(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1実施形態)
次に、この発明の第1実施形態を
図1〜
図9に基づいて説明する。
図1は、ハブダイナモ10の取付概要図である。なお、以下の説明では、本発明に係るハブダイナモ10を自転車1の車輪軸11に取り付け、自転車1の前照灯4に電力を供給する場合について説明する。この前照灯4には、ランプとして、フィラメント式の電球やLEDランプを採用することができる。ランプの駆動回路には、ハブダイナモ10の出力を整流し合成する回路が組み込まれている。
【0032】
(ハブダイナモの取付態様)
図1に示すように、自転車1の前輪5は、フレームの一部を構成するフロントフォーク3により車輪軸11を介して回転可能に軸支されている。車輪軸11は、両側がフロントフォーク3にナット(不図示)等により回転不能に締結固定されている。車輪軸11の軸方向中央の大部分には、ハブダイナモ10が車輪軸11と同軸に取り付けられている。このハブダイナモ10は、前輪5の側方に配置された前照灯4に電力を供給している。
【0033】
ハブダイナモ10は、前輪5のスポーク2に接続されて前輪5と共に車輪軸11の周囲を回転するロータ12と、ロータ12の内周側に位置する状態で車輪軸11に回転不能に取り付けられたステータ13と、を備えている。
【0034】
以下、車輪軸11の中心軸Oの軸方向を単に軸方向といい、軸方向に直交する方向を径方向といい、中心軸O周りに沿った方向を周方向という。なお、車輪軸11のうち、少なくともステータ13が取り付けられた部分よりも軸方向外側に位置する部分には、雄ねじ部11aが形成されている。
【0035】
(ロータ)
図2は、ハブダイナモ10の側面図、
図3は、ハブダイナモ10の断面図である。
図2、
図3に示すように、ロータ12は、ハブシェル100を主体に構成されている。ハブシェル100は、円筒状の胴部61と、胴部61の軸方向両端開口を塞ぐ第1のエンドプレート70および第2のエンドプレート80と、からなる。
【0036】
図3に示すように、胴部61の軸方向一方P側(
図3における左側)の開口は、製作時には開放されており、その開口を塞ぐように、胴部61と別体に製作された第2のエンドプレート80が、所定の組立工程後に胴部61の軸方向一方P側の端部に圧入固定されている。
胴部61の軸方向他方Q側(
図3における右側)の開口は、胴部61と一体に形成された第1のエンドプレート70により製作時から閉塞されている。円筒状の胴部61と、胴部61の軸方向他方Q側の開口を塞ぐ第1のエンドプレート70とは、一体部品のハブシェル本体60として製作されている。ハブシェル本体60と、それと別体の第2のエンドプレート80は、それぞれに一定厚の磁性金属板(主に鉄板)をプレス成形することで製作されている。
【0037】
ハブシェル本体60の胴部61の軸方向両端部外周には、径方向外側に向かって張り出す左右一対のフランジ部62が形成されている。各フランジ部62は、プレス成形の際に素材である金属板をU字形に折り返し、軸方向内側のフランジ板62aと軸方向外側のフランジ板62bとを互いに密着状態で重ね合わせることで形成されている。各フランジ部62には、軸方向に貫通する支持孔63が周方向に等間隔で複数形成されている。
支持孔63には、
図1に示すように、前輪5のリム5aから内径側に延在する複数のスポーク2の内側端部が係合されている。なお、左右のフランジ部62の支持孔63は、半ピッチ分だけ位相がずれて配置されている。
【0038】
胴部61の軸方向他方Q側の開口を閉塞する第1のエンドプレート70は、軸方向外側(Q側)に円錐形に膨らんだ環状の側壁71と、この側壁71の内周縁で軸方向内側(P側)に折れ曲がった円筒状のベアリング嵌合壁73と、このベアリング嵌合壁73の軸方向内側(P側)端で径方向内側に折れ曲がったベアリング押え壁74と、前記側壁71の外周縁から径方向外側に向けて連設されたフランジ部75と、を有している。
このフランジ部75が、胴部61の軸方向他方Q側のフランジ部62の外側のフランジ板62bと一体に連続していることで、胴部61と第1のエンドプレート70とが一体化されている。これにより、一体部品としてのハブシェル本体60が構成される。
【0039】
また、胴部61の軸方向一方P側の開口を閉塞する第2のエンドプレート80は、環状の側壁81と、この側壁81の内周縁で軸方向内側(Q側)に折れ曲がった円筒状のベアリング嵌合壁83と、このベアリング嵌合壁83の軸方向内側(Q側)端で径方向内方に折れ曲がったベアリング押え壁84と、側壁81の外周縁で軸方向内側(Q側)に折れ曲がった円筒状の圧入嵌合壁85と、を有している。
第2のエンドプレート80は、この円筒状の圧入嵌合壁85を、ハブシェル本体60の胴部61の軸方向一方P側の開口の内周に圧入嵌合させることで、胴部61に固定されている。
【0040】
