【実施例1】
【0020】
図1に示す本発明の陰圧治療装置10は、創傷部12を覆う被覆材14、液体16を貯留した液体供給容器18、創傷部12に液体16を供給するための供給流路20、創傷部12から廃液22が排出されるための吸引流路24、廃液22を吸引するための吸引手段26、廃液22を収容する収容容器28、供給流路20につながる分岐経路30、分岐経路30に設けられた圧力測定手段PSおよび圧力調整手段32を備える。
【0021】
図2に示すように、被覆材14は創傷部12よりも面積を広くし、被覆材14の周縁部が皮膚34に密着される。被覆材14は、創傷側に粘着層を備えた高分子フィルムなどの柔軟なフィルムである。創傷部12を直接被覆材14で覆うのではなく、創傷部12を被覆材14で覆う前に、創傷部12の上にスポンジなどの柔軟性のある多孔質部材36を配置する。
【0022】
被覆材14が創傷部12を覆うことにより、被覆材14で覆われた空間が閉塞部38になる。閉塞部38を形成し、吸引手段26により吸引することによって閉塞部38内を陰圧状態にすることができる。陰圧にすることによって、感染性のある老廃物や滲出液が排出される。また、創傷部12およびその周囲の血流を増加させ、肉芽形成が促進されて創傷部治癒機能が回復し、創傷部12の治療が早くなる。
【0023】
液体供給容器18に貯留される液体16は、創傷部12の洗浄、治療またはその両方をおこなうための液体である。例えば、生理食塩水などが挙げられる。液体供給容器18は、流体の減少により変形可能な樹脂製の容器が好ましい。液体16は、定量ポンプなどによって供給流路20に液体16を供給することができる。また、後述するように閉塞部38が陰圧になっているため、供給流路20上に流量調整手段を設けることで液体16を閉塞部38に供給することもできる。
【0024】
供給流路20は、液体供給容器18から閉塞部38まで通じるチューブである。供給流路20を通って閉塞部38に上記の液体16が供給される。患者の動きに合わせられるように、供給流路20は柔軟性のあるチューブが好ましい。
【0025】
吸引流路24は、閉塞部38から吸引手段26まで通じるチューブである。供給流路20と同様に、吸引流路24は柔軟性のあるチューブで構成するのが好ましい。創傷部12から生じた老廃物および滲出液は、閉塞部38に供給された流体16と一緒に廃液22として閉塞部38から吸引流路24に排出される。
【0026】
閉塞部38への供給流路20と吸引流路24の接続方法について、
図2を参照して説明する。
図2(a)に示すように、接続部品40には供給流路20と吸引流路24の端部が予め接続されている。被覆材14には穴42が形成されており、接続部品40のパッド44がその穴42の周縁の被覆材14上に取り付けられる。接続部品40は、閉塞部38の内外に通じる経路46を形成しており、閉塞部38に液体16を供給し、閉塞部38から廃液22を排出することができる。接続部品40を用いることで、被覆材12の周縁を皮膚34に密着させやすく、閉塞部38の形成が容易である。
【0027】
また、
図2(b)に示すように、被覆材14の周縁において被覆材14と皮膚34との間に各流路20、24を通しても良い。接続部品40を使用せず、簡単な構成である。被覆材14の任意の位置に穴を形成し、その穴に各流路20、24を通しても良い。マニホールド等の部品を使用して、被覆材14の1つの穴から各流路20、24を通しても良い。
【0028】
吸引流路24の途中に廃液22の収容容器28を備える。上述した吸引流路24のチューブを2本に分割し、各チューブを収容容器28につなげる。吸引流路24に引き込まれた廃液22は、収容容器28に収容され、吸引手段26には到達できないようにする。吸引手段26が廃液22で破損しないように保護する。収容容器28内の廃液22の量を検出するセンサなどを適宜備える。吸引流路24における収容容器28と吸引手段26の間に、液体検知センサなどを取り付け、廃液22を検知しても良い。液体検知センサの替わりに非透水性のフィルタを取り付けても良い。
【0029】
吸引手段26はポンプであり、ポンプの吸引力によって閉塞部38の廃液22を吸引流路24に排出させる。吸引手段26の吸引によって、閉塞部38の圧力を陰圧にすることができる。
