(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286218
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】振動伝達装置及び圧電スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 17/00 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
H04R17/00
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-22400(P2014-22400)
(22)【出願日】2014年2月7日
(65)【公開番号】特開2015-149663(P2015-149663A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2017年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】池沢 紀研
(72)【発明者】
【氏名】習田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 修
(72)【発明者】
【氏名】阿部 善幸
(72)【発明者】
【氏名】熊坂克典
【審査官】
岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−213997(JP,A)
【文献】
特開2005−303937(JP,A)
【文献】
特開2011−149784(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/073234(WO,A1)
【文献】
国際公開第2013/175761(WO,A1)
【文献】
特開2003−219499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 9/12− 9/22
H04R 1/00− 1/08
1/12− 1/14
1/22, 1/24
1/26, 1/28
1/30, 1/32
1/34
1/40− 1/46
3/00, 7/00
9/00,13/00
15/00
17/00−17/02
17/10,19/00
23/00,29/00
31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲振動を行う矩形板状の圧電素子と、
金属板により一体に構成され、平坦な実装部、及び前記実装部の先端を折り曲げて前記実装部と対向するよう形成された平坦な支持部を備える支持台と、
錘部を備え、
前記圧電素子は、前記支持台の外周面における前記支持部上に支持固定され、
前記錘部における被固定部は、前記圧電素子における圧電振動をする部分に直接固定され、
前記錘部は、前記支持台の内部空間に配置され、前記被固定部以外は前記支持台より離間し、
前記錘部の変位は、前記支持台の内周面により規制され、
前記圧電素子を押圧し、前記錘部と前記支持台の内周面における実装部と接触させたときの前記圧電素子の変位は、前記屈曲振動の振幅より大で、かつ、前記圧電素子が弾性変形できる上限の変位より小であり、
前記実装部を実装する被実装体に前記圧電素子の振動を伝達することを特徴とする振動伝達装置。
【請求項2】
前記支持台の外周面における前記実装部には粘着部が設けられ、被実装体に粘着固定可能であることを特徴とする請求項1に記載の振動伝達装置。
【請求項3】
前記被固定部の固定は、接着剤により行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動伝達装置。
【請求項4】
前記被固定部を固定する前記接着剤は、硬化後に弾性を有することを特徴とする請求項3に記載の振動伝達装置。
【請求項5】
前記支持台は、第1支持部より第1連結部、前記実装部、第2連結部を介して第2支持部まで一体成形され、前記第1支持部と前記第2支持部は離間配置され、
前記圧電素子の両端は、前記支持台の外面であって、前記第1支持部と前記第2支持部上にそれぞれ接着剤により固定され、
前記錘部における被固定部は、前記圧電素子における圧電振動をする中央部に直接固定されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の振動伝達装置。
【請求項6】
前記錘部は、前記第1支持部と前記第2支持部の間を挿通可能であることを特徴とする請求項5に記載の振動伝達装置。
【請求項7】
前記錘部は、被固定部における面積よりも、前記実装部に対向する部分の面積が大きいことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の振動伝達装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の振動伝達装置を実装し、
被実装体の少なくとも一部より発音することを特徴とする圧電スピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被実装体に可聴域を含む振動を伝達する振動伝達装置、及び被実装体より発音する圧電スピーカに関する。
【0002】
錘近傍を慣性中心として、圧電素子による振動を伝達する振動伝達装置の提案がなされている。
【0003】
例えば特許文献1の段落0010や
図7等には、円形の圧電振動子の中央部に錘を取り付けることで、圧電振動子の振動が直接被実装体であるケースに伝達される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−213997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1中