第1のエンドプレート70および第2のエンドプレート80のベアリング嵌合壁73,83の径方向内側は、同軸上に位置する貫通孔72,82として開口しており、これら貫通孔72、82を画成するベアリング嵌合壁73,83の内周に、ベアリング(軸受)21、22がそれぞれ嵌合されている。そして、ハブシェル100を主体として構成されるロータ12は、ベアリング21,22を介して車輪軸11に回転可能に支持されることで、前輪5の回転と共に車輪軸11を中心に回転するようになっている。すなわち、ロータ12は、前輪5を回転可能に支持するハブとして機能している。
【0041】
ハブシェル本体60の胴部61の内周には、例えばフェライト等により形成された永久磁石19が配置されている。永久磁石19の外周面の曲率半径は、胴部61の内周面の半径と同等に設定されており、永久磁石19は、ヨークを介さずに磁性材料製の胴部61の内周に直接密着した状態で配置され、例えば接着剤等により貼付されている。永久磁石19を、胴部61の内周面に沿って円筒状に配置することで、永久磁石19はステータ13の外周面全体を覆っている。なお、永久磁石19は、周方向に複数に分割された状態で胴部61の内周に組み込まれている。
【0042】
この円筒状に配置された永久磁石19の内周面には、N極およびS極の磁極が周方向に沿って交互に着磁されている。具体的には、N極およびS極がそれぞれ10極ずつ、合計20極の磁極が交互にN極およびS極が並ぶように着磁されている。
【0043】
(ステータ)
図4は、ステータ13の斜視図である。
図3、
図4に示すように、ステータ13は、クローポール型の第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとを車輪軸11の軸方向に組み合わせることで構成されており、第1のステータユニット20AはA相の交番電流・電圧を出力し、第2のステータユニット20BはB相の交番電流・電圧を出力するようになっている。
【0044】
各ステータユニット20A,20Bは、車輪軸11に外嵌固定されている筒状のステータコア91と、ステータコア91に外嵌固定されているボビン92と、ボビン92に環状に巻回されているコイル93と、各ボビン92の軸方向両端側からこのボビン92の周囲を覆うように形成されたランドルユニット94と、をそれぞれ備えている。なお、第1のステータユニット20Aと、第2のステータユニット20Bは、それぞれほぼ同一に構成されているので、以下の第1実施形態では、第1のステータユニット20Aについて主に説明し、必要に応じて、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの相違点について説明する。
【0045】
図5は、第1のステータユニット20Aのボビン92およびステータコア91の斜視図、
図6は、
図5のA矢視図である。
図5、
図6に示すように、ステータコア91は、磁性を有する板材を断面略C字状に湾曲させて円筒状にしたものである。これにより、ステータコア91には、軸方向に沿うスリット部91aが形成されている。
【0046】
ボビン92は、ステータコア91に外嵌固定される筒状の胴体部92aと、胴体部92aの軸方向両端に一体形成されている一対の外フランジ部92b,92cとが一体成形されたものである。そして、胴体部92aの外周面と一対の外フランジ部92b,92cの内側面とにより形成される収納凹部95内に、コイル93が環状に巻回されている。
また、胴体部92aの内周面には、ステータコア91のスリット部91aに対応する箇所に、連通部96が軸方向に沿って一体成形されている。連通部96は、スリット部91aに嵌り込み可能なように四角筒状に形成されており、その内側にコイル93を2本分挿通することができるようになっている。
【0047】
ここで、ステータコア91のスリット部91aおよびボビン92の連通部96の位置は、ランドルユニット94に形成されている後述の第1スリット部103aに対応している。これにより、連通部96にコイル93を挿通することができる(詳細は後述する)。
なお、第2のステータユニット20Bのボビン92には、連通部96が形成されていない。
【0048】
さらに、一対の外フランジ部92b,92cには、それぞれ径方向に沿ってスリット部97a,97bが形成されている。スリット部97a,97bは、収納凹部95に巻回されたコイル93をボビン92の軸方向外側に向かって引き出すためのものであって、各外フランジ部92b,92cの外周縁から胴体部92aのやや手前に至る間に形成されている。また、スリット部97a,97bは、連通部96とは周方向でずれた位置に形成されている。
【0049】
また、一対の外フランジ部92b,92cの外側面には、それぞれ断面略半円形状の位置決め凸部98a,98bが3つずつ形成されている。軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されている3つの位置決め凸部98a、および軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されている3つの位置決め凸部98bは、それぞれ周方向に等間隔に配置されている。これら位置決め凸部98a,98bは、ランドルユニット94の位置決めを行うためのものである。
