(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凝集細胞と前記単一の上皮細胞とを弁別する工程では、前記蛍光信号の波形の差分総和をピーク値で除した第1の値、及び、前記散乱光信号の波形の差分総和をピーク値で除した第2の値に基づいて、前記凝集細胞と前記単一の上皮細胞を弁別する、請求項1に記載の細胞分析方法。
前記凝集細胞と前記単一の上皮細胞とを弁別する工程では、前記第1の値が下限値および上限値を含む第1範囲内にあり、かつ、前記第2の値が下限値および上限値を含む第2範囲内にある細胞を単一の上皮細胞として弁別する、請求項2に記載の細胞分析方法。
前記細胞の癌化に関する情報を出力する工程では、前記第1データおよび前記第2データが前記所定の条件に合致する細胞群に含まれるそれぞれの細胞から得られた蛍光信号に基づいて前記細胞の癌化に関する情報を出力する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞分析方法。
前記所定の条件は、表皮細胞、中層細胞、傍基底細胞および基底細胞から選択される細胞を抽出するための条件である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の細胞分析方法。
前記制御部は、前記蛍光信号の波形の差分総和をピーク値で除した第1の値、及び、前記散乱光信号の波形の差分総和をピーク値で除した第2の値に基づいて、前記凝集細胞と前記単一の上皮細胞を弁別する、請求項11に記載の細胞分析装置。
前記制御部は、前記第1の値が下限値および上限値を含む第1範囲内にあり、かつ、前記第2の値が、下限値および上限値を含む第2範囲内にある細胞を単一の上皮細胞として弁別する、請求項12に記載の細胞分析装置。
前記検出部は、前記測定試料を流すためのフローセルと、前記フローセルを流れる前記測定試料に光を照射するための光源と、前記測定試料から蛍光および散乱光を受光する受光部とを含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の細胞分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施の形態に係る癌化情報提供装置1について、図面を参照して説明する。
【0013】
癌化情報提供装置1は、患者(被検者)から採取した細胞(生体試料)を含む測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料にレーザ光を照射する。そして、測定試料からの光(前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光)を検出してその光信号を分析することにより、細胞に癌化またはその過程にある細胞(以下、これらをまとめて「癌化細胞」ともいう)が含まれているか否かを判定する。具体的には、患者から採取した子宮頸部の上皮細胞を用いて子宮頸癌をスクリーニングする場合に、癌化情報提供装置1が用いられる。
【0014】
図1は、癌化情報提供装置1の外観の構成を模式的に示す斜視図である。
【0015】
癌化情報提供装置1は、患者から採取した生体試料の測定等を行う測定装置2と、この測定装置2に接続され、測定結果の分析や表示(出力)等を行うデータ処理装置3とを備えている。測定装置2の前面には、メタノールを主成分とする保存液と患者から採取した生体試料との混合液(試料)を収容する生体容器4(
図2参照)を複数セットするための検体セット部2aが設置されている。データ処理装置3は、入力部31と表示部32を備えている。
【0016】
図2は、測定装置2の内部の構成を模式的に示す平面図である。
【0017】
検体セット部2aは、生体容器4が複数セットされたラック4aを、検体ピペット部11による試料の吸引位置まで順次搬送する。
【0018】
検体ピペット部11は、生体容器4内の試料を第1分散部12に移送する。また、検体ピペット部11は、第1分散部12内の試料を、副検出部13と弁別・置換部14に移送する。また、検体ピペット部11は、弁別・置換部14において濃縮された濃縮液を測定試料容器5に供給する。検体ピペット部11は、第1分散部12の試料収容部12aと、副検出部13の試料取込部13aと、弁別・置換部14と、試料受渡部11bに位置付けられた測定試料容器5の上方位置へ移動可能に構成されている。
【0019】
また、検体ピペット部11は、試料の吸引および吐出を行うピペット11aを有し、図示しない検体定量部(定量シリンダ、定量シリンダ内のピストンを駆動するモータ等)により試料を定量して所定量の試料を上記した各部に供給することが可能なように構成されている。
【0020】
第1分散部12は、試料に含まれる凝集細胞を分散させるための第1分散処理を試料に実行する。具体的には、第1分散処理は、凝集細胞にせん断力を付与して分散するせん断力付与処理である。第1分散部12は、試料を収容可能な試料収容部12aを含み、試料収容部12aに供給された試料中の凝集細胞に対して機械的にせん断力を付与するように構成されている。
【0021】
副検出部13は、主検出部22による本測定の前に試料の濃度測定を行うものである。なお、副検出部13は、後述する主検出部22とほぼ同じ構成のフローサイトメータ40(
図3(a)参照)を採用している。
【0022】
弁別・置換部14は、第1分散部12による第1分散処理後の試料を受け入れ、試料に含まれるメタノールを主成分とする保存液を、希釈液に置換する。また、弁別・置換部14は、試料に含まれる測定対象細胞(子宮頸部の上皮細胞、腺細胞)と、それ以外の細胞(赤血球、白血球、細菌など)や夾雑物とを弁別する。また、弁別・置換部14は、主検出部22による測定に必要な細胞測定数を得るために、試料に含有される測定対象細胞の濃縮を行う。なお、弁別・置換部14は、処理の効率化のために2つ設けられている。
【0023】
容器移送部15は、反応部18にセットされた測定試料容器5を、はさみ状の把持部15aにより把持して、試料受渡部11bと、第2分散部16と、液体除去部17と、反応部18に移送する。容器移送部15は、所定の円周状軌跡に沿って把持部15aを移動させるように構成されている。また、容器移送部15は、把持部15aを上下方向に移動させることが可能に構成されている。なお、試料受渡部11bと、第2分散部16と、液体除去部17と、反応部18は、この円周状軌跡上に配置されている。これにより、反応部18にセットされた測定試料容器5を、容器移送部15の把持部15aにより把持して、円周状軌跡上の各部に移送することが可能となる。
【0024】
第2分散部16は、第1分散部12による第1分散処理が実行された試料に対して、第1分散処理とは異なる第2分散処理を実行する。具体的には、第2分散部16は、第1分散部12による第1分散処理が実行され、弁別・置換部14において濃縮された(測定対象細胞の濃度が高められた)試料に超音波振動を付与するように構成されている。第2分散部16により、第1分散処理の後に残存する凝集細胞が単一細胞に分散される。
【0025】
液体除去部17は、第2分散部16による第2分散処理の後、測定試料容器5の外表面に付着した液分を除去(水切り)する。第2分散処理は、測定試料容器5が液体中に漬けられた状態で実行される。液体除去部17は、測定試料容器5の外表面に空気流を供給することにより、測定試料容器5の外表面に付着した水滴を除去するように構成されている。これにより、測定試料容器5が反応部18などの各部にセットされたときに、液体が各部に付着するのが防止される。
