特許第6286523号(P6286523)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286523
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】触媒反応器の起動方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20180215BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20180215BHJP
   B01J 23/28 20060101ALI20180215BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20180215BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20180215BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   B01J23/63 M
   B01J23/83 M
   B01J23/28 M
   B01J23/34 M
   C01B3/04 B
   B01J37/16
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-249154(P2016-249154)
(22)【出願日】2016年12月22日
(62)【分割の表示】特願2016-15543(P2016-15543)の分割
【原出願日】2010年11月9日
(65)【公開番号】特開2017-74591(P2017-74591A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】荒木 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】日数谷 進
(72)【発明者】
【氏名】森 匠磨
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−102700(JP,A)
【文献】 特開2002−102701(JP,A)
【文献】 特開2004−344513(JP,A)
【文献】 特開2008−229604(JP,A)
【文献】 特開2010−240644(JP,A)
【文献】 特開2010−094668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/63
B01J 23/28
B01J 23/34
B01J 23/83
B01J 37/16
C01B 3/04
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に触媒活性金属を担持させてなり、かつ、該触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が10〜90%であるアンモニア酸化・分解触媒を、水素気流中若しくはアンモニア気流中、600℃で加熱処理することにより該触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部をCeO2−x(0<x<2)に還元させた後に、窒素雰囲気下とし、その後、−30℃から常温にわたる温度域で酸素とアンモニアを同時に該触媒に供給することで、還元状態にある担体と酸素との反応により発生した酸化熱を利用してアンモニアと酸素が反応する200℃の温度にまで触媒層温度を上昇させ、これによりアンモニアを分解し水素を製造するアンモニア酸化・分解触媒を充填した触媒反応器を起動させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料としてアンモニアを用いるアンモニアエンジンの助燃剤や燃料電池などで水素生成反応に供されるアンモニア酸化・分解触媒に関する。本発明は、触媒を充填した触媒反応器を起動させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアを分解して水素を製造するためには、従来、ルテニウム系のアンモニア分解触媒の存在下に下記式(I)の反応を進行させる必要がある。
【0003】
NH ⇔ 3/2H + 1/2N ・・・(I)
ΔH298K=46.1kJ/mol
【0004】
式(I)の反応は、吸熱反応であるため、安定したアンモニア分解率を得るためには反応系に熱を与えて反応温度350℃以上にする必要がある。
【0005】
そこで、吸熱反応によるガス温度降下を抑制するために従来は外部から熱を供給していた。しかし、この方法では伝熱速度が反応速度より遅いため十分な伝熱速度を得るには伝熱面積を大きくせざるをえず、装置のコンパクト化が難しい。
【0006】
外部からの熱供給の熱源としてエンジンなどの排ガスを利用する方法も考えられるが、この方法では熱源の温度が350℃以下である場合は触媒が作動する温度より低いため、熱供給を行うことができず、所定量の水素を製造することができないという難点がある。
【0007】
熱供給の熱源としては、外部からの供給以外に下記式(II)に示されるように、アンモニアと酸素との触媒反応により熱を発生させ、この熱を利用する方法がある。
【0008】
NH + 3/4O ⇔ 1/2N + 3/2HO ・・・(II)
ΔH298K=−315.1kJ/mol
【0009】
式(I)と式(II)の反応を同一の反応管内で起こさせると式(I)の反応の吸熱分を式(II)の反応で発生する熱で補うことが可能となる。また、式(II)の反応の酸素量を制御することで触媒層温度を制御することができる。例えば、エンジン排ガスの廃熱を熱交換して予熱された供給ガス温度が変動する場合において、安定して水素を製造することが可能となる。
【0010】
式(II)の反応を進行させるために用いられるアンモニア酸化用触媒としては、通常、白金系触媒が用いられる。例えば特許文献1には、耐火性金属酸化物、この耐火性金属酸化物上に設けられた白金層、およびこの白金上に設けられたバナジア層を含んでなる多層化アンモニア酸化触媒が提案されている。
【0011】
しかし、この触媒の作動温度は200℃程度であり、それ以下の温度では酸化反応を進行させることができず、電気ヒータ等でガス温度を200℃程度まで上げる必要がある。
【0012】
