(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【0003】
上記する惰性走行制御を、無段変速機を搭載した車両に適用することが考えられる。
【0004】
無段変速機では変速マップに基づいて変速が行われる。無段変速機の変速マップは、アクセペダルが踏み込まれていない場合の目標変速比であるコースト線と、無段変速機の変速比が最Highとなる最High線とが設定されている。コースト線と、最High線とは、或る所定車速以上の場合には一致しており、所定車速よりも低い場合には、同じ車速に対してコースト線におけるプライマリプーリ回転速度が最High線におけるプライマリプーリ回転速度よりも高くなっている。即ち、車速が所定車速よりも低い場合には、コースト線は、最High線よりもLow側に位置している。
【0005】
車速が所定車速以上の場合に惰性走行制御が開始されると、コースト線と最High線とが一致するので、無段変速機の実変速比は最Highとなっている。
【0006】
無段変速機と駆動輪との間に摩擦締結要素が設けられた車両においては、惰性走行制御中は、エンジンの停止によりエンジンに駆動されるオイルポンプが停止し油圧が十分に得られない点に加え、摩擦締結要素が解放されるので、プライマリプーリ及びセカンダリプーリが停止するため、無段変速機の実変速比を変更することができない。そのため、車速が所定車速以上で惰性走行制御が開始されると、惰性走行制御中、無段変速機の実変速比は最Highに保持される。従って、惰性走行制御開始後、車速が所定車速よりも低くなった場合でも惰性走行制御中は、無段変速機の実変速比は最Highに保持される。
【0007】
惰性走行制御中に車速が所定車速よりも低くなった後に、例えばアクセルペダルが踏み込まれ、惰性走行制御を終了すると、アクセルペダル開度などの運転状態に応じた目標変速比が設定され、エンジンの再始動、及び摩擦締結要素の締結が行われる。車速が所定車速よりも低い場合には、惰性走行制御中、無段変速機の実変速比は最Highになっており、コースト線よりもHigh側に位置している。
【0008】
このような状態から、実変速比を目標変速比にするために変速を開始すると、最Highから目標変速比まで実変速比を変更しなければならず、コースト線に沿った変速が行われていた場合よりも、実変速比が目標変速比となるまでのタイムラグが長くなる。そのため、運転状態に応じた駆動力を駆動輪に伝達することができず、加速要求に対する応答性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、加速要求に対する応答性を向上することを目的とする。
【0010】
本発明のある態様に係る車両制御装置は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機と駆動輪との間に設けた摩擦締結要素とを備えた車両を制御する車両制御装置であって、走行中、アクセルペダルが解放されることを含む惰性走行条件が成立すると、摩擦締結要素を解放状態にするとともに、エンジ
ンを停止して惰性走行する惰性走行制御を行う制御部を備え、制御部は、アクセルペダルが解放された状態で設定される無段変速機の目標変速比と、惰性走行制御を行う場合の無段変速機の実変速比とが一致しない場合、惰性走行制御を禁止するとともに、無段変速機の実変速比を目標変速比に
し、車速が、目標変速比が無段変速機の最High変速比と一致する第1最小車速未満である場合、惰性走行制御を禁止する。
また、本発明の別の態様に係る車両制御装置は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機と駆動輪との間に設けた摩擦締結要素とを備えた車両を制御する車両制御装置であって、走行中、アクセルペダルが解放されることを含む惰性走行条件が成立すると、摩擦締結要素を解放状態にするとともに、エンジンを停止して惰性走行する惰性走行制御を行う制御部を備え、制御部は、アクセルペダルが解放された状態で設定される無段変速機の目標変速比と、惰性走行制御を行う場合の無段変速機の実変速比とが一致しない場合、惰性走行制御を禁止するとともに、無段変速機の実変速比を目標変速比にし、車速が、一定のアクセルペダル開度にて一定車速で走行するために必要な駆動力が出力される時の変速比が無段変速機の最High変速比よりも大きくなる第2最小車速よりも高い場合、惰性走行制御を禁止する。
【0011】
本発明の別の態様に係る車両の制御方法は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機と駆動輪との間に設けた摩擦締結要素とを備えた車両を制御する車両の制御方法であって、走行中、アクセルペダルが解放されることを含む惰性走行条件が成立すると、摩擦締結要素を解放状態にするとともに、エンジ