【0026】
反応部18は、測定試料容器5内の試料と第1試薬添加部19と第2試薬添加部20により添加される試薬との反応を促進させる。反応部18は、図示しない駆動部により回転可能に構成された円形の回転テーブル18aを備えている。回転テーブル18aの外周縁部には、測定試料容器5をセット可能な複数の保持部18bが設けられている。この保持部18bに、測定試料容器5がセットされる。また、回転テーブル18aの回転による保持部18bの軌跡と、容器移送部15の把持部15aの円周状軌跡とは所定位置で交差しており、この交差位置で容器移送部15が測定試料容器5を保持部18bにセットすることが可能なように構成されている。また、反応部18は、保持部18bにセットされた測定試料容器5を所定温度(約37度)に加温して、試料と試薬との反応を促進させる。
【0027】
第1試薬添加部19と第2試薬添加部20は、保持部18bにセットされた測定試料容器5内に試薬を供給する。第1試薬添加部19と第2試薬添加部20は、回転テーブル18aの周縁部近傍の位置に設置され、それぞれ、回転テーブル18aにセットされた測定試料容器5の上方の位置P1、P2まで移動可能な供給部19a、20aを有する。これにより、回転テーブル18aにより位置P1、P2に測定試料容器5が搬送されたときに、測定試料容器5内に供給部19a、20aから所定量の試薬が添加することが可能となる。
【0028】
第1試薬添加部19により添加される試薬は、細胞にRNA除去処理を行うためのRNaseであり、第2試薬添加部20により添加される試薬は、細胞にDNA染色処理を行うための染色液である。RNA除去処理により、細胞中のRNAが分解され、細胞核のDNAのみを測定することが可能となる。DNA染色処理は、色素を含む蛍光染色液であるヨウ化プロピジウム(PI)により行われ、DNA染色処理により、細胞内の核に選択的に染色が施される。これにより、核からの蛍光が検出可能となる。
【0029】
試料吸引部21は、保持部18bにセットされた測定試料容器5内の試料(測定試料)を吸引して、吸引した測定試料を主検出部22に移送する。試料吸引部21は、回転テーブル18aの周縁部近傍の位置に設置され、回転テーブル18aにセットされた測定試料容器5の上方の位置P3まで移動可能なピペット21aを有する。これにより、回転テーブル18aにより位置P3に測定試料容器5が搬送されたときに、測定試料容器5内の測定試料を吸引することが可能となる。また、試料吸引部21は、図示しない流路を介して、主検出部22のフローセル43(
図3(a)参照)に接続されており、ピペット21aにより吸引された測定試料を主検出部22のフローセル43に供給することが可能となるよう構成されている。
【0030】
主検出部22は、測定試料からの光(前方散乱光、側方散乱光、側方蛍光)を検出するためのフローサイトメータ40を備えており、各光に基づく信号を後段の回路に出力する。なお、フローサイトメータ40については、追って、
図3(a)、(b)を参照して説明する。
【0031】
容器洗浄部23は、試料吸引部21により測定試料が主検出部22に供給された後の測定試料容器5の内部を洗浄する。容器洗浄部23は、回転テーブル18aの保持部18bに保持された測定試料容器5内に洗浄液を吐出することにより、測定試料容器5の内部を洗浄するように構成されている。これにより、その後の測定処理において同じ測定試料容器5を用いた場合に、他の試料とのコンタミネーションを抑制することが可能となる。
【0032】
図3(a)は、主検出部22のフローサイトメータ40の構成を示す図である。
【0033】
半導体レーザ41から出射されたレーザ光は、複数のレンズを含むレンズ系42によりフローセル43を流れる測定試料に集光される。フローセル43には、上述したように、試料吸引部21のピペット21aにより吸引された試料が供給される。
【0034】
レンズ系42は、
図3(b)に示すように、半導体レーザ41側(
図3(a)、(b)の左側)から順に、コリメータレンズ42aと、シリンダレンズ系(平凸シリンダレンズ42b+両凹シリンダレンズ42c)と、コンデンサレンズ系(コンデンサレンズ42d+コンデンサレンズ42e)から構成されている。
【0035】
集光レンズ44は、測定試料中の細胞の前方散乱光を、フォトダイオード45からなる散乱光検出器に集光する。側方用の集光レンズ46は、測定対象細胞およびこの細胞中の核の側方散乱光と側方蛍光とを集光し、ダイクロイックミラー47へと導く。ダイクロイックミラー47は、側方散乱光をフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)48へ反射させるとともに、側方蛍光をフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)49の方へ透過させる。こうして、側方散乱光はフォトマルチプライヤ48に集光され、側方蛍光はフォトマルチプライヤ49に集光される。これらの光は、測定試料中の細胞や核の特徴を反映したものとなっている。
【0036】
フォトダイオード45とフォトマルチプライヤ48、49は、受光した光信号を電気信号に変換して、それぞれ、前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)を出力する。これらの出力信号は図示しないプリアンプにより増幅され、測定装置2の信号処理部24(
図4参照)に出力される。
【0037】
図4は、測定装置2の構成を示す図である。
【0038】
測定装置2は、
図2に示した主検出部22と、副検出部13と、上述したように試料に対する成分調整を自動的に行うための各部を含む調製デバイス部29を備えている。また、測定装置2は、信号処理部24と、測定制御部25と、I/Oインターフェース26と、信号処理部27と、調製制御部28と、を備えている。
【0039】
主検出部22は、上述したように、
図3(a)に示したフローサイトメータ40を備えており、測定試料から前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)を出力する。信号処理部24は、主検出部22からの出力信号に対して必要な信号処理を行う信号処理回路からなり、主検出部22から出力された各信号FSC、SSC、SFLを処理し、測定制御部25に出力する。
【0040】
測定制御部25は、マイクロプロセッサ251と記憶部252を含んでいる。マイクロプロセッサ251は、I/Oインターフェース26を介して、データ処理装置3と、調製制御部28のマイクロプロセッサ281に接続されている。これにより、マイクロプロセッサ251は、データ処理装置3と、調製制御部28のマイクロプロセッサ281との間で各種データを送受信することが可能となる。記憶部252は、主検出部22などの制御プログラムやデータを格納するROM、および、RAMなどからなる。
【0041】
測定装置2の信号処理部24で処理された各信号FSC、SSC、SFLは、マイクロプロセッサ251によって、I/Oインターフェース26からデータ処理装置3に送信される。
【0042】
