特許第6286644号(P6286644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286644
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ずれ防止用コート剤
(51)【国際特許分類】
   B24B 9/14 20060101AFI20180226BHJP
   G02B 1/10 20150101ALI20180226BHJP
   G02C 13/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B24B9/14 A
   G02B1/10
   G02C13/00
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-112089(P2014-112089)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-223688(P2015-223688A)
(43)【公開日】2015年12月14日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099047
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 淳一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敦司
(72)【発明者】
【氏名】長谷 要
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−050652(JP,A)
【文献】 再公表特許第2006/093113(JP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0292787(US,A1)
【文献】 特表2009−519839(JP,A)
【文献】 特開2014−112123(JP,A)
【文献】 特表2009−538439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 9/14
G02B 1/10
G02C 7/00
G02C 13/00
B32B 9/00
B05D 5/00
C09D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コート層が成膜されているレンズのコバを切削加工してフレームに応じた形状とする際に保持手段によって保持される前記レンズの表裏面の保持位置のずれを防止するために前記レンズの表裏面の少なくとも一方にコートするずれ防止用コート剤であって、
親水性樹脂と、パーフルオロ基を有する界面活性剤と、水に不溶な微粒子状 の透明樹脂体とを主成分とする水溶液からなり、少なくとも成膜後に透明な外観を呈することを特徴とするずれ防止用コート剤。
【請求項2】
前記微粒子状の透明樹脂体の粒径は0.1〜1.0μmであることを特徴とする請求項1に記載のずれ防止用コート剤。
【請求項3】
前記微粒子状の透明樹脂体はエマルションの分散相であることを特徴とする請求項1又は2に記載のずれ防止用コート剤。
【請求項4】
前記エマルションは水系エマルションであることを特徴とする請求項3に記載のずれ防止用コート剤。
【請求項5】
前記エマルションはエチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、アクリル−スチレン共重合体及びポリアクリルから選択される1又は2以上を分散相とすることを特徴とする請求項3又は4に記載のずれ防止用コート剤。
【請求項6】
前記界面活性剤のパーフルオロ基は分岐していることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
【請求項7】
前記界面活性剤はポリオキシエチレンエーテル基を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
【請求項8】
前記親水性樹脂はポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
【請求項9】
前記親水性樹脂はメチルセルロースであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のずれ防止用コート剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コート層が成膜されているレンズのコバを切削加工してフレームに応じた形状とする際に保持手段によって保持される前記レンズの表裏面の保持位置のずれを防止するためにレンズの表裏面の少なくとも一方にコートするようにしたずれ防止用コート剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から眼鏡レンズ等の所定のフレームに枠入れするレンズでは、前駆体となるレンズの周囲(コバ)を切削加工して削除することでレンズをそのフレームに対応する形状に加工する加工工程を備えている。
