【実施例】
【0043】
発明者らは、表1ないし表6に基づく原料、試薬を用い、原料セルロースの溶解並びに製膜により、実施例及び比較例の不均質セルロースフィルムを作成した。そして、それぞれの外観を目視により観察した。また、何品かの不均質セルロースフィルムについて電子顕微鏡により表面も観察した。
【0044】
〔原料等〕
使用原料とともに表中の略号を説明する。各実施例並びに比較例はいずれもセルロース原料として、溶解パルプ(日本製紙ケミカル株式会社製)を使用した。
【0045】
テトラブチルアンモニウムアセテートは、東京化成工業株式会社製を用いた(略号“TBAA”)。
・非プロトン性有機溶媒
N,N−ジメチルアセトアミド(東京化成工業株式会社製),略号“DMAc”、
ジメチルスルホキシド(ナカライテスク株式会社製),略号“DMSO”を使用した。
また、対照例として、
nヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“nHex”、
ベンゼン(キシダ化学株式会社製)、
エタノール(キシダ化学株式会社製)を使用した。
【0046】
・その他の各種有機溶媒
トルエン(キシダ化学株式会社製)、
ベンゼン(前記同様)、
キシレン(キシダ化学株式会社製)、
テトラヒドロフラン(キシダ化学株式会社製),略号“THF”、
酢酸エチル(キシダ化学株式会社製),略号“EtOAc”、
ジエチルフタレート(ナカライテスク株式会社製),略号“DEP”、
リン酸トリクレジル(新日本理化株式会社製),略号“TCP”、
ジオクチルフタレート(ナカライテスク株式会社製),略号“DOP”、
nヘキサン(前記同様)、
シクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“CHex”、
メチルシクロヘキサン(キシダ化学株式会社製),略号“MeCHx”、
アセトン(キシダ化学株式会社製)、
メチルエチルケトン(キシダ化学株式会社製),略号“MEK”を使用した。
【0047】
〔セルロース原料の溶解〕
当初、混合溶媒(非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテート)にセルロース原料を添加しても簡単に溶解することはできないと考えていた。そこで、先に非プロトン性有機溶媒に分散させ、その後テトラブチルアンモニウムアセテートを添加して十分に溶解する方法で検討していた。そのため、実施例1ないし18、比較例1ないし18では、テトラブチルアンモニウムアセテートを事後添加する別々の混合とした。なお、さらなる試行の結果、混合溶媒にセルロース原料を添加しても十分に溶解可能と判明した(実施例19参照)。
【0048】
はじめにセルロース原料(溶解パルプ)を粉砕機(グラインダー)により綿状に粉砕した。粉砕したセルロース原料を非プロトン性有機溶媒中に投入し、セルロース原料をマグネティックスターラー(アズワン株式会社製,HOT−STIRRER HS−5BH)により同溶媒中に均一状に分散し分散物とした。
【0049】
セパラブルフラスコに冷却管、熱電対、ホモジナイザー(アズワン株式会社製,AHD−160,シャフト径18mm)を装着し、加温用のマントルヒーターを設置した。セパラブルフラスコ内に分散物とテトラブチルアンモニウムアセテートを投入し各実施例並びに比較例の温度、時間の条件下でセルロース原料を溶解して粘質液に調製した。粘質液は淡黄色を呈した。非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートの量的割合(重量比)は表1ないし表6に準ずる。
【0050】
セルロース濃度(%)は、非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)、及びセルロース原料(CM)の合計重量に占めるセルロース原料の重量パーセントである。つまり、「{CM/(NPS+TBAA+CM)}×100」である。なお、発明者らの検証によると、セルロース濃度が3%を超過する場合、最終的に出来上がるセルロースフィルムの表面に凹凸が形成されにくくなった。そこで、各実施例及び比較例におけるセルロース原料の濃度を3%とした。
【0051】
〔膜状化〕
各実施例並びに比較例の条件により調製した粘質液を適量ガラス板に垂らし、アプリケータを用いて伸ばし膜状物とした。その後、表1ないし表6に開示の凝固用有機溶媒に常温下(20ないし30℃)、約5分間、ガラス板ごと膜状物を浸漬した。この時点でほぼ無色透明に変化した。凝固用有機溶媒から引き上げ、直ちにガラス板ごと膜状物を水浴に浸漬した。水浴への浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。たいてい、良品例の場合、水との接触により膜状物は白濁し、ガラス板から剥離した。続いて、膜状物を親水性有機溶媒で満たされた槽内に浸漬した。親水性有機溶媒との浸漬は常温下(15ないし25℃)においてほぼ瞬時(1分未満の秒単位)とした。
