(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本実施の形態に係るワイパ装置10の構成を示す概略図である。ワイパ装置10は、例えば、乗用自動車等の車両に備えられたフロントガラス12を払拭するためのものであり、一対のワイパ14及び16と、ワイパモータ18と、リンク機構20と、ワイパ制御回路22とを備えている。
【0015】
ワイパ14及び16は、それぞれワイパアーム24及び26とワイパブレード28及び30とにより構成されている。ワイパアーム24及び26の基端部は、後述するピボット軸42及び44に各々固定されており、ワイパブレード28及び30は、ワイパアーム24及び26の先端部に各々固定されている。
【0016】
ワイパ14及び16は、ワイパアーム24及び26の回動に伴ってワイパブレード28及び30がフロントガラス12上を往復回動し、ワイパブレード28及び30がフロントガラス12を払拭する。
【0017】
ワイパモータ18は、主にウォームギアで構成された減速機構52を介して、正逆回転可能な出力軸32を有し、リンク機構20は、クランクアーム34と、第1リンクロッド36と、一対のピボットレバー38及び40と、一対のピボット軸42及び44と、第2リンクロッド46とを備えている。
【0018】
クランクアーム34の一端側は、出力軸32と固定されており、クランクアーム34の他端側は、第1リンクロッド36の一端側と回動可能に連結されている。また、第1リンクロッド36の他端側は、ピボットレバー38のピボット軸42を有する端とは異なる端寄りのカ所に回動可能に連結されており、ピボットレバー38のピボット軸42を有する端とは異なる端及びピボットレバー40におけるピボットレバー38の当該端に対応する端には、第2リンクロッド46の両端がそれぞれ回動可能に連結されている。
【0019】
また、ピボット軸42及び44は、車体に設けられた図示しないピボットホルダによって回動可能に支持されており、ピボットレバー38及び40におけるピボット軸42及び44を有する端は、ピボット軸42及び44を介してワイパアーム24及び26が各々固定されている。
【0020】
本実施の形態に係るワイパ装置10では、出力軸32が回動範囲θ1で正逆回転されると、この出力軸32の回転力がリンク機構20を介してワイパアーム24及び26に伝達され、このワイパアーム24及び26の往復回動に伴ってワイパブレード28及び30がフロントガラス12上における下反転位置P2と上反転位置P1との間で往復回動をする。θ1の値は、ワイパ装置のリンク機構の構成等によって様々な値をとり得るが、本実施の形態では、一例として145°とする。
【0021】
本実施の形態に係るワイパ装置10では、
図1に示されるように、ワイパブレード28及び30が格納位置P3に位置された場合には、クランクアーム34と第1リンクロッド36とが直線状をなす構成とされている。
【0022】
格納位置P3は、下反転位置P2の下方に設けられている。ワイパブレード28及び30が下反転位置P2にある状態から、出力軸32がθ2回転することにより、ワイパブレード28及び30は格納位置P3に回動する。θ2の値は、ワイパ装置のリンク機構の構成等によって様々な値をとり得るが、本実施の形態では、一例として5°とする。
【0023】
なお、θ2が「0」の場合は、下反転位置P2と格納位置P3は一致し、ワイパブレード28及び30は、下反転位置P2で停止し、格納される。
【0024】
また、本実施の形態では、上反転位置P1と格納位置P3との中間の位置を中心位置P4とする。
【0025】
ワイパモータ18には、ワイパモータ18の回転を制御するためのワイパ制御回路22が接続されている。
【0026】
本実施の形態に係るワイパ制御回路22は、例えば、ワイパモータ18の出力軸32の回転速度及び回転角を検知するセンサ54、ワイパモータ18を作動させるための電流をPWM制御によって生成してワイパモータ18に供給する駆動回路56を有している。
【0027】
ワイパモータ18がブラシレスDCモータであれば、駆動回路56は、スイッチング素子にMOSFETを使用したインバータ回路を含み、後述するマイクロコンピュータ58の制御によって、所定のデューティ比の電流を出力する。
【0028】
本実施の形態に係るワイパモータ18は、前述のように減速機構52を有しているので、出力軸32の回転速度及び回転角は、ワイパモータ本体の回転速度及び回転角と同一ではない。しかしながら、本実施の形態では、ワイパモータ本体と減速機構52は一体不可分に構成されているので、以下、出力軸32の回転速度及び回転角を、ワイパモータ18の回転速度及び回転角とみなすものとする。
【0029】
