(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パッドは、大腿部の付け根付近を支える部分の両側において大腿部の付け根付近を支える部分を窪みとする3枚のパッドを備え、該パッドは、臀部を支える部分および大腿部の付け根付近を支える部分に向けて薄くなっている請求項2記載の車いす用クッション。
防水性を有する止水カバーで覆われ、さらにその外方を通気性に優れる張地から成るクッションカバーで覆ったものである請求項1から4のいずれか1つに記載の車いす用クッション。
【背景技術】
【0002】
一般的な折りたたみ式の車いすは、ビニルレザーやナイロンシート等のスリングシートと呼ばれる薄いシートで座部が形成されることが多い。このため、スリングシートからなる座部に直接に座ると、その重みによってスリングシートが下方へ撓んで、臀部が沈み込んでしまうため、骨盤が後方や左右に傾斜したり、旋回したりして、安定した座位の姿勢を保つのが難しいという問題がある。また、スリングシートから成る背もたれにおいても、臀部を後方側からしっかりと支える機能がないために、骨盤を安定させる効果は得られない。このため、座シートも背シートもスリングシートの車いすに座ると、誰でもこのような問題が発生し、とりわけ座る機能が低下している高齢者や車いす利用者にとっては深刻な問題である。
【0003】
また、長時間、車いすに座り続けなければならない利用者の場合は、スリングシート自体のクッション性が低いため、臀部の一部に圧力が集中して、褥瘡、いわゆる床ずれを生じる虞もある。
【0004】
そこで、折りたたみ式車いすのスリングシート上で利用者の臀部を支え、骨盤を安定させて座ったときの安定感を与えると共に、体圧を分散させて褥瘡などを予防する車いす用クッションが望まれる。
【0005】
このような車いす用クッションとして、従来、プラスチックフォーム材とゲル材とを組み合わせて座骨結節部圧力を減圧できるタイプの車いす用クッションが提案されている。例えば、前方に大腿部座面、後方に大腿部座面よりも低い臀部座面を有するほぼ平板状の座面部材と、この座面部材の臀部座面の周縁部分が座面の上方側へ延設されて骨盤を後方側から支持する後方支持部材及び骨盤を両側から支持する一対の側壁部とを備え、これらが全体に軟質フォームで一体成形されると共に臀部座面部分に粘弾性ゲル層が形成され、防水性を有するフィルムから成る被覆層によって全体に覆われた車いす用クッションが提案されている(特許文献1,同文献の
図3参照)。
【0006】
この車いす用クッションは、座面部材並びに後方支持部材及び側方部材が被覆層を形成するフィルムによって区画される空間内で粘弾性ゲルと軟質フォームとを発泡・硬化させることで一体に形成されている。つまり、上述の車いす用クッションは、金型のキャビティ面に密着させた被覆層を形成するフィルムの上から座面部材の臀部座面に対応する位置にゲル状粘弾性体を注入して硬化させることにより粘弾性ゲル層を形成する一方、さらにゲル体を覆うように軟質発泡剤の前躯体を注入してから、その上に座面部材の底面側の被覆層となるフィルムを重ね、金型に蓋をしてから前躯体を発泡させると共に硬化させてポリウレタンの軟質フォームを形成することにより得られる。
【0007】
つまり、この車いす用クッションは、軟質フォームによって座面部材と一体成形された後方支持部材及び側方支持部材によって、被覆フィルムと軟質フォームとの弾性変形可能な範囲内で、後方側あるいは両側から骨盤を支持して骨盤を安定させることを企図している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、後方支持部材並びに側方支持部材の座面部材に対する角度がフィルムから成る被覆層と変形し易い軟質フォームの弾性変形可能な範囲内で規制されているので、構造的な強度が十分ではなく、クッションの形を保って骨盤を安定させる効果が十分でない。
【0010】
さらに、クッション全体が単一の軟質フォームで形成されるため、車いすの利用者の要望に応じて部分的にクッションの硬さや柔らかさ、また形状を調整することができない。即ち、車いす利用者の身体に合わせた硬さに調整することが不可能であると共に、利用者の身体的障害などに応じて最適な硬さや形状に調整することもできない。
