特許第6286166号(P6286166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイマー・プランニング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6286166-印刷機のインキ供給装置 図000002
  • 特許6286166-印刷機のインキ供給装置 図000003
  • 特許6286166-印刷機のインキ供給装置 図000004
  • 特許6286166-印刷機のインキ供給装置 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286166
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】印刷機のインキ供給装置
(51)【国際特許分類】
   B41F 33/00 20060101AFI20180215BHJP
   B41F 31/14 20060101ALI20180215BHJP
   B41F 31/30 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   B41F33/00 242
   B41F31/14 A
   B41F31/30
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-198222(P2013-198222)
(22)【出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2015-63069(P2015-63069A)
(43)【公開日】2015年4月9日
【審査請求日】2016年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】593073528
【氏名又は名称】アイマー・プランニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】山崎 憲司郎
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−128956(JP,A)
【文献】 特開2007−190929(JP,A)
【文献】 特開2011−073415(JP,A)
【文献】 特開2000−108309(JP,A)
【文献】 特開2005−231221(JP,A)
【文献】 特開2003−001799(JP,A)
【文献】 スイス国特許発明第00169362(CH,A5)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 31/14
B41F 31/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキ壺を構成するインキ壺ローラに近接して、インキ壺ローラの長さ方向に分割された複数のインキ呼び出しローラが配置され、各インキ呼び出しローラが、インキ壺ローラに接触する呼び出し位置とインキ壺ローラから離れてインキ練りローラに接触する非呼び出し位置とに個別に切り換えられるようになされ、所定の間隔をおいた呼び出しタイミングごとに、所要のインキ呼び出しローラの位置を切り換えてインキを呼び出し、インキ壺ローラからインキ練りローラにインキを移すインキ練りを行うとともに、インキ呼び出しローラごとに、インキ壺ローラに接触してから離れるまでのインキ壺ローラの回転角度を制御することにより、インキ壺ローラからインキ呼び出しローラに呼び出すインキの周長を制御するようになされている印刷機のインキ供給装置において、
版交換に際し、版交換前の絵柄面積と版交換後の絵柄面積との比較を全てのインキ呼び出しローラに対して行って、版交換後に絵柄面積が増加する場合には、追加インキ練りを行い、版交換前に絵柄面積が減少する場合には、一定時間インキ呼び出しローラの動作が停止するようになっており、
版交換前の絵柄面積をA%、版交換前の保有インキ量(%)をY+AZ、版交換後の絵柄面積をB%、版交換後の保有インキ量(%)をY+BZとし、版交換前後の差分(B−A)Z(%)の正負に応じて、次の操作を行うようになっていることを特徴とする印刷機のインキ供給装置。
(B−A)Z>0の場合、Z回の追加インキ練りを行う。
(B−A)Z<0の場合、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止する。
【請求項2】
