特許第6286172号(P6286172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286172
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】不均質セルロースフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C08J5/18CEP
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-211081(P2013-211081)
(22)【出願日】2013年10月8日
(65)【公開番号】特開2015-74704(P2015-74704A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年9月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079050
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 憲秋
(72)【発明者】
【氏名】熊田 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恵介
(72)【発明者】
【氏名】八尾 滋
(72)【発明者】
【氏名】石堂 将多
【審査官】 赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−152501(JP,A)
【文献】 特開2012−211302(JP,A)
【文献】 特開2007−025045(JP,A)
【文献】 特開2012−025704(JP,A)
【文献】 特開平07−207184(JP,A)
【文献】 特開2012−116905(JP,A)
【文献】 特開2010−131486(JP,A)
【文献】 特開2014−205787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/24
C08J 9/00− 9/42
B29C55/00−61/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラブチルアンモニウムアセテートと、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルアセトアミドのいずれかからなる非プロトン性有機溶媒とを、重量混合比において前者:後者として、5:95〜35:65の割合にて混合し混合溶媒を調製する溶媒調製工程と、
セルロース原料であるパルプを前記混合溶媒に溶解してセルロース溶解液を得る溶解工程と、
前記セルロース溶解液を膜状物に加工する膜化工程と、
前記膜状物を、トルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジエチルフタレート、リン酸トリクレジル、またはジオクチルフタレートから選択される凝固用有機溶媒前記凝固用有機溶媒の後に水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、
前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有する
ことを特徴とする不均質セルロースフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記溶解工程における前記セルロース原料の溶解温度が20〜50℃である請求項1に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記凝固工程において、前記膜状物と前記凝固用有機溶媒との接触は20ないし40℃の条件下において5分間以下であり、かつ、前記膜状物と水との接触は20ないし40℃の条件下において1分間以内である請求項1または2に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不均質セルロースフィルムの製造方法に関し、特に安価に調製可能な溶媒を用いてセルロース原料を溶解する不均質セルロースフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプのセルロースを原料としてセルロースのフィルム状物、つまりセロハンを製造する場合、ビスコース法による製造が一般的である。ビスコース法による製造の場合、パルプを水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液に浸漬した後、二硫化炭素を添加して硫化し、さらにアルカリ溶解によりビスコースを調製していた。そしてビスコースを熟成後、これに硫酸等の酸溶液中へ膜状に吐出することにより凝固反応が生じ、事後セロハン等のセルロースフィルムを得ることができる。
【0003】
その後、セルロースの加工性、つまり、セルロース原料の溶液調製をより簡便に改善するべく、イオン液体により効率よく溶解する手法が開発されている(特許文献1、2、3、4、5等参照)。
【0004】
