特許第6286475号(P6286475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286475対象において膵臓がんを診断する手段及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286475
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】対象において膵臓がんを診断する手段及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20180215BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20180215BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20180215BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01N33/574
   G01N33/68
   C12Q1/04
   C12M1/34 B
【請求項の数】10
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-85026(P2016-85026)
(22)【出願日】2016年4月21日
(62)【分割の表示】特願2013-512846(P2013-512846)の分割
【原出願日】2011年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-148678(P2016-148678A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2016年5月20日
(31)【優先権主張番号】61/350,042
(32)【優先日】2010年6月1日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10164624.8
(32)【優先日】2010年6月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】511012983
【氏名又は名称】メタノミクス ヘルス ゲーエムベーハー
(73)【特許権者】
【識別番号】512309370
【氏名又は名称】エルンスト−モーリッツ−アルント−ウニベルジテート グライフスヴァルト
(73)【特許権者】
【識別番号】512309381
【氏名又は名称】ウニベルジテートスクリニクム シュレースヴィヒ−ホルシュタイン
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(72)【発明者】
【氏名】カムラーゲ,ベアテ
(72)【発明者】
【氏名】レスカ,レギーナ
(72)【発明者】
【氏名】クルッティグ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】カルトホフ,ホルガー
(72)【発明者】
【氏名】シュニーヴィント,ボド
(72)【発明者】
【氏名】マイヤーレ,ユーリア
(72)【発明者】
【氏名】レルヒ,マルクス
【審査官】 大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−038796(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/110517(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/075664(WO,A1)
【文献】 Henning Schrader et al.,Amino Acid Malnutrition in Patients With Chronic Pancreatitis and Pancreatic Carcinoma,Pancreas,2009年,Vol.38, No.4,pp.416-421
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において膵臓がんを同定するためのデータを取得する方法であって、
(a)膵臓がんに罹患している疑いのある対象のサンプル中において、プロリンの量を測定するステップと、
(b)プロリンの前記量を参照と比較し、それによって膵臓がんが同定され得るステップとを含む方法。
【請求項2】
前記参照が、膵臓がんに罹患していないことが知られている対象若しくは対象群のサンプルに由来するか、又は計算された参照である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記参照が、膵臓がんに罹患していることが知られている対象又は対象群のサンプルに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
対象が膵臓がん治療を必要とするかどうかを同定するためのデータを取得する方法であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法のステップを含み、それによって前記対象が膵臓がんに罹患していると同定される場合、膵臓がん治療を必要とする対象が同定される、前記方法。
【請求項5】
対象において膵臓がんに対する治療が成功したかどうかを決定するためのデータを取得する方法であって、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法のステップと、膵臓がんが同定されない場合、治療が成功したかどうかを決定するさらなるステップとを含む方法。
【請求項6】
前記膵臓がん治療が、手術、放射線治療又は薬物療法を含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記サンプルが、血漿、血液又は血清サンプルである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象がヒトである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記膵臓がんが膵臓腺癌である、請求項1から8のいずれか一項に記載に記載の方法。
【請求項10】
対象のサンプルにおいて膵臓がんを同定するための装置であって、
a)プロリンの検出器を含む前記対象の前記サンプルのための分析ユニットであり、前記検出器が前記サンプル中の前記プロリンの量の測定を可能にする、前記分析ユニットと、
前記分析ユニットと操作可能に連結した、
(b)データ処理ユニット及びデータベースを含む評価ユニットであり、前記データベースが保存された参照を含み、前記データ処理ユニットが(i)前記分析ユニットによって測定された前記プロリンの前記量と保存された参照の比較を実施すること、及び(ii)同定を確立させ得る基礎となる出力情報を生成することを可能にする、前記評価ユニットとを含む装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断方法の分野に関する。具体的には、本発明は対象において膵臓がんの診断方法、対象が膵臓がんの治療を必要とするかどうかを確認する方法、又は膵臓がん治療が成功しているかどうかを測定する方法を企図する。本発明はまた、診断装置などの前述の方法を実施するためのツールに関する。
【背景技術】
【0002】
膵臓がんは全固形がんの中で最も予後が悪く、5年生存率が5%未満であるが、発生率は増加の一途をたどっている(Everhart 2009、Gastroenterology 136:1134-11449)。膵臓がんの早期診断、予後の層化及び鑑別診断のために、特異的なバイオマーカー及び新規分子イメージングツールをポイントオブケアで利用するための革新的なツール及び技術の確立が求められていることは広く知られている。早期ステージの腫瘍を適切なタイミングで外科的に切除することが、この悲惨な疾患を治療するために現在唯一の効果的な手段なので、これらの領域の進歩はこの悪性腫瘍の予後を改善するために極めて重要である。
【0003】
