特許第6286236号(P6286236)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286236
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】エンジンシステムの異常判定装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   F02D45/00 345Z
   F02D45/00 368H
   F02D45/00 368Z
   F02D45/00 362G
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-46276(P2014-46276)
(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公開番号】特開2015-169169(P2015-169169A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年2月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中野 平
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−095615(JP,A)
【文献】 特開平10−212999(JP,A)
【文献】 特開平04−112950(JP,A)
【文献】 特開2012−207538(JP,A)
【文献】 特開平4−265475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒を有してクランクシャフトを駆動するエンジンと、前記複数の気筒の各々に対して設けられ燃料を噴射する燃料噴射弁と、排気通路における酸素の濃度である残留酸素濃度の検出値を出力するセンサーと、を備えるエンジンシステムに対して、前記センサーの異常、噴射量の異常、および、失火の少なくとも1つの異常の有無を判定するエンジンシステムの異常判定装置であって、
前記燃料噴射弁の目標噴射量と前記エンジンの吸入空気量とに基づいて前記残留酸素濃度の推定値を算出する推定部と、
前記推定値に対して前記検出値が高いか、低いか、等しいかを、燃料無噴射状態において判定する無噴射時判定部と、
前記推定値に対して前記検出値が高いか、低いか、等しいかを、燃料噴射状態において判定する噴射時判定部と、
前記燃料噴射状態における前記気筒の膨張行程での前記クランクシャフトの角加速度を気筒別角加速度として前記気筒毎に取得し、全ての前記気筒別角加速度の平均値に対して前記気筒別角加速度が高いか、低いか、等しいかを前記気筒毎に判定する角加速度判定部と、
前記無噴射時判定部の判定結果、前記噴射時判定部の判定結果、および、前記角加速度判定部の判定結果に基づいて前記異常の有無を判定する異常判定部と、を備え
前記異常判定部は、
前記無噴射時判定部の判定結果が正常であり、前記噴射時判定部の判定結果が前記推定値に対して前記検出値が高い異常であり、前記角加速度判定部の判定結果が前記気筒別角加速度の平均値に対して特定の気筒の前記気筒別角加速度が低い異常である場合に当該特定の気筒において前記失火が生じていると判定する
エンジンシステムの異常判定装置。
【請求項2】
前記異常判定部は、
前記無噴射時判定部の判定結果が異常であり、前記噴射時判定部の判定結果が異常であり、前記角加速度判定部の判定結果が前記複数の気筒の全てにおいて正常である場合に前記センサーに異常が生じていると判定し、
前記無噴射時判定部の判定結果が正常であり、前記噴射時判定部の判定結果が異常であり、前記角加速度判定部の判定結果が前記複数の気筒の全てにおいて正常である場合に前記複数の気筒の全てに前記噴射量の異常が生じていると判定し、
前記無噴射時判定部の判定結果が異常であり、前記噴射時判定部の判定結果が異常であり、前記角加速度判定部の判定結果が特定の気筒での異常である場合に当該特定の気筒において前記噴射量の異常が生じていると判定する
請求項1に記載のエンジンシステムの異常判定装置。
【請求項3】
前記無噴射時判定部は、
前記燃料無噴射状態が一定期間継続したことを条件に、前記燃料無噴射状態での判定に用いる前記推定値と前記検出値とを取得する
請求項1または2に記載のエンジンシステムの異常判定装置。
【請求項4】
前記噴射時判定部は、
前記燃料噴射状態において前記目標噴射量の微分値が所定値以下である状態が一定期間経過したことを条件に、前記燃料噴射状態での判定に用いる前記推定値と前記検出値とを取得する