【0052】
以上の手順により調製した実施例1ないし18並びに比較例1ないし17の不均質セルロースフィルムについて、親水性有機溶媒から回収後、常温下にて乾燥した。ただし、比較例については、最終的に膜状化できた例のみ乾燥した。そして、一部の実施例について電子顕微鏡により表面を観察した。
【0053】
次に、前述の実施例等の作成に加えて量産化を見越し、予め非プロトン性有機溶媒とテトラブチルアンモニウムアセテートからなる混合溶媒を調製し、これにセルロース原料を溶解する手順の実施例19も作成した。まず、テトラブチルアンモニウムアセテート10重量部と非プロトン性有機溶媒90重量部を混合し、完全に溶解するまで攪拌して混合溶媒を調整した。セパラブルフラスコ内に混合溶媒を入れ、ここに前記の実施例と同様の粉砕したセルロース原料を投入した。セルロース濃度は、前記と同様の算出方法であり、非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)、及びセルロース原料(CM)の合計重量に占めるセルロース原料の重量パーセントであり、3%とした。
【0054】
溶解に際し、前記のセパラブルフラスコに冷却管、ホモジナイザー(アズワン株式会社製,AHD−160,シャフト径18mm)を装着した。混合溶媒の液温を25℃に維持しホモジナイザーの可動時間を約2倍に長くすることにより、混合溶媒中で直接セルロース原料を溶解し粘質液とすることができた。粘質液から膜状化する手法は、前述の実施例と同様の手順とした。使用した溶媒種は表6のとおりである。この結果、実施例19の不均質フィルムも作成した。
【0055】
実施例並びに比較例の不均質セルロースフィルムに関する調製条件、外観、評価は表1ないし表6である。順に非プロトン性有機溶媒(NPS)、テトラブチルアンモニウムアセテート(TBAA)と非プロトン性有機溶媒の重量比(TBAA:NPS)、セルロース濃度(重量%)、溶解温度(℃)、溶解時間(分)、凝固用有機溶媒、凝固浴、及び親水性有機溶媒を表示する。そして、フィルムの外観、総合評価を下した。外観は通常の視覚を有する者による目視観察である。総合評価は外観の良否と作成条件等を加味して「良」、「普通」、「不可」とした。「良」は好ましい白濁となった例である。「普通」は白濁の薄い例である。「不可」は製膜不能または白濁が生じなかった例である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
【表6】
【0062】
〔電子顕微鏡観察〕
図2ないし
図5は不均質セルロースフィルムのガラス板と接触していない面を電子顕微鏡で撮影した写真である。各図とも倍率1500倍である。
図2は実施例3、
図5は実施例12の表面である。大きさは異なるもののフィルム表面に凹凸が存在する。この凹凸は細かな窪みの無数の連続である。
図3は実施例9、
図4は実施例10の表面である。この例ではフィルムが多孔質状に発達しその影響から凹凸が生じている。実施例の不均質フィルムによると、目視による外観観察ではいずれも白濁状で共通ではあるものの、その表面の様子はフィルムごとに異なることも判明した。これら実施例間の相違としては、詳細は不明ではあるものの凝固用有機溶媒の影響と考えられる。
【0063】
〔結果と考察〕
・使用原料の種類
非プロトン性有機溶媒としてジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアセトアミドを使用した実施例からは、白濁したセルロースの膜状物を得ることができた(各実施例参照)。これに対し、比較例3のnヘキサン、比較例4のベンゼン、比較例5のエタノールを使用の例ではテトラブチルアンモニウムアセテートの溶解自体ができず、膜状物の生成に至らなかった。この比較から、非プロトン性とともに極性も必要である。そこで、非プロトン性有機溶媒(非プロトン性極性有機溶媒)の選択が必要である。
【0064】
凝固用有機溶媒については、各実施例の全体傾向から芳香族系溶媒が良好であった。加えて、テトラヒドロフラン(実施例10)や酢酸エチル(実施例11)も使用可能であることが判明した。さらに、実施例16ないし18において使用した凝固用有機溶媒については、他の実施例と同様に白濁状のフィルムを得ることができた。しかし、実施例16ないし18の白濁はやや弱かった。列記のDEP等はパルプやセルロースの軟化に使用する物質として使用される。そこで、表面を不均質状に留めるところから、幾分進んだとも考えることができる。
【0065】