この種類のがんの死亡率は、西欧諸国において、あらゆる種類のがんの中で最高である。早期検出の手段がないために、人々は診断後まもなく死亡してしまう。早期症状はほとんどなく、特徴もない。したがって、PDACは通常、この疾患の悪化したステージで診断される。今までのところ、PDACを検出するために最良の画像技術は、内視鏡超音波検査(EUS)、スパイラル断層撮影(CT)、磁気共鳴胆道膵管撮影(MRCP)又は内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)(Dewitt 2006、Gastroenterol Hepatol.(4):717-25)である。残念ながら、膵臓内の新生物病変を検出するには、これらの技術の分解能は3〜10mmの範囲である。したがって、膵臓の新生物を治癒可能なステージで検出することはできない。CA19-9などの従来の腫瘍マーカーの血清濃度は、膵臓がん患者の部分集団で増加する(Fry 2008、 Langenbecks Arch Surg. (393): 883-90)。しかし、今までの利用可能なマーカーは感度及び腫瘍特異性が不十分である。したがって、非常に小さい、早期ステージのPDAC及びその前駆的病変(PanIN及びIPMN)並びに悪化した腫瘍の予後亜群を検出するために、診断の感度を高める新たなアプローチが緊急に必要とされている。
【0004】
慢性炎症と悪性腫瘍の形成との間の関連は長年にわたって認識されてきた。膵臓がんでは、この関連は最近確認されたばかりで、コンセンサス会議では非侵襲性前駆病変として膵臓の上皮内新生物の新たな分類について意見が一致した(Hruban 2004、Am J Surg Path (28): 977-987)。慢性膵炎は、しばしば進行性で不可逆的な形態学的変化を特徴とする、無菌的炎症の発作が頻発する疾患として定義されており、通常、疼痛及び膵臓の永久的機能障害を引き起こす。人口100000人当たり発生率は8.2人、有病率は27.4人で、任意抽出した生検標本における頻度は0.04%から5%で、慢性膵炎はよくある胃腸管の障害である。様々な病因が慢性膵炎の発症に関わっている。慢性膵炎に罹患している患者では膵臓がんで死亡する危険性が増加することが、1993年に6カ国の臨床センターから募集した慢性膵炎の患者2015人による多施設後ろ向きコホート研究として、AB Lowenfels及び共同研究者によって実施された国際協同研究において示された。この研究によって、慢性膵炎の患者の膵臓がんの累積危険率が10年後には1.8%、20年後には4%であり、標準化罹患比が14.4であることが発見された。最低でも2年間追跡した患者では、膵臓がんになる危険率は一般集団における危険率より16.5倍高かった(Lowenfels 1993、 N Engl J Med (328): 1433-1437)。慢性膵炎と膵臓がんの関連についての研究は、1996年に第7染色体上(7p35)のカチオン性トリプシノーゲン遺伝子の第3エキソンにおける点突然変異が遺伝性膵炎に関連していることが発見されたとき激化し、その後、多数の家系が同定され、報告された。ごく最近では、EUROPAC研究グループが遺伝性膵炎の臨床的及び遺伝的特徴に関する彼らの研究を発表した。European Registry of Hereditary Pancreatitisから得られたデータを使用するマルチレベル比例ハザードモデルでは、このグループは14カ国112家系を発表した(罹患した個体418人)(Howes 2004、Clinical Gastroenterology and Hepatology (2): 252-261)。膵臓がんの累積危険率(95%CI)は症状発症から70年で44.0%(8.0%〜80.0%)で、標準罹患比は67%(50%〜82%)であった。以前の研究ではまた、膵臓がんの推定生涯危険率は40%であることが示されたことがある(Lowenfels 2001、JAMA 286: 169-170、Lowenfels 1997、J Natl Cancer Inst 89: 442-44656)。
【0005】
膵臓がんでは、イメージング研究によって、治癒可能なステージで膵臓の早期悪性腫瘍を検出することはできないが、慢性膵炎のバックグランドでは、EUS、CT又はMRIなどのイメージング研究の感度及び特異性は、コイン投げの信頼性と同程度まで低下する。したがって、血清マーカーは、危険性が高いコホートにおいて、膵臓の悪性腫瘍を検出するためにかけがえのないツールである。
【0006】
膵臓に関連した疾患を罹患している患者における代謝変化の報告は少ない。Schraderら(Schrader 2009、Pancreas 38: 416-421)は、膵臓がん及び慢性膵炎の患者が血清アミノ酸レベルに著しい変化を示すことを示唆している。セラミドの中でも、がん細胞の細胞表面上のスフィンゴミエリンは、細胞シグナル伝達に活発に関わっていることが示唆されたことがある。セラミドは、がん細胞においてアポトーシスを誘発することが知られている。スフィンゴミエリンのレベルが低いことは、ゲムシタビン療法に対する応答性が少ないことを示唆している(Modrak 2009、Mol Cancer Res 7:890-896)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Everhart 2009、Gastroenterology 136:1134-11449
【非特許文献2】Dewitt 2006、Gastroenterol Hepatol.(4):717-25
【非特許文献3】Fry 2008、 Langenbecks Arch Surg. (393): 883-90
【非特許文献4】Hruban 2004、Am J Surg Path (28): 977-987
【非特許文献5】Lowenfels 1993、 N Engl J Med (328): 1433-1437
【非特許文献6】Howes 2004、Clinical Gastroenterology and Hepatology (2): 252-261
【非特許文献7】Lowenfels 2001、JAMA 286: 169-170、Lowenfels 1997、J Natl Cancer Inst 89: 442-44656
【非特許文献8】Schrader 2009、Pancreas 38: 416-421
【非特許文献9】Modrak 2009、Mol Cancer Res 7:890-896
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
5年生存率0.5〜5%という結果から、膵臓がんの予後はヒトの腫瘍全ての中で最も悲惨で、世界中のがん関連死の4番目の主要原因となっている。したがって、社会経済学的衝撃が大きい疾患である。現在、正確な診断を行い、早期腫瘍を適切なタイミングで外科的に切除することが唯一、現実的に患者の予後を改善させる見込みがある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、対象において膵臓がんを診断する方法であって、
(a)膵臓がんに罹患している疑いのある対象のサンプル中において、表2a、2b、3a、3bの少なくとも1種のバイオマーカーの量を測定するステップと、
(b)少なくとも1種のバイオマーカーの前記量を参照と比較し、それによって膵臓がんが診断され得るステップとを含む方法に関する。
【0010】
本発明において記載する方法としては、上述のステップより本質的になる方法又はさらなるステップを含む方法が含まれる。しかしながら、本方法は、好ましい実施形態では、ex vivoで行われる方法、すなわち、人体又は動物体に対して実施されない方法であることを理解されたい。本方法は、好ましくは自動化により支援することができる。
【0011】
本明細書において用いられる「診断する」という用語は、被験体(被験者)が膵臓癌に罹患しているか否かを評価することを意味する。当業者であればわかるであろうが、そのような評価は、検査される被験体の100%に対して正しいことが好ましいが、通常はそうでない可能性がある。しかしながら、この用語は、統計学的に有意な一部の被験体を正確に評価でき、従って診断できることを必要とする。当業者であれば、労苦もなく、種々の周知の統計学的評価ツールを用いて、たとえば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン・ホイットニー検定などを行って、その一部が統計学的に有意であるかどうかを判定することが可能である。詳細は、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York 1983に見いだされる。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%である。p値は、好ましくは、0.2、0.1、又は0.05である。
【0012】
