(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、都市部において景観創出、生物多様性の保全、ヒートアイランド現象の抑制を目的として、公園などの公開空地、屋上などの人工地盤、水辺空間などを草本類で緑化する事例が増えている。このような緑化のために、公開空地、人工地盤を被覆するためのグランドカバープランツや、水辺空間に植えられる水生植物が、通常、ポット苗の形態で流通している。
【0003】
しかしながら、このポット苗を使用する緑化方法では、
(1)ポット苗を緑化面に植え付けるために植え穴を開ける必要があり、手間がかかる;
(2)植え付け後、植物により被覆された緑化面を形成して維持していくためには、植物が根付くまでの養生作業や、苗の間に繁茂してくる雑草を除去するなど管理作業が必要となる;
(3)人工地盤であれば、ポット苗を定植するための植生基盤を設ける必要がある;
(4)水辺空間であれば、ポット苗の根鉢についた培土又は保肥力のある赤土に含まれる栄養分は、水質を劣化させる原因となる;
などの問題があった。
【0004】
そこで、植物の植え付けや維持管理の手間を省き、環境に配慮して緑化できる方法として、隣り合う植物同士の根系を絡ませ、定形化した植生マットを製造し、当該植生マットを敷くのみで緑化する方法が考えだされた。
【0005】
例えば、特開2006−6173号公報には、植生ブロックマット(植生マット)の製造方法が記載されている。当該植生ブロックマットは、遮根シートを敷いた有孔構造のトレー容器内に植生基盤を充填し、当該植生基盤に植生した植物の根系の成長を当該遮根シートで規制しつつ、植物の根系で以って植生基盤を定形化して製造される。
【0006】
また、特開2011−239694号公報には、マット化した水生植物とその根系に保持された無機イオン吸脱着材を含む植栽基盤材とを有する水質保全用緑化資材(植生マット)が記載されている。当該水質保全用緑化資材は、水中の無機イオンを効率的に吸着する。吸着された無機イオンは水生植物自身により利用される。よって、当該水生植物で構成される植生マットの育成には、無機イオンを含む土壌に替えて砂や礫などを使用することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、植生マットの製造にかかる期間を短縮することは、植生マットの製造、安定供給、費用などにおいて大きな利益となる。
【0009】
植生マットの製造にかかる期間を短縮するために、根・地下茎が絡みやすい植物を使用することが考えられる。根・地下茎が絡みやすい植物としては、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物が挙げられる。しかしながら、これら深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物は、見映えが良くないことが多く、景観創出に適さないことがある。
【0010】
景観創出のために、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物と比較して見映えが良い浅根型植物及び/又は直根型植物を使用することが考えられる。しかしながら、これら浅根型植物及び/又は直根型植物は根が絡み難いため、植生マットの製造に時間がかかる。
【0011】
一方、植生マットを水辺空間に使用する場合、水質保全のために、栄養分を豊富に含む培土などではなく、砂や礫などを植生基材として使用することが望まれる。しかしながら、砂や礫などは、粒子間の結び付きが弱いため、培土などと比較して植生マットの製造により時間がかかる。
【0012】
前記従来の状況に鑑み、本発明では、短期間で製造することができる景観性に優れた水生植物の植生マット及び景観性に優れた水生植物の植生マットを短期間で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、外周部分の少なくとも一部に深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を配置し、それ以外の部分に浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を配置することにより、前記課題を解決できることを見出し、発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 植生基盤と、前記植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置された深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と、前記植生基盤における他の部分に配置された浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とを有する植生マット。
[2] 前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物が、前記植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置されたことを特徴とする、前記[1]の植生マット。
[3] 前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物が、前記植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置され、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物が、当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の外周方向に隣り合う位置に配置されたことを特徴とする、前記[1]の植生マット。