【0050】
ここで、軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aおよび位置決め凸部98aの位置と、軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されているスリット部97bおよび位置決め凸部98bの位置は、軸方向で重なり合う位置に設定されておらず、周方向にずれて配置されている(詳細は後述する)。これは、ランドルユニット94を構成する2つのランドル94a,94bをそれぞれ別々に位置決めするためである。以下、ランドルユニット94について詳述する。
【0051】
図7は、ランドルユニット94を構成する第1のランドル94aの斜視図、
図8は、第1のランドル94aを軸方向からみた平面図である。
ここで、ランドルユニット94は、ボビン92の軸方向一方P側(
図3参照)から取り付けられる第1のランドル94aと、ボビン92の軸方向他方Q側(
図3参照)から取り付けられる第2のランドル94bと、により構成されている。なお、2つのランドル94a,94bは、それぞれ同一形状であるので、以下の説明では、第1のランドル94aについてのみ説明し、第2のランドル94bについては、必要に応じて説明する。
【0052】
図7、
図8に示すように、第1のランドル94aは、ボビン92の軸方向一方P側(
図5参照)の外フランジ部92bおよびステータコア91の軸方向一方P側に当接する略円板状の側板部101と、側板部101の外周縁から軸方向に沿って屈曲延出する複数のティース部102(102−1)とが一体成形されたものである。ティース部102(102−1)の軸方向の長さは、ボビン92の軸方向の長さとほぼ同一になるように設定されている。
【0053】
ここで、ティース部102の数Aは、ロータ12の永久磁石19の磁極数をPとしたとき、
A=P/2・・・(1)
を満たすように設定されている。本第1実施形態では、磁極数Pは20極に設定されているので、ティース部102の数Aは、
A=P/2=20/2=10個
に設定されている。
【0054】
また、複数のティース部102(102−1)は、周方向に等間隔に配置されており、ロータ12の永久磁石19と径方向で空隙を介して対応するようになっている。また、ティース部102(102−1)は、周方向に隣接する2つのティース部102(102−1)間に、第2ランドル94bのティース部102(102−2)が介装可能な大きさに形成されている。
【0055】
側板部101の外周縁には、周方向で隣接するティース部102間に、U字溝101aが形成されている。これにより、側板部101とティース部102との接続部に、局所的な応力がかかることが防止できると共に、第1のランドル94aの側板部101に、第2のランドル94bのティース部102(102−2)が接触してしまうことを防止できる。
また、側板部101の径方向中央には、車輪軸11を挿通可能な挿通孔101bが形成されている。さらに、側板部101には、挿通孔101bの周囲に、複数(本第1実施形態では、5個)のスリット103が周方向に等間隔で形成されている。
【0056】
図8に詳示するように、スリット103は、第1のランドル94aに流れる渦電流を抑制する役割を有すると共に、ボビン92から軸方向外側に向かって引き出されたコイル93が挿通されるコイル93の通路部としての役割を有する。スリット103は、U字溝101aと、挿通孔101bとの間に配置されており、径方向に沿って延びる第1スリット部103aと、第1スリット部103aの径方向外側端から周方向に沿って屈曲延出する第2スリット部103bとが連通形成されたものである。
第2スリット部103bの形成位置は、側板部101のU字溝101aの径方向内側に設定されている。
【0057】
第1スリット部103aの形成位置について、より詳しく説明する。
すなわち、第1のランドル94aのティース部102(102−1)と、第2のランドル94bのティース部102(102−2)の総個数(以下、ティース部102の総個数という)をSAとしたとき、第1スリット部103aの周方向の中心P1と、ティース部102の周方向の中心P2とのずれ角度△Dは、
△D=360/(SA×2)・・・(2)
を満たすように設定されている。
【0058】
本第1実施形態では、ティース部102の総個数SAは20個であるので、第1スリット部103aの周方向の中心P1とティース部102の周方向の中心P2とのずれ角度△Dは、
△D=360/(SA×2)=360/(20×2)=9度
に設定される。
【0059】
ここで、各ランドル94a,94bのティース部102の個数は、それぞれ10個であるので、周方向に隣接する2つのティース部102の周方向の中心間の角度は、360/10=36度であり、周方向に隣接する2つのティース部102の間の中心P3と、ティース部102の周方向の中心P2との間の角度は、36/2=18度となる。