比較例15,16,17の二重結合を有さない炭化水素の溶媒では不均質性状は見られず透明状であった。しかも、フィルムに大きな貫通孔が生じた。このことから、フィルム化に至るものの、極めて不安定な状態である。凝固用有機溶媒の種類の相違が及ぼす影響については現状不明である。
【0066】
比較例9ないし14は、セルロース原料を溶解した後の膜化、凝固の工程に要する溶媒種の変更、欠如の例である。実施例と比較して、凝固用有機溶媒、凝固浴、親水性有機溶媒のいずれを欠如しても膜化不良または白濁不良となった。従って、不均質セルロースフィルムの作成に際し、当該3種類の溶媒種が必須であることを明らかとした。
【0067】
・TBAA:NPSの混合割合
比較例1,2,7,8はテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒(ジメチルスルホキシド)の重量混合割合を変更した例である。比較例1ではセルロース原料を溶解できたものの、希薄過ぎてその後の膜化ができなかった。比較例2では非プロトン性有機溶媒の量が相対的に少なくテトラブチルアンモニウムアセテートが溶解できず、膜化できなかった。比較例7,8でも非プロトン性有機溶媒の量が相対的に少なく、テトラブチルアンモニウムアセテートを溶解できたものの液粘度の上昇に伴う流動性の低下により膜化できなかった。そこで、好適に膜化できた実施例1,6を配合の両端と勘案して、テトラブチルアンモニウムアセテート(前者)と非プロトン性有機溶媒(後者)の好ましい重量混合割合は、前者:後者として、5:95ないし35:65とすることができる。
【0068】
・セルロース原料の溶解温度
実施例7によると、セルロース原料の溶解時の液温を常温から50℃まで上昇しても良好な不均質セルロースフィルムを作成することができた。むろん、非プロトン性有機溶媒の沸点を考慮すれば、50℃以上の温度条件下での溶解も可能である。ただし、高温度域にする場合、加熱のための設備等を別途必要とすることと反応性が高まりすぎて制御に支障を来すおそれが考えられる。そこで、制御の簡便さや設備負担を勘案して溶解温度の上限を50℃とすることが望ましい。また、非プロトン性有機溶媒にジメチルスルホキシドを用いる際、比較例6から明らかなように、ジメチルスルホキシドの融点以上の液温とする必要がある。従って、溶解温度の下限は20℃となる。
【0069】
実施例1ないし18及び全比較例において、セルロース原料の溶解に要した時間(攪拌時間)は10分に統一した。当初、処理の迅速化を目指して短時間での溶解を可能とするべく10分を一つの区切りとして考えていた。前述のとおり、溶解時の液温を高めて溶解時間をより短くすることも勘案した。しかしながら、反応が激しくなるため調整が難しく見送った。
【0070】
一連の実施例及び比較例の検証の結果、混合溶媒の調製の有無の相違はあるものの、本発明に規定する使用原料、混合比、工程順等の諸条件の充足性を確認することができた。それゆえ、従前のイオン液体を使用したセルロース原料の溶解の代替となることも明らかにした。
【0071】
・混合溶媒を用いた不均質セルロースフィルムの作成
実施例19(表6参照)は、前述の実施例と異なり、先にテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒(ジメチルスルホキシド)を混合して混合溶媒を調製し、ここにセルロース原料(パルプ)を溶解して不均質セルロースフィルムを作成した例である。実施例19では、セルロース原料の溶解時の液温を常温としながらもその溶解時間を約2倍程度にするのみで同濃度の溶解を達し得た。そのため、混合溶媒使用の調製法に変更しても比較的簡便に不均質セルロースフィルムの作成が可能であることを明らかにした。前掲の実施例1ないし18に基づく知見と合わせると、実施例19における試作成功の意義は極めて大きく、混合溶媒によるセルロース原料の溶解の製法は十分に実施可能といえる。
【0072】
セルロース原料を溶解した混合溶媒は、膜化並びにそれ以降の工程でセルロースから分離し、溶媒中に放出される。そこで、混合溶媒を各種の溶媒から蒸留を通じて回収し、精製等経ることにより再度混合溶媒を使用することを検討している。すなわち、実施例19は、フィルムの連続生産を前提に、混合溶媒の循環使用と量産化を見据えた製法と位置づけることができ、むしろ生産効率上の優位性は高い。
【0073】
・まとめ
以上の実施例及び比較例の対比から、本発明に規定したセルロース原料のテトラブチルアンモニウムアセテートと非プロトン性有機溶媒による溶解後、凝固用有機溶媒、水、そして親水性有機溶媒の順の浸漬による接触を行わなければいずれも所望の不均質セルロースフィルムに至らない。その上で前述のとおり、適切な原料と配合割合、反応温度の選択が重要であることを見出した。特に、凝固に関する処理は、迅速に進むため効率的である。さらに、混合溶媒の使用により、連続生産も実現可能である。