【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、経済産業省、産業技術実用化開発事業(土壌汚染対策のための技術開発(原位置処理重金属等土壌汚染対策技術開発))、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された方法では、汚染土壌を掘削した後に、地上で汚染土壌を運搬しスラリー化する処理が必要となるため、このような処理を行う設備が必要であり、プラント等の設備コストが掛かってしまう。さらに、汚染土壌の上に建屋等の地上設備があるような場合には、そもそも汚染土壌を掘削することが難しいといった問題がある。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたものであり、コストを抑えつつ、地上設備の有無によらず、容易に汚染土壌の浄化を行うことが可能な土壌浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様に係る土壌浄化方法は、油、揮発性有機化合物、重金属、及びシアン化合物のうちの少なくとも
シアン化合物を汚染物質
として含有する土壌
であるシアン汚染土壌に観測井戸を形成する観測井戸形成工程と、前記観測井戸の外周側で前記土壌に注入井戸を形成する注入井戸形成工程と、前記観測井戸で前記土壌の酸化還元電位
、及び、pHを計測する計測工程と、計測された前記酸化還元電位が前記土壌中の微生物の活性に適した予め定めた所定範囲内の値となるように、前記注入井戸から前記土壌に注入液として高濃度酸素水を注入する注入工程と、前記汚染物質を前記微生物によって分解して浄化する浄化工程と、を含
み、前記注入工程では、前記酸化還元電位が−300〔mV〕以上となるように、かつ、前記pHが7より高い値となるように、前記注入液として高濃度酸素水、及び、pH調整剤を前記シアン汚染土壌に注入することを特徴とする。
【0009】
このような土壌浄化方法によれば、観測井戸で酸化還元電位を計測し、この計測値が所定範囲内の値となるように高濃度酸素水を注入井戸から注入する。即ち、土壌中の微生物が活性化して汚染物質の分解に適した条件(例えば通性嫌気性や好気性の条件)となるように、高濃度酸素水を自動で注入し、酸化還元電位を自動で調整することが可能となる。よって、土壌を採取して浄化を行う必要がなく、原位置で効果的に土壌の汚染物質を浄化することができる。
シアン化合物が土壌に含有されている場合、pHが7以下であると土壌中に含まれる鉄イオンとシアンとが結合し、不溶性シアンが形成されることが確認されている。そしてこの場合、微生物によるシアン化合物の分解能力が低下してしまう。よって、酸化還元電位を−300〔mV〕以上としてシアン汚染土壌を通性嫌気性の条件としつつ、pHが7よりも高い条件に維持することで微生物によるシアン化合物の分解を促進することができる。
【0010】
また、本発明の
参考例の一態様に係る土壌浄化方法は、油、揮発性有機化合物、重金属、及びシアン化合物のうちの少なくとも一種の汚染物質を含有する土壌に観測井戸を形成する観測井戸形成工程と、前記観測井戸の外周側で前記土壌に注入井戸を形成する注入井戸形成工程と、前記観測井戸で前記土壌のpHを計測する計測工程と、計測された前記pHが前記土壌中の微生物の生育に適した予め定めた所定範囲内の値となるように、前記注入井戸から前記土壌に注入液としてpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)を注入する注入工程と、前記汚染物質を前記微生物によって分解して浄化する浄化工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
このような土壌浄化方法によれば、観測井戸で酸化還元電位を計測し、この計測値が所定範囲内の値となるようにpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)を注入井戸から注入する。即ち、土壌中の微生物が生育し易い条件となるように、pH調整剤を自動で注入し、pHを自動で調整することが可能となる。よって、土壌を採取して浄化を行う必要がなく、原位置で効果的に土壌の汚染物質を浄化することができる。