副検出部13は、主検出部22とほぼ同じ構成のフローサイトメータ40を採用しているので、構成については説明を省略する。副検出部13は、主検出部22による本測定の前に試料の濃度測定を行うものであるので、副検出部13は、その細胞数を計数するための信号を出力できれば足りる。すなわち、副検出部13は、前方散乱光信号(FSC)を取得できれば足りる。信号処理部27は、副検出部13からの出力信号に対して必要な信号処理を行う信号処理回路からなり、副検出部13から出力された前方散乱信号FSCを処理し、調製制御部28に出力する。
【0043】
調製制御部28は、マイクロプロセッサ281と、記憶部282と、センサドライバ283と、駆動部ドライバ284を含んでいる。マイクロプロセッサ281は、I/Oインターフェース26を介して測定制御部25のマイクロプロセッサ251に接続されている。これにより、マイクロプロセッサ281は、測定制御部25のマイクロプロセッサ251との間で各種データを送受信することが可能となる。
【0044】
記憶部282は、副検出部13や調製デバイス部29などを制御するための制御プログラムなどを格納するROM、および、RAMなどからなる。調整デバイス部29は、
図2に示した検体セット部2aと、検体ピペット部11と、第1分散部12と、弁別・置換部14と、容器移送部15と、第2分散部16と、液体除去部17と、反応部18と、第1試薬添加部19と、第2試薬添加部20と、試料吸引部21と、容器洗浄部23を含んでいる。
【0045】
また、マイクロプロセッサ281は、センサドライバ283または駆動部ドライバ284を介して、調製デバイス部29の各部のセンサ類や駆動モータと接続されている。これにより、マイクロプロセッサ281は、センサからの検知信号に基づいて制御プログラムを実行し、駆動モータの動作を制御する。
【0046】
図5は、データ処理装置3の構成を示す図である。
【0047】
データ処理装置3は、パーソナルコンピュータからなり、本体30と、入力部31と、表示部32から構成されている。本体30は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、入出力インターフェース306と、画像出力インターフェース307と、通信インターフェース308を有する。
【0048】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302およびハードディスク304に記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。
【0049】
ハードディスク304には、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムなど、CPU301に実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。具体的に、ハードディスク304には、測定装置2から送信された測定結果を分析して、生成した分析結果に基づいて表示部32に表示を行うプログラム等がインストールされている。
【0050】
CPU301は、ハードディスク304にインストールされたプログラムを実行することにより、各信号FSC、SSC、SFLに基づいて、前方散乱光強度、側方蛍光強度等の特徴パラメータを取得し、これらの特徴パラメータに基づいて、細胞や核を分析するための頻度分布データを作成する。そして、CPU301は、この頻度分布データに基づいて、測定試料中の粒子の弁別処理を行い、測定対象細胞(上皮細胞)が異常であるか否か、具体的には癌化した細胞(異型細胞)であるか否かを判定する。なお、このようなCPU301による判定については、追って
図9を参照して説明する。
【0051】
読出装置305は、CDドライブまたはDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体に記録されたコンピュータプログラムおよびデータを読み出すことができる。入出力インターフェース306には、キーボード等からなる入力部31が接続されており、操作者が入力部31を使用することにより、データ処理装置3に指示およびデータが入力される。画像出力インターフェース307は、ディスプレイ等で構成された表示部32に接続されており、画像データに応じた映像信号を、表示部32に出力する。
【0052】
表示部32は、入力された映像信号をもとに、画像を表示する。表示部32には、各種プログラム画面が表示される。また、通信インターフェース308により、測定装置2に対してデータの送受信が可能となる。
【0053】
図6は、癌化情報提供装置1の分析動作を示すフローチャートである。
【0054】
測定装置2の主検出部22と信号処理部24の動作制御は、測定制御部25のマイクロプロセッサ251により実行される。また、測定装置2の副検出部13と、信号処理部27と、調製デバイス部29の動作制御は、調製制御部28のマイクロプロセッサ281により実行される。また、データ処理装置3の制御は、CPU301により実行される。
【0055】
癌化情報提供装置1による分析に際して、生体試料と、メタノールを主成分とする保存液とが収容された生体容器4が操作者により検体セット部2a(
図2参照)にセットされ、癌化情報提供装置1による分析が開始される。
【0056】
測定が開始されると、第1分散部12により試料中の凝集細胞の分散処理(第1分散処理)が行われる(S11)。具体的には、検体セット部2aにセットされた生体容器4内の試料が、検体ピペット部11によって吸引され、試料収容部12a内に供給される。試料収容部12aに供給された試料は、その後、第1分散部12で分散される。
【0057】
第1分散処理が終了すると、検体ピペット部11により、分散済みの試料が副検出部13の試料取込部13aに供給され、
図3(a)のフローセル43と同様の副検出部13のフローセルに、分散済みの試料が所定量だけ流される。そして、この副検出部13において、フローサイトメトリー法によって試料に含まれる細胞数の検出(プレ測定)が行われる(S12)。プレ測定により得られた細胞数と、副検出部13に供給された試料の体積から、この試料の濃度が算出される。
【0058】
続いて、算出された濃度に基づいて、マイクロプロセッサ281により、本測定に用いる測定試料を調製するための試料の吸引量が決定される(S13)。すなわち、プレ測定に用いた試料の濃度(単位体積あたりの細胞の数)と、本測定における癌細胞検出のために必要な有意細胞数とに基づき、この有意細胞数が確保される程度に本測定を行うために必要な試料の液量が演算される。本実施の形態では、たとえば、主検出部22のフローセル43に供給する単一上皮細胞の数(有意細胞数)が2万個程度であることが想定されている。この場合、弁別・置換部14に供給する試料に10万個程度の細胞が含まれる必要があり、このため、約10万個の細胞が弁別・置換部14に供給されるよう、S13における試料の液量が演算される。
【0059】
なお、プレ測定で得られる細胞数には、測定対象細胞(上皮細胞)の単一細胞と凝集細胞が混在しており、さらに、測定対象細胞以外に白血球等も含まれる。このため、得られる細胞数は、測定対象細胞の数を正確に示すものではない。しかしながら、プレ測定で得られる細胞数に基づけば、本測定で必要となる有意細胞数をある程度で確保することが可能となる。
【0060】
次に、演算された液量の試料について弁別・置換処理が実行される(S14)。すなわち、調製制御部28により検体ピペット部11が駆動され、演算された液量だけ第1分散部12の試料収容部12aから、第1分散処理後の試料が吸引される。吸引された試料が弁別・置換部14に供給されることにより、弁別・置換処理が開始される。