加工においては一般にレンズの表裏面からチャック装置によって挟むように保持するが、加工装置の切削刃はコバ側からレンズに接触してそのレンズを押圧するため、動摩擦係数の低いレンズを挟んでもその押圧力でチャック装置の軸位置がずれないように(つまりレンズの保持位置がずれないように)チャック先端とレンズ面との当接部位に粘着テープを貼着するようにしている。このような粘着テープによるレンズの保持位置のずれを防止する手段の一例として特許文献1を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−122302号公報
【特許文献2】特開2006−330677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズの最表面は反射防止層の最終層がSiO2層となるため、その水やけ防止としてフッ素コート層を設けることが必要であった。このフッ素コート層は近年の機能性向上により撥水性の機能に加えて、皮脂などの汚れの付着を防止する撥油性や付着した汚れを拭き取りやすくする易拭取性、拭き上げ時によりレンズ表面の抵抗を少なくする低摩擦性、埃や花粉などの粒子を寄せ付けない付着防止性のコート層が提供されている。また付着した水滴などが視認性を低下させない親水性コート層など様々なコート層が高機能性レンズとして提供されている。これら高機能性レンズを提供するために性能の安定化やコスト・生産性の都合から枠入れ前の前駆体レンズの段階でコート層を成膜させるようにすることが多い。このようなレンズは粘着剤の接着をさせないコート層や動摩擦係数が極めて低く滑りが良いコート層などがあるため、通常の粘着テープではレンズの保持位置のずれ防止が困難な場合があった。そのために、より粘着性を向上させた粘着テープを使用するという選択もあるが、コストや取り扱いの点で問題がある。また、コート層の性能の向上によってよりテープが接着しにくくなる場合や動摩擦係数がより低くなる場合もあるためテープの改良だけでは限界がある。
そのため、テープが接着しにくく動摩擦係数が低い例えば撥水コート層が成膜されているようなレンズの表裏面上に更にコートして成膜するためのずれ防止用のコート剤であって、粘着テープを貼着した例えば保持手段としてのチャック装置によってレンズの表裏面から挟んで保持して加工装置によって加工する際にチャック装置のずれが生じにくくなるものが求められている。
【0005】
このようなずれ防止用のコート剤に求められる性質としては、
1)撥水性のレンズ表面に対する表面張力を低下させて十分な濡れ性を示すこと。
2)加工においては加工部位に潤滑を兼ねて冷却水を噴霧するようにする。成膜されたコート剤は、水に不溶であると切削時に切削装置内を汚したりレンズを傷つける要因となるため水溶性であることが必要である。また水溶性であると玉型加工後のレンズより成膜されたコート剤の除去作業が有利になる。
3)フレームに枠入れする前提として加工直前にレンズメーターでアイポイント位置の度数を測定するので、透明でなければならないこと。
4)その上にコート剤でレンズをコートして加工した後でそのコート層を除去してもレンズ上の機能コートへの影響がなく撥水性に変化がないこと。
が必要条件となる。従来のレンズの加工の際のずれを防止するためのコート剤の一例として例えば、特許文献2を挙げる。但し、特許文献2は上記要件の2)を満たしていない。
このような状況において上記1)〜4)を充足し、レンズの加工の際のずれを防止できるコート剤が求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、レンズの加工の際のずれを防止できる水溶性で少なくとも硬化後に透明な外観を呈するずれ防止用コート剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために第1の手段として、コート層が成膜されているレンズのコバを切削加工してフレームに応じた形状とする際に保持手段によって保持される前記レンズの表裏面の保持位置のずれを防止するために前記レンズの表裏面の少なくとも一方にコートするずれ防止用コート剤であって、親水性樹脂と、パーフルオロ基を有する界面活性剤と、水に不溶な微粒子状の透明樹脂体とを主成分とする水溶液からなり、少なくとも成膜後に透明な外観を呈するようにしたことをその要旨とする。
【0007】
第2の手段として、前記微粒子状の透明樹脂体の粒径は0.1〜1.0μmであることをその要旨とする。
第3の手段として、前記微粒子状の透明樹脂体はエマルションの分散相であることをその要旨とする。
第4の手段として、前記エマルションは水系エマルションであることをその要旨とする。
第5の手段として、前記エマルションはエチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、アクリル−スチレン共重合体及びポリアクリルから選択される1又は2以上を分散相としたことをその要旨とする。
【0008】
第6の手段として、前記界面活性剤のパーフルオロ基は分岐していることをその要旨とする。
第7の手段として、前記界面活性剤はポリオキシエチレンエーテル基を有することをその要旨とする。
第8の手段として、前記親水性樹脂はポリビニルアルコールであることをその要旨とする。