【0012】
さらに、上記の土壌浄化方法は、前記観測井戸及び前記注入井戸に隣接して前記土壌に揚水井戸を形成する揚水井戸形成工程と、前記注入井戸から前記土壌に注入された前記注入液の液量と同量の水分を前記土壌から揚水する揚水工程と、をさらに含んでいてもよい。
【0013】
このように、揚水井戸を設けて注入液の液量と同量の水分を揚水することで、注入液を効果的に土壌の内部へ浸透させることができる。
【0016】
さらに、前記注入工程では、前記酸化還元電位が0〔mV〕以上となるように、前記高濃度酸素水を前記シアン汚染土壌に注入してもよい。
【0017】
このように酸化還元電位を0〔mV〕以上とすることで、シアン汚染土壌を好気性の条件とすることができ、微生物によるシアン化合物の分解をさらに促進することが可能となる。
【0018】
また、前記注入井戸形成工程では、前記観測井戸の周方向に異なる位置で観測井戸を外周側から取り囲むように前記注入井戸を複数形成してもよい。
【0019】
このように観測井戸を取り囲むように複数の注入井戸を形成することで、観測位置となる観測井戸の周囲の土壌に均一に注入液を注入することができる。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明の土壌浄化方法によれば、汚染土壌に対して原位置で高濃度酸素水を注入することで、コストを抑えつつ地上設備の有無によらずに容易に汚染土壌の浄化を行うことができる。
また土壌を、シアン化合物を分解するのに適切な条件とすることで、土壌の浄化を効果的に行うことが可能となる。
【0021】
本発明の参考例に係る発明の土壌浄化方法によれば、汚染土壌に対して原位置で炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等のpH調整剤を注入することで、コストを抑えつつ地上設備の有無によらずに容易に汚染土壌の浄化を行うことができる。
【0022】
請求項
2に係る発明の土壌浄化方法によれば、揚水井戸によって、さらに効果的に微生物による汚染物質の分解を行い、土壌の浄化が可能となる。
【0024】
請求項
3に係る発明の土壌浄化方法によれば、土壌を、シアン化合物を分解するのにさらに適切な条件とすることで、土壌の浄化を効果的に行うことが可能となる。
【0025】
請求項
4に係る発明の土壌浄化方法によれば、複数の注入井戸によって、さらに効果的に土壌の浄化が可能となる
。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態における土壌浄化方法について、まず、土壌浄化方法を実行するために用いる浄化装置1について説明する。
図1に示すように、浄化装置1は、互いに離間して配置された観測井戸10、注入井戸11、及び揚水井戸12とを備えている。
またこの浄化装置1は、注入井戸11から注入液Lを土壌S内に注入する注入部13、及び、揚水井戸12から土壌S内の地下水Wを揚水する揚水部14と、注入部13からの注入液Lの液量を調整するとともに揚水井戸12からの揚水量を調整する制御部15と、観測井戸10での観測値から土壌S内の状態をモニタリングする表示部16とを備えている。
【0028】
ここで、本実施形態での土壌Sは、汚染物質としてのシアン化合物を含有するシアン汚染土壌となっている。
【0029】
観測井戸10は、地面Gから下方に向かって土壌S中に対象とする深度まで掘削された縦孔内に設けられたスチール製またはポリ塩化ビニル製の無孔管部分と有孔管部分とから構成された管51を有している。管51と孔壁との間には、深度に応じてセメントミルク、シール材、砂利等の充填材52が充填されて構成される。
【0030】
管51の有孔管部分には、土壌Sの帯水層に対応する高さ方向位置で、揚水井戸12の内面に向かって開口して、土壌S中の地下水Wを管51の内部に取り込むスクリーン51aが形成されている。