【0061】
次に、第2分散部16により試料中の凝集細胞の分散処理(第2分散処理)が行われる(S15)。具体的には、容器移送部15が反応部18の保持部18bにセットされた測定試料容器5を把持して取り出し、試料受渡部11bに位置付ける。そして、弁別・置換部14から検体ピペット部11によって吸引された試料が、試料受渡部11bに位置付けられた測定試料容器5に供給される。その後、この測定試料容器5が容器移送部15により第2分散部16に移送され、第2分散処理が実行される。
【0062】
第2分散処理後の試料を含む測定試料容器5が反応部18の保持部18bにセットされると、第1試薬添加部19により試薬(RNase)が添加され、反応部18により加温され、測定試料容器5内の測定対象細胞のRNA除去処理が行われる(S16)。RNA除去処理の後、第2試薬添加部20により試薬(染色液)が添加され、反応部18により加温され、測定試料容器5内の測定対象細胞のDNA染色処理が行われる(S17)。
【0063】
次に、DNA染色処理済みの測定試料が、試料吸引部21により吸引される。吸引された測定試料は、主検出部22のフローセル43(
図3(a)参照)に送られ、測定試料中の細胞に対する本測定が行われる(S18)。
【0064】
本測定後、得られた測定データが測定装置2の測定制御部25からデータ処理装置3に送信される(S19)。具体的には、測定試料中の各細胞について得られた前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、側方蛍光信号(SFL)が、データ処理装置3に送信される。データ処理装置3のCPU301は、測定装置2から測定データを受信したか否かを常時判定している。測定装置2から測定データを受信すると、データ処理装置3のCPU301により、その測定データに基づいて分析処理が行われる(S20)。なお、S20の分析処理の詳細については、追って
図9を参照して説明する。
【0065】
次に、本実施の形態における癌化情報の取得手順について説明する。
【0066】
図7(a)は、本測定(
図6のS18)において得られる前方散乱光信号(FSC)と側方蛍光信号(SFL)を説明する図である。
【0067】
図7(a)には、細胞核を含む細胞の模式図と、当該細胞から得られる前方散乱光信号の波形と側方蛍光信号の波形が示されている。縦軸は光の強度を表している。前方散乱光強度の波形の幅は、細胞の幅を示す数値(細胞の大きさC)を表しており、側方蛍光強度の波形の幅は、細胞核の幅を示す数値(細胞核の大きさN)を表している。また、斜線で示すように、側方蛍光強度の波形と所定のベースラインにより決められる領域の面積は、細胞のDNA量を表している。
【0068】
図7(b)は、子宮頸部の上皮細胞の拡大断面を模式的に示す図である。
【0069】
子宮頸部においては、基底膜側から順に、基底細胞により形成される層(基底層)と、傍基底細胞により形成される層(傍基底層)と、中層細胞により形成される層(中層)と、表層細胞により形成される層(表層)が形成されている。基底膜付近の基底細胞が傍基底細胞、傍基底細胞が中層細胞、中層細胞が表層細胞へと分化する。
【0070】
これら上皮細胞のうち癌化に関連する細胞は、子宮頸部の上皮細胞では基底細胞である。癌にいたる過程において、基底細胞は異形成を獲得し異型細胞となる。異型細胞は増殖能を獲得し、基底層側から表層側を占めるようになる。このため、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮細胞では、基底層と、傍基底層と、中層に存在する細胞に、癌化細胞が多く存在する。逆に、癌にいたる初期段階においては、子宮頸部の上皮細胞の表層側に存在する細胞には、癌化細胞が極めて少ない。
【0071】
また、上皮細胞では、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい、細胞の大きさは順次小さくなるが、細胞核の大きさは順次大きくなることが分かっている。したがって、細胞の大きさ(C)に対する細胞核の大きさ(N)の比率(以下、「N/C比」という)も、表層側の層から基底膜側の層に向かうにしたがい順次大きくなる。このため、N/C比と細胞の大きさCは、たとえば
図7(c)に示すような関係となる。よって、N/C比の大きい細胞を抽出することにより、傍基底細胞と基底細胞を抽出することができる。
【0072】
図8(a)は、細胞周期におけるDNA量と細胞数の関係を示す図である。
【0073】
細胞は、一定のサイクル(細胞周期)にしたがって、DNA複製、染色体の分配、核分裂、細胞質分裂などの事象を経て、2つの細胞となって出発点に戻る。細胞周期は、その段階に応じて、G1期(S期に入るための準備と点検の時期)と、S期(DNA合成期)と、G2期(M期に入るための準備と点検の時期)と、M期(分裂期)の4期に分けることができ、この4期に細胞の増殖が休止しているG0期(休止期)を加えると、細胞は、5期のうちいずれかのステージにある。
【0074】
細胞周期にしたがって細胞が増殖する際、細胞内の核の染色体も増加するため、細胞のDNA量を測定することで、当該細胞が細胞周期のどの状態にあるのかを推定することができる。正常な細胞の場合、
図8(b)に示すように、G0/G1期におけるDNA量は一定の値(2C)であり、続くS期においてはDNA量が徐々に増加し、その後G2期に入ると一定の値(4C)となり、この値はM期においても維持される。ここで、Cとは、半数体あたりのゲノムDNA含量のことを表す。すなわち、2Cは半数体あたりのゲノムDNA含量の2倍のDNA量、4Cは半数体あたりのゲノムDNA含量の4倍のDNA量を表す。細胞周期のG0期あるいはG1期の正常細胞のDNA量は2Cとなる。そして、正常な細胞について、DNA量のヒストグラムを作成すると、
図8(a)に示すようなヒストグラムとなる。最も高いピークを有する山はDNA量が最も少ないG0/G1期にある細胞に対応し、次に高いピークを有する山はDNA量が最も多いG2/M期にある細胞に対応し、それらの間はS期にある細胞に対応している。
【0075】
正常な細胞の場合、S期とG2/M期の状態にある細胞の数は、G0/G1期にある細胞の数に比べて極めて少ない。しかし、癌化細胞の場合、S期とG2/M期の状態にある細胞の数は、正常な細胞に比べて多くなる。また、癌化細胞の場合、細胞の染色体の数も多くなるため、DNA量も多くなる。
【0076】
そこで、本実施の形態では、癌化の判定について、N/C比とDNA量に着目した2つの判定方法(判定1、2)が用いられる。“データ処理装置3による分析処理”(
図6のS20)では、判定1、2に基づいて癌化の判定が行われる。
【0077】
判定1では、N/C比の大きい細胞を抽出することにより、癌化が進み易いとされる基底細胞、傍基底細胞、中層細胞を抽出する。続いて、このように抽出された細胞群のうち、DNA量が多い細胞を抽出することにより、癌化細胞である可能性が高い細胞を効果的に抽出する(第2計数工程)。判定1では、第2計数工程によって得られる細胞数が多い場合に、癌化の可能性が高いと判定する。
【0078】
