特許第6286282号(P6286282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社神戸製鋼所の特許一覧 ▶ コベルコ建機株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000002
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000003
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000004
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000005
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000006
  • 特許6286282-油圧回生装置及びこれを備えた建設機械 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286282
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】油圧回生装置及びこれを備えた建設機械
(51)【国際特許分類】
   F15B 21/14 20060101AFI20180215BHJP
   E02F 9/22 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   F15B21/14 B
   E02F9/22 M
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-106352(P2014-106352)
(22)【出願日】2014年5月22日
(65)【公開番号】特開2015-222099(P2015-222099A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2016年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100168321
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敦
(72)【発明者】
【氏名】前田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】今西 悦二郎
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 允紀
【審査官】 正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−089023(JP,A)
【文献】 特開2011−052718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 21/14
E02F 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧回生装置であって、
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油により作動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータから導出される戻り油が供給されることにより駆動可能であり、かつ、この駆動によって前記エンジンの動力をアシストするように前記エンジンの出力軸に接続された可変容量型の回生モータと、
前記油圧アクチュエータからの戻り油により蓄圧可能なアキュムレータとを備え、
前記回生モータ及び前記アキュムレータは、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して互いに並列に接続され、
前記油圧回生装置は、前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される前記戻り油の比率を調整可能な分配調整手段と、前記戻り油の持つエネルギーを回生するための条件として予め設定された回生条件が成立した場合に、前記アキュムレータよりも前記回生モータに対して優先的に前記戻り油が供給されるように前記分配調整手段を制御するコントローラと、を備え
前記コントローラは、予め設定された設定容量に調整された前記回生モータにより吸収可能な吸収可能流量を超える流量の戻り油が前記油圧アクチュエータから導出された場合、前記吸収可能流量の戻り油が前記回生モータに供給され、かつ、前記吸収可能流量を超える戻り油の少なくとも一部が前記アキュムレータに供給されるように前記分配調整手段を制御する、油圧回生装置。
【請求項2】
前記油圧回生装置は、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して前記回生モータ及び前記アキュムレータと並列に接続されたタンクをさらに備え、
前記分配調整手段は、前記回生モータ、前記アキュムレータ、及び前記タンクに分配される戻り油の比率を調整可能であり、
前記コントローラは、前記戻り油のうち前記回生モータ及び前記アキュムレータに供給された戻り油以外の戻り油を前記タンクに供給するように前記分配調整手段を制御する、請求項に記載の油圧回生装置。
【請求項3】
前記コントローラは、前記戻り油が供給されることによる前記回生モータの駆動によって前記エンジンの速度が増加する場合、前記エンジンの速度の増加を防止するように前記回生モータに分配される戻り油の比率を下げる、請求項1又は2に記載の油圧回生装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記回生モータの駆動による駆動トルクが前記油圧ポンプの駆動によるポンプトルクを超えた場合に、前記駆動トルクが前記ポンプトルク以下となるように前記回生モータに分配される戻り油の比率を下げる、請求項に記載の油圧回生装置。
【請求項5】
油圧回生装置であって、
エンジンと、
前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、
前記油圧ポンプからの作動油により作動する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータから導出される戻り油が供給されることにより駆動可能であり、かつ、この駆動によって前記エンジンの動力をアシストするように前記エンジンの出力軸に接続された可変容量型の回生モータと、