ンを停止して惰性走行する惰性走行制御を実行し、アクセルペダルが解放された状態で設定される無段変速機の目標変速比と、惰性走行を行う場合の無段変速機の実変速比とが一致しない場合、惰性走行制御を禁止し、無段変速機の実変速比を目標変速比に
し、車速が、目標変速比が無段変速機の最High変速比と一致する第1最小車速未満である場合、惰性走行制御を禁止する。
また、本発明の別の態様に係る車両の制御方法は、エンジンと駆動輪との間に設けた無段変速機と、無段変速機と駆動輪との間に設けた摩擦締結要素とを備えた車両を制御する車両の制御方法であって、走行中、アクセルペダルが解放されることを含む惰性走行条件が成立すると、摩擦締結要素を解放状態にするとともに、エンジンを停止して惰性走行する惰性走行制御を実行し、アクセルペダルが解放された状態で設定される無段変速機の目標変速比と、惰性走行を行う場合の無段変速機の実変速比とが一致しない場合、惰性走行制御を禁止し、無段変速機の実変速比を目標変速比にし、車速が、一定のアクセルペダル開度にて一定車速で走行するために必要な駆動力が出力される時の変速比が前記無段変速機の最High変速比よりも大きくなる第2最小車速よりも高い場合、前記惰性走行制御を禁止する。
【0012】
これら態様によると、アクセルペダルが解放された状態で設定される無段変速機の目標変速比と、惰性走行制御を行う場合の無段変速機の実変速比とが一致しない場合、惰性走行制御を禁止するとともに、無段変速機の変速比を目標変速比にする。これにより、惰性走行制御開始後に車速が所定車速よりも低くなっても、無段変速機の実変速比を最HighよりLow側とすることができるため、実変速比が目標変速比となるまでのタイムラグが短くなり、加速要求に対する応答性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、ある変速機構の「変速比(変速段)」は、当該変速機構の入力回転速度を当該変速機構の出力回転速度で割って得られる値であり、変速比(変速段)が大きい場合を「Low」、小さい場合を「High」という。
【0015】
図1は本発明の実施形態に係る車両の概略構成図である。この車両は駆動源としてエンジン1を備え、エンジン1の出力回転は、ロックアップクラッチ2c付きトルクコンバータ2のポンプインペラ2aに入力され、タービンランナ2bから第1ギヤ列3、変速機4、第2ギヤ列5、作動装置6を介して駆動輪7へと伝達される。
【0016】
変速機4には、エンジン1の回転が入力されエンジン1の動力の一部を利用して駆動されるメカオイルポンプ10mと、バッテリ13から電力供給を受けて駆動される電動オイルポンプ10eとが設けられている。また、変速機4には、メカオイルポンプ10mあるいは電動オイルポンプ10eから吐出された油によって発生した油圧を調圧して変速機4の各部位に供給する油圧制御回路11が設けられている。
【0017】
変速機4は、摩擦伝達機構としてのベルト式無段変速機構(以下、「バリエータ20」という。)と、バリエータ20に直列に設けられる副変速機構30とを備える。「直列に設けられる」とはエンジン1から駆動輪7に至るまでの動力伝達経路においてバリエータ20と副変速機構30とが直列に設けられるという意味である。副変速機構30は、この例のようにバリエータ20の出力軸に直接接続されていてもよいし、その他の変速ないし動力伝達機構(例えば、ギヤ列)を介して接続されていてもよい。
【0018】
バリエータ20は、プライマリプーリ21と、セカンダリプーリ22と、各プーリ21、22の間に掛け回されるVベルト23とを備える。バリエータ20は、プライマリプーリ圧、及びセカンダリプーリ圧に応じてV溝の幅が変化してVベルト23と各プーリ21、22との接触半径が変化し、バリエータ20の実変速比icが無段階に変化する。
【0019】
副変速機構30は前進2段・後進1段の変速機構である。副変速機構30は、2つの遊星歯車のキャリアを連結したラビニョウ型遊星歯車機構31と、ラビニョウ型遊星歯車機構31を構成する複数の回転要素に接続され、それらの連係状態を変更する複数の摩擦締結要素(Lowブレーキ32、Highクラッチ33、Revブレーキ34)とを備える。各摩擦締結要素32〜34への供給油圧を調整し、各摩擦締結要素32〜34の締結・解放状態を変更すると、副変速機構30の変速段が変更される。
【0020】