【0011】
また、クッション全体即ち座面部材並びに後方支持部材及び側方支持部材は、軟質フォームで一体形成しているので、全体的に変形しやすく、形を保つことが難しい。このため、体圧分散効果については優れていても、骨盤を安定させる効果については依然として十分であるとは言えず、安定した座位の姿勢を保つことが難しい場合もあるという問題を有する。
【0012】
しかも、スリングシートからなる背シートにも角度がついているため、座面後方で骨盤を後方側から支持する後方支持部材が座面の上方側へ延設されていても、背シートと後方支持部材との間に隙間が発生してクッションを後方側からしっかりと支えることができないために、骨盤を安定させる効果が十分には得られない。
【0013】
本発明は、部分的にクッションの硬さ・柔らかさ、また形状を調整することができる、即ち車いす利用者の身体に合わせた硬さに調整することが可能であると共に、利用者の身体的障害の状況などに応じて最適な硬さや形状に調整することができる構造の車いす用クッションを提供することを目的とする。さらに、本発明は、体圧を分散させて褥瘡などを予防しながら、車いす利用者の臀部をしっかり支えて骨盤を安定させ、座ったときの安定感を与える車いす用クッションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、車いすの座に敷いて使用される車いす用クッションにおいて、着座者の臀部の周囲を包囲する後壁部と両側壁部及びこれらを支える底壁部とを少なくとも有し車いすの座及び背と接する硬質フォームから成る外殻部材と、外殻部材の着座者側の面を覆い座面及び背面を構成する軟質フォームから成る表層部材と、座面を構成する表層部材の臀部座面部分と外殻部材との間に介在される表層部材よりも柔らかいゲル部材と、座面を構成する表層部材の大腿部座面部分と外殻部材との間及び背面を構成する表層部材と外殻部材との間に介在される半硬質フォームから成る中敷とを貼り合わせて1つの塊とすることによって、前方側に大腿支持部、後方側に臀部支持部を形成する座部
と、臀部支持部の周縁部分で座面の上方側へ延設されて着座者の臀部を後方
から支持する後方支持部と、左右両側
から支持する左右一対の側方支持部と
のそれぞれを、少なくとも3種の硬さの異なる素材で
構成することで、鉛直方向並びに左右方向及び背側方向の3軸方向
のそれぞれにおいて少なくとも3層に構成して、着座者側の面が柔らかく、車いすの座並びに背側の面が硬く、臀部座面部分はその周囲よりも柔らかく沈み込み易くして着座者の骨盤が前側へずれないようしている。
【0015】
ここで、表層部材は臀部座面及び大腿部座面を形成する座面表層部材と、着座者の臀部の周囲を包囲する背面表層部材とに分けて構成されることが好ましい。また、中敷は外殻部材の後壁部と両側壁部との間のコーナー部分に宛がわれる側方中敷と、左右の側方中敷の間の外殻部材の後壁部に宛がわれる背側中敷と、外殻部材の底壁部の上に配置されて背側中敷及び左右の側方中敷と外殻部材の底壁との間のコーナ部分に宛がわれるコーナ補強部材と、外殻部材の底壁部と座面を構成する表層部材の大腿支持部との間に設置される大腿支持部側中敷と、大腿支持部側中敷と表層部材との間の両側と中央部とに分けて配置されるパッドとを含むものであることが好ましい。
【0016】
さらに、背側中敷は外殻部材の後壁部に対向する面
が底壁部に対してなす角度よりも
、着座側の面
が底壁部に対してなす角度が大きく、上に行くほど薄くなるものであることが好ましい。
【0017】
また、パッドは、大腿部の付け根付近を支える部分の両側において大腿部の付け根付近を支える部分を窪みとする3枚のパッドを備え、該パッドは、臀部を支える部分および大腿部の付け根付近を支える部分に向けて薄くなっていることが好ましい。
【0018】
また、本発明にかかる車いす用クッションは、防水性を有する止水カバーで覆われ、さらにその外方を通気性に優れる張地から成るクッションカバーで覆ったものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明にかかる車いす用クッションは、外殻部材の後壁部
