特許第6286497号(P6286497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシテイの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286497
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】太陽電池用のグラフェン電極
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/20 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   H01G9/20 115A
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-160481(P2016-160481)
(22)【出願日】2016年8月18日
(62)【分割の表示】特願2013-533005(P2013-533005)の分割
【原出願日】2011年10月10日
(65)【公開番号】特開2017-11285(P2017-11285A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2016年9月16日
(31)【優先権主張番号】61/391,668
(32)【優先日】2010年10月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】599032589
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシテイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・ディー・ロイ−メイヒュー
(72)【発明者】
【氏名】イルハン・エー・アクセイ
【審査官】 近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6027008(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンシートおよび少なくとも1つのバインダーを含む組成物を含む、太陽電池電極であって、
前記バインダーはポリマーバインダーであり、
前記太陽電池電極の表面の少なくとも一部が100Ω/sq以下の抵抗を有し、
前記グラフェンシートの炭素:酸素のモル比が10:1〜30:1であり、
前記グラフェンシートは100から100000の数平均アスペクト比を有する、電極。
【請求項2】
色素増感太陽電池電極の形態である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
触媒対向電極の形態である、請求項1に記載の電極。
【請求項4】
前記組成物が基板に付着される、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記組成物がさらにグラファイトを含む、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
前記グラフェンシートが少なくとも300m/gの表面積を有する、請求項1に記載の電極。
【請求項7】
前記基板が柔軟である、請求項4に記載の電極。
【請求項8】
表面の少なくとも一部が25Ω/sq以下の抵抗を有する、請求項1に記載の電極。
【請求項9】
グラフェンシートおよび少なくとも1つのバインダーを含む組成物を含む電極を太陽電池内部に組み込む段階を含む、色素増感太陽電池電極を作製する方法であって、
前記バインダーはポリマーバインダーであり、
前記太陽電池電極の表面の少なくとも一部が100Ω/sq以下の抵抗を有し、
前記グラフェンシートの炭素:酸素のモル比が10:1〜30:1であり、
前記グラフェンシートは100から100000の数平均アスペクト比を有する、方法。
【請求項10】
前記組成物が基板にコーティングされ、電極を形成する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
グラフェンシートが少なくとも300m/gの表面積を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
グラフェンシートが少なくとも400m/gの表面積を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
電極表面の少なくとも一部が25Ω/sq以下の抵抗を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の電極を含む色素増感太陽電池。
【請求項15】
モノリシック太陽電池の形態である、請求項14に記載の色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、参照によってここに組み込まれる、2010年10月10日に出願された米国仮出願第61/391,668号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本出願は、陸軍科学研究局から与えられた認可番号W911NF−09−1−0476の下で、およびエネルギー省から与えられた認可番号DE−AC05−76RL01830の下で、政府の支援により行われた。政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
本発明は太陽電池のグラフェン電極の使用に関する。
【0004】
一般的に、光起電力システムは様々な用途において光エネルギーを電気に変換するために実施される。光起電力デバイスによる電力生産は従来のシステムに対して多くの利点を提供し得る。これらの利点として、運転コストが低いこと、信頼性の高さ、モジュール性、製造コストが低いこと、および環境保全上の利点が挙げられるが、これらに制限されない。理解されるように、光起電力システムは一般的に「太陽電池」として知られ、太陽光から電気を作り出す性能に対してそのように名づけられている。
【0005】
従来の太陽電池は半導体接合に存在する光起電力効果を利用して光を電気に変換する。したがって、従来の半導体層は一般的に入射する光を吸収して励起電子を生成する。半導体層に加えて、太陽電池は一般的に、カバーまたは他の封入材、太陽電池の端部の密封材、電子が回路に入ることを可能にするフロントコンタクト電極、および回路を完成することを可能にするバックコンタクト電極を含む。
【0006】
太陽電池のうち1つの特定のタイプは、色素増感太陽電池(dye−sensitized solar cell:DSSC)である。DSSCは、一般的に有機または有機金属色素を使用して、励起電子を生成するための入射光を吸収する。DSSCは一般的にサンドイッチ構造に配置された2つの平面導電電極を含む。色素でコーティングされた半導体フィルムが2つの電極を分離し、このフィルムは、例えば透明な導電性酸化物(TCO)フィルムでコーティングされたガラスを含んでよい。半導体層は多孔質であり、大きな表面積を有し、それによって有効な光吸収を起こすのに十分な色素が、その表面の単分子層として付着されることを可能にしてよい。半導体フィルム(スポンジとして働く)中で電極と細孔との間に介在する空間は、導電性ポリマーまたは酸化/還元対(例えば三ヨウ化物/ヨウ化物)を含む有機電界質溶液などの正孔伝導体で充填されてよい。レドックス対が用いられる場合には、触媒(例えば白金)が第2電極(カソード)上に堆積される。
【0007】
DSSCを作製するための例示的な方法の1つは、導電性のガラス板を二酸化チタン(TiO)または酸化亜鉛(ZnO)などの半導体フィルムで被覆するものである。半導体フィルムは色素で飽和され、色素分子の層は半導体フィルム内の各々の粒子上で自己組織化し、それによってフィルムを「増感」する。三ヨウ化物/ヨウ化物を含む液体電解質溶液が半導体フィルム中に導入される。電解質は色素増感半導体フィルム内に残っている細孔および開口を満たす。太陽電池を完成させるために、白金(三ヨウ化物の還元に対して低い過電圧を有する材料)でコーティングされた第2の平面電極が、色素増感半導体および2つの電極の間に挟まれた電解質複合材料を有する電池構造体を提供するために実装される。
【0008】
白金は三ヨウ化物の還元に対して高い触媒活性を有し、電解質に存在するヨウ素化学種に対して十分な耐腐食性を有する。しかしながら、白金は高価な金属であるため、より安価で豊富な材料を用いるDSSC対向電極の開発に対する強い動機が存在する。取り扱いが容易であり、導電性を有し、かつ柔軟なDSSC対向電極を得ることも望まれているだろう。
