(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、図面等を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、第1実施形態の光偏向器1の断面図である。
図1(A)は、光偏向器1の全体の断面図である。
図1(B)は、スリーブ20単体のB部拡大図である。
図1(C)は、スリーブ20、固定軸11のB部拡大図である。
なお、実施形態及び図面では、便宜上、
図1に示す状態を基準にして、左右方向X、奥行方向Y、上下方向Zとして説明する。
光偏向器1は、ポリゴンミラー2を高速で回転させることにより、光ビームを任意の位置に偏向させる装置である。実施形態の定格回転数は、例えば60000(r/min)以上である。
【0010】
モータ5は、ロータ6、流体動圧軸受としての軸受10を備える。
モータ5は、ステータ32aのコイルによって発せられる磁界と、ロータ6の永久磁石6aによって、ロータ6が固定軸11の回りを回転する直流電動機である。また、下ケース30に設けられた永久磁石32bと、ロータ6の鉄製の筒部6bとは、永久磁石32bの引き寄せる力が筒部6bに働くことにより、ロータ6のスラスト方向(回転軸の軸方向)の位置を維持するスラスト軸受になっている。ロータ6の最外周には、ポリゴンミラー2が固定されている。
【0011】
軸受10は、固定軸11、スリーブ20、固定ケースとしての下ケース30、保持ケースとしての上ケース40を備える。
固定軸11は、下ケース30、上ケース40内に上下方向Zに延在するように、下ケース30、上ケース40に収容される。
【0012】
スリーブ20は、円筒状の部材である。スリーブ20は、固定軸11の回りに回転可能に設けられている。スリーブ20の外周には、モータ5のロータ6が固定されている。このため、スリーブ20、ロータ6は、固定軸11の軸中心回りに、一体で回転する。スリーブ20の内周面と、固定軸11の内周面の設計上の隙間20aの長さL1(
図1(C)参照)は、例えば、固定軸11の直径が10mm程度で、片側数μm程度である。なお、隙間のギャップは、固定軸11の長さとは直接的な関係にはなく、流体軸受の種類等により適宜決定されるものである。
【0013】
スリーブ20の内周面は、中央部21、動圧発生部22,23を備える。
中央部21は、スリーブ20の内周面の中央の範囲の部分である。
動圧発生部22,23は、スリーブ20の内周面の下側Z1及び上側Z2の部分である。
動圧発生部22は、らせん状に設けられた溝22a(
図1(B)、
図1(C)参照)を備える。同様に、動圧発生部23は、溝22aとは向きの異なるらせん状の溝を備える。
モータ駆動時にはロータ6及びスリーブ20が一体で回転することにより、動圧発生部22,23は、空気を、中央部21及び固定軸11の隙間20aに流入させる(
図1(C)に示す矢印A1参照)。これにより、隙間20a内の気圧が高圧になり、スリーブ20の内周面と、固定軸11とが安定して離間した状態が維持される。これにより、軸受10は、ラジアル方向(回転軸に直交する方向)の軸受として機能する。
【0014】
下ケース30、上ケース40は、固定軸11を固定、保持するとともに、ロータ6を回転可能に収容する。下ケース30は、軸受10の下側Z1のケース部材であり、上ケース40は、軸受10の上側Z2のケース部材である。なお、下ケース30、上ケース40は、光偏向器1、モータ5のケース部材としても機能する部材である。
下ケース30、上ケース40の内部空間30aは、シール部材等(図示せず)によって密閉されている。内部空間30aは、駆動時には、内部空間30aの空気が上記隙間20aに流入し、ロータ6の保持に必要な動圧を発生させるとともに、不要な内部空間30aの空気は図示しない排出口よりモータ5の外部へと排出することにより、内部空間30aは、ほぼ真空の状態になる。なお、ほぼ真空な状態でも、動圧発生部22,23は、ロータ6の保持に必要な動圧を発生し続けることができる。
なお、本実施形態では、内部空間30aを真空化するポンプ機構(図示せず)と軸受10とを一体的に設けているが、ポンプ機構は、軸受10とは別に設けてもよい。
また、内部空間30aは、必ずしも真空化しなくてもよい。
【0015】
下ケース30は、基台31と、基台31にねじ止めされた枠部32とを備える。
基台31及び枠部32間には、モータ5を制御するための電気基板33が固定されている。なお、基台31、枠部32は、一体の構成であってもよい。
