(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記1)及び2)のケースにおいては、例えば加工した板の向きを確認しながら検査を行なえば、位置ズレの方向を確定することができる。そのような確認を自動的に実施できる状況であれば問題はない。しかし人が数枚ないし数十枚の板に関して手作業的に行なう必要があれば、そのためのコストがかかるし、位置ズレの平均値に対してバラつきが大きい場合は、多くのデータを採取しなければ加工誤差の方向と大きさを特定することができない。また、位置ズレの方向や量が時間経過にともなって変化する場合は、そのような検査を繰り返し実施する必要がある。
3)の場合では、近用視のための小玉がついたBF(バイフォーカル)レンズや遠用領域と近用領域の度数がはっきり異なる累進屈折力レンズのように方向が明確な製品であれば、検査時にレンズの向きを調べることにより、プリズム誤差を生じている方向を特定できる。しかしSVレンズの場合は、加工時の方向がわからない。乱視度数の場合であっても、加工時の方向に2つの可能性がある。
この問題を解決するには、SVレンズにおいて累進屈折力レンズのような方向性を明確にするため、向きを示す刻印(マーク)をすることが考えられる。しかしそれには刻印のためのコストがかかるし、検査装置に刻印を検知させる必要があり現実的ではない。
本発明は、このような従来の技術に存在する諸問題点に着目してなされたものである。その目的は、加工誤差の量を検出できるが方向を検出できない場合において、加工誤差を低減するための加工条件設定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために
手段1では、共通の性質を持つ製品を加工する際に発生する加工誤差についてその誤差を量的に算出できるものの、誤差の方向が不明な場合の加工条件を設定する方法であって、基準となる所定の加工条件(以下、基準加工条件)で加工することで複数の前記製品について数値上の規則性が発現される程度に第1の加工データを取得するとともに、第1の加工データの分布に基づいて加工に伴って発生する加工誤差を推定する第1の工程と、複数の前記製品の一部又は全部に関して加工条件を意図的にその方向と量がわかるように変位させ、その変位させた加工条件(以下変位加工条件)で加工することで数値上の規則性が発現される程度に第2の加工データを取得するとともに、第2の加工データの分布に基づいて加工に伴って発生する加工誤差を推定する第2の工程と、前記第1の工程で取得した前記第1のデータと前記第2の工程で取得した前記第2の加工データとを比較し、前記変位加工条件で加工した際の変位させた加工条件の方向と量に基づいて加工誤差を低減した新たな加工条件を設定するようにしたことをその要旨とする。
【0007】
また、
手段2では、前記基準加工条件で加工する方が前記変位加工条件で加工する場合よりも加工誤差が大きい場合に前記変位加工条件で加工した際の変位させた加工条件の方向と量に基づいて前記基準加工条件を修正するようにしたことをその要旨とする。
また、
手段3では、前記製品の加工時の向きに対して検査時における向きが一定ではないことによって発生する検出誤差の値又は分布を推定することをその要旨とする。
また、
手段4では、加工誤差の特定の値又は分布を推定することで加工誤差を推定することをその要旨とする。
また、
手段5では、前記変位加工条件の方向と量は加工誤差に対して1対1の対応関係とされることをその要旨とする。
また、
手段6では、一つ又は複数のパラメータとする分布関数を想定し、パラメータに具体的な数値を仮定的に適用することで当該分布関数の誤差量の分布を見積もり、見積もった分布と前記基準加工条件及び前記変位加工条件で加工した際の加工誤差の分布との差を小さくする条件でパラメータを最適化して加工条件を推定するようにしたことをその要旨とする。
【0008】
また、
手段7では、前記製品はシングルヴィジョン(SV)の眼鏡レンズであることをその要旨とする。
また、
手段8では、前記眼鏡レンズは真円形状の外周をなし、真円形状をなす前記眼鏡レンズの中心とレンズ表面又はレンズ裏面の曲面の回転対称の中心軸の位置関係のズレを加工誤差として検出及び修正の対象とすることをその要旨とする。
また、
手段9では、レンズの幾何中心においてレンズ表面と裏面との間に傾きがある場合を加工誤差として検出及び修正の対象とすることをその要旨とする
また、
手段10では、レンズの度数又はプリズムの少なくとも一方を測定する検査装置にレンズを設置する際において、前記眼鏡レンズの置き位置のズレを検出及び修正の対象とすることをその要旨とする。
【0009】
上記のような構成では、第1の工程において、まず基準加工条件で複数の製品を加工して数値上の規則性が発現される程度に第1の加工データを取得するとともに、第1の加工データの分布に基づいて加工に伴って発生する加工誤差を推定する。
一方、第2の工程において、変位加工条件で複数の製品を加工して数値上の規則性が発現される程度に第2の加工データを取得するとともに、第2の加工データの分布に基づいて加工に伴って発生する加工誤差を推定する。第2の加工データは複数の製品の一部又は全部に関して加工条件を意図的にその方向と量がわかるように変位させたデータであり、第1の加工データとはことなる分布を示すはずである。