【0009】
Grunerの、米国特許出願公開第2007/0284557号明細書は、太陽電池に使用される透明導電体としてのグラフェンフィルムの使用を開示する。「Electrochemistry Communications 2008、10、(10)、1555−1558」は、DSSCにおけるグラフェン/ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)複合体から誘導された化学的に還元された酸化グラフェンの使用を開示する。「Sol.Energy Mater.Sol.Cells;DOI=10.1016/j.solmat.2010.04.044」は、対向電極としてグラフェン系カーボンナノチューブナノコンポジットを用いた色素増感太陽電池を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国仮出願第61/391,668号
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0284557号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2007/0092432号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Electrochemistry Communications 2008、10、(10)、1555−1558
【非特許文献2】Sol.Energy Mater.Sol.Cells;DOI=10.1016/j.solmat.2010.04.044
【非特許文献3】Nature Nanotechnology(2009)、4、30−33
【非特許文献4】Nature Nanotechnology(2008)、3、538−542
【非特許文献5】Staudenmaier(Ber.Stsch.Chem.Ges.(1898),31,1481)
【非特許文献6】Hummers(J.Am.Chem.Soc.(1958),80,1339
【非特許文献7】Journal of the American Chemical Society 1993,115,(14),6382−6390
【非特許文献8】Journal of the American Chemical Society 2010,132,(46),16714−16724
【非特許文献9】Electrochimica Acta 2001 46(22),3457
【非特許文献10】ACS Nano 2010 4(10)6203−6211
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
グラフェンシートおよび少なくとも1つのバインダーを含む組成物を含む太陽電池電極が開示され、特許請求の範囲に記載される。さらに、この電極を含む色素増感太陽電池、およびグラフェンシートおよび少なくとも1つのバインダーを含む組成物を含む電極を太陽電池に組み込む段階を含む色素増感太陽電池の電極の作製方法が開示され、特許請求の範囲に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の太陽電池の電極は、グラフェンシートおよび少なくとも1つのバインダーを含む組成物を基板上にコーティングすることによって作成されてよい。電極は(色素増感太陽電池などの)太陽電池内部に組み込まれてよく、色素増感太陽電池を含む太陽電池内の触媒対向電極として使用されてよい。
【0014】
グラフェンシートは、好ましくは約100〜約2630m/gの表面積を有する。特定の実施形態において、グラフェンシートは完全に剥離したグラファイトの単一のシート(これらは約1nmの厚みを有し、「グラフェン」と呼ばれることが多い)を主として含み、ほぼ完全にそれからなり、または完全にそれからなり、一方で他の実施形態では、グラフェンシートの少なくとも一部は、グラファイトの2つ以上のシートが互いに剥離されていない、部分的に剥離したグラフェンシートを含んでよい。グラフェンシートは、完全におよび部分的に剥離したグラファイトシートの混合物を含んでよい。
【0015】
グラフェンシートは、任意の適切な方法を使用して作られてよい。例えば、グラフェンシートはグラファイト、酸化グラファイト、膨張グラファイト、グラファイト膨張体などから得ることができる。グラフェンシートは、グラファイトの物理的剥離によって、例えばグラフェンシートを剥がすことによって得ることができる。グラフェンシートは炭化ケイ素などの無機前駆体から作ることができる。グラフェンシートは化学気相蒸着によって(金属表面上でメタンと水素を反応させるなどして)作ることができる。グラフェンシートは、エタノールなどのアルコールを金属(ナトリウムなどのアルカリ金属など)で還元し、その後アルコキシド生成物を熱分解することによって作ることができる(そのような方法は、Nature Nanotechnology(2009)、4、30−33において報告される)。グラフェンシートは、分散系でのグラファイトの剥離によって、または分散系での酸化グラファイトの剥離およびその後の剥離された酸化グラファイトの還元によって、作られてよい。グラフェンシートは膨張グラファイトの剥離、およびその後のインターカレーション、および超音波処理またはインターカレートされたシートを分離するための他の手段によって作られてよい(例えば、Nature Nanotechnology(2008)、3、538−542を参照されたい)。グラフェンシートは、グラファイトのインターカレーション、およびその後の懸濁液中での、熱的な生成物の剥離、などによって作られてよい。
【0016】
グラフェンシートは、酸化グラファイト(黒鉛酸または酸化グラフェンとも呼ばれる)から作られてよい。グラファイトは酸化剤および/またはインターカレート剤によって処理されかつ剥離されてよい。グラファイトはインターカレート剤で処理され、電気化学的に酸化され剥離されてもよい。グラフェンシートは、超音波処理で懸濁液の液中(界面活性剤および/またはインターカラントを含んでよい)のグラファイトおよび/または酸化グラファイトを剥離することによって形成されてよい。剥離された酸化グラファイト分散系または懸濁系はその後グラフェンシートに還元することができる。グラフェンシートはグラファイトまたは酸化グラファイト(その後グラフェンシートに還元される)を剥離するための機械的処理(グラインディングまたはミリングなど)によって形成されてもよい。
【0017】
酸化グラファイトのグラフェンへの還元は、化学的還元によるものであってよく、固体形態、分散系などの酸化グラファイトで実行されてよい。有効な化学的還元剤の例として、ヒドラジン類(ヒドラジン、N,N−ジメチルヒドラジンなど)、ホウ化水素ナトリウム、クエン酸、ハイドロキノン、イソシアネート(フェニルイソシアネートなど)、水素、水素プラズマなどが挙げられるが、これらに制限されない。キャリア(水、有機溶媒、または溶媒の混合物など)内の剥離された酸化グラファイトの分散系または懸濁系は、任意の適切な方法(超音波処理および/または機械的なグラインディングまたはミリングなど)用いて作ることができ、グラフェンシートに還元される。
【0018】
酸化グラファイトは、1つ以上の化学酸化剤および任意に硫酸などのインターカレーション剤を用いるグラファイトの酸化を含む処理によるものなどの、当分野で知られる任意の方法により製造されてよい。酸化剤の例として、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、過塩素酸塩、過酸化水素、過マンガン酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、五酸化リン、亜硫酸水素塩などが挙げられる。好ましい酸化剤として、KClO;HNOおよびKClO;KMnOおよび/またはNaMnO;KMnOおよびNaNO;KおよびPおよびKMnO;KMnOおよびHNO、およびHNOが挙げられる。好ましいインターカレーション剤として硫酸が挙げられる。グラファイトはインターカレート剤で処理され、電気化学的に酸化されてもよい。酸化グラファイトを作る方法の例は、Staudenmaier(Ber.Stsch.Chem.Ges.(1898),31,1481)およびHummers(J.Am.Chem.Soc.(1958),80,1339)による記述を含む。
【0019】