この用語は、膵臓癌又はその症候の個々の診断、並びに患者の継続的なモニタリングを含む。モニタリング、すなわち種々の時点における膵臓癌又はそれに付随する症候の存在又は不在の診断には、膵臓癌に罹患していることがわかっている患者のモニタリング、並びに膵臓癌を発症するリスクを有することがわかっている被験体のモニタリングが含まれる。さらに、モニタリングは、患者の治療が成功したかどうか、又は少なくとも膵臓癌の症候が特定の治療によって徐々に改善しうるかどうかを判定するためにも用いられる。
【0013】
本明細書において用いる「膵臓癌」または「膵癌」は、膵臓細胞に由来する癌に関する。好ましくは、本明細書において用いる膵臓癌は膵臓腺癌である。膵臓癌に伴う症状は、ステッドマン(Stedmen)やPschyremblといった医薬の標準的な教材により周知である。
【0014】
本明細書において用いられる「バイオマーカー」という用語は、本明細書において記載する疾患又は効果の指標として機能する分子種を意味する。該分子種は、被験体のサンプル中に見いだされる代謝物質自体であってもよい。さらに、バイオマーカーはまた、該代謝物質に由来する分子種であってもよい。そのような場合、実際の代謝物質は、サンプル中で又は測定方法の過程で化学的に修飾されることがあり、その修飾の結果として、化学的に異なる分子種、すなわちアナライトが測定される分子種となる。そのような場合、アナライトは実際の代謝物質を表し、各医学的状態の指標として同じ可能性を有することが理解されよう。
【0015】
さらに、本発明にかかるバイオマーカーは、必ずしも1つの分子種に対応するものではない。そうではなく、該バイオマーカーは、ある化合物の立体異性体または光学異性体を含みうる。さらに、バイオマーカーは、異性体分子の生物学的クラスの異性体の合計を表しうる。前記異性体は、一部の場合には同質の分析学的特性を示し、したがって下記の実施例において用いられた方法を含め種々の分析法では区別できない。しかしながら、該異性体においては少なくとも同一の合算された式のパラメーターが共通し、したがって例えば脂質の場合などには、同じ鎖長及び脂肪酸および/またはスフィンゴ基部分における同じ二重結合の数を有する。
【0016】
本発明に係る方法において、上述のバイオマーカー群、すなわち表2a, 2b, 3a, 3bに示されるバイオマーカー群、の少なくとも1つの代謝物質を測定するものである。しかし、より好ましくは、評価の特異度及び/又は感度を強化するためにバイオマーカー群を測定しうる。そのような群は、表2a, 2b, 3a, 3bに示されるバイオマーカーの、好ましくは少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも10又は最大全てを含む。
【0017】
好ましくは、該本発明の方法により決定された少なくとも1つのバイオマーカーは、表2a及び2bに示されるカテゴリー1のバイオマーカーまたは表3aおよび3bに示されるカテゴリー2のバイオマーカーである。より好ましくは、該少なくとも1つのバイオマーカーは、カテゴリー1または2のバイオマーカーであり、最も好ましくはそれはカテゴリー1のバイオマーカーである。
【0018】
より好ましくは、該本発明の方法において決定された少なくとも1つのバイオマーカーは、表2aに示されるアミノ酸であり、最も好ましくは、プロリン、トレオニン、オルニチンまたはトランス-4-ヒドロキシプロリンである。2以上のバイオマーカーを決定する場合、好ましくは前記2以上のバイオマーカーは、プロリン、トレオニン、オルニチンおよび/またはトランス-4-ヒドロキシプロリンを、そして好ましくは前記アミノ酸のすべてを、包含することが想定される。
【0019】
より好ましくは、該本発明の方法において決定される少なくとも1つのバイオマーカーは、スフィンゴミエリンである。
【0020】
より好ましくは、該本発明の方法において決定される少なくとも1つのバイオマーカーは、表2aに示される炭水化物、より好ましくはマルトース、マルトトリオースまたはマンノースである。
【0021】
より好ましくは、該本発明の方法において決定される少なくとも1つのバイオマーカーは、補酵素Q10または補酵素Q9である。
【0022】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、前記少なくとも1つのバイオマーカーは、カテゴリー2のバイオマーカーであり、被験体は、より好ましくは、膵臓癌を発症するリスクファクターである、膵炎のような、基礎的な膵臓疾患を示す。
【0023】
本明細書において用いられる代謝物質とは、特定の代謝物質の少なくとも1つの分子から該特定の代謝物質の複数の分子までを指す。さらに、代謝物質の群とは、各代謝物質ごとに少なくとも1分子〜複数分子が存在しうる、複数の化学的に異なる分子を意味することが理解されよう。本発明において、代謝物質は、生物学的材料(生物など)に含まれるものをはじめとするすべてのクラスの有機又は無機の化学化合物を包含する。本発明において、代謝物質は、小分子化合物であることが好ましい。より好ましくは、複数の代謝物質が想定される場合、該複数の代謝物質とは、メタボローム、すなわち、特定の時間に特定の条件下で生物、器官、組織、体液又は細胞に含まれる代謝物質の集合を意味する。
【0024】
本明細書に記載の具体的なバイオマーカーに加えて、他のバイオマーカーも、好ましくは、本発明の方法において決定されうる。かかるバイオマーカーとしては、ペプチドまたはポリペプチドバイオマーカー、またはCA19.9抗原のようなグリコシドが含まれうる。
【0025】
本明細書において用いられる「サンプル」という用語は、体液、好ましくは、血液、血漿、血清、唾液、若しくは尿、又は生検などにより細胞、組織、若しくは器官、特に心臓から得られるサンプルである。サンプルは、より好ましくは血液、血漿又は血清サンプルであり、最も好ましくは血漿サンプルである。生物学的サンプルは、本明細書中の他の箇所に明記されるような被験体に由来するものでありうる。上述のさまざまなタイプの生物学的サンプルを取得するための技術は、当技術分野で周知である。たとえば、血液サンプルは、血液採取により取得可能であり、一方、組織又は器官のサンプルは、例えば生検などにより取得可能である。
【0026】
上述のサンプルは、好ましくは、本発明の方法に使用される前に前処理される。以下にさらに詳細に記載されるように、この前処理としては、化合物の放出若しくは分離又は過剰の材料若しくは廃物の除去に必要な処理が挙げられる。好適な技術としては、化合物の遠心分離、抽出、分画、限外濾過、タンパク質沈降とそれに続く濾過及び精製、並びに/又は濃縮が挙げられる。さらに、化合物の分析に好適な形態又は濃度で化合物を提供するために、他の前処理が行われる。たとえば、本発明の方法でガスクロマトグラフィ連結質量分析を使用する場合、該ガスクロマトグラフィを行う前に化合物を誘導体化する必要があろう。好適な所要の前処理は、本発明の方法を実施するために使用される手段に応じて異なり、当業者に周知である。上に記載したように前処理されたサンプルもまた、本発明に従って用いられる「サンプル」という用語に包含される。
【0027】
本明細書において用いられる「被験体」という用語は、動物、好ましくは哺乳動物を意味する。被験体は、より好ましくは霊長類であり、最も好ましくはヒトである。好ましくは、被験体は、膵臓癌に罹患していることが疑われるもの、すなわち該疾患に伴う症候の一部又は全てを既に示しているものである。しかしながら被験体は、好ましくは、上記疾患及び障害以外は見かけ上健康である。前記被験者は、好ましくは、膵臓癌を発症するリスクが増大している(Brand RE et al ,Gut. 2007;56:1460-9)。より好ましくは、リスクの増大したかかる被験者は、膵臓癌を罹患している1以上の親戚を有する、膵臓癌を発症する明確な遺伝的傾向(ポイツ−ジェガース症候群を含むがこれに限定されない)がある、膵炎を罹患している1以上の親戚を有する、および/または膵炎を発症する明確な遺伝的傾向がある。
【0028】
本明細書において用いられる「量の測定」という用語は、サンプル中の本発明の方法によって測定すべきバイオマーカーの少なくとも1つの特徴的特性を測定することを意味する。本発明において特徴的特性とは、バイオマーカーの物理的性質及び/又は化学的性質(生化学的性質を包含する)を特徴付ける特性のことである。そのような性質としては、たとえば、分子量、粘度、密度、電荷、スピン、光学活性、色、蛍光、化学発光、元素組成、化学構造、他の化合物と反応する能力、生物学的読取り系で応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)などが挙げられる。該性質の値は、特徴的特性として機能しうる。また、当技術分野で周知の技術により測定可能である。さらに、特徴的特性は、標準的操作、たとえば、乗算、除算、又は対数計算のような数学的計算により、バイオマーカーの物理的性質及び/又は化学的性質の値から導かれる任意の特性でありうる。最も好ましくは、少なくとも1つの特徴的特性は、該少なくとも1つのバイオマーカー及びその量の測定及び/又は化学的同定を可能にする。従って、特性値はまた、その特性値を導いたバイオマーカーの存在量に関する情報を含むことが好ましい。例えば、バイオマーカーの特性値は、質量スペクトルのピークでありうる。かかるピークは、バイオマーカーの特徴的な情報、すなわちm/z情報、並びにサンプル中のそのバイオマーカーの存在量(すなわちその量)に関する強度値を含む。