ここで、第1のデータと第2の加工データとを比較し、比較結果から加工誤差を低減するよう
に基準加工条件を修正することができる。第2の加工データの方が加工誤差が少ないと推定できていれば、変位させた加工条件の方向と量に基づいて第2の加工データに近づくように修正をかければよい。逆に第2の加工データの方が加工誤差が大きいと推定できていれば、多くの場合は第2の加工データから遠ざかるように修正をかければよいが、変位加工条件によっては遠ざけないほうが良い場合(誤差の方向と反対方向に、誤差の倍以上変位させた場合)もある。これらすべての場合を含め、変位させた加工条件の方向と量に基づいて第1のデータと第2の加工データとを比較することで新たな加工条件を設定するようにすればよい。
第
2の工程では
2以上の変位加工条件を設定してもよい。つまり第2の加工データは2つ以上であってもよく、それらから選択的にあるいは総合的に修正をかけるようにすることができる。また、修正は基準加工条件を修正しても変位加工条件を更に修正してもよい。
【0010】
ここに「共通の性質を持つ」とは、外観上まったく同じ形状であることはもちろん、外観上まったく同じ形状でない場合、例えば眼鏡レンズのように個々に度数が異なる場合であっても基本的な外観形状の共通性があればよいという意味である。
「その誤差を量的に算出できるものの、誤差の方向が不明」とは誤差(例えば、長さ、重さ、面積等)が誤差として算出できても誤差の方向が特定できない場合であって、例えば連続的な量の値がわからない場合(例えば中心からどの角度を向いているかわからない場合)や、2個又は3個以上の方向である可能性があるがどれかがわからない。(上向きか下向きか等)場合をいう。
また、「加工誤差」と「加工条件」は、1つの値であってもよいし、複数の値の組であってもよい。つまり、加工誤差1又は2以上に対して加工条件1又は2以上であってもよい。
【0011】
また、加工誤差を推定する際には加工誤差の特定の値又は分布を推定することがよい。例えば、特定の値として加工誤差の平均値や中央値がわかれば加工誤差を推定することが可能であり、また、例えば平均値に加えて標準偏差がわかれば加工誤差の分布が推定できるのでそれから加工誤差を推定することが可能である。例えば、誤差の平均値が小さければ単純に加工誤差が小さいと推定することができる。また、標準偏差が大きければ加工のバラつきが大きいことがわかる。
また、加工誤差を推定する際に製品の加工時の向きに対して検査時における向きが一定ではないことによって発生する検出誤差の値又は分布を推定することがよい。つまり、製造後に製品の検査(つまり、測定)をする際にも誤差は生じるため、その誤差について例えば、平均値や標準偏差を得ることで検出誤差を推定することができる。
また、変位加工条件の方向と量は加工誤差に対して1対1の対応関係とすることがよい。それによって変位加工条件に基づいて加工された製品群であることがわかるからである。
また、加工誤差を推定する際には、例えば一つ又は複数のパラメータをもつ分布関数を想定し、パラメータに具体的な数値を仮定的に適用することで当該分布関数の誤差量の分布を見積もり、見積もった分布と基準加工条件及び変位加工条件で加工した際の加工誤差の分布との差を小さくする条件でパラメータを最適化して加工条件を推定することが可能である。誤差分布を推定することで加工条件を修正してよりよい加工条件を推定することができる。この際にパラメータが少なければヒストグラムでグラフ化して基準加工条件及び記変位加工条件で実際に加工して得られた加工誤差の分布のヒストグラムとを目視で照合したり、正規分布にもとづいた数式に基づいてパラメータを最適化するシミュレーションが可能である。
【0012】
共通の性質を持つ製品としてより具体的には、例えばシングルヴィジョン(SV)の眼鏡レンズが挙げられる。上記のように眼鏡用SVレンズは2回対称又は回転対称であるため検査工程でレンズの向きが変わる可能性があり、プリズム誤差があることがわかっても誤差を修正することができない製品だからである。
眼鏡用SVレンズが真円形状の外周をなす場合に、真円形状をなす眼鏡レンズの中心とレンズ表面又はレンズ裏面の曲面の回転対称の中心軸の位置関係のズレを加工誤差として検出及び修正の対象とする。また、レンズの幾何中心においてレンズ表面と裏面との間に傾きがある場合を加工誤差として検出及び修正の対象とする。これらズレと傾きがプリズム誤差となるためである。
レンズの度数又はプリズムの少なくとも一方を測定する検査装置にレンズを設置する際においては、眼鏡レンズの置き位置のズレを検出及び修正の対象とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上記各請求項の発明では、加工誤差の量を検出できるが方向を検出できない場合において、加工誤差の分布を分析することで加工誤差を低減するように加工条件を決定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の加工誤差を低減するための加工条件設定方法の具体的な実施例について説明する。
(実施例1)
1.前提条件