グラフェンシート調製方法の一例は、グラファイトを酸化グラファイトに酸化することであり、これはその後熱的に剥離されてグラフェンシート(熱剥離された酸化グラファイトとして知られる)を形成する。これは米国特許出願公開第2007/0092432号に記載され、その内容は参照によってここに組み込まれる。このように形成されたグラフェンシートは、X線回折パターンにおいてグラファイトまたは酸化グラファイトに対応する痕跡を殆どまたは全く示さない。
【0020】
熱剥離は連続的に、半連続的バッチなどのプロセスで実施されてよい。
【0021】
バッチプロセスまたは連続プロセスにおいて加熱を実施することができ、不活性雰囲気および還元雰囲気(窒素、アルゴン、および/または水素雰囲気)を含む様々な雰囲気の下で加熱を実施することができる。加熱時間は、使用される温度および最終的な熱剥離酸化グラファイトに望まれる特性に依存して、数秒未満から数時間以上の範囲とすることができる。加熱は、溶融シリカ、鉱物、金属、炭素(グラファイトなど)、セラミックなどの容器など、任意の適切な容器の中で行うことができる。加熱は閃光電球を用いて行ってよい。
【0022】
加熱の間、酸化グラファイトは単一バッチ反応容器内の本質的に一定の位置に収容されてよく、または連続またはバッチモードの反応の間1つ以上の容器を経由して移動させてよい。加熱は、炉および赤外線ヒーターなどの使用を含む、任意の適切な手段を用いて行われてよい。酸化グラファイトの熱剥離が実施され得る温度の例として、少なくとも約300℃、少なくとも約400℃、少なくとも約450℃、少なくとも約500℃、少なくとも約600℃、少なくとも約700℃、少なくとも約750℃、少なくとも約800℃、少なくとも約850℃、少なくとも約900℃、少なくとも約950℃、および少なくとも約1000℃が挙げられる。好ましい範囲としては、約750から約3000℃の間、約850℃から約2500℃の間、約950℃から約2500℃の間、および約950℃から約1500℃の間が挙げられる。
【0023】
加熱時間は1秒未満から数分を超える範囲であってよい。例えば、加熱時間は約0.5秒未満、約1秒未満、約5秒未満、約10秒未満、約20秒未満、約30秒未満、または約1分未満であってよい。加熱時間は少なくとも約1分、少なくとも約2分、少なくとも約5分、少なくとも約15分、少なくとも約30分、少なくとも約45分、少なくとも約60分、少なくとも約90分、少なくとも約120分、少なくとも約150分、少なくとも約240分、約0.01秒から約240分、約0.5秒から約240分、約1秒から約240分、約1分から約240分、約0.01秒から約60分、約0.5秒から約60分、約1秒から約60分、約1分から約60分、約0.01秒から約10分、約0.5秒から約10分、約1秒から約10分、約1分から約10分、約0.01秒から約1分、約0.5秒から約1分、約1秒から約1分、約600分以下、約450分以下、約300分以下、約180分以下、約120分以下、約90分以下、約60分以下、約30分以下、約15分以下、約10分以下、約5分以下、約1分以下、約30秒以下、約10秒以下、または約1秒以下であってよい。加熱が経過する間、温度が変化してよい。
【0024】
加熱速度の例としては、少なくとも約120℃/分、少なくとも約200℃/分、少なくとも約300℃/分、少なくとも約400℃/分、少なくとも約600℃/分、少なくとも約800℃/分、少なくとも約1000℃/分、少なくとも約1200℃/分、少なくとも約1500℃/分、少なくとも約1800℃/分、および少なくとも約2000℃/分が挙げられる。
【0025】
グラフェンシートはアニールされてよく、または還元性雰囲気条件(例えば、不活性ガスまたは水素でパージされた系内)の下での加熱により酸素に対する炭素比が高いグラフェンシートに還元されてよい。還元/アニーリング温度は、好ましくは少なくとも約300℃、または少なくとも約350℃、または少なくとも約400℃、または少なくとも約500℃、または少なくとも約600℃、または少なくとも約750℃、または少なくとも約850℃、または少なくとも約950℃、または少なくとも約1000℃である。使用される温度は、例えば約750から約3000℃の間、または約850から約2500℃の間、または約950から約2500℃の間であってよい。
【0026】
加熱時間は、例えば少なくとも約1秒、または少なくとも約10秒、または少なくとも約1分、または少なくとも約2分、または少なくとも約5分であってよい。特定の実施形態において、加熱時間は少なくとも約15分、または約30分、または約45分、または約60分、または約90分、または約120分、または約150分である。アニーリング/還元の経過の間、温度はこれらの範囲内で変化してよい。
【0027】
加熱は、不活性雰囲気(アルゴンまたは窒素など)、または水素(アルゴンまたは窒素などの不活性ガスで希釈された水素を含む)などの還元雰囲気、または真空下を含む様々な条件の下で行われてよい。加熱は、溶融シリカまたは鉱物またはセラミック容器または金属容器などの、任意の適切な容器で実施されてよい。加熱される材料(任意の開始材料および任意の生成物または中間物であってよい)は、単一バッチ反応容器内の本質的に一定の位置に含まれてよく、または連続反応もしくはバッチ反応の間1つ以上の容器を経由して移動されてよい。加熱は、炉または赤外線ヒーターの使用を含む任意の適切な手段を用いて実施されてよい。
【0028】
グラフェンシートは、少なくとも約100m/g、または少なくとも約200m/g、または少なくとも約300m/g、または少なくとも約350m/g、または少なくとも約400m/g、または少なくとも約500m/g、または少なくとも約600m/g、または少なくとも約700m/g、または少なくとも約800m/g、または少なくとも約900m/g、または少なくとも約700m/gの表面積を有することが好ましい。表面積は、約400から約1100m/gであってよい。理論的な最大表面積は2630m/gであると計算することができる。表面積は、特に400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、および2630m/gを含む、全ての値およびそれらの間の下位の値を含んでよい。
【0029】
グラフェンシートは、約100から約100,000、または約100から約50,000、または約100から25,000、または約100から約10,000の数平均アスペクト比を有してよい(「アスペクト比」はシートの最短寸法に対する最長寸法の比として定義される)。
【0030】
表面積は、77Kにおける窒素吸着/BET法、または液体溶液におけるメチレンブルー(MB)色素法のどちらかを用いて測定することができる。
【0031】
色素法は以下のように実施される。ある量のグラフェンシートがフラスコに加えられる。その後グラフェンシート1グラムあたり少なくとも1.5gのMBが加えられる。エタノールがフラスコに加えられ、混合物は約15分間超音波処理される。エタノールはその後蒸発され、ある量の水がフラスコに加えられ、未反応のMBを再度溶解する。未溶解の材料は、好ましくはサンプルを遠心分離することによって、固めることが可能である。溶液内のMBの濃度は、標準濃度での吸収に対するλmax=298nmにおける吸収を測定することによって、UV−vis分光光度計を用いて決定される。
【0032】
最初に加えられたMBの量と、UV−vis分光光度計によって決定される、溶液に存在する量との間の差は、グラフェンシートの表面上に吸着されたMBの量であると仮定される。グラフェンシートの表面は、吸着されたMB 1mgが覆う表面2.54mの値を用いて計算される。
【0033】
グラフェンシートは、約0.1から少なくとも約200kg/mのバルク密度を有してよい。バルク密度は、特に0.5、1、5、10、15、20、25、30、35、50、75、100、125、150、および175kg/mを含む、全ての値およびそれらの間の下位の値を含んでよい。
【0034】