【0029】
上述したように、サンプルに含まれる各バイオマーカーは、好ましくは、本発明に従って定量的又は半定量的に測定可能である。定量的測定では、本明細書において上で参照した特徴的特性(複数可)に関して測定される値に基づいて、バイオマーカーの絶対量若しくは正確な量が測定されるか又はバイオマーカーの相対量が測定されるかのいずれかであろう。バイオマーカーの正確な量を測定できないか又は測定しない場合、相対量を測定しうる。この場合、バイオマーカーの存在量が、該バイオマーカーを第2の量で含む第2のサンプルと対比して増加又は減少しているかどうかを、測定することが可能である。好ましい実施形態において、該バイオマーカーを含む第2のサンプルは、本明細書の他の箇所に記載されるように参照計算値であるべきである。従って、バイオマーカーの定量的分析は、バイオマーカーの半定量的分析と呼ばれることもある分析をも包含する。
【0030】
さらに、本発明の方法に使用される測定は、好ましくは、上で参照した分析ステップの前に化合物分離ステップを使用することを含む。好ましくは、該化合物分離ステップでは、サンプルに含まれる代謝物質の時間分解分離が得られる。したがって、好ましくは、本発明において使用される分離に好適な技術としては、すべてのクロマトグラフィ分離技術、たとえば、液体クロマトグラフィ(LC)、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)、ガスクロマトグラフィ(GC)、薄層クロマトグラフィ、サイズ排除クロマトグラフィ、又はアフィニティークロマトグラフィが挙げられる。これらの技術は、当技術分野で周知であり、当業者であれば労苦もなく適用可能である。最も好ましくは、LC及び/又はGCが、本発明の方法で想定されるクロマトグラフィ技術である。バイオマーカーのそのような測定に好適なデバイスは、当技術分野で周知である。好ましくは、質量分析、特には、ガスクロマトグラフィ質量分析(GC-MS)、液体クロマトグラフィ質量分析(LC-MS)、直接注入質量分析若しくはフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析(FT-ICR-MS)、キャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)、高速液体クロマトグラフィ連結質量分析(HPLC-MS)、四重極質量分析、任意の逐次連結質量分析、たとえばMS-MS若しくはMS-MS-MSなど、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)、熱分解質量分析(Py-MS)、イオン移動度質量分析、又は飛行時間質量分析(TOF)が使用される。最も好ましくは、以下に詳細に記載されるようにLC-MS及び/又はGC-MSが使用される。これらの技術については、たとえば、Nissen, 1995, Journal of Chromatography A, 703:37-57、米国特許第4,540,884号、又は米国特許第5,397,894号(その開示内容は参照により本明細書に組み入れられるものとする)に開示されている。質量分析技術の他の選択肢として又はそれに追加して、次の技術を化合物測定に使用可能である:核磁気共鳴(NMR)、磁気共鳴イメージング(MRI)、フーリエ変換赤外分析(FT-IR)、紫外(UV)分光、屈折率(RI)、蛍光検出、放射化学的検出、電気化学的検出、光散乱(LS)、分散ラマン分光、又はフレームイオン化検出(FID)。これらの技術は、当業者に周知であり、労苦もなく適用可能である。本発明の方法は、好ましくは、自動化により支援されるものとする。たとえば、サンプルの処理又は前処理をロボット工学により自動化することが可能である。データの処理及び比較は、好ましくは、好適なコンピュータプログラム及びデータベースにより支援される。上で本明細書に記載したような自動化を行えば、本発明の方法をハイスループット方式で使用することが可能である。
【0031】
さらに、少なくとも1つのバイオマーカーはまた、特異的な化学的アッセイ又は生物学的アッセイにより測定可能である。該アッセイは、サンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーを特異的に検出できるような手段を含むものとする。好ましくは、該手段は、バイオマーカーの化学構造を特異的に認識可能であるか、又は他の化合物と反応する能力若しくは生物学的読取り系で応答を引き起こす能力(たとえば、レポーター遺伝子の誘導)に基づいてバイオマーカーを特異的に同定可能である。バイオマーカーの化学構造を特異的に認識可能な手段は、好ましくは、化学構造(たとえば、レセプター若しくは酵素)と特異的に相互作用する抗体又は他のタンパク質である。たとえば、特異的抗体は、当技術分野で周知の方法によりバイオマーカーを抗原として用いて取得可能である。本明細書中で参照される抗体は、ポリクロナール抗体及びモノクロナール抗体の両方、さらにはそれらのフラグメント、たとえば、抗原又はハプテンに結合可能なFv、Fab、及びF(ab)2フラグメントを包含する。本発明はまた、所望の抗原特異性を呈する非ヒトドナー抗体のアミノ酸配列とヒトアクセプター抗体の配列とが組み合わされたヒト化ハイブリッド抗体を包含する。さらに、一本鎖抗体も包含される。ドナー配列は、通常、ドナーの少なくとも抗原結合性アミノ酸残基を含むであろうが、ドナー抗体の他の構造上及び/又は機能上適合するアミノ酸残基をも含みうる。そのようなハイブリッドは、当技術分野で周知のいくつかの方法により調製可能である。バイオマーカーを特異的に認識可能な好適なタンパク質は、好ましくは、該バイオマーカーの代謝変換に関与する酵素である。該酵素は、バイオマーカーを基質として使用可能であるか又は基質をバイオマーカーに変換可能である。さらに、該抗体は、バイオマーカーを特異的に認識するオリゴペプチドを生成する基礎として使用可能である。これらのオリゴペプチドは、たとえば、該バイオマーカーに対する酵素の結合ドメイン又は結合ポケットを含むものとする。好適な抗体及び/又は酵素に基づくアッセイは、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫検査、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増強ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、又は固相免疫検査でありうる。さらに、他の化合物と反応する能力に基づいて、すなわち、特異的な化学反応により、バイオマーカーを測定することも可能である。さらに、生物学的読取り系で応答を引き起こす能力に基づいて、サンプル中のバイオマーカーを測定することが可能である。生物学的応答は、サンプルに含まれるバイオマーカーの存在及び/又は量を示す読取り値として検出されるものとする。生物学的応答は、たとえば、遺伝子発現の誘導又は細胞若しくは生物の表現型応答でありうる。好ましい実施形態において、少なくとも1つのバイオマーカーの測定は、定量的方法、例えばサンプル中の少なくとも1つのバイオマーカーの量の測定もまた可能とする方法である。
【0032】
上に記載のように、少なくとも1つのバイオマーカーの測定は、好ましくは、質量分析(MS)を含む。本明細書において用いられる質量分析には、本発明に従って測定しようとする化合物、すなわちバイオマーカーに対応する分子量(すなわち質量)又は質量変数の測定を可能にする全ての技術が含まれる。本明細書において用いられる質量分析は、好ましくは、GC-MS、LC-MS、直接注入質量分析、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析、逐次連結質量分析、例えばMS-MS若しくはMS-MS-MS、ICP-MS、Py-MS、TOF、又は上記技術を用いた併用手法に関する。これらの技術を適用する方法は当業者に周知である。さらに、好適なデバイスは市販されている。より好ましくは、本明細書において用いられる質量分析はLC-MS及び/又はGC-MS、すなわち、前のクロマトグラフィー分離ステップと動作可能に連結された質量分析に関する。より好ましくは、本明細書において用いられる質量分析には四重極MSが含まれる。最も好ましくは、四重極MSは以下のように実施する:(