[4] 前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の配置された前記植生基盤の外周部分が、コーナー部分であることを特徴とする、前記[3]の植生マット。
[5] 植生マットに植えられた水生植物の株数に対して、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の株数が、40%以上であることを特徴とする、前記[1]の植生マット。
[6] 前記植生基盤が、非土壌性植生基材を含むことを特徴とする、前記[1]の植生マット。
[7] 前記植生基盤が、無機イオン吸脱着材を含むことを特徴とする、前記[1]の植生マット。
[8] 植生基盤の外周部分の少なくとも一部に深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物、前記植生基盤における他の部分に浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を配置する工程と、配置した植物を生育する工程とを含む、植生マットの製造方法。
[9] 前記植物を配置する工程では、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を前記植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置することを特徴とする、前記[8]の植生マットの製造方法。
[10] 前記植物を配置する工程では、前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を前記植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置し、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の外周方向に隣り合う位置に配置することを特徴とする、前記[8]の植生マットの製造方法。
[11] 前記植物を配置する工程では、前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の配置する前記植生基盤の外周部分をコーナー部分とすることを特徴とする、前記[10]の植生マットの製造方法。
[12] 前記植物を配置する工程では、前記植生基盤に植える水生植物の株数に対して、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の株数を、40%以上とすることを特徴とする、前記[8]の植生マットの製造方法。
[13] 前記植物を配置する工程では、前記植生基盤が非土壌性植生基材を含むことを特徴とする、前記[8]の植生マットの製造方法。
[14] 前記植物を配置する工程では、前記植生基盤が無機イオン吸脱着材を含むことを特徴とする、前記[8]の植生マットの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、短期間で製造することができる景観性に優れた水生植物の植生マット及び景観性に優れた水生植物の植生マットを短期間で製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る植生マットは、植生基盤と植生基盤の所定の位置に配置された根系の異なる複数種の水生植物とから構成される。
【0019】
「植生基盤」とは、植生基材を容器に充填し、又は敷き詰めてなる、植物を植え込む基盤である。
【0020】
植生基盤は、育苗トレーなどの容器に植生基材を敷き詰めることで製造することができる。植生基盤は、トレーの形状により、正方形、長方形、台形、円形、楕円形、三角形、多角形など、様々な形状とすることができる。例えば、植生基盤に用いられるトレーの大きさとしては、深さ4cmで、25cm角の容器が2つ連なっている育苗トレーである。なお、容器には、通気性、通水性を確保するために、通気口、排水口が設けられていてもよい。
【0021】
植生基材は、非土壌性植生基材、又はそれらの混合物を含むことができる。
【0022】
「非土壌性植生基材」とは、土壌以外の植生基材を意味する。非土壌性植生基材は、無機質の土壌改良材を含む。非土壌性植生基材としては、例えば、川砂などの砂、砂質土、礫、砂利、火山礫などの天然のものとパーライトなどの火山岩を加工した軽量骨材、発泡スチロール廃材などの人工のものなどが挙げられる。非土壌性植生基材としては、砂が好ましく、特に水生植物の場合、粒子径が125〜250μmである細粒砂、粒子径が250〜500μmである中粒砂又は粒子径が500μm〜1mmである粗粒砂が好ましい。
【0023】
また、植生基材は、無機イオン吸脱着材、繊維材料などを含んでいてもよい。特に、植生基材としては、無機イオン吸脱着材及び非土壌性植生基材を含むことが好ましい。
【0024】
「無機イオン吸脱着材」とは、植物の生育に有用ないずれかの無機イオンを吸着することができ、かつ吸着した無機イオンを脱着(放出)することができる材料をいう。無機イオン吸脱着材としては、例えば、無機イオン交換体が挙げられ、硝酸イオン吸着能を高めた機能炭、高い陽イオン交換能を持つ鉱物などがあるが、これらに限定されない。無機イオン吸脱着材としては、無機イオン吸着物質を含む多孔質材料を用いることができる。無機イオン吸脱着材としては、例えば、硝酸イオン吸脱着材又はリン酸イオン吸脱着材が挙げられる。硝酸イオン吸脱着材としては、例えば、カルシウム担持炭からなる吸着材、陰イオン交換樹脂などが挙げられる。リン酸イオン吸脱着材としては、例えば、トバモライト、鹿沼土、アロフェンとカオリン系粘土を含む焼成吸着材などが挙げられる。無機イオン吸脱着材は、粒状、粉末状、固形状、繊維状などの任意の形状であってよいが、好ましい1つの態様は粒状である。
【0025】
繊維材料は、合成繊維でも天然繊維でもよい。繊維材料は、線状(1次元)、布状(2次元)又は3次元のネット状のものでもよい。繊維材料としては、例えば、プラスチック繊維、ヤシ繊維、麻繊維、稲ワラなどが挙げられる。これら繊維材料は、窒素、リン成分の溶出が無いか、又は非常に低い材料であるため、水辺空間に使用する植生マットに好適である。
