特許第6286531号(P6286531)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286531位相フィルタ、撮像光学系、及び撮像システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286531
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】位相フィルタ、撮像光学系、及び撮像システム
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/00 20060101AFI20180215BHJP
   H04N 5/225 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G02B13/00
   H04N5/225 D
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-510184(P2016-510184)
(86)(22)【出願日】2015年3月3日
(86)【国際出願番号】JP2015056169
(87)【国際公開番号】WO2015146506
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-65542(P2014-65542)
(32)【優先日】2014年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】317015179
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】崎田 康一
(72)【発明者】
【氏名】太田 光彦
(72)【発明者】
【氏名】島野 健
【審査官】 吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−102415(JP,A)
【文献】 特開2001−013307(JP,A)
【文献】 特開2003−117959(JP,A)
【文献】 特開平06−331942(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/001709(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/155754(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/004881(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/00、13/00−13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光軸に対して回転対称な複数の輪帯を備え、前記各輪帯が凹状又は凸状の略放物線で規定される断面形状を有し、前記各輪帯のうち少なくともいずれかの輪帯は、前記略放物線で規定された凹状の断面形状での最大深さ、または前記略放物線で規定された凸状の断面形状での最大高さが、入射光の一波長以上の位相を与えるものである位相フィルタを、結像光学系に搭載した撮像光学系にて撮像された画像に対し、デコンボリューション画像処理を行う、撮像システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被写界深度または焦点深度を拡大する技術を適用した撮像システム及びこれに用いられる位相フィルタ、撮像光学系に関する。
【背景技術】
【0002】
===参照による取り込み===
本出願は、2014年3月27日に出願された日本特許出願第2014−65542号の優先権を主張し、その内容を参照することにより、本出願に取り込む。
撮像カメラ光学系の瞳面において、瞳面内座標に対して点像分布関数(以下、PSF:Point Spread Function)で与えられる位相分布を与えることによって焦点ずれに対する点像のぼけを均一化し、この均一なぼけを、デコンボリューションと称される画像処理によって除去して光学系の被写界深度や焦点深度を拡大するWavefront Coding(以下WFCと略す)と呼ばれる技術(特許文献1参照)が提案されている。
【0003】
また、シーンを表す光を拡散し、アパーチャの座標に依存しない散乱関数を有するディフューザと、拡散されたシーンを表す光を受信し、画像を表すデータを生成するセンサと、点像分布関数を用いて画像のぼけを除去するハードウェアプロセッサを備えるシステム(特許文献2参照)なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5,748,371号公報