実施例1では製造物が2回対称となる場合を説明する。製造物として平面形状が長方形(長さ100mm、幅18mm)の細長い金属板を1000枚使用した。所定の加工装置によって金属板の中央に凹状に小さい穴を打刻した。検査装置は打刻された穴の中心座標を板の下端からの距離として検出する。この板は2回対称な形状であるため検査装置に運ばれる間に向きが一定確率で変わり、加工時と同じ向きで測定される場合と反対向きで測定される場合がある。
本実施例1では板の幅の方向(横方向)の誤差については考えないこととする。打刻位置は板の下端から上方向に平均値(平均誤差)θ(mm)標準偏差σ(mm)の正規分布にしたがって分布する。打刻位置が板の中心から3mmを超えてズレたものは不良と判定する。本実施例1ではθ=1mm、σ=1mmとする。すなわち、平均的な打刻位置を加工時点では板の下端から51mmとし、その位置を中心に標準偏差1mmでバラつくものとする。このような状況において平均誤差θと標準偏差σの値を推定し、更に加工誤差を検出して低減することを検証した。
図1、
図2及び
図3はθ=1mm、σ=1mmの条件で1000枚の金属板に穴を打刻したヒストグラムである。ここでは
図1のような特性を示す場合を実施例1−1とし、
図2のような特性を示す場合を実施例1−2とし、
図3のような特性を示す場合を実施例1−3とする。実施例1−1と1−2は検査装置に測定誤差がないように実施し、実施例1−3のみ検査装置に測定誤差を与えて実施した。
【0016】
2.検査装置に測定誤差がない場合
(1)まず、実施例1−1と1−2について
図1及び
図2のヒストグラムに基づいて妥当と考えられる均等割り付けによるシミュレーションを行った。
図4のヒストグラムは実施例1−1(
図1)を標準化したものである。このヒストグラムは実際には平均誤差θ、標準偏差σ及び反転確率qのパラメータに様々な値を適用して
図1に近似させるようにシミュレーションして得られたものである。シミュレーションは1000枚のデータを均等割り付けして作成し、結果としてθ=±1mm、σ=1mm、反転確率q=0.5となった。
θ=±1mmとなったのは誤差は絶対値で示されるため、平均誤差θがプラス側かマイナス側かこの段階では不明だからである。具体的にはこのヒストグラムは、確率密度関数の累積分布関数の値を0.0005〜0.9995まで、0.001間隔で1000個作り次のように第i番目の値を定めた。確率密度関数は数1で示される。qは反転確率である。次いで、数2の式に示す標準正規分布に基づいて数3の式のように積分範囲を−∞〜xとした累積密度関数を設定する。この数3の式の逆関数をgで表し、第i番目のデータを下記a)b)の式に基づいて作成した。測定向きは正逆50%(つまり、反転確率0.5)であった。
【0020】
一方、
図5のヒストグラムは実施例1−2(
図2)を標準化したものである。このヒストグラムもθ、σ及び反転確率qのパラメータに様々な値を適用して
図2に近似させるようにシミュレーションして得られたものである。実施例1−1と同様にθ=±1mm、σ=1mm、反転確率q=0.2とし、1000枚のデータを均等割り付けして作成したシミュレーション結果である。測定向きは逆になるものが20%(つまり、反転確率q=0.2)であった。
上記1.前提条件で説明したように実施例1の特性からシミュレーションでは中心位置50mmに対して平均誤差θを1mmに設定し、上下どちらに誤差があるか不明であるため、
図4のヒストグラムはピークが50mm+1mmとなる群とピークが50mm−1mmとなる群の2つの群を合成し、
図5のヒストグラムはピークが50mm+2mmとなる群とピークが50mm−2mmとなる群の2つの群を合成したものである。つまり、実施例1−1と実施例1−2はピークの異なる2つの群の合成と考えることができる。
シミュレーションでは具体的に第i番目のデータは次の式で表されることになる。ここでは以下のa)及びb)の式に基づいて第i番目のデータを作成した。実施例1−1ではa)とb)ともに反転確率0.5としてa)とb)を0.5ずつの割合で割り振った。つまり、1枚をa)とb)0.5枚ずつと考えるようにした。一方、実施例1−2ではa)を0.8としb)を1−0.8=0.2として割り振るようにした。つまり、1枚をa)0.8枚とb)0.2枚と考えるようにした。
a)50mm+誤差の平均値θ(1mm)+g(s
i)×誤差の標準偏差σ(1mm)
b)50mm−誤差の平均値θ(1mm)−g(s
i)×誤差の標準偏差σ(1mm)
【0021】
(2)次に、打刻位置をシフトさせてそのデータと上記実施例1−1及び実施例1−2との関係を分析する。まず、実施例1−1について説明する。
実施例1−1で使用した加工装置と同じ装置によって多数の金属板に上記のように小さい穴を打刻する際に、金属板のうちの何%かを上方に1mmシフトして打刻し、この群をAとする。また、同様に何%かは下方に1mmシフトして打刻し、この群をBとする。このように上下に1mmシフトさせるのは+1mmシフト加工するものと−1mmシフト加工するもののどちらかが平均誤差0mmになることを期待してのことである。
金属板ごとの加工シフト量は記録され、検査結果とつきあわせ可能であるとする。すなわち、加工シフト量と検査結果は対応づけられるものとする。計算上AとBは同じ数であることが望ましいが、違っていてもよい。本実施例1では上記と同様にAとBそれぞれ1000枚とした。ここで平均誤差θは0mmではないので、AとBの検査データの分布には差ができることとなる。
