、閉塞部に廃液を逆流させることなく、また閉塞部内の流体の流れを乱すこともなく、閉塞部を所定の圧力に保持することができる。分岐経路が供給流路に接続される位置を被覆材の近傍にすることにより、圧力調整手段による圧力調整時に閉塞部内に流れ込む液体の量を少なくでき、より閉塞部内の流体の流れを安定させることができる。
【0016】
液体検出手段や非透水性のフィルタを備えることによって、分岐経路への液体の逆流を検知あるいは防止できる。流体検知手段が液体を検知すると圧力調整手段が分岐経路を大気に接続することによって、分岐経路に逆流した流体を供給流路に戻すことができる。これにより、陰圧治療装置を保護できる。
【0017】
圧力測定手段が分岐経路を介して閉塞部の圧力を測定するように配置することで、閉塞部に直接つながるチューブを増やす必要がないので、創傷部上への閉塞部の形成を容易にできる。圧力測定手段が接続された分岐経路が、供給流路に接続される位置を被覆材の近傍にすることにより、圧力測定手段によって閉塞部の圧力をより正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の陰圧治療装置の全体構成を示す図である。
図2】被覆材の周辺の拡大図であり、(a)は接続部品を使用した図であり、(b)は接続部品を使用していない図である。
図3】分岐経路に流体検知手段と非透水性のフィルタを設けた図である。
図4】流体検知手段の一例であるセンサを示す図であり、(a)は上面図であり、(b)は側面図である。
図5】収容容器にロータリー弁を接続した従来の陰圧治療装置の全体構成を示す図である。
図6】閉塞部にロータリー弁を接続した従来の陰圧治療装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の陰圧治療装置について図面を使用して説明する。
【実施例1】
【0020】
図1に示す本発明の陰圧治療装置10は、創傷部12を覆う被覆材14、液体16を貯留した液体供給容器18、創傷部12に液体16を供給するための供給流路20、創傷部12から廃液22が排出されるための吸引流路24、廃液22を吸引するための吸引手段26、廃液22を収容する収容容器28、供給流路20につながる分岐経路30、分岐経路30に設けられた圧力測定手段PSおよび圧力調整手段32を備える。
【0021】
図2に示すように、被覆材14は創傷部12よりも面積を広くし、被覆材14の周縁部が皮膚34に密着される。被覆材14は、創傷側に粘着層を備えた高分子フィルムなどの柔軟なフィルムである。創傷部12を直接被覆材14で覆うのではなく、創傷部12を被覆材14で覆う前に、創傷部12の上にスポンジなどの柔軟性のある多孔質部材36を配置する。
【0022】
被覆材14が創傷部12を覆うことにより、被覆材14で覆われた空間が閉塞部38になる。閉塞部38を形成し、吸引手段26により吸引することによって閉塞部38内を陰圧状態にすることができる。陰圧にすることによって、感染性のある老廃物や滲出液が排出される。また、創傷部12およびその周囲の血流を増加させ、肉芽形成が促進されて創傷部治癒機能が回復し、創傷部12の治療が早くなる。
【0023】
液体供給容器18に貯留される液体16は、創傷部12の洗浄、治療またはその両方をおこなうための液体である。例えば、生理食塩水などが挙げられる。液体供給容器18は、流体の減少により変形可能な樹脂製の容器が好ましい。液体16は、定量ポンプなどによって供給流路20に液体16を供給することができる。また、後述するように閉塞部38が陰圧になっているため、供給流路20上に流量調整手段を設けることで液体16を閉塞部38に供給することもできる。
【0024】
供給流路20は、液体供給容器18から閉塞部38まで通じるチューブである。供給流路20を通って閉塞部38に上記の液体16が供給される。患者の動きに合わせられるように、供給流路20は柔軟性のあるチューブが好ましい。
【0025】
吸引流路24は、閉塞部38から吸引手段26まで通じるチューブである。供給流路20と同様に、吸引流路24は柔軟性のあるチューブで構成するのが好ましい。創傷部12から生じた老廃物および滲出液は、閉塞部38に供給された流体16と一緒に廃液22として閉塞部38から吸引流路24に排出される。
【0026】
閉塞部38への供給流路20と吸引流路24の接続方法について、図2を参照して説明する。図2(a)に示すように、接続部品40には供給流路20と吸引流路24の端部が予め接続されている。被覆材14には穴42が形成されており、接続部品40のパッド44がその穴42の周縁の被覆材14上に取り付けられる。接続部品40は、閉塞部38の内外に通じる経路46を形成しており、閉塞部38に液体16を供給し、閉塞部38から廃液22を排出することができる。接続部品40を用いることで、被覆材12の周縁を皮膚34に密着させやすく、閉塞部38の形成が容易である。
【0027】
また、図2(b)に示すように、被覆材14の周縁において被覆材14と皮膚34との間に各流路20、24を通しても良い。接続部品40を使用せず、簡単な構成である。被覆材14の任意の位置に穴を形成し、その穴に各流路20、24を通しても良い。マニホールド等の部品を使用して、被覆材14の1つの穴から各流路20、24を通しても良い。
【0028】