前記油圧アクチュエータからの戻り油により蓄圧可能なアキュムレータとを備え、
前記回生モータ及び前記アキュムレータは、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して互いに並列に接続され、
前記油圧回生装置は、前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される前記戻り油の比率を調整可能な分配調整手段と、前記戻り油の持つエネルギーを回生するための条件として予め設定された回生条件が成立した場合に、前記アキュムレータよりも前記回生モータに対して優先的に前記戻り油が供給されるように前記分配調整手段を制御するコントローラと、前記回生モータの駆動に応じて発電可能となるように当該回生モータに接続された発電機と、をさらに備え、
前記コントローラは、前記戻り油が供給されることによる前記回生モータの駆動によって前記エンジンの速度が増加する場合、当該エンジンの速度の増加を防止可能な発電トルクで発電が行われるように前記発電機を制御可能である油圧回生装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記回生モータの駆動による駆動トルクが前記油圧ポンプの駆動によるポンプトルクを超えた場合に、前記駆動トルクから前記ポンプトルクを減じたトルク以上の前記発電トルクで発電が行われるように前記発電機を制御する、請求項に記載の油圧回生装置。
【請求項7】
建設機械であって、
機体と、
上げ動作及び下げ動作が可能となるように前記機体に取り付けられたブームと、
請求項1〜の何れか1項に記載の油圧回生装置とを備え、
前記油圧アクチュエータは、前記上げ動作及び下げ動作のための動力を前記ブームに与えるものであり、
前記分配調整手段は、前記ブームの下げ動作時に前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される戻り油の比率を調整可能である、建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧アクチュエータから導出される戻り油の持つエネルギーを回生するための油圧回生装置及びこれを備えた建設機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンにより駆動される油圧ポンプと、油圧ポンプからの作動油により作動する油圧アクチュエータと、油圧アクチュエータから導出される作動油の持つエネルギーを回生するための回生モータ及びアキュムレータとを備えた建設機械が知られている。
【0003】
回生モータは、エンジンの出力軸に接続されている。戻り油が回生モータに供給されて当該回生モータが駆動することによって、エンジンの動力(油圧ポンプを駆動するための動力)をアシストすることができる。
【0004】
また、アキュムレータは、戻り油によって蓄圧され、必要に応じてその圧力を放出することにより油圧アクチュエータを駆動する。
【0005】
例えば、特許文献1に記載の作業機械は、ブームシリンダ(油圧アクチュエータ)のヘッド側油路に接続されたポンプモータ(回生モータ)と、ポンプモータを介してヘッド側油路に接続されたアキュムレータとを備えている。
【0006】
この作業機械によれば、ブーム下げ動作時にブームシリンダから導出される作動油がポンプモータを介してアキュムレータに導かれ、ポンプモータにより増圧された作動油によってアキュムレータが蓄圧される。
【0007】
一方、ブーム下げ動作時であってアキュムレータの蓄圧が困難な場合、ブームシリンダから導出される作動油によりポンプモータがモータとして作動することにより、エンジンの動力がアシストされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−84888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の作業機械では、ブームシリンダのヘッド側油路に対してポンプモータ及びアキュムレータが直列に接続されているため、ブームシリンダからアキュムレータに導かれる作動油の全てがポンプモータを経由する。
【0010】
したがって、ブームシリンダから導出される比較的大きな戻り油の流量を想定して、ポンプモータの容量を大きく設定せざるを得ない。
【0011】
これにより、ポンプモータが大型化するとともに、戻り油が供給されていない状態においてポンプモータがエンジンにより駆動されることによる損失(以下、連れ回り損失という)が大きくなる、という問題がある。
【0012】
本発明の目的は、回生モータの大型化の抑制及び連れ回り損失の低減を図ることができる油圧回生装置及びこれを備えた建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、油圧回生装置であって、エンジンと、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油により作動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータから導出される戻り油が供給されることにより駆動可能であり、かつ、この駆動によって前記エンジンの動力をアシストするように前記エンジンの出力軸に接続された可変容量型の回生モータと、前記油圧アクチュエータからの戻り油により蓄圧可能なアキュムレータとを備え、前記回生モータ及び前記アキュムレータは、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して互いに並列に接続され、前記油圧回生装置は、前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される前記戻り油の比率を調整可能な分配調整手段と、前記戻り油の持つエネルギーを回生するための条件として予め設定された回生条件が成立した場合に、前記アキュムレータよりも前記回生モータに対して優先的に前記戻り油が供給されるように前記分配調整手段を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、予め設定された設定容量に調整された前記回生モータにより吸収可能な吸収可能流量を超える流量の戻り油が前記油圧アクチュエータから導出された場合、前記吸収可能流量の戻り油が前記回生モータに供給され、かつ、前記吸収可能流量を超える戻り油の少なくとも一部が前記アキュムレータに供給されるように前記分配調整手段を制御する、油圧回生装置を提供する。