グラフェンシートは、例えば酸素含有官能基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、およびエポキシ基であってよい)で、および典型的には、元素分析で決定される、酸素に対する全炭素の比(C/O比)が少なくとも約1:1、またはより好ましくは少なくとも約3:2である基で官能化されてよい。酸素に対する炭素の比の例として、約3:2から約85:15;約3:2から約20:1;約3:2から約30:1;約3:2から約40:1;約3:2から約60:1;約3:2から約80:1;約3:2から約100:1;約3:2から約200:1;約3:2から約500:1;約3:2から約1000:1;約3:2から1000:1以上;約10:1から約30:1;約80:1から約100:1;約20:1から約100:1;約20:1から約500:1;約20:1から約1000:1;約50:1から約300:1;約50:1から約500:1;および約50:1から約1000:1が挙げられる。ある実施形態では、酸素に対する炭素の比は、少なくとも約10:1、または少なくとも約20:1、または少なくとも約35:1、または少なくとも約50:1、または少なくとも約75:1、または少なくとも約100:1、または少なくとも約200:1、または少なくとも約300:1、または少なくとも約400:1、または少なくとも500:1、または少なくとも約750:1、または少なくとも約1000:1、または少なくとも約1500:1、または少なくとも約2000:1である。酸素に対する炭素の比は、それらの範囲の間の全ての値および下位の値を含んでもよい。
【0035】
グラフェンシートは原子スケールのねじれを含んでよい。これらのねじれは、格子欠陥の存在によって、またはグラフェン底面の2次元六角形格子構造の化学的官能化によって、生じ得る。
【0036】
組成物は、グラファイト(天然、キッシュ、および合成、アニール、熱分解、高配向熱分解、などのグラファイト)をさらに含んでよい。グラフェンシートに対するグラファイトの重量比は、約2:98から約98:2、または約5:95から約95:5、または約10:90から約90:10、または約20:80から約80:20、または約30:70から約70:30、または約40:60から約90:10、または約50:50から約85:15、または約60:40から約85:15、または約70:30から約85:15であってよい。
【0037】
グラフェンシートは異なる粒子径分布および/またはモルフォロジーを有する2つ以上のグラフェン粉末を含んでよい。グラファイトは異なる粒子径分布および/またはモルフォロジーを有する2つ以上のグラファイト粉末を含んでよい。
【0038】
バインダーは熱可塑性または熱硬化性であってよく、エラストマーであってよい。バインダーは、基板に対するコーティングの塗布前に、その間に、または後に重合することができるモノマーを含んでもよい。重合性バインダーは、基板にコーティングが塗布された後に架橋されてよく、または他の方法で硬化されてよい。ポリマーバインダーの例としては、ポリシロキサン(ポリ(ジメチルシロキサン)、ジメチルシロキサン/ビニルメチルシロキサン共重合体、ビニルジメチルシロキサン末端ポリジメチルシロキサンなど)、ポリエーテルおよびグリコール、例えばポリエチレンオキシド(ポリ(エチレングリコール)としても知られる))、ポリプロピレンオキシド(ポリ(プロピレングリコール)としても知られる))、およびエチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体、セルロース樹脂(例えばエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸酢酸セルロース、および酪酸酢酸セルロース)、およびポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、エチレン/酢酸ビニルポリマー、アクリルポリマーおよびコポリマー(例えばメチルメタクリレートポリマー、メタクリレートコポリマー、1つ以上のアクリレートから誘導されたポリマー、メタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレートなど)、スチレン/アクリルコポリマー、スチレン/無水マレイン酸コポリマー、イソブチレン/無水マレイン酸コポリマー、酢酸ビニル/エチレンコポリマー、エチレン/アクリル酸コポリマー、ポリオレフィン、ポリスチレン、オレフィンおよびスチレンのコポリマー、エポキシ樹脂、アクリルラテックスポリマー、ポリエステルアクリル酸オリゴマーおよびポリマー、ポリエステルジオールジアクリレートポリマー、UV硬化樹脂、およびポリアミドが挙げられる。ポリアミドは約100℃から約255℃の間、または約120℃から約255℃の間、または約110℃から約255℃の間、または約120℃から約255℃の間の融点を有するポリマーおよびコポリマー(すなわち、少なくとも2つの異なる繰り返し単位を有するポリアミド)であってよい。これらは、約230℃以下の融点を有する脂肪族コポリアミド、約210℃以下の融点を有する脂肪族コポリアミド、約200℃以下の融点を有する脂肪族コポリアミド、約180℃以下の、約150℃以下の、約130℃以下の、約120℃以下の、約110℃以下の、などの融点を有する脂肪族コポリアミド、を含む。これらの例として、Henkel社がMacromeltという商品名で、Cognis社がVersamidという商品名で、DuPont社がElvamide(登録商標)という商品名で販売するものが挙げられる。適切なポリマーの例として、Lucite International Inc.が販売するElvacite(登録商標)ポリマーが挙げられ、これにはElvacite(登録商標)2009、2010、2013、2014、2016、2028、2042、2045、2046、2550、2552、2614、2669、2697、2776、2823、2895、2927、3001、3003、3004、4018、4021、4026、4028、4044、4059、4400、4075、4060、4102などが含まれる。他のポリマー系にはBynel(登録商標)ポリマー(DuPontが販売するBynel(登録商標)2022など)およびJoncryl(登録商標)ポリマー(Joncryl(登録商標)678および682)が含まれる。
【0039】
コーティング組成物は、成分の一部または全てが溶解され、懸濁され、または他の方法では分散されもしくは保持される、1つ以上のキャリアを任意に含む。適切なキャリアの例としては、水、蒸留されたまたは合成のイソパラフィン炭化水素(Isopar(登録商標)およびNorpar(登録商標)(どちらもExxonが製造する))およびDowanol(登録商標)(Dowが製造する)、シトラステルペンおよびシトラステルペンを含む混合物(Purogen、Electron、およびPositron(全てEcolinkが製造))、テルペンおよびテルペンアルコール(アルファ−テルピネオールを含むテルピネオールを含む)、リモネン、脂肪族石油蒸留物、アルコール(例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、i−アミルアルコール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ジアセトンアルコール、ブチルグリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、i−ブチルケトン、2,6,8,トリメチル−4−ノナノンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、酢酸tert−ブチル、酢酸カルビトールなど)、グリコールエーテル、エステル、およびアルコール(例えば、2−(2−エトキシエトキシ)エタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、および他のプロピレングリコールエーテル;エチレングリコールモノブチルエーテル、2−メトキシエチルエーテル(ジグリム)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME);および他のエチレングリコールエーテル;エチレンおよびプロピレングリコールエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1−メトキシ−2−プロパノールアセテート(PGMEA);およびヘキシレングリコール(HexasolTM(SpecialChemが販売)など))、イミド、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、環状アミド(例えばN−メチルピロリドンおよび2−ピロリドンなど)、ラクトン(例えば、ベータ−プロピオラクトン、ガンマ−バレロラクトン、デルタ−バレロラクトン、ガンマ−ブチロラクトン、イプシロン−カプロラクトン)、環状イミド(例えば、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン)などのイミダゾリジノン)、および前述の化合物の2つ以上の混合物、および前述の1つ以上の化合物と他のキャリアとの混合物が挙げられるが、これらに制限されない。溶媒は、低揮発性または不揮発性溶媒、空気の汚染に対して有害ではない溶媒、および非ハロゲン性溶媒であってよい。