Lowブレーキ32が締結され、Highクラッチ33、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は1速となる。Highクラッチ33が締結され、Lowブレーキ32、及びRevブレーキ34が解放されると、副変速機構30の変速段は2速となる。また、Revブレーキ34が締結され、Lowブレーキ32、及びHighクラッチ33が解放されると、副変速機構30の変速段は後進となる。
【0021】
バリエータ20の実変速比icと、副変速機構30の変速段とを変更することで、変速機4全体の変速比であるスルー変速比itが変更される。
【0022】
コントローラ12は、エンジン1および変速機4を統合的に制御するコントローラ12であり、
図2に示すように、CPU121と、RAM・ROMからなる記憶装置122と、入力インターフェース123と、出力インターフェース124と、これらを相互に接続するバス125とから構成される。
【0023】
入力インターフェース123には、アクセルペダル51の操作量であるアクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ41の出力信号、プライマリプーリ回転速度Npriを検出するプライマリ回転速度センサ42の出力信号、セカンダリプーリ回転速度Nsecを検出するセカンダリ回転速度センサ43の出力信号、車速VSPを検出する車速センサ44の出力信号、シフトレバー50の位置を検出するインヒビタスイッチ45の出力信号、ブレーキペダル52の操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ46等が入力される。
【0024】
記憶装置122には、エンジン1の制御プログラム、変速機4の変速制御プログラム、これらプログラムで用いられる各種マップ・テーブルが格納されている。CPU121は、記憶装置122に格納されているプログラムを読み出して実行し、入力インターフェース123を介して入力される各種信号に対して各種演算処理を施して、燃料噴射量信号、点火時期信号、スロットル開度信号、変速制御信号を生成し、生成した信号を出力インターフェース124を介してエンジン1、油圧制御回路11に出力する。CPU121が演算処理で使用する各種値、その演算結果は記憶装置122に適宜格納される。
【0025】
油圧制御回路11は複数の流路、複数の油圧制御弁で構成される。油圧制御回路11は、コントローラ12からの変速制御信号に基づき、複数の油圧制御弁を制御して油圧の供給経路を切り換えるとともにメカオイルポンプ10mまたは電動オイルポンプ10eから吐出される油によって発生した油圧から必要な油圧を調製し、これを変速機4の各部位に供給する。これにより、バリエータ20の実変速比ic、副変速機構30の変速段が変更され、変速機4の変速が行われる。
【0026】
本実施形態では、アクセルペダル51の踏み込みがなく、ブレーキペダル52の踏み込みがない場合に、エンジン1への燃料噴射を停止し、副変速機構30の各摩擦締結要素32〜34を解放して惰性走行する惰性走行制御を実行可能である。惰性走行制御を実行することで、エンジンブレーキによる減速を防止し、惰性走行距離が長くなり、意図した位置まで惰性走行するに際して、エンジン1を駆動させた走行が低減されて、エンジン1の燃費を向上することができる。
【0027】
本実施形態は、バリエータ20と駆動輪7との間に副変速機構30が設けられている。そのため、エンジン1を停止し、副変速機構30の各摩擦締結要素32〜34を解放すると、バリエータ20の各プーリ21、22は回転しなくなる。各プーリ21、22が停止している状態にて、各プーリ21、22の油圧を制御してバリエータ20の実変速比icを変更しようとすると、各プーリ21、22とVベルト23との接触部分が摩耗して耐久性が低下する恐れがある。そのため、惰性走行制御中は、バリエータ20の実変速比icを変更することができない。従って、惰性走行制御を実行する場合には、バリエータ20の実変速比icを、アクセルペダル51が踏み込まれておらず、解放された状態で設定される変速線(目標変速比)であるコースト線上の変速比とした後に、惰性走行制御を実行する。なお、
図3の変速マップに示すように、コースト線と最High線とは車速VSPが第1所定車速V1(第1最小車速)以上となる領域では一致している。そのため、コースト線と最High線とが一致する領域で惰性走行制御を実行すると、惰性走行制御中、バリエータ20の実変速比icは最Highとなっている。
【0028】
次に、惰性走行制御について
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
ステップS100では、コントローラ12は、一定のアクセルペダル開度APOにて一定車速で走行するために必要な駆動力が出力される時の変速線として設定されるロードロード線を算出する。コントローラ12は、例えば車速VSP、車重、路面抵抗、路面勾配などに基づいてロードロード線を算出する。ロードロード線の一例を