【0014】
本発明によれば、多量の戻り油が存在する場合にアキュムレータに分配される戻り油の比率を上げることにより、相対的に回生モータに供給される戻り油を減らすことができる。
【0015】
したがって、アキュムレータに対して供給される戻り油の全てが回生モータを経由する従来技術と異なり、回生モータの最大容量を小さく抑えることができ、これにより、回生モータの大型化の抑制及び連れ回り損失の低減を図ることができる。
【0016】
ここで、戻り油の持つエネルギーを回生するための条件として予め設定された回生条件が成立した場合に、回生モータ及びアキュムレータに対してどのような比率で戻り油を分配するかは分配調整手段の制御次第であるが、回生モータよりもアキュムレータに優先的に戻り油を供給した場合には回生効率が低下するおそれがある。
【0017】
具体的に、戻り油によりアキュムレータが蓄圧される場合、蓄圧時におけるアキュムレータのエネルギー損失だけでなく、その後にアキュムレータから放出された圧力により駆動される油圧アクチュエータのエネルギー損失も生じる。
【0018】
そこで、本発明は、前記回生条件が成立した場合に、前記油圧回生装置は、前記アキュムレータよりも前記回生モータに対して優先的に前記戻り油が供給されるように前記分配調整手段を制御するコントローラをさらに備えている
【0019】
本発明によれば、油圧アクチュエータから導出された戻り油により優先的に回生モータが駆動されるため、上述したアキュムレータによる回生時のエネルギー損失を相対的に低減することができ、これにより、回生効率の低下を抑えることができる。
【0020】
具体的に、前記コントローラは、予め設定された設定容量に調整された前記回生モータにより吸収可能な吸収可能流量を超える流量の戻り油が前記油圧アクチュエータから導出された場合、前記吸収可能流量の戻り油が前記回生モータに供給され、かつ、前記吸収可能流量を超える戻り油の少なくとも一部が前記アキュムレータに供給されるように前記分配調整手段を制御する
【0021】
ここで、回生モータの駆動効率が予め設定された効率以上となるように『設定容量』が設定されていれば、回生モータにより高効率で回生しながら、残りの戻り油の持つエネルギーをアキュムレータによって回生することができる。
【0022】
一方、『設定容量』が回生モータの最大容量に設定されていれば、上述したアキュムレータによる回生時のエネルギー損失を可及的に低減することができる。
【0023】
つまり、『設定容量』は、回生効率を考慮して適宜設定することが可能である。
【0024】
前記油圧回生装置において、前記油圧回生装置は、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して前記回生モータ及び前記アキュムレータと並列に接続されたタンクをさらに備え、前記分配調整手段は、前記回生モータ、前記アキュムレータ、及び前記タンクに分配される戻り油の比率を調整可能であり、前記コントローラは、前記戻り油のうち前記回生モータ及び前記アキュムレータに供給された戻り油以外の戻り油を前記タンクに供給するように前記分配調整手段を制御することが好ましい。
【0025】
この態様によれば、戻り油のうち回生モータ及びアキュムレータに導かれたもの以外の部分をタンクに回収することができる。
【0026】
ここで、戻り油が供給されることによる回生モータの駆動によってエンジンの速度が増加する場合があり、この場合には、エンジンの駆動効率が低下するおそれがある。
【0027】
そこで、前記コントローラは、前記戻り油が供給されることによる前記回生モータの駆動によって前記エンジンの速度が増加する場合、前記エンジンの速度の増加を防止するように前記回生モータに分配される戻り油の比率を下げることが好ましい。
【0028】
この態様によれば、回生モータに分配される戻り油の比率を下げることにより、エンジンの駆動効率の低下を防止しながら、戻り油の持つエネルギーを回生することができる。
【0029】
具体的に、エンジンに対してその負荷として油圧ポンプのみが設けられている場合、エンジンのトルクは主に油圧ポンプの駆動によるポンプトルクにより決定されるため、前記回生モータの駆動による駆動トルクがポンプトルクを超えた場合にエンジンの速度が増加すると考えることができる。
【0030】
そこで、前記コントローラは、前記回生モータの駆動による駆動トルクが前記油圧ポンプの駆動によるポンプトルクを超えた場合に、前記駆動トルクが前記ポンプトルク以下となるように前記回生モータに分配される戻り油の比率を下げることができる。
【0031】
この態様によれば、実際のエンジンの速度を検出することなくポンプトルクと駆動トルクとを用いることによってエンジンの速度の増加を防止することができる。
【0032】
なお、エンジンに複数の負荷が設けられている場合には、これら負荷の駆動によるトルクの合計よりも回生モータの駆動トルクが小さくなるように回生モータに分配される戻り油の比率を下げることにより、エンジンの速度の増加を防止することができる。
【0033】
また、本発明は、油圧回生装置であって、エンジンと、前記エンジンにより駆動される油圧ポンプと、前記油圧ポンプからの作動油により作動する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータから導出される戻り油が供給されることにより駆動可能であり、かつ、この駆動によって前記エンジンの動力をアシストするように前記エンジンの出力軸に接続された可変容量型の回生モータと、前記油圧アクチュエータからの戻り油により蓄圧可能なアキュムレータとを備え、前記回生モータ及び前記アキュムレータは、前記戻り油が導出される前記油圧アクチュエータのポートに対して互いに並列に接続され、前記油圧回生装置は、前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される前記戻り油の比率を調整可能な分配調整手段と、前記戻り油の持つエネルギーを回生するための条件として予め設定された回生条件が成立した場合に、前記アキュムレータよりも前記回生モータに対して優先的に前記戻り油が供給されるように前記分配調整手段を制御するコントローラと、前記回生モータの駆動に応じて発電可能となるように当該回生モータに接続された発電機と、をさらに備え、前記コントローラは、前記戻り油が供給されることによる前記回生モータの駆動によって前記エンジンの速度が増加する場合、当該エンジンの速度の増加を防止可能な発電トルクで発電が行われるように前記発電機を制御可能である、油圧回生装置を提供する