呼び出しタイミングごとに毎回インキの呼び出しを行う通常動作と、通常動作に比べて呼び出し回数を少なくした間欠動作とが行われており、Bが間欠動作パーセンテージ以下でかつ(B−A)Z<0の場合、{(A−B)Z/B}×C/B回分のインキ呼び出しを停止することを特徴とする請求項1の印刷機のインキ供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、印刷機のインキ供給装置、さらに詳しくは、インキ壺からインキ壺ローラ、インキ呼び出しローラおよび複数のインキ練りローラを経て印刷面にインキを供給する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のインキ供給装置として、インキ壺を構成するインキ壺ローラに近接して、インキ壺ローラの長さ方向に分割された複数のインキ呼び出しローラが配置され、各インキ呼び出しローラが、インキ壺ローラに接触する呼び出し位置とインキ壺ローラから離れる非呼び出し位置とに個別に切り換えられるようになされ、所定の間隔をおいた呼び出しタイミングごとに、所要のインキ呼び出しローラの位置を切り換えてインキを呼び出し、インキ呼び出しローラごとに、インキ壺ローラに接触してから離れるまでのインキ壺ローラの回転角度を制御することにより、インキ壺ローラからインキ呼び出しローラに呼び出すインキの周長を制御するようになされているものが知られている(特許文献1)。上記のインキ壺ローラの回転角度の制御は、インキ呼び出しローラに対する呼び出し位置への切り換え指令を出力してから非呼び出し位置への切り換え指令を出力するまでの時間を制御することにより行われる。
【0003】
この装置において、インキ壺内からインキ壺ローラの表面に出たインキは、インキ呼び出しローラが呼び出し位置に切り換えられている間に、そのインキ呼び出しローラに移され、各インキ呼び出しローラに移されたインキは、インキ呼び出しローラが非呼び出し位置に切り換えられている間に、インキ練りローラに移される。
【0004】
上記のようにインキ呼び出しローラごとに呼び出すインキの周長を制御することにより、インキ呼び出しローラごとにインキ練りローラすなわち印刷面に供給されるインキ量が制御される。
【0005】
このようにインキ呼び出しローラごとにインキ量が制御されるのは、印刷物の絵柄により幅方向の位置によって最適なインキ量が異なるからであり、各インキ呼び出しローラに対するインキ量は、印刷物の絵柄面積率に応じて設定される。
【0006】
上記のような従来のインキ供給装置では、インキ呼び出しローラに呼び出すインキの周長が、インキ呼び出しローラがインキ壺ローラに接触してから離れるまでのインキ壺ローラの回転角度に対応する両ローラの周長(制御接触長)になるように、インキ呼び出しローラの制御が行われる。
【0007】
版交換に際し、色換えを行う場合は、洗浄を行った後、版交換後の絵柄面積に応じたインキを供給することで、適切な印刷が行われる。版交換に際し、色換えを行わない場合は、洗浄を行うこともあるし、洗浄を行わないこともある。色換えを行わない版交換に際し、洗浄を行う場合も洗浄を行わない場合も、版交換後の絵柄面積に応じたインキを供給することで、印刷が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−141610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
色換えを行わない版交換に際し、洗浄を行わない場合についても、洗浄を行う場合と同様に、版交換後の絵柄面積に応じたインキを供給することで印刷を行うと、濃度が安定するまでに時間がかかる傾向がある。
【0010】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、版交換後の刷り出し時の濃度を安定させることができる印刷機のインキ供給装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明による印刷機のインキ供給装置は、インキ壺を構成するインキ壺ローラに近接して、インキ壺ローラの長さ方向に分割された複数のインキ呼び出しローラが配置され、各インキ呼び出しローラが、インキ壺ローラに接触する呼び出し位置とインキ壺ローラから離れてインキ練りローラに接触する非呼び出し位置とに個別に切り換えられるようになされ、所定の間隔をおいた呼び出しタイミングごとに、所要のインキ呼び出しローラの位置を切り換えてインキを呼び出し、インキ壺ローラからインキ練りローラにインキを移すインキ練りを行うとともに、インキ呼び出しローラごとに、インキ壺ローラに接触してから離れるまでのインキ壺ローラの回転角度を制御することにより、インキ壺ローラからインキ呼び出しローラに呼び出すインキの周長を制御するようになされている印刷機のインキ供給装置において、版交換に際し、版交換前の絵柄面積と版交換後の絵柄面積との比較を全てのインキ呼び出しローラに対して行って、版交換後に絵柄面積が増加する場合には、追加インキ練りを行い、版交換前に絵柄面積が減少する場合には、一定時間インキ呼び出しローラの動作が停止するようになっており、