【0026】
「根系の異なる複数種の水生植物」とは、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とからなる少なくとも2種類の水生植物という意味である。
【0027】
「水生植物」とは湖沼、溜池、河川などの淡水域、湿地及び湿原に生育する植物である。景観に配慮して水辺空間を緑化する際、用いる水生植物は、抽水植物が好ましい。
【0028】
「深根型植物」とは、根が浅根型植物と比較して地中深くまで分布する植物を意味する。「浅根型植物」とは、根が深根型植物と比較して地表近くに多く分布する植物を意味する。すなわち、水生植物は、根の深さ・地中への分布に応じて深根型植物と浅根型植物とに分類できる。
【0029】
「ほふく性植物」とは、茎の地際から出て水平に伸びる茎(ほふく茎)を有する植物を意味する。「地下茎植物」とは、地中に存在する茎(地下茎)を有する植物を意味する。「直根型植物」とは、種子から垂直に伸びる主根を有する植物を意味する。
【0030】
深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物としては、例えば、カンガレイ、サンカクイ、フトイ、マツカサススキ、アブラガヤ、ウキヤガラ、ヌマガヤツリ、ヨシ、クサヨシ、ガマ、コガマ、アゼガヤツリなどが挙げられるが、これらに限定されない。深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物は、カンガレイ、フトイ、ウキヤガラ、アゼガヤツリが好ましい。
【0031】
浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物としては、例えば、サワヒヨドリ、アゼナ、ミゾコウジュ、ヌマトラノオ、セリ、ミソハギ、タコノアシ、キツネノボタン、ミゾソバ、ハンゲショウ、カキツバタ、ショウブ、セキショウ、サジオモダカなどが挙げられるが、これらに限定されない。浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物は、ヌマトラノオ、セリ、ミソハギ、タコノアシ、セキショウが好ましい。
【0032】
植生マットにおいて、植生基盤の外周部分の少なくとも一部には、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物が配置されている。また、当該植生基盤における他の部分には、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物が配置されている。すなわち、植生基盤の外周部分の全てに、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物が配置されていてもよい。また、植生基盤の外周部分に深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物が配置されていてもよい。
【0033】
また、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物は、植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置されることが好ましい。例えば、植生基盤が四角形である場合、1以上のコーナー部分、好ましくは4つのコーナー部分に深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を配置することが好ましい。
【0034】
前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物が、植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置された場合は、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物は、当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の外周方向に隣り合う位置に配置されることが好ましい。当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物が植生基盤の外周部分におけるコーナー部分に配置された場合、当該深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物は、当該コーナー部分を形成する辺上の、当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物と隣り合う位置に配置されることが好ましい。
【0035】
植生マットにおいて、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の株数は、植生基盤に植えられた全ての水生植物の株数に対して40%以上であることが好ましい。
【0036】
植生マット中の植物の数は、用いる水生植物の種類によって異なる。例えば、植生マット中の水生植物の数は、植生基盤が25cm角である場合、9〜25株である。
【0037】
図1には、本願発明に係る植生マットにおいて、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とを有する植生マットの3つの実施形態を示す。
図1Aに示す植生マットは、9株の植物を有する。
図1Aに示す植生マットは、当該植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置された深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と、当該植生基盤における他の部分に配置された浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とを有する。