【0034】
本発明によれば、多量の戻り油が存在する場合にアキュムレータに分配される戻り油の比率を上げることにより、相対的に回生モータに供給される戻り油を減らすことができる。
【0035】
したがって、アキュムレータに対して供給される戻り油の全てが回生モータを経由する従来技術と異なり、回生モータの最大容量を小さく抑えることができ、これにより、回生モータの大型化の抑制及び連れ回り損失の低減を図ることができる。
【0036】
この態様によれば、油圧アクチュエータから導出された戻り油により優先的に回生モータが駆動されるため、上述したアキュムレータによる回生時のエネルギー損失を相対的に低減することができ、これにより、回生効率の低下を抑えることができる。
【0037】
さらに、本発明によれば、回生モータに供給される戻り油の流量を吸収可能流量に維持することにより回生モータの高い回生効率を確保しながら、エンジンの駆動効率の低下を防止することができる。
【0038】
したがって、本発明によれば、戻り油の持つエネルギーをより有効に回生することができる。
【0039】
具体的に、前記コントローラは、前記回生モータの駆動による駆動トルクが前記油圧ポンプの駆動によるポンプトルクを超えた場合に、前記駆動トルクから前記ポンプトルクを減じたトルク以上の前記発電トルクで発電が行われるように前記発電機を制御することができる。
【0040】
この態様によれば、実際のエンジンの速度を検出することなくポンプトルクと駆動トルクとを用いることによってエンジンの速度の増加を防止することができる。
【0041】
また、本発明は、建設機械であって、建設機械であって、機体と、上げ動作及び下げ動作が可能となるように前記機体に取り付けられたブームと、前記油圧回生装置とを備え、前記油圧アクチュエータは、前記上げ動作及び下げ動作のための動力を前記ブームに与えるものであり、前記分配調整手段は、前記ブームの下げ動作時に前記回生モータ及び前記アキュムレータに分配される戻り油の比率を調整可能である、建設機械を提供する。
【0042】
本発明によれば、ブーム下げ動作時においてブームが持つ位置エネルギーを回生モータ及びアキュムレータによって有効に回生することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、回生モータの大型化及び連れ回り損失を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の第1実施形態に係る油圧ショベルの全体構成を示す側面図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る油圧回生装置を示す回路図である。
図3図2に示すコントローラにより実行される処理を示すフローチャートの前半部分である。
図4図2に示すコントローラにより実行される処理を示すフローチャートの後半部分である。
図5】本発明の第2実施形態に係る油圧回生装置を示す回路図である。
図6図5に示すコントローラにより実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を具体化した一例であって、本発明の技術的範囲を限定する性格のものではない。
【0046】
<第1実施形態(図1図4)>
図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る建設機械の一例としての油圧ショベル1は、クローラ2aを有する下部走行体2と、下部走行体2上に旋回可能に設けられた上部旋回体3と、上部旋回体3に対して変位可能に取り付けられた作業アタッチメント4と、図2に示す油圧回生装置5とを備えている。下部走行体2及び上部旋回体3は、後述するブーム6が取り付けられた機体に相当する。
【0047】
作業アタッチメント4は、上部旋回体3に上げ動作及び下げ動作可能に取り付けられたブーム6と、ブーム6の先端部に回転可能に取り付けられたアーム7と、アーム7の先端部に回転可能に取り付けられたバケット8とを備えている。
【0048】
また、作業アタッチメント4は、ブーム6に対して上げ動作及び下げ動作のための動力を与えるブームシリンダ9と、アーム7を回転駆動するためのアームシリンダ10と、バケット8を回転駆動するためのバケットシリンダ11とを備えている。
【0049】
図2を参照して、油圧回生装置5は、ブーム6の下げ動作時にブームシリンダ9(油圧アクチュエータの一例)から導出される戻り油の持つエネルギーを回生するためのものである。
【0050】
具体的に、油圧回生装置5は、エンジン14と、エンジン14により駆動される可変容量式の油圧ポンプ15と、油圧ポンプ15からの作動油により作動するブームシリンダ9及びアームシリンダ10と、ブームシリンダ9の駆動を制御するためのブーム側回路16と、アームシリンダ10の駆動を制御するためのアーム側回路17と、ブーム側回路16における戻り油の回生を制御するコントローラ18とを備えている。
【0051】
油圧ポンプ15は、エンジン14の出力軸に接続されている。
【0052】
アーム側回路17は、アームシリンダ10に対する作動油の給排を制御するためのコントロールバルブ17aと、コントロールバルブ17aを操作するための操作手段17bと、操作手段17bの非操作時にアームシリンダ10が縮小するのをロックするロック弁17cとを備えている。
【0053】
ブーム側回路16は、油圧ポンプ15に対してアーム側回路17と並列に接続されている。
【0054】
また、ブーム側回路16は、ブームシリンダ9に対する作動油の給排を制御するためのコントロールバルブ19と、コントロールバルブ19を操作するための操作手段20と、操作手段20の非操作時にブームシリンダ9が縮小するのをロックするロック弁21と、ブームシリンダ9のヘッド側ポート(符号省略)に対して並列に接続された回生モータ22、アキュムレータ23、及びタンク24と、これらに対する作動油の供給量を制御するためのモータ用制御弁25、蓄圧用制御弁26、及び排出用制御弁28と、アキュムレータ23から放出される作動油の流量を制御するための放出用制御弁27とを備えている。
【0055】
コントロールバルブ19は、図示の中立位置と、ブーム6による上げ動作を実行するためのブーム上げ位置(図の左側の位置)と、ブーム6による下げ動作を実行するためのブーム下げ位置(図の右側の位置)との間で切換可能である。