特許文献2には、セリウム及びプラセオジムから選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、イットリウムを含む原子価非可変性希土類元素から選択される少なくとも1種の元素の酸化物と、コバルトの酸化物を含むアンモニア酸化触媒が提案され、また特許文献3には、本質的に白金、ロジウム、随時パラジウムからなるフィラメントを含み、該フィラメントが白金コーティングを有するアンモニア酸化触媒が提案されているが、これらも特許文献1と同じ問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2007−504945号公報
【特許文献2】特許4165661号公報
【特許文献3】特開昭63−72344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本願の発明者らは、酸化還元可能な金属酸化物からなる担体に触媒活性金属が担持されてなるアンモニア酸化・分解触媒を開発した。
【0015】
このアンモニア酸化・分解触媒によると、(i)常温でアンモニアおよび空気をこの触媒と接触させることにより、まず還元状態にある担体が酸素と反応して酸化熱が発生し、瞬時に触媒層温度が上昇し、触媒層温度がアンモニアと酸素とが反応する温度にまで達する;(ii)その後は発熱反応であるアンモニア酸化反応が自立的に進行し、発熱反応により生じた熱が、上述の式(I)に従って触媒活性金属の存在下にアンモニアを分解する過程で使われ、これにより水素が生成する。
【0016】
したがって、上記触媒を用いることにより、電気ヒータ等での予備加熱が不要となり、水素の製造コストを削減することができる。
【0017】
上記触媒では、担体を予め還元しておくことにより、常温で還元された状態の担体と酸素が接触した時に担体が酸素と反応して酸化熱が発生し、常温起動性を有することとなる。
【0018】
担体として単独のCeOを用いた場合、常温起動性を有するようにするためには、600℃以上もの高温で担体を還元する必要があった。
【0019】
また、上記触媒は常温起動性を有するものであるが、常温より低い温度では起動性を発現させることができなかった。そこで常温よりもさらに低い温度で起動させることができれば、上記触媒の適用範囲を広くすることができるので便宜である。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、触媒が常温起動性を有するようにするために必要な担体の還元温度を低減させることができ、かつ、常温よりも低い温度で起動性を持たせることができるような、アンモニア酸化・分解触媒を提供することを目的とする。
【0021】
本発明は、触媒が常温起動性を有するようにするために必要な担体の還元温度を低減させることができ、かつ、常温よりも低い温度で起動性を持たせることができるような、触媒反応器を起動させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するため、本発明は、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に触媒活性金属を担持させてなり、かつ、該触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が10〜90%であるアンモニア酸化・分解触媒を、水素気流中若しくはアンモニア気流中、600℃で加熱処理することにより該触媒担体を構成する酸化セリウムの一部または全部をCeO2−x(0<x<2)に還元させた後に−30℃から常温にわたる温度域で酸素とアンモニアを同時に該触媒に供給することで該触媒を充填した触媒反応器を起動させる方法である。
【0023】
本発明のアンモニア酸化・分解触媒は、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体に、触媒活性金属として第6A族、第7A族、第8族、および第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を担持させたアンモニア酸化・分解触媒であって、前記触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度が10〜90%であることを特徴とする。
【0024】
好ましくは、上記アンモニア酸化・分解触媒はハニカム形状を有する。
【0025】
好ましくは、上記アンモニア酸化・分解触媒はペレットもしくはラッシヒリング状を有する。
【0026】
本発明のアンモニア酸化・分解触媒に用いられる酸化還元可能な触媒担体は、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなるものであり、この触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度は10〜90%、より好ましくは20〜70%である。
【0027】
触媒担体に担持される触媒活性金属は、好ましくは、Mo、Cr等の第6A族、Mn等の第7A族、Ru、Pt、Rh、Pd、Co、Ni、Fe等の第8族、およびCu、Ag等の第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属である。
【0028】
本発明によるアンモニア酸化・分解触媒は、水素気流中若しくはアンモニア気流中で200〜400℃で加熱処理することにより、以下の反応により触媒担体を構成する金属酸化物の一部または全部が還元される。
【0029】
CeO+xH→CeO2−x+xHO (0<x<2)
CeO+2x/3NH→CeO2−x+xHO+x/3N(0<x<2)
【0030】
上記還元後の触媒がアンモニア酸化・分解反応に供される。アンモニア酸化・分解触媒の還元処理は、同触媒反応器に充填する前に行っても後に行ってもよい。
【0031】
触媒担体が還元された状態にあるアンモニア酸化・分解触媒は、常温若しくはそれ以下の温度である−15〜−30℃の温度でアンモニアおよび空気と接触させると、まず、還元状態にある触媒担体が酸素と反応することによって酸化熱が発生し、瞬時に触媒層温度が上昇する。一旦、触媒層温度がアンモニアと酸素が反応する温度(200℃)まで上昇すると、その後は自立的に上述した式(II)に従ってアンモニア酸化反応が進行する。この式(II)の発熱反応で生じた熱が、上述した式(I)に従って触媒活性金属の存在下にアンモニアを分解する過程で使われ、水素が生成する。
【発明の効果】
【0032】
本発明の触媒反応器の起動方法によれば、触媒が常温起動性を有するようにするために必要な担体の還元温度を低減させることができ、かつ、常温よりも低い温度で起動性を持たせることができる。