特許文献1は、セルロースにイミダゾリウム塩等のイオン液体を添加、混合し、ここにマイクロ波を照射して溶解を促す方法を開示する。特許文献2は、主に複素環のイオン液体とポリアクリロニトリル等を混合して溶媒を調製し、これとセルロース等の樹脂を混合した後、凝固溶媒として水を用いて適宜形状に形成する方法を開示する。特許文献3は、イミダゾリウム塩等のイオン液体を使用し、当該イオン液体と水、イオン液体とアルコール、またはイオン液体とアセトアミドの組み合わせからなるセルロースを溶解する溶剤を開示する。特許文献4は、イミダゾリウム塩等のイオン液体を使用し、当該イオン液体と窒素系有機溶媒からなるセルロースを溶解する溶剤を開示する。併せて、前記調製の溶剤にセルロースを溶解後、アルコール浴中で繊維状、フィルム状に加工した例を開示する。特許文献5によると、イミダゾリウム塩等のイオン液体と、ハンセン法の溶解度パラメータで規定した非プロトン性有機溶媒を用いてセルロースを溶解する手法を開示する。
【0005】
前記の各特許文献は、一般に均一形態、均一性状のセルロースフィルムの生成を対象とした手法である。そのため、既存のセロハンフィルムの製造方法の代替として期待されている。ここで、セルロースフィルムは高い親水性をはじめとする特性を有することから、浸透膜や分離膜等の機能性膜への応用も検討される。この場合、セルロースフィルムは平滑であるよりも凹凸を増やすことによって表面積を増やすことができる。
【0006】
ビスコース法や各特許文献に記載の方法では均質性状のセルロースフィルムの製造は可能ではある。しかしながら、あえて表面を粗面化した不均質なセルロースフィルムを調製することは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4242768号公報(WO2003/029329)
【特許文献2】特表2007−530743号公報(WO2005/098546)
【特許文献3】特開2008−50595号公報
【特許文献4】特開2009−203467号公報
【特許文献5】特開2011−184541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
その後、発明者らはセルロースの溶解に用いる溶媒として、イオン液体等に代わる新たな溶媒の検討、改良を重ねた。その結果、セルロースの効率的な溶解を可能とするとともに、より安価な溶媒を得て不均質セルロースフィルムの製造方法を改善するに至った。
【0009】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、セルロース原料の溶解にイオン液体に代わる溶媒を用いたセルロースフィルムの製造方法であって、再生セルロースの性状を不均質状の粗面とする不均質セルロースフィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、テトラブチルアンモニウムアセテートと、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルアセトアミドのいずれかからなる非プロトン性有機溶媒とを、重量混合比において前者:後者として、5:95〜35:65の割合にて混合し混合溶媒を調製する溶媒調製工程と、セルロース原料であるパルプを前記混合溶媒に溶解してセルロース溶解液を得る溶解工程と、前記セルロース溶解液を膜状物に加工する膜化工程と、前記膜状物を、トルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジエチルフタレート、リン酸トリクレジル、またはジオクチルフタレートから選択される凝固用有機溶媒前記凝固用有機溶媒の後に水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有することを特徴とする不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。
【0011】
請求項2の発明は、前記溶解工程における前記セルロース原料の溶解温度が20〜50℃である請求項1に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。
【0012】
請求項3の発明は、前記凝固工程において、前記膜状物と前記凝固用有機溶媒との接触は20ないし40℃の条件下において5分間以下であり、かつ、前記膜状物と水との接触は20ないし40℃の条件下において1分間以内である請求項1または2に記載の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明に係る不均質セルロースフィルムの製造方法によると、テトラブチルアンモニウムアセテートと、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルアセトアミドのいずれかからなる非プロトン性有機溶媒とを、重量混合比において前者:後者として、5:95〜35:65の割合にて混合し混合溶媒を調製する溶媒調製工程と、セルロース原料であるパルプを前記混合溶媒に溶解してセルロース溶解液を得る溶解工程と、前記セルロース溶解液を膜状物に加工する膜化工程と、前記膜状物を、トルエン、ベンゼン、キシレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、ジエチルフタレート、リン酸トリクレジル、またはジオクチルフタレートから選択される凝固用有機溶媒前記凝固用有機溶媒の後に水の順に接触させてセルロース凝固物を得る凝固工程と、前記セルロース凝固物を親水性有機溶媒に接触させてセルロース固定化物を得る固定化工程とを有するため、イオン液体に代わる溶媒を用いてセルロース原料の溶解を可能とし、再生セルロースの性状を不均質状の粗面とする不均質セルロースフィルムの製造方法を確立することができた。
