特許第6286571号(P6286571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286571L−リジン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、及びそれを利用したL−リジン生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286571
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】L−リジン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、及びそれを利用したL−リジン生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20180215BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20180215BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12N15/00 A
   C12P13/08 A
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-550437(P2016-550437)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公表番号】特表2016-533771(P2016-533771A)
(43)【公表日】2016年11月4日
(86)【国際出願番号】KR2014008932
(87)【国際公開番号】WO2015064917
(87)【国際公開日】20150507
【審査請求日】2016年4月25日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0128634
(32)【優先日】2013年10月28日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11347P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11430P
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】パーク,サン ヘー
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ジュン オク
(72)【発明者】
【氏名】ベ,ヒュン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】リー,クワン ホー
【審査官】 北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−191370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12N 15/00−15/90
C12P 13/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチドの発現が強化された、L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
【請求項2】
前記発現強化は、コピー数増加、発現調節配列の操作、またはその組み合わせによるものであることを特徴とする請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記微生物は、コリネバクテリウムグルタミクムであることを特徴とする請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
培地において請求項1に記載の微生物を培養する段階と、
前記微生物または前記培地中のL−リジンを得る段階と、
を含む、L−リジンを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−リジン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、及びそれを利用したL−リジン生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−リジンは、必須アミノ酸の一種であり、飼料、医薬品及び食品などの分野に使用されている。L−リジンは、主に、大腸菌やコリネバクテリウムなど微生物を利用した直接発酵法によって生産されているために、収率などが向上した生産菌株の開発または発酵工程の改善によるL−リジンの生産性向上は、大きい経済的効果をもたらす。
【0003】
リシンの生産効率を改善させるための方法として、リシン生合成経路上の遺伝子を増幅させたり、遺伝子のプローモーターを変形させたりして、生合成経路上の酵素活性を増大させる方法が利用されてきた。また、生合成経路関連遺伝子以外にも、リシンの生産能を高めるための遺伝子の探索は、続けてなされてきた。
【0004】
本発明者らは、リシン生産能と係わる形質を探索するために、コリネバクテリウムグルタミクムの野生型DNAライブラリーの作成及び探索を試みた。その結果、NCgl0862遺伝子の発現が強化される場合、リシンを効率的に生産することができるということを確認することにより、本発明を完成した。これまで、コリネバクテリウム由来NCgl0862を追加して導入してL−リジンを生産するコリネバクテリウム属微生物については、報告されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチドの発現が強化されたコリネバクテリウム属微生物を提供するものである。