【0033】
本発明は、触媒活性金属として第6A族、第7A族、第8族、および第1B族からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を担持させたアンモニア酸化・分解触媒において、酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの複合酸化物からなる触媒担体を用い、この触媒担体中の酸化ジルコニウムのモル濃度を10〜90%とすることにより、触媒が常温起動性を有するようにするために必要な担体の還元温度を低減させることができ、かつ、常温よりも低い温度で起動性を持たせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】低温時起動性試験を行った時の触媒層温度の経時変化を示すグラフである。
図2】実施例17の触媒を用いた場合の各気体の濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例、並びに参考例をいくつか挙げる。
【0036】
a)触媒担体
触媒担体として、ZrOのモル濃度が10、20、50、80%である4種の市販のCeO−ZrO(第一稀元素化学工業(株)製)を用いた。
【0037】
b)触媒活性金属の担持
上記の触媒担体に触媒活性金属を担持させた。触媒活性金属は、貴金属であるRu、Pt、Rh、Pt−Rhおよび卑金属であるCo、Ni、Fe、Cu、Mo、Mnを用いた。触媒担持量はすべて2重量%となるようにした。
【0038】
(ペレット形状の触媒の調製)
上記各金属の触媒担体上への担持は、各金属の前駆体である各金属塩を純水に溶解させ、この溶液に、上記の触媒担体を、触媒活性金属の担持量が2重量%(金属として)になるように分散させた。
【0039】
この分散液を加熱し、水を緩やかに蒸発させた(蒸発乾固法)。
【0040】
得られた粉末状物を300℃の空気中で3時間にわたって焼成した。
【0041】
焼成後の粉末状物を圧縮成型し、1〜0.85mmに篩い分けして使用に供した。
【0042】
(ハニカム状触媒の調製)
600cpiのコーディエライト上にウォッシュコート法を用いて約250g/Lの触媒担持量になるまで触媒活性金属を担持させた。
【0043】
比較例のための触媒担体として、市販のCeO(第一稀元素化学工業(株)製)を用いた。この触媒担体にRu、CoおよびNiの各触媒活性金属を担持させた。触媒担持量は、2重量%となるようにした。
【0044】
c)常温起動性試験
(触媒の還元処理)
得られた各ペレット状触媒1gまたはハニカム状触媒4mLを流通型反応管に充填した後、水素気流中還元処理温度を150℃から800℃までにわたって50℃刻みとして処理した。還元処理時間は2時間とした。
【0045】
(常温起動性の確認)
上記の反応管に充填された各温度で還元処理された触媒を、窒素雰囲気下、25℃で保持し、その後、酸素(空気)とアンモニアを同時に触媒層に供給した。アンモニア供給量は2.5NL/分と一定にし、空気供給量は空気/アンモニアの体積比1.0とした。触媒層温度と出口ガス組成を、それぞれ、熱電対と質量分析計により計測した。
【0046】
上記の結果、触媒層の温度が上昇すること、水素の生成が認められること、および30分間以上にわたって安定に水素が生成すること、の3つの要件を満たした触媒を、常温起動性を発現する触媒とし、そのような触媒について還元処理に要した温度を還元温度とした。
【0047】
各参考例および比較例の触媒の形状および組成および還元温度を以下の表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
上記表1から明らかなように、触媒担体がCeOであった場合(比較例1〜3)、常温起動性が発現するには還元温度は600℃以上であることが必要であったのに対して、CeOにZrを10mol%添加した場合(参考例1)には常温起動性を発現させるための還元温度は400℃であり、比較例1に比べて還元温度を200℃低減させることができた。
【0050】
アンモニアの酸化・分解が進行し触媒層温度が600℃以上であれば反応が停止時にアンモニアを触媒層へ吹き込むだけで発熱反応である担体触媒の酸化反応が進行することにより触媒層温度が上昇し、再び常温起動性を有することが確認された。したがって、より温和な条件で再起動が可能となった。
【0051】
上記結果から、Zrの添加は望ましくは20〜70mol%であり、貴金属であるRuを触媒活性金属として用いた場合には200℃の還元温度で常温起動性を発現し、卑金属であるNiやCoを触媒活性金属として用いた場合には、300℃の還元温度で常温起動性を発現させることができた。
【0052】
d)低温時の起動性試験
(触媒の還元処理)
得られた各ペレット状触媒1gまたはハニカム状触媒4mLを流通型反応管に充填した後、水素気流中600℃で2時間にわたって還元処理を行った。
【0053】
(低温起動性の確認)
上記の反応管に充填された還元処理された触媒を、窒素雰囲気下に冷却し、所定の温度に達した後に、酸素(空気)とアンモニアを同時に供給した。アンモニア供給量は1NL/分と一定にし、空気供給量は空気/アンモニアの体積比1.0とした。触媒層の温度と触媒層出口における水素発生量を、それぞれ、熱電対と質量分析計により計測した。
【0054】
各実施例および比較例の触媒の形状および組成および還元温度を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
上記の低温時起動性試験を行った時の触媒層温度の経時変化について実施例17の触媒(Ru/CeO2−ZrO(50mol%))を用いた場合と比較例4の触媒(Ru(2wt%)/CeO)を用いた場合とを図1に示す。また、実施例17の触媒を用いた場合の各気体の濃度の経時変化を図2に示す。
【0057】
図1から明らかなように、触媒担体がCeOである比較例1では、初期触媒層温度が−15℃では起動性は発現せず、水素は発生しなかった。
【0058】
これに対して、実施例15〜32では、CeOにZrOを10〜90mol%、望ましくは20〜70mol%の割合で添加することにより、室温より低い温度であっても水素の生成が見られ、起動性を発現することが分かった。
【0059】
特に、Pt、Rh、Pt−Rh合金などの貴金属、Co、Fe、Ni、Cu、Mo、Mn等の卑金属などの種類を問わず、低温時の起動性を発現することができた。
図1
図2