すなわち、第1スリット部103aの周方向の中心P1は、周方向に隣接する2つのティース部102の間の中心P3と、ティース部102の周方向の中心P2との間の中心ということになる。
【0060】
このような構成のもと、
図1、
図4に示すように、第1のランドル94aは、ボビン92の軸方向一方P側から取り付けられ、第2のランドル94bは、ボビン92の軸方向他方Q側から取り付けられる。そして、ボビン92の軸方向一方P側(
図5参照)の外フランジ部92bおよびステータコア91の軸方向一方P側に、第1のランドル94aの側板部101が当接すると共に、ボビン92の軸方向一方Q側(
図5参照)の外フランジ部92cおよびステータコア91の軸方向一方Q側に、第2のランドル94bの側板部101が当接する。
【0061】
また、第1のランドル94aの周方向に隣接するティース部102(102−1)の間に、それぞれ第2のランドル94bの各ティース部102(102−2)が介装した状態になる。すなわち、ランドルユニット94は、第1のランドル94aのティース部102(102−1)と、第2のランドル94bのティース部102(102−2)とが周方向に交互に配置される。
なお、各ランドル94a,94bは、それぞれボビン92の各外フランジ部92b,92cに形成されている位置決め凸部98a,98bに嵌り込むことにより、位置が決定すると共に、周方向のずれが防止される。
【0062】
ここで、第1のランドル94aと第2のランドル94bとの周方向のずれ(位相ずれ)は、周方向に隣接する2つのティース部102の間の中心P3と、ティース部102の周方向の中心P2との間の角度と同様に、36/2=18度となる。
すなわち、
図6に示すように、軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aおよび位置決め凸部98aの位置と、軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されているスリット部97bおよび位置決め凸部98bの位置とのずれ角度△θは、18度に設定されている。
【0063】
また、
図8に詳示するように、各ランドル94a,94bに形成されているスリット103の第1スリット部103aの周方向の中心P1と、ティース部102の周方向の中心P2とのずれ角度△Dは、式(2)を満たすように設定されている。このため、第1のランドル94aに形成されている第1スリット部103aと、第2のランドル94bに形成されている第1スリット部103aとが、軸方向で重なり合う。
【0064】
ここで、ボビン92に形成されている連通部96の形成位置は、各ランドル94a,94bの第1スリット部103aに対応している。このため、連通部96と、各ランドル94a,94bの第1スリット部103aとが、連通した状態になっている。
一方、ボビン92に形成されている各スリット部97a,97bの形成位置は、それぞれ対応するランドル94a,94bのU字溝101aに対応している。このため、第2スリット部103bは、ボビン92に形成されているスリット部97a,97bと軸方向で重なり合う。これにより、第2スリット部103bと、各スリット部97a,97bとが、連通した状態になる。
【0065】
このような構成のもと、車輪軸11に、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとが並んで取り付けられる。第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの間には、スペーサ104が設けられている。スペーサ104は、車輪軸11に外嵌固定されるリング状のものであって、ボビン92の連通部96および各ランドル94a,94bの第1スリット部103aに対応する箇所に、スリット104aが形成されている。スリット104aを形成することにより、ボビン92の連通部96および各ランドル94a,94bの第1スリット部103aが、スペーサ104によって閉塞されてしまうことを防止できる。
【0066】
また、スペーサ104を設けることにより、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの間に、これらステータユニット20A,20Bを軸方向に離間させる所定寸法の間隙K1が確保される。この間隙K1は、コイル93を配索するスペースとして利用される。
さらに、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bは、各ステータユニット20A、20Bのティース部102の位置を所定角度だけ周方向に相互にずらして、つまり、位相をずらして組み合わせられている。これにより、各ステータユニット20A、20Bの各コイル93から、位相のずれたA相とB相の2相の交番電流・電圧が出力されるようになっている。
【0067】