図7の構成で、錘により慣性中心を圧電素子の振動部に近づけ、振動伝達効率を向上させた場合、圧電素子が慣性力を受け易くなるため、落下等の衝撃に耐え得る圧電素子を構成することが困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は、振動伝達効率を確保しつつ、落下等の衝撃にも耐え得る振動伝達装置及び圧電スピーカの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を本発明は、屈曲振動を行う矩形板状の圧電素子と、実装部及び支持部を備える支持台と、錘部を備え、前記圧電素子は、前記支持部に支持固定され、前記錘部における被固定部は、前記圧電素子における圧電振動をする部分に直接又は前記支持部を介して固定され、前記錘部は、前記支持台の内部空間に配置され、前記被固定部以外は前記支持台より離間し、前記錘部の変位は、前記支持台の内周面により規制され、前記圧電素子を押圧し、前記錘部と前記支持台の内周面における実装部と接触させたときの前記圧電素子の変位は、前記屈曲振動の振幅より大で、かつ、前記圧電素子が弾性変形できる上限の変位より小であり、前記実装部を実装する被実装体に前記圧電素子の振動を伝達する振動伝達装置により解決することができる。
【0008】
これは、支持台の内側に錘部を内包することで、錘部の過度の変位を支持台の内側、特に実装部で規制することができ、圧電素子の損傷を未然防止することができるためである。
【0009】
また、前記支持台は、折り曲げた金属板により一体に構成され、前記圧電素子は、前記支持台の外周面における前記支持部上に支持固定されていることが望ましい。
【0010】
これは、折り曲げた金属板で支持台を構成することで、小型でも充分な製品強度を得ることができるためである。
【0011】
また、前記支持台の外周面における前記実装部には粘着部が設けられ、被実装体に粘着固定可能であることが望ましい。
【0012】
これは、圧電素子の中央近傍から押圧すると、錘が実装部の内周面に接触することで押圧力が伝達され、これにより底面となる実装部外周面全体に均一な押圧が可能となり、粘着面全体が被実装体に密着し、十分な強度で被実装体に粘着固定することができるためである。
【0013】
また、前記被固定部の固定は、接着剤により行うことが望ましい。
【0014】
これは、接着剤の硬化前に、錘部と支持台の離間距離を調整することができ、錘部の変位規制を精度良く行うことができるためである。
【0015】
また、前記被固定部を固定する前記接着剤は、硬化後に弾性を有することが望ましい。
【0016】
これは、接着剤に弾性を持たせることで、振動伝達装置に落下等の衝撃が加わっても、圧電素子への錘部からの衝撃が緩和されるため、圧電素子を保護することができるためである。
【0017】
また、前記支持台は、第1支持部より第1連結部、前記実装部、第2連結部を介して第2支持部まで一体成形され、前記第1支持部と前記第2支持部は離間配置され、前記圧電素子の両端は、前記支持台の外面であって、前記第1支持部と前記第2支持部上にそれぞれ接着剤により固定され、前記錘部における被固定部は、前記圧電素子における圧電振動をする中央部に直接固定されていることが望ましい。
【0018】
これは、接着剤の硬化前に、圧電素子と支持台の離間距離を調整することができ、錘部の過度の変位規制を精度良く行うことができるためである。
【0019】
また、前記錘部は、前記第1支持部と前記第2支持部の間を挿通可能であるが望ましい。
【0020】
これは、錘部を第1支持部と第2支持部の間より挿通可能にすることで、組み立て工程の作業性が向上するためである。
【0021】
また、前記錘部は、被固定部における面積よりも、前記実装部に対向する部分の面積が大きいことが望ましい。
【0022】
これは、錘部は、圧電素子の屈曲振動を阻害しないよう被固定部の面積は小さくするべきであることによる。その一方で、圧電素子中央部を慣性中心とするよう作用すべきであるため、錘部の質量を確保するために実装部に対向する部分の面積を大きくするべきであることによる。
【0023】
また、上記振動伝達装置を実装し、被実装体の少なくとも一部より発音する圧電スピーカを構成しても良い。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、錘の衝撃による変位を規制することで圧電素子が保護され、また、折り曲げた金属板により支持部を構成することで組み立て作業性が良く、被実装体へ充分な強度で粘着固定可能であり、小型で充分な製品強度を有する振動伝達装置を提供するごとができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明における振動伝達装置の平面図である。
【
図2】本発明における振動伝達装置の断面図であり、
図1におけるAA面の断面に対応する。
【
図3】本発明における振動伝達装置を実装する状態を示す断面図である。
【
図4】本発明における振動伝達装置の組み立て状態を示す断面図である。
【
図5】本発明における振動伝達装置の音圧と周波数の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明における振動伝達装置の平面図である。
【0027】
本実施形態における振動伝達装置は、屈曲振動を行う矩形板状の圧電素子1と、圧電素子1を支持する支持台2を備えている。
【0028】
また、圧電素子1は、その駆動電極とフレキシブルプリント基板であるFPC10が導電接続され、FPC10は図示されない外部駆動回路と導電接続され、圧電素子1の屈曲運動を可能とする。
【0029】
また、
図1では図示されない両面粘着テープのセパレータ3が導出されている。
【0030】
図2は、本発明における振動伝達装置の断面図であり、
図1におけるAA面の断面に対応する。
【0031】
圧電素子は、圧電体部11と、弾性保護部12により構成されている。
【0032】
圧電体部11の中央部には接着部40により錘部5が接着固定されている。
【0033】
支持台2の外周面における実装部20上には、両面粘着テープ30が粘着固定され、両面粘着テープ30の実装面にセパレータ3が貼り付けられている。
【0034】