請求項1〜3のいずれか一項に記載のエンジンシステムの異常判定装置。
【請求項5】
前記噴射時判定部は、
複数の前記推定値と複数の前記検出値とを取得し、
前記複数の推定値の平均値と前記複数の検出値の平均値とに基づいて判定を行う
請求項に記載のエンジンシステムの異常判定装置。
【請求項6】
前記角加速度判定部は、
前記エンジンが定常状態であるときに前記気筒別角加速度を取得する
請求項1〜のいずれか一項に記載のエンジンシステムの異常判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、エンジンシステムの異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンシステムには、エンジンシステムにおける異常の有無を判定する異常判定装置が搭載されている(例えば、特許文献1を参照。)。例えば、エンジンの失火、及び、燃料を噴射する燃料噴射弁の異常については、アイドリング状態における燃料噴射量とエンジン回転速度の変動とに基づいて検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−112211号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したエンジンの失火、及び、燃料噴射弁の異常をはじめ、エンジンシステムにおける異常は、アイドリング状態ではなく走行状態に生じることが多い。そのため、エンジンシステムの異常判定装置では、アイドリング状態でなく走行状態においてエンジンシステムの異常を検出することが望まれている。
【0005】
本開示の技術は、車両の走行中にエンジンシステムにおける異常の有無を判定することが可能なエンジンシステムの異常判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するエンジンシステムの異常判定装置は、複数の気筒を有してクランクシャフトを駆動するエンジンと、前記複数の気筒の各々に対して設けられ燃料を噴射する燃料噴射弁と、排気通路における酸素の濃度である残留酸素濃度の検出値を出力するセンサーと、を備えるエンジンシステムに対して、前記センサーの異常、噴射量の異常、および、失火の少なくとも1つの異常の有無を判定するエンジンシステムの異常判定装置であって、前記燃料噴射弁の目標噴射量と前記エンジンの吸入空気量とに基づいて前記残留酸素濃度の推定値を算出する推定部と、前記推定値に対して前記検出値が高いか、低いか、等しいかを、燃料無噴射状態と燃料噴射状態との各々において判定する第1判定部と、前記燃料噴射状態における前記気筒の膨張行程での前記クランクシャフトの角加速度を気筒別角加速度として前記気筒毎に取得し、全ての前記気筒別角加速度の平均値に対して前記気筒別角加速度が高いか、低いか、等しいかを前記気筒毎に判定する第2判定部と、前記第1判定部の判定結果と前記第2判定部の判定結果とに基づいて前記異常の有無を判定する異常判定部と、を備える。
【0007】
上記構成によれば、第1判定部及び第2判定部の判定結果に基づいて、酸素濃度センサーの異常、燃料噴射弁の異常、エンジンの失火、これらの少なくとも1つの異常の有無を判定することが可能である。そして、車両走行中におけるアクセルオフの状態で燃料無噴射状態が具現化され、且つ、車両走行中におけるアクセルオンの状態で燃料噴射状態が具現化されることから、車両の走行中にエンジンシステムにおける異常の有無を判定することが可能である。
【0008】
上記エンジンシステムの異常判定装置において、前記第1判定部は、前記燃料無噴射状態が一定期間継続したことを条件に、前記燃料無噴射状態での判定に用いる前記推定値と前記検出値とを取得することが好ましい。
【0009】
酸素濃度センサーの検出値は、燃料無噴射状態が継続するほど、燃料無噴射状態に移行する直前にエンジンから排出された排気ガスの影響を受けにくくなる。上記構成によれば、第1判定部は、燃料無噴射状態が一定期間経過したあとの検出値で燃料無噴射状態での判定を行う。その結果、第1判定部の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部の判定結果に対する信頼度が高まる。
【0010】