なお、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの位相をずらして配置するために、第2のステータユニット20Bのボビン92には、上述したように連通部96が形成されていない。連通部96が形成されていないので、ステータコア91のスリット部91aに連通部96が嵌り込むこともない。このため、第2のステータユニット20Bは、周方向に回転自在となっており、第1のステータユニット20Aに対して所定角度だけ周方向に回転させて固定できる。これら第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bの固定方法については後述する。
【0068】
(コイルの引出し方法)
ここで、
図3〜
図5、
図7に基づいて、第1のステータユニット20Aに巻回されているコイル93および第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93の引出し方法について説明する。
まず、第1のステータユニット20Aに巻回されているコイル93(93a)の引出し方法について説明する。
このコイル93(93a)は、始端側をボビン92の軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aを介して軸方向一方P側に引き出し、この状態でボビン92の収納凹部95に巻回する。そして、コイル93(93a)の終端も、スリット部97aを介して軸方向一方P側に引き出す。さらに、スリット部97aから引き出されたコイル93(93a)の端末部は、スリット部97aと連通している第1のランドル94aの第2スリット部103bを介し、軸方向一方P側に引き出す。
【0069】
続いて、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)の引出し方法について説明する。
このコイル93(93b)も、始端側をボビン92の軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aを介して軸方向一方P側に引き出し、この状態でボビン92の収納凹部95に巻回する。そして、コイル93(93b)の終端も、スリット部97aを介して軸方向一方P側に引き出す。さらに、スリット部97aから引き出されたコイル93(93b)の端末部は、スリット部97aと連通している第1のランドル94aの第2スリット部103bを介し、軸方向一方P側に引き出す。
【0070】
第1のランドル94aから軸方向一方P側に引き出されたコイル93(93b)の端末部は、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの間に形成されている間隙K1およびスペーサ104のスリット104aを介し、第1のステータユニット20Aの連通部96、および各ランドル94a,94bの第1スリット部103aに挿通される。そして、コイル93(93b)の端末部は、第1のステータユニット20Aの軸方向一方P側に引き出される。
これにより、第1のステータユニット20Aにおけるコイル93(93a)の端末部と、第2のステータユニット20Bにおけるコイル93(93b)の端末部とが、まとめてステータ13の軸方向一方P側に引き出される。
【0071】
(規制部)
図3に示すように、車輪軸11のうち、ステータ13の軸方向両側に位置する部分には、ステータ13の軸方向の移動および周方向の回転を規制する規制部105が設けられている。規制部105は、車輪軸11のうち、ステータ13の軸方向一方P側に設けられたスペシャルナット30と、軸方向他方Q側に設けられたステータ固定部材37と、を備えている。
ステータ13を構成する第1のステータユニット20Aおよび第2のステータユニット20Bは、スペシャルナット30およびステータ固定部材37と、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの間に設けられたスペーサ104とにより、軸方向の定位置に挟持固定されている。そして、挟持されることにより生じる摩擦抵抗により、第1のステータユニット20Aおよび第2のステータユニット20Bの周方向の回転も規制される。
【0072】
スペシャルナット30は、軸方向一方P側に形成されたスリーブ部30aと、軸方向一方P側に形成されてスリーブ部30aに対して外径が拡大されたフランジ部30bとを備えている。そして、内周に形成されている雌ねじ部30dを車輪軸11の雄ねじ部11aに螺着することで、車輪軸11の外周に固定されている。
【0073】
スリーブ部30bの外周面は、第2のエンドプレート80のベアリング嵌合壁83に外輪を嵌合させたベアリング22の内輪の内周に、圧入等により固定されている。フランジ部30bは外径がベアリング22の内径よりも大径に形成され、軸方向一方P側に位置する端面がベアリング22の内輪に軸方向で当接している。これにより、ベアリング22は、外輪側が車輪軸11周りに回転自在となるように装着されている。
【0074】
一方、フランジ部30bにおける軸方向他方Q側に位置する端面は、第1のステータユニット20Aを構成する第1のランドル94aの側板部101に軸方向で当接している。
ここで、