a)質量分析器の最初の分析四重極におけるイオン化により生じるイオンの質量/電荷指数(m/z)の選択、(b)衝突ガスで満たされ、衝突室として機能する、さらに次の四重極に加速電圧を印加することによる、ステップ(a)で選択されたイオンのフラグメンテーション、(c)さらに次の四重極における、ステップ(b)のフラグメンテーションプロセスにより生じるイオンの質量/電荷指数の選択であって、それにより上記方法のステップ(a)〜(c)は、イオン化プロセスの結果として物質の混合物中に存在する全てのイオンの質量/電荷指数の分析を少なくとも1回行い、それにより四重極が衝突ガスで満たされるが、加速電圧は分析中には印加されない。本発明において用いるべき最も好ましい質量分析についての詳細はWO 03/073464号に見出すことができる。
【0033】
より好ましくは、質量分析は、液体クロマトグラフィ(LC)MS及び/又はガスクロマトグラフィ(GC)MSである。本明細書において用いられる液体クロマトグラフィとは、液相又は超臨界相における化合物(すなわち代謝物質)の分離を可能にする全ての技術を意味する。液体クロマトグラフィは、移動相中の化合物が固定相を通過することを特徴とする。化合物が異なる速度で固定相を通過する場合には、これらは、個々の化合物の各々がその特異的な保持時間(すなわち、化合物がシステムを通過するのに必要な時間)を有するため、所定時間で分離される。本明細書において用いられる液体クロマトグラフィにはHPLCも含まれる。液体クロマトグラフィ用の装置は市販されており、例えばAgilent Technologies, USAから入手可能である。本発明において使用されるガスクロマトグラフィは、原理として、液体クロマトグラフィと同等に動作する。しかし、液体移動相中の化合物(すなわち代謝物質)を固定相を通過させるのではなく、化合物は気体容積中に存在する。化合物は、固定相として固体支持体材料を含むカラム、又は固定相として機能する若しくはそれでコーティングされた壁を通過する。同様に、各化合物は、カラムを通過するのに要する特異的な時間を有する。さらにガスクロマトグラフィの場合には、 好ましくは、ガスクロマトグラフィの前に化合物を誘導体化することが想定される。誘導体化の好適な技術は当技術分野で周知である。好ましくは、本発明において誘導体化は、好ましくは極性化合物のメトキシ化(methoxymation)及びトリメチルシリル化、並びに、好ましくは非極性(すなわち親油性)化合物のメチル基転移、メトキシ化(methoxymation)及びトリメチルシリル化に関する。
【0034】
「参照」という用語は、本明細書において記載する医学的症状、すなわち疾患の有無、疾患の状態又は効果に相関付けることのできる、各バイオマーカーの特徴的特性の値を意味する。好ましくは、参照は、検査対象のサンプルに見いだされる、閾値と本質的に同じ又はそれより高い値が医学的状態の存在の指標となり、一方、低い値が医学的状態の不在の指標となる、バイオマーカーの閾値(例えば、量又は量の比)である。また好ましくは、参照は、検査対象のサンプル中に見いだされる、閾値と同じ又はそれより低い値が医学的状態の存在の指標となり、一方、高い値が医学的状態の不在の指標となる、バイオマーカーの閾値であってもよいことが理解されよう。
【0035】
上述の本発明の方法において、参照は、好ましくは、膵臓癌に罹患していることがわかっている被験体又は被験体群由来のサンプルから得られる参照である。このような場合、試験サンプル中に見いだされる少なくとも1つのバイオマーカーの本質的に同じ値は、疾患の存在の指標となる。さらに、参照は、同様に好ましくは、膵臓癌に罹患していないことがわかっている被験体又は被験体群、好ましくは見かけ上健康な被験体から得られる。このような場合、試験サンプル中に見いだされる少なくとも1つのバイオマーカーの、参照と比較して変化した値は、疾患の存在の指標となる。参照計算値、最も好ましくは、検査される被験体を含む個体集団の少なくとも1つのバイオマーカーの相対値又は絶対値の平均値又は中央値にも同じことが当てはまる。該集団の個体の少なくとも1つのバイオマーカーの絶対値又は相対値は、本明細書中の他の箇所に明記されるように測定可能である。好適な参照値、好ましくは平均値又は中央値の計算方法は、当技術分野で周知である。上で参照した被験体集団は、複数の被験体、好ましくは、少なくとも5、10、50、100、1,000、又は10,000の被験体を含むものとする。本発明の方法により診断される被験体と該複数の被験体の被験体とは、同一種であることが理解されよう。
【0036】
特徴的特性の値、定量的測定の場合は強度値が本質的に同一であれば、試験サンプルの少なくとも1つのバイオマーカーの値と参照値とは本質的に同一である。本質的に同一とは、2つの値の差が、好ましくは、有意ではないことを意味し、強度の値が参照値に基づいて少なくとも1〜99パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、40〜60パーセンタイルの範囲内、好ましくは参照値に基づいて50、60、70、80、90、若しくは95パーセンタイルであることを特徴とする。2つの量が本質的に同じであるかどうかを決定するための統計学的検定は当技術分野で周知であり、また本明細書の他の箇所において記載されている。
【0037】
一方、2つの値について観察される差は統計学的に有意な差である。相対値又は絶対値の差は、好ましくは、参照値に基づいて、45〜55パーセンタイル、40〜60パーセンタイル、30〜70パーセンタイル、20〜80パーセンタイル、10〜90パーセンタイル、5〜95パーセンタイル、1〜99パーセンタイルの著しい範囲外にある。中央値の好ましい変化及び比は、添付の表と実施例に記載している。
【0038】
好ましくは、参照、すなわち少なくとも1つのバイオマーカーの少なくとも1つの特徴的特性の値又はその比は、データベースのような好適なデータ記憶媒体中に記憶されて、従って、将来の評価にも利用可能となる。
【0039】
「比較」という用語は、バイオマーカーの測定値が、参照と本質的に同一であるか、又は参照と差がある(異なっている)かを判定することを指す。好ましくは、バイオマーカーの値は、観察される差が本明細書の他の箇所で記載する統計学的手法により決定することができる、統計学的に有意である場合に、参照と差がある(異なる)とみなされる。差が統計学的に有意ではない場合には、バイオマーカーの値及び参照は本質的に同一である。上に記載した比較に基づいて、被験体は、疾患に罹患しているか又は罹患していないと評価することができる。
【0040】
本明細書中で参照される具体的バイオマーカーについて、相対的な量または比の変化(すなわち、中央値の比として示される変化)の好ましい値は下記の表に記載されている。膵臓癌を罹患している被験者と見かけ上健康な対照とに見出される代謝産物の量の比および下記表2a, 2b, 3a, 3bに示される計算されたt-値に基づいて、表2a, 2b, 3a, 3bの所定のバイオマーカーの増加または減少が膵臓癌の存在を示すか否か導出することができる。あるバイオマーカーの負のt-値は、低下が膵臓癌の存在を示し、正のt-値は当該バイオマーカーの増大が膵臓癌の存在を示す。前記の場合における参照は、膵臓癌を罹患していないことが知られている被験者または被験者集団から導かれるか、本明細書の他の箇所において定義される計算された参照である。
【0041】
比較は、好ましくは、自動化により支援される。たとえば、2つの異なるデータセット(たとえば、特徴的特性(複数可)の値を含むデータセット)を比較するためのアルゴリズムを含む好適なコンピュータプログラムを使用することが可能である。そのようなコンピュータプログラム及びアルゴリズムは、当技術分野で周知である。上に述べたとおりであるが、手動で比較を行うことも可能である。
【0042】
有利なことに、本発明の基礎となる研究において、前述した具体的バイオマーカーの量は、膵臓癌の指標であることが見いだされた。従って、原則として、サンプル中の前記バイオマーカーの少なくとも1つを用いて、被験体が膵臓癌に罹患しているかどうかを評価することができる。これは、特に、疾患の効率的な診断、並びに膵臓癌の前臨床及び臨床管理の改善、並びに患者の効率的なモニタリングに役立つ。さらに、本発明の基礎となる知見はまた、以下に詳しく記載するように、膵臓癌に対するさらに効果的な薬物療法又は他の介入処置の開発も促進する。