版交換前の絵柄面積をA%、版交換前の保有インキ量(%)をY+AZ、版交換後の絵柄面積をB%、版交換後の保有インキ量(%)をY+BZとし、版交換前後の差分(B−A)Z(%)の正負に応じて、次の操作を行うようになっていることを特徴とするものである。
【0012】
(B−A)Z>0の場合、Z回の追加インキ練りを行う。
【0013】
(B−A)Z<0の場合、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止する。
【0014】
版交換時に色が安定するまでに時間がかかる原因として、版交換前の版の絵柄面積が大きい場合は、ローラ群(インキ呼び出しローラおよび複数のインキ練りローラ)に保有されているインキ量が多いので、刷り出し濃度が濃く、ゆっくりと安定濃度に下がっていき、版交換前の版の絵柄面積が小さい場合は、ローラ群に保有されているインキ量が少ないので、刷り出し濃度が薄く、ゆっくりと安定濃度に上がっていくためと考えられる。
【0015】
この発明の印刷機のインキ供給装置によると、版交換前にローラ群に保有されているインキ量と、版交換後にローラ群に必要なインキ量とを比較して、版交換後のインキ量が増加する場合には、インキを一時的に追加供給し、版交換後のインキ量が減少する場合には、インキの供給を一時的に止めることで、版交換後に安定濃度に達するまでの時間を短くすることができる。
【0016】
インキ呼び出しローラがインキ壺ローラに接触してから離れるまでのインキ壺ローラの回転角度を「接触回転角度」と呼ぶことにすると、接触回転角度の制御は、インキ呼び出しローラに対する呼び出し位置への切り換え指令(接触指令)を出力してから非呼び出し位置への切り換え指令(非接触指令)を出力するまでの時間を制御することにより行われる。
【0017】
印刷安定時にインキ呼び出しローラに保有されているインキは、インキ呼び出しローラの端から端まで全体に均一な厚さのインキ(Yとする)と、印刷物の絵柄面積に比例した厚さのインキ(比例定数をZとする)とが重なっている状態と考えられる。したがって、版交換前の絵柄面積をA%とすると、版交換前に保有されているインキ量(%)は、Y+AZ(%)となり、版交換後の絵柄面積をB%とすると、版交換後の保有インキ量(%)は、Y+BZ(%)となる。したがって、版交換前後の差分は、(B−A)Z(%)となる。
【0018】
B>Aの場合およびB<Aの場合があるので、差分は、正または負の値となる。ここで、差分の正負に応じて、異なる操作が行われる。
【0019】
差分(B−A)Z>0の場合、インキ練り回数を比例回数のZ回とする追加インキ練りを行う。インキ練りのパーセンテージは、(B−A)(%)となる。これにより、短い時間で指令値の濃度に到達するようになり、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0020】
一方、(B−A)Z<0の場合、所定の間、インキ呼び出しを停止する。インキ呼び出しを停止する条件は、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止するものとする。これにより、短い時間で指令値の濃度に到達するようになり、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0021】
こうして、版交換に際し、差分(B−A)Z>0の場合および(B−A)Z<0の場合のいずれについても、短い時間で版交換後の指令値の濃度に到達し、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0022】
呼び出しタイミングごとに毎回インキの呼び出しを行う通常動作と、通常動作に比べて呼び出し回数を少なくした間欠動作とが行われており、Bが間欠動作パーセンテージ以下でかつ(B−A)Z<0の場合、{(A−B)Z/B}×C/B回分のインキ呼び出しを停止することが好ましい。
【0023】
このようにすることで、間欠動作を行う場合であっても、短い時間で版交換後の指令値の濃度に到達し、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【発明の効果】
【0024】