図4に示すように、スペシャルナット30の外周面には、第1のランドル94aに形成されているスリット103に対応する位置に、ステータ13の軸方向一方P側に引き出されたコイル93の端末部を、ハブダイナモ10の外部に引き出すための溝30cが形成されている。
【0075】
図3に示すように、第2のエンドプレート80の外側にはコネクタ40が配設され、このコネクタ40にコイル93の端末部が導入されている。このコイル93の端末部は、スペシャルナット30の溝30c(
図4参照)内を経由してコネクタ40の導線引出部43に導かれ、導線引出部43を通ってハブダイナモ10の外部に引き出されている。コネクタ40の内周部には、スペシャルナット30のスリーブ部30aが挿通され、コネクタ40はワッシャ45を介して、ナット46により車輪軸11に固定されている。
【0076】
車輪軸11におけるステータ固定部材37よりも軸方向他方Q側には、スリーブ50が設けられている。このスリーブ50は、内周面に雌ねじ部50cが形成された筒状の部材であり、軸方向他方Q側から車輪軸11の雄ねじ部11aに煉着されている。具体的に、スリーブ50は、軸方向一方P側に形成されたスリーブ本体50aと、軸方向他方Q側に形成されてスリーブ本体50aに対して外径が拡大されたフランジ部50bとを備えている。
【0077】
このフランジ部50bは、多角筒状に形成されており、軸方向一方P側の端面が、第1のエンドプレート70側のベアリング21の内輪に軸方向で当接している。スリーブ本体50aは、円筒状に形成されており、第1のエンドプレート70側のベアリング21の内輪の内周に内嵌されている。具体的に、スリーブ本体50aは、外径がベアリング21の内径と同等か若干大径に設定されており、ベアリング21の内輪の内周に圧入等により固定されている。
【0078】
第1のエンドプレート70の外側には、ベアリング21およびスリーブ50を覆うようにカバー54が装着されている。カバー54は、椀形状に形成された部材であり、外部からロータ12の内部に水や塵浜等が浸入するのを防止している。カバー54の内周部には、スリーブ50を緩み止めするために車輪軸11に螺着されたナット52が配置されている。
【0079】
(発電の仕組み)
このように構成されたハブダイナモ10の発電は、以下の要領で行われる。
すなわち、前輪5が回転すると、スポーク2により前輪5に接続されたロータ12が前輪5と共に車輪軸11周りに回転し、永久磁石19がステータ13周りを回転する。
【0080】
回転する永久磁石19の磁束により、各ステータユニット20A,20Bの軸方向一方P側に設けられた第1のランドル94aのティース部102(102−1)がS極、軸方向他方Q側に設けられた第2のランドル94bのティース部102(102−2)がN極となる状態と、第1のランドル94aのティース部102(102−1)がN極、軸方向他方Q側に設けられた第2のランドル94bのティース部102(102−2)がS極となる状態と、が交互に繰り返される。
【0081】
これにより、A相の第1のステータユニット20Aのステータコア91とB相の第2のステータユニット20Bのステータコア91に交番磁束が発生し、この交番磁束により、第1および第2のステータユニット20A、20Bの各コイル93(93a,93b)に電流が流れて発電が行われる。
この際、第1のステータユニット20Aのコイル93(93a)から出力される交番電流・電圧と、第2のステータユニット20Bのコイル93(93b)から出力される交番電流・電圧とは、位相がずれており、同時に交番電圧が0Vに落ちる点がない。
【0082】
(効果)
上述の第1実施形態では、第1のステータユニット20Aのボビン92に連通部96を設け、この連通部96を介し、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93を第1のステータユニット20Aの軸方向一方P側に引き出している。このため、例えば、ハブダイナモ10の外周部にコイル93を引き回す必要がない。よって、ハブダイナモ10のデザイン性や機能を損なうことなく、2つのステータユニット20A,20Bに巻回されているコイル93の端末部を、軸方向一方P側からまとめて引き出すことができる。
【0083】
また、連通部96は、ボビン92の胴体部92aの内周面側に一体形成されていると共に、ステータコア91に、連通部96を嵌め込むスリット部91aを形成している。このため、第1のステータユニット20Aのボビン92上に、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93が配索されることもない。よって、簡素な構造で、2つのステータユニット20A,20Bに巻回されているコイル93の端末部を、軸方向一方P側からまとめて引き出すことができると共に、第1のステータユニット20Aのボビン92に巻回されるコイル93の占積率が低下してしまうことを防止できる。
さらに、スリット部91aに連通部96が嵌り込むことにより、車輪軸11に対してボビン92が回ってしまうことも防止できると共に、ボビン92の位置決めを容易に行うことができる。