【特許文献2】特表2013−518474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上述のWFC技術において、位相変調用の光学位相フィルタが光軸に対して非回転対称な構造である場合、それに応じた問題が生じる。すなわち、合焦位置からのずれ量(デフォーカス量)に依存してPSFの重心が移動してしまう問題が生じる。更にこの問題に伴い、信号処理により変調中間画像から上述の光学位相フィルタに起因する変調分を除去する際、方向性を持ったゴースト像を発生させる問題も生じる。さらに、光学位相フィルタが矩形状(図21参照)であることに応じて、絞り形状も矩形とする必要があるため、絞りと光学位相フィルタとレンズの間の光軸調整に関してシビアな精度が求められ、光学システム全体の設計誤差の許容範囲を減少させるという問題点がある。
【0006】
他方、回転対称な光学位相フィルタを利用する場合であっても、従来技術においては、統計光学による確率モデルによって位相板の形状を決定するため、ディフューザの形状を一意に決定することができず、寸法精度などを明確に規定しにくいなどの製造面での課題が残されている。
【0007】
そこで本発明の目的は、被写界深度または焦点深度を拡大可能にするための位相フィルタ、撮像光学系、及び撮像システムにおいて、ゴースト等による画質劣化を抑制し高画質な画像を取得するのに好適な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の位相フィルタは、光軸に対して回転対称な複数の輪帯を備え、前記各輪帯が凹状又は凸状の略放物線で規定される断面形状を有し、前記各輪帯のうち少なくともいずれかの輪帯は、前記略放物線で規定された凹状の断面形状での最大深さ、または前記略放物線で規定された凸状の断面形状での最大高さが、入射光の一波長以上の位相を与えるものである。
【0009】
また、本発明の撮像光学系は、光軸に対して回転対称な複数の輪帯を備え、前記各輪帯が凹状又は凸状の略放物線で規定される断面形状を有し、前記各輪帯のうち少なくともいずれかの輪帯は、前記略放物線で規定された凹状の断面形状での最大深さ、または前記略放物線で規定された凸状の断面形状での最大高さが、入射光の一波長以上の位相を与えるものである位相フィルタを、結像光学系に搭載する。
【0010】
また、本発明の撮像システムは、光軸に対して回転対称な複数の輪帯を備え、前記各輪帯が凹状又は凸状の略放物線で規定される断面形状を有し、前記各輪帯のうち少なくともいずれかの輪帯は、前記略放物線で規定された凹状の断面形状での最大深さ、または前記略放物線で規定された凸状の断面形状での最大高さが、入射光の一波長以上の位相を与えるものである位相フィルタを、結像光学系に搭載した撮像光学系にて撮像された画像に対し、デコンボリューション画像処理を行う。かかる本発明の構成によれば、点像分布関数の重心変化を回避し、位相フィルタにおける光軸の回転ずれによる画像の不具合発生を抑制可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ゴースト等による画質劣化を抑制し高画質な画像を取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の位相フィルタを搭載した撮像光学系の模式図である。
図2】本実施形態における位相フィルタの構造例1を示す平面図である。
図3】本実施形態における位相フィルタの構造例1を示す側断面図である。
図4】本実施形態における位相フィルタの構造例2を示す平面図である。
図5】本実施形態における位相フィルタの構造例2を示す側断面図である。
図6】本実施形態における輪帯構造例1を説明する断面図である。
図7】本実施形態の位相フィルタにおけるPSFと従来技術との比較例1を示す図である。
図8】本実施形態の位相フィルタを用いた撮像システムの構成例を示す図である。
図9】本実施形態における位相フィルタの構造例3を示す平面図である。
図10】本実施形態における位相フィルタの構造例3を示す側断面図である。
図11】本実施形態の輪帯の断面構造におけるコーニック曲線とオフセットの関係を示す図である。
図12】本実施形態における輪帯構造例2を説明する断面図である。
図13】従来技術におけるPSFの例を示す図である。
図14】本実施形態の位相フィルタにおけるPSFの例を示す図である。
図15】本実施形態における位相フィルタの構造例4を示す平面図である。
図16】本実施形態における位相フィルタの構造例4を示す側断面図である。
図17】本実施形態における位相フィルタの構造例5を示す平面図である。
図18】本実施形態における位相フィルタの構造例5を示す側断面図である。