この発明の印刷機のインキ供給装置によれば、上記のように、版交換前後の差分が正または負のいずれであっても、短い時間で版交換後の指令値の濃度に到達し、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、この発明の実施形態を示す印刷機のインキ供給装置の主要部の概略側面図である。
図2図2は、図1のインキ移しローラユニットの一部切り欠き平面図である。
図3図3は、図2の横断面図である。
図4図4は、インキ供給装置における制御の要部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1は印刷機のインキ供給装置の一部を概略的に示す左側面図、図2図1の一部を拡大して示した部分切り欠き平面図、図3図2の拡大横断面図である。以下の説明において、図1および図3の右側(図2の下側)を前、図1および図3の左側(図2の上側)を後とし、前から見たときの左右を左右とする。
【0028】
図1に示すように、インキ壺部材(40)の後端部に近接するようにインキ壺ローラ(41)が配置されており、これらによりインキ壺(42)が構成され、インキ壺部材(40)の後端部とインキ壺ローラ(41)の表面との間に所定の隙間を有するインキ通路(43)が形成されている。
【0029】
インキ壺ローラ(41)の後方に、複数のインキ練りローラ(44)(46)のうちの最初のインキ練りローラ(44)が配置され、インキ壺ローラ(41)とこのインキ練りローラ(44)との間に、両者に近接して、インキ呼び出しローラユニット(45)が配置されている。ローラユニット(45)は、図2に示すように、ローラ(41)(44)の軸方向に分割された複数(図示は7つ)のインキ呼び出しローラ(15)の集合体であり、これらのインキ呼び出しローラ(15)が軸方向に小さい間隔をおいて配置されている。これらのローラ(15)(41)(44)の軸は互いに平行で、左右方向にのびている。インキ壺ローラ(41)とインキ練りローラ(44)は、印刷機のフレーム(7)に回転自在に支持され、図示しない駆動装置により、互いに同期した所定の回転速度で図1の矢印方向に連続回転させられる。たとえば、インキ壺ローラ(41)の回転速度は、インキ練りローラ(44)のそれの1/10程度である。
【0030】
ローラ(41)(44)と平行な直線状の支持部材(6)の左右両端部がフレーム(7)に固定され、支持部材(6)の周囲に複数の可動部材(8)が取り付けられている。支持部材(6)は、上下幅より前後幅が少し大きい角柱状をなす。可動部材(8)は短円柱状をなし、可動部材(8)にはこれを軸方向に貫通する比較的大きな角状の穴(9)が形成されている。フレーム(7)に対向状に固定されて支持部材(6)に貫かれた1対の短円柱状の固定部材(10)の間に複数の可動部材(8)が軸方向に並べられ、これらの可動部材(8)の穴(9)に支持部材(6)が通されている。可動部材(8)の穴(9)の上下幅は支持部材(6)の上下幅とほぼ等しく、穴(9)の上下両面が支持部材(6)の上下両面に摺接している。また、穴(9)の前後幅は支持部材(6)の前後幅より少し大きく、可動部材(8)は、支持部材(6)に対して、穴(9)の後面が支持部材(6)の後面に接する前端位置と、穴(9)の前面が支持部材(6)の前面に接する後端位置との間を前後に移動しうるようになっている。支持部材(6)と摺接する可動部材(8)の穴(9)の上面に、可動部材(8)の全長にわたる角みぞ(11)が形成されている。
【0031】
各可動部材(8)は、後述するように、支持部材(6)に対して軸方向に位置決めされており、可動部材(8)相互間および両端の固定部材(10)との間には、軸方向にわずかな隙間が設けられている。このため、各可動部材(8)は、支持部材(6)に対して個別に前後方向に移動しうる。
【0032】
各可動部材(8)の外周に、転がり軸受である玉軸受(12)の内輪が固定されている。各玉軸受(12)の外輪の外周に金属製スリーブ(14)が固定され、スリーブ(14)の外周にゴム製厚肉円筒状のインキ呼び出しローラ(15)が固定されている。
【0033】
隣接する可動部材(6)の外周相互間に、短円柱状の防塵部材(16)がはめ被せられている。防塵部材(16)は、たとえば天然ゴム、合成ゴム、合成樹脂などの適当なゴム状弾性材料よりなり、その両端部に内側に少し張り出したフランジ部(16a)が一体に形成されている。そして、これらのフランジ部(16a)が可動部材(8)の左右両端寄りの部分の外周面に形成された環状みぞ(17)にはめられることにより、防塵部材(16)が可動部材(8)に固定されている。左右両端の可動部材(8)とこれらに隣接する固定部材(10)との外周相互間にも、同様の防塵部材(16)がはめ被せられている。
【0034】