図3において一点鎖線で示す。ロードロード線は、車速VSPが高くなるほどプライマリプーリ回転速度Npriが高くなるように算出される。つまり、ロードロード線は、車速VSPが高くなるほどLow側となるように算出される。これは、車速VSPが高くなるほど空気抵抗や路面抵抗などの走行抵抗が大きくなり、走行抵抗に打ち勝つために必要な駆動力が大きくなるからである。なお、第2所定車速V2(第2最小車速)未満におけるロードロード線は、最High線と一致又は最High線よりプライマリプーリ回転速度Npriが低くなるように設定されており、第2所定車速V2未満におけるロードロード線の記載は省略している。
【0030】
ステップS101では、コントローラ12は、算出したロードロード線と、最High線とが交差する車速VSPを第2所定車速V2(第2最小車速)として設定する。車速VSPが第2所定車速V2よりも高い場合には、ロードロード線は最High線よりもLow側に位置する。
【0031】
ステップS102では、コントローラ12は、惰性走行条件が成立したかどうか判定する。コントローラ12は、アクセルペダル51の踏み込みがなく、かつブレーキペダル52の踏み込みがない時間Tが所定時間T1以上になると惰性走行条件が成立したと判定する。所定時間T1は予め設定された時間であり、運転者に惰性走行の意思があると判定可能な時間である。コントローラ12は、アクセルペダル51の踏み込みがなく、かつブレーキペダル52の踏み込みがなくなるとタイマーによって時間Tのカウントを開始する。惰性走行条件が成立する場合には処理はステップS103に進み、惰性走行条件が成立しない場合には処理はステップS107に進む。なお、アクセルペダル51が踏み込まれた場合、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合にも処理はステップS107に進む。
【0032】
ステップS103では、コントローラ12は、車速VSPが第1所定車速V1以上かどうか判定する。車速VSPが第1所定車速V1以上である場合には処理はステップS104に進み、車速VSPが第1所定車速V1よりも低い場合には処理はステップS107に進む。
【0033】
ステップS104では、コントローラ12は、走行モードがスポーツモードとなっているかどうか判定する。走行モードがスポーツモードになっている場合には処理はステップS105に進み、走行モードがスポーツモードになっていない場合には処理はステップS106に進む。
【0034】
ステップS105では、コントローラ12は、車速VSPが第2所定車速V2以下かどうか判定する。車速VSPが第2所定車速V2以下の場合には処理はステップS106に進み、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い場合には処理はステップS107に進む。
【0035】
ステップS106では、コントローラ12は、惰性走行制御を実行する。コントローラ12は、バリエータ20の実変速比icが最Highとなった後に、エンジン1を停止し、締結状態となっている摩擦締結要素(例えば、副変速機構30のHighクラッチ33)を解放する。
【0036】
ステップS107ではコントローラ12は、惰性走行制御を禁止する。コントローラ12は、惰性走行制御が行われていた場合には、惰性走行制御を終了し、バリエータ20の実変速比icを運転状態に応じた変速比とする。例えば、惰性走行制御中に、車速VSPが第1所定車速V1よりも低くなり、アクセルペダル51が解放された場合に設定されるコースト線上の目標変速比と、バリエータ20の実変速比icとが一致しなくなると、コントローラ12は、エンジン1を再始動するとともに、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結し、変速機4の目標変速比をコースト線上の変速比とする。これにより、バリエータ20の実変速比icはスルー変速比itがコースト線上の目標変速比となるように変更される。なお、エンジン1の再始動、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33の締結のいずれか一方のみを行ってもよい。本実施形態では、電動オイルポンプ10eを設けており、電動オイルポンプ10eによって副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33に油圧を供給することができる。なお、電動オイルポンプ10eを設けていない場合には、エンジン1を再始動し、メカオイルポンプ10mを駆動しなければ副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33に油圧を供給できないので、エンジン1を再始動する。