第9の手段として、前記親水性樹脂はメチルセルロースである前記親水性樹脂はメチルセルロースである
【0009】
本発明によれば、パーフルオロ基を有する界面活性剤は親水性樹脂及びエマルションとともに水に均一に分散して水溶液となる。このような水溶液をずれ防止用コート剤として既にコート層が成膜されているレンズにコートすると、パーフルオロ基を有する界面活性剤は疎水基となるパーフルオロ基側でコート層に対して主として分子間力によって吸着される。そして、界面活性剤の親水基側は主として水素結合によって親水性樹脂を保持する。このようなコート剤によってコート層の更に上層に滑りにくい本発明のコート層が形成されることで、レンズのコバを切削加工してフレームに応じた形状とする際に保持手段によって保持されるレンズの表裏面の保持位置のずれが防止されることとなる。
また、水に不溶な微粒子状の透明樹脂体は親水性樹脂や界面活性剤と反応することなく、水溶液中に分散してコート層に弾性を与えるとともにコート層の形成において同じコート層形成条件において水に不溶な微粒子状の透明樹脂体を使用しない場合に比較して十分な層の厚みを与える(つまり嵩高になるように)ことに貢献する。このように弾性と層の厚みが増すことによって緩衝効果が向上し保持手段によって保持されるレンズのずれがより防止されることとなる。
【0010】
親水性樹脂としては、成膜後(硬化後)に透明を呈するものであれば特に種類は問わない。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロドリン(PVP)、ポリエチレングリコール、アルカリ水易溶性ポリエステル、ポリアクリル酸塩、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、尿素樹脂、澱粉、寒天、アルギン酸、カラギナン、ゼラチン等が挙げられる。これらは単一で使用しても混合して使用してもよい。
パーフルオロ基を有する界面活性剤としては、例えばパーフルオロ基が分岐した次のような示性式(化1)で示されるものが挙げられる。化1の式は分岐したパーフルオロ基の一例を示す式である。親水基としてはオキシエチレンエーテル基を有する。オキシエチレンエーテル基を有する親水性樹脂はコート層を成膜した際に柔軟性を備えているため、保持した際のチャック装置の固定化を高めることとなりこの発明のコート層として好適である。この式ではオキシエチレン基は8以上の偶数でなければならない。6以下では親水基側の分子量が相対的に疎水基に対して少なすぎて本発明の界面活性剤として妥当ではなくなる。オキシエチレン基が多すぎても相対的に疎水基に対して多すぎて本発明の界面活性剤として妥当ではなくなる。化1の界面活性剤ではオキシエチレン基は22までが妥当である。
【0011】
【化1】
【0012】
また、パーフルオロ基を有する界面活性剤の他の例として、例えばパーフルオロ基が分岐した次のような示性式(化2)で示されるものが挙げられる。この界面活性剤は化1の界面活性剤におけるオキシエチレン基の変わりにベンゼンスルホン酸エーテルを親水基としたナトリウム塩である。
【0013】
【化2】
【0014】
ここで水に不溶な微粒子状の透明樹脂体とは、例えばエマルションの分散相や中空粒子などの有機や無機の樹脂からなる粒径1nm〜1mmの水に不溶の構造体のことを示す。本発明では弾性の付与と安定した膜層の形成のために粒径は0.1〜1.0μmがよい。形状は必ずしも球状に限定されない。微粒子状の透明樹脂は乳化剤や界面活性剤により溶液中で分散状態になっており、親水性樹脂を乾燥、硬化後においてもその透明性を維持できる物質である。特に懸濁・乳化重合によって気泡を含みながら形成された微粒子状の透明樹脂は、コート層の樹脂中に分散して弾力性を与える。懸濁・乳化重合していなくとも粒子の中が空洞になっている中空粒子においてもコート層中においても弾力性を与える要素になりうるため、ここに含む概念である。
【0015】
エマルションとしては、水系エマルションがよい。分散相が疎水基と親水基を有しているのであれば分散相と分散媒だけでもよいが、乳化剤を伴っていてもよい。分散相としては例えばエチレン−酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−アクリル共重合体、アクリル−スチレン共重合体及びポリアクリルが挙げられる。これらはいずれも透明な微粒子を構成する。これらは単独でも混合して使用してもよい。分散相は分子同士が重合して内部に気泡を取り込みながら粒子を形成しており、粒子径はコート層の成膜に影響がない範囲で大きい方がコート層に弾性を与えるためにはよい。そのためコート剤の状態における分散相の粒径として0.1〜1.0程度の大きさであることが弾性の付与と安定した膜層の形成のためによい。粒径は例えば粒度分布測定装置によって測定可能である。
【0016】
本発明のずれ防止用コート剤がコートされるレンズについては、プラスチックレンズでもガラスレンズ(無機ガラス)でもどちらでも構わない。無機ガラスとしてはSiO2を主成分とするものが使用出来る。また、プラスチックとしては例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等が挙げられる。
