【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂を含浸させた強化連続繊維束を互いに離間した2つの支持部材で支持しつつ両支持部材間を移動中に前記熱可塑性樹脂を固化させる際、前記支持部材間の距離L[mm]を下式で算出される距離にしたことを特徴とする一方向性繊維強化テープ状複合材の製造方法である。式中のL
idealは理想値、200mmは、実験値より、経験則
で定義された条件である。
0.9×L
ideal[mm]<L[mm]<1.1×L
ideal[mm]…式(1)
L
ideal[mm]=[200mm]×{(総フィラメント数)/[(T+W)/(単糸直径)]]×(Vf/Vr)
[総フィラメント数]:使用する強化繊維のフィラメント本数
[T]:製造する一方向性プリプレグの厚み[mm]
[W]:製造する一方向性プリプレグの幅[mm]
[単糸直径]:使用する強化繊維のフィラメントの直径[mm]
[Vf]:製造する一方向性プリプレグの全体積中に対して強化繊維の占める体積の割合[%]
[Vr]:製造する一方向性プリプレグの全体積中に対して熱可塑性樹脂の占める体積の割合[%]
【0012】
前記熱可塑性樹脂は、開繊された強化連続繊維束に溶剤溶解樹脂浴(ウェット法)又は溶融樹脂浴(ホットメルト法)にて含浸せしめる。必要に応じ、当該含浸直後の強化連続繊維束に所定圧で絞りをかけるとよい。
【0013】
本発明は、望ましくは所定の開繊度(目標製品幅の1.1〜1.30倍幅とし、目標製品厚の0.76倍〜0.91倍厚)で開繊された強化連続繊維束に熱可塑性樹脂を溶剤溶解樹脂浴又は溶融樹脂浴にて含浸せしめ、浴直後に所定圧で絞りを掛ける。その後、この樹脂で濡れた強化連続繊維束に所定張力を掛けながら、熱可塑性樹脂を固化させる。
【0014】
プリプレグの製造においては、強化連続繊維束を均一かつ薄く開繊することが樹脂含浸性を高めるために重要である。このため、太い強化連続繊維束又はフィラメント数の多い強化連続繊維束を、均一かつ薄く開繊した強化連続繊維束シートを作り、これを溶剤溶解樹脂浴又は溶融樹脂浴にてプリプレグ化する。開繊の程度(開繊度)は、用いる強化連続繊維束を、目標製品幅の1.1〜1.30倍幅とし、目標製品厚の0.76倍〜0.91倍厚とする。
【0015】
樹脂で濡れた強化連続繊維束の樹脂固化の際、強化連続繊維束の幅と厚みに対応して適正な支点距離と適正な張力を保持し、強化連続繊維束を搬送しながら固化させる。この固化により低ボイド率の一方向性繊維強化テープ状複合材を得る。
以下、本発明のテープ状複合材の製造方法について説明する。
【0016】
(強化連続繊維束)
本発明で使用する強化連続繊維束は、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。また、これら強化繊維は数千本以上のフィラメントで構成されるものが好ましい。また、使用する強化繊維は一種だけでなく、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0017】
(予備含浸)
溶剤溶解樹脂浴の場合、浴直前の強化連続繊維束に浴と同じ熱可塑性樹脂の溶液を片側からノズルで塗布し、熱可塑性樹脂の溶液によって強化連続繊維束に含まれた樹脂ボイドを強化連続繊維束の反対側に強制排除する。この状態で溶剤溶解樹脂浴に通すことで強化連続繊維束内をボイドなく完全に熱可塑性樹脂の溶液で満たすことができる。
【0018】
(溶剤溶解樹脂浴)
溶剤溶解樹脂浴(ウェット法)に使用する樹脂は、加熱溶融した場合に、10mPa・s〜3500mPa・sの粘度となる熱可塑性樹脂が好ましい。この熱可塑性樹脂の例としては、特に制限はないが、耐衝撃性に優れ、かつ、成形が容易である熱可塑性樹脂が好ましい。
【0019】