【0006】
本発明は、前記微生物を利用してL−リジンを生産する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、コリネバクテリウムグルタミクムのNCgl0862遺伝子が過発現されるように変形された、L−リジン生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、及びそれを利用したL−リジン生産方法を提供することである。
以下、本発明の実施形態を示す。
(1)配列番号1のアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチドの発現が強化された、L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
(2)前記発現強化は、コピー数増加、発現調節配列の操作、またはその組み合わせによるものであることを特徴とする(1)に記載の微生物。
(3)前記微生物は、コリネバクテリウムグルタミクムであることを特徴とする(1)に記載の微生物。
(4)(1)に記載の微生物を培養する段階と、培養物中のL−リジンを得る段階と、を含むL−リジンを生産する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一様相による微生物を利用して、L−リジンの生産を増加させることができる。
【0009】
本発明の他の様相によるL−リジンを生産する方法を利用して、L−リジンの生産を増加させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一様相は、配列番号1のアミノ酸配列をコーディングするポリヌクレオチドの発現が強化されたコリネバクテリウム属微生物を提供するものである。
【0012】
前記ポリヌクレオチドの発現量強化は、発現調節配列の置換、または突然変異による変形;ポリヌクレオチド配列自体の変異導入;開始コドンの交替;染色体への挿入、またはベクターを介する導入によるコピー数増加;あるいはその組み合わせによるものでもある。
【0013】
前記ポリヌクレオチドの発現調節配列は、変形されたものでもある。前記発現調節配列は、それと作動自在に連結されたポリヌクレオチドの発現を調節する配列であり、例えば、プローモーター、ターミネーター、エンハンサー、サイレンサー、シャイン−ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列などが含まれてもよい。前記ポリヌクレオチドは、開始コドンが交替されたものでもある。前記開始コドンは、TTGあるいはGTGからなる開始コドンをATGで置換することにより、当該遺伝子の酵素活性を増大させたものでもある。前記ポリヌクレオチドは、染色体内の特定位置に挿入されることにより、コピー数が増加されたものでもある。前記特定位置は、例えば、トランスポゾンまたはイントゼニック(intergenic)部位などを含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、発現ベクター内に挿入され、その発現ベクターを宿主細胞内で導入することにより、コピー数が増加されたものでもある。
【0014】
前記ポリヌクレオチドは、例えば、配列番号2のヌクレオシド配列を有するものでもある。
【0015】
本発明において用語「作動自在に連結された」は、前記調節配列と前記ポリヌクレオチド配列との機能的な結合を意味し、それによって、前記調節配列は、前記ポリヌクレオチド配列の転写及び/または翻訳を調節することになる。前記調節配列は、前記ポリヌクレオチドの発現量を増加させることができる強力なプローモーターでもある。前記調節配列は、コリネバクテリウム属、または他の微生物に由来したプローモーターでもある。前記プローモーターは、例えば、trcプローモーター、gapプローモーター、tacプローモーター、T7プローモーター、lacプローモーター、trpプローモーター、araBADプローモーターまたはcj7プローモーターでもある。前記調節配列は、例えば、コリネバクテリウム属微生物において、リシン生合成経路上の主要遺伝子のプローモーター配列を、さらに高いプローモーター活性を有するように変形させたものでもある。前記調節配列は、例えば、lysCP1プローモーターでもある。「lysCP1プローモーター」は、アスパラギン酸キナーゼ及びアスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素をコーディングする遺伝子のプローモーター部位において、塩基配列を置換することにより、アスパラギン酸キナーゼ遺伝子の発現量増加を介して、前記酵素の活性を野生型対比で、約5倍ほど向上させた強力なプローモーターを意味する(大韓民国登録特許第10−0930203号)。
【0016】
本発明において用語「ベクター」は、適切な宿主内において、目的遺伝子を発現させることができるように、遺伝子の調節配列と塩基配列とを含むポリヌクレオチド製造物を意味する。あるいは、宿主細胞内に導入させ、宿主のゲノム上の内生的(endogenous)遺伝子の調節配列を変えたり、ゲノム上の特定部位に発現自在な目的遺伝子を挿入したりすることができるように、相同組み換えが自在な塩基配列を含むポリヌクレオチド製造物を意味する。従って、本発明のベクターは、宿主内への導入いかんあるいは染色体挿入いかんを確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよいが、選別マーカーは、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤による耐性、または表面タンパク質の発現のような選択自在な表現型を付与するマーカーが使用される。選択剤が処理された環境においては、選別マーカーを発現する細胞だけ生存するか、他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選別することができる。