各可動部材(8)と支持部材(6)の間の支持部材(6)側に、次のように、インキ呼び出しローラ(15)の位置を切り換えるローラ位置切換装置(19)が設けられている。
【0035】
可動部材(8)の軸方向中央部に対応する支持部材(6)の部分に、前面から少し後方までのびた穴を形成することによりシリンダ部(20)が形成されるとともに、後面から少し前方までのびたばね収容穴(21)が形成されている。シリンダ部(20)の中心とばね収容穴(21)の中心は、可動部材(8)の上下方向の中心近傍にある前後方向の1つの直線上にある。シリンダ部(20)内に、短円柱状のピストン(22)がOリング(23)を介して前後摺動自在に挿入されている。ばね収容穴(21)内に、付勢部材としてのボール(24)が前後摺動自在に挿入されるとともに、これを後向きに付勢する圧縮コイルばね(25)が挿入されている。
【0036】
ピストン(22)の中心に対向する可動部材(8)の穴(9)の前面およびボール(24)の中心に対向する穴(9)の後面に、それぞれ、凹所(26)(27)が形成されている。各凹所(26)(27)の可動部材(8)軸方向の幅は一定である。可動部材(8)の軸線と直交する断面における各凹所(26)(27)の断面形状は一様であり、上記軸線と平行な直線を中心とする円弧状をなす。凹所(26)に対向するピストン(22)の端面の中心に先細テーパ状の突起(22a)が形成され、この突起(22a)が凹所(26)にはめられている。なお、ピストン(22)の突起(22a)を除く部分の長さはシリンダ部(20)の長さよりわずかに短く、ピストン(22)がシリンダ部(20)内に最も退入した状態でも、突起(22a)の大部分が支持部材(6)の前面より突出するようになっている。一方、ボール(24)の外周の一部が、凹所(27)にはめられている。
【0037】
支持部材(6)の後部において、ボール(24)は、常時、ばね(25)の弾性力により可動部材(8)の穴(9)の後面に圧接させられ、ボール(24)の外周の一部が、凹所(27)にはまって、凹所(27)の前後の縁部に圧接させられている。一方、支持部材(6)の前部においては、支持部材(6)の前面あるいはピストン(22)が可動部材(8)の穴(9)の前面に圧接させられ、ピストン(22)の突起(22a)の大部分が凹所(26)にはまっている。そして、このようにピストン(22)の突起(22a)の大部分とボール(24)の一部が、常時、凹所(26)(27)にはまっていることにより、支持部材(6)に対する可動部材(8)の軸方向の位置決めがなされている。
【0038】
支持部材(6)に、その左端から軸方向にのびて右端付近で閉じた横断面円形の給気穴(28)が形成され、この穴(28)の左端開口端が適当な配管を介して圧縮空気源(29)に接続されている。
【0039】
可動部材(8)のみぞ(11)に面している支持部材(6)の上面に切換弁(ソレノイド弁)(30)が取り付けられ、この切換弁(30)の2つのポートが支持部材(6)に形成された連通穴(31)(32)を介して給気穴(28)とシリンダ部(20)にそれぞれ連通させられている。また、切換弁(30)の電線(33)がみぞ(11)の部分を通して外部に引き出され、制御装置(34)に接続されている。
【0040】
切換弁(30)に通電された状態(オン状態)ではシリンダ部(20)が切換弁(30)を介して給気穴(28)に連通させられ、通電を停止した状態(オフ状態)ではシリンダ部(20)が切換弁(30)を介して大気と連通させられる。そして、制御装置(34)で各切換装置(19)の切換弁(30)の通電状態を個別に切り換えることにより、各インキ呼び出しローラ(15)の前後方向の位置が個別に切り換えられる。
【0041】
切換弁(30)がオフ状態に切り換えられると、シリンダ部(20)が大気と連通させられるため、ピストン(22)はシリンダ部(20)内を自由に移動できる状態になる。このため、可動部材(8)はばね(25)によりボール(24)を介して後側に移動させられる。その結果、可動部材(8)およびインキ呼び出しローラ(15)は後端位置(非呼び出し位置)に切り換えられ、インキ呼び出しローラ(15)がインキ壺元ローラ(41)から離れてインキ練りローラ(44)に圧接する。
【0042】
切換弁(30)がオン状態に切り換えられると、シリンダ部(20)が給気穴(28)およびさらにこれを介して圧縮空気源(29)に連通させられるため、シリンダ部(20)に圧縮空気が供給される。このため、ばね(25)の力に抗して、ピストン(22)が支持部材(6)から前方に突出し、これによって可動部材(8)が前側に移動させられる。その結果、可動部材(8)およびインキ呼び出しローラ(15)は前端位置(呼び出し位置)に切り換えられ、インキ呼び出しローラ(15)がインキ練りローラ(44)から離れてインキ壺ローラ(41)に圧接する。