は、底壁部に対して90度を上回る角度で後傾するように設けられていることが好ましい。
【0020】
また、本発明にかかる車いす用クッションは、座部の後方側の臀部支持部が周囲より凹み、座面前方側の大腿支持部に対して低所となっていることが好ましい。
【0021】
さらに、本発明にかかる車いす用クッションは、外殻部材の後壁部の車いすの背側の面が
、平面視において、左右方向中央部が後方に凸状となるように湾曲していることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
請求項1記載の車いす用クッションでは、後方支持部及び側方支持部によって、三方から着座者の臀部を包囲して支持することができるので、骨盤を安定させることができると共に身体の接触面積を増やすことで優れた体圧分散効果が得られる。
【0023】
しかも、座部のみならず、着座者の臀部を後方及び左右両側の三方から支持する後方支持部並びに左右一対の側方支持部を、複数種の硬さの異なる素材で互いに直交する3軸方向において少なくとも3層に構成して、着座者側の面が柔らかく、車いすの座並びに背側の面が硬くなるようにしているので、構造体としての役割と座り心地の向上とを両立させることができる。即ち、少なくとも3種類の硬さのクッションを重ねた少なくとも3層構造の後方支持部と左右一対の側方支持部によって三方から臀部を包み込むようにサポートするため、身体への接触面積を増やすことで体圧分散に優れると共に、骨盤の姿勢即ち位置・向き・傾きを安定させることができる。
【0024】
また、座部の臀部支持部にゲル部材を内蔵し、臀部座面部分をその周囲よりも柔らかく沈み込み易くして着座者の骨盤が前側へずれないようしているので、床ずれ(褥瘡)防止すると共に底突感を軽減できる。さらに、臀部支持部が大腿支持部よりも沈み込んで前ずれを防ぐようにしているので、所謂仙骨座りとなることがない。
【0025】
また、本発明の車いす用クッションは、プラスチックフォームの多層構造によって、モールドでは出せない座り心地を得ることができる。
【0026】
また、本発明の車いす用クッションは、複数のピースを接着などで貼り合わせ、1つの塊に成形しているので、任意のピースの形、硬さ、接着位置などを変更することで、部分的にクッションの硬さあるいは柔らかさ、形などを変更することが容易である。即ち、部分的な硬さや柔らかさ、形状の変更が可能であるため、車いす利用者の障害の状況や好み、要望などに合わせて、適切な硬さ、柔らかさ、それらの分布、形態などを容易に作り出すことができる。しかも、プラスチックフォームのスラブから削り出しで製作した板材などから成るクッション材を貼り合わせることによって成形されるので、金型を必要とせず、設備コストを低減できる。
【0027】
また、請求項2記載の発明によれば、表層部材並びに中敷が複数のピースに分けられて車いす用クッションの構造体としての役割を果たす外殻部材に対し接着などで貼り合わせて、複数種の硬さの異なる素材で互いに直交する3軸方向において少なくとも3層に構成して所望のクッション形状が作られているので、身体形状に沿った三次元形状の曲面から成る座面並びに後方支持部及び左右の側方支持部が容易に形成でき、かつ接触面積を増やして体圧分散性を向上させることができる。即ち、車いす用クッションとして変形しながらも、原形を保つことができるので、着座者の臀部に優しく当たって心地良い座り心地を得ながら、骨盤を安定保持できる。
【0028】
また、請求項3記載の発明によれば、背側中敷は外殻部材の後壁部に対向する面
が底壁部に対してなす角度よりも
、着座側の面
が底壁部に対してなす角度が大きく、上に行くほど薄くなるので、背シートに車いす用クッションの後方支持部をフィットさせながらもさらに背面を寝せることができ、着座姿勢により馴染み易いものとできる。
【0029】
また、請求項4記載の発明によれば、大腿部側中敷と座面表層部材との間に介在される3枚のパッドの配置位置や硬さ、形状を変更することで、大腿の内転・外転を防止するための突起部並びに窪みの高さやお深さなどを自由に変更できる。
【0030】
また、請求項5記載の発明によれば、止水カバーで覆われ、さらにその外方を通気性に優れる張地から成るクッションカバーで覆っているので、失禁時などに、直接ウレタンクッションが排泄物に触れて汚れるのを防止することができると共に、クッション表面での蒸れを防ぐことができる。