【0014】
また、前記セルロース原料がパルプであるため、樹脂状であり高純度でI型結晶のセルロースが含まれる。
【0015】
請求項2の発明に係る不均質セルロースフィルムの製造方法によると、請求項1の発明において、前記溶解工程における前記セルロース原料の溶解温度が20〜50℃であるため、非プロトン性有機溶媒の適度な流動性を確保し、溶解促進に伴う過剰な反応を防ぐことができる。また、加熱のための設備負担も軽減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法に係る工程図である。
図2】実施例3の電子顕微鏡写真(1500倍)である。
図3】実施例9の電子顕微鏡写真(1500倍)である。
図4】実施例10の電子顕微鏡写真(1500倍)である。
図5】実施例12の電子顕微鏡写真(1500倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の製造方法により製造される不均質セルロースフィルムとは、天然物由来のセルロースを有機溶媒の混合溶媒中にいったん溶解することにより流動性を高めて加工性を向上させ、その上であらためてフィルム状にして得た成形物である。当該成形物中、I型結晶のセルロースを残存させることによってII型結晶のセルロースと混在させてセルロースフィルム自体の組成を不均質としていると考えられている。この点は、既存のビスコース法によるセロハンの製造と著しく異なる。フィルム内の構造組成を不均質化することにより、例えば、フィルム表面の平滑さが失せて凹凸が多くなりフィルム表面積が増加し、新たな機能が付与される。例えば、セルロースの親水性に起因した分離膜や透過膜として有望である。これより、図1の工程図を用い本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法について順に説明する。
【0018】
不均質セルロースフィルムを構成する出発原料となるセルロース原料(CM:Cellulose Meterials)として、パルプが好ましく挙げられる。パルプは、主に木材を粉砕し、リグニン等の不純物を除去してセルロース成分の純度が高められた原料である。また、綿花からも不純物を除去してセルロース成分の純度が高められたコットンリンターパルプが用いられる。特に高純度でI型結晶のセルロースを含有していることが知られている。加えて、樹脂状であるためパルプはセルロース原料として好ましい。
【0019】
セルロース原料を溶解する混合溶媒は、テトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒を混合して調製した溶媒である。テトラブチルアンモニウムアセテート(テトラブチルアンモニウムアセタート)については図や表にて「TBAA」と略記する。
【0020】
テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)は、炭化水素基を備える4級アンモニウムの酢酸塩でありイオン化合物である。そして、当該物質は、セルロースの結晶の溶解に実際に寄与し、先行技術に掲げたイオン液体の代替となる新たな原料である。発明者らの検証によると、例えばイミダゾリウム塩化合物等のイオン液体と比較した場合、本発明で使用するアンモニウム塩はイオン液体よりもセルロース原料の高い溶解効率を発揮したことによる。また、イオン液体よりも安価であることも理由である。
【0021】
非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)(NPS:Non−Protonic Organic Solvent)は、ジメチルスルホキシドまたはN,N−ジメチルアセトアミドのいずれかから選択される。テトラブチルアンモニウムアセテートはイオン液体と異なり常温では固体である。このため、そのままセルロース原料と混合しても溶解、液状化に至らない。よって、テトラブチルアンモニウムアセテートを容易に溶解できること、並びに、溶解後のセルロース原料の安定化、以降の加工時の流動性調整に好適な溶媒が必要となる。
【0022】
なお、後記の実施例では、セルロース原料をより確実に溶解するため、当初、事前に非プロトン性有機溶媒にセルロース原料を分散させ、その後、セルロース原料を溶解するべくテトラブチルアンモニウムアセテートを添加する2段階混合とした。その後、攪拌方法を改良したことにより、テトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒を混合して調製した混合溶媒に直接セルロース原料を投入し溶解することも可能とした。そこで、本発明のとおり、混合溶媒にセルロース原料を添加、溶解する方法を構築するに至った。混合溶媒を使用する利点については後述する。
