【実施例】
【0038】
実施例1:野生型コリネバクテリウムグルタミクムgenomic DNAライブラリー作成
コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株のgenomic DNAを準備した後、制限酵素Sau3AIを処理し、6ないし8kbの部分切片を獲得した。前記切片を、制限酵素BamHI末端を有する大腸菌及びコリネバクテリウムの形質転換用シャトルベクターpECCG122に連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/L)が含まれたLB固体培地に塗抹した。PCR(配列番号3及び4のプライマー利用)を介して、前記切片が挿入されたベクターに形質転換されたコロニーを選別した後、それらをいずれも混合培養し、一般的に知られているプラスミド抽出法によってプラスミドを抽出した。
【0039】
配列番号3:TCAGGGTGTAGCGGTTCGGTTTAT
配列番号4:CCGCGCGTAATACGACTCACTATA
【0040】
実施例2:ライブラリー導入、及びリシン生産能向上菌株の選別
実施例1で作成した組み換えベクターを、電気パルス法を利用して、リシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに形質転換した後、下記の複合平板培地に塗抹した。
<複合平板培地>
ブドウ糖20g、(NH
4)
2SO
450g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KH
2PO
4 5g、K
2HPO
410g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド2,000μg、寒天20g、カナマイシン25mg(蒸溜水1リットル基準)
【0041】
コロニー約2,000個を、下記の複合液体培地200μlを含む96ディープウェルプレート(bioneer社)の個別ウェルに接種し、30℃24時間、200rpmで振とう培養した。リシンオキシダーゼ(oxidase)法によって、培養液各50μlを、リシンオキシダーゼを含む反応混合物(リン酸カリウム(pH7.5)200μl、リシンオキシダーゼ(0.1ユニット/μl)0.04μl、ペルオキシダーゼ(1ユニット/μl)0.04μl、ABTS 0.4mg)が分注されている96ウェルプレートに添加し、30分間の反応後、OD
405nmで吸光度を測定して発色程度を比較した。そこから、対照群(KCCM11016P/pECCG122)より高い吸光度を示す7種の実験区を選別した。
<複合液体培地>
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KH
2PO
44g、K
2HPO
4 8g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg及びニコチンアミド2,000μg(蒸溜水1リットル基準)
【0042】
各菌株を、下記の種培地25mlを含む250mlコーナーワッフルフラスコに接種し、30℃20時間、200rpmで振とう培養した。その後、1mlの種培養液を、下記の生産培地24mlを含む250mlコーナーワッフルフラスコに接種し、37℃96時間、200rpmで振とう培養した。培養を終了した後、HPLCを利用して分析したL−リジン濃度を、下記表1に示した。
<種培地(pH7.0)>
ブドウ糖20g、(NH
4)
2SO
410g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KH
2PO
4 4g、K
2HPO
48g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド2,000μg(蒸溜水1リットル基準)
【0043】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、(NH
4)
2SO
440g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形粉(cornsteep solid)5g、尿素3g、KH
2PO
41g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド3,000μg、CaCO
330g(蒸溜水1リットル基準)
【0044】
【表1】
【0045】
前記結果から、対照群対比のリシン生産能が上昇したKCCM11016P/M2とKCCM11016P/L52とを選択し、そこからプラスミドを抽出した。その後、配列番号3及び4のプライマーを利用して塩基配列を分析した。KCCM11016P/M2に由来したプラスミドは、pEC−L1と命名し、KCCM11016P/L52に由来したプラスミドは、pEC−L2と命名した。プラスミドpEC−L1は、NCgl0857遺伝子ORF開始コドン上流約200bp地点から、NCgl0862の遺伝子ORF終結コドン下流約200bp付近までを含み、プラスミドpEC−L2は、NCgl0861遺伝子ORF終結コドン下流約250bp地点から、NCgl0865遺伝子のORF開始コドン上流約300bp付近までを含んでいた。それを介して、2種のプラスミドには、NCgl0862遺伝子が共通して含まれているということを確認した。
【0046】
実施例3:NCgl0862遺伝子のプローモーター交替のためのベクター作成
実施例2で得られた結果を基に、NCgl0862遺伝子が過発現された場合、実際にリシン生産能向上を誘導するか否かということを確認するために、染色体上のNCgl0862遺伝子のプローモーターを交替させるためのベクターを作成した。そのために、lysC遺伝子のプローモーターとして、野生型プローモーター(lysCP)と、改良型プローモーターであるlysCP1とを使用した。
【0047】
これについて詳細に説明すれば、次の通りである。
【0048】