判定2では、N/C比の小さい細胞を抽出することにより、癌化が進み難いとされる中層細胞、表層細胞を抽出する。続いて、このように抽出された細胞群のうち、DNA量が少ない細胞を抽出することにより、癌化細胞である可能性が低い細胞を効果的に抽出する(第1計数工程)。一般に、組織の癌化が進むと、第2計数工程によって得られる細胞数が増加し、第1計数工程によって得られる細胞数が減少する。このため、両細胞数の比は、組織が正常である場合と癌化した場合とで大きく異なることとなる。判定2では、この比に基づいて組織の癌化を判定する。なお、このように互いに増減傾向が逆の2つの細胞数の比が用いられると、測定試料に含まれる測定対象細胞が比較的少なくても、信頼性の高い判定結果を得ることができる。
【0079】
図9は、データ処理装置3における分析処理を示すフローチャートである。
【0080】
データ処理装置3のCPU301は、測定装置2から測定データを受信すると、
図10(a)に示すスキャッタグラムを作成する。
図10(a)において、横軸は細胞の大きさ(前方散乱光信号波形の幅)を表し、縦軸はDNA量(側方蛍光信号波形の総和)を表している。
【0081】
続いて、CPU301は、白血球と上皮細胞を分離する(S101)。具体的には、CPU301は、
図10(a)のスキャッタグラムにおいて、白血球に対応する左下の領域が欠けた領域A1を設定し、この領域A1に含まれる細胞を抽出する。
【0082】
次に、CPU301は、S101で抽出した細胞群から、
図10(b)に示すスキャッタグラムを作成する。
図10(b)において、横軸は(側方蛍光信号の差分総和/側方蛍光信号のピーク値)を表し、縦軸は(前方散乱光信号の差分総和/前方散乱光信号のピーク値)を表している。
【0083】
続いて、CPU301は、単一上皮細胞と凝集上皮細胞を分離する(S102)。具体的には、CPU301は、
図10(b)のスキャッタグラムにおいて、単一上皮細胞に対応する領域A2を設定し、この領域A2に含まれる細胞を抽出する。なお、凝集細胞の除去は、単一細胞としては正常なDNA量であるにもかかわらず複数の細胞が凝集することで測定DNA量が異常値を示すことによる分析精度の低下を防ぐために行われる。
【0084】
次に、CPU301は、S102で抽出した細胞群から、
図10(c)に示すスキャッタグラムを作成する。
図10(c)のヒストグラムにおいて、横軸は、細胞核の大きさNを細胞の大きさCで除算した値(N/C比)を表しており、縦軸は細胞の大きさを表している。
【0085】
続いて、CPU301は、
図10(c)のヒストグラムにおいて、V11≦N/C比≦V12の細胞群を抽出する(S103)。具体的には、CPU301は、
図10(c)のスキャッタグラムにおいて領域A4を設定し、この領域A4に含まれる細胞群を抽出する。なお、領域A4の左端の値と右端の値は、それぞれ、N/C比の値がV11、V12に設定されている。V11は、中層細胞と傍基底細胞を分ける閾値である。V11は、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、V11は、0.2〜0.4の範囲で設定される。V12は、基底細胞と意義不明な細胞を分ける閾値である。V12は、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、V12は、0.6〜1の範囲で設定される。
【0086】
次に、CPU301は、S103で抽出した細胞数が閾値S0以上であるかを判定する(S104)。細胞数が十分でない場合、癌化の判定精度が低下する惧れがある。したがって、かかる細胞数が閾値S0未満である場合(S104:NO)、CPU301は、この検体が不適検体である旨を表示する(S116)。具体的には、CPU301は、
図11(a)に示すように、「不適検体」と表示されたダイアログD1を表示部32に表示する。なお、ダイアログD1には、「NG」、「分析不能」等のメッセージが表示されても良い。そして、CPU301は、癌化情報の出力を行わずに、処理を終了する。なお、閾値S0は、検体の採取不適を判断する閾値である。閾値S0は、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、閾値S0は、50〜1000の範囲で設定される。
【0087】
S103で抽出した細胞数が閾値S0以上であると(S104:YES)、CPU301は、ハードディスク304に記憶しているフラグ1の値をリセットする(S105)。フラグ1は、上述した「判定1」による判定結果を示すためのものである。続いて、CPU301は、S103と同様に
図10(c)のスキャッタグラムにおいてV11≦N/C比≦V12の細胞群を抽出し、
図10(d)に示すヒストグラム(DNAプロイディ)を作成する(S106)。
図10(d)のヒストグラムにおいて、横軸はDNA量を表しており、縦軸は細胞数を表している。
【0088】
次に、CPU301は、S106で作成したヒストグラムにおいて、DNA量が正常細胞のS期以上である細胞数、すなわち、細胞周期がG0期あるいはG1期にある正常細胞のDNA量を超えるDNA量を有する細胞数が、閾値S1以上であるかを判定する(S107)。具体的には、CPU301は、
図10(d)に示すヒストグラムにおいて領域A5を設定し、この領域A5に含まれる細胞数が閾値S1以上であるかを判定する。領域A5の左端の値V21は、癌化情報提供装置1で、細胞周期がG0/G1期にある正常細胞のDNA量として検出されるDNA量の範囲の上限値となるよう設定され、領域A5の右端は右方向に全ての細胞を含むように設定される。細胞数の判定に用いられる細胞数の閾値S1は、主検出部22のフローセル43に供給される単一上皮細胞が約2万個であることに対応して決定されている。なお、閾値S1は、癌検体と陰性検体を分画する閾値である。閾値S1は、測定された細胞数により異なる為、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、閾値S1は、2000〜4000の範囲で設定される。
【0089】
領域A5に含まれる細胞数が閾値S1以上であると(S107:YES)、CPU301は、フラグ1に「Cancer」をセットする(S108)。領域A5に含まれる細胞数が閾値S1未満であると(S107:NO)、S108がスキップされる。なお、S105〜S108の処理が、上述した「判定1」に相当する。
【0090】
次に、CPU301は、ハードディスク304に記憶しているフラグ2の値をリセットする(S109)。フラグ2は、上述した「判定2」による判定結果を示すためのものである。続いて、CPU301は、
図10(c)のスキャッタグラムにおいてV13≦N/C比<V11の細胞群(領域A3に含まれる細胞群)を抽出し、
図10(e)に示すヒストグラム(DNAプロイディ)を作成する(S110)。V13は、V13≦N/C比<V11の範囲に、表層細胞または中層細胞が含まれるようにするための閾値である。V13は、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、V13は、V11よりも小さく0以上の範囲で設定される。
図10(e)のヒストグラムにおいて、横軸はDNA量を表しており、縦軸は細胞数を表している。
【0091】
次に、CPU301は、S110で作成したヒストグラムにおいて、DNA量が正常細胞の2Cである細胞数、すなわち、細胞周期がG0期あるいはG1期にある正常細胞のDNA量を有する細胞数を得る。具体的には、CPU301は、