【0016】
基台31は、軸受10の基礎となる部材である。基台31の形状は、円盤状である。
基台31は、圧入孔31aを備える。
圧入孔31aは、上下方向Zに貫通する貫通孔である。圧入孔31aは、固定軸11の一端側である下端11aが圧入される。これにより、下ケース30は、固定軸11の下端11aを固定する。
枠部32は、基台31の上面にねじで固定された枠体である。枠部32には、上記ステータ32a、スラスト軸受の永久磁石32bが固定されている。
【0017】
上ケース40は、ケース本体としての上ケース本体41、保持部としてのトップカバー50、ねじ60を備える。
上ケース本体41は、下ケース30の枠部32に対してねじ43で取り付けられた枠体である。
上ケース本体41は、ねじ穴41a、窓41bを備える。
ねじ穴41aは、トップカバー50を取り付けるために、上ケース本体41の上面に、4つ設けられている。
窓41bは、偏向させた光を通過させる貫通孔である。窓41bには、透明なガラス42が設けられている。
【0018】
トップカバー50は、上ケース本体41の上部開口を塞ぐように取り付けられるカバー部材である。
トップカバー50は、孔51、チャック52を備える。
孔51は、ねじ60のねじ部を挿通する貫通孔である。孔51は、上ケース本体41のねじ穴41aに対応した位置に、4つ配置されている。後述するように、孔51の直径は、固定軸11の取り付け時の偏心を吸収できる程度の大きさである。つまり、孔51の直径は、ねじ60のねじ部の直径よりも十分に大きい。
なお、前述した上ケース本体41のねじ穴41a、トップカバー50の孔51と、ねじ60とは、トップカバー50と上ケース本体41とを締結する締結部を構成する。
【0019】
チャック52は、固定軸11の他端側である上端11bを、トップカバー50に保持する部分である。チャック52は、コレットチャックのような形状である。チャック52の筒部53は、基部に近づくに従って径が大きくなるテーパおねじ(
図1(A)参照)、及び筒部53に対して上下方向Zに入れた例えば4つの切り込み53b(
図3参照)を備える。ナット55は、その内径が徐々に狭まるようなテーパめねじになっており、筒部53がこのナット55で締め付けられることにより、筒部53の変形保持部としての4つの片部53a(
図3参照)が、弾性変形により固定軸11の上端11bに当接して締め付ける。これにより、チャック52は、固定軸11をリジットに保持する。
上ケース本体41及びトップカバー50は、一体の部品ではなく、異なる部品で構成されている。このため、チャック52のおねじ等の加工等は、トップカバー50に対してのみ行えばよいので容易である。
なお、内部空間30aの密閉の度合を向上するために、トップカバー50及び固定軸11の間、トップカバー50及び上ケース本体41の間は、それぞれOリング等によって密閉してもよい。
【0020】
(製造方法)
図2〜
図4は、第1実施形態の光偏向器1の製造方法を説明する図である。
図2は、上ケース本体41を取り付けるまでを説明する断面図である。
図3は、トップカバー50の取り付けを説明する斜視図である。
図4は、固定軸11の上端11bを固定する状態を説明する断面図である。
作業者は、以下のように光偏向器1を製造できる。
なお、前提として、モータ5は、下ケース30が
図2の状態まで組み立てられているものとする。
【0021】
(♯1)固定軸11の下端11aの固定工程
図2に示すように、固定軸11を下ケース30の基台31の圧入孔31aに圧入する。これにより、固定軸11の下端11aが下ケース30に、リジットに固定される。
(♯2)ロータ取り付け工程
ロータ6が一体となったスリーブ20を固定軸11に挿入する。
(♯3)本体ケース取り付け工程
下ケース30と、上ケース40の上ケース本体41とを、ねじ43でねじ止めする。
【0022】
(♯4)チャック挿入付け工程
図3(A)、
図3(B)に示すように、トップカバー50のチャック52を固定軸11の上端11bに挿入し、チャック52の下面と上ケース本体41の上面とを当接させる。
【0023】
(♯5)チャック締め付け工程
図3(B)、
図3(C)に示すように、チャック52の下面と上ケース本体41の上面とを当接させた状態で、ナット55で締め付ける。これにより、チャック52の各片部53aが、弾性変形により固定軸11に当接することにより、固定軸11を保持する。
【0024】
(♯7)トップカバー固定工程
図3(C)、