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH Genbank)を根拠とし、NCgl0862遺伝子(配列番号2)のORF開始コドンを中心に、上流及び下流をそれぞれ増幅するためのプライマー対(配列番号5及び6、または配列番号7及び8)を考案した。また、lysC遺伝子上流の塩基配列から、プローモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号9及び10)を考案した。以下に配列番号及び塩基配列を示した。下線を引いた配列は、制限酵素に対する認識部位を示す。
【0049】
配列番号5:GT
GAATTCCGCCCGTATGGTGATT
配列番号6:TA
GGATCCAGAAGGCGCTGGCTT
配列番号7:AG
GGATCCTAA
CATATGGAAGCCGAAGCACCT
配列番号8:AG
GTCGACTCATTCGTTCATAATT
配列番号9:TA
GGATCCTAGGGAGCCATCTTTTGGGG
配列番号10:TAA
CATATGTGTGCACCTTTCGATCTACG
【0050】
コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P菌株のgenomic DNAをテンプレートにして、配列番号5及び6、配列番号7及び8、並びに配列番号9及び10のプライマー対でPCRを行った。そこから、NCgl0862遺伝子のORF開始コドンから、両側300bpのDNA切片と、
lysC遺伝子の野生型プロモーター(以下、「lysCPプロモーター」と称する)切片とを獲得した。PCR増幅は、94℃5分間変性後、94℃30秒変性、56℃30秒アニーリング、72℃30秒重合を30回反復した後、72℃7分間重合反応を行った。前記NCgl0862遺伝子のORF開始コドンから、両側300bpのPCR増幅産物を、それぞれEcoRI及びBamHI、並びにBamHI及びSalIで処理した後、コリネバクテリウム属微生物の染色体挿入用ベクターpDZを、制限酵素SalIと制限酵素EcoRIとで処理して得たDNA切片と連結してベクターを獲得した。
【0051】
プローモーターであるlysCPまたはlysCP1を増幅するために、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032またはKCCM11016P−lysCP1(大韓民国登録特許第10−0930203)菌株のgenomic DNAをテンプレートにして、配列番号9及び10のプライマー対でPCRを行い、300bpのlysCPプロモーター及びlysCP1プローモーターの切片を獲得した。前述のlysC野生型プローモーターとlysCP1プローモーターとのDNA切片を、BamHIとNdeIとで処理した後、前記作成されたベクターを、BamHIとNdeIとで処理して得たDNA切片と連結し、組み換えプラスミドであるpDZ−lysCP_N0862とpDZ−lysCP1_N0862とをそれぞれ作成した。
【0052】
実施例4:リシン生産菌株由来NCgl0862遺伝子プローモーター交替菌株のリシン生産能分析
前記実施例3で作成した組み換えプラスミドpDZ−lysCP_N0862,pDZ−lysCP1_N0862をコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに、電気パルス法で形質転換させ(Van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52: 541-545, 1999)、一般的に知られている染色体相同組み換えによって、染色体上のNCgl0862遺伝子のプローモーター部位に、lysCプローモーターが挿入された菌株を、PCR(配列番号5及び8)を介して選別した。選別された組み換え菌株を、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P::lysCP_N0862及びKCCM11016P::lysCP1_N0862と命名した。
【0053】
前述のように作成されたリシン生産菌株KCCM11016P::lysCP_N0862とKCCM11016P::lysCP1_N0862のリシン生産能を確認するために、前記実施例2と同一の方法で種培養及び生産培養を行い、培養液中のリシン濃度を分析した(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
表2で示されているように、lysC野生型プローモーターに交替された菌株KCCM11016P::lysCP_N0862は、親菌株であるKCCM11016P対比のリシン生産能が、平均1%上昇し、lysCP1プローモーターに交替された菌株KCCM11016P::lysCP1_N0862は、親菌株対比のリシン生産能が、平均4%上昇したということを確認した。その後、前記菌株KCCM11016P::lysCP1_N0862をCA01−2269と命名し、2013年6月12日付けで韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託し、寄託番号は、KCCM11430Pである。
【0056】
実施例5:染色体内でのNCgl0862遺伝子の追加挿入のためのベクター作成
トランスポゾン遺伝子位置に目的遺伝子を挿入するように、pDZベクターから考案されたpDZTNベクターを基本ベクターとして使用し、前記実施例2のNCgl0862遺伝子を染色体上に追加挿入するためのベクターを考案及び作成した。
【0057】
報告された塩基配列に基づいて、NCgl0862遺伝子部位を増幅するためのプライマー(配列番号7及び12)を合成し、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032の染色体をテンプレートにしたPCRを介して、NCgl0862遺伝子約370bpのORF部位を増幅した。