吸引流路24の途中に廃液22の収容容器28を備える。上述した吸引流路24のチューブを2本に分割し、各チューブを収容容器28につなげる。吸引流路24に引き込まれた廃液22は、収容容器28に収容され、吸引手段26には到達できないようにする。吸引手段26が廃液22で破損しないように保護する。収容容器28内の廃液22の量を検出するセンサなどを適宜備える。吸引流路24における収容容器28と吸引手段26の間に、液体検知センサなどを取り付け、廃液22を検知しても良い。液体検知センサの替わりに非透水性のフィルタを取り付けても良い。
【0029】
吸引手段26はポンプであり、ポンプの吸引力によって閉塞部38の廃液22を吸引流路24に排出させる。吸引手段26の吸引によって、閉塞部38の圧力を陰圧にすることができる。
【0030】
分岐経路30は供給流路20や吸引流路24と同じで、柔軟性のあるチューブで構成する。液体供給容器18と閉塞部38の間で、分岐経路30が供給流路20につなげられる。液体16の流れから見ると、閉塞部38よりも上流側に分岐経路30が設けられる。
【0031】
圧力調整手段32は、閉塞部38の圧力を調節するためのものであり、レリーフ弁や電磁弁などが挙げられる。圧力調整手段32は、分岐経路30を大気圧空間に対して開放または遮断することができ、大気開放弁の役割を有している。圧力調整手段32は、通常、分岐経路30を大気圧空間に対して遮断している。閉塞部38の圧力が所定の陰圧値より低くなる(過陰圧になる)と、分岐経路30を大気圧空間に開放することで、分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38に気体を取り入れることで、閉塞部38の圧力を上昇させるために用いられる。圧力調整手段32は、閉塞部38の圧力を高められればその他の手段を用いても良い。圧力調整手段32により、分岐経路30を大気圧空間に対して開放した際に、空気を取り組む速度を調整するための流量調整手段を設けても良い。
【0032】
圧力測定手段PSは閉塞部38の圧力を測定する圧力センサである。圧力測定手段PSは分岐経路30に接続されており、分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38の圧力を測定する。閉塞部38を所定の陰圧値に保つための制御に使用するため、測定された圧力値は制御手段48に入力される。圧力測定手段PSは、分岐経路30および供給流路20の長さに応じて圧力値の補正をおこなっても良い。圧力測定手段PSは、定期的に大気圧に開放され、ゼロ点補正ができるようにしても良い。
【0033】
圧力測定手段PSの接続位置は、閉塞部38の圧力を測定できるよう接続されていれば特に限定されないが、本実施例のように、圧力測定手段PSを分岐経路30に接続することで、閉塞部38内に接続する新たなチューブを追加する必要がなく、圧力調整手段32が接続されている分岐経路30に接続すれば良いため、装置構成も複雑にならず好ましい。また、圧力測定手段PSは1つである必要はなく、複数備えても良い。
【0034】
制御手段48は、入力された圧力値に応じて、吸引手段26と圧力調整手段32に、それらを駆動させるデータを送信する。圧力値に応じて、吸引手段26と圧力調整手段32が閉塞部38の圧力を所定の陰圧値に保つための制御を行うためである。制御手段48は、マイコンなどを使用する。吸引手段26と圧力調整手段32の動作は以下の(A)〜(C)である。
【0035】
(A)圧力値が所定の陰圧値よりも高ければ、吸引手段26による吸引力を制御しながら(吸引手段26の停止も含む)、閉塞部38内を所定の陰圧値に保つ。圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間から遮断している。
【0036】
例えば、患者の動きによって創傷部12の位置が変化したり、閉塞部38からの漏れがある場合には、閉塞部38内の圧力値が変化する。(B)所定の陰圧値よりも高く(陽圧を含む)なれば、吸引手段26による吸引力を制御することによって閉塞部38の圧力を下げることで、所定の陰圧値に保つ。この(B)においても、圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間から遮断している。(A)と(B)は、吸引手段26の吸引力を制御することによって、閉塞部38の圧力が所定の陰圧値になるように制御している。
【0037】
(C)閉塞部38の圧力値が所定の陰圧値よりも低くなり、吸引手段26を停止しても所定の圧力値にならない場合、圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間に開放しながら、所定の陰圧値に近づけようとする。分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38に空気を取り入れることで、閉塞部38の圧力を高めることができる。分岐経路30を大気圧空間に開放するのは、閉塞部38が過陰圧になった場合である。
【0038】
上記の所定の陰圧値は一定の幅を有していても良い。また、閉塞部38の圧力が細かに変動する場合、単位時間あたりの平均圧力値を使用したヒステリシス制御によって、吸引手段26の吸引力と圧力調整手段32の開閉状態が頻繁に切り替わらないようにしても良い。