そのような熱可塑性樹脂としては、例えばナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン46に代表されるポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレ−トやポリブチレンテレフタレ−トなどのポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエ−テルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエ−テルイミド樹脂、ポリカ−ボネ−ト樹脂、熱硬化性樹脂を変性させ熱可塑性を有する樹脂や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂等が挙げられる。
【0020】
また、更に耐衝撃性向上のために、上記樹脂にエラストマー、もしくは、ゴム成分を添加した樹脂であっても良い。また、溶剤に可溶化する熱可塑性を有する樹脂も好適である。樹脂を溶かす溶剤は特に制限はないが、例えばNMP(N‐メチル‐2‐ピロリドン)を使用することができる。
【0021】
なお、溶剤溶解樹脂浴に代えて溶融樹脂含浸浴(ホットメルト法又はドライ法)を使用することも可能であり、この溶融樹脂含浸浴でも前記と同じ熱可塑性樹脂を使用することができる。
【0022】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量Aは、良好な含浸性と固化後の低ボイド化を担保するために所定の低分子量A(A=1000〜28000)とするのが望ましい。例えば、分子量A=0.1C〜0.7Cとする(C:ランダムシートの分子量)。そして、固化後の強度を担保するために後述する乾燥・固化工程又は冷却・固化工程で重量平均分子量が少なくとも分子量B[B=10000〜30000]になるまで重縮合させるのが望ましい。
【0023】
溶剤溶解樹脂浴させる強化連続繊維束は、拡繊または開繊したものを用いるか、もしくは、拡繊または開繊しながら樹脂含浸する事が好ましい。溶剤溶解樹脂浴させる際の強化連続繊維束の厚みは、10μm〜50μmにするのが望ましい。
【0024】
拡繊または開繊しながら樹脂含浸する方法でも、用いる強化連続繊維束を上記幅・厚みにする事で含浸工程を単純・短距離化する事が出来る。すなわち、強化連続繊維束10に対して熱可塑性樹脂をボイド無く十分に含浸させるには、従来のように強化連続繊維束の厚みが100μm以上であると、強化連続繊維束を樹脂浴に数m/分以下の引取速度で通す必要がある。それ以上高速で樹脂浴を通過させると熱可塑性樹脂の含浸不良となる。したがって、テープ状複合材の樹脂含浸性がその生産性の律速となる。
【0025】
これに対して本発明は、強化連続繊維束の厚みが前述のように従来の半分以下であり、溶剤溶解樹脂浴部における樹脂含浸性を高めることができるので当該樹脂含浸性が生産性の律速となることがなくなるという大きな利点がある。したがって、良好な含浸性を維持した状態で引取速度1〜15m/分が可能であり、含浸性と生産性を両立させることができる。
【0026】
(絞り)
溶剤溶解樹脂浴の液面から出た直後の強化連続繊維束をローラによる絞りで脱液する。ローラに掛ける絞り圧Pは、0.05MPa〜0.3MPa(より好ましくは0.1MPa〜0.25MPa)である。これにより、ボイド除去と樹脂量制御を行う。当該樹脂量は、一方向性繊維強化テープ状複合材中の強化繊維体積含有率VfがVf=30〜65%になるように制御する。体積含有率が65%より高くなると繊維相互の交絡箇所(未含浸部分)が増えてボイドレス化が困難になる。また体積含有率が30%未満では複合材の強度を確保するのが困難になる。(他の範囲:10%〜70%、30%〜55%)
【0027】
(固化工程)
固化工程は使用する樹脂の状態により固化方法を適宜選択できる。溶剤含浸法で含浸した樹脂を固化させる場合には固化工程で加熱部としての送風機付乾燥炉を用いる。乾燥炉温度は溶剤の蒸発温度以上とし、発火温度に対して2/3以下の温度とし、加温送風する事が好ましい。
【0028】