【0084】
そして、ステータコア91のスリット部91aや連通部96が車輪軸11の軸方向に沿って形成されているので、コイル93の配索経路を最短経路とすることができる。
また、ランドルユニット94を構成する各ランドル94a,94bの側板部101に、スリット103を形成することにより、各側板部101からスムーズにコイル93を引き出すことができる。このため、局所的にコイル93が折れ曲がったりすることを防止でき、コイルをスムーズに配索することができる。
【0085】
さらに、スリット103を、第1スリット部103aと第2スリット部103bとにより構成し、第1スリット部103aの周方向の中心P1と、ティース部102の周方向の中心P2とのずれ角度△Dを、式(2)を満たすように設定している。このため、第1のランドル94aと第2のランドル94bを同一形状としても、これら2つのランドル94a,94bを組み立てた際、これらランドル94a,94bの第1スリット部103aを軸方向で重ね合わせることができる。よって、部品の共通化が図れ、ハブダイナモ10の製造コストを低減できると共に、ハブダイナモ10の組立性を向上できる。
また、スリット103を形成することにより、ハブダイナモ10で発電が行われる際、各ランドル94a,94bの側板部101に渦電流が生じてしまうことを抑制できる。
【0086】
なお、上述の第1実施形態では、ボビン92において、軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aおよび位置決め凸部98aの位置と、軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されているスリット部97bおよび位置決め凸部98bの位置は、軸方向で重なり合う位置に設定されておらず、周方向にずれて配置されている場合について説明した。また、各スリット部97a,97bは、連通部96とは周方向でずれた位置に形成されている場合について説明した。
【0087】
しかしながら、これに限られるものではなく、例えば、
図9に示す本第1実施形態の変形例におけるボビン92の斜視図のように、軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aと、軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されているスリット部97bとを軸方向で重なるように形成し、さらに、各スリット部97a,97bと連通部96とが連通するように形成してもよい。
なお、この場合であっても、軸方向一方P側の外フランジ部92bに形成されている位置決め凸部98aと、軸方向他方Q側の外フランジ部92cに形成されている位置決め凸部98bの位置は、対応するランドル94a,94bの位相に応じて設定する必要がある。
【0088】
(第2実施形態)
(ハブダイナモ)
次に、この発明の第2実施形態を
図10、
図11に基づいて説明する。なお、前述の第1実施形態と同一態様については、同一符号を付して説明を省略する。
図10は、この第2実施形態におけるハブダイナモ210の断面図である。
同図に示すように、前述の第1実施形態と第2実施形態との相違点は、第1実施形態における第1のステータユニット20Aのボビン92には、連通部96が形成されているが、第2実施形態における第1のステータユニット220Aのボビン292には、連通部96が形成されていない点にある。そして、第1のステータユニット20Aのステータコア91のスリット部91a、および第2のステータユニット20Bのステータコア91のスリット部91aには、これら2つのスリット部91aに挿通するリード線ユニット206が配索されている。
【0089】
(リード線ユニット)
図11は、リード線ユニット206の側面図である。
同図に示すように、リード線ユニット206は、2つのリード線207と、これらリード線207を被覆するように樹脂モールド成形された樹脂モールド部208と、により構成されている。
樹脂モールド部208の断面積は、各ステータユニット20A,20Bにおけるステータコア91のスリット部91aに配索可能な大きさに設定されている。また、樹脂モールド部208の長さは、各ステータユニット20A,20Bを車輪軸11に取り付けた状態で、その両端が各ステータユニット20A,20Bから僅かに突出する長さに設定されている。
2つのリード線207の端末部は、それぞれ樹脂モールド部208の両端から突出した状態になっている。
【0090】
このような構成のもと、
図10に示すように、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)の始端および終端は、それぞれボビン92の軸方向他方Q側(
図10における右側)の外フランジ部92bに形成されているスリット部97aを介して軸方向他方Q側に引き出されている。そして、コイル93(93b)の始端および終端は、それぞれリード線ユニット206の2つのリード線207の一端に半田により接続されている。