【0023】
混合溶媒を構成する4級アンモニウム塩は自明ながら強い電荷を有する。また、セルロース原料の主成分であるセルロースは、その分子内に水酸基を大量に備えることから、水素結合等で静電気的に結合している。仮にプロトン系の溶媒を用いる場合、プロトン系の溶媒と4級アンモニウム塩との電気的な結合が生じてしまい、4級アンモニウム塩によるセルロースの水素結合の切断は阻害される。そのため、プロトン系の有機溶媒は不適当と考えられる。
【0024】
加えて、非極性(無極性)の有機溶媒ではテトラブチルアンモニウムアセテート等のイオン化合物を溶解することが困難である。このことから、ジメチルスルホキシドやN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性有機溶媒が好適である。列記の非プロトン性有機溶媒は量的に調達が容易であることも挙げられる。
【0025】
テトラブチルアンモニウムアセテート(前者)と非プロトン性有機溶媒(後者)との混合に際し、重量混合比(重量部)において、前者:後者として、5:95ないし35:65の割合で混合溶媒に調製される。単位は双方の合計を100とする重量部(重量パーセント)である。
【0026】
テトラブチルアンモニウムアセテート量が5重量部を下回る場合、例えば2重量部の場合、当該テトラブチルアンモニウムアセテート量が少なすぎでありセルロース原料を十分に溶解できなかった。テトラブチルアンモニウムアセテート量が35重量部を上回る場合、例えば40重量部の場合、当該テトラブチルアンモニウムアセテート量が多すぎることから、相対的に非プロトン性有機溶媒が少なくなり混合溶媒はスラリー状となり流動性が低下しやすくなった。それゆえ、溶解後の溶液の流動性や均質性が悪くなり、溶媒としての適性は相応しくなくなる。そこで、溶媒としての性能上の適性を勘案して、前掲の重量混合比(重量部)の範囲値内としている。
【0027】
以上のとおり、予め、テトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒は前記の範囲内の所定重量ずつ混合され、混合溶媒が調製される(S1)。当該工程(S1)が溶媒調製工程である。
【0028】
そして、セルロース原料は前記の混合溶媒中に溶解される。セルロース原料の良好な溶解を勘案してセルロース原料は概ね3ないし7重量%の濃度である。むろん、テトラブチルアンモニウムアセテートの量いかんによりセルロース原料の添加量の増減はあり得る。しかし、3重量%を大きく下回る程度では希薄過ぎるため、事後の加工や処理の取り扱いが難しくなる。10重量%を超過する濃度では、粘性が高くなりすぎであり事後の処理での伸びが悪くなる。
【0029】
セルロース原料を混合溶媒に溶解するに際し、溶解は20℃ないし50℃の温度条件で行われる。ジメチルスルホキシドの凝固温度は約19℃であるため、混合溶媒の調製にジメチルスルホキシドを使用する場合、凝固温度以上とする必要がある。凝固温度以下では混合溶媒の流動性が低下する。なお、N,N−ジメチルアセトアミドが混合溶媒に使用される場合、さらに低い温度も許容される。ただし、セルロース原料とテトラブチルアンモニウムアセテートとの適度な反応性を確保する観点から、少なくとも流動性を発揮するため20℃の温度が必要と考える。溶解温度が50℃を超過するような高温度域の場合、テトラブチルアンモニウムアセテートとの反応性によりセルロース原料の溶解が促進することから均質化が過剰に進み、所望の不均質な性状とならないと考えられる。そのため、50℃付近を溶解時の上限温度とした。
【0030】
セルロース原料を混合溶媒に溶解する際の温度は、前述のとおり、比較的温和な温度域であることから、溶解時に特段加熱等の設備を必要としない。いわゆる、常温下での作業が可能となる。あるいは、簡便な加温装置等で足りる。従って、不均質フィルムの生産に要する設備経費を軽減可能である。また、混合溶媒の成分の蒸発も抑制できることから、作業環境の安全性も高まる。
【0031】
むろん、溶解反応は温度以外に時間も考慮される。ただし、溶解時の温度を上げ短時間の処理とすることは可能ではあるものの、溶解時の溶液の均質性、残存する結晶成分の制御が難しい。このため、本発明においては溶解促進の制御に時間的な余裕を生じさせ、途中の操作を容易とすることを優先した。後記の実施例によるとおよそ10分間の攪拌時間である。当該工程(S2)が溶解工程である。
【0032】
テトラブチルアンモニウムアセテートは、アルキル基を有することから有機化合物であり、かつイオン結合を有する塩である。同物質は、有機物としての疎水性と塩に由来する水素結合との親和性の両方を適度に併せ持つ。このため、セルロース原料における結晶性セルロース同士の間に浸透して、分子間または分子内の水素結合を解す。同時に、分子中の疎水部分の作用により再度結び付き合うことを防ぐ役割を果たしていると考えられる。