高融点樹脂を高沸点溶剤に溶解させて使用する場合は、加熱から溶剤蒸発、凝固工程の雰囲気温度の変化による析出を抑制する為、乾燥炉自体を保温槽内で行い、蒸気を吸引させる等の方法も好ましい。または、低沸点溶剤を混入させ、蒸発量を増加させる方法も使用できる。
【0029】
また、加熱後の溶融含浸法(ホットメルト法又はドライ法)のようにペレット状、フイルム状、パウダー状の樹脂を加熱溶融して強化連続繊維束に含浸溶融させる場合は固化工程で冷却器を用いる。
【0030】
固化工程に使用する乾燥炉又は冷却器は縦型・横型のいずれでも良いが、未固化の樹脂が乾燥・固化中に垂れ落ちることで強化連続繊維束と樹脂の混合状態が乱れるのを防ぐには縦型が好ましい。
【0031】
乾燥炉又は冷却器の前後に支持部材としてのローラが配設され、乾燥炉・冷却器において前後のローラ間を樹脂含浸した強化連続繊維束が空走する。
【0032】
(ローラ間支点距離と張力)
本発明では、固化工程のローラ間支点距離L[mm]を従来よりも大幅に短くする。支点距離Lは以下の式(1)で算出することができる。L
idealは理想的支点距離であり、L
idealを基準として±10%の範囲の支点距離が望ましい。式中の200mmは、実験値よ
り、経験則で定義された条件である。
0.9×L
ideal[mm]<L[mm]<1.1×L
ideal[mm] …式(1)
L
ideal[mm]=[200mm]×{(総フィラメント数)/[(T+W)/(単糸直径)]}×(Vf/Vr)
[総フィラメント数]:使用する強化繊維のフィラメント本数
[T]:製造する一方向性プリプレグの厚み[mm]
[W]:製造する一方向性プリプレグの幅[mm]
[単糸直径]:使用する強化繊維のフィラメントの直径[mm]
[Vf]:製造する一方向性プリプレグの全体積中に対して強化繊維の占める体積の割合[%]
[Vr]:製造する一方向性プリプレグの全体積中に対して熱可塑性樹脂の占める体積の割合[%]
また、強化連続繊維束を乾燥・固化する際の強化連続繊維束の張力は、0.1cN/dtex〜0.25cN/dtexにする。
【0033】
従来、固化時のローラ間支点距離は前記L
idealの二倍程度であり、また張力は本発明の10倍程度である。すなわち本発明では樹脂含浸強化連続繊維束を従来よりも大幅に短スパン・低張力で固化させる。このように短スパン・低張力で固化させることで、溶剤含浸した繊維束の乾燥固化又は溶融含浸した繊維束の冷却固化に伴う含浸樹脂の収縮により繊維の方向性が乱れたり、割れが生じたりするのを防止することができる。
【0034】
また、単糸直径、Vf及びVrは一定として、テープが厚く(総フィラメント数はその分増加)なるとこのローラ間支点距離Lは長くなり、テープが薄く(総フィラメント数はその分減少)なると支点距離Lは短くなる。また、この時のテープに含まれる樹脂と繊維の体積割合に於いて、他のパラメータは一定にして繊維量が大きい場合、樹脂の凝集による体積収縮が生じず、支点距離Lは、長くなり、 樹脂量が多い場合、支点距離Lは短くなる。
【0035】
固化工程において、強化連続繊維束に含浸された樹脂(低分子量A=3500〜25000)を、重量平均分子量が少なくとも分子量B[高分子量B=10000〜30000]になるまで重縮合させるのが望ましい。これにより、ボイドが少なくかつ厚みのバラツキも少ない、均一性と表面平滑性に優れたテープ状複合材が得られる。このテープ状複合材は、テープ状のまま単層又は一方向性を維持した積層状にして様々な用途に使用可能である。
【0036】
また、得られたテープ状複合材を短く切断して多数の短冊状片とし、この多数の短冊状片を疑似等方性となるように配向・積層して使用することもできる。積層体は加熱することで熱可塑性樹脂を所望の分子量C[C=35000以上]になるまで重合反応させるのが望ましい。この重合反応により積層体の高強度化が可能である。当該積層体は、加熱軟化させた状態でプレス機を使用して所望形状に賦形することが可能である。この賦形成形により積層体の層間脱気も同時に行うことができる。