【0031】
また、請求項6記載の発明によれば、外殻部材の後壁部
は、底壁部に対して90度を上回る角度で後傾するように設けられていることにより、車いすの背の角度にフィットさせて隙間が発生することが防ぐので、着座者の骨盤を後方から安定して支持することができる。
【0032】
また、請求項7記載の発明によれば、本発明にかかる車いす用クッションは、座部の後方側の臀部支持部が周囲より凹み、座面前方側の大腿支持部に対して低所とすることにより、着座者の臀部が大腿側よりも沈み込んで前ずれを防ぐようにしているので、所謂仙骨座りとなることがない。また、前ずれを防ぐことができるので、着座者が前に転落することもなければ、車輪を回すときの反力にも着座者が耐え易くなり、車いすを漕ぎ易いものとする。
【0033】
さらに、請求項8記載の発明によれば、本発明にかかる車いす用クッションは、外殻部材の後壁部の車いすの背側の面が
、平面視において、左右方向中央部が後方に凸状となるように湾曲しているので、車いすの背の横方向の湾曲に後方支持部をフィットさせて、車いすの背との間の遊びを無くし、着座者の骨盤を後方から安定して支持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0036】
図1〜
図6に、本発明の車いす用クッションの実施形態の一例を示す。この実施形態の車いす用クッション1は、車いすの座及び背と接する側の面を構成する硬質フォームから成る外殻部材11と、外殻部材11の着座者側の面を覆い座面及び背面を構成する軟質フォームから成る表層部材12,13と、座面を構成する表層部材12の臀部座面部分12aと外殻部材11との間に介在される表層部材12よりも柔らかいゲル部材7と、座面を構成する表層部材12の大腿部座面部分12bと外殻部材11との間及び背面を構成する表層部材13と外殻部材11との間にそれぞれ介在される半硬質フォームから成る中敷とを貼り合わせて鉛直方向並びに左右方向及び背側方向の3軸方向において少なくとも3層から成る1つの塊とすることによって、前方側に大腿支持部2、後方側に臀部支持部3を形成する座部4と、この座部4の臀部支持部3の周縁部分で座面の上方側へ延設されて臀部(骨盤)を後方及び左右両側の三方から支持する後方支持部5並びに左右一対の側方支持部6とを構成している。
【0037】
即ち、この車いす用クッション1は、着座者の体を支える部位毎に分割された複数のピースを組み合わせ、接着剤などで互いに張り合わされることで1つの塊とし、車いすの座面などに面する外側は硬いクッション素材で、着座者と接する内側は柔らかいクッション素材とすることにより、クッションとゲルだけで構造体としての役割と着座者を弾力的に支える構造物としての機能を両立させるようにしたものである。
【0038】
ここで、プラスチックフォームのスラブは硬さ・柔らかさを部分的に変えることができないが、貼り合わせで硬さの調整を行うことができる。そこで、本実施形態の車いす用クッションは、
図6に示すように、車いす(図示省略)の座シート及び背シートと接する外殻となる箱形の外殻部材11と、この外殻部材11の上に被せられて身体に触れる座面及び背面を形成する座面表層部材12及び背面表層部材13と、これらの間を充填する中敷としての大腿支持部側中敷17、ゲル部材7、側方中敷14、背側中敷15、コーナー補強部16及びパッド18の9ピースで構成され、鉛直方向並びに左右方向及び背側方向には少なくとも3層ないし4層となるように構成されている。即ち、本発明の車いす用クッション1は、複数種の硬さの異なる素材で鉛直方向並びに左右方向及び背側方向の3軸方向において少なくとも3層に構成して、着座者側の面が柔らかく、車いすの座並びに背側の面が硬く、臀部座面部分12aはその周囲よりも柔らかく沈み込み易くして着座者の骨盤が前側へずれないようしている。
【0039】