【0030】
分岐経路30は供給流路20や吸引流路24と同じで、柔軟性のあるチューブで構成する。液体供給容器18と閉塞部38の間で、分岐経路30が供給流路20につなげられる。液体16の流れから見ると、閉塞部38よりも上流側に分岐経路30が設けられる。
【0031】
圧力調整手段32は、閉塞部38の圧力を調節するためのものであり、レリーフ弁や電磁弁などが挙げられる。圧力調整手段32は、分岐経路30を大気圧空間に対して開放または遮断することができ、大気開放弁の役割を有している。圧力調整手段32は、通常、分岐経路30を大気圧空間に対して遮断している。閉塞部38の圧力が所定の陰圧値より低くなる(過陰圧になる)と、分岐経路30を大気圧空間に開放することで、分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38に気体を取り入れることで、閉塞部38の圧力を上昇させるために用いられる。圧力調整手段32は、閉塞部38の圧力を高められればその他の手段を用いても良い。圧力調整手段32により、分岐経路30を大気圧空間に対して開放した際に、空気を取り組む速度を調整するための流量調整手段を設けても良い。
【0032】
圧力測定手段PSは閉塞部38の圧力を測定する圧力センサである。圧力測定手段PSは分岐経路30に接続されており、分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38の圧力を測定する。閉塞部38を所定の陰圧値に保つための制御に使用するため、測定された圧力値は制御手段48に入力される。圧力測定手段PSは、分岐経路30および供給流路20の長さに応じて圧力値の補正をおこなっても良い。圧力測定手段PSは、定期的に大気圧に開放され、ゼロ点補正ができるようにしても良い。
【0033】
圧力測定手段PSの接続位置は、閉塞部38の圧力を測定できるよう接続されていれば特に限定されないが、本実施例のように、圧力測定手段PSを分岐経路30に接続することで、閉塞部38内に接続する新たなチューブを追加する必要がなく、圧力調整手段32が接続されている分岐経路30に接続すれば良いため、装置構成も複雑にならず好ましい。また、圧力測定手段PSは1つである必要はなく、複数備えても良い。
【0034】
制御手段48は、入力された圧力値に応じて、吸引手段26と圧力調整手段32に、それらを駆動させるデータを送信する。圧力値に応じて、吸引手段26と圧力調整手段32が閉塞部38の圧力を所定の陰圧値に保つための制御を行うためである。制御手段48は、マイコンなどを使用する。吸引手段26と圧力調整手段32の動作は以下の(A)〜(C)である。
【0035】
(A)圧力値が所定の陰圧値よりも高ければ、吸引手段26による吸引力を制御しながら(吸引手段26の停止も含む)、閉塞部38内を所定の陰圧値に保つ。圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間から遮断している。
【0036】
例えば、患者の動きによって創傷部12の位置が変化したり、閉塞部38からの漏れがある場合には、閉塞部38内の圧力値が変化する。(B)所定の陰圧値よりも高く(陽圧を含む)なれば、吸引手段26による吸引力を制御することによって閉塞部38の圧力を下げることで、所定の陰圧値に保つ。この(B)においても、圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間から遮断している。(A)と(B)は、吸引手段26の吸引力を制御することによって、閉塞部38の圧力が所定の陰圧値になるように制御している。
【0037】
(C)閉塞部38の圧力値が所定の陰圧値よりも低くなり、吸引手段26を停止しても所定の圧力値にならない場合、圧力調整手段32は分岐経路30を大気圧空間に開放しながら、所定の陰圧値に近づけようとする。分岐経路30および供給流路20を介して閉塞部38に空気を取り入れることで、閉塞部38の圧力を高めることができる。分岐経路30を大気圧空間に開放するのは、閉塞部38が過陰圧になった場合である。
【0038】