【0039】
以上のように、閉塞部38よりも上流側に圧力調整手段32が配置されて大気圧空間に開放されるため、液体16を閉塞部38に向けて押し流す状態になり、従来のように閉塞部38内の流体の流れを乱すことがない。また、従来のように廃液22が閉塞部38に向かって逆流することがない。従来のように閉塞部38に直接つながるチューブを増やしていないので、閉塞部38内の液体16の流れを乱しにくい。
【0040】
圧力調整手段32によって分岐経路30を大気開放したとき、閉塞部38内に押し流す液体16の量は、分岐経路30が供給流路20と接続される位置と閉塞部38との距離によって決定される。このため、分岐経路30が供給流路20と接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。被覆材14に近づけるほど、閉塞部38内に押し流す液体16の量を少なくすることができ、創傷部12への刺激を最小限に抑えることができる。
【0041】
圧力測定手段PSが分岐経路30を介して閉塞部38の圧力を測定するように接続した場合、分岐経路30が供給流路20と接続される位置と閉塞部38との距離が離れていると、閉塞部38と接続位置との高低差が発生し、閉塞部38の実際の圧力と圧力測定手段PSの測定値に差が発生することになる。このため、閉塞部38の圧力を正確に測定するには、分岐経路30が供給流路20に接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。
【0042】
以上のように、圧力調整手段32と圧力測定手段PSともに、分岐経路30が供給流路20に接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。具体的には、分岐経路30が供給流路20に接続される位置と閉塞部38の高さが、略同じ高さになるようにすることが好ましい。より具体的には、被覆材14から約20cm以内の位置に分岐経路30を接続することが好ましい。また、圧力調整手段32により圧力調整している際も、圧力測定手段PSが閉塞部38の圧力値を測定可能となるように設けられることが好ましい。
【0043】
以上、実施例1を説明したが、実施例1と異なる構成について以下の実施例で説明する。実施例1と同一構成については説明を省略する。
【実施例2】
【0044】
図3に示す陰圧治療装置50のように、分岐経路30に液体検知手段52を設けても良い。液体検知手段52は、閉塞部38内の圧力変動により供給流路20の液体16が逆流し、分岐経路30に入ったことを検出する。液体検知手段52は、フォトセンサや超音波センサを利用して液体16を検出する。例えば図4の液体検知手段52は、分岐経路30を挟み持ち、発光素子(発光ダイオードなど)54と受光素子(フォトダイオードなど)56を備える。液体16の有無によって受光状態が変化するため、その変化を利用して液体16を検出する。なお、検出される液体16は気泡などの状態を含む。
【0045】
液体検知手段52が液体16を検出したとき、圧力調整手段32が作動する。具体的には、圧力調整手段32を開け、分岐経路30を大気圧空間に開放する。分岐経路30は大気圧よりも低いため、開放することによって分岐経路30に入った液体16を供給経路20に押し戻すことができる。液体16は圧力調整手段32や圧力測定手段PSに到達できない。
【0046】
また、図3の陰圧治療装置50は、分岐経路30にフィルタ58を設けている。フィルタ58は、液体16を通過させない非透水性のフィルタ58である。液体16が逆流したときにフィルタ58で分岐経路30内の液体16の流れを遮断する。フィルタ58は、例えば不織布を撥水処理したものなど、液体16を通さず、通気できる物であれば使用可能である。
【0047】
液体検知手段52およびフィルタ58によって、液体16が圧力調整手段32や圧力測定手段PSに到達することを防止する。液体検知手段52またはフィルタ58のいずれか一方のみを備えても良い。
【実施例3】
【0048】
閉塞部38の圧力の制御は、閉塞部38の圧力を所定の陰圧値に保持することに限定されない。複数の設定値を所定の時間毎に切り替えるなども含む。
【実施例4】
【0049】
圧力調整手段32は大気圧に開放することに限定されず、ポンプなどで所定量の気体を分岐経路30に送り込む構成であっても良い。
【0050】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。種々の実施例を説明したが、各実施例は独立的または排他的ではなく、適宜組み合わせて実施しても良い。
【符号の説明】
【0051】
10、50:陰圧治療装置
12:創傷部
14:被覆材
16:液体
18:液体供給容器
20:供給流路
22:廃液
24:吸引流路
26:吸引手段
28:収容容器
30:分岐経路
32:圧力調整手段
34:皮膚
36:多孔質部材
38:閉塞部
40:接続部品
42:被覆材に設けた穴
44:接続部品のパッド
46:内外に通じる経路
48:制御手段
52:液体検知手段
54:発光素子
56:受光素子
58:フィルタ
PS:圧力測定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6