【0031】
また、この観測井戸10には、土壌Sの酸化還元電位(以下、ORPとする)を計測するORP計61と、pH(水素イオン濃度指数)を計測するpH計62とが設けられている。ORP計61及びpH計62は、観測井戸10の上部から例えばケーブルによって観測井戸10の内部に吊り下げられて設けられて、井戸内の水質がリアルタイムに測定されるようになっている。これらORP計61及びpH計62には、公知のものを用いることができる。
【0032】
注入井戸11は、地面Gから下方に向かって土壌S中に延びる縦孔に挿入されたマンシェットチューブ20と、縦孔内に充填されたセメントやベントナイト等からなるグラウト21とを有している。
また、
図2に示すように注入井戸11は、観測井戸10の外周側の周方向に異なる位置で、観測井戸10を取り囲むように複数(本実施形態では4つ)が形成されている。
【0033】
マンシェットチューブ20は、下端部が閉塞された有底筒状をなしている。
また
図3に示すように、マンシェットチューブ20には、高さ方向に間隔をあけて(例えば33センチメートル間隔)に周方向に沿って延びるスリット状の開口部20aが形成されている。そしてマンシェットチューブ20には、この開口部20aを外周側から覆うように設けられた樹脂等のリング22が設けられている。リング22は、各開口部20aに対応するように、高さ方向に互いに離間して複数が設けられている。
【0034】
揚水井戸12は、地面Gから下方に向かって土壌S中に対象とする深度まで掘削された縦孔内に設けられたスチール製またはポリ塩化ビニル製の無孔管部分と有孔管部分とから構成された管42を有しており、管42と孔壁との間は深度に応じてセメントミルク、シール材、砂利等の充填材40が充填されて構成される。
また、本実施形態では揚水井戸12は、観測井戸10の周方向に隣接する注入井戸11同士の間に一つずつ設けられることで、注入井戸11の同数(4つ)が設けられている。
【0035】
管42の有孔管部分には、土壌Sの帯水層に対応する高さ方向位置で、揚水井戸12の内面に向かって開口して、土壌S中の地下水Wを管42の内部に取り込むスクリーン42aが形成されている。
【0036】
図2に示すように注入部13は、各々の注入井戸11の内部に注入液Lを送り込むポンプ31と、ポンプ31と注入井戸11との間に設けられて注入液Lが流通する注入パイプ33とを有している。
【0037】
ポンプ31は、本実施形態では各々の注入井戸11に対応するように各注入井戸11に一つずつ設けられており、不図示の注入液供給部に接続されて注入液Lを注入井戸11の内部に向けて圧送する。
【0038】
図4に示すように、注入パイプ33は、各々のポンプ31に接続されるとともにマンシェットチューブ20内に挿入されて、不図示の駆動装置によって注入井戸11内を高さ方向に上下移動可能に設けられている。また、注入パイプ33の先端部には、注入井戸11の内面に向かって、注入パイプ33の径方向外側に向かって開口して注入液Lが噴出される噴出口33aが形成されている。
さらに、注入パイプ33には、噴出口33aを挟んで上下の位置で外周面に設けられた一対の環状をなす密閉部材34が設けられている。この密閉部材34は不図示の空気源に接続されて膨張収縮が可能となっている。そして、膨張によってマンシェットチューブ20の内周面に密着し、一対の密閉部材34同士の間に密閉空間Aが形成されるようになっている。
【0039】
揚水部14は、各々の揚水井戸12の内部から土壌S中の地下水Wを吸い出すポンプ41と、ポンプ41と揚水井戸12との間に設けられて管42の内部の地下水Wが流通する揚水パイプ43とを有している。
なお、この揚水部14は、揚水パイプ43とポンプ41とを用いたものに限定されず、例えば、揚水井戸12の内部に水中ポンプを設けた構成であってもよい。
【0040】