セパレータ3は、両面粘着テープ30との貼り付け部から延長した部分を有し、この部分よりセパレータ3を剥離することができる。
【0035】
支持台2の外周面における支持部21、22上には、接着部41、42により圧電体部11が接着固定されている。
【0036】
すなわち、圧電体部11の両端部は、接着部41、42を介して支持部21、22に固定されている。
【0037】
錘部5の底面50は、支持台2の内周面における実装部20と対面し、その間隔は、圧電体部11の屈曲振動に起因する振幅よりも大きく、圧電体部11が弾性変形できる上限の変位より小さい。
【0038】
これにより、圧電体部11の圧電振動を阻害せずに、錘部5の過度の変位、すなわち圧電体部11中央部の過度の変位を規制し、圧電体部11の損傷を未然防止することができる。
【0039】
また、接着部40、41、42に弾性を持たせることで、振動伝達装置に落下等の衝撃が加わっても、圧電体部11への錘部5からの衝撃が緩和されるため、圧電体部11の保護を強化することができる。
【0040】
ここで、錘部5は、圧電体部11の屈曲振動を阻害しないよう被固定部の面積は小さいことが望ましく、圧電体部11の中央部を慣性中心とするよう作用すべきであるため、錘部5の質量を確保するために実装部に対向する底面50の面積を、少なくとも被固定部の面積より大きくすることが望ましい。
【0041】
図3は、本発明における振動伝達装置を実装する状態を示す断面図である。
【0042】
すなわち、
図3は、
図2における振動伝達装置のセパレータを剥離し、被実装体6に実装する状態を示している。
【0043】
実装の際、弾性保護部12を介して圧電体部11の中央部を押圧することで錘部5の底面50が、支持台2の内周面における実装部20と接触し、押圧力が両面粘着テープ30を被実装体6に押し付けるように加わるため、両面粘着テープ30の粘着面全体が被実装体6に密着し、十分な強度で被実装体6に振動伝達装置を粘着固定することができる。
【0044】
ここで、圧電体部11の変位は、前述の通り弾性変形できる上限の変位より小さいため、このような実装方法であっても、圧電体部11の損傷が起きることはない。
【0045】
図4は、本発明における振動伝達装置の組み立て状態を示す断面図である。
【0046】
すなわち
図4は、
図2における振動伝達装置の組み立て状態を示している。
【0047】
最初に、接着剤を塗布し、硬化させることで、圧電体部11の中央部と錘部5を、接着部40を介して接着させる。
【0048】
次に、支持台2の内周面における実装部20上にスペーサ7を載せ、支持台2の外周面における支持部21、22上に接着剤410、420を塗布する。
【0049】
ここで、支持部21、22の間隔が、錘部5の底面50よりも広くなるよう構成しているため、スペーサ7上に錘部5の底面50を載せることができ、支持部21、22と圧電体部11の両端部の間が接着剤410、420で満たされる。
【0050】
さらに、接着剤410、420を熱等により硬化させ、その後スペーサ7を除く。
【0051】
最後に、セパレータ3の付いた両面粘着テープ30を、支持台2の外周面における実装部20上に貼り付けて
図2の振動伝達装置が完成する。
【0052】
このように、本実施形態の振動伝達装置は、作業性良く組み立てることができる。
【0053】
また、接着剤410、420の硬化前に、錘部と支持台の離間距離を調整することができ、錘部の変位規制を精度良く行うこともできる。
【0054】
これにより、スペーサ7により、錘部5の底面50と、支持台2の内周面における実装部20との距離を一定に保ったまま、接着剤410、420を硬化させることができる。
【0055】
すなわち、屈曲振動を行う矩形板状の圧電素子1と、実装部20及び支持部21、22が一体成形された支持台2と、錘部5を備え、圧電素子1は、支持部21、22に支持固定され、錘部5における被固定部は、圧電素子1における圧電振動をする部分に固定され、錘部5は、支持台2により内包され、被固定部以外は支持台2より離間し、錘部5の変位は、支持台2の内周面により規制され、圧電素子1を押圧し、錘部5と支持台2の内周面における実装部20と接触させたときの圧電素子1の変位は、屈曲振動の振幅より大で、かつ、圧電素子1が弾性変形できる上限の変位より小であり、実装部20を実装する被実装体6に圧電素子1の振動を伝達する振動伝達装置の実施形態を取り得る。
【0056】
これにより、支持台2の内側に錘部5を内包することで、錘部5の過度の変位を支持台2の内側、特に実装部20で規制することができ、圧電素子1の損傷を未然に防止することができる。
【実施例】
【0057】
圧電体部11は、長さ23mm、幅3.3mm、厚さ1.2mmの圧電積層バイモルフ素子で構成し、支持台2は、厚さ0.3mm、幅4.0mmのSUS板を折り曲げて構成し、錘部5は、重さ5gのタングステンで構成した。
【0058】
圧電体部11の圧電振動振幅0.05mmと、0.3mmまでの弾性変形変位が可能であることを考慮し、錘部5の底面50と、支持台2の内周面における実装部20の間隔は0.2mmとした。
【0059】
ここで、支持台2を折り曲げた金属板で構成した支持台2は、小型で充分な強度を得ることができる。
【0060】
セパレータ3を除く振動伝達装置全体の寸法は、長さ30mm、幅4.0mm、高さ5.0mmとなった。
【0061】
上記振動伝達装置を、100mm×60mm、厚さ3mmの板状の被実装体に実装し、被実装体から1m離れた位置での音圧を測定した。
【0062】
図5は、本発明における振動伝達装置の音圧と周波数の関係を示す図である。
【0063】
周波数800Hzから3.4kHzの可聴域で音圧が60dBを超えており、圧電スピーカとして充分な特性を示している。
【符号の説明】
【0064】
1 圧電素子
2 支持台
3 セパレータ
5 錘部
6 被実装体
7 スペーサ
10 FPC
11 圧電体部
12 弾性保護部
20 実装部
21、22 支持部
30 両面粘着テープ
40、41、42 接着部
50 底面
410、420 接着剤