【0017】
本発明において使用されるベクターは、大腸菌及びコリネ型細菌において、双方向に自家複製が可能なpECCG122ベクター(大韓民国登録特許第10−0057684号)または宿主細胞に形質転換され、目的タンパク質を暗号化する遺伝子を、宿主細胞内の染色体内に挿入させることができるベクターであり、コリネバクテリウムグルタミクム(Corynebacterium glutamicum)内において複製されないpDZベクター(大韓民国登録特許第10−0924065号)を、例として挙げることができる。また、pDZベクターから由来したベクターとして、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株の染色体内トランスポゾン部位遺伝子を挿入させることができるpDZTn(大韓民国登録特許第10−1126041号)を、例として挙げることができるが、それらに限定されるものではない。
【0018】
本発明において用語「形質転換」は、ポリヌクレオチドを宿主に導入し、ポリヌクレオチドがゲノム外因子として、またはゲノムに挿入されることにより、複製自在になることを意味する。本発明のベクターを形質転換させる方法は、核酸を細胞内に導入する方法も含まれ、宿主によって、当分野で公知されているように、電気パルス法によって遂行することができる。
【0019】
前記コリネバクテリウム属微生物は、例えば、コリネバクテリウムグルタミクム、コリネバクテリウムエフィシェンス、コリネバクテリウムジフテリアまたはコリネバクテリウムアンモニアゲネスでもある。
【0020】
前記コリネバクテリウム属微生物は、L−リジン生産能を有するものでもある。前記微生物は、L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物に、前記ポリヌクレオチドを導入し、L−リジン生産能が向上したものでもある。
【0021】
本発明において用語「L−リジン生産能を有する」は、本発明の微生物が培地で培養される場合、培地内に、L−リジンを生産して分泌する能力を有するということを意味する。前記微生物は、野生型または親菌株より、大量に培養培地にL−リジンを生産して蓄積させることができる微生物でもある。
【0022】
前記L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物は、NADPH生成関連遺伝子、及び/またはL−リジン生合成関連または分泌関連の遺伝子発現が強化または弱化されるか、外来遺伝子に置換されたものでもある。前記NADPH生成関連遺伝子は、例えば、グルコース脱水素酵素(glucose dehydrogenase)、グルコン酸キナーゼ(gluconate kinase)、グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、グルコース−6−リン酸脱水素酵素(glucose 6-phosphate dehydrogenase)または6−ホスホグルコン酸脱水素酵素(6-phosphogluconate dehydrogenase)をコーディングする遺伝子でもある。前記L−リジン生合成関連遺伝子は、アスパラギン酸アミノ基転移酵素、アスパラギン酸キナーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ、ジヒドロジピコリン酸還元酵素、meso−ジアミノピメリン酸脱水素酵素またはジアミノジピメリン酸脱炭酸酵素をコーディングする遺伝子でもある。前記L−リジン分泌関連遺伝子は、リシン排出キャリア遺伝子であるlysEでもある。前記L−リジン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物は、またキシロースを炭素源として利用して、L−リジンを生産することができる能力を獲得したものでもある。
【0023】
一具体例において、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P(KFCC10881)でもある(大韓民国登録特許第10−0159812号)。
【0024】
他の具体例において、前記コリネバクテリウム属微生物は、アスパラギン酸アミノ基転移酵素、アスパラギン酸キナーゼ、アスパラギン酸セミアルデヒド脱水素酵素、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ、デヒドロピコリン酸還元酵素及びジアミノピメリン酸脱炭酸酵素をコーディングするポリヌクレオチドを導入したものでもある。例えば、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM10770Pでもある(大韓民国登録特許第10−0924065号)。
【0025】
さらに他の具体例において、前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11347P(KFCC10750)でもある。
【0026】