レンズには動摩擦係数の低いコート層が成膜されることになるが、プラスチックレンズであれば一般にレンズ基材にハードコート層、反射防止層が成膜された上層にコート層が成膜されることとなり、ガラスレンズであればハードコート層は不要で反射防止層が成膜された上層にコート層が成膜される。また、レンズに反射防止層を成膜させずにコート層を成膜させるようにしてもよい。
【0017】
ここにハードコート層は、例えばオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子から構成される。そのためのハードコート液は水又はアルコール系の溶媒にオルガノシロキサン系樹脂と無機酸化物微粒子ゾルを分散(混合)させて調製される。
オルガノシロキサン系樹脂はアルコキシシランを加水分解し縮合させて得られるものが好ましい。
反射防止層は公知の蒸着法やイオンスパッタリング法等により形成される。反射防止層はプラスチックレンズではハードコート層の上層に成膜される。反射防止層は、光学理論に基づいた多層構造膜が採用される。膜材料としては、例えばSiO、SiO2、Al23、Y23、Yb23、CeO2、ZrO2、Ta25、TiO2、Nb25、インジウム含有酸化スズ(ITO)など一般的な無機酸化物を使用することができる。
反射防止層は特性の異なるこれらを材料とした薄膜を周知の手段(例えば蒸着)により定石に従って順に低屈折率層と高屈折率層を蒸着して形成される。最上層には低屈折率層が配置される。
コート層はフッ素シラン化合物や反応性シリコーンを主成分とすることができる。 コート層は非反応性溶媒に上記成分を混合させて調製した溶液を吸水層表面にディッピング法、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法などの湿式法を用いて成膜させることが可能である。また、真空蒸着法やCVD法のような乾式法用いて成膜させることも可能である。
上記非反応性溶媒はフッ素系撥水コート用としては含フッ素溶剤が挙げられ、シリコーン系撥水コート用としてはヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤性溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤等が挙げられる。コート層の厚さは1〜20nm、好ましくは防汚性の向上のためにある程度の厚みを有するように形成が好ましい。防汚性に優れた高機能性レンズとしては、水接触角105度以上、動摩擦係数0.20以下であると汚れが付きにくく、また付着した汚れが拭き取りやすいコート層として位置づけられている。
【発明の効果】
【0018】
本発明のずれ防止用コート剤によれば、コート層が成膜されているレンズの表裏面を粘着テープを貼着した保持手段によって挟んで保持する際に使用することで、このレンズを加工装置によって加工する際に、レンズの粘着テープによって保持した保持位置がずれにくくなる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明について、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例1では水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(重合度2000、けん化度98.5mol%以上,日本合成化学工業株式会社製)を使用した。また実施例1では界面活性剤としてフタージェント251(株式会社ネオス社製)を使用した。フタージェント251はフッ素系界面活性剤である。フタージェント251の主成分は上記化1の式で示される示性式においてn=8のフッ素系界面活性剤である。更にエマルションとして粒径約0.6μmのエチレン−酢酸ビニル共重合体(住化ケムテックス株式会社製)を分散相とするものを使用した。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水77.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後にソルミックスAP−7(組成:エタノール85.5重量%、プロピルアルコール14.5重量%、水0.2重量%以下、日本アルコール株式会社製)を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
【0020】
B[レンズについて]
ハードコート層及び反射防止層をそれぞれ成膜させた屈折率1.6、アッベ数40の光学特性を有するS度数−3.00D,C度数−1.00Dのプラスチックレンズに、次のようにコート層を成膜させた。コート層は、シラノール基と反応して化学結合するフッ素化合物を含んだ蒸着材料(キャノンオプトロン株式会社製「SURFCLEAR100」)を用いて抵抗加熱方式にて反射防止層が形成されたレンズ基体上にコートするようにした。このコート層の水接触角は、2.5μLの水滴を防汚層に付着させて測定し、その平均値を求めたところ、117°であった。
尚、以下の実施例及び比較例ではすべて同じレンズを使用した。
【0021】