上記エンジンシステムの異常判定装置において、前記第1判定部は、前記燃料噴射状態において前記目標噴射量の微分値が所定値以下である状態が一定期間経過したことを条件に、前記燃料噴射状態での判定に用いる前記推定値と前記検出値とを取得することが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、目標噴射量及び吸入空気量の変動が小さくエンジンの運転状態が安定している状態での推定値と検出値とによって、第1判定部による燃料噴射状態での判定が行われる。その結果、第1判定部の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
【0012】
上記エンジンシステムの異常判定装置において、前記第1判定部は、複数の前記推定値と複数の前記検出値とを取得し、前記複数の推定値の平均値と前記複数の検出値の平均値とに基づいて判定を行うことが好ましい。
【0013】
上記構成によれば、第1判定部は、複数の推定値の平均値と複数の検出値の平均値とに基づいて判定を行うことから、第1判定部の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
上記エンジンシステムの異常判定装置において、前記第2判定部は、前記エンジンが定常状態であるときに前記気筒別角加速度を取得することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、第2判定部は、エンジンが定常状態、すなわちクランクシャフトの回転が安定している状態の角加速度に基づいて気筒別角加速度を取得する。その結果、第2判定部の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の技術における異常判定装置を具体化した一実施形態の概略構成を該異常判定装置が搭載されたエンジンシステムとともに示す概略構成図である。
図2】各判定結果とエンジンシステムの状態との関係を示す図である。
図3】無噴射時判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】噴射時判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図5】角加速度判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図6】異常判定処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1図6を参照して、本開示におけるエンジンシステムの異常判定装置を具体化した一実施形態について説明する。
図1に示されるように、エンジンシステムは、ディーゼルエンジン10(以下、単にエンジン10という。)を中心に構成されている。エンジン10のシリンダーブロック11には、4つの気筒#1,#2,#3,#4が形成されており、各気筒#1〜#4には、燃料噴射弁13から各別に燃料が噴射される。シリンダーブロック11には、各気筒#1〜#4に作動ガスを供給するためのインテークマニホールド14と、各気筒#1〜#4からの排気ガスが流入するエキゾーストマニホールド15とが接続されている。
【0017】
インテークマニホールド14に接続される吸気通路16には、図示されないエアクリーナーを通じて吸入空気が導入される。吸入空気は、ターボチャージャー17のコンプレッサー18によって加圧されたのちインタークーラー19によって冷却される。
【0018】
一方、エキゾーストマニホールド15に接続される排気通路20には、ターボチャージャー17を構成するタービン22が設けられている。また、エキゾーストマニホールド15には、吸気通路16に接続されて排気ガスの一部をEGRガスとして吸気通路16に導入するEGR通路25が接続されている。EGR通路25には、EGRガスを冷却するEGRクーラー26とエンジン10の運転状態に応じて開度が制御されるEGR弁27とが取り付けられている。気筒#1〜#4には、EGR弁27が開状態にあるときに、排気ガスと吸入空気との混合気体である作動ガスが供給される。
【0019】
エンジンシステムは、エンジン10の運転状態に関する情報を検出する各種センサーを有する。エンジンシステムは、コンプレッサー18の上流に吸入空気量QAを検出する吸入空気量センサー31、吸気通路16とEGR通路25との接続部分よりも下流にブースト圧PBを検出するブースト圧センサー32、インテークマニホールド14における作動ガスの温度である吸気温度TINを検出する吸気温度センサー33、これらを有する。またエンジンシステムは、タービン22の下流に排気通路20を流れる流体の酸素の重量濃度である残留酸素濃度を検出する酸素濃度センサー34を有する。この他、エンジンシステムは、クランクシャフト28のクランク角を検出するクランク角センサー35、アクセル開度ACCを検出するアクセルセンサー36を有する。