制御部15は、各々の注入井戸11に接続されたポンプ31に対して、観測井戸10で計測されるORPが−300〔mV〕以上となるように、好ましくは0〔mV〕以上となるように、ポンプ31の電源のON/OFFの切り替えや、出力の調整を行う。そして注入液Lとしての高濃度酸素水の、土壌Sへの供給量を調整する。
【0041】
また制御部15は、各々の注入井戸11に接続されたポンプ31に対して、観測井戸10で計測されるpHが7より高い値となるように、ポンプ31の電源のON/OFFの切り替えや、出力の調整を行う。そして、注入液LとしてのpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)の、土壌Sへの供給量を調整する。
【0042】
さらに制御部15は、各々の揚水井戸12に接続されたポンプ41の電源のON/OFFの切り替えや、出力の調整を行って、揚水井戸12からの揚水量を調整する。
【0043】
ここで、注入液Lとしての高濃度酸素水、及び、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)は上記注入液供給部(不図示)に貯留されており、例えば制御部15では、これら高濃度酸素水か、pH調整剤のいずれか一方を選択して、注入パイプ33を介して注入井戸11に供給することが可能である。
【0044】
表示部16は、制御部15からの信号を受けて、観測井戸10での計測値から土壌SのORP、pHの数値を連続的にモニタリングする。
【0045】
次に、
図5に沿って浄化装置1を用いた土壌浄化方法について説明する。
土壌浄化方法は、観測井戸10を形成する観測井戸形成工程S1と、注入井戸11を形成する注入井戸形成工程S2と、観測井戸10でORP及びpHの値を計測する計測工程S4と、注入井戸11に注入液Lを供給し、注入井戸11から土壌Sに注入する注入工程S5と、土壌S中の微生物によって土壌Sに含有されたシアン化合物を分解して浄化する浄化工程S7とを含んでいる。
【0046】
まず、観測井戸形成工程S1を実行する。即ち、地面Gから下方に向かって削孔を行うことで縦孔を形成し、この縦孔の内部に地下水Wの水質を観測する観測井戸10を設置する。即ち、無孔管部分と有孔管部分とからなる管51を挿入して縦孔の孔壁を覆う。この際、管51のスクリーン51aが対象とする汚染土壌Sの深度に対応するように管51を設置する。さらに、この観測井戸10の上部にORP計61及びpH計62を固定するとともに、観測井戸10内の地下水WのORP値及びpH値を計測可能となるように、これらORP計61、pH計62のセンサ部分を観測井戸の上部からケーブルによって吊り下げる。
【0047】
次に、注入井戸形成工程S2を実行する。即ち、観測井戸形成工程S1と同様に地面Gから下方に向かって削孔を行うことで縦孔を形成する。この縦孔の内部にグラウト21を充填し、さらに、マンシェットチューブ20を挿入する。
【0048】
その後、揚水井戸形成工程S3を実行する。即ち、注入井戸形成工程S2及び観測井戸形成工程S1と同様に地面Gから下方に向かって削孔を行うことで縦孔を形成する。この縦孔の内部に無孔管部分と有孔管部分とからなる管42を挿入して縦孔の孔壁を覆う。この際、管42のスクリーン42aが対象とする汚染土壌Sの帯水層に対応するように管42を設置する。
【0049】
ここで、観測井戸形成工程S1、注入井戸形成工程S2、及び揚水井戸形成工程S3の実行の順序は上述した場合に限定されず、いずれの工程を最初に実行してもよい。
【0050】
次に、計測工程S4を実行する。即ち、観測井戸10に設置したORP計61及びpH計62によって、観測井戸10で土壌SのORP及びpHを計測する。
【0051】
そして、注入工程S5を実行する。即ち、計測工程S4で計測した土壌SのORPを制御部15が取得するとともに、計測されたORPが予め定めた所定範囲内の値である−300〔mV〕以上、(好ましくは0〔mV〕以上)となるように、ポンプ31の動作を制御する。そして、ポンプ31によって注入井戸11内に注入液Lである高濃度酸素水を送り込み、注入井戸11の内部から土壌Sの内部に高濃度酸素水を注入する。
【0052】