図19】本実施形態における位相フィルタの構造例6を示す平面図である。
図20】本実施形態における位相フィルタの構造例6を示す側断面図である。
図21】従来の3次関数位相板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。図1は本実施形態の位相フィルタ101を搭載した撮像光学系150の模式図であり、図2は本実施形態における位相フィルタ101の構造例1を示す平面図、図3は本実施形態における位相フィルタ101の構造例1を示す側断面図である。なお、図1にて示す撮像光学系150が含む、位相フィルタ101および結像レンズ102はいずれも側断面の形状を示したものとなっている。
【0014】
図1〜3にて示すように、位相フィルタ101は、外形が円盤状で光軸1を中心とした回転対称な形状となっている。また、この位相フィルタ101は、略放物線状の断面形状を有する溝すなわち凹面112が、上述の光軸1を中心に同心円状に略等間隔で複数列形成されている。このように光軸1を中心に同心円状に形成された凹面112を輪帯111とし、輪帯111らを輪帯構造110と総称する。なお、図1の位相フィルタ101の例では、説明の簡略化のため2列の輪帯111のみからなる輪帯構造110を示している。実際には、図2〜3の位相フィルタ101の如く、(2列以上の)多数列の輪帯111からなる輪帯構造110を有している。
【0015】
上述した輪帯111は当該輪帯111に入射する光線に対して瞳面の半径方向に凹レンズとして作用する凹面となる。なお、ここで示す位相フィルタ101における輪帯111の幅は各輪帯間で等しいものとなっている。一方、図4、3にて示すように、輪帯111における断面形状が、凹状ではなく凸状で構成される場合も採用できる。その場合の位相フィルタ101は、略放物線状で凸状の断面形状を有する凸面113が、上述の光軸1を中心に同心円状に略等間隔で複数列形成されている。従って、この場合の輪帯111は、当該輪帯111に入射する光線に対して瞳面の半径方向に凸レンズとして作用する凸面となる。
【0016】
他方、撮像光学系150においては、上述の位相フィルタ101と光軸1を共通にするよう、結像レンズ102が配置されている。この結像レンズ102は位相フィルタ101が無い場合、物体空間の像を光軸1上の所定位置に結像させることができるレンズである。こうした結像レンズ102に位相フィルタ101を組み合わせた構成で撮像光学系150をなすことで、位相フィルタ101に入射する光線103(入射光束)は、上述した凹面112(ないし凸面113)によって屈折され、局所的に発散光となる。この発散光が結像レンズ102によって(紙面上)局所的に略平行な光束となるよう、位相フィルタ101における凹面112(ないし凸面113)の曲率は設定されている。局所的に略平行とは、各凹面112(ないし凸面113)を通過した凹面112(ないし凸面113)毎の光線が、結像レンズ102の通過後に略平行となっている状態を指す。
【0017】
この局所的な略平行光束の伝播方向は輪帯111の中心を通る光線2の屈折方向に沿って元の焦点位置3に向かう。なぜなら輪帯111の中心での凹面112(ないし凸面113)に対する仮想的な接平面は、結像レンズ102の光軸1に垂直であり、そこを通る光線は位相フィルタ101で屈折せずに結像レンズ102に入射するため、その光線は位相フィルタ101がない場合の焦点位置3を通ることが明らかであるからである。このように複数の輪帯111からの略平行光束が焦点3の近傍において光軸方向に範囲104でオーバーラップする。説明の便宜上、前記では各輪帯111からの、発散し結像レンズ102によって屈折された光束を、略平行光束と述べたが、実際には光軸1を中心に回転対称であるから、実際の伝播形態は円錐の側面に沿って伝播するような光束である。このような光束が、異なる角度で複数オーバーラップすることで、複数の非回折ビームが重なり合って点像分布の焦点方向への平滑化が達成される。
【0018】
なお、図2、3に例示した位相フィルタ101において、各輪帯111での断面の略形状は、(式1)が示すコーニックで表される。
【0019】
【0020】
ここでyは深さ、xは高さ又は輪帯内の位置、Rは曲率半径、κはコーニック定数であり、κ=1の時、この式は放物線を表す式となる。輪帯111の凹凸形状は、図2、3のように凹状であっても、図4、5のように凸状であっても良い。
【0021】
輪帯111における断面形状を放物線で近似すると、各輪帯111におけるPSFへの寄与は次式で表すことが出来る。
【0022】
【0023】