図4に示すように、トップカバー50の孔51にねじ60を挿入してから、トップカバー50及び上ケース本体41を、ねじ60でねじ締結する。前述した通り、トップカバー50の孔51は、十分に大きい。このため、固定軸11が下ケース30の圧入孔31aに傾いて固定されている状態でも(傾き方向θ参照)、固定軸11の上端11bは、この傾いた状態で保持される。
図4に示すように、締結部(ねじ穴41a、孔51、ねじ60)は、トップカバー50及び固定軸11の上端11bが傾き方向θにおいて自由な状態で、つまり、トップカバー50及び固定軸11の上端11bに対して傾き方向θに無理な力をかけない状態で、トップカバー50と上ケース本体41とを、ねじ締結する。このため、上ケース40は、固定軸11の軸中心を移動させる力を発生させない状態で下ケース30に、リジットに固定することができる。
【0025】
これにより、固定軸11は、下ケース30に対して傾いて固定されていたとしても、この傾いた状態で上端11bが保持される。このため、固定軸11は、軸偏心(軸振れ)することなく、両端を下ケース30、上ケース40に固定される。
このように、光偏向器1は、固定軸11の上端11bを、トップカバー50のチャック52で固定し、その後、トップカバー50及び上ケース本体41をねじ締結する。これにより、光偏向器1は、固定軸11を軸偏心させることなく、固定軸11をリジット(強固)に固定できる。
【0026】
(比較例の固定軸411の取り付け構造)
比較例を参照して、固定軸の軸偏心について説明する。
図5、
図6は、比較例として、従来の光偏向器を説明する断面図である。
図6は、従来例の固定軸411の上下の取付部のみを表わした断面の模式図である。
図5に示すような従来技術においては、本発明の実施形態とは異なり、固定軸411の上端411bは、上ケース440の孔441に圧入等により取り付けられる。
ここで、上ケース440が下ケース430に枠部432を介して取り付けられることにより、上ケース440の孔441と、下ケース430の圧入孔431aとの位置関係が決まる。このため、孔441(軸心)と圧入孔431a(軸心)が
図6(A)のようにずれたり、
図6(B)のように傾いていると、固定軸411に曲げ方向のストレスが与えられる(
図6は、説明のためにずれや傾きを大きく表しており、実際は、寸法公差の範囲内の微小量に収まっている)。
低速回転においては、製造可能な寸法公差の範囲内のずれや傾きによって、固定軸411に微小な曲がりが生じても、性能を満足することができた。このため、光偏向器401の構成で対応することができる。
しかし、高速回転を要求される高精度な流体軸受にあっては、固定軸411の曲がりが微小であっても軸受性能に重大な悪影響を与えてしまうことが確認された。
【0027】
上記構成、製造方法により、光偏向器1は、以下の作用・効果を奏する。
(1)固定軸11及びトップカバー50を、固着させる構成とは異なり、チャック52で保持する。また、トップカバー50及び上ケース本体41を、ねじ締結する。このため、製造後にこれらを分解できる。これにより、メンテナンス(部品交換、修理等)が容易である。
【0028】
(2)固定軸11の両端をリジットに固定、保持することにより、共振周波数を高くできる。これにより、高回転で回転しても、共振を抑えることができるので、従来よりも高回転型の軸受10を提供できる。また、振動に起因する軸受10へのダメージ、唸りを低減できるので、モータ5の耐久性を向上でき、長寿命である。
(3)固定軸11に曲げ方向のストレスを与えずに固定軸11の変形を抑制した状態で、固定軸11を固定、保持できる。このため、固定軸11及びスリーブ20の間を、設計上の隙間20aの大きさにして製造できる。これにより、スリーブ20及び固定軸11間の擦れ等を抑制できる。
(4)共振周波数を高くできるので、従来よりも固定軸11の軸を長くすることができる。これにより、設計自由度を向上でき、また、大型の製品にも対応できる。
【0029】
(比較試験)
図7は、第1実施形態の光偏向器1と、比較例とにおいて、回転数に応じて発生する振動を測定した測定結果を示す表である。
比較例は、固定軸の上端側を保持しない片持ちの光偏向器であり、その他の構成は、第1実施形態の光偏向器1と同様である。
実験は、モータが停止している状態から回転数70000(r/min)まで回転し、加速度計で光偏向器に発生する加速度を測定した。
図7に示すように、実施形態の光偏向器1は、全範囲において、振動に起因する加速度が2(m/s