またこの注入工程S5では、土壌SのpHを制御部15が取得するとともに、計測されたpHが予め定めた所定範囲内の値である7よりも高い値となるように、ポンプ31の動作を制御する。そして、ポンプ31によって注入井戸11内にpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)を送り込み、注入井戸11の内部から土壌Sの内部にpH調整剤を注入する。
【0053】
注入工程S5では、これらORPに基づく制御と、pHに基づく制御とが各々独立に実行される。そしてこの注入工程S5は、いわゆるダブルパッカー注入工法が用いられる。
【0054】
具体的にはまず、下方に位置するマンシェットチューブ20における開口部20aと注入パイプ33の噴出口33aとが同じ高さ位置に配されるように注入パイプ33を動作させる。そして、注入パイプ33における密閉部材34に空気を送り込み、膨張させてマンシェットチューブ20の内周面に密着させ、噴出口33aが配された位置に密閉空間Aを形成する(
図2参照)。この状態で注入液Lを噴出口33aから噴出させる。注入液Lが噴出されると、マンシェットチューブ20に設けられたリング22とマンシェットチューブ20との間に、注入液Lの噴出圧力によって隙間が形成される。そして、この隙間を介してリング22の上下から注入液Lを噴き出させる。そして注入液Lをグラウト21を介して土壌Sまで浸透させる。即ち、一次注入によって注入液Lの流路を形成するクラッキングを行う。
【0055】
そして、注入パイプ33の噴出口33aが、一次注入が完了した開口部20aよりも上方に形成された開口部20aと同じ高さ位置に配されるように、注入パイプ33を順次上方に移動させ、各開口部20aの位置で一次注入によるクラッキングを順次行っていく。
【0056】
全ての開口部20aに対応する位置での一次注入が完了した後、再び注入パイプ33を下方に移動させる。そして、最も下方に位置する開口部20aの位置で、再び注入液Lを噴出口33aから噴出させることで、一次注入によって形成された注入液Lの流路を通じて、より土壌Sの内部まで注入液Lを浸透させる二次注入を行う。
【0057】
そして、一次注入と同様に、全ての開口部20aに対して二次注入を実行し、注入井戸11が形成された高さ方向の領域の全域にわたって、注入液Lを土壌Sに浸透させる。
【0058】
次に、揚水工程S6を実行する。即ち、注入工程S5で土壌Sに注入された高濃度酸素水、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)の液量と同量の地下水Wを揚水パイプ43を通じてポンプ41によって揚水する。
【0059】
最後に、浄化工程S7を実行する。即ち、上記の注入液Lを土壌Sに注入することで、ORP及びpHの値が所定の条件となった土壌S内で、微生物によるシアン化合物の分解を行って土壌Sの浄化を行う。
【0060】
このような土壌浄化方法によると、観測井戸10でORPを計測し、この計測値が所定範囲内の値となるように高濃度酸素水を注入井戸11から注入するような制御が制御部15によって行われる。即ち、土壌S中の微生物が活性化して汚染物質の分解に適した条件となるように制御され、高濃度酸素水を自動で注入し、ORPを自動で調整することが可能となる。よって、土壌S中の微生物によるシアン化合物の分解を促し、土壌Sを採取して浄化を行う必要がなく、原位置で効果的に土壌Sの汚染物質を浄化することができる。
【0061】
そして本実施形態では、後述する実施例に示すように、微生物を活性化させる条件として、上述したORPの「所定範囲内の値」が−300〔mV〕以上(通性嫌気性)となるように、好ましくは0〔mV〕以上(好気性)となるようにORPが制御される。
【0062】
また、同様に観測井戸10でpHを計測し、この計測値が所定範囲内の値となるようにpH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)を注入井戸11から注入する。即ち、土壌S中の微生物が生育し易い条件となるように、pH調整剤を自動で注入し、水素イオン濃度指数を自動で調整することが可能となる。よって、原位置で効果的に土壌Sの汚染物質を浄化することができる。