【0043】
可動部材(8)の穴(9)の底壁と摺接する支持部材(6)の下面に、磁気センサよりなる位置切換検知センサ(35)が埋め込み式に固定され、これに対向する可動部材(8)の穴(9)の底壁に、永久磁石(36)が埋め込み式に固定されている。センサ(35)の下面は、支持部材(6)の下面と面一であるか、それより少し内側(上側)に位置している。永久磁石(36)の上面は、可動部材(8)の穴(9)の底壁面と面一であるか、それより少し内側(下側)に位置している。可動部材(8)が後端位置に切り換えられた状態では、センサ(35)は永久磁石(36)の前後方向中央部に対向し、可動部材(8)が前端位置に切り換えられた状態では、センサ(35)は永久磁石(36)から後方に外れる。したがって、可動部材(8)の位置によってセンサ(35)の出力が変化し、センサ(35)の出力により、可動部材(8)すなわちインキ呼び出しローラ(15)がいずれの位置にあるかがわかる。
【0044】
インキ壺(42)内のインキは、インキ通路(43)を通ってインキ壺ローラ(41)の外周表面に出る。インキ壺ローラ(41)の表面に出るインキの膜厚はインキ通路(43)の隙間の大きさに対応し、インキ通路(43)の隙間の大きさを調節することにより、インキ壺ローラ(41)の表面に出るインキの膜厚が調節される。通常は、全てのインキ呼び出しローラ(15)についてインキの膜厚が等しくなるように、インキ通路(43)の隙間の大きさが調節される。インキ壺ローラ(41)の外周表面に出たインキは、インキ呼び出しローラ(15)が前端位置に切り換えられている間に、そのインキ呼び出しローラ(15)に移され、各インキ呼び出しローラ(15)に移されたインキは、インキ呼び出しローラ(15)が後端位置に切り換えられている間にインキ練りローラ(44)に移される。こうして、インキ壺ローラ(41)からインキ練りローラ(44)にインキを移すインキ練りが行われる。インキ練りローラ(44)に移されたインキは、さらに、図3に示すように、他の複数のインキ練りローラ(46)を経て、印刷面に供給される。また、センサ(35)の出力により、インキ呼び出しローラ(15)の位置の切り換えが正常であるかどうかが検知され、インキ呼び出しローラ(15)が正常に切り換えられなかった場合には、警報が発せられる。
【0045】
上記の印刷機では、制御装置(34)により、所定の間隔をおいた呼び出しタイミングごとに、所要のインキ呼び出しローラ(15)の位置を切り換えてインキを呼び出し、インキ呼び出しローラ(15)ごとに、インキ壺ローラ(41)に接触してから離れるまでのインキ壺ローラ(41)の回転角度(接触回転角度)を制御することにより、インキ壺ローラ(41)からインキ呼び出しローラ(15)に呼び出すインキの周長を制御するようになっており、その結果、印刷面に供給されるインキ量がその幅方向の位置によって調節される。
【0046】
接触回転角度の制御は、インキ呼び出しローラ(15)に対する呼び出し位置への切り換え指令(接触指令)を出力してから非呼び出し位置への切り換え指令(非接触指令)を出力するまでの時間(接触指令時間)を制御することにより行われる。
【0047】
制御装置(34)は、各インキ呼び出しローラごとに、絵柄面積に応じたインキ量の指令値がグラフ値として与えられており、所定のインキ呼び出しローラのグラフ値を上げることで、このインキ呼び出しローラの濃度を増加し、所定のインキ呼び出しローラのグラフ値を下げることで、このインキ呼び出しローラの濃度を減少させる。
【0048】
版を交換する場合、通常、各グラフ値が変わることになるが、新しい指令値を出すことで、最終的には、指令値に対応した濃度になることから、従来は、版交換直後の特別な制御は行われていなかった。
【0049】
この実施形態のインキ供給装置の制御装置には、従来はなかった版交換直後の濃度指令値の制御プログラムが追加されている。このプログラムの要部を図4のフローチャートに示す。
【0050】
図4のフローチャートに示すように、版交換直後の濃度指令値の制御に際しては、色換え無しの版交換を実施するに際し(S1)、版交換前の絵柄面積と版交換後の絵柄面積との比較を全てのインキ呼び出しローラに対して行って(S2)、版交換後に絵柄面積が増加する場合(S3)には、追加インキ練り(S4)を行い、版交換前に絵柄面積が減少する場合(S6)には、一定時間インキ呼び出しローラの動作が停止する(S6)ようになっている。
【0051】