図10(e)に示すヒストグラムにおいて領域A6を設定し、この領域A6に含まれる細胞数を得る。領域A6の右端の値V32は、領域A5の左端の値V21と同じとなるよう設定される。
【0092】
ここで設定したV32(V21)は、G0期またはG1期にある正常細胞が有するDNA量(2C)とS期にある正常細胞が有するDNA量を分ける値として設定されている。具体的には、細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞のDNA量を示す値V30を設定し、V31と、V32(V21)は、V31とV32(V21)の範囲にV30が含まれ、V31とV32の範囲の幅がAとなるよう設定されている。
【0093】
続いて、CPU301は、S106で作成したヒストグラムにおいてDNA量が正常細胞のS期以上である細胞数、すなわち細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞が有するDNA量を越えるDNA量を有する細胞数を、S110で作成したヒストグラムにおいてDNA量が2Cである細胞数、すなわち細胞周期がG0期またはG1期にある正常細胞が有するDNA量を有する細胞数で除算した値(以下、「癌化比率」という)を得る。そして、CPU301は、癌化比率が所定の閾値S2以上であるかを判定する(S111)。癌化比率が閾値S2以上であると(S111:YES)、CPU301は、フラグ2に「Cancer」をセットする(S112)。癌化比率が閾値S2未満であると(S111:NO)、S112がスキップされる。なお、S109〜S112の処理が、上述した「判定2」に相当する。閾値S2は、癌検体と陰性検体を分画する閾値である。閾値S2は、感度と特異度の観点から適宜設定される。本実施の形態では、閾値S2は、0.5〜1.5の範囲で設定される。
【0094】
次に、フラグ1、2の何れかが「Cancer」であると(S113:YES)、すなわち、判定1または判定2において「Cancer」と判定されると、CPU301は、癌化に関する情報として、再検査が必要である旨の表示を行う(S114)。具体的には、CPU301は、
図11(b)に示すように、「要再検査」と表示されたダイアログD2を表示部32に表示する。なお、ダイアログD2には、癌化の疑いが高いことを示すため、
図11(c)に示すように、さらに「Cancer?」との表示が付加されるようにしても良い。
【0095】
他方、フラグ1、2が両方とも「Cancer」でないと(S113:NO)、すなわち、判定1、2の両方において「Cancer」と判定されないと、CPU301は、再検査が不要である旨の表示を行う(S115)。具体的には、CPU301は、
図11(d)に示すように、「再検査不要」と表示されたダイアログD3を表示部32に表示する。
【0096】
なお、生体容器4に含まれる生体試料が少ないために、癌細胞検出のために必要な有意細胞数が確保できない場合、判定1において適正な結果を得られない惧れがある。このような場合、S113において、フラグ2の値にのみ基づいて「Cancer」であるか否かが判定されるようにしても良い。
【0097】
図12(a)〜(e)は、癌の進行度合いが異なる5つの検体のスキャッタグラムである。
図12(a)〜(e)は、癌の進行度合いを示す「Cancer」、「CIN3」、「CIN2」、「CIN1」、「Normal」に対応している。「Normal」から「Cancer」へと癌が進行するにつれて、N/C比の大きい領域A4に含まれる細胞数が、N/C比の小さい領域A3に含まれる細胞に比べて多くなっていることが分かる。
【0098】
図13(a)〜(e)は、それぞれ、
図12(a)〜(e)のN/C比の高い領域A4に含まれる細胞群を抽出して作成したヒストグラムである。ここでは、
図13(a)〜(e)のS期以上のDNA量に対応する領域A5に、それぞれ、6785個、875個、4042個、589個、121個の細胞が含まれている。このとき、閾値S0の値を100、閾値S1の値を875と4042の間に設定すると、
図9の判定1において、
図13(a)、(c)の検体は「Cancer」と判定され、
図13(b)、(d)、(e)の検体は「Cancer」と判定されない。よって、この場合、
図13(a)、(b)、(d)、(e)の検体は、判定1において適正に癌であるか否かが判定されるが、
図13(c)の検体は、判定1において適正に癌であるか否かが判定されない。
【0099】
図14(a)〜(e)は、それぞれ、
図12(a)〜(e)のN/C比の低い領域A4に含まれる細胞群を抽出して作成したヒストグラムである。ここでは、
図14(a)〜(e)の2CのDNA量に対応する領域A6に、それぞれ、738個、1878個、8270個、28787個、19485個の細胞が含まれている。これにより、
図9のS111で得られる癌化比率は、
図14(a)〜(e)の検体において、それぞれ、9.19、0.47、0.49、0.02、0.01となる。このとき、閾値S0の値を100、閾値S2の値を0.49と9.19の間に設定すると、
図9の判定2において、
図14(a)の検体は「Cancer」と判定され、
図14(b)〜(e)の検体は「Cancer」と判定されない。よって、この場合、
図14(a)〜(e)の検体は、判定2において、全て適正に癌であるか否かが判定される。
【0100】
図15(a)〜(c)は、組織診の判定結果と、
図9の判定1による判定結果との関係を説明する図である。なお、ここでは、1035個のサンプルに対して、判定が行われている。
【0101】
図15(a)の左側の領域A11はデータのバラつき等を表す箱ひげ図であり、右側の領域A12はヒストグラムである。領域A11、A12内において、横軸の5つの値は、左から、組織診の結果の「Normal」、「CIN1」、「CIN2」、「CIN3」、「Cancer」に対応している。
図15(a)の縦軸は、
図9のS107で計数したS期にある正常細胞が有するDNA量以上である細胞数を表している。
【0102】
図15(a)の領域A11では、一つのドットが一つのサンプル(検体)に対応している。組織診において「Normal」と診断された各サンプルは、最も左の列の、対応する細胞数(縦軸)の位置にプロットされる。たとえば、「Normal」と診断されたあるサンプルについて、
図9のS107で計数されたS期にある正常細胞が有するDNA量以上である細胞数が閾値S1未満であれば、このサンプルは、最も左の列(「Normal」の列)の縦軸方向において、この細胞数に対応する位置にプロットされる。「CIN1」、「CIN2」、「CIN3」、「Cancer」と診断された各サンプルについても同様に、対応する癌化段階の列上の縦軸方向において、細胞数に対応する位置にプロットされる。
図15(a)の領域A12は、各癌化段階に含まれるサンプルが、縦軸上においてどのような割合で分布するかを棒グラフで表したものである。なお、
図15(a)には、
図9のS107にて設定された細胞数の閾値S1の位置が点線で示されている。すなわち、この点線よりも細胞数が多い位置にプロットされたサンプルは、
図9の判定1において「Cancer」と判定される。
【0103】