ここでPSFiは、i番目の輪帯111のPSFへの寄与を表す。J0(・)は0次の第一種ベッセル関数、ρはPSFの径、W20はデフォーカス量、ξiはi番目の輪帯111の径を示す。ベッセル関数は振動関数であるが、被積分関数の位相項の振動がベッセル関数の振動よりも十分に速い場合、停留位相近似解法が適用できる。この適用条件は、輪帯111の断面形状における高さ(断面底部120から輪帯111の表面121までの高さ)が、位相フィルタ101への入射光の波長λの数倍相当である場合に成立する。ここで入射光の波長λは、白色光のような波長領域幅を持つ場合は、波長領域内の代表値であるとする。この場合の各輪帯111におけるPSFへの寄与を停留位相近似解法で計算すると、
となる。どの輪帯111のPSFへの寄与もデフォーカスW20に対して略不感にできることが分かる。そこで、本実施形態の輪帯111における断面形状は、κ=−1として、放物線形状を成し、直径30mm、焦点距離50mmのレンズに対し、輪帯111の数を50とした構造を採用した。また図6にて示すように、各輪帯111の幅はすべて同じであり、各輪帯111が与える位相が、入射光の波長の2倍すなわち2λになるよう、輪帯111の断面形状における高さ(断面底部120から輪帯111の表面121までの高さ)を設定している。
【0024】
図7は、本実施形態の位相フィルタ101を用い、撮像対象の物体が光学系から1mのところにあるものとして計算した光軸方向のPSFを示す図である。ここでは、本実施形態の位相フィルタ101を採用した場合のPSFと、本実施形態の位相フィルタ101を使用しない従来の光学系におけるPSFとを合わせて示している。図7の例でも明らかなように、従来の光学系では、光軸方向の位置とPSFとの関係が非常にセンシティブであり、光軸上の位置が少しでもずれて、デフォーカスが少しでも増加すると、PSFは急激に変化してしまうのに対し、本実施形態の位相フィルタ101を採用した場合は、広い範囲に渡ってPSFを略一定に保つことができる。
【0025】
本実施形態の位相フィルタ101において、全体のPSFは、各輪帯111のPSFへの寄与の総和に相当するため、各輪帯111の断面形状における高さ(深さ)を入射光の波長λ以上の最大光路差を与えるよう構成することにより、各輪帯111のPSF寄与の焦点深度が深くなる。
【0026】
なお、本実施形態における位相フィルタ101は、素材として屈折率n1の石英ガラスを採用できる。この場合、石英ガラスに対する既存のパターン形成技術とエッチング技術を利用することで、各輪帯111の断面形状として凹凸を形成することとなる。勿論、位相フィルタ101の製作技術としては、他にも、ダイヤモンド等の高硬度の切削工具を使用して石英ガラスに対して溝加工を施すことで、各輪帯111の断面形状として凹凸(特に凹となる溝)を形成する技術を採用しても良い。さらには、凹凸を有する厚盤を金型として形成し、この金型を利用してプラスチック射出成形を行って位相フィルタ101を形成するとしても良い。また、透明な平板状の基板に、屈折率n1の凸状部材また凹状部材を光軸を中心とした輪帯状に配置することで位相フィルタ101を形成するとしても良い。いずれにしても、本実施形態の位相フィルタ101は、光軸を中心として回転対称の形状であるため、上述のごとき加工は従来から存在する加工技術を適宜採用すれば作成でき、製作における効率や手間は矩形の位相フィルタの製作時よりも改善されることになる。
【0027】
続いて、上述した本実施形態の位相フィルタ101を用いた撮像光学系150と、当該撮像光学系150にて撮像される画像に対し画像処理を施す撮像システム300の構成について図8に基づき説明する。ここでは、撮像光学系150から比較的近い距離に物体301が存在し、遠い距離に物体302が存在している状況を想定する。また撮像光学系150においては、物体301、302らの反射光を集光する前玉レンズ群151、前玉レンズ群151が集光した光を入射光として処理する本実施形態の位相フィルタ101、位相フィルタ101の後方にあって光量を調整する絞り152(位相フィルタ101に合わせて円形である)、絞り152で光量調整された光を処理する後玉レンズ群153(すなわち結像レンズ102)、を少なくとも含む。
【0028】
この場合、上述の物体301、物体302の反射光が、撮像光学系150における前玉レンズ群151を介して位相フィルタ101に入射し、この位相フィルタ101からの光が絞り152および後玉レンズ群153を介して後玉レンズ群153に入射し、光軸1の方向にぼけ方が均一(上述した点像分布の焦点方向への平滑化による)な像303、304を形成することになる。そこで撮像システム300においては、像303、304らが光軸方向にオーバーラップする位置に画像センサ305を配置した構成となっている。
【0029】