センサ54は、ワイパモータ18の減速機構52内に設けられ、出力軸32に連動して回転する励磁コイル又はマグネットの磁界(磁力)を電流に変換して検出する。
【0030】
また、本実施の形態に係るワイパ制御回路は、センサ54が検知した出力軸32の回転角からワイパブレード28及び30のフロントガラス12上における位置を算出可能で当該位置に応じて出力軸32の回転速度が変化するように駆動回路56を制御するマイクロコンピュータ58及び駆動回路56の制御に用いるデータを記憶したメモリ60を有して構成され、マイクロコンピュータ58には、ワイパスイッチ50が接続されている。
【0031】
メモリ60は、ワイパブレード28及び30のフロントガラス12上の位置に応じて出力軸32の回転数を規定した速度マップ等のデータを記憶している。
【0032】
マイクロコンピュータ58は、ワイパスイッチ50がオンになった場合に、メモリ60に記憶されている速度マップ等のデータに従って駆動回路56を制御する。
【0033】
ワイパスイッチ50は、車両のバッテリからワイパモータ18に供給される電力をオン又はオフするスイッチである。
【0034】
ワイパスイッチ50は、ワイパブレード28及び30を、低速で回動させる低速作動モード選択位置、高速で回動させる高速作動モード選択位置、一定周期で間欠的に回動させる間欠作動モード選択位置、格納(停止)モード選択位置に切替可能である。また、各モードの選択位置に応じた信号をマイクロコンピュータ58に出力する。
【0035】
ワイパスイッチ50から各モードの選択位置に応じて出力された信号がワイパ制御回路22に入力されると、ワイパ制御回路22がワイパスイッチ50からの出力信号に対応する制御をメモリ60に記憶されている速度マップに従って行うようになっている。
【0036】
図2は、本実施の形態に係るセンサ54の一例を示す図である。
図2に示したセンサ54は、交流電源70から供給された電力によって励磁される励磁コイル72を含み、出力軸32に従って回転する回転子74を有している。
【0037】
回転子74の近傍には、励磁コイル72によって生じた磁界を検出する第1検出コイル76及び第2検出コイル78が設けられている。
【0038】
第2検出コイル78の中央と回転子74の中心とを結ぶ軸線は、第1検出コイル78の中央と回転子74の中心とを結ぶ軸線に対して90°となるように、第1検出コイル76及び第2検出コイル78が配置されている。
【0039】
また、第1検出コイル76には第1電圧計80が、第2検出コイル78には第2電圧計82が各々設けられている。
【0040】
図3は、本実施の形態に係るセンサ54の出力の一例を示す図である。センサ54は、互いに90°ずれて配置されている2つの検出コイルを有するので、
図3では位相が90°ずれた2本の正弦曲線が出力されている。本実施の形態では、2本の正弦曲線を正弦波90と余弦波92とし、正弦波90は第1検出コイル76が検出した電流の電圧値を示し、余弦波92は第2検出コイルが検出した電流の電圧値を示すものとする。
【0041】
図3において、出力軸角度をθとすると、正弦波90及び余弦波92は以下の式(1)及び(2)のように表すことができる。
(数1)
正弦波90:y=sinθ ・・・(1)
余弦波92:y=cosθ ・・・(2)
【0042】
また、正弦を余弦で除算して得た商は、以下の式(3)に示すように正接となる。
(数2)
sinθ/cosθ=tanθ ・・・(3)
【0043】
さらに式(3)によって算出された正接を正接の逆関数であるtan
−1で処理することにより、センサ信号角度が算出される。
図3には、上記のようにして算出されたセンサ信号角度が折れ線で記載されている。算出されたセンサ信号角度は
図3の横軸の出力軸角度と対応している。
【0044】
なお、本実施の形態では、三角関数に基づく以上の計算を専用ICによって処理している。
【0045】
図4は、本実施の形態におけるセンサ信号角度と出力軸32の実作動角度との対応を示す図である。
【0046】
本実施の形態では、ワイパブレード28及び30が往復回動する場合のワイパモータ18の出力軸32の回転角の中間値を、センサ54が検出可能な角度の範囲の中間値付近とみなしている。
【0047】
図4では、ワイパブレード28及び30が格納位置P3から上反転位置P1まで回動した場合の出力軸32の回転角を出力軸実作動角度とする。出力軸実作動角度は、ワイパブレード28及び30が格納位置P3にあるときは0°であり、ワイパブレード28及び30が上反転位置P1に到達したときは150°となる。
【0048】
また、出力軸実作動角度が0°から150°の中間値である75°の場合に、ワイパブレード28及び30は、格納位置P3と上反転位置P1との中間点である中心位置P4に位置するものとする。