【0037】
本実施形態では、走行モードがスポーツモードの場合には、車速VSPが第1所定車速V1以上であり、かつ第2所定車速V2以下の場合に惰性走行制御が実行される。つまり、走行モードがスポーツモードの場合には、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い場合には、惰性走行制御は実行されない。
図3に示すように、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い場合には、ロードロード線は最High線よりもLow側に位置している。
【0038】
走行モードがスポーツモードであり、加速要求がされた場合には、運転者は車両が素早く加速することを望んでいる。しかし、最High線とロードロード線とが一致しない、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い領域では、スルー変速比itを最HighよりもLow側に変更しなければ、車両を加速させる駆動力を得ることができない。このような領域で惰性走行制御を行い、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い状態で加速要求がされた場合、エンジン1の再始動、及び副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33の締結に加えて、バリエータ20の実変速比icをLow側に変更しなければ、車両を加速させることができない。即ち、バリエータ20の実変速比icをLow側に変更するためにタイムラグが発生する。そのため、運転者の加速要求に対する応答性が低下する。そこで、本実施形態では、走行モードがスポーツモードの場合には、加速要求に対する応答性を優先し、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い領域では、惰性走行制御を禁止する。
【0039】
一方、走行モードがスポーツモードではない場合には、エンジン1の燃費向上を優先し、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い領域でも、惰性走行制御を実行する。
【0040】
次に惰性走行制御について
図5のタイムチャートを用いて説明する。ここでは走行モードがスポーツモードとなっており、変速機4のスルー変速比it(バリエータ20の実変速比ic)が最Highになっているものとする。
【0041】
時間t0において、アクセルペダル51の踏み込みがなくなり、ブレーキペダル52も踏み込まれていないので、車両は惰性走行を開始し、車速VSPは徐々に低下する。また、タイマーによる時間Tのカウントが開始される。
【0042】
時間t1において、時間Tが所定時間T1となり、惰性走行条件が成立する。しかし、車速VSPが第2所定車速V2よりも高いので、惰性走行制御は実行されない。
【0043】
時間t2において、車速VSPが第2所定車速V2になると、惰性走行制御を開始し、エンジン1への燃料噴射が停止され、締結していた副変速機構30のHighクラッチ33が解放される。これにより、エンジン回転速度Ne、及びセカンダリプーリ回転速度Nsecが低下し、ゼロになる。
【0044】
時間t3において、車速VSPが第1所定車速V1よりも低くなると、惰性走行制御を終了し、エンジン1を始動する。これにより、エンジン回転速度Ne、及びセカンダリプーリ回転速度Nsecが上昇する。また、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33の締結を開始する。
【0045】
時間t4において、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33の締結が完了し、スルー変速比itを最Highからコースト線上の変速比へ変更する。
【0046】
本発明の実施形態の効果について説明する。
【0047】
コースト線上の変速比と、惰性走行制御における変速比とが一致しない領域で、惰性走行制御を実行し、例えばアクセルペダル開度APOが踏み込まれた場合には、スルー変速比itは最Highからアクセルペダル51の踏み込みによって設定される目標変速比まで変更される。その際に発生するタイムラグは、コースト線上の変速比から目標変速比まで変更する場合のタイムラグよりも長くなる。タイムラグが長くなる分、加速要求に応じた駆動力を駆動輪7に伝達することができず、加速要求に対する応答性が低下する。