また、撮像システム300は、上述の画像センサ305からの出力信号を、画像センサ305で出力可能な最高解像度の情報を保ったまま、適宜な静止画または動画の画像フォーマットに変換し画像信号として出力する画像信号出力回路306を備えている。また、撮像システム300は、画像信号出力回路306で出力した画像信号を受けて、これをディスプレイ出力可能なフォーマットに変換し、モニタディスプレイ308で出力させるモニタ出力生成回路307を備えている。モニタディスプレイ308で表示される画像は、図8にて模式的に示す通り、近い物体301も、遠い物体302も一様にぼけた画像303、304が得られる。ただし、撮像システム300として、こうしたモニタ出力処理は必須ではないため、モニタディスプレイ308、およびモニタ出力生成回路307を含まない構成としても問題ない。
【0030】
また、撮像システム300は、デコンボリューション前処理回路309、およびデコンボリューションフィルタ回路310を備えている。撮像システム300においては、上述の画像信号出力回路306からの出力信号を分岐して、デコンボリューション前処理回路309に入力する。これにより、デコンボリューション前処理回路309において、デコンボリューションフィルタ回路310でのフィルタ演算に適したデジタル画像データ形式に変換することとなる。また、このデコンボリューション前処理回路309の出力信号は、デコンボリューションフィルタ回路310にてフィルタ処理を行って第2のモニタ出力生成回路311に入力される。第2のモニタ出力生成回路311は、デコンボリューションフィルタ回路310からの入力信号を任意の一般の静止画、または動画の画像フォーマットに変換し、出力信号として第2のモニタディスプレイ312で出力表示させる。第2のモニタディスプレイ312で出力表示を行う場合、上述した、近い物体301にも遠い物体302にも焦点のあった画像が出力される。このとき、位相フィルタ101を用いているため、第2のモニタディスプレイ312での出力画像においては、撮像光学系150からの距離によって該当物体の画像位置がずれるようなことはなく、物体301、302の本来の位置を反映した位置に画像が形成される。
【0031】
続いて、上述の各輪帯111のうち少なくともいずれかの輪帯間で、凹状または凸状の断面形状における断面底部120を、入射光に対する瞳面の半径方向に所定高さオフセットした構造を備えた構成について説明する。こうした構成においては、断面形状を略放物線形状とした輪帯111における効果だけでなく、各輪帯111に上述の如き高さオフセットを加えたことによる効果によって、さらにPSFの均質化が図られる。
【0032】
図9は、本実施形態における位相フィルタ101の構造例3を示す平面図であり、図10は同じく側断面図である。ここで例示するように、輪帯111の各間では、断面形状における断面底部120を、入射光に対する瞳面の半径方向に所定高さづつオフセットさせている。各輪帯111の断面構造形状に対応したコーニック曲線(略放物線)とオフセットの関係は図11に示す通りである。断面形状が凹状、凸状のいずれであっても、各輪帯111の断面底部120と、隣接する輪帯111における断面底部122との間の離間距離(高さ)をオフセット距離とする。
【0033】
図10の例では、位相フィルタ101における背面(入射光が射出される面)から位相フィルタ101の表面121に向かう方向で、上述のオフセットがなされており、位相フィルタ中心軸105直近の断面形状における断面底部120から、位相フィルタ外縁106直近の断面形状における断面底部120に至るトータルで、オフセット107が生じている。なお、図12にて例示するように、位相フィルタ101における50個の輪帯111に対し、コーニック曲線で規定される高さによって与える位相は2λ(入射光の波長の2倍)になるように設定されている。この例における各輪帯111は位相フィルタ中心軸115から外縁106に向かうに従って、0からλまで徐々に大きくなる、すなわち単調増加するオフセットが与えられている。
【0034】
なお、図15、16にて例示するように、位相フィルタ101の各輪帯111において、位相フィルタ中心軸115から外縁106に向かうに従って、λから0まで徐々に大きくなる、すなわち単調減少するオフセットが与えられた構成となっていてもよい。また、図17、18にて例示するように、各輪帯111におけるオフセットが位相フィルタ中心軸115から外縁106に向かうに従って単純増加ないし単純減少する構成ではなく、そうした単純増加ないし単純減少させた場合のオフセットを、ランダムに入れ替えた構成としてもよい(但し、輪帯111各間のオフセットの総和107は、単純増加ないし単純減少させた場合のオフセットの総和と同じ)。
【0035】