上記の所定の陰圧値は一定の幅を有していても良い。また、閉塞部38の圧力が細かに変動する場合、単位時間あたりの平均圧力値を使用したヒステリシス制御によって、吸引手段26の吸引力と圧力調整手段32の開閉状態が頻繁に切り替わらないようにしても良い。
【0039】
以上のように、閉塞部38よりも上流側に圧力調整手段32が配置されて大気圧空間に開放されるため、液体16を閉塞部38に向けて押し流す状態になり、従来のように閉塞部38内の流体の流れを乱すことがない。また、従来のように廃液22が閉塞部38に向かって逆流することがない。従来のように閉塞部38に直接つながるチューブを増やしていないので、閉塞部38内の液体16の流れを乱しにくい。
【0040】
圧力調整手段32によって分岐経路30を大気開放したとき、閉塞部38内に押し流す液体16の量は、分岐経路30が供給流路20と接続される位置と閉塞部38との距離によって決定される。このため、分岐経路30が供給流路20と接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。被覆材14に近づけるほど、閉塞部38内に押し流す液体16の量を少なくすることができ、創傷部12への刺激を最小限に抑えることができる。
【0041】
圧力測定手段PSが分岐経路30を介して閉塞部38の圧力を測定するように接続した場合、分岐経路30が供給流路20と接続される位置と閉塞部38との距離が離れていると、閉塞部38と接続位置との高低差が発生し、閉塞部38の実際の圧力と圧力測定手段PSの測定値に差が発生することになる。このため、閉塞部38の圧力を正確に測定するには、分岐経路30が供給流路20に接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。
【0042】
以上のように、圧力調整手段32と圧力測定手段PSともに、分岐経路30が供給流路20に接続される位置は、被覆材14の近傍であるほうが良い。具体的には、分岐経路30が供給流路20に接続される位置と閉塞部38の高さが、略同じ高さになるようにすることが好ましい。より具体的には、被覆材14から約20cm以内の位置に分岐経路30を接続することが好ましい。また、圧力調整手段32により圧力調整している際も、圧力測定手段PSが閉塞部38の圧力値を測定可能となるように設けられることが好ましい。
【0043】
以上、実施例1を説明したが、実施例1と異なる構成について以下の実施例で説明する。実施例1と同一構成については説明を省略する。
【実施例2】
【0044】
図3に示す陰圧治療装置50のように、分岐経路30に液体検知手段52を設けても良い。液体検知手段52は、閉塞部38内の圧力変動により供給流路20の液体16が逆流し、分岐経路30に入ったことを検出する。液体検知手段52は、フォトセンサや超音波センサを利用して液体16を検出する。例えば
図4の液体検知手段52は、分岐経路30を挟み持ち、発光素子(発光ダイオードなど)54と受光素子(フォトダイオードなど)56を備える。液体16の有無によって受光状態が変化するため、その変化を利用して液体16を検出する。なお、検出される液体16は気泡などの状態を含む。
【0045】
液体検知手段52が液体16を検出したとき、圧力調整手段32が作動する。具体的には、圧力調整手段32を開け、分岐経路30を大気圧空間に開放する。分岐経路30は大気圧よりも低いため、開放することによって分岐経路30に入った液体16を供給経路20に押し戻すことができる。液体16は圧力調整手段32や圧力測定手段PSに到達できない。
【0046】
また、
図3の陰圧治療装置50は、分岐経路30にフィルタ58を設けている。フィルタ58は、液体16を通過させない非透水性のフィルタ58である。液体16が逆流したときにフィルタ58で分岐経路30内の液体16の流れを遮断する。フィルタ58は、例えば不織布を撥水処理したものなど、液体16を通さず、通気できる物であれば使用可能である。
【0047】
液体検知手段52およびフィルタ58によって、液体16が圧力調整手段32や圧力測定手段PSに到達することを防止する。液体検知手段52またはフィルタ58のいずれか一方のみを備えても良い。