【0020】
上述したエンジンシステムの異常の有無は、異常判定装置であるECU40によって判定される。ECU40は、上述した各センサーからの検出信号に基づいてエンジンシステムにおける異常、具体的には、エンジン10の失火、燃料噴射弁13の噴射特性、酸素濃度センサー34の検出特性、これらについての異常の有無を判定する。
【0021】
ECU40は、中央処理装置(CPU)、不揮発性メモリー(ROM)、及び揮発性メモリー(RAM)を有するマイクロコンピューターを中心に構成されている。ECU40は、各種処理を実行する制御部50、各種制御プログラムや各種データを格納する記憶部60を備えている。
【0022】
制御部50の目標噴射量演算部51は、例えばクランク角センサー35からの検出信号とアクセル開度ACCとに基づいて、燃料が噴射される気筒を把握するとともにその気筒に対応する燃料噴射弁13から噴射する燃料の目標量である目標噴射量QFを演算する。
【0023】
制御部50の推定部52は、残留酸素濃度の推定値Ceを演算する。推定部52は、目標噴射量QFが「0」以下の場合、空気中の酸素濃度(重量濃度)を推定値Ceとして演算する。推定部52は、目標噴射量QFが「0」より大きい場合、目標噴射量QFと吸入空気量QAとに基づいて推定値Ceを演算する。推定部52は、下記に示す式(1)に目標噴射量QFに基づく噴射重量と吸入空気量QAに基づく空気重量とを代入することにより推定値Ceを演算する。式(1)は、上述したエンジンシステムに対して行った各種実験の結果に基づいて規定されたモデルである。なお、推定値Ceを推定するモデルは、EGRガスの導入量等を考慮してもよい。
【数1】
【0024】
制御部50は、第1判定部を構成する無噴射時判定部53を備える。無噴射時判定部53は、燃料無噴射状態にて推定値Ceに対する検出値Cdの高低を判定し、その判定結果を記憶部60の第1判定結果格納部61に格納する無噴射時判定処理を実行する。
【0025】
無噴射時判定部53は、エンジン10の始動、及び、後述する異常判定処理にて正常判定がなされると無噴射時判定処理を開始する。無噴射時判定部53は、無噴射時判定処理が開始されると第1判定結果格納部61を初期化する。無噴射時判定部53は、目標噴射量QFが「0」以下である状態が一定期間継続するとエンジン10が無噴射安定状態にあるものと判断する。無噴射時判定部53は、その判断から継続する無噴射安定状態にて、空気中の酸素濃度(重量濃度)を推定値Ceとして取得するとともに酸素濃度センサー34の検出信号に基づく検出値Cdを取得する。そして、無噴射時判定部53は、推定値Ceに対する検出値Cdの乖離度に基づき、推定値Ceに対する検出値Cdの高低を判定する。無噴射時判定処理において無噴射時判定部53は、推定値Ceに対し、検出値Cdが高い「High」、検出値Cdが低い「Low」、検出値Cdが等しいと判断される「正常」、これらを第1判定結果として得る。推定値Ceに対して検出値Cdが高いと判断される乖離度、及び、推定値Ceに対して検出値Cdが低いと判断される乖離度、これらの乖離度は、エンジンシステムに対して行った各種実験の結果に基づき個別に設定される。
【0026】
制御部50は、第1判定部を構成する噴射時判定部54を備える。噴射時判定部54は、燃料噴射状態にて推定値Ceに対する検出値Cdの高低を判定し、その判定結果を記憶部60の第2判定結果格納部63に格納する噴射時判定処理を実行する。
【0027】
噴射時判定部54は、エンジン10の始動、及び、後述する異常判定処理にて正常判定がなされると噴射時判定処理を開始する。噴射時判定部54は、噴射時判定処理が開始されると噴射データ格納部62及び第2判定結果格納部63を初期化する。噴射時判定部54は、連続する2つの目標噴射量QFの偏差である目標噴射量QFの微分値が所定値以下である状態が一定期間継続するとエンジン10が噴射安定状態にあるものと判断する。噴射時判定部54は、その判断から継続する噴射安定状態の所定期間において、複数の推定値Ceを演算するとともに複数の検出値Cdを取得し、これら複数の推定値Ceと複数の検出値Cdとを記憶部60の噴射データ格納部62に格納する。
【0028】