一方、リード線ユニット206の2つのリード線207の他端は、第1のステータユニット20Aに巻回されているコイル93(93a)と共に、軸方向一方P側(
図10における左側)に引き出されている。
【0091】
したがって、上述の第2実施形態によれば、前述の第1実施形態のように、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)を、第1のステータユニット20Aの連通部96、および各ランドル94a,94bの第1スリット部103aに挿通させる必要がなくなる。このため、ハブダイナモ210の組立作業性を向上させることができる。
また、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとを同一構造とすることができ、部品点数を削減できると共に、部品管理を容易にすることができる。
【0092】
さらに、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)の始端および終端を、第1のステータユニット20Aとは反対側の軸方向他方Q側に引き出すことができる。そして、この引き出したコイル93(93b)の始端および終端を、リード線ユニット206の2つのリード線207の一端に接続するだけで、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)の始端および終端を、軸方向一方P側に引き出したのと同じにすることができる。このため、第2のステータユニット20Bに巻回されているコイル93(93b)の始端および終端の引き回しを簡略化でき、ハブダイナモの組立作業性をさらに向上させることができる。
【0093】
なお、上述の第2実施形態では、コイル93(93b)の始端および終端を、それぞれリード線ユニット206の2つのリード線207の一端に半田により接続した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、コイル93(93b)とリード線207とが接続されていればよい。例えば、圧着端子等を用いて接続することも可能である。
【0094】
また、上述の第2実施形態では、リード線ユニット206は、2つのリード線207と、これらリード線207を被覆するように樹脂モールド成形された樹脂モールド部208と、により構成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、リード線ユニット206は、2つのリード線207が絶縁性を有する部材で被覆されたものであればよい。例えば、樹脂モールド部208に代わって、樹脂製のチューブで2つのリード線207を被覆してもよい。
【0095】
さらに、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ステータ13を構成する第1のステータユニット20Aおよび第2のステータユニット20Bは、スペシャルナット30およびステータ固定部材37と、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとの間に設けられたスペーサ104とにより、軸方向の定位置に挟持固定されている場合について説明した。そして、挟持されることにより生じる摩擦抵抗により、第1のステータユニット20Aおよび第2のステータユニット20Bの周方向の回転も規制される場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第1のステータユニット20Aと第2のステータユニット20Bとを、周方向の位相が所定角度ずれた関係で組み合わるように、別途、周方向位置決め手段を設けてもよい。
【0096】
また、上述の実施形態では、第2のステータユニット20Bのボビン92には、連通部96が一体成形されていない場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第2のステータユニット20Bのボビン92に連通部96を設けてもよい。この場合、第2のステータユニット20Bのボビン92に形成される連通部96の位置は、第1のステータユニット20Aに対する第2のステータユニット20Bの周方向の位相が所定角度ずれるように設定することが望ましい。
【0097】
さらに、上述の実施形態では、ステータ13が、2つのステータユニット20A,20Bで構成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、3つ以上のステータユニットによりステータ13を構成してもよい。この場合、各ステータユニットに巻回されているコイル93を引き出す方向に基づいて、所望のステータユニットのボビン92に、連通部96を形成すればよい。
そして、上述の実施形態では、各ランドル94a,94bの側板部101には、挿通孔101bの周囲に、5個のスリット103が周方向に等間隔で形成されている場合について説明した。しかしながら、スリット103の個数は5個に限定されるものではない。