図7は上方に1mmシフトして打刻した場合のA群のヒストグラムである。そして、
図8はθ=1+1=2mm、σ=1mmとし、上記a)及びb)の式に従って1000枚のデータを均等割り付けして作成したシミュレーション結果である(反転確率0.5)。
また、
図9は下方に1mmシフトして打刻した場合のB群のヒストグラムである。そして、
図10はθ=1−1=0mm、σ=1mmとし、上記a)及びb)の式に従って1000枚のデータを均等割り付けして作成したシミュレーション結果である(反転確率0.5)。
図8及び
図10におけるシフト量も実施例1−1において推定されたθ=±1mmに基づいて設定した。
【0022】
A群のヒストグラムとB群のヒストグラム(つまり
図7と
図9のヒストグラム)を比較してみると、データのバラつきはA群の方が大きくB群は小さくなっている。これから、平均誤差θは「上側」に1mmであったことがわかる。そのため、1mm下方にシフトして打刻することが加工誤差を低減するためによいことがわかる。
標準正規分布表に基づくと、平均位置から上方に向かって標準偏差の2倍を超えてバラつく不良は2.275%、平均位置から下方に向かって標準偏差の4倍を超えてバラつく不良は0.003%で、合計2.28%ある。加工条件を調整して平均誤差θを0mmに近くすれば、上方と下方に標準偏差の3倍を超えてバラつく不良はそれぞれ0.135%となり、合計0.27%に抑えることができる。これを基準に上記の
図8と
図10のシミュレーション結果を比べてみると、上方に1mmシフトした場合では平均誤差2mmとなり、加工誤差上方3mmを超えるものが15.87%生じ、加工誤差下方3mmを超えるものはほとんどない。この条件ではシフトしない条件(2.28%)よりも13.59%不良が多い。一方、下方に1mmシフトした板の平均誤差0mmとなり、その不良割合は0.27%に減る。これはシフトしない条件よりも2.01%不良が少ない。
A群とB群をそれぞれ全体の10%として、加工分をシフトしなかった80%に加えてしまうと考えると、全体では不良が1.16%増えることとなる。それだけの不良増を一時的に容認し、平均誤差θの値を検出してから打刻位置を調整することにより不良を低減することができる。
【0023】
一時的な不良増をできるだけ抑えたいのであれば、シフト加工する枚数を減らすかシフト量を小さくすればよいが、A群とB群の検査データの違いがはっきりしないと平均誤差θの正確な推定が難しくなるというデメリットがある。また、標準偏差σが大きい場合は平均誤差θを正確に推定することがさらに難しくなる。測定誤差がなく、かつ板の向きが変わる確率がこのように0.5付近である状況では、A群とB群のうちどちらのバラつきが大きいかによって平均誤差θの符号を推定できる。その符号にしたがって、打刻位置を微小量(例えば0.1mm)だけ調整する。その条件でさらにA群とB群の加工を行なった結果をもとに打刻位置を少しずつ変えていくようにすることで最適な加工条件を決定することができる。
以上実施例1−1について説明したが、実施例1−2のように反転確率0.5でなくとも同等の分析が可能である。
【0024】
3.検査装置に測定誤差がある場合
次に、打刻位置を検出する検査装置に測定誤差がある場合を考える。1枚の板を手動で測定し、それから板の向きを変えて再度測定し、2回測定した値の平均値をもって測定誤差を推定することができる。しかしこの方法では手動測定を行なう手間を生じるし、検査装置の状態が刻々変化するような場合には向かない。そのため、このような手動測定ではなく、自動又は半自動的な機械的測定方法を想定する。実施例1−3には自動的な測定誤差を与えているので、以下では実施例1−3に基づいて説明する。
尚、実施例1−1のように反転確率0.5であれば、打刻位置の平均値はちょうど50mmになるはずである。従って、十分多くの板を加工・検査すれば、もし測定誤差があった場合でも平均値が50mmからズレたぶんだけ、検査装置に測定誤差が生じていることがわかるため、後は測定結果データから測定の平均誤差をキャンセルし、検査装置に測定誤差がない場合と同様の手順を行なうことができる。そこで以下では反転確率が0.5ではない場合も含む一般の条件について説明する。
【0025】
実施例1−3についても、
図3のヒストグラムに基づいて妥当と考えられる均等割り付けによるシミュレーションを行った。その結果が
図6である。上記実施例1−1や1−2と同様に0.0005〜0.9995まで、0.001間隔で小さい順に累積密度を取るようにして1000個のデータを作成した。具体的には次のように実施した。
まず実施例1−3の確率密度関数を作成する。確率密度関数は数4に示す通りである。確率密度関数は測定位置のズレ(測定誤差の平均θ')、測定位置のバラつき(測定誤差の標準偏差 σ')、打刻位置のズレ(加工誤差の平均θ)、打刻位置のバラつき(加工誤差の標準偏差)、反転確率qという合計5つのパラメータを有している。これらパラメータを最適化して適用する必要がある。
そのために数5の式のように累積密度関数を設定し、更に5つのパラメータを最適化するために数6の関数を設定する。数6の関数において、m
iは、小さい順に並べたときの第i番目の測定値(mm)を表す。尚、ここで示す最適化手法は一例である。最適化手法としては下記とまったく同じではないものの近い考え方のいくつかの手法が既知である。