噴射時判定部54は、上記所定期間が経過すると噴射データ格納部62に格納された推定値Ceの平均値である平均推定値ECeと検出値Cdの平均値である平均検出値ECdとを演算する。噴射時判定部54は、平均推定値ECeと平均検出値ECdとを比較し、平均推定値ECeに対する平均検出値ECdの乖離度に基づいて平均推定値ECeに対する平均検出値ECdの高低を判定する。噴射時判定処理において噴射時判定部54は、平均推定値ECeに対し、平均検出値ECdが高い「High」、平均検出値ECdが低い「Low」、平均検出値ECdが等しいと判断される「正常」、これらを第2判定結果として得る。平均推定値ECeに対して平均検出値ECdが高いと判断される乖離度、及び、平均推定値ECeに対して平均検出値ECdが低いと判断される乖離度、これらの乖離度は、エンジンシステムに対して行った各種実験の結果に基づいて個別に設定される。
【0029】
制御部50は、第2判定部である角加速度判定部55を備える。角加速度判定部55は、クランク角センサー35の検出信号に基づき、各気筒#1,#2,#3,#4の膨張行程におけるクランクシャフト28の角加速度である気筒別角加速度a1,a2,a3,a4を取得する。そして、角加速度判定部55は、気筒別角加速度a1〜a4の平均値である全気筒角加速度Eaに対する気筒別角加速度a1〜a4の各々の高低を判定し、その判定結果を記憶部60の第3判定結果格納部65に格納する角加速度判定処理を実行する。
【0030】
角加速度判定部55は、エンジン10の始動、及び、後述する異常判定処理にて正常判定がなされると角加速度判定処理を開始する。角加速度判定部55は、角加速度判定処理が開始されると角加速度格納部64及び第3判定結果格納部65を初期化する。角加速度判定部55は、エンジン10が定常状態にあるか否かを判断する。角加速度判定部55は、クランク角センサー35の検出信号に基づくエンジン回転速度Neの微分値が所定値以下であること、目標噴射量QFの微分値が所定値以下であること、これらの2つの条件が一定期間継続するとエンジン10が定常状態にあると判断する。
【0031】
角加速度判定部55は、上記判断から継続する定常状態の所定期間において、クランク角センサー35の検出信号に基づき、各気筒#1〜#4の膨張行程におけるクランクシャフト28の角加速度を演算し、その演算した記憶部60の角加速度格納部64に格納する。角加速度格納部64は、角加速度が格納される領域を気筒#1〜#4毎に有する。角加速度判定部55は、上記所定期間が経過すると、角加速度格納部64に格納された各気筒#1〜#4の角加速度に基づいて、気筒#1〜#4毎に、角加速度の平均値である気筒別角加速度a1〜a4を演算する。また、角加速度判定部55は、上記気筒別角加速度a1〜a4の平均値を全気筒角加速度Eaとして演算する。
【0032】
角加速度判定部55は、全気筒角加速度Eaと気筒別角加速度a1〜a4の各々とを比較して、全気筒角加速度Eaに対する気筒別角加速度a1〜a4の乖離度に基づいて、全気筒角加速度Eaに対する気筒別角加速度の高低を気筒#1〜#4毎に判定し、その判定結果を記憶部60の第3判定結果格納部65に格納する。角加速度判定処理において角加速度判定部55は、全気筒角加速度Eaに対し、気筒別角加速度が高い「High」、気筒別角加速度が低い「Low」、気筒別角加速度が等しいと判断される「正常」、これらを第3判定結果として気筒#1〜#4毎に得る。全気筒角加速度に対して気筒別角加速度が高いと判断される乖離度、及び、全気筒角加速度に対して気筒別角加速度が低いと判断される乖離度、これらの乖離度は、エンジンシステムに対して行った各種実験の結果に基づいて個別に設定される。
【0033】
制御部50の異常判定部56は、各判定結果格納部61,63,65に格納された判定結果と記憶部60に予め格納した参照テーブル66とに基づき、エンジンシステムにおける異常の有無の判定及び異常箇所を特定する異常判定処理を実行する。異常判定処理は、エンジン10の始動により開始され、エンジンシステムに対する異常判定で終了する。
【0034】
参照テーブル66は、第1〜第3判定結果とエンジンシステムの状態とを関連付けたデータである。異常判定部56は、第1〜第3判定結果の全てが「正常」であった場合、エンジンシステムに対して正常判定を行い、第1〜第3判定結果の少なくとも1つに異常があった場合、エンジンシステムに対して異常判定を行う。
【0035】
図2に示されるように、第1判定結果及び第2判定結果が「High」、且つ、第3判定結果が「正常」である場合、酸素濃度センサー34の検出値Cdが実際の値よりも高い状態であるセンサー特性異常(高)が生じている。
【0036】
第1判定結果及び第2判定結果が「Low」、且つ、第3判定結果が「正常」である場合、酸素濃度センサー34の検出値Cdが実際の値よりも低い状態であるセンサー特性異常(低)が生じている。