外殻部材11は、着座者の臀部の周囲を包囲するように立ち上がる後壁部11aと両側壁部11b及びこれらを支える底壁部11cとを少なくとも有し、硬質フォームによって構成されている。本実施形態の場合、後壁部11aと両側壁部11b及び大腿支持部2の側方を覆う座部前方側側壁11cとを象った1枚のプラスチックフォームの板を、底壁部11dの周縁に巻き付けるように接着することで、上方並びに前方が開口された箱形に形成されている。この箱形の外殻部材の車いすの背と面する後壁部11aは、底壁部11cに対して90度を上回る角度、好ましくはおよそ93〜100°の範囲で、より好ましくは95〜100°の範囲で、最も好ましくは98度程度で後傾するように設けられている。これにより、スリングシートからなる背シートに車いす用クッション1の後方支持部5をフィットさせることができる。依って、背シートと後方支持部との間に隙間を発生させず、クッション1を後方側からしっかりと支えて骨盤を安定させることができる。
【0040】
また、外殻部材11の着座者側の面を覆い座面及び背面を構成する軟質フォームから成る表層部材は、本実施形態の場合、臀部座面部分12a及び大腿部座面部分12bを形成する座面表層部材12と、着座者の臀部の周囲を包囲する背面表層部材13とに分けて構成されている。この場合には、座面と背面とに分断されるため、プラスチックフォームを貼り合わせて三次元形状を成形するときに、座面と背面並びに側面とが交わる部分において皺などが発生することが少ない。勿論、1枚のプラスチックフォームの板を折り曲げることで座面表層部材と背面表層部材とを一体的に成形するようにしても良い。尚、座面表層部材12は、薄板状の平坦な軟質フォームから成り、外殻部材11の底壁部11dの上に、中間層を構成する大腿部側中敷17及びゲル部材7を接着し、さらに大腿部側中敷17の上にパッド18をそれぞれ貼り合わせた上から被せて接着剤で貼り合わせることにより、中間層の形状に倣って形が整えられる。これによって、
図6に示すような形態を採ることができる。また、背面表層部材13においても同様で有り、薄板状の平坦な軟質フォームを、側方中敷14及び背側中敷15の形状に倣って形を整えながら接着することによって、
図6に示すような形態を採る。
【0041】
側方中敷14は、外殻部材11の後壁部11aと両側壁部11bとの間のコーナー部分に宛がわれて着座者の臀部の背後と両側部との境の隅部を囲うようにサポートするものであり、外殻部材11のコーナ部分を補強すると共に臀部が当たる際のあたりを柔らかくするようにしている。
【0042】
背側中敷15は、左右の側方中敷14の間の外殻部材11の後壁部11aに宛がわれて着座者の臀部の背後を支えるものであり、外殻部材11の後壁部11aを補強すると共に臀部が当たる際のあたりを柔らかくするようにしている。外殻部材の車いすの背と面する後壁部11aの外側の面の角度は車いすの背シートとフィットさせるためあまり寝せられないが、その反面着座者がより楽に着座することができるように着座者の背を寝せたいという要望がある。そこで、本実施形態の場合、背側中敷15は、外殻部材11の後壁部11aに対向する面の傾きよりも着座側の面の傾きが大きく、上に行くほど薄くなるように形成されている。これにより、車いす用クッションの後方支持部5の車いすの背と面する背面の角度より大きな角度で着座者の背後を支える面の角度を設定できる。
【0043】
コーナー補強部16は、外殻部材11の底壁部11dの上に配置されて背側中敷15及び左右の側方中敷14と外殻部材11の底壁11dとの間のコーナ部分に宛がわれ、左右の側方中敷14と背側中敷15との内側を囲って相互に固定させると共に臀部を柔らかく支えるようにしている。
【0044】
大腿部側中敷17は、外殻部材11の底壁部11dと座面表層部材12の大腿支持部12bとの間に設置され、大腿支持部2を構成するコア部材であり、平坦なシートから成る。大腿部側中敷17はゲル部材7よりも厚く形成され、ゲル部材7の周りを囲むコーナー補強部16と相俟って相対的に臀部支持部3を周囲より凹ませ、座面前方側の大腿支持部2に対して平坦な低所となるように形成している。これにより、臀部支持部3を沈み込ませ、前側へずれないようにしている。大腿支持部2と臀部支持部3との間の段差によって、着座者が前につんのめったり、転がり落ちないようにすることができる。
【0045】