【0040】
グラフェンシートおよびグラファイト(もしも存在する場合)は、組成物中に、グラフェンシートおよびグラファイト(もしも存在する場合)およびバインダーの全量に対して、約1から約99重量%、約2から約99重量%、約5から約99重量%、約10から約99重量%、約20から約99重量%、約5から約98重量%、約20から約98重量%、約30から約95重量%、約40から約95重量%、約50から約95重量%、約70から約95重量%、約80から約99重量%、約90から約99重量%、または約95から約99重量%存在することが好ましい。
【0041】
組成物は、湿式または乾式法、およびバッチ、半連続、および連続法を含む適切な方法を用いて作られてよい。
【0042】
例えば、例えば1つ以上のグラフェンシート、グラファイト(もしも使用される場合)、バインダー、キャリア、および/または他の成分などの、コーティング組成物の成分は加工されてよい(例えば、ミリング/グラインディング、適切な混合、分散および/または複合化技術、および超音波装置、高せん断ミキサー、ボールミル、アトリッション装置、サンドミル、ツーロールミル、スリーロールミル、低温グラインディングクラッシャー、押出機、混錬機、ダブルプラネタリーミキサー、トリプルプラネタリーミキサー、高圧ホモジナイザー、ボールミル、アトリッション装置、サンドミル、水平および垂直ウェットグラインディングミルなどを含む器具を用いたブレンドなど)。加工(粉砕を含む)法は湿式または乾式であってよく、連続または不連続であってよい。粉砕の媒体として使用するのに適切な材料として、金属、炭素鋼、ステンレス鋼、セラミックス、安定化セラミック媒体(例えば、イットリウム安定化酸化ジルコニウム)、PTFE、ガラス、炭化タングステンなどが挙げられる。グラファイト、グラフェンシート、他の成分、およびブレンドまたは2つ以上の成分の粒子径および/またはモルフォロジーを変更するために、これらの方法を使用することができる。
【0043】
成分は互いにまたは別個に加工されてよく、複数の加工(混合/ブレンドを含む)段階を経てよく、各々は1つ以上の成分を含む(ブレンドを含む)。
【0044】
グラフェンシート、グラファイト(もしも使用される場合)、および他の成分が加工され、および組み合わされる方法に特に制限はない。例えば、グラフェンシートおよび/またはグラファイトは別個に所定の粒子径分布および/またはモルフォロジーを有するように加工されてよく、その後追加の成分と共に、または追加の成分なしにさらなる加工を行うために組み合わされてよい。未加工のグラフェンシートおよび/またはグラファイトが加工されたグラフェンシートおよび/またはグラファイトと組み合わされてよく、追加の成分と共に、または追加の成分なしにさらなる加工が行われてよい。加工されたおよび/または未加工のグラフェンシートおよび/または加工されたおよび/または未加工のグラファイトは例えば1つ以上のバインダーなど他の成分と組み合わされてよく、その後加工されたおよび/または未加工のグラフェンシートおよび/または加工されたおよび/または未加工のグラファイトと組み合わされてよい。他の成分と組み合わされた加工されたおよび/または未加工のグラフェンシートおよび/または加工されたおよび/または未加工のグラファイトの2つ以上の組み合わせが、さらに組み合わされ、または加工されてよい。
【0045】
1つの実施形態において、もしも多鎖脂質が使用される場合、それは加工前にグラフェンシート(および/または存在する場合にはグラファイト)に加えられる。
【0046】
ブレンドおよび/またはグラインディング段階の後、増粘剤、粘度調整剤、バインダーなどの(ただしこれらに制限されない)さらなる成分が組成物に添加されてよい。組成物は、さらなるキャリアの添加によって希釈されてもよい。
【0047】
組成物は、例えば分散剤(界面活性剤、乳化剤、および湿潤補助剤を含む)、接着促進剤、増粘剤(粘土を含む)、消泡剤および泡止め剤、殺生物剤、追加の充填剤、流れ促進剤、安定剤、架橋剤および硬化剤など、1つ以上の追加の添加剤を任意に含んでよい。
【0048】
分散剤の例としては、グリコールエーテル(ポリエチレンオキシドなど)、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから誘導されたブロックコポリマー(BASFからPluronic(登録商標)で販売されるものなど)、アセチレンジオール(2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールエトキシレートおよびその他Air ProductsからSurfynol(登録商標)およびDynol(登録商標)の商品名で販売されるもの)、カルボン酸塩(アルカリ金属およびアンモニウム塩を含む)、およびポリシロキサンが挙げられる。
【0049】
粉砕助剤の例としては、ステアリン酸(例えば、Al、Ca、Mg、およびZnのステアリン酸)およびアセチレンジオール(Surfynol(登録商標)およびDynol(登録商標)の商品名でAir Productsから販売されるものなど)が挙げられる。
【0050】
接着促進剤の例としては、チタンキレート、および例えばリン酸チタン錯体(ブチルリン酸チタンを含む)、チタン酸エステル、ジイソプロポキシチタンビス(エチル−3−オキソブタノエート)、イソプロポキシチタンアセチルアセトナート、およびVertecという商品名でJohnson−Matthey Catalystsから販売されるものなど、他のチタン化合物が挙げられる。
【0051】
増粘剤の例としては、グリコールエーテル(ポリエチレンオキシドなど)、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドから誘導されたブロックコポリマー(BASFからPluronic(登録商標)で販売されるものなど)、長鎖カルボン酸塩(例えば、アルミニウム、カルシウム、亜鉛などの塩、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩など)、アルミノシリケート(Unimin Specialty MineralsからMinex(登録商標)の商品名で、およびEvonik DegussaからAerosil(当力商標)の商品名で販売されるもの)、溶融シリカ、天然または合成ゼオライトなどが挙げられる。
【0052】
組成物は、少なくとも1つの「多鎖脂質」を任意に含んでよく、この用語は、極性頭部基およびそれに結合した少なくとも2つの非極性尾基を有する、天然に生じたまたは合成の脂質を意味する。極性頭部基の例として、酸素含有、硫黄含有、およびハロゲン含有基、リン酸基、アミド基、アンモニウム基、アミノ酸(α−アミノ酸を含む)、単糖類、多糖類、エステル(グリセロールエステルを含む)、両性イオンなどが挙げられる。
【0053】
尾基は同じであっても、または異なっていてもよい。尾基の例として、アルカン、アルケン、アルキン、芳香族化合物などが挙げられる。尾基は炭化水素、官能化炭化水素などであってよい。尾基は飽和されていてよく、または不飽和であってよい。尾基は線形または分岐していてよい。尾基はオレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、エルカ酸、アラキドン酸、リノール酸、オレイン酸などの脂肪酸から得られてよい。
【0054】
多鎖脂質の例として、レシチンおよび他のリン脂質(例えばホスホグリセリド(ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン(ケファリン)、およびホスファチジルグリセロールを含む)およびスフィンゴミエリン);糖脂質(例えばグリコシル−セレブロシド);サッカロ脂質;スフィンゴ脂質(例えばセラミド、ジグリセリド、トリグリセリド、リンスフィンゴ脂質、および糖スフィンゴ脂質)などが挙げられるがこれらに制限されない。これらは両性(双性を含む)であってよい。
【0055】
組成物は、1つ以上の荷電した有機化合物を任意に含んでよい。荷電した有機化合物は、少なくとも1つのイオン性官能基および1つの炭化水素系鎖を含む。イオン性官能基の例としては、アンモニウム塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩などが挙げられる。もしも2つ以上のイオン性官能基が存在する場合、それらは同じタイプであってよく、または異なるタイプであってよい。化合物はヒドロキシ、アルケン、アルキン、カルボキシ基(例えばカルボン酸、エステル、アミド、ケトン、アルデヒド、無水物、チオールなど)、エーテル、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、窒素を含有する基、リンを含有する基、ケイ素を含有する基など、さらなる官能基を含んでよいが、これらに制限されない。