【0063】
また、本実施形態では、後述する実施例に示すように、微生物が生育し易い条件として、上述したpHの「所定範囲内の値」が7より高い値となるように制御される。
【0064】
ここで、表1に示すように、pHが7以下である場合、土壌S中に含まれる鉄イオンとシアン化合物とが結合し、不溶性シアンが形成されてしまうことが確認されている。そしてこの場合、微生物によるシアン化合物の分解能力が低下することが確認されている。
【表1】
【0065】
即ち表1には、pHが4、7、9、12で、鉄シアノ錯体であるフェロシアン(又はフェリシアン)25〔mg/L〕濃度の溶液50〔mL〕に、鉄イオンであるFe
2+イオン(又はFe
3+イオン)が25〔mg/L〕濃度となるように添加する試験を行った際のシアンの回収率〔%〕の結果を示している。この結果によると、pHが7の場合、pHが9の場合に比べて回収率が極端に低くなっていることがわかる。これは、pHが7以下である場合には鉄シアノ錯体と鉄イオンとが結合し、不溶性のシアン化合物が形成されたことによるものである。なお、実際の試験では、pHが7以下で紺青が形成されており、pHが7以下で不溶性のシアン化合物が形成されたことが確認された。
なお、土壌中の環境は通常、嫌気条件(還元雰囲気)であり、「フェリシアン」はその形態で存在しにくく、フェロシアンの形態で存在することが多いため、「フェリシアン」の不溶化は本実施形態の土壌浄化方法に関しては影響しないと考えられる。
【0066】
よって、ORPを−300〔mV〕以上として通性嫌気性の条件としつつ、又は0〔mV〕以上として好気性の条件としつつ、かつ、pHが7よりも高い条件に維持することで、微生物がシアン化合物を分解するのに適切な条件とし、シアン化合物の分解を促進することができる。
【0067】
また、本実施形態では、ORPを制御するために、注入液Lとして高濃度酸素水を用いている。この高濃度酸素水は、生物への影響がないばかりか、むしろ生物活性に寄与する。また、液体であるため土壌Sの内部へ浸透し易く、広範囲にわたって汚染物質の浄化が可能となる。
【0068】
また、本実施形態では、注入液Lを、ダブルパッカー注入工法を用いて土壌Sに注入している。このため、注入液Lを深度毎に注入することができ、透水性の低い層が形成されている場合であっても、十分に注入液Lを浸透させることができる。
【0069】
また、本実施形態では、揚水工程S6を実行することで、揚水井戸12を設けて注入液Lの液量と同量の地下水Wを揚水することで、注入液Lを効果的に土壌Sの内部へ浸透させることができる。よって、さらに効果的に微生物による汚染物質の分解を行い、土壌Sの浄化が可能となる。
【0070】
また、本実施形態では、注入井戸形成工程S2で、観測井戸10を取り囲むように複数の注入井戸11を形成することで、観測位置となる観測井戸10の周囲の土壌Sに均一に注入液Lを注入することができ、観測位置周辺での汚染物質の分解の効果を高めることができる。
【0071】
本実施形態の土壌浄化方法では、原位置で高濃度酸素水、及び、pH調整剤(炭酸水素ナトリウム、重炭酸水素ナトリウム、クエン酸又はリン酸塩等)を注入することで、コストを抑えつつ、地上設備の有無によらずに、容易に汚染された土壌Sの浄化を行うことができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態で示した構成に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することができる。
例えば、上述したように、汚染物質がシアン化合物ではなく、他の物質(例えば油、揮発性有機化合物(VOC)、重金属等)である場合には、上述した実施形態のように、必ずしもORP、及びpHの両者を予め定めた所定範囲内の値となるように制御する必要はない。即ち、汚染物質によっては、ORP及びpHのうちのいずれか一方のみを制御すればよい。