また、座部前方側の大腿支持部2には、大腿の内転・外転を防止するための突起部8と窪み9とが、大腿部側中敷17と座面表層部材12との間にパッド18を介在させることによって設けられている。本実施形態の場合には、大腿部側中敷17の上に、左右両側部および中央部分の3か所に三角錐あるいは変形四角錐形状のパッド18が配置され、なだらかに盛り上がる突起部8が形成されている。このため、突起部8の間には、大腿部の付け根部分が位置するための2つの窪み9が形成される。パッド18は、大腿部と接する側の面が傾斜面10とされており、その厚さは窪みとなるように大腿部中心に向けて薄く尚且つ大腿部の付け根付近を支える部分に向けて薄くなっている。なお、座部4の大腿支持部2における座面高さ、換言すれば厚さは、例えば前端での最高部位(突起部の最大高さ位置、即ち前端付近)の高さH
3で95mm、最低部位(突起部の間の大腿部を支持する平坦な部位の前端付近)の高さH
4で55mm程度であることが好ましい。この場合、臀部に対して大腿部が持ち上げられ、尚且つ大腿部の内転・外転を効果的に防ぐ突起部8と窪み9とが形成される。
【0046】
ここで、上述の9種類のピースを構成する各クッションの硬さは、例えば全体として130〜420Nの範囲に調整されており、上述の範囲の硬さのいずれかにある。主に、硬質と半硬質と軟質の3種類に分類され、例えば、軟質は100〜150N、半硬質は160N〜250N、硬質は260〜420Nの範囲内である。具体的には、本実施形態においては、軟質のクッションは130N、半硬質のクッションは180N、硬質のクッションは400Nに調整されている。各クッション素材は、プラスチックフォームのスラブ、中でも硬さや弾性率などを所望の範囲に調整することが容易であるポリウレタンフォームのスラブを用いることが好ましい。各ピースはスラブからウレタン専用カッターナイフなどを使って容易に所望の形状・厚み・長さに削り出される。勿論、プラスチックフォームとして、上述のウレタンフォームに限られず、例えばラテックスフォームなどの使用も可能である。
【0047】
座面表層部材12の臀部座面部分12aと外殻部材11との間には、体圧分散性に優れるゲル部材7が中敷として配置され、表層を形成する軟質フォームと外殻部材11の底壁部11dを構成する硬質フォームとの間で積層構造を成している。このゲル部材7は、ゲルを柔軟な容器(袋)に密封したものであり、ゲルは例えば高分子ゲルであり、ポリウレタンゲル、シリコーンゲル、ポリスチレンゲル、ポリエステルゲル、酢酸ビニル共重合体ゲル、ポリ塩化ビニルゲル、ネオプレンゲル等が挙げられるが、なかでも、熱硬化性のポリウレタンゲルの使用が好ましい。さらに、ポリウレタンゲルとしては、ポリオールとイソシアネートの混合物を加熱硬化することにより得られるが、とりわけポリオールとしてポリエーテル系ポリオールを用いるものが良好な柔軟性や復元性を得られるので好ましい。
【0048】
ゲル部材7は、本実施形態の場合、座面表層部材12を構成するクッション素材(軟質フォーム)よりも遙かに柔らかく、クッション素材のうち最も柔らかい軟質フォームの硬さに比較しても遙かに軟質とされている。具体的には、例えば25N程度であり、130N程度の軟質フォームから成る座面を形成する座面表層部材12よりもさらに柔らかい。そして、座面表層部材12とゲル部材(高分子ゲル)7と外殻部材11の底壁部11dとの積層構造とすることによって、軟質フォーム5を圧力分散体として機能させた上にさらにゲル部材7による体圧分散を図ることで、底突感を与えず座り心地を良くすると共に、体圧分散性を維持しながら当該ゲル部材7の厚みをできるだけ小さくして車いす用クッション1を軽量化することができる。本実施形態の場合、このゲル部材7は、坐骨部をカバーできるような形状、例えば座面に当接したときに呈する臀部形状(左右の座骨を中心とする円を連結したようなアイマスク状)を成し、均一な厚さに成形されている。
【0049】
ここで、箱形の外殻部材11は車いす用クッションとしての構造強度を担保するものであり、同クッションとしての基本形態を構築する。したがって、この箱形の外殻部材11を基本骨格として、座面表層部材12、背面表層部材13、側方中敷14、背側中敷15、コーナー補強部16、大腿部側中敷17、パッド18及びゲル部材7などの形状や硬さ、配置位置などを変更することにより、利用者の障害の有無、障害の位置、障害の度合い、障害の種類などに応じて、体を支える部位毎に適宜調整することが可能となり、効果的に対応することが可能である。