印刷安定時にインキ呼び出しローラに保有されているインキは、インキ呼び出しローラの端から端まで全体に均一な厚さのインキ(Yとする)と、印刷物の絵柄面積に比例した厚さのインキ(比例定数をYとする)とが重なっている状態と考えられる。したがって、版交換前の絵柄面積をA%とすると、版交換前に保有されているインキ量(%)は、Y+AZ(%)となり、版交換後の絵柄面積をB%とすると、版交換後の保有インキ量(%)は、Y+BZ(%)となる。版交換前後の差分は、(B−A)Z(%)となる。
【0052】
B>Aの場合およびB<Aの場合があるので、差分は、正または負の値となる。ここで、差分の正負に応じて、異なる操作が行われる。
【0053】
まず、差分(B−A)Z>0の場合、版交換後の絵柄面積(必要インキ量)が多いことから、インキが不足しており、追加インキ練りが必要であることを示している。例えば、絵柄面積が30%から40%に変更になった際、40%とする指令が出ることで、実際のインキ量は、30%+αとはなるが、40%に到達するまでの時間が長いものとなる。そこで、インキ練り回数を比例回数のZ回とする追加インキ練りを行う。インキ練りのパーセンテージは、(B−A)(%)となる。これにより、従来であれば、濃度が徐々に増加して新しい指令値の濃度に到達するのに対し、濃度が急激に増加して指令値の近傍の値に到達した後、指令値の濃度に到達するようになり、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0054】
一方、(B−A)Z<0の場合、インキが余っていることを示している。例えば、絵柄面積が40%から30%に変更になった際、30%とする指令が出ることで、実際のインキ量は、40%−αとはなるが、30%に到達するまでの時間が長いものとなる。そこで、所定の間、インキ呼び出しを停止する。インキ呼び出しを停止する条件は、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止するものとする。これにより、従来であれば、濃度が徐々に減少して新しい指令値の濃度に到達するのに対し、濃度減少量が大幅に増加して、短い時間で指令値の濃度に到達するようになり、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0055】
こうして、このインキ供給装置によると、版交換に際し、版交換前の絵柄面積をA%、版交換前の保有インキ量(%)をY+AZ、版交換後の絵柄面積をB%、版交換後の保有インキ量(%)をY+BZとし、版交換前後の差分(B−A)Z(%)の正負に応じて、(B−A)Z>0の場合、Z回の追加インキ練りを行うとともに、(B−A)Z<0の場合、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止するようになされることで、差分(B−A)Z>0の場合および(B−A)Z<0の場合のいずれについても、短い時間で版交換後の指令値の濃度に到達し、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0056】
上記のインキ供給に際し、必要なインキ量が少ない場合には、呼び出しタイミングごとに毎回インキの呼び出しを行う通常動作に代えて、通常動作に比べて呼び出し回数を少なくした間欠動作が行われる。
【0057】
間欠動作においては、必要なインキ量に対応する制御接触長が制御可能最小接触長未満の場合、呼び出しタイミングごとに毎回インキの呼び出しを行う場合に比べて呼び出し回数を少なくして、制御接触長の平均値が必要なインキ量に対応する制御接触長となるように制御される。
【0058】
間欠動作時には、Bが間欠動作パーセンテージ以下でかつ(B−A)Z<0の場合、{(A−B)Z/B}×C/B回分のインキ呼び出しを停止することが好ましい。すなわち、Bが間欠動作パーセンテージ以下でかつ(B−A)Z<0の場合、(A−B)Z/B回分のインキ呼び出しを停止するだけでは十分なインキ消費ができないので、C/Bに相当する分だけ、インキ呼び出しを停止する回数が増加させられる。
【0059】
このようにすることで、間欠動作を行う場合であっても、短い時間で版交換後の指令値の濃度に到達し、刷り出しの濃度を安定させることができる。
【0060】
上記において、印刷機のインキ供給装置の構成およびインキ量の制御方法は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0061】
(1) 印刷機のインキ供給装置
(2) 印刷機
(3) インキ供給装置
(15) インキ呼び出しローラ
(34) 制御装置
(41) インキ壺ローラ
(42) インキ壺
図1
図2
図3
図4