【0056】
コントロールバルブ19がブーム上げ位置に切り換えられると、油圧ポンプ15とブームシリンダ9のヘッド側油路R2とが接続されるとともにブームシリンダ9のロッド側油路R1とタンクとが接続される。一方、コントロールバルブ19がブーム下げ位置に切り換えられると、油圧ポンプ15とロッド側油路R1とが接続されるとともにヘッド側油路R2が閉じられる。
【0057】
操作手段20は、コントロールバルブ19に対してパイロット圧を供給するためのリモコン弁と、リモコン弁を操作するための操作レバーとを備えている。
【0058】
回生モータ22は、ブームシリンダ9から導出される戻り油が供給されることにより駆動可能であり、かつ、この駆動によってエンジン14の動力をアシストするようにエンジン14の出力軸に接続されている。具体的に、回生モータ22は、可変容量式の油圧モータであり、容量を調整するためのレギュレータ22aを有している。後述するコントローラ18からの指令がレギュレータ22aに入力されることにより、回生モータ22の容量を調整することができる。
【0059】
また、回生モータ22は、ブームシリンダ9のヘッド側油路R2に接続されたモータ油路R3に設けられている。このモータ油路R3における回生モータ22の上流側にモータ用制御弁25が設けられている。モータ用制御弁25は、後述するコントローラ18からの指令に応じて回生モータ22に供給される作動油の流量を制御可能な電磁式の流量制御弁である。なお、モータ用制御弁25は、モータ油路R3を開閉可能な電磁式の開閉弁でもよい。
【0060】
アキュムレータ23は、ブームシリンダ9からの戻り油により蓄圧可能である。
【0061】
また、アキュムレータ23は、ブームシリンダ9のヘッド側油路R2に対してモータ油路R3と並列に接続されたアキュムレータ油路R4に設けられている。このアキュムレータ油路R4におけるアキュムレータ23の上流側に蓄圧用制御弁26が設けられている一方、アキュムレータ23の下流側に放出用制御弁27が設けられている。蓄圧用制御弁26は、コントローラ18からの指令に応じてアキュムレータ23に供給される作動油の流量を制御可能な電磁式の流量制御弁である。放出用制御弁27は、コントローラ18からの指令に応じてアキュムレータ23から放出される作動油の流量を制御可能な電磁式の流量制御弁である。アキュムレータ油路R4の下流側の端部は、モータ油路R3におけるモータ用制御弁25と回生モータ22との間の位置に接続されているため放出用制御弁27が開くことにより回生モータ22が駆動する。
【0062】
タンク24は、ブームシリンダ9からの戻り油のうち回生モータ22及びアキュムレータ23に供給される部分以外の余剰の戻り油を回収するためのものである。
【0063】
また、タンク24は、ブームシリンダ9のヘッド側油路R2に対してモータ油路R3及びアキュムレータ油路R4と並列に接続されたタンク油路R5に設けられている。このタンク油路R5におけるタンク24の上流側に排出用制御弁28が設けられている。排出用制御弁28は、コントローラ18からの指令に応じてタンク24に導かれる作動油の流量を制御可能な電磁式の流量制御弁である。
【0064】
なお、タンク油路R5におけるタンク24と排出用制御弁28との間の位置にはブーストチェック弁29が設けられている。ブーストチェック弁29は、ブーム下げ動作時に補給油路R6を通じてロッド側油路R1に作動油を補給するために背圧を立てるためのものである。補給油路R6は、タンク油路R5における排出用制御弁28とブーストチェック弁29との間の位置とロッド側油路R1とを接続する。この補給油路R6に設けられたチェック弁30は、ブーム上げ動作時にヘッド側油路R2からタンク油路R5へ向けた作動油の流れを規制するためのものである。
【0065】
モータ用制御弁25、蓄圧用制御弁26、及び排出用制御弁28は、回生モータ22、アキュムレータ23、及びタンク24に分配される戻り油の比率を調整可能な分配調整手段に相当する。なお、回生モータ22の容量の調整によって回生モータ22に供給される戻り油の流量を調整することができるため、分配調整手段においてモータ用制御弁25を省略することもできる。この場合、モータ用制御弁25の閉鎖機能は、回生モータ22の容量を最小にすることによって実現することができる。
【0066】
また、油圧回生装置5は、油圧ポンプ15の吐出圧を検出可能な吐出圧センサD1と、ブームシリンダ9からの戻り油の圧力を検出可能なヘッド圧センサD2と、アキュムレータ23に蓄圧された作動油の圧力を検出可能な蓄圧センサD3と、操作手段17bの操作量及び操作方向を検出可能な操作量センサD4と、操作手段20の操作量及び操作方向を検出可能な操作量センサD5と、エンジン14の回転数を検出可能な回転数検出器D6とを備えている。
【0067】
ヘッド圧センサD2は、ヘッド側油路R2に設けられている。
【0068】
蓄圧センサD3は、アキュムレータ油路R4における蓄圧用制御弁26とアキュムレータ23との間の位置に設けられている。
【0069】
操作量センサD4は、操作手段17bの操作レバーの操作量及び操作方向を検出可能なエンコーダ等により構成されている。同様に、操作量センサD5は、操作手段20の操作レバーの操作量及び操作方向を検出可能なエンコーダ等により構成されている。なお、操作量センサD4、D5は、コントロールバルブ17a、19の両ポートに対するパイロット圧の大きさとして操作手段17b、20の操作量及び操作方向を検出するものでもよい。
【0070】
上述したセンサD1〜D6による検出値は、電気信号としてコントローラ18に入力される。
【0071】
コントローラ18は、センサD1〜D6から入力された検出値に基づいて、制御弁25、26、28、及び回生モータ22のレギュレータ22aに指令を出力する。
【0072】
また、コントローラ18は、予め設定された回生条件が成立した場合に、ブームシリンダ9から導出される戻り油の持つエネルギーが少なくとも回生モータ22によって回生されるように、ブーム側回路16を制御する。つまり、コントローラ18は、回生条件が成立した場合に、アキュムレータ23よりも回生モータ22に対して優先的にブームシリンダ9からの戻り油が供給されるようにブーム側回路16を制御する。
【0073】
ここで、回生条件は、ブーム6がその自重で下げ動作している場合、つまり、ブーム6の位置エネルギーを回生することができる場合に成立するものとして設定されている。
【0074】