2)未満であった。また、実施形態の光偏向器1は、スリーブ20及び固定軸11間の擦れ等に起因する異音がなかった。
【0030】
一方、比較例の光偏向器は、約45000(r/min)で共振し、振動に起因する加速度が約9(m/s
2)に上昇した。このため、定格回転数が約45000(r/min)以上のモータの場合には、始動時に回転数が上昇する場合や、停止時に回転数が下降する場合等に、共振点を通過してしまうことになる。このため、比較例は、振動に起因する軸受へのダメージ(スリーブ及び固定軸間の擦れに起因するダメージ等)が大きく、耐久性が低く短寿命になってしまう。
【0031】
この実験によって、実施形態の光偏向器1は、スリーブ20及び固定軸11間の隙間20aの大きさを、設計の狙い通りに製造できることができ、また、高回転に対応できることが確認できた。
【0032】
以上説明したように、本実施形態の光偏向器1は、固定軸11の軸偏心を抑制してケースに取り付けることができるので、高回転に対応でき、かつ、耐久性を向上できる。
【0033】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
なお、以下の説明及び図面において、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾(下2桁)に同一の符号を適宜付して、重複する説明を適宜省略する。
図8は、第2実施形態の光偏向器201の断面図である。
光偏向器201、モータ205、軸受210(流体動圧軸受)は、上ケース240の上ケース本体241及びトップカバー250間を、第1実施形態のようなねじ締結ではなく、接着材251で固着する形態である。
【0034】
本実施形態の光偏向器201の製造方法は、チャック締め付け工程の後(
図3(B)、
図3(C)参照)の後に、上ケース本体241及びトップカバー250間を、接着材251で固着する(
図8に示す♯207参照)。
これにより、光偏向器201は、第1実施形態と同様に、固定軸11の軸偏心を抑制して、組み立てられることができる。
また、光偏向器201は、部品点数を減らすことができるので、構成を簡単にできる。
【0035】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図9は、第3実施形態の光偏向器301の断面図である。
光偏向器301、モータ305、軸受310は、上ケース340の上ケース本体及びトップカバーが一体の構成である。上ケース340と、下ケース330の枠部332とは、接着材343で固着されている。
【0036】
本実施形態の光偏向器301の製造方法は、ロータ取り付け工程(
図2に示す工程♯2参照)の後に、本体ケース取り付け工程(
図2に示す工程♯3)をすることなく、チャック挿入付け工程(
図3に示す工程♯4)以降を行う。
そして、トップカバー固定工程(
図3に示す♯7)の後に、上ケース340と、下ケース330の枠部332とを、接着材343で固着する(
図9に示す♯303参照)。
【0037】
これにより、光偏向器301は、第1実施形態と同様に、固定軸11の軸偏心を抑制して、組み立てられることができる。
また、光偏向器301は、部品点数を減らすことができるので、構成を簡単にできる。
【0038】
なお、上ケース340と、下ケース330の枠部332とは、接着材343による固着ではなく、第1実施形態と同様に、ねじ締結してもよい。この場合には、光偏向器301を製造後に容易に分解できるので、メンテナンスが容易である。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、例えば、後述する変形形態等のように種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。また、実施形態に記載した効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、実施形態に記載したものに限定されない。なお、前述した実施形態及び後述する変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。
【0040】
(変形形態)
実施形態において、軸受は、流体として空気を用いる例を示したが、これに限定されるものではない。内部空間を真空化しない場合には、流体として、例えばオイル(液体)を用いることもできる。
また、スリーブの内周面に動圧発生部を備えた例を示したが、固定軸の外周に動圧発生部を設けてもよいことはいうまでもない。