【0043】
上記の用語の定義および説明は、特に断らない限り、本発明の下記の実施形態についても変更すべき箇所は変更して、同様に適用される。
【0044】
本発明はまた、被験者が膵臓癌の治療または療法の変更を必要としているか決定する方法であって、本発明の方法の工程、および診断がなされたら膵臓癌の治療を必要とする被験体を同定するさらなる工程を含む方法に関する。
【0045】
本明細書において用いる「膵臓癌の治療を必要とする」との句は、被験体における疾患が、膵臓癌またはそれと関連する症状を改善または処置するために治療的介入が必要または有益である状態にあることを意味する。したがって本発明の根底をなす研究による知見は、被験者における膵臓癌診断を可能とするのみならず、膵臓癌療法により処置されるべき、または膵臓癌療法が調節を必要とする被験体を同定することを可能とする。被験体が一度同定されると、本発明の方法は、膵臓癌の治療について助言をするステップをさらに含みうる。
【0046】
本発明にしたがって用いられる膵臓癌の治療法は、好ましくは、外科手術、放射線療法または薬剤療法を含む。好ましくは外科手術に基づく治療法としては、膵臓またはその一部の切除、例えば膵頭十二指腸切除術、尾部膵切除術、部分的または完全膵切除術、苦痛緩和的橋渡し手当が挙げられる。薬剤に基づく治療法は、好ましくは抗腫瘍特性を有する1以上の薬剤の投与を含み、そのような薬剤としては、限定するものではないが、白金誘導体、フルオロピリミジン、ピリミジンアナログ、ゲムシタビン、代謝拮抗物質、アルキル化剤、アントラサイクリン類、植物アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、標的化抗体およびチロシンキナーゼ阻害剤が挙げられる。
【0047】
本発明はさらに、本発明の方法の工程、および膵臓癌がないと診断される場合には治療が成功したかを決定するさらなる工程を含む、被験体における膵臓癌に対する治療が成功しているか決定する方法に関する。
【0048】
膵臓癌または少なくともその一部の症状が、未処置の被験体と比較して治療されるまたは改善されると、膵臓癌治療は成功したと理解される。さらに、疾患進行が阻止されるまたは未処置の被験体と比較して少なくとも遅延されると、本明細書において治療は成功したといえる。
【0049】
本発明はまた、以下を含む、被験体のサンプル中の膵臓癌を診断するためのデバイスまたはシステムに関する:
(a) 表2a, 2b, 3a, 3bの少なくとも1つのバイオマーカーのための検出器を含む、該被験体の前記サンプルのための分析ユニット、前記検出器はサンプル中の前記少なくとも1つのバイオマーカーの量の決定を可能とするものである、およびそれに機能的に連結されている、
(b) データ処理ユニットおよびデータベースを備えた評価ユニット、前記データベースは、格納されたされた参照を含み、前記データ処理ユニットは(i) 前記分析ユニットにより決定された少なくとも1つのバイオマーカーの量と格納された参照との比較を実行し、かつ(ii)診断をそれに基づいて行うことができる出力情報を生成することができる。
【0050】
本明細書において用いるデバイスは、少なくとも前述のユニットを含むべきである。該デバイスのユニットは、互いに機能的に連結されている。どのように手段を機能的に連結するかは、デバイスに含まれるユニットの種類による。例えば検出器によりバイオマーカーの自動的な定性的または定量的決定が可能である場合、かかる自動的可動分析ユニットにより取得されたデータは、評価ユニットにおける評価を促進するために、例えばコンピュータプログラムにより処理されうる。好ましくは、ユニットはかかるケース内の単一デバイスに含まれる。前記デバイスはしたがって、バイオマーカーのための分析ユニットと、評価のための結果的に得られるデータを処理するため、および出力情報を集めるためのコンピュータまたはデータ処理デバイスを含みうる。好ましいデバイスは特化した臨床医の特定の知識なしに適用可能なものであり、例えばサンプルの充填を必要とするに過ぎない電子デバイスである。デバイスの出力情報は、好ましくは、膵臓癌の存在または不在について結論付けることを可能にする数値であり、したがって診断の補助となる。より好ましくは、出力情報は前述の数値に基づく予備的診断であり、すなわち被験体が膵臓癌を罹患しているか否かを示す分類詞である。かかる予備的診断は、専門知識データベースシステムを追加することにより本発明のデバイスにおいて提供することができる、さらなる情報の評価を必要としうる。
【0051】
他の選択肢として、前記ユニットは、互いに動作可能に連結された、いくつかのデバイスを含むシステムに組み込むことが可能である。本発明のシステムに使用されるユニットに応じて、該手段間のデータ伝送を可能にする手段、たとえば、ガラスファイバーケーブル及びハイスループットデータ伝送用の他のケーブルを用いて各手段を他の手段に接続することにより、該手段を機能的に連結することが可能である。それにもかかわらず、本発明では、たとえばLAN(無線LAN、W-LAN)を介する手段間の無線データ転送も想定される。好ましいシステムは、バイオマーカーを測定する手段を含む。本明細書において用いられるバイオマーカーの測定手段とは、バイオマーカーの分離手段(たとえばクロマトグラフィデバイス)、及び代謝物質の測定手段(たとえば質量分析デバイス)を含むものである。好適なデバイスについては、上に詳細に記載されている。本発明のシステムに使用される好ましい化合物分離手段としては、クロマトグラフィデバイス、より好ましくは液体クロマトグラフィ用、HPLC用、及び/又はガスクロマトグラフィ用のデバイスが挙げられる。好ましい化合物測定デバイスは、質量分析デバイス、より好ましくはGC-MS、LC-MS、直接注入質量分析器、FT-ICR-MS、CE-MS、HPLC-MS、四重極質量分析器、逐次連結質量分析器(たとえばMS-MS若しくはMS-MS-MS)、ICP-MS、Py-MS又はTOFを含む。好ましくは、分離手段と測定手段とを互いに連結させる。最も好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されるように、LC-MS及び/又はGC-MSを本発明のシステムに使用する。さらに、バイオマーカーの測定手段から得られた結果の比較手段及び/又は分析手段も含まれるものとする。結果の比較手段及び/又は分析手段は、少なくとも1つのデータベース、及び結果を比較するために実装されたコンピュータプログラムを含みうる。また、上述のシステム及びデバイスの好ましい実施形態については、以下に詳細に記載する。
【0052】
さらに本発明は、上に記載の医学的状態又は効果の指標(すなわち、被験体における膵臓癌の診断、被験体が膵臓癌の治療を必要とするか否かの特定、又は膵臓癌の治療が成功したか否かの判定)となる少なくとも1つのバイオマーカーの特性値を含むデータ集合に関する。
【0053】
「データ集合」という用語は、物理的及び/又は論理的に一まとめにしうるデータの集合を意味する。したがって、データ集合は、単一のデータ記憶媒体又は互いに動作可能に連結された物理的に分離されたデータ記憶媒体に組込み可能である。好ましくは、データ集合は、データベースを利用して実装される。したがって、本明細書において用いられるデータベースとは、好適な記憶媒体上のデータ集合を包含するものである。さらにデータベースは、好ましくは、データベース管理システムをも含む。データベース管理システムは、好ましくは、ネットワーク型、階層型、又はオブジェクト指向型のデータベース管理システムである。そのうえさらに、データベースは、連邦データベース又は統合データベースでありうる。より好ましくは、データベースは、分散型(連邦)システムとして、たとえばクライアントサーバシステムとして実装されるであろう。より好ましくは、データベースは、検索アルゴリズムにより試験データセットをデータ集合に含まれるデータセットと比較できるように構築可能である。具体的には、そのようなアルゴリズムを用いて、上に記載した医学的状態又は効果の指標となる類似又は同一のデータセットが得られるように、データベースを検索することが可能である(たとえば、クエリー検索)。したがって、データ集合で同一又は類似のデータセットを同定できれば、試験データセットは、該医学的状態又は効果と関連付けられるであろう。その結果として、データ集合から得られた情報を、例えば上述した本発明の方法のための参照として用いることが可能である。より好ましくは、データ集合は、上で記載した群のいずれかに含まれるすべてのバイオマーカーの特性値を含む。