図15(a)を参照して、組織診により「Normal」と判定された検体のうち、判定1において「Cancer」と判定された検体、すなわち、S期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞数が閾値S1以上であるため陽性となった検体が1つあることが分かる。組織診により「CIN1」と判定された検体は、判定1において全て「Normal」と適正に判定されたことが分かる。組織診により「CIN2」と「CIN3」と判定された検体のうち、判定1において「Cancer」と判定された検体が、それぞれ2つずつあることが分かる。組織診により「Cancer」と判定された検体は、判定1において全て「Cancer」と適正に判定されたことが分かる。
【0104】
図15(b)は、
図15(a)の内容をまとめた表である。組織診の項目において、陽性は検体が癌であることを示し、陰性はCIN3以下の検体を示している。判定1の項目において、陽性は
図9のS107でYESと判定された検体を示し、陰性は
図9のS107でNOと判定された検体を示している。
【0105】
図15(b)を参照して、判定1により陽性と判定された11の検体のうち、組織診において陽性であった検体は6つである。すなわち、判定1により5つの検体が偽陽性(組織診と相違)となっている。また、判定1により陰性と判定された1024の検体は、全て組織診において陰性と診断されている。
【0106】
図15(c)は、
図15(b)の判定結果をパーセントで表示したものである。
【0107】
判定1により、組織診において陽性であった6つの検体全てが陽性と判定されたので、判定1による感度は6/6=100.0%となる。また、判定1により、組織診において陰性であった1029の検体のうち1024の検体が陰性と判定されたので、判定1による特異度は1024/1029=99.5%となる。
【0108】
図16(a)〜(c)は、
図15(a)〜(c)と同様、組織診の判定結果と、
図9の判定2による判定結果との関係を説明する図である。なお、
図16(a)の縦軸は、
図9の判定2で算出した癌化比率(S111で求められる比率)を表している。なお、
図16(a)には、
図9のS111にて設定された癌化比率の閾値S2の位置が点線で示されている。すなわち、この点線よりも癌化比率が高い位置にプロットされたサンプルは、
図9の判定2において「Cancer」と判定される。
【0109】
図16(a)を参照して、組織診により「Normal」と判定された検体のうち、判定2において「Cancer」と判定された検体、すなわち、癌化比率が閾値S2以上であるため陽性となった検体が8つあることが分かる。組織診により「CIN1」と「CIN2」と判定された検体は、判定2において全て「Normal」と適正に判定されたことが分かる。組織診により「CIN3」と判定された検体のうち、判定2において「Cancer」と判定された検体が1つあることが分かる。組織診により「Cancer」と判定された検体のうち、判定2において「Cancer」と判定されなかった、すなわち、本来「Cancer」と判定されるべきところを「Cancer」でないと不適正に判定された検体が1つあることが分かる。
【0110】
図16(b)は、
図15(b)と同様にして、
図16(a)の内容をまとめた表である。
【0111】
図16(b)を参照して、判定2により陽性と判定された14の検体のうち、組織診において陽性であった検体は5つである。すなわち、判定2により9つの検体が偽陽性(組織診と相違)となっている。また、判定2により陰性と判定された1021の検体のうち、組織診において陰性であった検体は1020個である。すなわち、判定2により1つの検体が偽陰性(組織診と相違)となっている。
【0112】
図16(c)は、
図16(b)の判定結果をパーセントで表示したものである。
【0113】
判定2により、組織診において陽性であった6つの検体のうち5つの検体が陽性と判定されたので、判定2による感度は5/6=83.3%となる。また、判定2により、組織診において陰性である1029の検体のうち1020の検体が陰性と判定されたので、判定2による特異度は1020/1029=99.1%となる。
【0114】
ここで、本実施の形態に示すように、
図9のS113で判定1、2を組み合わせることにより「Cancer」の判定を行う場合、組織診の判定結果と、
図9のS113の判定結果との関係は、
図16(d)、(e)に示すようになる。
【0115】
図16(d)を参照して、S113により陽性と判定された18の検体のうち、組織診において陽性であった検体は6つである。すなわち、S113の判定により12の検体が偽陽性(組織診と相違)となっている。また、S113の判定により陰性と判定された1017の検体は、全て実際に陰性である。
【0116】
図16(e)を参照して、S113の判定により、組織診において陽性であった6つの検体の全てが陽性と判定されたので、S113による感度は6/6=100.0%となる。また、S113の判定により、組織診において陰性であった1029の検体のうち1017の検体が陰性と判定されたので、S113による特異度は1017/1029=98.8%となる。
【0117】
以上、本実施の形態によれば、
図9の判定1により癌であるか否かを判定することができる。判定1によれば、
図15(a)〜(c)を参照して説明したように、1029の陰性検体のうち5つの検体が偽陽性となったものの、組織診で「Cancer」と判定された6つの検体は全て適正に「Cancer」と判定され得る。
【0118】
また、判定1では、N/C比がV11〜V12の細胞群のうち、DNA量がV21以上の細胞群が抽出された。このように、抽出する細胞のN/C比が高い範囲に限定されているため、判定1による判定精度が高められ得る。
【0119】
なお、判定1では、副検出部13において濃度検出(プレ測定)が行われ、癌細胞検出のために必要な有意細胞数が確保される程度に必要な試料が主検出部22に供給される。これにより、
図9のS107において、S期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞数と所定の個数(S1)と比較することにより、癌であるか否かを精度良く判定することが可能となる。
【0120】
また、本実施の形態によれば、
図9の判定2により癌であるか否かを判定することができる。判定2によれば、
図16(a)〜(c)を参照して説明したように、1029の陰性検体のうち9つの検体が偽陽性となり、6つの陽性検体のうち1つの検体が偽陰性となるものの、組織診でCancerと判定される検体の大部分は適正に「Cancer」と判定され得る。
【0121】
また、本実施の形態によれば、
図9のS113において、判定1、2の何れかが「Cancer」であると、最終結果として「Cancer」と判定し、この旨が操作者に通知される。これにより、判定1、2の何れかの結果に偽陰性の検体が含まれる場合でも、他方の判定において「Cancer」と判定されれば結果として「Cancer」と判定されるため、「Cancer」と判定すべき検体を確実に「Cancer」と判定することができる。
【0122】
なお、本実施の形態では、判定1、2を並列させ、判定1、2の結果を
図9のS113にて判定することにより、最終的に「Cancer」であるか否かを判定したが、判定1、2の何れかのみを用いて最終判定を行うようにしても良い。
【0123】
図17(a)は、判定1のみを用いる場合を示す図であり、
図17(b)は、判定2のみを用いる場合を示す図である。なお、
図17(a)、(b)において、
図9の処理と同じ箇所には同じ番号が付与されており、判定1、2の近傍のみが示されている。