C[ずれ防止用コート剤によるレンズへの成膜について]
ずれ防止用コート剤にプラスチックレンズを室温で浸漬を行い、引上げ速度100mm/min.にてレンズ全面に成膜した。予め50℃に保たれたオーブンにて乾燥を30分行い、樹脂溶液を硬化した。
尚、以下の実施例ではすべて同様に成膜した。
【0022】
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0023】
実施例2
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例2では水溶性樹脂として実施例1と同じポリビニルアルコールを使用した。また、エマルションも実施例1と同じエチレン−酢酸ビニル共重合体を分散相とするものを使用した。
一方、実施例2ではフッ素系界面活性剤としてメガファックF−444(DIS株式会社製)を使用した。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水77.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0024】
実施例3
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例3では水溶性樹脂として実施例1と同じポリビニルアルコールを使用した。また、界面活性剤は実施例2と同じメガファックF−444を使用した。
また、実施例3ではエマルションとして粒径約0.5μmの酢酸ビニル−アクリル共重合体(DIC株式会社製)を分散相とするものを使用した。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水77.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0025】
実施例4
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例4では水溶性樹脂として実施例1と同じポリビニルアルコールを使用した。また、界面活性剤は実施例2と同じメガファックF−444を使用した。
また、実施例4ではエマルションとして粒径約0.3μmのアクリル−スチレン共重合体(DIC株式会社製)を使用した。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水77.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0026】
実施例5
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例5では水溶性樹脂として実施例1と同じポリビニルアルコールを使用した。また、界面活性剤は実施例2と同じメガファックF−444を使用した。
また、実施例5ではエマルションとして粒径約0.3μmのポリアクリル(DIC株式会社製)を分散相とするものを使用した。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水77.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0027】
実施例6
A[ずれ防止用コート剤について]
実施例6では水溶性樹脂としてメトローズ(信越化学株式会社製)を使用した。メトローズの主成分はメチルセルロースである。
また、実施例6では界面活性剤として実施例1と同じフタージェント251を使用した。また、実施例6ではエマルションとして実施例1と同じエチレン−酢酸ビニル共重合体を分散相とするものを使用した。
上記水溶性樹脂1.5重量%を室温(25℃)において水85.95重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%,上記エマルションを2.5重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
B及びCは省略
[評価結果]
結果を表1にまとめた。
【0028】
比較例1
A[ずれ防止用コート剤について]
比較例1では水溶性樹脂として実施例1と同じポリビニルアルコールを使用した。
また、比較例1では界面活性剤としてフタージェント251を使用した。エマルションは使用しなかった。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水79.95重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
Bは省略
C[ずれ防止用コート剤によるレンズへの成膜について]
上記実施例と同じ条件で引上げ速度のみ130mm/min.にて成膜した。
[評価結果]
結果を表2にまとめた。
【0029】
比較例2
A[ずれ防止用コート剤について]
比較例2でも水溶性樹脂として実施例1〜5及び比較例1と同じポリビニルアルコールを使用した。
また、比較例2では界面活性剤としてフタージェント251を使用した。エマルションは使用しなかった。
上記水溶性樹脂12.0重量%を室温(25℃)において水77.95重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