【0058】
また、lysC遺伝子のプローモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号10及び11)を合成し、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P−lysCP1導入菌株の染色体DNAをテンプレートにしたPCRを介して、約300bpのプローモーター部位を増幅した。このとき、PCRは、94℃5分間変性後、94℃30秒変性、56℃30秒アニーリング、72℃30秒重合を30回反復した後、72℃7分間重合反応して行った。
【0059】
配列番号11:TAACTAGTTAGGGAGCCATCTTTTGGGG
【0060】
PCRで増幅された遺伝子断片を、制限酵素SpeIとNdeIとで処理し、それぞれのDNA切片を獲得した後、それを、制限酵素SpeI末端を有する染色体導入用pDZTNベクターに連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/Lのカナマイシンが含まれたLB固体培地に塗抹した。PCR(配列番号12及び13)を介して、目的とする遺伝子が挿入されたベクターに形質転換されたコロニーを選別した後、一般的に知られているプラスミド抽出法を利用してプラスミドを獲得し、該プラスミドをpDZTN−N0862と命名した。
【0061】
配列番号12:TAACTAGTATGCTCGGTCCGGGCA
配列番号13:GCAGGCGGTGAGCTTGTCAC
【0062】
実施例6:染色体内NCgl0862遺伝子追加挿入菌株のリシン生産能分析
前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、染色体上での相同組み換えによって、L−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに形質転換させた。その後、PCR(配列番号12及び13)方法でコロニーを選択的に分離し、KCCM11016P::N0862−Tnと命名した。KCCM11016P::N0862−Tnと対照群とを、実施例2と同一の方法で培養し、培養液中のL−リジン濃度を分析した(表3)。
【0063】
【表3】
【0064】
前記NCgl0862遺伝子が染色体上に追加挿入された菌株であるKCCM11016P::N0862−Tnは、親菌株であるKCCM11016P対比のリシン生産能が8%上昇したということを確認した。
【0065】
実施例7:染色体内に、NCgl0862遺伝子が追加挿入されたKCCM10770P由来微生物を利用したL−リジン生産
前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、L−リジン生合成経路構成遺伝子7種が、染色体上に追加挿入されたリシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM10770Pに形質転換させた。その後、PCR方法で、NCgl0862遺伝子が染色体上に追加挿入された菌株を選別し、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM10770P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、培養液中のL−リジンの濃度を分析した(表4)。
【0066】
【表4】
【0067】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が5%上昇したということを確認した。
【0068】
実施例8:染色体内に、NCgl0862が追加挿入されたCJ3P由来微生物を利用したL−リジン生産
コリネバクテリウムグルタミクムに属する他の菌株での効果も確認するために、前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、L−リジン生産能向上関連3種の遺伝子変異を有するリシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムCJ3Pに形質転換させた。その後、PCR方法で、NCgl0862遺伝子が、染色体上に追加挿入された菌株を選別し、コリネバクテリウムグルタミクムCJ3P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、そこから回収されたL−リジンの濃度を分析した(表5)。
【0069】
【表5】
【0070】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が12%上昇したということを確認した。
【0071】
実施例9:染色体に、NCgl0862が導入されたKCCM11347P由来微生物を利用したL−リジン生産
コリネバクテリウムグルタミクムに属する他の菌株での効果も確認するために、前記実施例5のような方法で、L−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11347P(大韓民国登録特許第1994−0001307号)に、pDZTN−N0862を導入し、KCCM11347P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、そこから回収されたL−リジンの濃度を分析した(表6)。
【0072】
【表6】
【0073】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が6%上昇したということを確認した。
【0074】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11347P
受託日:19911210
【0075】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11430P
受託日:20130612