【0056】
化合物は少なくとも1つの炭化水素系鎖を含む。炭化水素系鎖は飽和していてよく、または不飽和でよく、分岐していてよく、または線形であってよい。それはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基などであってよい。炭素原子および水素原子のみを含む必要は無い。他の官能基(上述したような基)で置換されてよい。エステル、エーテル、アミドなどの他の官能基が鎖長内に存在してよい。言い換えれば、分子鎖は1つ以上の官能基で結合された2つ以上の炭化水素系セグメントを含んでよい。ある実施形態では、少なくとも1つのイオン性官能基が分子鎖の末端に配置される。
【0057】
アンモニウム塩の例として、化学式Rを有する材料が挙げられる。ここで、R、R、およびRは各々独立に水素、炭化水素系鎖、アリール含有基、脂環基、オリゴマー基、ポリマー基などであり、Rは少なくとも4つの炭素原子を有する炭化水素系鎖であり、Xはフッ素、臭素、塩素、ヨウ素、硫酸塩、水酸化物、カルボン酸塩などのアニオンである。どのようなR基も1つ以上の追加のアンモニウム基を有してよい。
【0058】
R基の例として、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、C21からC40鎖などが挙げられる。
【0059】
四級アンモニウム塩の例として、テトラアルキルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩が挙げられ、ここでアルキル基は少なくとも8個の炭素原子を含む1つ以上の基である。例としては、テトラドデシルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウムハライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムハライド、ジドデシルジメチルアンモニウムはライドなどが挙げられる。
【0060】
アンモニウム塩はビスまたは四級アンモニウム塩を含む高級アンモニウム塩であってよい。アンモニウム塩は、カルボン酸の、ジカルボン酸の、トリカルボン酸の、および高級カルボン酸の塩であってよい。カルボン酸は、少なくとも約4つの線形炭素原子を有する炭化水素系鎖部分を有してよい。例としては、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、少なくとも15個の炭素原子を有するカルボン酸、ステアリン酸、オレイン酸、モンタン酸、アジピン酸、1,7−ヘプタン二酸、1,8−オクタン二酸、1,9−ノナン二酸、セバシン酸、1,11−ウンデカン二酸、1,12−ドデカン二酸、1,13−トリデカン二酸、1,14−テトラデカン二酸、1,15−ペンタデカン二酸、1,16−ヘキサデカン二酸、1,17−ヘプタデカン二酸、1,18−オクタデカン二酸、1,19−ノナデカン二酸、1,20−エイコサン二酸、21から40個の炭素原子を有するジカルボン酸などが挙げられる。
【0061】
カルボン酸(高分子量カルボン酸および不飽和カルボン酸)のアルキロールアンモニウム塩が使用されてよい。例としては、EFKA 5071(Cibaが販売する高分子量カルボン酸のアルキロールアンモニウム塩)およびBYK−ES80(BYK USA,Wallingford、Connが製造する不飽和酸性カルボン酸エステルのアルキロールアンモニウム塩)が挙げられる。
【0062】
荷電された有機化合物は、スルホン酸塩、メシラート、トリフラート、トシレート、ベシレート(besylate)、硫酸塩、亜硫酸塩、ペルオキソモノ硫酸塩、ペルオキソジ硫酸塩、ピロ硫酸塩、ジチオン酸塩、メタ重亜硫酸塩、亜ジチオン酸塩、チオ硫酸塩、テトラチオン酸塩などの硫黄含有基を有してよい。有機化合物は2つ以上の硫黄含有基を含んでもよい。
【0063】
アルキル、アルケニル、および/またはアルキニル硫酸塩およびスルホン酸塩は好ましい硫黄含有化合物である。アルキル、アルケニル、および/またはアルキニル基は、好ましくは少なくとも約8個の炭素原子を、またはより好ましくは少なくとも約10個の炭素原子を含む。例としては、デシル硫酸塩、ドデシル硫酸塩(例えば、1−ドデカン硫酸ナトリウム(SDS)など)、デシルスルホン酸塩、ドデシルスルホン酸塩(例えば、1−ドデカンスルホン酸ナトリウム(SDSO)など)が挙げられる。対イオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、アンモニウムなど任意の適切なカチオンであってよい。
【0064】
荷電された有機化合物は、荷電された有機化合物およびグラフェンシートおよびもしも使用されている場合他の炭素質の充填剤の全重量に対して、約1から約75重量%、約2から約70重量%、約2から約60重量%、約2から約50重量%、約5から約50重量%、約10から約50重量%、約10から約40重量%、約20から約40重量%存在してよい。
【0065】
組成物は、任意に、例えば金属(合金を含む)、導電性金属酸化物、ポリマー、組成物以外の炭素材料、金属コート材料など、グラフェンシート以外のさらなる導電性化合物を含んでよい。これらの成分は、粒子、粉末、フレーク、ホイル、針状など、様々な形態をとることができる。
【0066】
金属の例としては、銀、銅、アルミニウム、白金、パラジウム、ニッケル、クロム、金、青銅、金属コロイドなどが挙げられるがこれらに制限されない。金属酸化物の例としては、アンチモンスズ酸化物およびインジウムスズ酸化物および金属酸化物でコーティングされた充填剤などの材料が挙げられる。金属および金属酸化物コート材料の例としては、金属コート炭素およびグラファイト繊維、金属コートガラス繊維、金属コートガラスビーズ、金属コートセラミック材料(ビーズなど)などが挙げられるが、これらに制限されない。これらの材料は、ニッケルを含む様々な金属でコーティングすることができる。
【0067】
導電性ポリマーの例としては、ポリアセチレン、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)、ポリ(スチレンスルホネート)(PSS)、PEDOT:PSSコポリマー、ポリチオフェン、ポリ(3−アルキルチオフェン)、ポリ(2,5−ビス(3−テトラデシルチオフェン−2−イル)チエノ[3,2−b]チオフェン)(PBTTT)、ポリ(フェニレンビニレン)、ポリピレン、ポリカルバゾール、ポリアズレン、ポリアゼピン、ポリフルオレン、ポリナフタレン、ポリイソナフタレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ(フェニレンスルフィド)、上述のポリマーの1つ以上のコポリマーなど、およびそれらの誘導体およびコポリマーが挙げられるが、これらに制限されない。導電性ポリマーは、ドープされてよく、ドープされていなくてもよい。それらはホウ素、リン、ヨウ素などでドープされてよい。
【0068】
グラフェンシートおよびグラファイト以外の炭素材料の例として、黒鉛化炭素、カーボンブラック、カーボンファイバーおよびフィブリル、カーボンウィスカー、気相成長カーボンナノファイバー、金属コートカーボンファイバー、カーボンナノチューブ(単層および多層ナノチューブを含む)、フラーレン、活性化炭素、カーボンファイバー、グラファイト膨張体、膨張グラファイト、酸化グラファイト、中空炭素球、炭素発泡体などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0069】
組成物は、ガラス(二酸化ケイ素を含む)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラス、FTOおよびFTO含有基板、酸化インジウムスズ(ITO)およびITO含有基板、酸化ジルコニウムおよび酸化ジルコニウム含有基板、酸化亜鉛および酸化亜鉛含有基板、正孔導電性フィルム(例えば、スピロ−OMeTAD(2,2’、7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニル−アミン)−9,9’−スピロビフルオレン)などのスピロビフルオレン色素から形成されたもの、またはそれを含有するものなど)、電子導電性基板、柔軟なおよび/または伸長可能な材料、シリコーンおよび他のエラストマーおよび他のポリマー材料、金属(アルミニウム、銅、スチール、ステンレス鋼、など)、接着剤、編物(布を含む)および織物(綿、ウール、ポリエステル、レーヨンなど)、衣服、ガラスおよび他の鉱物、セラミック、シリコン表面、木、紙、厚紙、セルロース系材料、グラシン、ラベル、シリコンおよび他の半導体、ラミネート、波形材料、コンクリート、レンガ、および他の建築材料などを含む様々な基板(ただしこれらに制限されない)に塗布することができる。基板は、フィルム、紙、ウェハ、大きな3次元物などの形態であってよい。