【0050】
以上の如く、少なくとも3種類の硬さの違う素材から成る複数のピースを貼り合わせて1つの塊とした車いす用クッション1は、
図1に示すように、前方側に大腿支持部2、後方側に臀部支持部3を形成する座部4と、臀部支持部3の周縁を囲う後方支持部5並びに左右一対の側方支持部6とを備える。そして、臀部支持部3は、その周囲より凹み、前方の大腿支持部2よりも低所とされることによって、着座者の大腿部側が臀部よりも持ち上げられ、体が前側へずれないように設けられている。さらに、この臀部支持部3には、着座者の臀部を支持するゲル部材7が内蔵され、座骨などを包み込むように支えることを可能とし、床ずれ防止や、底突感の軽減を図るように設けられている。
【0051】
ここで、後方支持部5の背の最大高さ(底面からの最大高さ)H
1は、150〜250mmの範囲とすることが好ましい。最大高さH
1が150mm未満では、利用者の身長等にもよるが、大腿支持部との間で臀部を挟み込んで骨盤を安定させる効果が得られない虞があり、逆に、250mmを超える場合には、背中全体が前方に押し出されるため、着座姿勢が崩れる虞がある。また、後方支持部5の背面、即ち車いす側の面には、車いすの背部横方向の湾曲にフィットさせるため、緩やかなアールRがつけてある。このアールRは、例えば、曲率半径1000mm程度の緩やかなアールであることが好ましい。
【0052】
他方、側方支持部6の最大高さH
2及び形状は、車いすの肘との関係において定まり、肘と干渉しない程度の高さ並びに臀部形状に沿った形であることが好ましい。例えば、側方支持部の最大高さH
2は、150〜220mm程度であることが好ましい。最大高さH
2が150mm未満では、利用者の身長等にもよるが、臀部を左右から挟み込んで骨盤を安定させる効果が得られない虞があり、逆に、220mmを超える場合には、側方支持部が着座者の脇腹を必要以上に固定して、圧迫感を与える虞がある。また、側方支持部6の形状は、可能な限り高い方が臀部の支持を可能とするので、肘部と干渉しない程度の高さであることが好ましい。さらに、側方支持部6の形状は、想定する着座者(例えば標準体型の大人など)の臀部形状に沿った形で、臀部を包囲する程度の前後方向の長さを有するものであることが好ましい。この範囲より側方支持部6の前後方向への長さが大きい場合には、当該側方支持部6が着座者の大腿部を左右から圧迫して、窮屈感を与える虞がある。ここで、前述の臀部形状に沿った形とは、例えば
図2に示すように、後方支持部5から側方支持部6にかけての内側の面が、後述の背側中敷15が配置される部分では外側のアールRと同じ曲率半径1000mm程度の緩やかなR
1とされ、その左右の側方中敷14が配置される部位では、コーナー部分のアールR
2が曲率半径45mm程度と小さく、前方側のアールR
3が曲率半径170mm程度とやや大きなアールとなるようにされた複合アールとすることが好ましい。この場合には、着座者の臀部に沿った形状を再現できる。
【0053】
上述の左右一対の側方支持部6は、着座者の臀部を両側から挟みこむことで、骨盤を左右方向にも安定させることができ、臀部支持部3内にゲル部材7を配設したことと相まって、臀部の仙骨の部位や、臀部と大腿部の付け根付近の大腿支持部の端の部分に接触する部位などに褥瘡が生じるのをさらに確実に防止することができる。
【0054】
また、複数のピースを貼り合わせて1つの塊としたクッション1は、
図7に示すように、止水カバー19によって包み込まれて防水構造とされている。これにより、失禁時などに、直接ウレタンクッションが排泄物に触れて汚れるのを防止することができる。止水カバー19としては、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、PET、PBT、ナイロン等の合成樹脂のフィルムが挙げられ、中でもポリウレタンフィルムが好ましい。ポリウレタンフィルムは、機械的特性に優れる上、柔軟性や伸縮性があり耐久性もよい。また、ゲル部材をポリウレタンゲルによって形成し、かつ各クッションのピースをポリウレタンフォームによって形成するときは、止水カバー19としてポリウレタンフィルムを用いることで、廃棄時の分別が不要となる。