さらに他の具体例において、前記コリネバクテリウム属微生物は、ピルビン酸カルボキシラーゼ(pyc:pyruvate carboxylase)をコーディングするポリヌクレオチドの変異体、ホモセリン脱水素酵素(hom:homoserine dehydrogenase;hom)をコーディングするポリヌクレオチドの変異体、及びアスパラギン酸キナーゼ(lysC:aspartate kinase)をコーディングするポリヌクレオチドの変異体が導入されてリシン生産能を有するようになった微生物でもある(Binder et al., Genome Biology, 2012, 13: R40)。前記微生物は、例えば、コリネバクテリウムグルタミクムCJ3Pでもある。
【0027】
本発明の他の様相は、前記微生物を培養する段階と、培養物中のL−リジンを得る段階と、を含む、L−リジンを生産する方法を提供するものである。
【0028】
前記微生物については、前述の通りである。
【0029】
前記微生物の培養は、当業界に知られている適切な培地及び培養条件によって行われる。かような培養過程は、選択される微生物によって、容易に調整して使用することができる。前記培養の方法は、回分式、連続式及び流加式の培養からなる群から選択される1以上の培養を含んでもよい。
【0030】
前記培養に使用される培地は、特定微生物の要求条件を満足させることができる培地でもある。前記培地は、炭素源、窒素源、微量元素成分、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される培地でもある。
【0031】
前記炭素源は、炭水化物、脂肪、脂肪酸、アルコール、有機酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される炭素源でもある。前記炭水化物は、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、果糖、マルトース、澱粉、セルロース、及びそれらの組み合わせでもある。前記脂肪は、大豆油、ひまわり油、ひまし油、ココナッツ油、及びそれらの組み合わせでもある。前記脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、またはそれらの組み合わせでもある。前記アルコールは、グリセロールまたはエタノールでもある。前記有機酸は、酢酸を含んでもよい。
【0032】
前記窒素源は、有機窒素源、無機窒素源、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。前記有機窒素源は、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液(CSL)、大豆ミール、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。前記無機窒素源は、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0033】
前記培地は、リン、金属塩、アミノ酸、ビタミン、前駆体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものを含んでもよい。前記リンの供給源は、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、またはそれらに相応するナトリウム含有塩を含んでもよい。前記金属塩は、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄でもある。
【0034】
前記培地、またはそれをなす個別成分は、回分式、連続式または流加式の培養に添加される。
【0035】
前記培養方法において、培養物のpHを調整することができる。前記pHの調整は、前記培養物に、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸または硫酸を添加して行われる。また、前記培養方法は、気泡生成抑制を含んでもよい。前記気泡生成抑制は、消泡剤の使用を介して行われる。前記消泡剤は、脂肪酸ポリグリコールエステルを含んでもよい。また、前記培養方法は、培養物内へのガス注入を含んでもよい。前記ガスは、培養物の好気状態を維持するためのいかなるガスも含んでもよい。前記ガスは、酸素または酸素含有ガスでもある。前記酸素含有ガスは、空気を含む。前記培養において、培養物の温度は、20ないし45℃、例えば、22ないし42℃、あるいは25ないし40℃である。培養期間は、所望のL−リジン生成量を獲得するまで持続することができる。
【0036】
生産されたL−リジンは、例えば、培養液を、硫酸または塩酸で処理した後、陰イオン交換クロマトグラフィー、濃縮、晶析、等電点沈澱などの工程を併用し、培養物から回収される。
【0037】
以下、下記実施例によって、本発明についてさらに具体的に説明する。しかし、それら実施例は、本発明を例示的に実施するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例1:野生型コリネバクテリウムグルタミクムgenomic DNAライブラリー作成
コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032菌株のgenomic DNAを準備した後、制限酵素Sau3AIを処理し、6ないし8kbの部分切片を獲得した。前記切片を、制限酵素BamHI末端を有する大腸菌及びコリネバクテリウムの形質転換用シャトルベクターpECCG122に連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、カナマイシン(25mg/L)が含まれたLB固体培地に塗抹した。PCR(配列番号3及び4のプライマー利用)を介して、前記切片が挿入されたベクターに形質転換されたコロニーを選別した後、それらをいずれも混合培養し、一般的に知られているプラスミド抽出法によってプラスミドを抽出した。