【0033】
セルロース原料が、テトラブチルアンモニウムアセテート及び非プロトン性有機溶媒からなる混合溶媒に溶解して、見かけの上で均質に仕上がった粘質液は、膜状物に加工される。当該工程(S3)が膜化工程である。溶解により生じた粘質液を膜状にする方法は特段限定されない。また、膜厚は以降の工程におけるセルロースへの転化に支障を来さない限り適宜である。例えば、Tダイ等から薄く流延させる方法、ドクターナイフ、へら、バーコーター等により薄く伸ばす方法、テープキャスティング法、あるいは2本以上のローラー間に通して薄膜に圧延する方法等が例示される。量産性に優れていることから、既存のビスコースからセロハンを製造する際の製膜方法が転用可能である。
【0034】
膜化工程を経て得られた膜状物は凝固用有機溶媒、水の順に接触させられる。この時点で膜状物からセルロース以外の成分が脱離してセルロース凝固物、すなわちセルロースの膜状物に変化する。当該工程(S4)が凝固工程である。
【0035】
凝固用有機溶媒はトルエン、ベンゼン、キシレン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ジエチルフタレート、リン酸トリクレジル、ジオクチルフタレート等から選択される。これらの中でもベンゼンやトルエン等の芳香族系の溶剤は安価で調達容易であるため好ましく用いられる。
【0036】
凝固用有機溶媒との接触は20ないし40℃前後、特には20ないし25℃の常温条件下において5分間前後、あるいはそれ以下である。日本薬局方によると常温は15ないし25℃と規定されている。膜状物が凝固用有機溶媒と接触することにより、はじめに膜状物中の非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートが凝固用有機溶媒中に溶出されて凝固用有機溶媒と入れ替わり、溶媒置換が起こる。
【0037】
その結果、ほぼ凝固用有機溶媒に置換された溶媒とセルロース成分からなる透明な湿潤膜が残存する。凝固工程の実施に際し、例えば、凝固用有機溶媒が満たされた溶媒槽が用意される。ここに膜状物が順次搬送され槽内に所定時間浸される。凝固用有機溶媒に溶出した混合溶媒(非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテート)は回収され、濾過や精製等の必要な処理を経て再び溶解の原料として利用される。
【0038】
続いて行われる水との接触では、20ないし40℃前後の温度条件下において、膜状物は1分以内の極短時間水に晒される。水との接触により前記の湿潤膜中に含まれる凝固用有機溶媒は急激に水と溶媒置換を起こす。この際、有機溶媒中に均質に分散していたセルロースの析出は生じる。しかしながら、溶媒置換がこのような急激な場合、均質な析出とはなりにくい。系全体に規則的な濃度揺らぎが生じ、セルロース濃度の高い部位と低い部位が交互に規則的に現れ、不均質な相分離の形態が生じる。つまり、一般的に均質な高分子相溶系ないし高分子溶液が急激に相分離領域に移行したときに生じるスピノーダル分解に類似の現象が生じていると考えられる。この結果、膜表面は、滑面、粗面、または凹凸等の入り交じった不均質な状態となる。水はセルロースに対して濡れやすい(親和性の高い)溶媒ではあるものの溶解性はない。このため、セルロースは不均質な状態で半固定される。ただし、長時間の浸漬は、いったん生じた不均質構造が緩和することになり、均質な構造へと移行する。
【0039】
凝固工程を経て得られたセルロース凝固物は、親水性有機溶媒に接触させられる。最終的にセルロース凝固物は固化してセルロース固定化物に変化する。当該工程(S5)が固定化工程である。親水性有機溶媒は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール等の各種アルコール、アセトン、メチルエチルケトン等の溶媒である。
【0040】
親水性有機溶媒との接触も、20ないし40℃前後の温度条件下において凝固物は1分以内の極短時間親水性有機溶媒に晒される。親水性有機溶媒は両親媒性物質であるため、セルロース凝固物に含有されている水分の脱水、その他の有機成分の除去に作用すると考えられる。この結果、セルロース成分のみを最終産物とするセルロース固定化物の乾燥を早めることができる。以上の詳述し図示の各工程を経ることにより、本発明に規定する不均質セルロースフィルム(CF)が得られる。
【0041】
一連の工程において、混合溶媒を用いる意義は、量産規模による生産にも柔軟に対応するためである。具体的には、いったんセルロース原料の溶解に用いた後、凝固用有機溶媒等と接触することで混合溶媒はセルロース成分から分離される。そこで、処理工程中の凝固用有機溶媒を分留等することにより、凝固用有機溶媒と、テトラブチルアンモニウムアセテート及び非プロトン性有機溶媒からなる混合溶媒に都合良く分離することができる。つまり、再び反応前の混合溶媒を得ることができる。むろん、水や親水性有機溶媒等の分留処理や再利用等も可能である。
【0042】
こうすることにより、各工程の必要な混合溶媒や凝固用有機溶媒は再利用可能となる。