【0049】
図4の上段には、センサ54が検出したセンサ信号角度が示されている。一般に回転角を検出するセンサの検出範囲は、0°から180°までであり、本実施の形態のセンサ54も、センサ信号角度を検出可能な範囲である検出範囲は0°から180°までとする。従って、本実施の形態では、センサ54の検出範囲の中間値は、90°である。
【0050】
本実施の形態では、
図4に示したように、出力軸実作動角度の中間値を、センサ54の検出範囲の中間値付近とみなす。これにより、センサ54が検出した信号角度が、センサ54の検出範囲の下限値である0°以上の角度のときに、ワイパブレードを下反転位置で反転させることができると共に、ワイパブレードを格納位置P3に格納できる。また、センサ54が検出したセンサ信号角度が、センサ54の検出範囲の上限値である180°以下のときにワイパブレードを上反転位置P1で反転させることができる。
【0051】
図4の左側には、ワイパブレード28及び30が格納位置P3を行き過ぎてしまう、いわゆるオーバーランの場合が記載されている。仮に、
図4に示されているように、ワイパブレード28及び30が出力軸実作動角度で2°だけオーバーランしたとしても、その場合のセンサ信号角度は13°であり、センサ54の検出範囲の下限値である0°を超えている。そのため、ワイパブレード28及び30の回動方向は逆転しない。
【0052】
図5は、本実施の形態でワイパモータ18の出力軸32の回転数を規定した速度マップの一例を示す図である。
【0053】
図5の縦軸はワイパモータ18の回転速度に対応して変化する出力軸32の回転数であり、横軸はセンサ54が検出した出力軸32の角度であるセンサ信号角度である。また、横軸には、出力軸32の回転角に対応したフロントガラス12上でのワイパブレード28及び30の位置をかっこ書で示している。
【0054】
図5には、起動時速度マップC1、往復払拭動作速度マップC2及び格納動作速度マップC3の3本の曲線が記載されている。
【0055】
起動時速度マップC1は、ワイパブレード28及び30が、格納位置P3に格納されている状態からワイパモータ18が作動を開始した場合に用いられる速度マップである。ワイパブレード28及び30が、格納位置P3から上反転位置P1に回動するに従って出力軸32の回転数が増大し、格納位置P3と上反転位置P1との中間点である中心位置P4付近で出力軸32の回転数が最大となる略半楕円状の軌跡で構成されている。
【0056】
往復払拭動作速度マップC2は、ワイパブレード28及び30が、下反転位置P2と上反転位置P1との間を往復回動する場合に用いられる速度マップである。ワイパブレード28及び30が、下反転位置P2から上反転位置P1に回動するに従って出力軸32の回転数が増大し、下反転位置P2と上反転位置P1との中間点付近で出力軸32の回転数が最大となるような略半楕円状の軌跡で構成されている。
【0057】
往復払拭動作速度マップC2は、上反転位置P1でワイパブレード28及び30が反転する場合、すなわちワイパブレード28及び30が上反転位置P1から下反転位置P2に戻る場合にも用いられる。この場合、ワイパブレード28及び30が、上反転位置P1から下反転位置P2に回動するに従って出力軸32の回転数が増大し、上反転位置P1と下反転位置P2との中間点付近で出力軸32の回転数が最大となる。
【0058】
なお、起動時速度マップC1と往復払拭動作速度マップC2とにおいて、出力軸32の最大の回転数は同じである。車載のワイパ装置は、ワイパブレード28及び30を、低速で回動させる低速作動モード及び高速で回動させる高速作動モードを一般に備えるので、起動時速度マップC1及び往復払拭動作速度マップC2を、低速作動モード用と高速作動モード用とで各々備えるようにしてもよい。
【0059】
また、ワイパスイッチ50が、間欠作動モード選択位置の場合は、ワイパブレード28及び30が下反転位置P2で停止した後、数秒〜10秒ほどの所定時間の経過後に、再び往復払拭動作速度マップC2に従ってワイパモータ18を回転させるようにしてもよい。
【0060】
格納動作速度マップC3は、ワイパ装置が作動中にワイパスイッチ50が格納(停止)モード選択位置に切替えられた場合に用いられる速度マップである。
【0061】
ワイパ装置が作動中、ワイパモータ18は往復払拭動作速度マップC2に従って正逆回転し、ワイパブレード28及び30は、上反転位置P1と下反転位置P2との間を往復回動している。そのため、格納動作速度マップC3は、ワイパブレード28及び30が下反転位置P2に戻ってきた後、下反転位置P2から格納位置P3に回動するまでの出力軸の回転速度を規定している。
【0062】