加工結果が確率的に均等に生ずることが最も起こりやすいと考えられるので、そのような状況を想定して、1000枚の板の打刻位置を測定した値を小さい順に並べると、各測定値に対応する累積密度は0.0005〜0.9995まで、0.001ステップの値をとると考えられる。この考え方をもとに残差二乗和を表す関数A(θ,σ,q,θ',σ')を構成し、その値が最小になる条件によりθ、σ、q、θ'、σ'を最適化する。その結果、5つのパラメータの推定値として、
加工誤差の平均 θ 1.07mm
加工誤差の標準偏差 σ 0.93mm
反転確率 q 0.20
測定誤差の平均 θ' 0.46mm
測定誤差の標準偏差 σ' 0.47mm
がそれぞれ得られた。
図6はこれらの値を使用して作成されている。尚、式の上で加工誤差θが+の値になるか−の値になるかによって2種類の結果が得られる。具体的には加工誤差の平均 θ=−1.07 mm、反転確率 q=0.80で、他の3つの値は共通である条件でも関数Aの値は最小となる。しかし、例えば加工誤差θに+1mmと−1mmシフトして加工するようなシミュレーションを行うことで加工誤差の方向を推測することが可能であるので、いずれか正しいと考えられる加工誤差θを使用すればよい。そして、実施例1−3でも上記実施例1−1のように誤差を意図的にシフトさせることで誤差を低減させる方向を推定するようにする。
【0029】
(実施例2)
1.前提条件
実施例2では製造物が回転対称となる場合を説明する。製造物として直径100mmの金属製の円盤を1000枚使用した。所定の加工装置によって円盤の中央に凹状に小さい穴を打刻した。打刻位置の分布は水平方向には平均値θx(mm)標準偏差σ(mm)の正規分布にしたがい、垂直方向には平均値θy(mm)標準偏差σ(mm)の正規分布に従う。水平方向と垂直方向の誤差分布は独立とし、簡単のために標準偏差σは共通の値とする。打刻された円盤は検査装置まで運ばれる間に、向きがランダムに変化する。検査装置は打刻位置の中心座標を、円盤の中央を原点(0,0)として検出する。θxとθyを変えるように加工条件を調整する(打刻位置を変える)ことができる。このような状況においてθx、θy、σの値を推定し、更に加工誤差を検出して低減することを検証した。 実施例2では、θx=2mm、θy=1mm、σ=1mmとする。すなわち、平均的な打刻位置は加工時点では円盤中央の右側2mm、上側1mmの位置を中心に水平方向と垂直方向それぞれ標準偏差σが1mmで分布するものとする。
図11はθx=2mm、θy=1mmの条件で1000枚の金属板に穴を打刻したヒストグラムである。
【0030】
2.検査装置に測定誤差がない場合
まず、検査装置に測定誤差がない場合を考える。打刻位置の誤差の平均値は絶対量r
0=√(θx
2+θy
2)として示され、r
0とσの値を適当に設定して分布をシミュレーションし、検出される打刻位置の原点からの距離をヒストグラムで表し、その結果が検査データと似る条件をもって実施例2についてr
0とσを推定することができる。具体的に仮にθx>0、θy=0として、(θx、0)を中心とした、水平方向と垂直方向に標準偏差σの分布を作り、その結果として得られるr
0のヒストグラムが実施例2のデータ値と似る条件をもとに推定する。このようにシミュレーションして
図12のヒストグラムを得た。r
0の推定値は2.2mmに近かった。
さて、現状では円盤の中心に打刻しようとしているが、その結果中心からズレるという加工誤差を生じているので、打刻する位置を変更すべきである。そのため、実施例1のように打刻位置を中心からずらして加工誤差を検出し、その加工誤差をキャンセルすることがよい。
【0031】
まず、打刻位置を1mm右側にシフトして打刻した群をAとする。打刻位置を1mm上側にシフトして打刻した群をBとする。A群の打刻位置の誤差の平均値をr
1とし、B群の打刻位置の誤差の平均値をr
2とする。A群とB群のそれぞれについても、上記r
0の推定と同様の方法でそれぞれr
1とr
2を推定することができる。その結果、r
1の推定値は3.2mmに近く、r
2の推定値は2.8mmに近くなった(計算は省略)。尚、このときσは共通であることを考慮して、r
0とr
1とr
2を同時に決定すると推定の精度がよい。
打刻を変更すべき位置は、現状の中心(として想定している位置)からr
0だけ離れており、かつ中心から1mm右側として想定した位置からr
1だけ離れており、かつ中心から1mm上側として想定した位置からr
2だけ離れた位置である。すなわち、
図13に 示すように、3つの想定位置を中心にそれぞれ半径r
0、r
1、r
2の円を描いた交点である。尚、推定には誤差を生じるので、3つの円は必ずしも1点で重ならないが、3点までの距離がそれぞれr
0、r
1、r
2に近くなる座標を下式の値が最小になるような条件をもとに特定することでより好適な位置を決定できる。
(x
2+y
2−r
02)+((x−1)
2+y
2−r
12)+(x
2+(y−1)
2−r
22)
以上の結果、打刻を変更すべき位置としてx=−2mm、y=−1mmという推定値を得ることができる。
尚、シフト打刻する条件を増やし、1mm左側や1mm下側に打刻する加工も行ってそのデータも加味すれば、より安定した計算を行うことができる。シフトする方向を増やす代わりにシフトする量を抑えて、一時的な不良増を抑えることもできる。