以下、図2図4を参照して、コントローラ18により実行される処理を説明する。
【0075】
コントローラ18による処理が開始されると、まず、操作量センサD5からの検出値に基づいて操作手段20によるブーム6を下げるためのレバー操作が行われたか否かが判定される(ステップS1)。
【0076】
ステップS1においてブーム6を下げるためのレバー操作が行われたと判定されると、回生条件が成立したか否かが判定される(ステップS2)。具体的に、ステップS2では、(Pr×Ar)<(Ph×Ah)の条件が成立し、かつ、ブームシリンダ9のヘッド側室内の圧力が予め設定された圧力を超えている場合に、回生条件が成立したと判定される。ここで、Prは、ブームシリンダ9のロッド側室内の圧力であり、吐出圧センサD1により検出されるものである。Arは、ブームシリンダ9のロッド側室の断面積であり、予め記憶されたものである。Phは、ブームシリンダ9のヘッド側室内の圧力であり、ヘッド圧センサD2により検出されるものである。Ahは、ブームシリンダ9のヘッド側室の断面積であり、予め記憶されたものである。なお、『予め設定された圧力』は、回生モータ22を回転するために必要な圧力として予め設定されたものである。
【0077】
ステップS2において回生条件が成立していると判定されると、以下の式(1)を用いて、ブーム下げ目標流量が算出される(ステップS3)。ブーム下げ目標流量とは、操作手段20の操作量に応じてブームシリンダ9から導出されるべき戻り油の流量である。
【0078】
Q=Cv×A×√(P)・・・(1)
ステップS3では、式(1)に対し、操作手段20の操作量との関係で予め設定された仮想開口をA(mm)として代入し、ブームシリンダ9のヘッド側油路R2の圧力をP(MPa)として代入することにより、ブーム下げ目標流量としてのQ[l/min]を算出する。なお、Cvは、予め設定された係数である。以下、ブーム下げ目標流量をQ_MO_targetと記す。
【0079】
次いで、ブーム下げ目標流量が回生モータ22の吸収可能流量よりも大きいか否かが判定される(ステップS4)。ここで、吸収可能流量は、予め設定された回生モータ22の設定容量(本実施形態では最大容量)とエンジン14の回転数とによって定まるものである。
【0080】
ステップS4においてブーム下げ目標流量が吸収可能流量よりも大きいと判定される場合、つまり、回生モータ22にとって余剰の戻り油が存在する場合には、回生モータ22の容量を仮に設定容量に設定する(ステップS5:ステップS6においてこの容量をモータ仮想容量という)。
【0081】
次いで、油圧ポンプ15の駆動によるポンプトルクが、回生モータ22の容量がモータ仮想容量に設定された場合における当該回生モータ22の駆動によるモータ仮想トルク(駆動トルク)よりも大きいか否かが判定される(ステップS6)。ここで、油圧ポンプ15のポンプトルクは、油圧ポンプ15の容量と吐出圧とによって定まるものであり、油圧ポンプ15の容量は、操作手段17b、20の操作量との関係で予め設定されている。
【0082】
ステップS6において油圧ポンプ15のポンプトルクがモータ仮想トルクよりも大きいと判定された場合、つまり、モータ仮想トルクに設定してもエンジン14の速度の増加を避けることができると判定された場合、回生モータ22の指令容量を設定容量に設定する(ステップS7)。なお、ステップS7では、モータ用制御弁25の指令開口面積を全開に設定する。
【0083】
一方、前記ステップS4においてブーム下げ目標流量が吸収可能流量以下であると判定される場合、つまり、回生モータ22に対して戻り油の全てを供給することができる場合には、回生モータ22の容量を仮にブーム基準容量に設定する(ステップS8:ステップS9においてこの容量をモータ仮想容量という)。ここで、ブーム基準容量は、ブーム下げ目標流量を流すための回生モータ22の容量であり、ブーム下げ流量とエンジン回転数とによって定まるものである。
【0084】
次いで、油圧ポンプ15の駆動によるポンプトルクが、回生モータ22の容量がモータ仮想容量に設定された場合における当該回生モータ22の駆動によるモータ仮想トルク(駆動トルク)よりも大きいか否かが判定される(ステップS9)。
【0085】
ステップS9において油圧ポンプ15のポンプトルクがモータ仮想トルクよりも大きいと判定された場合、つまり、モータ仮想トルクに設定してもエンジン14の速度の増加を避けることができると判定された場合、回生モータ22の指令容量を前記ブーム基準容量に設定する(ステップS10)。なお、ステップS10では、モータ用制御弁25の指令開口面積を全開に設定する。
【0086】
一方、ステップS6及びステップS9において油圧ポンプ15のポンプトルクがモータ仮想トルク以下であると判定されると、回生モータ22の指令容量をトルク基準容量に設定する(ステップS11)。ここで、トルク基準容量は、油圧ポンプ15のポンプトルクの範囲内で戻り油を回生するための回生モータ22の容量であり、油圧ポンプ15のポンプトルクをブームシリンダ9のヘッド側油路R2内の圧力によって除することにより得られるものである。アキュムレータ23の蓄圧容量に余裕がある場合には、回生モータ22の指令容量をトルク基準容量以下に設定することもできる。なお、ステップS11では、モータ用制御弁25の指令開口面積を全開に設定する。
【0087】
ステップS7において回生モータ22の指令容量を設定容量に設定した場合、及びステップS11において回生モータ22に供給される戻り油の流量を制限した場合には、回生モータ22に対する余剰の戻り油が存在する。そのため、余剰の戻り油をアキュムレータ23により回生するために、ステップS12では、回生モータ22に供給された戻り油以外の残りの戻り油の流量、及びアキュムレータ23の回生可能な流量(以下、回生可能流量という)を算出する。
【0088】
具体的に、残りの戻り油の流量は、ステップS3で算出されたブーム下げ目標流量から回生モータ22の流量を減じることにより得ることができる。また、前記式(1)に対し、蓄圧用制御弁26の最大開口面積をAとして代入し、ヘッド側油路R2内の圧力からアキュムレータ23の圧力を減じた差圧をPとして代入することにより、回生可能流量Qを算出することができる。
【0089】
次いで、回生可能流量が0よりも大きいか否か、つまり、アキュムレータ23によって回生可能であるか否かが判定される(ステップS13)。ここで、ヘッド側油路R2内の圧力よりもアキュムレータ23の圧力が高い場合、回生可能ではないと判定され、この場合には、蓄圧用制御弁26の指令開口面積が0(つまり、全閉)に設定される(ステップS14)。