【0039】
配列番号3:TCAGGGTGTAGCGGTTCGGTTTAT
配列番号4:CCGCGCGTAATACGACTCACTATA
【0040】
実施例2:ライブラリー導入、及びリシン生産能向上菌株の選別
実施例1で作成した組み換えベクターを、電気パルス法を利用して、リシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに形質転換した後、下記の複合平板培地に塗抹した。
<複合平板培地>
ブドウ糖20g、(NHSO50g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO 5g、KHPO10g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド2,000μg、寒天20g、カナマイシン25mg(蒸溜水1リットル基準)
【0041】
コロニー約2,000個を、下記の複合液体培地200μlを含む96ディープウェルプレート(bioneer社)の個別ウェルに接種し、30℃24時間、200rpmで振とう培養した。リシンオキシダーゼ(oxidase)法によって、培養液各50μlを、リシンオキシダーゼを含む反応混合物(リン酸カリウム(pH7.5)200μl、リシンオキシダーゼ(0.1ユニット/μl)0.04μl、ペルオキシダーゼ(1ユニット/μl)0.04μl、ABTS 0.4mg)が分注されている96ウェルプレートに添加し、30分間の反応後、OD405nmで吸光度を測定して発色程度を比較した。そこから、対照群(KCCM11016P/pECCG122)より高い吸光度を示す7種の実験区を選別した。
<複合液体培地>
ブドウ糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO4g、KHPO 8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg及びニコチンアミド2,000μg(蒸溜水1リットル基準)
【0042】
各菌株を、下記の種培地25mlを含む250mlコーナーワッフルフラスコに接種し、30℃20時間、200rpmで振とう培養した。その後、1mlの種培養液を、下記の生産培地24mlを含む250mlコーナーワッフルフラスコに接種し、37℃96時間、200rpmで振とう培養した。培養を終了した後、HPLCを利用して分析したL−リジン濃度を、下記表1に示した。
<種培地(pH7.0)>
ブドウ糖20g、(NHSO10g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO 4g、KHPO8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド2,000μg(蒸溜水1リットル基準)
【0043】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、(NHSO40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形粉(cornsteep solid)5g、尿素3g、KHPO1g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド3,000μg、CaCO30g(蒸溜水1リットル基準)
【0044】
【表1】
【0045】
前記結果から、対照群対比のリシン生産能が上昇したKCCM11016P/M2とKCCM11016P/L52とを選択し、そこからプラスミドを抽出した。その後、配列番号3及び4のプライマーを利用して塩基配列を分析した。KCCM11016P/M2に由来したプラスミドは、pEC−L1と命名し、KCCM11016P/L52に由来したプラスミドは、pEC−L2と命名した。プラスミドpEC−L1は、NCgl0857遺伝子ORF開始コドン上流約200bp地点から、NCgl0862の遺伝子ORF終結コドン下流約200bp付近までを含み、プラスミドpEC−L2は、NCgl0861遺伝子ORF終結コドン下流約250bp地点から、NCgl0865遺伝子のORF開始コドン上流約300bp付近までを含んでいた。それを介して、2種のプラスミドには、NCgl0862遺伝子が共通して含まれているということを確認した。
【0046】
実施例3:NCgl0862遺伝子のプローモーター交替のためのベクター作成
実施例2で得られた結果を基に、NCgl0862遺伝子が過発現された場合、実際にリシン生産能向上を誘導するか否かということを確認するために、染色体上のNCgl0862遺伝子のプローモーターを交替させるためのベクターを作成した。そのために、lysC遺伝子のプローモーターとして、野生型プローモーター(lysCP)と、改良型プローモーターであるlysCP1とを使用した。
【0047】
これについて詳細に説明すれば、次の通りである。
【0048】
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH Genbank)を根拠とし、NCgl0862遺伝子(配列番号2)のORF開始コドンを中心に、上流及び下流をそれぞれ増幅するためのプライマー対(配列番号5及び6、または配列番号7及び8)を考案した。また、lysC遺伝子上流の塩基配列から、プローモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号9及び10)を考案した。以下に配列番号及び塩基配列を示した。下線を引いた配列は、制限酵素に対する認識部位を示す。