【0032】
3.検査装置に測定誤差がある場合
次に打刻位置を検出する検査装置にも測定誤差がある場合を考える。仮に、検査時における円盤の向きが加工時からランダムに(方向の偏りなく)変化するのであれば、打刻位置の座標の平均値は原点に一致するはずである。従って、十分多くの円盤を加工・検査すれば、平均打刻位置が原点からズレたぶんだけ、検査装置に測定誤差が生じていることがわかる。そうすれば後は、測定結果データから測定の平均誤差をキャンセルすればよく、キャンセル後は上記の検査装置に測定誤差がない場合と同様の手順を行えばよい。
検査時における円盤の向きに偏りがある場合は、次のようにして測定誤差をのズレを推定することが可能である。向きの分布関数をf(α)とし、αの範囲を0≦α<2πラディアンとする。この範囲のαでf(α)を積分すると1となるものとする。関数f(α)を適当な多項式などで想定し、その関数形とθx、θy、σ、さらに検査装置の水平位置ズレの平均値、垂直位置ズレの平均値、標準偏差を、シミュレーション分布と検査結果が似るように最適化すればよい。
【0033】
(実施例3)
1.前提条件
眼鏡レンズを製造する事例を実施例3として示す。眼鏡レンズには球面度数(乱視を含まない度数)と乱視度数(乱視を含む度数)があるが、この実施例3では乱視度数のある場合の2回対称となるSVレンズを扱う。また、眼鏡レンズの加工方法はいくつかあるが本実施例3ではセミフィニッシュと呼ばれる半製品を切削加工する際に発生する加工誤差としてプリズム誤差についての事例を説明する。半製品は一般に真円形状に形成されている。
【0034】
(1)半製品の加工について
半製品の凸面側を金属塊であるブロックピースに固定する。ゼネレータ(カーブゼネレータともいいレンズの曲面(カーブ)を形成するために、レンズを切削加工する装置)が直接半製品(最終的にレンズとして仕上がる)をつかむのではなく、ブロックピースをつかんで固定して加工するためである。半製品とブロックピースを結合するために使用する装置をブロッカーと呼ぶ。ブロッカーによって半製品とブロックピースの位置関係を固定した状態で保持し、両者の間に低融点の合金や樹脂を流し込み、これを固化して固定する。ブロッカーとゼネレータで半製品を加工する際、水平方向(機械に対して人が向いて見る横方向)がプラス側の度数、垂直方向がマイナス側の度数になる様に向きを定める。
ブロッカーからゼネレータにワーク(セミとブロックピースが結合したもの)を移動させゼネレータで切削加工して研磨加工を完了するまでは、レンズの向きが変わることはなく、一定とする。ゼネレータで半製品の凹面側を切削加工して、所定の度数を生じさせるためのレンズ形状を成型した後、加工面を光学的に滑らかに仕上げるための研磨加工を行なう。
次いで、レンズの度数を測定する検査工程があり、レンズメータでレンズの度数を測定する。その際は水平方向がプラス側の度数、垂直方向がマイナス側の度数に向きを直すものとする。すると、検査時のレンズの向きは「2つの可能性のうち1つ」になる。すなわち、加工時と同じ向きか、反対向きである。以上のように、ブロッカー→ゼネレータ→研磨では向きは変わらず、加工後→レンズメータでは向きが一定確率で同じか反転するものとする。
【0035】
(2)プリズムとプリズム誤差について
基本的にレンズは面が傾くことによって発生するプリズムによって光を曲げて所定の光学性能を発揮させる。ここでプリズム誤差とはそのような予定されたプリズムではなく、加工によって発生する誤差である。加工誤差が無ければ、製造されたレンズの幾何中心において、凸面と凹面が平行になる。しかし実際はブロッキング又は切削加工時の加工誤差があり、これが原因でレンズに望まれないプリズム誤差が生じる(研磨加工による形状変化はわずかなので、ここでは考えないことにする)。加工誤差がまったく無いレンズができあがっても、測定に誤差を生じてプリズムが検出される場合もある。プリズム誤差を生じる原因は、水平・垂直方向の位置の誤差と面の傾きである。
【0036】
次に、面の傾きとプリズムについて説明する。素材屈折率をnとし、面の傾きをα度と、最小偏角δminには下記数
7の式の関係がある。生じるプリズムの量は偏角をδとして、100・tan(δ)プリズムディオプター(PD)となる。面の傾きと偏角と光の透過方向との関係は
図12の通りである。プリズムによって曲がった光が100cm進む間に何cmズレるかがプリズム量の定義である。具体的な数値例として、n=1.6、α=1.0(度)の場合、δmin=0.6(度)であり、その条件では1.05(PD)となる。
【0038】
凸面又は凹面の頂点がレンズの幾何中心からズレることによってもプリズムを生じる。レンズの度数をS(D)、ズレ量をR(mm)とすると、生じるプリズムの量は、S・R/10(PD)として近似的に得られる。この式はプレンティスの式として知られている。具体的な数値例として、S=+2.00D、R=2mmの場合、0.4PDとなる。S=−3.00D、R=1mmの場合、−0.3PDとなる。この原因で生じるプリズムの量は、素材屈折率とは無関係である。レンズ度数のプラスマイナスによってプリズムの符号が変わるのは、プリズムの向きを考慮したときに反映される。位置ズレが同じ向きであっても、プラス度数ではアッププリズムが生じ、マイナス度数ではダウンプリズムが生じるといった具合である。