【0124】
図17(a)では、
図9と同様の判定1が行われた後、データ処理装置3のCPU301は、フラグ1が「Cancer」であるか否かを判定する(S121)。また、
図17(b)では、
図9と同様の判定2が行われた後、CPU301は、フラグ2が「Cancer」であるか否かを判定する(S122)。
図17(a)、(b)のように最終的な判定が行われる場合、それぞれ、
図15(a)〜(c)の判定結果と、
図16(a)〜(c)の判定結果が最終的な判定となる。また、
図17(a)、(b)のように判定が行われると、それぞれ、上述した判定1、2と同様の効果が奏される。
【0125】
また、本実施の形態では、
図9のS101において、白血球と上皮細胞(単一上皮細胞、凝集上皮細胞)が分離された。これにより、測定対象となる上皮細胞の癌化の判定精度を高めることができる。また、本実施の形態では、
図9のS102において、単一上皮細胞と凝集上皮細胞が分離された。これにより、測定対象となる上皮細胞の癌化の判定精度を高めることができる。
【0126】
また、本実施の形態では、
図9のS104においてNOと判定されると、「不適検体」である旨が表示されて処理が終了する。これにより、抽出した細胞数が少なく、適正な判定を行うことができない場合でも、細胞の癌化に関する情報の出力を禁止することにより、信頼性の悪い情報が出力されることを未然に防止することができ、適正な診断を円滑に進めることができる。なお、この場合は、測定対象細胞の数が足らなかったことを報知する情報が出力されるのが望ましい。こうすると、上皮細胞の再採取を行う等の措置を円滑に進めることができる。
【0127】
以上、本発明の実施の形態ついて説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0128】
たとえば、上記実施の形態では、子宮頸部の上皮細胞が分析対象とされたが、口腔細胞、膀胱、咽頭などの他の上皮細胞、さらには臓器の上皮細胞が分析対象とされ、これら細胞の癌化の判定が行われても良い。
【0129】
また、上記実施の形態では、副検出部13において細胞数の検出(プレ測定)が行われたが、生体試料ごとに測定対象細胞の濃度のバラつきが小さく、分析結果への影響が小さい場合には、副検出部13は省略されても良い。
【0130】
また、上記実施の形態では、N/C比は、側方蛍光強度の波形の幅に基づいて得られる細胞核の幅を示す数値(細胞核の大きさN)と、前方散乱光強度の波形の幅に基づいて得られる細胞の幅を示す数値(細胞の大きさC)の比として算出された。しかしながら、これに限らず、N/C比は、細胞核の面積と細胞の面積の比として算出されても良い。なお、上記実施の形態では、前方散乱光強度の波形の幅に基づいて細胞の幅を示す数値(細胞の大きさC)を得た。これにより、所定の方向に長い形をしている細胞がフローセルを流れた際にも、細胞の大きさを精度良く表すことができる。
【0131】
図18(a)は、
図9のS106における細胞群の抽出範囲の上限を無くした状態、すなわち、
図10(c)の領域A4の右側の境界が右方向に広げられた状態を示す図である。
図18(b)は、
図9のS106における細胞群の抽出範囲(領域A4)の上限と下限の両方を無くした状態を示す図である。
【0132】
なお、
図18(a)、(b)のように領域A4を設定して、上記と同様、1035個の検体(サンプル)について癌化の判定を行ったところ、判定2では、感度は上記実施の形態と同様、83.3%になり、特異度は、それぞれ、94.6%と93.3%となり、上記実施の形態から僅かに低下するに留まった。よって、このように抽出する細胞の範囲を広げても、上記実施の形態と同様、適正に「Cancer」と判定することができる。この結果から、
図18(a)、(b)のように領域A4を設定した場合、判定1についても、同様に、感度と特異度は維持されることが類推され得る。
【0133】
また、上記実施の形態では、
図10(d)に示すS期にある正常細胞が有するDNA量以上のDNA量を設定する領域A5の左端の値はV21に設定され、右端の値はS期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞全てを含むように設定されたが、かかる設定範囲の最小値と最大値は上記のように固定されるものでなく、感度と特異度が向上するよう、適宜、上記の値以外に設定されても良い。また、
図10(e)に示す2CのDNA量を設定する領域A6の左端と右端の値はそれぞれV31、V32に設定されたが、かかる設定範囲の最小値と最大値は上記V31、V32に固定されるものでなく、感度と特異度が向上するよう、適宜、上記の値以外に設定されても良い。
【0134】
図18(c)は、
図9のS111において抽出される2Cの細胞の範囲が変更された状態、すなわち、
図10(e)の領域A6の右端が縮められた状態を示す図である。
図18(c)の領域A6のV31とV32は、V31とV32の範囲にV30が含まれ、V31とV32の範囲の幅が、
図10(e)のV31とV32の範囲の幅Aより小さいBとなるよう設定されている。
図18(d)は、
図9のS107において抽出されるS期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞の範囲が変更された状態、すなわち、
図10(d)の領域A5の左端が広げられた状態を示す図である。
図18(d)の領域A5の左端の値V21は、V31とV32の範囲にV30が含まれ、V31とV32の範囲の幅がAとなるよう設定されている場合に、V30より大きくV32より小さい値となるように設定されている。
【0135】
なお、
図18(c)、(d)のように領域A5、A6を設定して、上記と同様、1035個の検体(サンプル)について癌化の判定を行ったところ、判定2では、感度は上記実施の形態と同様、83.3%になり、特異度は、それぞれ、98.7%と98.5%となり、上記実施の形態と略同様となった。よって、このように抽出する細胞の範囲を変化させても、上記実施の形態と同様、適正に「Cancer」と判定することができる。
【0136】
また、上記実施の形態では、
図9のS105以降において、まず、V11≦N/C比≦V12の細胞群が抽出され、抽出された細胞群のうちDNA量がS期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞群が計数され、この計数値が、S107における細胞数またはS111における癌化比率の分子に用いられた。しかしながら、これに替えて、まず、DNA量がS期にある正常細胞が有するDNA量以上の細胞群が抽出され、抽出された細胞群のうちV11≦N/C比≦V12の細胞群が計数され、この計数値がS107における細胞数またはS111における癌化比率の分子に用いられても良い。
【0137】
また、上記実施の形態では、
図9のS109以降において、まず、V13≦N/C比<V11の細胞群が抽出され、抽出された細胞群のうちDNA量が2Cの細胞群が計数され、この計数値が癌化比率の分母として設定された。しかしながら、これに替えて、まず、DNA量が2Cの細胞群が抽出され、抽出された細胞群のうちV13≦N/C比<V11の細胞群が計数され、この計数値がS111における癌化比率の分母として設定されても良い。
【0138】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。