【0049】
配列番号5:GTGAATTCCGCCCGTATGGTGATT
配列番号6:TAGGATCCAGAAGGCGCTGGCTT
配列番号7:AGGGATCCTAACATATGGAAGCCGAAGCACCT
配列番号8:AGGTCGACTCATTCGTTCATAATT
配列番号9:TAGGATCCTAGGGAGCCATCTTTTGGGG
配列番号10:TAACATATGTGTGCACCTTTCGATCTACG
【0050】
コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P菌株のgenomic DNAをテンプレートにして、配列番号5及び6、配列番号7及び8、並びに配列番号9及び10のプライマー対でPCRを行った。そこから、NCgl0862遺伝子のORF開始コドンから、両側300bpのDNA切片と、lysC遺伝子の野生型プロモーター(以下、「lysCPプロモーター」と称する)切片とを獲得した。PCR増幅は、94℃5分間変性後、94℃30秒変性、56℃30秒アニーリング、72℃30秒重合を30回反復した後、72℃7分間重合反応を行った。前記NCgl0862遺伝子のORF開始コドンから、両側300bpのPCR増幅産物を、それぞれEcoRI及びBamHI、並びにBamHI及びSalIで処理した後、コリネバクテリウム属微生物の染色体挿入用ベクターpDZを、制限酵素SalIと制限酵素EcoRIとで処理して得たDNA切片と連結してベクターを獲得した。
【0051】
プローモーターであるlysCPまたはlysCP1を増幅するために、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032またはKCCM11016P−lysCP1(大韓民国登録特許第10−0930203)菌株のgenomic DNAをテンプレートにして、配列番号9及び10のプライマー対でPCRを行い、300bpのlysCPプロモーター及びlysCP1プローモーターの切片を獲得した。前述のlysC野生型プローモーターとlysCP1プローモーターとのDNA切片を、BamHIとNdeIとで処理した後、前記作成されたベクターを、BamHIとNdeIとで処理して得たDNA切片と連結し、組み換えプラスミドであるpDZ−lysCP_N0862とpDZ−lysCP1_N0862とをそれぞれ作成した。
【0052】
実施例4:リシン生産菌株由来NCgl0862遺伝子プローモーター交替菌株のリシン生産能分析
前記実施例3で作成した組み換えプラスミドpDZ−lysCP_N0862,pDZ−lysCP1_N0862をコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに、電気パルス法で形質転換させ(Van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52: 541-545, 1999)、一般的に知られている染色体相同組み換えによって、染色体上のNCgl0862遺伝子のプローモーター部位に、lysCプローモーターが挿入された菌株を、PCR(配列番号5及び8)を介して選別した。選別された組み換え菌株を、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P::lysCP_N0862及びKCCM11016P::lysCP1_N0862と命名した。
【0053】
前述のように作成されたリシン生産菌株KCCM11016P::lysCP_N0862とKCCM11016P::lysCP1_N0862のリシン生産能を確認するために、前記実施例2と同一の方法で種培養及び生産培養を行い、培養液中のリシン濃度を分析した(表2)。
【0054】
【表2】
【0055】
表2で示されているように、lysC野生型プローモーターに交替された菌株KCCM11016P::lysCP_N0862は、親菌株であるKCCM11016P対比のリシン生産能が、平均1%上昇し、lysCP1プローモーターに交替された菌株KCCM11016P::lysCP1_N0862は、親菌株対比のリシン生産能が、平均4%上昇したということを確認した。その後、前記菌株KCCM11016P::lysCP1_N0862をCA01−2269と命名し、2013年6月12日付けで韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託し、寄託番号は、KCCM11430Pである。
【0056】
実施例5:染色体内でのNCgl0862遺伝子の追加挿入のためのベクター作成
トランスポゾン遺伝子位置に目的遺伝子を挿入するように、pDZベクターから考案されたpDZTNベクターを基本ベクターとして使用し、前記実施例2のNCgl0862遺伝子を染色体上に追加挿入するためのベクターを考案及び作成した。
【0057】
報告された塩基配列に基づいて、NCgl0862遺伝子部位を増幅するためのプライマー(配列番号7及び12)を合成し、コリネバクテリウムグルタミクムATCC13032の染色体をテンプレートにしたPCRを介して、NCgl0862遺伝子約370bpのORF部位を増幅した。
【0058】