格納動作速度マップC3は、ワイパブレード28及び30が、下反転位置P2から格納位置P3に回動するに従って出力軸32の回転数が増大し、下反転位置P2と格納位置P3との中間点付近で出力軸32の回転数が最大となる略半楕円状の軌跡で構成されている。
【0063】
本実施の形態では、ワイパブレードが往復回動中にワイパスイッチ50が格納(停止)モード選択位置に切替えられると、ワイパブレードが下反転位置P2に達するまでは、ワイパモータ18の回転は往復払拭動作速度マップC2に従って制御される。
【0064】
ワイパブレードが下反転位置P2に達した後は、格納動作速度マップC3に従ってワイパモータ18の回転が制御される。
【0065】
なお、格納動作速度マップC3が規定する出力軸32の最大の回転数は、起動時速度マップC1及び往復払拭動作速度マップC2が各々規定する最大の回転数よりも低速である。これは、下反転位置P2から格納位置P3までの距離が短いので、出力軸32の回転数を高くすると、フロントガラス12上でワイパブレード28及び30が急加速かつ急減速して格納位置P3で停止することになり、円滑な動作が妨げられるからである。
【0066】
図5の横軸では、センサ信号角度が、格納位置P3と上反転位置P1との中間点である中心位置P4付近で、センサ54の検出範囲の中間値である90°になっている。
【0067】
また、ワイパブレード28及び30は、センサ信号角度が15°のときに格納位置P3に格納され、センサ信号角度が20°のときに下反転位置P2で反転し、センサ信号角度が165°のときに上反転位置P1で反転するようになっている。
【0068】
これにより、センサ54が検出した信号角度が、センサ54の検出範囲の下限値である0°以上の角度のときに、ワイパブレードを下反転位置で反転させることができると共に、ワイパブレードを格納位置P3に格納できる。また、センサ54が検出したセンサ信号角度が、センサ54の検出範囲の上限値である180°以下のときにワイパブレードを上反転位置P1で反転させることができる。
【0069】
本実施の形態において、ワイパモータ18の出力軸32の回転角の中間値を、センサ54の検出範囲の中間値付近とみなすには、種々の方法が考えられる。
【0070】
1つには、センサ54の取り付け位置を基準位置から所定の角度だけずらすことが考えられる。
【0071】
例えば、本実施の形態では、ワイパブレード28及び30が格納位置P3にあるときに、センサ54が検出するセンサ信号角度が15°になるようにセンサ54の取り付け位置を調整する。
【0072】
もう1つは、センサ54が検出したセンサ信号角度を補正し、補正後のセンサ信号角度によってワイパモータ18の回転を制御する方法である。
【0073】
図6は、本実施の形態におけるセンサ信号角度の補正及び補正したセンサ信号角度でのワイパモータ18の回転の制御を示すフローチャートである。
【0074】
ワイパスイッチ50が格納(停止)モード選択位置から低速作動モード選択位置、高速作動モード選択位置又は間欠作動モード選択位置に切替えられたことで、
図6に示す制御が開始される。
【0075】
まず、ステップ600では、センサ信号角度が検出される。センサ54が基準位置通りに取り付けられていて、ワイパブレード28及び30が格納位置P3にあるのであれば、ステップ600の段階でセンサ信号角度は0°となる。
【0076】
ステップ602では、センサ信号角度を補正する。一例として、本実施の形態では、ワイパブレード28及び30が格納位置P3にある場合にセンサ信号角度が15°になるように補正する。15°という角度は、上述のように、ワイパモータ18の出力軸32の回転角が0°〜150°であり、センサ54の検出範囲が0°〜180°の場合に、ワイパモータ18の出力軸32の回転角の中間値を、センサ54の検出範囲の中間値付近とみなすことによる。
【0077】
ワイパモータ18の出力軸32の回転角又はセンサ54の検出範囲に応じて、本実施の形態では15°とした角度は適宜変更され得る。
【0078】
ステップ604では、補正後のセンサ信号角度及びメモリ60に記憶されている速度マップに基づいてワイパモータ18の回転が制御される。
【0079】
ステップ606では、ワイパスイッチ50が格納(停止)モード選択位置に切替えられたか否かを判定する。否定判定の場合は、手順をステップ600に戻し、肯定判定の場合は、処理を終了する。
【0080】
以上説明したように、本実施の形態によれば、ワイパモータの回転角の中間値を、センサの検出範囲の中間値付近とみなすようにセンサが検出したセンサ信号角度を補正する。これにより、ワイパブレードが停止又は反転する所定の位置をオーバーランした場合であっても、ワイパブレードの回動方向の逆転を防止できる。