【0037】
第1判定結果及び第3判定結果が「正常」、且つ、第2判定結果が「Low」である場合、全ての燃料噴射弁13において目標噴射量QFよりも多くの燃料が噴射されている状態である全気筒噴射特性異常(多)が生じている。
【0038】
第1判定結果及び第3判定結果が「正常」、且つ、第2判定結果が「High」である場合、全ての燃料噴射弁13から噴射されている燃料が目標噴射量QFよりも少ない状態である全気筒噴射特性異常(少)が生じている。
【0039】
第1判定結果及び第2判定結果が「Low」、且つ、第3判定結果に「High」が含まれる場合、「High」に該当する気筒の燃料噴射弁13から噴射されている燃料が目標噴射量QFより多い状態である特定気筒噴射特性異常(多)が生じている。
【0040】
第1判定結果及び第2判定結果が「High」、且つ、第3判定結果に「Low」が含まれる場合、「Low」に該当する気筒の燃料噴射弁13から噴射されている燃料が目標噴射量QFより少ない状態である特定気筒噴射特性異常(低)が生じている。
【0041】
第1判定結果が「正常」、且つ、第2判定結果が「High」、且つ、第3判定結果に「Low」が含まれる場合、「Low」に該当する気筒において失火が生じている状態である特定気筒失火が生じている。また、第3判定結果に「Low」が複数含まれる場合、複数の気筒において失火が生じている状態である複数気筒失火が生じている。
【0042】
異常判定部56は、エンジンシステムに対して異常判定がなされると、警報ランプ67を点灯させることによりエンジンシステムに異常が生じていることを運転者に通知するとともに、その異常の状態を記憶部60の所定領域に記憶する。
【0043】
図3を参照して、無噴射時判定処理の処理手順の一例について説明する。
図3に示されるように、ECU40は、まず、第1判定結果格納部61を初期化する(ステップS11)。次にECU40は、無噴射安定状態であるか否かを判断する(ステップS12)。無噴射安定状態でない場合(ステップS12:NO)、ECU40は、無噴射安定状態であるか否かを繰り返し判断する。
【0044】
無噴射安定状態であった場合(ステップS12:YES)、ECU40は、検出値Cd、及び、演算した目標噴射量QFを含む各種情報を取得する(ステップS13)。ECU40は、上記各種情報に基づいて無噴射安定状態が継続しているか否かを判断する(ステップS14)。無噴射安定状態が継続していない場合(ステップS14:NO)、ECU40は、再びステップS12の処理に移行する。一方、無噴射安定状態が継続している場合(ステップS14:YES)、ECU40は、空気中の酸素濃度を推定値Ceとして検出値Cdとの比較を行う(ステップS15)。そして、ECU40は、ステップS15の比較結果を第1判定結果として第1判定結果格納部61に格納し(ステップS16)、無噴射時判定処理を終了する。
【0045】
図4を参照して、噴射時判定処理の処理手順の一例について説明する。
図4に示されるように、ECU40は、まず、噴射データ格納部62及び第2判定結果格納部63を初期化する(ステップS21)。次にECU40は、噴射安定状態であるか否かを判断する(ステップS22)。噴射安定状態でない場合(ステップS22:NO)、ECU40は、噴射安定状態であるか否かを繰り返し判断する。
【0046】
噴射安定状態であった場合(ステップS22:YES)、ECU40は、吸入空気量QA、検出値Cd、及び、演算した目標噴射量QFを含む各種情報を取得する(ステップS23)。ECU40は、上記各種情報に基づいて噴射安定状態が継続しているか否かを判断する(ステップS24)。噴射安定状態でなかった場合(ステップS24:NO)、ECU40は、再びステップS21の処理に移行する。一方、噴射安定状態が継続している場合(ステップS24:YES)、ECU40は、目標噴射量QFに基づく噴射重量及び吸入空気量QAに基づく空気重量を式(1)に代入して推定値Ceを演算し、演算した推定値CeとステップS23で取得した検出値Cdとを噴射データ格納部62に格納する(ステップS25)。
【0047】