【0055】
一方、本発明にかかる車いす用クッション1を止水カバー19によって被覆すると、蒸れを起こし易いものとなる。そこで、
図8に示すように、止水カバー19の通気性の無さを補うため、止水カバー19のさらに外側に通気性に優れる張地例えばメッシュから成るクッションカバー(表皮)20が被せられる。このクッションカバー20に因る、表層での通気により、内側の止水カバー19の表面での蒸れを抑制するように配慮されている。また、クッションカバー20で覆うことによって、外観を良くすることは勿論である。
【0056】
以上のように複数のピースを張り合わせて1つの塊とした車いす用クッションによれば、任意のピース・クッション素材の形状や硬さを変更することにより、車いす用クッションの硬さや柔らかさ、また形状を部分的に調整することができる。ここで、箱形の外殻部材11は車いす用クッションとしての構造強度を担保するものであり、同クッションとしての基本形態を構築する。したがって、この箱形の外殻部材11を基本骨格として、座面表層部材12、側方中敷14、背側中敷15、コーナー補強部16、背面表層部材13、大腿部側中敷17、パッド18などの形状や硬さ、配置位置などを変更することにより、利用者の障害の有無、障害の位置、障害の度合い、障害の種類などに応じて、体を支える部位毎に適宜調整することが可能となり、効果的に対応することが可能である。依って、車いす用クッションの形状や硬さの自由度(選択肢)を広げることが可能である。特に、部分的な硬さや柔らかさ、形状の変更が可能なであるため、車いす利用者の障害の状態などに合わせて、適切な硬さ、柔らかさ、硬軟領域の分布、形態などを作り出すことができる。
【0057】
また、プラスチックフォームのスラブは、例えば専用カッターナイフで削ることによって、所望の形状に成形して成る。したがって、金型を使わずに任意の形状、硬さのクッション素材を生産性良く作り出すことができる。そこで、身体を支持する部分の形状に合わせてウレタンフォームを削り出し、クッションや姿勢保持具を製作することができる。また、利用者の様々な身体や姿勢の特徴に合わせてウレタンフォームを加工することができる。
【0058】
他方、車いすの座および背と接する外側の外殻部材11がクッションとしての形を成り立たせ、変形しながらもこの形を保つケースとしての機能を発揮すると、体に当たる表層部材12,13並びに中間層となる側方中敷14、背側中敷15、コーナー補強部16、背面表層部材13、大腿部側中敷17、パッド18、ゲル部材7等が柔らかさを確保する。これにより、車いす用クッションのオーダーメードにも簡単に対応できる。
【0059】
因みに、図面においては、説明の便宜上、各部材の間での段差や隙間を描いているが、実際にはウレタンの全面接着により空間・隙間はほぼ消滅する。背面表層部材13と背側中敷15との関係においても同様に隙間はほとんど発生しない。座面表層部材12と背面表層部材13の柔らかいウレタンについては形状に沿って接着することは言うまでもない。
【0060】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では座及び背がスリングシートで構成された折りたたみ式車いすで用いる車いす用クッションとして好適な一例を挙げて本発明を説明したが、これに特に限定されるものではなく、座及び背が撓み難い構造の車いすに用いる車いす用クッションに適用する場合にも好適なものである。
【0061】
また、上述の実施形態では、車いす用クッション1は、箱形の外殻部材11、座面表層部材12、背面表層部材13、側方中敷14、背側中敷15、コーナー補強部16、大腿部側中敷17、パッド18及びゲル部材7の9ピースから構成されているが、これに特に限定されるものではなく、硬質フォームから成る外殻部材と、軟質フォームから成る表層部材と、表層部材よりも柔らかいゲル部材と、半硬質フォームから成る中敷との複数種の硬さの異なる素材を貼り合わせて3軸方向において少なくとも3層に構成する1つの塊とするのであれば、構成するピース数を減らしてもあるいは増やしても良い。