【0090】
一方、ステップS13において回生可能であると判定されると、残りの戻り油の流量が回生可能流量よりも大きいか否かが判定される(ステップS15)。ここで、残りの戻り油の流量が回生可能流量よりも大きいと判定されると、回生可能流量の戻り油をアキュムレータ23に供給するために蓄圧用制御弁26の指令開口面積を最大(全開)に設定する(ステップS16)。
【0091】
ステップS14においてアキュムレータ23による回生を行わない場合、及びステップS16において回生可能流量の戻り油をアキュムレータ23に供給する場合には、回生モータ22及びアキュムレータ23に対して余剰の戻り油が存在する。そこで、ステップS17では、余剰の戻り油をタンク24に回収するための排出用制御弁28の指令開口面積を設定する。具体的に、前記式(1)に対し、残りの戻り油の流量から回生可能流量を減じた流量をQとして代入し、ヘッド側油路R2内の圧力をPとして代入することにより、排出用制御弁28の開口面積Aを算出することができる。
【0092】
一方、ステップS15において残りの戻り油の流量が回生可能流量以下であると判定されると、残りの戻り油の流量の全てをアキュムレータ23により回生するために蓄圧用制御弁26の指令開口面積を設定する(ステップS18)。具体的に、前記式(1)に対し、ヘッド側油路R2内の圧力からアキュムレータ23の圧力を減じた差圧をPとして代入し、残りの戻り油の流量をQとして代入することにより、蓄圧用制御弁26の指令開口面積Aを算出することができる。
【0093】
また、前記のステップS10において回生モータ22の指令容量をブーム基準容量に設定した場合、戻り油の全てが回生モータ22に供給されて残りの戻り油が存在しないため、ステップS19では蓄圧用制御弁26の指令開口面積を0(全閉)に設定する。
【0094】
ステップS18において残りの戻り油の流量の全てをアキュムレータ23に供給した場合、及びステップS19において蓄圧用制御弁26を全閉にする場合には、タンク24に回収すべき余剰の戻り油は存在しない。そこで、ステップS20では、排出用制御弁28の指令開口面積を0(全閉)に設定する。
【0095】
なお、前記のステップS1においてブーム6を下げるためのレバー操作が行われていないと判定された場合、コントロールバルブ19が中立位置又はブーム上げ位置に切り換えられており、ブーム6を現在位置に保持する、又はブーム6の上げ動作を許容するための回路状態に切り換える必要がある。そのため、ステップS21では、回生モータ22の指令容量を最小とし、蓄圧用制御弁26の指令開口面積を0(全閉)に設定し、排出用制御弁28の指令開口面積を0(全閉)に設定する。なお、このステップS21では、モータ用制御弁25の指令開口面積も0(全閉)に設定している。
【0096】
また、前記のステップS1でブーム6を下げるためのレバー操作が行われていると判定され、かつ、ステップS2において回生条件が成立していないと判定された場合、ブーム6の下げ動作が行われているものの回生モータ22及びアキュムレータ23に導くべき戻り油が存在しない。そのため、ステップS22では、ブーム6の下げ動作を許容するために、回生モータ22の指令容量を最小とし、蓄圧用制御弁26の指令開口面積を0(全閉)に設定し、排出用制御弁28の指令開口面積を全開に設定する。なお、このステップS22では、モータ用制御弁25の指令開口面積も0(全閉)に設定している。
【0097】
そして、ステップS17、S20、S21及びS22の後、回生モータ22、制御弁25、26、28に対して設定された指令値を出力して(ステップS23)、当該処理はリターンする。
【0098】
なお、図2に示す油圧回生装置5において、ブーム6の下げ動作であってブーム6が負荷作業を行う場合(掘削作業を行う場合等)、ブームシリンダ9のヘッド側油路R2に導出される戻り油は、排出用制御弁28を通じてタンク24に回収される。
【0099】
以上説明したように、油圧回生装置5では、回生モータ22とアキュムレータ23とがブームシリンダ9に対して並列に接続されているとともに制御弁25、26、28が設けられている。そのため、多量の戻り油が存在する場合にアキュムレータ23に分配される戻り油の比率を上げることにより、相対的に回生モータ22に供給される戻り油を減らすことができる。
【0100】
したがって、アキュムレータ23に対して供給される戻り油の全てが回生モータ22を経由する従来技術と異なり、回生モータ22の最大容量を小さく抑えることができ、これにより、回生モータ22の大型化の抑制及び連れ回り損失の低減を図ることができる。
【0101】
また、第1実施形態によれば、以下の効果を奏することができる。
【0102】
戻り油によりアキュムレータ23が蓄圧される場合、蓄圧時におけるアキュムレータ23のエネルギー損失だけでなく、その後にアキュムレータ23から放出された圧力により駆動される回生モータ22のエネルギー損失も生じる。これに対し、第1実施形態によれば、アキュムレータ23よりも回生モータ22に対して優先的に戻り油が供給されるため、上述のアキュムレータ23による回生時のエネルギー損失を相対的に低減することができ、これにより、回生効率の低下を抑えることができる。
【0103】
第1実施形態によれば、戻り油のうち回生モータ22及びアキュムレータ23に導かれたもの以外の部分をタンク24に回収することができる。
【0104】
第1実施形態によれば、回生モータ22の駆動トルクが油圧ポンプ15のモータ仮想トルク(ポンプトルク)を超える場合に、回生モータに分配される戻り油の比率を下げることにより、エンジンの駆動効率の低下を防止しながら、戻り油の持つエネルギーを回生することができる。
【0105】
第1実施形態によれば、実際のエンジン14の速度を検出することなく油圧ポンプ15のモータ仮想トルクと回生モータ22の駆動トルクとを用いることによってエンジン14の速度の増加を防止することができる。
【0106】
<第2実施形態(図5及び図6)>
第1実施形態では、図3に示すステップS11のように、回生モータ22のモータ仮想トルク(駆動トルク)が油圧ポンプ15のポンプトルクを超える場合に、回生モータ22に対して供給(分配)される戻り油の流量を制限している。
【0107】
これに対し、第2実施形態では、このような戻り油の流量制限を行うことなく戻り油を回生することができる。以下、第2実施形態における第1実施形態と相違する部分について主に説明する。
