(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286296
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】杭調査方法
(51)【国際特許分類】
E02D 33/00 20060101AFI20180215BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
E02D33/00
G01N21/88 Z
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-132150(P2014-132150)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11492(P2016-11492A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】宮田 章
(72)【発明者】
【氏名】磯部 隆寿
【審査官】
佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−327692(JP,A)
【文献】
特開平08−302722(JP,A)
【文献】
特開平04−102633(JP,A)
【文献】
特開平10−325137(JP,A)
【文献】
特公平06−094771(JP,B2)
【文献】
特開2007−271587(JP,A)
【文献】
特開2000−054368(JP,A)
【文献】
特開平09−328771(JP,A)
【文献】
特開2003−253987(JP,A)
【文献】
特開2008−185426(JP,A)
【文献】
特開2000−008623(JP,A)
【文献】
特開2008−002076(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0169841(US,A1)
【文献】
米国特許第05996711(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 33/00
E02D 35/00
G01N 21/88
E02D 27/00−27/52
E21B 1/00−49/10
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の耐圧版下の地盤に埋設された杭体の調査を行う杭調査方法であって、
前記建物の内部から前記耐圧版に孔を形成する工程と、
前記孔に通したロッドを用いて、前記杭体の近傍の地盤を鉛直方向に掘削する工程と、
前記孔から前記地盤に挿入されたロッドを用いて、前記ロッドと前記杭体の間の地盤を水平方向に掘削する工程と、
掘削された地盤を排出し、前記杭体の側方に調査用空間を形成する工程と、
前記孔から前記調査用空間に挿入されたロッドに取り付けられた調査装置を用いて、前記杭体の側方から前記杭体の調査を行う工程と、
を具備することを特徴とする杭調査方法。
【請求項2】
前記地盤の鉛直方向および水平方向の掘削が、ウォータージェットにより行われることを特徴とする請求項1に記載の杭調査方法。
【請求項3】
前記地盤を鉛直方向に掘削した後に、前記孔から前記地盤に挿入されたロッドから、前記ロッドの周囲および前記ロッドと前記杭体の間を含む、前記杭体の近傍の地盤に固化材を噴出しつつ、前記ロッドを昇降させ、
前記地盤を水平方向に掘削する際に、前記ロッドを昇降しつつ、前記ロッドと前記杭体の間の地盤を前記ロッドから側方へと掘削することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の杭調査方法。
【請求項4】
前記地盤を水平方向に掘削する際に、前記ロッドと前記杭体の間の地盤に対し、前記ロッドから増粘剤を吐出することを特徴とする請求項3記載の杭調査方法。
【請求項5】
圧力機器を前記孔の位置を覆うように前記耐圧版上に配置して前記圧力機器の内部を加圧することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の杭調査方法。
【請求項6】
前記調査装置は撮影装置であり、前記杭体の調査の際に、前記撮影装置によって前記杭体を撮影することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の杭調査方法。
【請求項7】