【0070】
基板は、組成物が塗布される前に、他のコーティング(塗料など)または同様の材料で処理されてよい。例として、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズなどでコーティングされた基板(PETなど)が挙げられる。基板は、織布、不織布、メッシュ形態などであってよい。
【0071】
基板は、一般的に紙系材料(紙、板紙、厚紙、グラシンなど)であってよい。紙系材料は表面処理することができる。表面処理の例として、ポリマーコーティングが挙げられ、これはPET、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸塩、ニトロセルロースなどを含むことができる。コーティングは接着剤であってよい。紙系材料はにじみ止めされてよい。
【0072】
ポリマー材料の例として、熱可塑性ポリマーおよび熱硬化性ポリマーが挙げられ、エラストマーおよびゴム(熱可塑性および熱硬化性を含む)、シリコーン、フッ化ポリシロキサン、天然ゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、スチレン/ブタジエンコポリマー(SBR)、スチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマー(SEBS)、無水マレイン酸でグラフトされたスチレン/エチレン/ブタジエン/スチレンコポリマー、スチレン/イソプレン/スチレンコポリマー(SIS)、ポリイソプレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ネオプレン、エチレン/プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン/プロピレン/ジエンコポリマー(EPDM)、エチレン/酢酸ビニルコポリマー(EVA)、ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレンコポリマー、テトラフルオロエチレン/プロピレンコポリマー、フッ化エラストマー、ポリエステル(例えば、ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンナフタレート)、液晶ポリエステル、ポリ乳酸など)、ポリスチレン、ポリアミド(ポリテレフタルアミドを含む)、ポリイミド(例えば、Kapton(登録商標)など)、アラミド(例えば、Kevlar(登録商標)およびNomex(登録商標))、フッ化ポリマー(例えば、フッ化エチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(フッ化ビニリデン)、Viton(登録商標)グレードなど)、ポリエーテルイミド、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリウレタン(例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、スパンデックス、セルロースポリマー(例えばニトロセルロース、酢酸セルロースなど)、スチレン/アクリロニトリルポリマー(SAN)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンポリマー(ABS)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリ(メチルメタクリレート)、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、熱硬化性エポキシおよびポリウレタン、ポリオレフィン(例えばポリエチレン(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレンなど)、ポリプロピレン(例えば、二軸配向ポリプロピレンなど))、Mylarなどが挙げられるが、これらに制限されない。それらは例えばDuPont Tyvek(登録商標)などの不織材料であってよい。それらは接着性材料であってよい。基板は、ガラス、石英、ポリマー(例えばポリカーボネートまたはポリ(メタ)アクリレート(ポリ(メチルメタクリレート)など))などの透明材料または半透明材料または光学材料であってよい。
【0073】
組成物は、ペインティング、注入、スピンキャスティング、溶液キャスティング、ディップコーティング、パウダーコーティング、シリンジまたはピペットによる方法、スプレーコーティング、カーテンコーティング、ラミネーション、共押出、電気スプレー堆積、インクジェット印刷、スピンコーティング、熱転写(レーザー転写を含む)法、ドクターブレードプリンティング、スクリーン印刷、回転スクリーン印刷、グラビア印刷、リソグラフィー印刷、インタリオ印刷、デジタル印刷、キャピラリー印刷、オフセット印刷、電気流体力学(EHD)印刷(参照によってここに組み込まれる国際公開第2007/053621に記載される方法)、フレキソグラフィー印刷、パッド印刷、スタンピング、ゼログラフィー、マイクロコンタクト印刷、ディップペンナノリソグラフィー、レーザー印刷、ペンまたは同様の手段を介する方法などを含む(ただしこれらに制限されない)、任意の適切な方法を用いて基板に塗布されてよい。組成物は、多層で塗布されてよい。
【0074】
組成物が基板に塗布された後、コーティング組成物は任意の適切な方法を用いて硬化されてよく、そのような方法として乾燥およびオーブン乾燥(空気中、または他の不活性もしくは反応性雰囲気中)、UV硬化、IR硬化、乾燥、架橋、熱硬化、レーザー硬化、マイクロ波硬化または乾燥、焼結など電極を形成する方法が挙げられる。
【0075】
熱硬化温度は、バインダー、基板、溶媒系などに与えられる任意の適切な温度であってよい。ある実施形態では、硬化は約135℃以下の、または約120℃以下の、または約110℃以下の、または約100℃以下の、または約90℃以下の、または約80℃以下の、または約70℃以下の温度で起こってよい。
【0076】
電極は導電性であってよい。電極は少なくとも約10−8S/mの導電性を有することができる。電極は約10−6S/mから約10S/mの、または約10−5S/mから約10S/mの導電性を有することができる。本発明の他の実施形態において、電極は少なくとも約0.001S/mの、少なくとも約0.01S/mの、少なくとも約0.1S/mの、少なくとも約1S/mの、少なくとも約10S/mの、少なくとも約100S/mの、または少なくとも約1000S/mの、または少なくとも約10,000S/mの、または少なくとも約20,000S/mの、または少なくとも約30,000S/mの、または少なくとも約40,000S/mの、または少なくとも約50,000S/mの、または少なくとも約60,000S/mの、または少なくとも約75,000S/mの、または少なくとも約10S/mの、または少なくとも約10S/mの導電性を有する。
【0077】
ある実施形態では、電極の表面抵抗は約500Ω/sq以下、または約350Ω/sq以下、約200Ω/sq以下、約150Ω/sq以下、約100Ω/sq以下、約75Ω/sq以下、約50Ω/sq以下、約30Ω/sq以下、約20Ω/sq以下、約10Ω/sq以下、約5Ω/sq以下、約1Ω/sq以下、約0.1Ω/sq以下、約0.01Ω/sq以下、約0.001Ω/sq以下であってよい。
【0078】
電極は、Dupont社のSurlyn(登録商標)またはBynel(登録商標)などの熱溶融シーラントの使用、および正孔伝導材料上に直接塗布することを含む、任意の適切な方法を用いてDSSC内部に組み込まれてよい。電極は、レドックス対(ヨウ化物/三ヨウ化物、CoII/III[(dbbip)](ClOなどを含むCoIIおよびCoIII錯体などのコバルト錯体、(SeCN)/SeCN、フェロセン/フェロセリウム、全てゲル化剤を有するかまたは有さない)を有する電解質系、固体状態正孔伝導材料(例えば、スピロ−OMeTAD(2,2’,7,7’−テトラキス(N,N−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9’−スピロビ−フルオレン))、イオン性液体、または溶融塩など、任意の適切なおよび互換性がある正孔伝導系とともに使用することができる。正孔伝導体は、1つ以上の導電性ポリマー(前述したようなもの)であってもよい。電極は第2電極(カソードとして働くことができる)に関連してDSSC内で使用されてよい。第2電極はその表面および/または内部に白金電極を含むことができる。