次に、ECU40は、ステップS22にて噴射安定状態と判断されてから噴射安定状態が所定期間経過したか否かを判断する(ステップS26)。所定期間経過していない場合(ステップS26:NO)、ECU40は、再びステップS23の処理に移行する。一方、所定期間経過した場合(ステップS26:YES)、ECU40は、噴射データ格納部62に格納した推定値Ceと検出値Cdとに基づいて、平均推定値ECeと平均検出値ECdとを演算する(ステップS27)。そして、ECU40は、平均推定値ECeと平均検出値ECdとを比較し(ステップS28)、その比較結果を第2判定結果として第2判定結果格納部63に格納して(ステップS29)、噴射時判定処理を終了する。
【0048】
図5を参照して、角加速度判定処理の処理手順の一例について説明する。
図5に示されるように、ECU40は、まず、角加速度格納部64及び第3判定結果格納部65を初期化する(ステップS31)。次にECU40は、エンジン10が定常状態であるか否かを判断する(ステップS32)。定常状態でない場合(ステップS32:NO)、ECU40は、定常状態であるか否かを繰り返し判断する。
【0049】
定常状態であった場合(ステップS32:YES)、ECU40は、エンジン回転速度Ne、燃料が噴射される気筒、及び、演算した目標噴射量QFを含む各種情報を取得する(ステップS33)。ECU40は、上記各種情報に基づいて定常状態が継続しているか否かを判断する(ステップS34)。定常状態が継続していない場合(ステップS34:NO)、ECU40は、再びステップS31の処理に移行する。一方、定常状態が継続している場合(ステップS34:YES)、ECU40は、クランク角センサー35の検出信号に基づいて、燃料が噴射された気筒の角加速度を演算し、その演算した角加速度を角加速度格納部64に格納する(ステップS35)。
【0050】
次に、ECU40は、ステップS32においてエンジン10が定常状態と判断されてから所定期間経過したか否かを判断する。所定期間経過していない場合(ステップS36:NO)、ECU40は、再びステップS33の処理に移行する。一方、所定期間経過した場合(ステップS36:YES)、ECU40は、角加速度格納部64に格納した角加速度に基づいて、気筒別角加速度a1〜a4と全気筒角加速度Eaを演算する(ステップS37)。ECU40は、全気筒角加速度Eaと気筒別角加速度a1〜a4の各々とを比較し(ステップS38)、その比較結果を第3判定結果として第3判定結果格納部65に格納して(ステップS39)、角加速度判定処理を終了する。
【0051】
図6を参照して、異常判定処理の処理手順の一例について説明する。
図6に示されるように、ECU40は、まず、無噴射時判定処理、噴射時判定処理、及び、角加速度判定処理の全てが完了しているか否かを判断する(ステップS41)。全ての判定処理が完了していない場合(ステップS41:NO)、ECU40は、全ての判定処理が完了しているか否かを繰り返し判断する。
【0052】
一方、全ての判定処理が完了している場合(ステップS41:YES)、ECU40は、記憶部60に格納されている各判定処理の判定結果と参照テーブル66とに基づいて、エンジンシステムにおける異常の有無及びその異常箇所を特定する判定を行う(ステップS42)。そして、ECU40は、ステップS42においてエンジンシステムに異常が検出されなかった場合(ステップS43:NO)、正常判定したのち(ステップS44)、再びステップS41の処理に移行する。一方、エンジンシステムに異常が検出された場合(ステップS43:YES)、ECU40は、警報ランプ67を点灯させ(ステップS45)、異常判定処理を終了する。
【0053】
次に、上述した異常判定装置の作用について説明する。
ECU40は、酸素濃度センサー34の異常、燃料噴射弁13の異常、及び、エンジン10における失火について、エンジン10が無噴射安定状態、噴射安定状態、定常状態であるときに得られる各種情報に基づいて判定する。無噴射安定状態は、車両の走行中におけるアクセルオフの状態で具現化される運転状態である。すなわち、無噴射安定状態、噴射安定状態、定常状態は、車両の走行中に具現化される運転状態である。その結果、車両の走行中であってもエンジンシステムにおける異常の有無を判定することが可能である。
【0054】
上記実施形態の異常判定装置によれば、以下の効果が得られる。
(1)エンジンシステムにおける異常の有無が車両の走行中に判定可能である。
(2)無噴射安定状態における推定値Ceと検出値Cdとで燃料無噴射状態の判定が行われる。これにより、燃料無噴射状態での判定に用いられる検出値Cdは、無噴射状態に移行する直前にエンジン10から排出された排気ガスの影響を受けにくい。その結果、無噴射時判定部53の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部56の判定結果に対する信頼度が高まる。