前記調査装置は非接触式の変位計であり、前記杭体の調査の際に、前記変位計によって前記変位計から前記杭体の表面までの距離を計測することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の杭調査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭体の調査を行う杭調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物を建替えて新設の建物を構築する際、既存建物の杭体を調査し、可能であれば新設の建物に利用することがある。
【0003】
杭体の調査方法として、例えば非特許文献1には、建物外周の敷地から掘削を行い、杭体を露出させ調査を行う方法が記載されている。また特許文献1には、建物外周の敷地から杭頭に向かって地盤を掘削し、杭体に対し接触式の試験を行う方法が記載されている。
【0004】
一方、非特許文献2には、既存建物の内部から杭調査を行う方法として、杭近傍の耐圧版を解体して地盤を掘削し、露出した杭頭で杭調査を行う方法が記載されている。特許文献2は、地震時の杭基礎の破損状況等の点検方法として、フーチング等に予め設けた点検孔を介して、直下にある中空の杭基礎の点検を行うことが記載されている。
【0005】
また、非特許文献3には、既存建物の解体後、杭体が露出している状態で杭調査を行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-271587号公報
【特許文献2】特開平8-302722号公報
【非特許文献1】加倉井正昭:既存杭利用の発想の経緯と再利用における調査内容および調査技術,基礎工,pp.17-22,2011年2月
【非特許文献2】掛谷誠,宮田章:都市部における地上構造物解体中の既存杭調査,日本建築学会大会学術講演梗概集,構造1,pp.469-470,2013年8月
【非特許文献3】江寺雅文:既存基礎再使用における行政の対応,基礎工,pp.10-16,2011年2月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1や特許文献1のように建物外周から調査を行う場合、建物周囲に掘削用の重機を配置するための広い空地が必要である。しかしながら、都市部の建物では空地の確保が困難である。また、建物外周に位置する杭体しか調査できないといった問題もある。
【0008】
非特許文献2や特許文献2の方法では建物内部から杭体の調査ができるので、上記のような問題は生じない。しかしながら、非特許文献2の方法では杭近傍の耐圧版の解体工事が必要であり、杭調査の際に調査員が通行するスペースを確保するために少なくとも2m四方の広さの範囲の解体が必要である。建物を利用している状況でこの広さを確保するためには、騒音、振動などの面から工法が制限される。例えばコアボーリングで孔を空けて耐圧版を少しずつ解体する方法は騒音や振動が小さく好ましいが、一方で工期やコストがかかる。また、コアボーリングにより切り出したコンクリート円柱が多量に発生するため、その置場も確保しなければならない。また特許文献2の方法は、中空の杭基礎の調査にしか適用できないという問題があり、建物の構築時に予め点検孔を設けておく必要もある。
【0009】
既存建物の建替えが前提の場合では、非特許文献3のように既存建物の解体後に調査を行うことが多い。建物の解体後は、杭体を調査するには最適の状態である。しかしながら、既存建物を解体した時には建替え後の新設建物の設計が既に終わっていることがほとんどである。新設建物に既存建物の杭体を利用する場合、その杭体に関しては既存建物の設計図書等を参照して設計を行うので、杭調査の結果が設計図書と異なっていた場合には再設計する必要があり、建替えのスケジュールが大幅に延長してしまう。場合によっては建替え自体を中止せざるを得ない場合もありうるが、すでに既存建物を解体しているので建替えが中止できない。
【0010】
本発明は、前述の問題を鑑みてなされたもので、解体工事を行うことなく、建物の内部から簡易に杭調査ができる杭調査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した課題を解決するための本発明は、
建物の耐圧版下の地盤に埋設された杭体の調査を行う杭調査方法であって、
前記建物の内部から前記耐圧版に孔を形成する工程と、前記孔に通したロッドを用いて、前記
杭体の近傍の地盤を鉛直方向に掘削する工程と、前記孔から前記地盤に挿入されたロッドを用いて、前記ロッドと前記杭体の間の地盤を水平方向に掘削する工程と、掘削された地盤を排出し、前記杭体の
側方に調査用空間を形成する工程と、前記孔から前記調査用空間に挿入されたロッドに取り付けられた調査装置を用いて、
前記杭体の側方から前記杭体の調査を行う工程と、を具備することを特徴とする杭調査方法である。