図1Bに示す植生マットは、16株の植物を有する。
図1Bに示す植生マットは、当該植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置された浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物と、当該コーナー部分を形成する辺上の、当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物と隣り合う位置に配置された深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物とを有する。
図1Cに示す植生マットは、16株の植物を有する。
図1Cに示す植生マットは、当該植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置された深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を有し、当該水生植物と浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とが交互に配置されている。
【0038】
以上のように構成された植生マットは、植生基盤の所定の位置に根系の異なる複数種の水生植物を配置し、配置した水生植物を生育することで製造できる。
【0039】
すなわち、まず、植生基盤の外周部分の少なくとも一部に深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物、当該植生基盤における他の部分に浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を配置する。
【0040】
水生植物を所定の位置に配置した後、常法に従って水生植物を生育する。水生植物の生育では、例えば、散水、施肥、除草などを適宜実施する。
【0041】
そして水生植物が十分に生育し、植え付けた水生植物が十分にマット化したら、容器から植生マットを取り外し、植生マットを得る。例えば、植え付けた水生植物を植生基盤から離間する方向に引っ張った時に引き抜くことが困難であり、且つ、型くずれすることなく、トレーなどから全体を取り外せる場合、十分にマット化したと判定することができる。
【0042】
このように根系の異なる複数種の水生植物を使用することで、マット化に要する時間を短縮することができる。なお、マット化を評価する手法は、特に限定されないが、植生基盤からの水生植物の引き抜き易さ及び植生マットの形状保持能に基づいてマット化を評価できる。配置する順番は、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物のどちらを先にしてもよい。
【0043】
植生基盤に植え付けた水生植物を生育すると、深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の根及び/又は地下茎が、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の根系をかかえるように絡んでいく。その結果、植生基盤の所定の位置に配置した深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物と、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物とを有する植生マットでは、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物のみから構成される植生マットと比較して、植生マットの製造時間が短縮できる。
【0044】
また、植生マットを製造する際、水生植物の苗を植生基盤の所定の位置に植え込んでもよいし、水生植物の種子を植生基盤の所定の位置に播種してもよい。特に、水生植物の苗を使用して植生マットを製造することが好ましい。苗を使用した場合には、異なる種類の水生植物を正確に位置決めすることができる。
【0045】
さらに、植生マットを製造する際、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を植生基盤の外周部分のコーナー部分に配置することが好ましい。当該水生植物をコーナー部分に配置することで、植生マットのコーナー部分の型くずれ(崩壊)を防止することができる。
【0046】
さらにまた、植生マットを製造する際、前記浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を植生基盤の外周部分の少なくとも一部に配置する場合は、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物を当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の外周方向に隣り合う位置に配置することが好ましい。これにより外周部分に配置された浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物の根に、隣り合う深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の根が絡むことができる。よって、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を外周部分に配置した場合であっても、マット化に要する時間を短縮することができる。特に、浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物を、植生基盤のコーナー部分に配置したとしても、当該コーナー部分を形成する辺上の、当該浅根型植物及び/又は直根型植物の水生植物と隣り合う位置に配置された深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物により短時間でマット化できるとともに、コーナー部分の型くずれを防止することができる。