【0079】
コーティングの導電性および触媒活性により、低コストかつ柔軟なものなど、任意の基板の使用が可能になる。
【0080】
ある実施形態では、電池は少なくとも約3%の、または少なくとも約4%の、または少なくとも約5%の、または少なくとも約6%の、または少なくとも約10%の電力変換効率を有してよい。
【0081】
太陽電池は、電極、正孔伝導体、およびスペーサが互いに積層されたモノリシック太陽電池であってよい。
【実施例】
【0082】
実施例1および2および比較例1
〔DSSCの作製〕
DSSCは文献(Journal of the American Chemical Society 1993,115,(14),6382−6390)に記載されるように作製された。つまり、2gのP25チタニアナノ粒子(Evanonik)が、66μLのアセチルアセトンおよび3.333mLの脱イオン水に懸濁された。チタニアフィルム、4層分の厚み、が、スコッチテープマスクおよびガラス棒を用いて、ドクターブレード法によりフッ素ドープ酸化スズガラス(FTO)上にキャストされた。これらのフィルムはその後空気中で30分間485℃で加熱された。その結果得られた電極は、20時間0.3mMのN3色素−エタノール(Acros)溶液に浸漬され、増感フォトカソードが形成された。
【0083】
比較例1の場合には、対向電極はFTO上で調製された熱処理された塩化白金酸電極であった。2μLの5mM塩化白金酸イソプロパノール溶液が、0.39cmのマスクを用いてFTO電極上にドロップキャストされた。その後サンプルは使用前に20分間380℃に加熱された。
【0084】
実施例1および2の場合、対向電極はグラフェンシート、アクリレートバインダー、および溶媒を含む導電性インクをポリ(エチレンテレフタレート)基板上にコーティングし、約120℃で約4分間硬化することによって形成された。実施例1では、電極は約9−10Ω/sqの表面抵抗を有し、実施例2では、電極は約5Ω/sq未満の表面抵抗を有する。
【0085】
実施例1および2のフィルムの柔軟性に起因して、電池の短絡を防ぐために、電極は100μmの厚みを有するラボラトリーテープ(Fisher)により離隔され、バインダークリップを用いて互いに固定された。有機溶媒中のヨウ化物/三ヨウ化物レドックス対を用いた電解質(Solaronixのlodolyte AN−50)が添加された。電池は作成後直ちに試験を行った。
【0086】
〔測定〕
DSSCの電流電圧特性は、16Sソーラーシミュレータ(SolarLight)を用いて100mW/cmで模擬されたAM1.5Gの光の下で、定電位電解装置(Biologic SP−150)により様々な負荷を与えて測定された。
【0087】
結果は表1に与えられる。この結果は同様に調製された3つのサンプルの平均である。Vocは開回路電圧を示す。Jscは短絡電流密度を示す。ηは電池効率(電池の最大出力を入力電力で割ったもの、面積当たり)を示す。FFは曲線因子を示し、これは理論的な最大出力に対する、装置内で得られる最大出力の比である[FF=(J×V)/(Jsc×Voc)、ここでJおよびVは、各々電池の最大出力時の電流密度および電圧である]。
【0088】
【表1】
【0089】
実施例3および4および比較例2
〔DSSCの作製〕
実施例3および4および比較例2において、DSSCは文献(Journal of the American Chemical Society 2010,132,(46),16714−16724)に記載されるのと同様に、市販のチタニアペーストを用いて作製された。清浄なFTO導電性ガラス基板は、40mMのTiCl水溶液に30分間70℃で浸漬し、その後水で洗うことによって調製された。チタニアフィルムは、Dyesol DSL 18 NR−T コロイダルチタニアペーストを繰り返しスクリーン印刷して層間で300℃で乾燥することによって、0.25cmの面積を有して調製された。光散乱チタニア層(PST−400C、JGC Catalysts and Chemical Ltd.)がチタニアフィルムの上に堆積された。その後電極は、180℃(10分)、320℃(10分)、390℃(10分)、および500℃(60分)で加熱された。焼成の後、電極はTiCl水溶液に浸漬され、上述のように洗い流された。第2の、かつ最後の加熱段階(500℃で60分間)が実施された。得られた電極は、0.3mM D29有機色素エタノール溶液に20時間浸漬され、増感フォトカソードが形成された。
【0090】
比較例2の場合、対向電極は調製されたFTO上で調製された熱処理された塩化白金酸電極であった。21μLの4.8mM塩化白金酸エタノール溶液が、2.25cmのFTO電極上にドロップキャストされた。その後サンプルは20分間400℃に加熱された。
【0091】
実施例3および4の場合、対向電極はグラフェンシート、アクリレートバインダー、および溶媒を含む導電性インクをFTO基板上にコーティングし、約4分間約120℃で硬化することによって形成された。実施例3の場合、電極は約15μmの厚みだった。実施例4の場合、電極は約6μmの厚みだった。
【0092】
50μmの熱可塑性Surylnスペーサが、太陽電池の端部を密閉するのに使用された。ヨウ化物/三ヨウ化物レドックス対を用いた電解質溶液(0.6M テトラブチルアンモニウムヨウ化物、0.1M LiI、0.05M I、および0.2M 4−tertブチルピリジンのアセトニトリル溶液)が、対向電極に予め開けられた2つの穴を通じて導入され、電池はSurlynカバーおよびガラスカバースリップを用いて密封された。
【0093】
〔測定〕
DSSCの電流電圧特性は、ソーラーシミュレータ(Newport model 91160)を用いて100mW/cmで模擬されたAM1.5Gの光の下で、ソースメータ(Keithley 2400)により測定された。
【0094】
結果は表2に与えられる。この結果は同様に調製された2つのサンプルの平均である。Vocは開回路電圧を示す。Jscは短絡電流密度を示す。ηは電池効率(電池の最大出力を入力電力で割ったもの、面積当たり)を示す。FFは曲線因子を示し、これは理論的な最大出力に対する、装置内で得られる最大出力の比である[FF=(J×V)/(Jsc×Voc)、ここでJおよびVは、各々電池の最大出力時の電流密度および電圧である]。
【0095】
【表2】
【0096】
実施例5〜10および比較例3
電極の触媒活性を決定するために、文献(Electrochimica Acta 2001 46(22),3457,およびACS Nano 2010 4(10)6203−6211)に記載されるサンドイッチ型の電池構成を使用する電極において、電気化学的インピーダンス分光法(EIS)が実施された。対称なグラフェンインク電極(実施例5〜10)および対称な白金コーティングFTO電極(比較例2)が、0.6Mテトラブチルアンモニウムヨウ化物、0.1M LiI、0.05M I、および0.2M 4−tertブチルピリジンを含むアセトニトリル電解質中で試験された。電極を分離し、電池を密封するために、50μm厚みのSurlyn(登録商標)フィルムが使用された。EIS測定は0Vで行われた。交流信号の大きさは10mVであり、周波数の範囲は1Hzから100kHzであった。適切な等価回路を備えたZviewソフトウェア(約100,000から約25Hzの高周波数および中周波数ハンプが電荷移動抵抗(RCT)を示す)が、インピーダンススペクトルを分析し、かつ電極のRCTを決定するために使用された。結果は表3に与えられる。
【0097】
実施例5〜10の場合、対向電極は、フッ素ドープ酸化スズ基板上にグラフェンシート、アクリレートバインダー、および溶媒を含む導電性インクをコーティングし、約4分間約120℃で硬化することによって形成された。実施例5、6、および7(1つのインクを使用する)の場合、乾燥されたインクは約65S/mのバルク導電性を有しており、実施例8、9、および10(第2のインクを使用する)の場合、乾燥されたインクは100S/mのバルク導電性を有していた。
【0098】
【表3】