ここで、上述のごときオフセットを考慮した構成とした位相フィルタ101における効果について説明する。図13は従来技術におけるPSFの例を示す図であり、図14は本実施形態の位相フィルタにおけるPSFの例を示す図である。図7においては、各輪帯111におけるPSFへの寄与の絶対値を合算して効果を示したのに対し、ここでは位相を含めた計算結果を示す。カメラなどの通常の撮像光学系は、広い波長範囲でかつインコヒーレントな光学系であり、各輪帯111におけるPSFへの寄与を位相まで含めて検討はなされないが、ここでは均一で安定したPSFを得るために、位相を考慮して加算した結果を示す。図13は上述のオフセットを設定しない場合、図14はオフセットを付与した場合の光軸方向のPSFを示している。
【0036】
広い波長範囲でかつインコヒーレントな光学系では、これらは広い波長範囲で平均化され、一点から結象する光であってもコヒーレンシーが低いため、PSFの振動は大きく緩和される。図13に例示する従来技術でのPSFはデフォーカスゼロのところに集中するのに対し、図14に例示するPSFは広範囲のデフォーカスに渡って分布していることが分かる。よって、輪帯111の各間でオフセットを付与した位相フィルタ101においては、より安定化したPSFを得ることができる。
【0037】
なお、上述までは全ての輪帯111における幅すなわち輪帯幅が一定である例について説明したが、輪帯毎に異なる輪帯幅を設定することにより、PSFの各輪帯成分を調整することができる。図19は、本実施形態における位相フィルタ101の構造例6を示す平面図であり、図20は同じく側断面図である。図19、20にて例示するように、位相フィルタ101における輪帯幅108を、位相フィルタ中心軸115から外縁106に向かうに従って、単調に減少させた構成とすることにより、輪帯111の面積を略一定にすることができ、PSFの各輪帯成分を調整することが可能となる。
【0038】
以上、本発明を実施するための最良の形態などについて具体的に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0039】
こうした本実施形態によれば、原理的にデフォーカス量に依存して、PSFの重心が変化することを回避出来る。また、PSFも回転対称で等方的に拡がるため、信号処理による復元画像が方向性を持つことがなくなり、位相フィルタにおける光軸の回転ずれによる弊害を抑制することができる。また、PSFが回転対称となることは、処理データ量の低減につながり、信号処理に用いる係数行列の格納用メモリを削減し、信号処理回路を小型化することも可能となる。更に、位相フィルタの形状が回転対称であることは、その成形に用いる金型を回転旋盤加工で作成することが可能となり、矩形の位相フィルタに比べて加工時間の短縮や製造コストの削減が可能となる。
【0040】
したがって、点像分布関数の重心変化を回避し、位相フィルタにおける光軸の回転ずれによる画像の不具合発生を抑制可能となる。その結果、本実施例によれば、ゴースト等による画質劣化を抑制し高画質な画像を取得することが可能となる。また、そのような高画質な画像を、低コストで取得することが可能となる。
【0041】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。すなわち、本実施形態の位相フィルタにおいて、前記各輪帯のうち少なくともいずれかの輪帯間で、前記凹状または凸状の断面形状における底部位置を、入射光に対する瞳面の半径方向に所定高さオフセットした構造を備えるとしてもよい。
【0042】
これによれば、PSFの更なる均質化を図ることが可能となり、デコンボリューション後の画像品質を更に良質なものと出来る。
【0043】
また、本実施形態の位相フィルタにおいて、前記オフセットの高さが各輪帯間で異なる構造を備えるとしてもよい。
【0044】
これによれば、より一層のPSFの均質化を図ることが可能となり、デコンボリューション後の画像品質を更に良質なものと出来る。
【0045】
また、本実施形態の位相フィルタにおいて、前記各輪帯間でのオフセットの高さが、光軸から当該位相フィルタにおける周縁部に向け、単調増加または単調減少する構造を備えるとしてもよい。
【0046】
これによれば、位相フィルタにおける輪帯形成の効率が改善され、より一層のPSFの均質化を優れた製造コストや効率の下で図ることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態の位相フィルタにおいて、前記輪帯の幅が各輪帯間で等しいとしてもよい。
【0048】
これによれば、位相フィルタにおける輪帯形成の効率が改善され、位相フィルタ製造にかかるコストや時間を低減出来る。
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