特に連続して不均質フィルムを生産するに際し、原料の再生を前提とすると使用量の軽減し、不可避な消耗分のみ追加すればよい。従って、生産工程全般で見た場合、環境負荷等を減らすことができ好ましい。
【実施例】
【0043】
発明者らは、表1ないし表6に基づく原料、試薬を用い、原料セルロースの溶解並びに製膜により、実施例及び比較例の不均質セルロースフィルムを作成した。そして、それぞれの外観を目視により観察した。また、何品かの不均質セルロースフィルムについて電子顕微鏡により表面も観察した。
【0044】
〔原料等〕
使用原料とともに表中の略号を説明する。各実施例並びに比較例はいずれもセルロース原料として、溶解パルプ(日本製紙ケミカル株式会社製)を使用した。
【0045】
テトラブチルアンモニウムアセテートは、東京化成工業株式会社製を用いた(略号“TBAA”)。
・非プロトン性有機溶媒
N,N−ジメチルアセトアミド(東京化成工業株式会社製),略号“DMAc”、
ジメチルスルホキシド(ナカライテスク株式会社製),略号“DMSO”を使用した。
また、対照例として、
nヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“nHex”、
ベンゼン(キシダ化学株式会社製)、
エタノール(キシダ化学株式会社製)を使用した。
【0046】
・その他の各種有機溶媒
トルエン(キシダ化学株式会社製)、
ベンゼン(前記同様)、
キシレン(キシダ化学株式会社製)、
テトラヒドロフラン(キシダ化学株式会社製),略号“THF”、
酢酸エチル(キシダ化学株式会社製),略号“EtOAc”、
ジエチルフタレート(ナカライテスク株式会社製),略号“DEP”、
リン酸トリクレジル(新日本理化株式会社製),略号“TCP”、
ジオクチルフタレート(ナカライテスク株式会社製),略号“DOP”、
nヘキサン(前記同様)、
シクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“CHex”、
メチルシクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“MeCHx”、
アセトン(キシダ化学株式会社製)、
メチルエチルケトン(キシダ化学株式会社製),略号“MEK”を使用した。
【0047】
〔セルロース原料の溶解〕
当初、混合溶媒(非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテート)にセルロース原料を添加しても簡単に溶解することはできないと考えていた。そこで、先に非プロトン性有機溶媒に分散させ、その後テトラブチルアンモニウムアセテートを添加して十分に溶解する方法で検討していた。そのため、実施例1ないし18、比較例1ないし18では、テトラブチルアンモニウムアセテートを事後添加する別々の混合とした。なお、さらなる試行の結果、混合溶媒にセルロース原料を添加しても十分に溶解可能と判明した(実施例19参照)。
【0048】
はじめにセルロース原料(溶解パルプ)を粉砕機(グラインダー)により綿状に粉砕した。粉砕したセルロース原料を非プロトン性有機溶媒中に投入し、セルロース原料をマグネティックスターラー(アズワン株式会社製,HOT−STIRRER HS−5BH)により同溶媒中に均一状に分散し分散物とした。
【0049】
セパラブルフラスコに冷却管、熱電対、ホモジナイザー(アズワン株式会社製,AHD−160,シャフト径18mm)を装着し、加温用のマントルヒーターを設置した。セパラブルフラスコ内に分散物とテトラブチルアンモニウムアセテートを投入し各実施例並びに比較例の温度、時間の条件下でセルロース原料を溶解して粘質液に調製した。粘質液は淡黄色を呈した。非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートの量的割合(重量比)は表1ないし表6に準ずる。
【0050】
セルロース濃度(%)は、非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)、及びセルロース原料(CM)の合計重量に占めるセルロース原料の重量パーセントである。つまり、「{CM/(NPS+TBAA+CM)}×100」である。なお、発明者らの検証によると、セルロース濃度が3%を超過する場合、最終的に出来上がるセルロースフィルムの表面に凹凸が形成されにくくなった。そこで、各実施例及び比較例におけるセルロース原料の濃度を3%とした。
【0051】
〔膜状化〕
各実施例並びに比較例の条件により調製した粘質液を適量ガラス板に垂らし、アプリケータを用いて伸ばし膜状物とした。その後、表1ないし表6に開示の凝固用有機溶媒に常温下(20ないし30℃)、約5分間、ガラス板ごと膜状物を浸漬した。この時点でほぼ無色透明に変化した。凝固用有機溶媒から引き上げ、直ちにガラス板ごと膜状物を水浴に浸漬した。水浴への浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。たいてい、良品例の場合、水との接触により膜状物は白濁し、ガラス板から剥離した。続いて、膜状物を親水性有機溶媒で満たされた槽内に浸漬した。親水性有機溶媒との浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。