【0073】
また、ORPの数値−300〔mV〕及び0〔mV〕や、pHの数値7については、汚染物質がシアン化合物である場合に最適な数値を示すものであり、他の汚染物質については、他の数値に制御する方が好ましい場合がある。
【0074】
また、観測井戸10、注入井戸11、及び揚水井戸12の相対位置関係は、上述した場合に限定されない。また、注入井戸11、及び揚水井戸12の数量も1対1となる必要はない。また、揚水井戸12は必ずしも設けなくともよく、即ち揚水工程S6を必ずしも実行する必要はない。
【0075】
〔実施例1〕
ここで、
図6に示すように、pHを7より高い値に保ちつつ、ORPを管理した場合の土壌S内のシアン化合物の含有量の変化を確認する試験を行った。
図6の横軸は土壌Sの養生期間(経過時間)を示し、縦軸は土壌Sにおけるシアン化合物の含有量〔mg/kg〕を示す。
【0076】
(試験手順)
手順1:汚染土壌としてシアン汚染土壌15〔kg〕に、グルコース等の食品添加物を主成分とする栄養剤NSバイオアクティCN3(新日鉄住金エンジニアリング株式会社製)を1〔kg/m
3〕添加した。
手順2:手順1で土壌に栄養剤NSバイオアクティCN3を添加したものに対して体積比10%で加水し、ソイルミキサで20分間混錬した。
手順3:手順2で混錬した土壌をカラムに設置した。
手順4:手順3でカラムにセットされた土壌に模擬の注入井戸を形成した。
手順5:注入井戸から土壌に純水を添加して浸漬した。
手順6:注入井戸の水のORPを測定し、ORPが試験条件の管理値となるようバブラー(気泡計)で気泡を送り込んだ。
手順7:ORP及びpHを朝夕の2回/日でモニタリングし、養生60日間の土壌のシアン化合物の含有量の経時変化を計測した。また、グルコース等の食品添加物を主成分とする栄養剤NSバイオアクティCN1及びCN2(新日鉄住金エンジニアリング株式会社製)を15日目、30日目に土壌に投入し、栄養剤NSバイオアクティCN2を50日目に投入した。
【0077】
(試験条件)
条件1(管理なし):ORPの管理を行わない。
条件2(Run1、通性嫌気条件):ORPが−200〔mV〕以下で曝気を行うとともに、−100〔mV〕以上で曝気を停止する。
条件3(Run2、好気条件):ORPが−100〔mV〕以下で曝気を行うとともに、0〔mV〕以上で曝気を停止する。
【0078】
試験の結果、
図6に示すように、「Run2」でシアン化合物の含有量の低下が最も大きいことが確認され、「管理なし」で低下が最も小さいことが確認された。
【0079】
なお、
図7及び
図8は、試験を行った際のORPとpHの変化を示している。「Run2」でORPの数値が最も高く、「管理なし」でORPの数値が最も低く維持されている。またpHは、いずれの条件でも7よりも高い値に維持されている。
【0080】
〔実施例2〕
図9に示すように、実施例1で用いた土壌とは異なる土壌に対して、pHを7より高い値に保ちつつORPを管理した場合の、土壌内のシアン化合物の含有量の変化を確認する試験を行った。
図6同様に、
図9の横軸は土壌の養生期間(経過時間)を示し、縦軸は土壌におけるシアン化合物の含有量〔mg/kg〕を示す。
【0081】
(試験手順)
手順1:500〔mL〕の三角フラスコにシアン汚染土壌として石炭ガス工場跡地の土壌50gに純水200〔mL〕を加えてスラリー状にした。
手順2:手順1で作成したスラリーに、土壌中の微生物を活性化させるグルコース等の食品添加物を主成分とする栄養剤NSバイオアクティCN3を1〔kg/m
3〕添加した。
手順3:手順2で作成したスラリーに、ORPが試験条件の管理値となるように振とう機で振とう、または、間欠曝気を行った。
手順4:ORP及びpHを随時測定し、グルコース等の食品添加物を主成分とする栄養剤NSバイオアクティCN1及びCN2を30日目と60日目に投入した。
【0082】
(試験条件)
条件1(管理なし):ORPの管理を行わない。
条件2(Run1、通性嫌気条件):ORPが−50〔mV〕〜+50〔mV〕となるよう間欠曝気。