【0108】
図5に示すように、第2実施形態に係る油圧回生装置5は、回生モータ22の駆動に応じて発電可能となるように当該回生モータ22(エンジン14の出力軸)に接続された発電電動機(発電機)31と、発電電動機31を制御するためのインバータ32と、発電電動機31により発電された電力を充電可能なバッテリ33とを備えている。
【0109】
発電電動機31は、エンジン14及び回生モータ22の少なくとも一方の動力により発電機として作動する機能と、バッテリ33の電力により電動機として作動してエンジン14の動力をアシストする機能とを有する。
【0110】
インバータ32は、コントローラ18からの指令に応じて発電電動機31の駆動トルク(発電量)及びバッテリ33から発電電動機31に対する供給電力を制御可能である。つまり、コントローラ18は、インバータ32を介して発電電動機31を制御可能である。
【0111】
次に、図6を参照して第2実施形態に係るコントローラ18により実行される処理を説明する。
【0112】
上述したステップS4においてブーム下げ目標流量が回生モータ22の吸収可能流量よりも大きいと判定されると、第1実施形態とは異なりエンジン14の要求トルク(油圧ポンプ15のトルク)との関係を考慮することなく回生モータ22の指令容量が設定容量に設定される(ステップS41)。つまり、ステップS41が行われた状態においては、回生モータ22の駆動トルクが油圧ポンプ15のポンプトルクを超えている場合も含まれている。
【0113】
そこで、ステップS51では、回生モータ22の駆動トルクが油圧ポンプ15のポンプトルクを超える場合に、駆動トルクからポンプトルクを減じた差分トルクを発電電動機31の指令トルク(発電トルク)として設定する。なお、エンジン14の駆動によるトルクが油圧ポンプ15の駆動トルクに対して十分余裕がある場合には、発電電動機31の指令トルクは、差分トルク以上に設定することもできる。一方、ステップS51において駆動トルクがポンプトルク以下である場合には、発電電動機31の指令トルクを0に設定する。
【0114】
次いで、上述したステップS12が実行される。
【0115】
一方、ステップS4においてブーム下げ目標流量が回生モータ22の吸収可能流量以下であると判定されると、第1実施形態とは異なり油圧ポンプ15のポンプトルクとの関係を考慮することなく回生モータ22の指令容量がブーム基準容量に設定される(ステップS71)。つまり、ステップS71が行われた状態においては、回生モータ22の駆動トルクが油圧ポンプ15のポンプトルクを超えている場合も含まれている。
【0116】
そこで、ステップS81では、回生モータ22の駆動トルクが油圧ポンプ15のポンプトルクを超える場合に、駆動トルクからポンプトルクを減じた差分トルクを発電電動機31の指令トルク(発電トルク)として設定する。ステップS51と同様に、エンジン14の駆動によるトルクが油圧ポンプ15の駆動トルクに対して余裕がある場合には、発電電動機31の指令トルクを差分トルク以上に設定することもできる。一方、ステップS81において駆動トルクがポンプトルク以下である場合には発電電動機31の指令トルクを0に設定する。
【0117】
次いで、上述したステップS19が実行される。
【0118】
なお、第2実施形態においては、上述したステップS2(図3参照)において回生条件が成立していないと判定されると、ステップS22(図4参照)において、発電電動機31の指令トルクを0に設定する。
【0119】
以上説明したように、回生モータ22に供給される戻り油の流量を吸収可能流量に維持することにより回生モータ22の高い回生効率を確保しながら、エンジン14の駆動効率の低下を防止することができる。
【0120】
したがって、第2実施形態によれば、戻り油の持つエネルギーをより有効に回生することができる。
【0121】
また、第2実施形態によれば、実際のエンジン14の速度を検出することなく油圧ポンプ15のポンプトルクと回生モータ22の駆動トルクとを用いることによってエンジン14の速度の増加を防止することができる。
【0122】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、本発明は、以下の態様ととることも可能である。
【0123】
回生モータ22の設定容量は、回生効率を考慮して適宜設定することが可能である。油圧モータは、一般に、最大容量に設定された状態で比較的高い駆動効率が得られることが知られている。そのため、前記実施形態のように回生モータ22の設定容量を最大容量に設定すれば、回生モータ22の高い駆動効率を確保しつつ上述したアキュムレータ23による回生時のエネルギー損失を可及的に低減することができる。
【0124】
エンジン14に複数の負荷が設けられている場合には、これら負荷の駆動によるトルクの合計よりも回生モータ22の駆動トルクが小さくなるように回生モータ22に分配される戻り油の比率を下げることにより、エンジン14の速度の増加を防止することができる。
【0125】
制御弁25〜28としてパイロット式のものを採用して、コントローラ18からの指令に応じて制御弁に対してパイロット圧を生じさせる手段を設けてもよい。
【0126】
アキュムレータ23から放出される作動油は、回生モータ22ではなく他のアクチュエータに供給することもできる。
【0127】
油圧回生装置5は、ブーム6の下げ動作時における戻り油の持つエネルギーを回生するものに限定されず、他の油圧アクチュエータから導出される戻り油の持つ位置エネルギー又は慣性エネルギーを回生することができる。例えば、アーム7及びバケット8の少なくとも一方が自重によって回転する際にシリンダ10、11から導出される戻り油の持つエネルギー、及び上部旋回体3を旋回駆動するための油圧モータから旋回減速時に導出される戻り油の持つエネルギーを油圧回生装置5によって回生することができる。
【符号の説明】
【0128】
1 油圧ショベル(建設機械の一例)
2 下部走行体(機体の一例)
3 上部旋回体(機体の一例)
5 油圧回生装置
6 ブーム
9 ブームシリンダ(油圧アクチュエータの一例)
14 エンジン
15 油圧ポンプ
18 コントローラ
22 回生モータ
23 アキュムレータ
24 タンク
25 モータ用制御弁
26 蓄圧用制御弁
27 放出用制御弁
31 発電電動機(発電機の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6