【0052】
以上の手順により調製した実施例1ないし18並びに比較例1ないし17の不均質セルロースフィルムについて、親水性有機溶媒から回収後、常温下にて乾燥した。ただし、比較例については、最終的に膜状化できた例のみ乾燥した。そして、一部の実施例について電子顕微鏡により表面を観察した。
【0053】
次に、前述の実施例等の作成に加えて量産化を見越し、予め非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートからなる混合溶媒を調製し、これにセルロース原料を溶解する手順の実施例19も作成した。まず、テトラブチルアンモニウムアセテート10重量部と非プロトン性有機溶媒90重量部を混合し、完全に溶解するまで攪拌して混合溶媒を調整した。セパラブルフラスコ内に混合溶媒を入れ、ここに前記の実施例と同様の粉砕したセルロース原料を投入した。セルロース濃度は、前記と同様の算出方法であり、非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)、及びセルロース原料(CM)の合計重量に占めるセルロース原料の重量パーセントであり、3%とした。
【0054】
溶解に際し、前記のセパラブルフラスコに冷却管、ホモジナイザー(アズワン株式会社製,AHD−160,シャフト径18mm)を装着した。混合溶媒の液温を25℃に維持しホモジナイザーの可動時間を約2倍に長くすることにより、混合溶媒中で直接セルロース原料を溶解し粘質液とすることができた。粘質液から膜状化する手法は、前述の実施例と同様の手順とした。使用した溶媒種は表6のとおりである。この結果、実施例19の不均質フィルムも作成した。
【0055】
実施例並びに比較例の不均質セルロースフィルムに関する調製条件、外観、評価は表1ないし表6である。順に非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)と非プロトン性有機溶媒の重量比(TBAA:NPS)、セルロース濃度(重量%)、溶解温度(℃)、溶解時間(分)、凝固用有機溶媒、凝固浴、及び親水性有機溶媒を表示する。そして、フィルムの外観、総合評価を下した。外観は通常の視覚を有する者による目視観察である。総合評価は外観の良否と作成条件等を加味して「良」、「普通」、「不可」とした。「良」は好ましい白濁となった例である。「普通」は白濁の薄い例である。「不可」は製膜不能または白濁が生じなかった例である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
〔電子顕微鏡観察〕
図2ないし図5は不均質セルロースフィルムのガラス板と接触していない面を電子顕微鏡で撮影した写真である。各図とも倍率1500倍である。図2は実施例3、図5は実施例12の表面である。大きさは異なるもののフィルム表面に凹凸が存在する。この凹凸は細かな窪みの無数の連続である。図3は実施例9、図4は実施例10の表面である。この例ではフィルムが多孔質状に発達しその影響から凹凸が生じている。実施例の不均質フィルムによると、目視による外観観察ではいずれも白濁状で共通ではあるものの、その表面の様子はフィルムごとに異なることも判明した。これら実施例間の相違としては、詳細は不明ではあるものの凝固用有機溶媒の影響と考えられる。
【0063】
〔結果と考察〕
・使用原料の種類
非プロトン性有機溶媒としてジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミドを使用した実施例からは、白濁したセルロースの膜状物を得ることができた(各実施例参照)。これに対し、比較例3のnヘキサン、比較例4のベンゼン、比較例5のエタノールを使用の例ではテトラブチルアンモニウムアセテートの溶解自体ができず、膜状物の生成に至らなかった。この比較から、非プロトン性とともに極性も必要である。そこで、非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)の選択が必要である。
【0064】
凝固用有機溶媒については、各実施例の全体傾向から芳香族系溶媒が良好であった。加えて、テトラヒドロフラン(実施例10)や酢酸エチル(実施例11)も使用可能であることが判明した。さらに、実施例16ないし18において使用した凝固用有機溶媒については、他の実施例と同様に白濁状のフィルムを得ることができた。しかし、実施例16ないし18の白濁はやや弱かった。列記のDEP等はパルプやセルロースの軟化に使用する物質として使用される。そこで、表面を不均質状に留めるところから、幾分進んだとも考えることができる。
【0065】
比較例15,16,17の二重結合を有さない炭化水素の溶媒では不均質性状は見られず透明状であった。しかも、フィルムに大きな貫通孔が生じた。このことから、フィルム化に至るものの、極めて不安定な状態である。凝固用有機溶媒の種類の相違が及ぼす影響については現状不明である。