【0012】
本発明の杭調査方法によれば、建物内部の作業で簡易に杭体の調査ができ、建物周囲の空地が広くなくてよく、建物外周の杭体しか調査できないといったこともない。また、耐圧版上の狭い空間での作業が可能で、孔も小径でよく耐圧版の解体工事が不要である。さらに、既存建物を解体せず調査ができるので、建替えの場合には新設建物の設計時に杭体の調査結果を反映させることができ、建替えの際既存建物の解体後に杭体を調査する場合のように、杭体の状態によって再設計が必要になることはない。また、杭体の調査結果によって既存建物の解体前に建替えを中止することも可能である。
【0013】
前記地盤の鉛直方向および水平方向の掘削が、ウォータージェットにより行われることが望ましい。
これにより、耐圧版の孔から通したロッドを用いて地盤の掘削を好適に行うことができる。
【0014】
前記地盤を鉛直方向に掘削した後に、前記孔から前記地盤に挿入されたロッドから、前記ロッド
の周囲および前記ロッドと前記杭体の間を含む、前記杭体の近傍の地盤に固化材を噴出
しつつ、前記ロッドを昇降させ、前記地盤を水平方向に掘削する際に、前記ロッドを昇降しつつ、前記ロッドと前記杭体の間の地盤を前記ロッドから側方へと掘削することが望ましい。また、前記地盤を水平方向に掘削する際に、前記ロッドと前記杭体の間の地盤に対し、前記ロッドから増粘剤を吐出することが望ましい。
これにより、杭体の調査用空間を形成した際にも地盤の強度が増加し、空間保持能力が確保され、当該空間に地下水が流入するのを防ぐこともできる。また、固化材を噴出した箇所の一部に増粘剤を用いて泥土化することで、この範囲の掘削土を吸い上げて容易に排出できる。
【0015】
圧力機器を前記孔の位置を覆うように前記耐圧版上に配置して前記圧力機器の内部を加圧することが望ましい。
これにより、作業中に地下水等が孔から溢れ出すのを防ぐことができる。
【0016】
前記調査装置は撮影装置であり、前記杭体の調査の際に、前記撮影装置によって前記杭体を撮影することが望ましい。また、前記調査装置は非接触式の変位計であり、前記杭体の調査の際に、前記変位計によって前記変位計から前記杭体の表面までの距離を計測することも望ましい。
杭調査としては、ロッドに取り付けた撮影装置から得られる静止画や動画により目視調査を行ったり、同じくロッドに取り付けた非接触式の変位計によって杭体の形状等の詳細な調査を行ったりすることが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、解体工事を行うことなく、建物の内部から簡易に杭調査ができる杭調査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】小径孔11aの形成と地盤20の鉛直方向の掘削を示す図
【
図8】調査用空間23の埋戻しと小径孔11aの孔埋めを示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
(1.既存建物10)
図1は、本発明の実施形態に係る杭調査方法の対象となる既存建物10の一部を示す図である。既存建物10は、地盤20に埋設された杭体12で上方のパイルキャップ13を支持し、その横に耐圧版11やスラブ14等を設けたものである。なお耐圧版11は鉄筋コンクリート製であり、杭体12はパイルキャップ13と対応する平面位置に設けられる。
【0021】
本実施形態の杭調査方法は、既存建物10を解体せずに、耐圧版11上の作業空間15での作業により杭体12の調査を行うものである。
【0022】
(2.杭調査方法)
次に、本実施形態の杭調査方法の手順について説明する。
図2は杭調査方法の手順を示すフローチャートである。なお、本実施形態では、事前調査や既存建物の設計図書等により、地盤20の土質や地下水位等の情報を予め入手しているものとする。
【0023】
本実施形態では、地盤20の地下水位が耐圧版11よりも高い場合(S1;「YES」)、まず
図3(a)に示すように、既存建物10の耐圧版11上に圧力機器2を設置し(S2)、筒状のロッドを昇降可能に保持するための昇降機4を耐圧版11に固定する(S3)。
図3(a)の14aは、調査員の出入りのための開口で、マンホール等である。
【0024】
圧力機器2は、後述する小径孔の形成位置を覆うように配置される。圧力機器2は、外殻体の内部空間2aを加圧可能なものである。当該外殻体にはロッドを貫通させるための貫通孔も設けられる。圧力機器2は、小径孔上の空間を高圧とし、小径孔を介した地下水等の溢れ出しを防ぐために設けられる。
【0025】
続いて、