【0055】
(3)噴射安定状態における推定値Ceと検出値Cdとに基づいて燃料噴射状態の判定が行われる。これにより、燃料噴射量の大きな変動がなく、エンジン10の運転状態が安定している状態での推定値Ceと検出値Cdとに基づいて燃料噴射状態での判定が行われる。その結果、噴射時判定部54の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部56の判定結果に対する信頼度が高まる。
【0056】
(4)噴射時判定部54による判定が平均推定値ECeと平均検出値ECdとで行われることから、噴射時判定部54の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
(5)エンジン10の定常状態における角加速度から気筒別角加速度a1〜a4が演算される。すなわち、気筒別角加速度a1〜a4は、燃料噴射状態、且つ、クランクシャフト28の角加速度の変動が少ない状態における角加速度である。その結果、角加速度判定部55の判定結果に対する信頼度、ひいては異常判定部56の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
【0057】
(6)気筒別角加速度a1〜a4が各気筒#1〜#4の角加速度の平均値であることから、角加速度判定部55の判定結果に対する信頼度がさらに高まる。
(7)気筒別角加速度a1〜a4が各気筒#1〜#4の角加速度の平均値であり、比較対象となる角加速度が気筒別角加速度a1〜a4の平均値である全気筒角加速度Eaである。そのため、例えば、気筒別角加速度a1〜a4を算出するための角加速度のサンプル数が気筒#1〜#4毎に異なっていたとしても判定結果に与える影響が抑えられる。
【0058】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・気筒別角加速度a1〜a4は、エンジン10の運転状態が定常状態にあるときの角加速度に基づく値である場合、定常状態における角加速度であればよく所定期間における角加速度の平均値でなくてもよい。
【0059】
・気筒別角加速度a1〜a4は、燃料噴射状態におけるクランクシャフト28の角加速度であればよく、例えばエンジン10の運転状態が加速状態にあるときの角加速度であってもよい。
【0060】
・全気筒角加速度Eaは、気筒別角加速度a1〜a4の平均値ではなく、これら気筒別角加速度a1〜a4を演算する際に用いた角加速度全ての平均値であってもよい。
・噴射時判定処理では、燃料噴射状態における推定値Ceと検出値Cdとに基づいて判定が行われればよく、平均値同士での比較に限らず、例えば1つの推定値Ceと1つの検出値とで判定が行われてもよい。
【0061】
・また噴射時判定処理では、燃料噴射状態における推定値Ceと検出値Cdとに基づいて判定が行われればよく、エンジン10が噴射安定状態ではない状態における推定値Ceと検出値Cdとに基づいて判定が行われてもよい。
【0062】
・無噴射時判定処理では、燃料無噴射状態における検出値Cdに基づいて判定が行われればよく、例えばエンジン10が燃料無噴射状態に移行した直後の検出値Cdで判定が行われてもよいし、検出値Cdの平均値で判定が行われてもよい。
・エンジンは、ディーゼルエンジン10に限らず、ガソリンエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
#1,#2,#3,#4…気筒、10…ディーゼルエンジン、11…シリンダーブロック、13…燃料噴射弁、14…インテークマニホールド、15…エキゾーストマニホールド、16…吸気通路、17…ターボチャージャー、18…コンプレッサー、19…インタークーラー、20…排気通路、22…タービン、25…EGR通路、26…EGRクーラー、27…EGR弁、28…クランクシャフト、31…吸入空気量センサー、32…ブースト圧センサー、33…吸気温度センサー、34…酸素濃度センサー、35…クランク角センサー、36…アクセルセンサー、40…ECU、50…制御部、51…目標噴射量演算部、52…推定部、53…無噴射時判定部、54…噴射時判定部、55…角加速度判定部、56…異常判定部、60…記憶部、61…第1判定結果格納部、62…噴射データ格納部、63…第2判定結果格納部、64…角加速度格納部、65…第3判定結果格納部、66…参照テーブル、67…警報ランプ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6