【0048】
そこで、本実施形態では、コースト線上の変速比と、惰性走行制御における変速比とが一致しない場合には、惰性走行制御を禁止するとともに、バリエータ20の実変速比icをコースト線上の変速比に基づいて変更する。これにより、その後、加速要求があった場合に、スルー変速比itが目標変速比となるまでのタイムラグを短くし、加速要求に対する応答性を向上することができる。
【0049】
また、コースト線上の変速比と、惰性走行制御における変速比とが一致しない場合には、惰性走行制御を禁止することで、オルタネーター回生を行うことができる。この場合、副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33を締結し、エンジン1への燃料噴射を停止しておくことで、駆動輪7からの動力によりエンジン1を回転させる。なお、電動オイルポンプ10eを設けていない場合には、まず、エンジン1を始動し、メカオイルポンプ10mを駆動してメカオイルポンプ10mの油圧によって副変速機構30のLowブレーキ32、またはHighクラッチ33のいずれかを締結した後、エンジン1への燃料噴射を停止する。このようにして、エンジン1への燃料噴射を停止した状態で、駆動輪7からの動力によりエンジン1の出力軸とベルトなどを介して接続されているオルタネーターを駆動し、オルタネーター回生を行うことができる。なお、オルタネーター回生を行う際、電動オイルポンプ10e又はメカオイルポンプ10mの油圧によってロックアップクラッチ2cを締結状態とする。
【0050】
車速VSPが第1所定車速V1よりも低い領域にて、ブレーキペダル52が踏み込まれた場合には、停車することが考えられる。バリエータ20と駆動輪7との間に副変速機構30が設けられており、惰性走行制御中は、エンジン1が停止し、副変速機構30の各摩擦締結要素32〜34が解放されているので、バリエータ20の各プーリ21、22は回転しない。そのため、惰性走行制御中、バリエータ20の実変速比icは最Highとなっている。惰性走行制御を車速VSPが第1所定車速V1よりも低い場合でも実行し、そのまま停車すると、バリエータ20の実変速比icは最Highのまま、もしくは最High近傍の変速比となっている。この状態で、車両が再発進すると、駆動力が不足するおそれがある。
【0051】
なお、バリエータ20の実変速比icが最Highのまま、もしくは最High近傍の変速比で停車した場合でも、停車中に、副変速機構30の各摩擦締結要素32〜34を解放状態にして、エンジン1を始動させることで、バリエータ20の各プーリ21、22を回転させてバリエータ20の実変速比icをLow側に変更させることも可能である。しかし、バリエータ20の実変速比icをLow側へ変更する場合でも、変更するまでに時間がかかり、その間に車両が再発進すると、駆動力が不足するおそれがある。
【0052】
これに対し、本実施形態では、車速VSPが、第1所定車速V1よりも低い場合に、惰性走行制御を禁止する。これにより、エンジン1が再始動し、副変速機構30の摩擦締結要素32〜34のいずれかが締結されるので、運転状態に応じてバリエータ20の実変速比icをコースト線に沿ってLow側に変更することができ、その後停車し、再発進する場合に駆動力が不足することを抑制することができる。
【0053】
走行モードがスポーツモードとなっている場合には、加速要求に対し、運転者は素早い加速がされることを期待している。しかし、車速VSPが第2所定車速V2よりも高い場合に惰性走行制御が実行されていると、スルー変速比itを最HighよりもLow側の変速比に変更しなければ、車両を加速させることができず、車両が加速するまでのタイムラグが長くなる。そのため、運転者の加速要求に対する応答性が低下する。
【0054】
これに対し、走行モードがスポーツモードである場合には、車速VSPが、第2所定車速V2よりも高い場合に、惰性走行制御を禁止する。これにより、走行モードがスポーツモードである場合に、運転者の加速要求に対する応答性を向上することができる。
【0055】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0056】
上記実施形態では、バリエータ20について説明したが、これに限られることはなく、チェーン式の無段変速機を用いてもよい。また、バリエータ20と駆動輪7との間に副変速機構30を設けたが、この代わりに前後進切替機構などの駆動力伝達を断接可能な摩擦締結要素を設けていればよい。
【0057】
本願は2014年9月24日に日本国特許庁に出願された特願2014−194462に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。