Bは省略
C[ずれ防止用コート剤によるレンズへの成膜について]
上記実施例と同じ条件で引上げ速度のみ200mm/min.にて成膜した。
[評価結果]
結果を表2にまとめた。
【0030】
比較例3
A[ずれ防止用コート剤について]
比較例3でも水溶性樹脂として実施例1〜5及び比較例1、2と同じポリビニルアルコールを使用した。
また、比較例3では界面活性剤としてメガファックF−444を使用した。エマルションは使用しなかった。
上記水溶性樹脂10.0重量%を室温(25℃)において水79.95重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
Bは省略
C[ずれ防止用コート剤によるレンズへの成膜について]
上記実施例と同じ条件で引上げ速度のみ130mm/min.にて成膜した。
[評価結果]
結果を表2にまとめた。
【0031】
比較例4
A[ずれ防止用コート剤について]
比較例4では水溶性樹脂として実施例6と同じメトローズを使用した。
また、比較例4では界面活性剤としてフタージェント251を使用した。エマルションは使用しなかった。
上記水溶性樹脂1.5重量%を室温(25℃)において水88.45重量%に溶解させ、この樹脂水溶液に上記フッ素系界面活性剤を0.05重量%混合して十分に撹拌し、最後に実施例1と同様にソルミックスAP−7を10.0重量%添加してずれ防止用コート剤を作製した。
Bは省略
C[ずれ防止用コート剤によるレンズへの成膜について]
上記実施例と同じ条件で引上げ速度のみ130mm/min.にて成膜した。
[評価結果]
結果を表2にまとめた。
【0032】
性能評価方法について
(a)成膜外観について
硬化後の光学レンズ表面に塗布している保護膜の外観を目視によって検査し、塗り斑や膜厚にしたときの状態について評価した。評価基準は次の通りである。
◎:レンズ全体に成膜されており、厚い膜を成膜しても外観が良好である。
○:レンズ全体に成膜されている。
△:保護膜が部分的に剥がれてしまっている。
×:保護膜が成膜されていない
ここに、◎と○は使用にまったく問題がない膜状態であり、特に◎は厚膜化してもレベレング性が維持され、きれいに成膜できる非常に良好な状態である。成膜外観のよさは玉型加工評価と連動する傾向である。
(b)玉型加工評価について
レンズの光学中心にレンズ加工用両面テープ(住友3M株式会社製LEAPIIIテープ)を貼り付ける。その後チャック装置を備えた玉摺り加工機(株式会社NIDEK製 LE−9000SX)を用いてレンズの玉型加工を行った。玉型加工前後の光学中心における軸ずれと中心ずれ量を評価した。
◎:軸ずれ、中心ずれなし
○:軸ずれ2°以内でかつ、中心ずれ1mm以内
△:軸ずれ2〜5°以内でかつ、中心ずれ1〜2mm以内
×:軸ずれ5°以上、もしくは中心ずれ2mm以上
(c)透明性
保護膜を成膜した光学レンズをレンズメーター(株式会社NIDEK製 LM−990A)にて度数測定を行った。樹脂膜の形成前後における光学中心の位置及び度数がほぼ同一であるか評価した。
○: 光学中心の位置が1mm以内であり、度数が±0.05D以内であった。
×: 光学中心の位置が1mm超過もしくは、度数が±0.05D超過であった。
【0033】
評価結果によれば、実施例1〜6ではいずれも成膜外観は概ね良好であった。結果から水溶性樹脂としてポリビニルアルコールを使用し、エマルションとしてはエチレン−酢酸ビニル共重合体を分散相とするものが同じ条件で最も膜厚を厚くすることができ外観もよいことがわかる。
玉型加工評価については実施例1〜3は概ね良好であったが実施例4〜6は若干劣るものの、使用可能範囲であった。玉型加工評価について実施例4〜6が若干劣る結果となった原因は膜厚が実施例1〜3に比べ薄いことに起因すると考えられる。また、いずれも概ね均一な厚みの良好な成膜結果が得られた。特に、実施例1〜3は膜厚も十分であり、その結果コート層に十分なクッション性が発現できたため軸ずれ及び中心ずれがなく、良好な加工ができた。実施例4〜6では膜厚は実施例1〜3ほどではないもののエマルションのクッション性によってまずまず軸ずれ及び中心ずれがなく加工ができた。また、実施例1〜6ではいずれも透明性も良好であった。
一方、比較例では膜厚を厚くしていくと成膜外観を損なうこととなり、特に15μmに設定した比較例2では成膜外観の均一性がなかった(厚い薄いが顕著)。成膜外観に均一性がないと薄い部分に負担がかかって軸ずれ及び中心ずれの原因となり、また微妙ではあるがレンズメーターでの度数測定にも影響を与えることとなる。これはエマルションがないため、膜厚を厚くした際の膜の均一性に欠けることが原因であると考えられる。
また、比較例では実施例と同じ条件でいずれも玉型加工評価はよくなかった。例えば、成膜外観が良い比較例1では膜厚も実施例と遜色がない10μmであるが玉型加工評価はよくない。つまり、比較例ではエマルションを使用していないため、実施例と比較してエマルションのクッション性が期待できなかったためと考えられる。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】