条件3(Run2、好気条件):ORPが200〔mV〕以上を目指し、90〔rpm〕の振とう。
【0083】
試験の結果、
図9に示すように、「Run2」でシアン化合物の含有量に最も低下が大きいことが確認され、「管理なし」で最も低下が小さいことが確認された。
【0084】
なお、
図10及び
図11は、試験を行った際のORPとpHの変化を示している。「Run2」でORPの数値が最も高く、「管理なし」でORPの数値が最も低く維持されている。またpHは、いずれの条件でも7よりも高い値に維持されている。
【0085】
〔実施例3〕
図12に示すように、実施例1、2で用いた土壌とは異なる土壌に対して、pHを7より高い値に保ちつつORPを管理した場合の、土壌内のシアン化合物の含有量の変化を確認する試験を行った。
図6、
図9同様に、
図12の横軸は土壌の養生期間(経過時間)を示し、縦軸は土壌におけるシアン化合物の含有量〔mg/kg〕を示す。
【0086】
(試験手順)
シアン汚染土壌としてメッキ工場での土壌を用い、他の手順は実施例2と同様である。
【0087】
(試験条件)
条件1(Run1、好気条件):ORPが200〔mV〕以上を目指し、90〔rpm〕の振とう。
条件2(Run2、通性嫌気条件):ORPが−50〔mV〕〜+50〔mV〕となるよう間欠曝気。
【0088】
試験の結果、
図12に示すように、「Run1」でシアン化合物の含有量の低下が大きいことが確認され、「Run2」で低下が小さいことが確認された。
【0089】
なお、
図13及び
図14は、試験を行った際のORPとpHの変化を示している。「Run1」でORPの数値が概ね高く、「Run2」でORPの数値が低く維持されている。またpHは、いずれの条件でも7よりも概ね高い値に維持されている。
【0090】
〔実施例4〕
汚染土壌として模擬ベンゼン汚染土壌を用いて、ベンゼンの分解試験を行った。
【0091】
(試験手順)
手順1:砂質土から模擬ベンゼン汚染土壌を作成した。
手順2:500〔mL〕の三角フラスコに模擬ベンゼン汚染土壌200〔g〕と、純水300〔mL〕を加えてスラリー状にした。
手順3:土壌中の微生物を活性化させる栄養剤DAP(リン酸二アンモニウム)を溶液ベースで0.5%となるように添加した。
手順4:養生期間1か月間について液相中及び土壌中のベンゼンの濃度をモニタリングした。
【0092】
(試験条件)
条件1(Run1、好気条件):ORPが0〔mV〕以上とした。
条件2(Run2、嫌気条件):ORPが−50〔mV〕以下とした。
【0093】
試験の結果、表2に示すように、好気条件である「Run1」では、液相ベンゼン濃度が0.5か月後に0.7〔mg/L〕であったものが、1か月後には0.001〔mg/L〕よりも低くなった。よって地下水の基準未満に浄化できたことが確認された。
一方で、嫌気条件である「Run2」では、液相ベンゼン濃度が0.5か月後に0.6〔mg/L〕であったものが、1か月後には0.01〔mg/L〕となっており、養生期間1か月では十分な浄化が難しいことが確認できた。
なお、土壌へのベンゼンの溶出量は好気条件、嫌気条件ともに養生期間が1か月ではいずれも0.001〔mg/L〕よりも低くなった。
【表2】
【0094】
よって、ORPの数値は、好気条件となるように制御することで、効果的にベンゼンの分解が可能であることがわかった。
【0095】
〔実施例5〕
汚染土壌として模擬軽油汚染土壌を用いて、軽油の分解試験を行った。
試験手順、試験条件等は実施例3と同様である。
【0096】
試験の結果、表3に示すように、好気条件である「Run1」では、土壌の軽油含有量が1か月後に180〔mg/L〕となった。一方で、嫌気条件である「Run2」では、土壌の軽油含有量が1か月後に410〔mg/L〕となった。従って、ORPの数値は、好気条件となるように制御することで、効果的に軽油の分解が可能であることがわかった。
なお、液相中の軽油濃度は好気条件、嫌気条件ともに養生期間が1か月では大きな差が見られなかった。
【表3】