【0047】
さらにまた、植生マットを製造する際、植生基盤に植えられた全ての水生植物の株数に対して、前記深根型植物、ほふく性植物及び地下茎植物からなる群から選ばれる少なくとも一種の水生植物の株数を40%以上とすることが好ましい。これによりマット化に要する時間をさらに短縮できるとともに、植生マット全体の型くずれをより確実に防止することができる。
【0048】
前記植生基盤は、無機イオン吸脱着材を含むことが好ましい。無機イオン吸脱着材を使用することで、当該植生基盤は窒素やリンといった肥料成分を保持することができる。向上した植生基盤の保肥力は、植物の生育を促すことができる。その結果、植生マット全体のマット化に要する時間を短縮することができる。
【0049】
前記植生基盤は、非土壌性植生基材を含むことが好ましい。非土壌性植生基材を使用した場合、特に水辺環境に好適な植生マットを製造することができる。非土壌性植生基材を使用することにより、栄養分の流出に起因する水辺環境の富栄養化を防止し、環境に配慮した植生マットを、短時間で製造できる。また、非土壌性植生基材を含む植生基盤は、無機イオン吸脱着材をさらに含むことがより好ましい。これにより、非土壌性植生基材を使用したとしても、水生植物は無機イオン吸脱着材に吸着した無機イオンを養分として生育することができる。よって、非土壌性植生基材と無機イオン吸脱着材を使用することで、水辺環境に好適な植生マットを短時間で製造できる。
【0050】
植生基盤中に植える水生植物の数は、用いる水生植物の種類によって異なる。例えば、植生基盤中に植える水生植物の数は、植生基盤が25cm角である場合、9〜25株である。植生基盤中に植える水生植物の数をこの範囲とすることで、隣り合う水生植物の根系を互いに確実に絡ませることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0052】
25cm角で2連の育苗トレーに深さ4cmで、砂と無機イオン吸脱着材を混合した人工土壌を敷き均した。人工土壌の配合は、砂50%+機能炭25%+トバモライト12.5%+鹿沼土12.5%とした。単位「%」は、砂又はそれぞれの無機イオン吸脱着材の体積を計量カップを用いて計量した時の割合を表す。なお、無機イオン吸脱着材を含む非土壌性植生基材をこのトレーに敷き均す際、トレーの側面に開けられている排水孔を新聞紙のような分解性の材料で塞いだ。栄養塩を含む水耕液の流出を抑制し、水生植物の根系を短期間に十分に発達させるためである。また、従来の植生マットの製造方法のように、トレーの内側に遮根シートを敷いて根系を制限することはしない。浅根型植物であるミソハギと深根型植物であるアゼガヤツリの苗を、25cm角の植生基盤全体で16株となるように、
図2に示す5種類の配置で、2011年7月8日に植え付けた。各トレーを高さ3cmで栄養塩を含む水耕液をはった水盤に入れて植物を育成した。各トレーにおける植物の生育状況と植生マットの形成状況を比較するために、月に一回の割合で、植物が植生基盤を覆っている割合である植物の被覆度、及びマット化度を調査した。マット化度については、植え付けた苗を植生基盤から離間する方向に引っ張ることによって根張り状況を確認し、「1:定植された苗の根張りが不安定で容易に引き抜くことができる〜3:ある程度の強い力で引き抜くことができる〜5:定植された苗の根張りが十分で引き抜くことが容易ではない〜7:ある程度マット化されているがトレーから外すと多少崩れる〜9:完全にマット化されており容易にトレーから外せる;2、4、6、8はこれらの各段階の中間のレベルを示す」、の9段階で評点することとした。マット化度が5以上であれば、使用可能なレベルのマット化が認められ、7以上であることがより好ましいマット化と判定した。
【0053】
図2に示した植生マットについて、各植生マットの作製期間と被覆度との関係を示す特性図を
図3に示す。白ひし形は植生マット1、黒四角は植生マット2、白三角は植生マット3、黒丸は植生マット4、バツ印は植生マット5を示す。
【0054】
図3に示すように、試験期間を通して、ミソハギ単植である植生マット1に比べて、アゼガヤツリ単植である植生マット5及び両種を混植した植生マット2〜4において被覆度が高いことがわかった。また、
図3からは混植した植生マットの中では、アゼガヤツリの植え付け個体数が多かった植生マット3の被覆度が高いことがわかった。この結果は、ミソハギに比べてアゼガヤツリは横に葉むらを拡げるためであると考えられる。
【0055】
図2に示した植生マットについて、各植生マットの作製期間とマット化度との関係を示す特性図を
図4に示す。白ひし形は植生マット1、黒四角は植生マット2、白三角は植生マット3、黒丸は植生マット4、バツ印は植生マット5を示す。
【0056】
図4に示すように、植え付けてから2ヶ月が経過した2011年9月6日の評点を比較すると、アゼガヤツリ単植である植生マット5、アゼガヤツリのみを外周に植えた植生マット3及びアゼガヤツリとミソハギを交互に外周に植えた植生マット4のマット化度が、ミソハギ単植である植生マット1に比べて高いことがわかった。しかしながら、混植した植生マットであっても、ミソハギのみを外周に植えた植生マット2では、角部が崩れてしまうため、植え付けてから2ヶ月が経過してもマット化度が低いままであった。
【0057】
以上のことから、ミソハギは根が浅く、横に拡がっていく速度が遅いため、ミソハギ単植ではマット化するまでに時間がかかってしまうこと、アゼガヤツリのみを外周に植えた場合及びアゼガヤツリとミソハギを交互に外周に植えた場合にはミソハギ単植に比べてマット化する速度が大きくなること、ミソハギのみを外周に植えた場合にはミソハギ単植に比べてマット化する速度が小さくなることが明らかとなった。