図3(b)に示すように、加圧した圧力機器2の内部で、昇降機4で保持したロッド3の先端のノズルからウォータージェットを行うことで、耐圧版11を穿孔し小径孔11aを形成する(S4)。小径孔11aは、平面において杭体12の近傍となる位置で、耐圧版11内の鉄筋を避けて形成される。なお、小径孔11aはコアボーリングによって形成することも可能である。やむを得ない場合は耐圧版11内の鉄筋を切断することもある。
【0026】
一方、地盤20の地下水位が耐圧版11以下である場合(S1;「NO」)には、小径孔11aの形成時に地下水の溢れ出しの恐れが小さい。従って、まず昇降機4を耐圧版11に固定し(S2’)、当該昇降機4で保持したロッドを用いて前記と同様に小径孔11aを形成できる(S3’)。
【0027】
なお、本実施形態では、この後前記と同様に圧力機器2を設置する(S4’)。これは、後述する地盤20の掘削時にウォータージェットによる水が逆流して溢れだすのを防ぐためである。
【0028】
以上のようにして耐圧版11に小径孔11aを形成した後、ロッド3の先端のノズルを地盤掘削用のノズル装置に付け替え、圧力機器2の内部からロッド3を小径孔11aに通し、
図3(c)に示すようにロッド3のノズル装置の先端から下方にウォータージェットを行いつつロッド3を下降させる。これにより、地盤20を鉛直方向の下方へと掘削する(S5)。
【0029】
なお、本実施形態では上記のロッド3を含め所定長の複数のロッド3を用意し、ロッド3の下降に伴って当該ロッド3の上端に新たなロッド3を継ぎ足して延長してゆく。図示は省略したが、これらのロッド3の内部には、ウォータージェット用に水を供給するホースや後述する固化材を供給するためのホース、その他必要に応じた各種のホースが通されている。
【0030】
本実施形態では、砂質土など地盤20の粘性が低い場合(S6;「砂質土など粘性の低いもの」)、
図4(a)、(b)に示すように、地盤20に挿入されたロッド3のノズル装置に設けた孔(不図示)から側方にセメントミルク等の固化材を噴出しつつ、ロッド3を回転、昇降させる(S7)。なお、
図4(a)は既存建物10の一部を
図1や
図3と同様に示したものであり、
図4(b)は
図4(a)の線A−Aによる断面図である。以降の図でも同様である。
【0031】
これにより、杭体12の近傍の範囲21の地盤20に固化材が噴出され、地盤20の固化により地盤改良されることとなる。この範囲21はロッド3の位置を中心とし、杭体12の表面まで達する。なお、地下水位が耐圧版11の高さまで達している場合などでは、ロッド3に設けたセンサ(不図示)により上記範囲21への地下水の流入を検知し、地下水が流入した場合には更なる固化材の噴出を行い、遮水性等を向上させることも可能である。
【0032】
本実施形態では、上記した範囲21の地盤20が固化する前に、
図5(a)、(b)に示すように、ロッド3の昇降と必要な範囲の回転を行いつつ、ノズル装置に設けた孔(不図示)から、ロッド3と杭体12の間の範囲22に対し、必要に応じて増粘剤を側方に吐出する(S8)。これと併せて、ノズル装置に設けた別の孔(不図示)から側方へウォータージェットを行い、上記した範囲22を水平方向に掘削する(S9)。
【0033】
これにより、前記した範囲21のうちロッド3と杭体12の間の範囲22が泥土化し、この範囲22の掘削土を排出することで、
図6(a)、(b)に示すように杭体12の側方に杭体12の調査用空間23が形成される(S10)。掘削土の排出方法は様々であるが、例えばロッド3を引き上げて回収した後、小径孔11aからホースを通し、ポンプを用いてホースから掘削土を吸い上げることができる。
【0034】
一方、粘性土など地盤20の粘性が高い場合(S6;「粘性土など粘性の高いもの」)は、上記の地盤改良(S7)および増粘剤の吐出(S8)を省略し、直接、上記した範囲22の地盤20を、前記と同様にして水平方向に掘削できる(S9)。掘削土を排出することで、杭体12の側方に調査用空間23が形成される(S10)。
【0035】
以上のようにして調査用空間23を形成した後、
図7(a)、(b)に示すように、カメラ等の撮影装置8をロッド3に取付け、ロッド3を小径孔11aから調査用空間23に通し、これを昇降、回転させつつ、撮影装置8により杭体12の表面を静止画あるいは動画にて撮影する。この画像から、ひび割れや施工不良等の目視調査を行うことができる。
【0036】
また、撮影装置8をレーザー変位計など非接触式の変位計に付け替えて、同じく調査用空間23にてロッド3を昇降、回転させつつ変位計から杭体12の表面までの距離を計測する。これにより、杭径や杭心位置など、杭体12の形状や位置等を詳細に測定する。以上により、杭体12の調査が行われる(S11)。