【0039】
(3)具体的な手法
実施例3では半製品の加工における全工程で総合的に生じる位置ズレと面傾きそれぞれ水平・垂直方向成分を分析する。それらの平均値が判明すればブロッキング又は切削加工の条件をレンズの度数によって調整することで、幾何中心に生じるプリズムを低減することができる。
実施例3ではレンズを1500枚として以下のデータに基づいてプリズム誤差を算出した。レンズの屈折率が1.6の場合は面傾きの角度と発現プリズム量がほぼ同じ値になるので、計算を簡単にするためにこの実施例で扱うレンズの素材屈折率をすべて1.6とした。また、インプリズムとアウトプリズムの関係が煩雑なので、すべてR眼レンズで検討した。平均位置誤差が生じているがこれは不明である。これについては水平方向と垂直方向に平均位置誤差が生じているとしてそれぞれ推定する。これら位置誤差はR眼プラス度数レンズにおいて、球面中心が右側にズレるとインプリズムを生じ、上側にズレるとアッププリズムを生じる方向である。水平方向に0.10度の平均傾き誤差を生じ、その傾きはR眼レンズにおいてインプリズムを生じる方向である。この場合、レンズの鼻側が厚くなる方向で面が傾く。また、垂直方向に0.15度の平均傾き誤差生じてアッププリズムを生じる。この場合、レンズの上側が厚くなる方向で面が傾く。位置誤差の標準偏差を0.15mm、傾きの標準偏差を0.05度とする。
図15に水平方向について水平度数とプリズム誤差との散布図を示し、
図16に垂直方向について垂直度数とプリズム誤差との散布図を示した。
【0040】
2.検査装置に測定誤差がない場合
(1)まず、レンズメータでの測定時に測定誤差を生じない場合について説明する。
図15と
図16の散布図によれば、プラスとマイナスそれぞれの強度数にかけてプリズム誤差の絶対値が大きくなっている。これは位置ズレの影響である。仮に位置ズレが0mmであれば、面傾き誤差のみがプリズムに反映され、その値はレンズの度数によらない。面傾き誤差の平均値が大きくてもせいぜい0.1度であれば、生じるプリズムも0.1PD程度である。これに対してレンズの度数が−10.00Dといった強度数の場合、0.5mmの偏心により0.5PDを生じる。つまり、強度数の場合は位置誤差の影響が大きい。そこで、ある程度度数が強いレンズの検査データをもとに位置誤差の量を推定することができる。
そこで、水平方向の度数とプリズム誤差に関して、−5.75〜+1.75Dのデータを削除する。この範囲は2つの分布が重なり合っている度数範囲である。各レンズの水平方向の度数をxとする。プラス度数のデータに関しては水平プリズム測定値の絶対値をyとし、マイナス度数のデータに関しては水平プリズム測定値の絶対値にマイナス符号をつけた値をyとする。そして、y=ax+bの式で近似して係数aと切片bの値を決定する回帰分析を行う(y:目的変数、x:説明変数、a:回帰係数、b:切片)。その結果、
図17に示すようにaの値は0.0603、bの値は0.0965となり、aの値から水平方向の位置ズレ量は約0.60mmと推定できる。垂直方向に関しては、
図18に示すように−10.75〜−1.25Dのデータを削除する。そして、aの値は0.0398、bの値は0.1494となり、aの値から垂直方向の位置誤差の量は約0.40mmと推定できる。
【0041】
(2)水平と垂直それぞれのy=ax+bの回帰式において、aとbの値は既に求めた。その式において、x=0のとき、すなわち水平方向や垂直方向の度数が0.00Dであり、位置誤差由来のプリズム誤差が0PDであるときに生じているプリズム量が面傾き由来の値である。水平方向はb=0.0965なので平均0.10PDインプリズム、
垂直方向はb=0.1494なので平均0.15PDアッププリズムの面傾き由来の加工誤差を生じていると推定ができる。
(3)しかし、ここで「イン」「アウト」と表現したのは計算の便宜上定めたものであり、実際には加工時に加わるプリズムの方向は不明である。そこで、
図19と
図21に加工条件を調整して加工するレンズの3分の1(500枚)に0.05PDインプリズムを、別の3分の1(500枚)に0.05PDアウトプリズムを付加し、調整してないレンズと合わせて合計1500枚で製造したデータを示す(図においてはアウトプリズムを菱形で、インプリズムを三角で、プリズムの付加なしの状態を四角で示す)。そして、上記と同様に−5.75〜+1.75Dのデータを削除し、y=ax+bの式で近似して係数aと切片bの値を決定する回帰分析を行う。その結果を
図20と
図22に示す。これらの図からアウトプリズムを付加したレンズ群の回帰直線のほうが原点の近くを通ることがわかる。つまり、アウトプリズムを付加することでプリズム誤差はキャンセルされることから、加工時に生じている傾き誤差はインプリズムであることがわかる。そして、プリズム誤差はプラス度数の絶対値が0から増すに従って絶対値が増加し続ける傾向にあるから、位置誤差由来のプリズムはプラス度数においてイン方向であり、このことから位置誤差の方向もわかる。このようにして、位置誤差の向きと面傾きの向きは、各方向にプリズムをつけて加工したレンズの検査データから特定することができ、位置誤差と面傾きをキャンセルする方向にプリズムを付加するように調整することでプリズム誤差を少なくすることができる。