また、lysC遺伝子のプローモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号10及び11)を合成し、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P−lysCP1導入菌株の染色体DNAをテンプレートにしたPCRを介して、約300bpのプローモーター部位を増幅した。このとき、PCRは、94℃5分間変性後、94℃30秒変性、56℃30秒アニーリング、72℃30秒重合を30回反復した後、72℃7分間重合反応して行った。
【0059】
配列番号11:TAACTAGTTAGGGAGCCATCTTTTGGGG
【0060】
PCRで増幅された遺伝子断片を、制限酵素SpeIとNdeIとで処理し、それぞれのDNA切片を獲得した後、それを、制限酵素SpeI末端を有する染色体導入用pDZTNベクターに連結した後、大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/Lのカナマイシンが含まれたLB固体培地に塗抹した。PCR(配列番号12及び13)を介して、目的とする遺伝子が挿入されたベクターに形質転換されたコロニーを選別した後、一般的に知られているプラスミド抽出法を利用してプラスミドを獲得し、該プラスミドをpDZTN−N0862と命名した。
【0061】
配列番号12:TAACTAGTATGCTCGGTCCGGGCA
配列番号13:GCAGGCGGTGAGCTTGTCAC
【0062】
実施例6:染色体内NCgl0862遺伝子追加挿入菌株のリシン生産能分析
前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、染色体上での相同組み換えによって、L−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016Pに形質転換させた。その後、PCR(配列番号12及び13)方法でコロニーを選択的に分離し、KCCM11016P::N0862−Tnと命名した。KCCM11016P::N0862−Tnと対照群とを、実施例2と同一の方法で培養し、培養液中のL−リジン濃度を分析した(表3)。
【0063】
【表3】
【0064】
前記NCgl0862遺伝子が染色体上に追加挿入された菌株であるKCCM11016P::N0862−Tnは、親菌株であるKCCM11016P対比のリシン生産能が8%上昇したということを確認した。
【0065】
実施例7:染色体内に、NCgl0862遺伝子が追加挿入されたKCCM10770P由来微生物を利用したL−リジン生産
前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、L−リジン生合成経路構成遺伝子7種が、染色体上に追加挿入されたリシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM10770Pに形質転換させた。その後、PCR方法で、NCgl0862遺伝子が染色体上に追加挿入された菌株を選別し、コリネバクテリウムグルタミクムKCCM10770P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、培養液中のL−リジンの濃度を分析した(表4)。
【0066】
【表4】
【0067】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が5%上昇したということを確認した。
【0068】
実施例8:染色体内に、NCgl0862が追加挿入されたCJ3P由来微生物を利用したL−リジン生産
コリネバクテリウムグルタミクムに属する他の菌株での効果も確認するために、前記実施例5で作成したベクターpDZTN−N0862を、L−リジン生産能向上関連3種の遺伝子変異を有するリシン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムCJ3Pに形質転換させた。その後、PCR方法で、NCgl0862遺伝子が、染色体上に追加挿入された菌株を選別し、コリネバクテリウムグルタミクムCJ3P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、そこから回収されたL−リジンの濃度を分析した(表5)。
【0069】
【表5】
【0070】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が12%上昇したということを確認した。
【0071】
実施例9:染色体に、NCgl0862が導入されたKCCM11347P由来微生物を利用したL−リジン生産
コリネバクテリウムグルタミクムに属する他の菌株での効果も確認するために、前記実施例5のような方法で、L−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11347P(大韓民国登録特許第1994−0001307号)に、pDZTN−N0862を導入し、KCCM11347P::N0862−Tnと命名した。実施例2と同一の方法で培養し、そこから回収されたL−リジンの濃度を分析した(表6)。
【0072】
【表6】
【0073】
その結果、親菌株対比のリシン生産能が6%上昇したということを確認した。
【0074】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11347P
受託日:19911210
【0075】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11430P
受託日:20130612
【受託番号】
【0076】
KCCM11347P
KCCM11430P
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]