【0066】
比較例9ないし14は、セルロース原料を溶解した後の膜化、凝固の工程に要する溶媒種の変更、欠如の例である。実施例と比較して、凝固用有機溶媒、凝固浴、親水性有機溶媒のいずれを欠如しても膜化不良または白濁不良となった。従って、不均質セルロースフィルムの作成に際し、当該3種類の溶媒種が必須であることを明らかとした。
【0067】
・TBAA:NPSの混合割合
比較例1,2,7,8はテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒(ジメチルスルホキシド)の重量混合割合を変更した例である。比較例1ではセルロース原料を溶解できたものの、希薄過ぎてその後の膜化ができなかった。比較例2では非プロトン性有機溶媒の量が相対的に少なくテトラブチルアンモニウムアセテートが溶解できず、膜化できなかった。比較例7,8でも非プロトン性有機溶媒の量が相対的に少なく、テトラブチルアンモニウムアセテートを溶解できたものの液粘度の上昇に伴う流動性の低下により膜化できなかった。そこで、好適に膜化できた実施例1,6を配合の両端と勘案して、テトラブチルアンモニウムアセテート(前者)と非プロトン性有機溶媒(後者)の好ましい重量混合割合は、前者:後者として、5:95ないし35:65とすることができる。
【0068】
・セルロース原料の溶解温度
実施例7によると、セルロース原料の溶解時の液温を常温から50℃まで上昇しても良好な不均質セルロースフィルムを作成することができた。むろん、非プロトン性有機溶媒の沸点を考慮すれば、50℃以上の温度条件下での溶解も可能である。ただし、高温度域にする場合、加熱のための設備等を別途必要とすることと反応性が高まりすぎて制御に支障を来すおそれが考えられる。そこで、制御の簡便さや設備負担を勘案して溶解温度の上限を50℃とすることが望ましい。また、非プロトン性有機溶媒にジメチルスルホキシドを用いる際、比較例6から明らかなように、ジメチルスルホキシドの融点以上の液温とする必要がある。従って、溶解温度の下限は20℃となる。
【0069】
実施例1ないし18及び全比較例において、セルロース原料の溶解に要した時間(攪拌時間)は10分に統一した。当初、処理の迅速化を目指して短時間での溶解を可能とするべく10分を一つの区切りとして考えていた。前述のとおり、溶解時の液温を高めて溶解時間をより短くすることも勘案した。しかしながら、反応が激しくなるため調整が難しく見送った。
【0070】
一連の実施例及び比較例の検証の結果、混合溶媒の調製の有無の相違はあるものの、本発明に規定する使用原料、混合比、工程順等の諸条件の充足性を確認することができた。それゆえ、従前のイオン液体を使用したセルロース原料の溶解の代替となることも明らかにした。
【0071】
・混合溶媒を用いた不均質セルロースフィルムの作成
実施例19(表6参照)は、前述の実施例と異なり、先にテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒(ジメチルスルホキシド)を混合して混合溶媒を調製し、ここにセルロース原料(パルプ)を溶解して不均質セルロースフィルムを作成した例である。実施例19では、セルロース原料の溶解時の液温を常温としながらもその溶解時間を約2倍程度にするのみで同濃度の溶解を達し得た。そのため、混合溶媒使用の調製法に変更しても比較的簡便に不均質セルロースフィルムの作成が可能であることを明らかにした。前掲の実施例1ないし18に基づく知見と合わせると、実施例19における試作成功の意義は極めて大きく、混合溶媒によるセルロース原料の溶解の製法は十分に実施可能といえる。
【0072】
セルロース原料を溶解した混合溶媒は、膜化並びにそれ以降の工程でセルロースから分離し、溶媒中に放出される。そこで、混合溶媒を各種の溶媒から蒸留を通じて回収し、精製等経ることにより再度混合溶媒を使用することを検討している。すなわち、実施例19は、フィルムの連続生産を前提に、混合溶媒の循環使用と量産化を見据えた製法と位置づけることができ、むしろ生産効率上の優位性は高い。
【0073】
・まとめ
以上の実施例及び比較例の対比から、本発明に規定したセルロース原料のテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒による溶解後、凝固用有機溶媒、水、そして親水性有機溶媒の順の浸漬による接触を行わなければいずれも所望の不均質セルロースフィルムに至らない。その上で前述のとおり、適切な原料と配合割合、反応温度の選択が重要であることを見出した。特に、凝固に関する処理は、迅速に進むため効率的である。さらに、混合溶媒の使用により、連続生産も実現可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の不均質セルロースフィルムの製造方法は、イオン液体を用いることなくセルロースの溶解を可能とし、溶解後のセルロースを再び結晶に戻す際の過程に改良を加えることにより、簡便に粗面化することができる。そこで、透過膜や浸透膜等のセルロースの性状を利用する膜状物の量産性に貢献できると考える。
図1
図2
図3
図4
図5