【0054】
上記を考慮して、本発明は、上述のデータ集合を含むデータ記憶媒体を包含する。
【0055】
本明細書において用いられる「データ記憶媒体」という用語は、単一の物理的要素に基づくデータ記憶媒体、たとえば、CD、CD-ROM、ハードディスク、光記憶媒体、又はディスケットを包含する。さらに、この用語は、好ましくはクエリー検索に好適な方式で、上述のデータ集合を提供するように互いに動作可能に連結された物理的に分離された要素よりなるデータ記憶媒体をも包含する。
【0056】
本発明はまた、
(a)サンプルの少なくとも1つのバイオマーカーの特性値を比較するための手段と、それと動作可能に連結された
(b)上に記載したようなデータ記憶媒体
とを含むシステムに関する。
【0057】
本明細書において用いられる「システム」という用語は、互いに動作可能に連結された異なる手段に関する。該手段は、単一のデバイスに組み込みうるか、又は互いに動作可能に連結された物理的に分離されたデバイスでありうる。バイオマーカーの特性値を比較するための手段は、好ましくは、上で述べたような比較用のアルゴリズムに基づいて動作する。データ記憶媒体は、好ましくは、それぞれの記憶データセットが上で記載した医学的状態又は効果の指標となる上述のデータ集合又はデータベースを含む。したがって、本発明のシステムを用いれば、データ記憶媒体に記憶されたデータ集合に試験データセットが含まれるかどうかを同定することが可能である。その結果として、本発明の方法は、本発明のシステムにより実施することができる。
【0058】
システムの好ましい実施形態では、サンプルのバイオマーカーの特性値を測定する手段が含まれる。「バイオマーカーの特性値を測定する手段」という用語は、好ましくは、代謝物質を測定するための上述のデバイス、たとえば、質量分析デバイス、NMRデバイス、又はバイオマーカーの化学的アッセイ若しくは生物学的アッセイを行うためのデバイスを意味する。
【0059】
さらに本発明は、上に記載した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段を含む診断用手段に関する。
【0060】
「診断用手段」という用語は、好ましくは、本明細書中の他の箇所に詳細に明記されるような診断用デバイス、システム、又は生物学的アッセイ若しくは化学的アッセイを意味する。
【0061】
「少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段」という表現は、バイオマーカーを特異的に認識可能なデバイス又は作用剤を意味する。好適なデバイスは、分光測定デバイス、たとえば、質量分析デバイス、NMRデバイス、又はバイオマーカーの化学的アッセイ若しくは生物学的アッセイを行うためのデバイスでありうる。好適な作用剤は、バイオマーカーを特異的に検出する化合物でありうる。本明細書において用いられる検出とは、二工程プロセスであってもよい。すなわち、最初に、化合物を検出対象のバイオマーカーに特異的に結合させ、続いて、検出可能なシグナル、たとえば、蛍光シグナル、化学発光シグナル、放射性シグナルなどを発生させることが可能である。検出可能なシグナルを発生させるために、さらなる化合物が必要になることもある。こうした化合物はすべて、「少なくとも1つのバイオマーカーの測定手段」という用語に包含される。バイオマーカーに特異的に結合する化合物は、本明細書中の他の箇所に詳細に記載されており、好ましくは、酵素、抗体、リガンド、レセプター、又はバイオマーカーに特異的に結合する他の生物学的分子若しくは化学物質などである。
【0062】
さらに本発明は、上に記載した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーを含む診断用組成物に関する。
【0063】
上述した群のいずれかから選択される少なくとも1つのバイオマーカーは、バイオマーカー、すなわち本明細書の他の箇所に記載したように被験体の医学的状態又は効果についての指標分子として機能するだろう。従って、バイオマーカー分子自体は、診断用組成物として、好ましくは本明細書において記載する手段によって可視化又は検出する際の診断用組成物として機能しうる。従って、本発明に従ってバイオマーカーの存在を示す診断用組成物はまた、物理的にはバイオマーカー、例えば抗体の複合体を含んでもよく、検出対象のバイオマーカーは診断用組成物として機能する。そのため、診断用組成物はさらに、本明細書の他の箇所に記載される代謝物質の検出用手段を含んでもよい。あるいは、検出手段、例えばMS又はNMRに基づく技術を使用する場合には、リスク状態の指標として機能する分子種は、検査対象の試験サンプルに含まれる少なくとも1つのバイオマーカーでありうる。従って、本発明に関して記載する少なくとも1つのバイオマーカーは、バイオマーカーとしてその同定のために、それ自体が診断用組成物として機能しうる。
【0064】
一般に、本発明は、表2a, 2b, 3a, 3bの少なくとも1つのバイオマーカーの、膵臓癌診断のための被験体のサンプルにおける使用を想定する。
【0065】
本明細書において引用したすべての参照文献は、その開示内容全般に関して又は上に示した具体的な開示内容に関して、本明細書に参照として組み込むものとする。
本発明の様々な態様を以下に示す。
1.対象において膵臓がんを診断する方法であって、
(a)膵臓がんに罹患している疑いのある対象のサンプル中において、表2a、2b、3a、3bの少なくとも1種のバイオマーカーの量を測定するステップと、
(b)少なくとも1種のバイオマーカーの前記量を参照と比較し、それによって膵臓がんが診断され得るステップとを含む方法。
2.前記参照が、膵臓がんに罹患していないことが知られている対象若しくは対象群に由来するか、又は計算された参照である、上記1に記載の方法。
3.前記参照が、膵臓がんに罹患していることが知られている対象又は対象群に由来する、上記1に記載の方法。
4.対象が膵臓がん治療を必要とするかどうかを同定するための方法であって、上記1から3のいずれかに記載の方法のステップと、前記対象が膵臓がんに罹患していると診断される場合、膵臓がん治療を必要とする対象を同定するさらなるステップとを含む方法。
5.対象において膵臓がんに対する治療が成功するかどうかを決定する方法であって、上記1から3のいずれかに記載の方法のステップと、膵臓がんと診断されない場合、治療が成功するかどうかを決定するさらなるステップとを含む方法。
6.前記膵臓がん治療が、手術、放射線治療又は薬物療法を含む、上記4又は5に記載の方法。
7.前記サンプルが、血漿、血液又は血清サンプルである、上記1から6のいずれかに記載の方法。
8.前記対象がヒトである、上記1から7のいずれかに記載の方法。
9.前記膵臓がんが膵臓腺癌である、上記1から9のいずれかに記載に記載の方法。
10.前記少なくとも1種のバイオマーカーがカテゴリー2のバイオマーカーである、上記1から9のいずれかに記載の方法。
11.前記対象が、膵臓の基礎疾患として膵炎を示す、上記10に記載の方法。
12.対象のサンプルにおいて膵臓がんを診断するための装置であって、
a)表2a、2b、3a、3bの少なくとも1種のバイオマーカーの検出器を含む前記対象の前記サンプルのための分析ユニットであり、前記検出器が前記サンプル中の前記少なくとも1種のバイオマーカーの量の測定を可能にする、前記分析ユニットと、
前記分析ユニットと操作可能に連結した、
(b)データ処理ユニット及びデータベースを含む評価ユニットであり、前記データベースが保存された参照を含み、前記データ処理ユニットが(i)前記分析ユニットによって測定された前記少なくとも1種のバイオマーカーの前記量と保存された参照の比較を実施すること、及び(ii)診断を確立させ得る基礎となる出力情報を生成することを可能にする、前記評価ユニットとを含む装置。
13.膵臓がんを診断するため、膵臓がんに罹患している疑いのある対象のサンプル中における表2a、2b、3a、3bの少なくとも1種のバイオマーカーの使用。
【0066】
以下の実施例により、本発明を説明するが、該実施例によって本発明の範囲を制限又は限定する意図はない。
【0067】
(実施例)
以下の実施例により、本発明を説明するが、該実施例によって本発明の範囲を制限又は限定する意図はない。
【実施例1】
【0068】
サンプル調製およびMS分析
38の膵臓腺癌血漿サンプル、20のアルコール性肝硬変患者の血漿サンプル、および41のアルコール性慢性膵炎を罹患している患者の血漿サンプルの分析からは、107の可能性のあるバイオマーカー候補が明らかにされ、これらを2つのカテゴリーに分類した。血漿サンプルの分析は以下のように行った:
血漿サンプルを、以下に記載するように調製し、LC-MS/MS及びGC-MS又はXLC-MS/MS(ホルモン)分析に供した。
【0069】
サンプルは以下のように調製した。タンパク質を血漿から沈降により分離した。水、及びエタノールとジクロロメタンの混合物を加えた後、残留サンプルを極性の水相と親油性の有機相に分画した(脂質画分)。
【0070】
脂質抽出物のトランスメタノリシスのために、140μlのクロロホルム、37μlの塩酸(37重量%HCl水溶液)、320μlのメタノール及び20μlのトルエンの混合物を、蒸発させた抽出物に加えた。その容器を密封し、100℃にて振とうしながら2時間加熱した。次いで溶液を蒸発乾固させた。残留物を完全に乾燥した。
【0071】
カルボニル基のメトキシム化を、密封した容器中でメトキシアミン塩酸塩(ピリジン中の20mg/ml、100μl、1.5時間、60℃にて)との反応によって行った。奇数炭素数の直鎖脂肪酸の溶液20μl(3/7(v/v)ピリジン/トルエン中の、7〜25個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.3mg/mLと27、29及び31個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.6mg/mLの溶液)を時間標準として加えた。最後に、100μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を60℃にて30分間、密封した容器中で再び行った。GC中への注入前の最終体積は220μlであった。
【0072】
極性相については、次の手順で誘導体化を実施した。カルボニル基のメトキシム化を、密封した容器中でメトキシアミン塩酸塩(ピリジン中の20mg/ml、50μl、1.5時間、60℃にて)との反応によって行った。奇数炭素数の直鎖脂肪酸の溶液10μl(3/7(v/v)ピリジン/トルエン中の、7〜25個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.3mg/mLと27、29及び31個の炭素原子の脂肪酸それぞれ0.6mg/mLの溶液)を時間標準として加えた。最後に、50μlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)-2,2,2-トリフルオロアセトアミド(MSTFA)による誘導体化を60℃にて30分間、密封した容器中で再び行った。GC中への注入前の最終体積は110μlであった。
【0073】
GC-MSシステムはAgilent 5973 MSDと連結したAgilent 6890 GCから成る。自動サンプラーはCTCからのCompiPal又はGCPalである。
【0074】
分析については、通常の市販キャピラリー分離カラム(30m x 0.25mm x 0.25μm)を使用し、このカラムは分析サンプル材料と相分離ステップからの画分に応じて0%〜35%の芳香族部分を含有する異なるポリ-メチル-シロキサン固定相を備えた(例えば: DB-1ms、HP-5ms、DB-XLB、DB-35ms、Agilent Technologies)。1μLまでの最終体積を分割せずに注入し、オーブン温度プログラムを70℃にてスタートし、十分なクロマトグラフィ分離と各アナライトピークの走査数を達成するために、サンプル材料と相分離ステップからの画分に応じて異なる昇温速度で340℃にて終了した。さらにRTL(Retention Time Locking(保持時間ロッキング)、Agilent Technologies)を分析に使用し、通常のGC-MS標準条件、例えば名目上1〜1.7ml/分の定常流、及び移動相ガスとしてヘリウム、イオン化を70eVの電子衝突で行い、m/z範囲15〜600内で2.5〜3走査/秒の走査速度及び標準チューン条件により走査した。
【0075】
HPLC-MSシステムはAPI 4000質量分析計(Applied Biosystem/MDS SCIEX、Toronto、Canada)と連結したAgilent 1100 LCシステム(Agilent Technologies、Waldbronn、Germany)から構成された。HPLC分析は、C18固定相(例えば:GROM ODS 7 pH、Thermo Betasil C18)を備えた市販の逆相分離カラムで実施した。10μLまでの最終サンプル体積の蒸発させかつ再構成した極性及び親油性相を注入し、分離はメタノール/水/ギ酸又はアセトニトリル/水/ギ酸勾配を用いて200μL/分の流量にて勾配溶出により実施した。
【0076】
質量分析は、エレクトロスプレーイオン化により非極性画分についてはポジティブモードでそして極性(脂質)画分についてはネガティブモードで、多重反応モニタリング(MRM)モード及び100〜1000amuのフルスキャンを用いて行った。
【0077】
血漿サンプル中の複合脂質の分析:
クロロホルム/メタノールを使用した液/液抽出によって、血漿から全脂質を抽出した。
【0078】
脂質抽出物はその後、Christie (Journal of Lipid Research (26)、1985、507-512)にしたがって、順相液体クロマトグラフィー(NPLC)によって11種類の様々な脂質群に分画した。
【0079】
脂質の種類、遊離脂肪酸(FFA)、ジアシルグリセリド(DAG)、トリアシルグリセリド(TAG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、遊離ステロール(FS)、ホスファチジルセリン(PS)はGCによって測定した。
【0080】
画分は、TMSH(トリメチルスルホニウムヒドロキシド)で誘導化し、種類別にした脂質のアシル部分に対応する脂肪酸メチルエステル(FAME)を生成した後、GC-MSによって分析した。C14からC24までのFAMEの濃度を、各画分において測定した。
【0081】
脂質の種類、コレステリルエステル(CE)及びスフィンゴミエリン(SM)は、エレクトロスプレーイオン化(ESI)及び大気圧化学イオン化(APCI)を使用し、コレステリルエステル及びスフィンゴミエリンそれぞれの特異的多重反応モニタリング(MRM)トランジションを検出するLC-MS/MSによって分析した。
【0082】
血漿サンプル中のステロイド及びカテコールアミンの分析:
ステロイド及びそれらの代謝物は、オンラインSPE-LC-MS(固相抽出LC-MS)によって測定した。カテコールアミン及びそれらの代謝物は、Yamadaら[21]によって記載されたように、オンラインSPE-LC-MSによって測定した。Yamada H、 Yamahara A、 Yasuda S、 Abe M、 Oguri K、 Fukushima S、 Ikeda-Wada S:「メタンフェタミンのダンシルクロリド誘導体化:尿中のメタンファタミンのスクリーニング及び分析に有利な方法。」Journal of Analytical Toxicology、26(1):17-22(2002)。
【0083】
血漿サンプル中のエイコサノイドの分析
エイコサノイド及び関連物は、オフライン及びオンラインSPE LC-MS/MS(固相抽出LC-MS/MS)(Masoodi M及びNicolaou A:Rapid Commun Mass Spectrom.2006 ; 20(20): 3023-3029)によって血漿から測定した。絶対定量は、安定な同位体標識標準法によって実施した。
【実施例2】
【0084】
データの評価
血漿サンプルは、各サンプルの一定分量から作製したプールサンプル(いわゆる「プール」)を用いて、分析順序をランダム化したデザインで分析した。生のピークデータは、方法によるばらつき(いわゆる、比)を考慮して、分析順序毎のプールの中央値に対して正規化した。比は、データの正常な分布に近づけるためにlog10変換した。統計学的分析は、以下の固定効果:疾患、肥満度指数(BMI)、年齢、保存時間(保存)及び募集した地域(地域)を用いて簡単な線型モデル(ANOVA)によって行った。
【0085】
疾患+BMI+年齢+保存+地域
ANOVAモデルの結果から、膵臓がんのバイオマーカーを同定するために二つの異なるアプローチを適用した。これらの異なるアプローチによって、表1で説明した様々なバイオマーカーカテゴリーが生じ、同定されたバイオマーカーは以下の表2a、2b、3a、3bに挙げる。
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【0088】
【0089】
【表3】
【0090】