【0037】
杭調査の終了後、
図8(a)、(b)に示すように、圧力機器2、ロッド3、昇降機4等を取り外し、調査用空間23を埋戻土24で埋め戻し、耐圧版11の小径孔11aをモルタルやコンクリート等の孔埋材25で埋める(S12)。埋戻土24には、例えば先程排出した掘削土を用いる。これにより、杭調査前の状態に容易に復帰できる。なお、圧力機器2の内部は、以上に説明した手順のうち地下水等の溢れ出しの恐れが無くなった適当な段階で常圧に戻しておく。あるいはその段階で取り外すこともできる。
【0038】
なお、既存建物10によっては、例えば杭体12の径が小さい場合等で、耐圧版11の小径孔11aと杭体12の間の平面距離が大きくならざるを得ない場合がある。
【0039】
このとき、S7においてセメントミルク等の固化材を噴出する場合は、
図4(a)、(b)で説明したように固化材の噴出を行うのに加え、
図9(a)、(b)に示すように、ノズル装置に設けた孔から側方の杭体12に向かって高圧でセメントミルク等の固化材を噴出するとよい。
【0040】
これにより、
図4(a)、(b)で説明した方法で固化材が噴出されるロッド3の周囲の範囲21aと、上記した方法で固化材が噴出されるロッド3から杭体12に向かう放射状の範囲21bの双方にて地盤改良を行うことができる。
【0041】
この後は、前記と同様の手順となる。すなわち、ロッド3と杭体12の間の範囲に対し増粘剤の吐出(S8)とウォータージェットによる水平方向の掘削を行い(S9)、泥土状の掘削土を排出することで、
図10(a)、(b)に示すように杭体12の側方に調査用空間23が形成できる(S10)。
【0042】
以上説明したように、本実施形態の杭調査方法によれば、建物内部の作業で簡易に杭体12の調査ができ、建物周囲の空地が広くなくてよく、建物外周の杭体しか調査できないといったこともない。また、圧版11上の狭い空間での作業が可能で、小径孔11aを空けるだけで済むので耐圧版11の解体工事も不要である。さらに、既存建物10を解体せずに調査ができるので、建替えの場合には新設建物の設計時に杭体12の調査結果を反映させることができ、建替えの際既存建物の解体後に杭体を調査する場合のように、杭体12の状態によって再設計が必要になることはない。また、杭体12の調査結果によって既存建物10の解体前に建替を中止することも可能である。
【0043】
また、本実施形態ではウォータージェットにより地盤20の掘削を行うことで、小径孔11aに通したロッド3を用いて地盤20の掘削を好適に行える。
【0044】
さらに、前記の地盤改良を行う場合は、杭体12の調査用空間23を形成した際にも地盤の強度が増加し、空間保持能力が確保され、地下水位が耐圧版11の位置に達している場合には、調査用空間23に地下水が流入するのを防ぐこともできる。なお、本実施形態では事前に得た情報から粘性の高低を判断しているが、例えばS5でウォータージェットにより地盤20を鉛直方向に掘削した後、ロッド3を引き上げた際に周囲の地盤20が崩れれば、粘性が低いと判断することも可能である。
【0045】
さらに、本実施形態では、固化材を噴出した箇所の一部に増粘剤を用いて泥土化することで、この範囲の掘削土をポンプ等により吸い上げて容易に排出できる。
【0046】
さらに、本実施形態では小径孔11aの位置を覆うように設けた圧力機器2により、作業中に地下水やウォータージェットの水等が小径孔11aから溢れ出すのを防ぐことができる。ただし、これらの溢れ出しの心配がない場合は、圧力機器2を省略することも可能である。
【0047】
また、本実施形態では、ロッド3に取り付けた撮影装置8や非接触式の変位計を用いることで、杭調査が好適に行える。しかしながら、杭調査はこれに限らず、ロッド3に種々の調査装置を取付けて種々の杭調査が可能である。例えば、杭体弾性波速度や鉄筋配筋状況の調査も行える。
【0048】
なお、本実施形態では、既存建物10の杭調査の例を示したが、杭調査の対象はこれに限ることはなく、例えば新設の建物につき、杭基礎の施工が終わり、上部構造を建設している状態で杭体の調査を行い、耐震性等の調査を行うことも可能である。また、地震後に杭の損傷が懸念される場合に杭の調査を行うことも可能である。
【0049】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0050】
2;圧力機器
3;ロッド
4;昇降機
5;ノズル装置
8;撮影装置
10;既存建物
11;耐圧版
11;小径孔
12;杭体
13;パイルキャップ
14;スラブ
14a;開口
15;作業空間
20;地盤
23;調査用空間
24;埋戻土
25;孔埋材