【0042】
3.検査装置に測定誤差がある場合
レンズメータでの測定に誤差を生じる場合について説明する。誤差を生じる原因として機械の内部動作など様々なものが考えられるが、ここでは本来レンズを置くべき位置から水平・垂直方向にそれぞれ何mmかズレた位置にレンズを置いた状態で測定することにより、実際とは異なる値のプリズムが測定される状況を想定する。望まないプリズムがない(加工誤差を生じていない)プラス度数のレンズを本来より上側に配置して測定するとアッププリズムが、マイナス度数のレンズを本来より上側に配置して測定するとダウンプリズムが検出される。R眼用のプラス度数のレンズを本来より右側に配置して測定するとインプリズムが、マイナス度数のレンズを本来より右側に配置して測定するとアウトプリズムが検出される。このように、レンズの度数によって検出されるプリズムの方向が変わる。尚、レンズの度数が0.00Dである場合は、測定位置がズレてもプリズムは検出されない。たとえば水平方向の度数が0.00D、垂直方向の度数が−2.00Dのレンズ(このような度数を単性乱視という)を測定する位置が、水平方向にズレても検査結果にはプリズムを生じない。
加工時と同じ向きで測定する確率と反対向きで測定する確率が0.5ずつであれば、測定位置の誤差を容易に算出することができることは実施例1等と同様である。検査結果として得たデータから測定位置の誤差により生じた分を除き、そのデータをもとに加工誤差を推定することができる。
具体的な数値例として、レンズ測定位置が本来位置よりも0.2mm右側、0.4mm上側にズレた状態でプリズム測定した結果を
図23及び
図24に示す。R眼プラス度数ではインとアップのプリズムを生じた。切片を0として、y=axの形式で直線回帰すると、水平の係数は0.0221、垂直の係数は0.0405となった。プレンティスの式より、測定位置のズレ(mm)は、「プリズム量×10/レンズ度数」で近似できるので、位置ズレの推定値は水平方向0.22mm、垂直方向0.41mmとなる。
加工時と同じ向きで測定する確率が0.5ではない場合も実施例1と同様の要領により測定位置の誤差を推定できる。
【0043】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・実施例1では上下にシフトさせる量は等量であったがこれは必ずしも等量である必要はない。上下それぞれにシフトさせたがいずれか一方だけでもよい。一方だけでも誤差の傾向を知ることができるからである。
・上記すべての実施例において、加工誤差の正規分布性を仮定した。そして、平均と標準偏差の値を推定することを分布の推定とした。しかし加工誤差や測定誤差が正規分布ではないことがわかっているような場合は、その事象に対応した適切な分布モデルを想定することで、同様の手順を実施することができる。
・製造物の形状が2回対称と回転対称の実施例を示したが、3回対称、4回対称、5回以上の対称形状の製品を加工する事例にも応用できる。
・実施例1−3では一度に推定する誤差を5個とした。推定する誤差の数はいくつであっても良く、6個以上にしてもよい。たとえば実施例3において、傾き誤差・位置誤差・測定誤差それぞれの標準偏差やレンズの反転確率(加工時と測定時でレンズの向きが反対になる確率)を推定する計算の例を示さなかったが、必要に応じてそれらの推定を行っても良い。
・実施例3において、ゼネレータで加工する面に傾き成分を合成する方法を述べたが、加工する曲面(球面や乱視面、非球面のこともある)の対称軸の位置を変える方法によっても可能である。また、ブロッキング工程において、半製品とブロックピースの面に傾きをつける方法によっても可能である。
・ブロッカー、ゼネレータ、検査装置が複数あり、レンズが各装置を通過するパターンが様々であるようなケースにおいても本発明を適用することができる。たとえば複数あるブロッカーに対応するパラメータをブロッカーの数だけ設定し、全データに対して同時に最適化計算を行えばよい。この場合、ブロッカーとゼネレータの位置パラメータや傾きパラメータを合成した値として設定するのではない。
・上記実施例1〜3では1000個の製品を使用して誤差を算出するようにしたが、計算においては数値上の規則性が発現される程度の数(統計上意味のある数)であれば製品の数はいくつであってもよい。
・実施例1〜3は一例であって、他の多数製造する性質の製品に応用することは自由である。
・実施例3においてプリズム誤差以外の誤差に応用するようにしてもよい。
・実施例1−3では、加工結果が確率的に均等に生ずることが最も起こりやすいと考えられることから、各測定値に対応する累積密度が0〜1の間に均等に近く分布する条件に基づいて確率密度関数を最適化した。その際、残差二乗和を表す関数を最小化したが、それはわかりやすい計算例を示すためであった。より適した方法として、第i番目の測定値に対応する確率密度(累積密度ではない)をp
iとして、−Σp
ilog(p
i)で表される情報論のエントロピーを最大にする条件で確率密度関数を最適化する方法が考えられる。これと似た方法として、エントロピーを最大にする条件に基づいて最適化計算によりスペクトル分布を推定する方法が、最大エントロピー法として知られている。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。