(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286710
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】暗渠排水管洗浄装置
(51)【国際特許分類】
B08B 9/032 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
B08B9/032
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-58961(P2014-58961)
(22)【出願日】2014年3月4日
(65)【公開番号】特開2015-167945(P2015-167945A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年6月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】303040622
【氏名又は名称】川崎建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川崎 宏
【審査官】
村山 睦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−058904(JP,A)
【文献】
特開2007−029807(JP,A)
【文献】
特開平09−112782(JP,A)
【文献】
実開昭53−102510(JP,U)
【文献】
特開平10−122500(JP,A)
【文献】
実開昭48−100466(JP,U)
【文献】
特公昭43−028582(JP,B1)
【文献】
特開2011−016084(JP,A)
【文献】
特開昭57−180474(JP,A)
【文献】
特表平10−500906(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 9/032
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置検出手段及び管内洗浄手段を備えた暗渠排水管洗浄装置において、該位置検出手段は電磁波発信手段及び電磁波受信手段を備えており、電磁波発信手段は高圧の洗浄水を送る高圧ホース及び該高圧ホースの先端に設けられた機能部本体から成り、機能部本体は該機能部本体の先端に備えられたカメラと、洗浄水を後方に噴射して推進する噴射ノズルと、電磁波発信手段とを備え、電磁波受信手段は地表において電磁波発信手段の電磁波を受信することにより該機能部本体の位置を特定する手段を有し、管内洗浄手段は、暗渠排水管に突き刺し切開する掘削手段と、該管内に高圧洗浄水を噴射する洗浄手段を備え、該掘削手段は、下向きの先端側に先端が尖った円錐又は角錐状の切開手段を有した棒状の掘削棒で成り、該洗浄手段は、前記掘削棒が軸心部が中空の管で成り元部側に高圧水注入口を有し、かつ該切開手段に続く元部側に、一又は複数の、軸心より外側に傾斜させて斜め前方に向かう高圧水噴射口を備えて成る、ことを特徴とする暗渠排水管洗浄装置。
【請求項2】
前記切開手段が、管状剛体下端部、中間部材、円錐状剛体で構成され、前記管状剛体先端側に軸心下方に頂点を向けた基部が管状剛体直径より適宜小さい直径の円柱部とで成る円錐状剛体を設け、該円錐状剛体の円柱部の上面端と前記管状剛体下端部との間に円柱部直径よりさらに小径の頂点下向きの円錐台又は円柱形状の中間部材を設け、該中間部材に一又は複数の、軸心より外側に傾斜させて斜め前方に向かう高圧水噴射口を備えたことを特徴とする請求項1に記載の暗渠排水管洗浄装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
地下に埋設した暗渠排水管内に堆積した土砂を除去する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
農地には余剰な土壌水分を排出するため暗渠排水管が敷設される。それらの管は、管壁の目詰まりや管内の土詰まりなどにより排水機能が低下すると、新たな管を再敷設する必要があり経済的負担となる。このため検査・洗浄による暗渠排水管の保全の工事が行われる。
農業用暗渠排水管には、透水性のある素焼き土管や管壁に孔が開いた樹脂管がある。
図1に示すように、農地又は圃場Aでは、作土層Bの下部に水の浸透性がよい砕石や貝殻、籾殻などから成る疎水材層Cを敷設し、暗渠排水管30はその最下部、地下約80cmのところに埋設される。この管は
図2に示すように集水管とも呼ばれる幹管30aから分岐させる形で吸水管とも呼ばれる分岐管30bが敷設されており、排水口から分岐管端末までの長さは300m以上になることもある。排水管の直径は、50〜100mm、作土層は圃場によって異なるが15〜20cm、疎水材層は45〜60cmである。(非特許文献1参照)。
本技術分野に係る従来技術として、上記の暗渠排水管の管内の状況を検査し管内洗浄を行う筆者らの試みがある。(非特許文献1参照)。このシステムの構成は、
図3、
図4に示すように、管内を挿通する高圧水ホースの先端に機能部本体を設けて構成され、この機能部本体は、噴射ノズルの先端に内視カメラを備え、カメラが捉えた管内映像を地上で観測しながら制御する。高圧水噴射ノズルから噴出する洗浄水の推進力で管内を進行する。機能部本体に接続される制御用信号ケーブルの一つの線に高周波信号を流し、それを専用の器具により補足し機能部本体位置の計測を行うとしている。
また、関連して、筆者らの内視機能等を備えた方向制御可能な小径管内の洗浄装置(特許文献1参照)や管内に挿入した自走推進装置の長距離延伸化を目的とした推進工法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−58904号公報
【特許文献2】特開2007−29807号公報
【0004】
【非特許文献1】地方独立行政法人北海道立総合研究機構工業試験場 成果発表会要旨集2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1及び、特許文献1、2のシステムによれば、高圧水ホース先端の機能部本体が管内に堆積した土砂の位置に到達しその位置が計測されたとして、噴射ノズルの噴射水で洗浄が不可能な場合は、
図5に示すように、作土を掘り起こして、管を洗浄して管を補修し埋め戻す工事が行われる。この際、管を覆っている土の開削に手間がかかり、圃場を痛め土壌構造を破壊し、作物がある場合は重機の乗り入れができないなどの課題がある。
本発明は上記のような従来技術の問題点に鑑みて、これらの課題を解決する装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、
地下に埋設した暗渠配水管内の敷設位置を
地表で検出する位置検出手段、
及び管内に堆積した土砂を洗浄する管内洗浄手段を備えた暗渠排水管洗浄装置において、
該位置検出手段は電磁波発信手段及び電磁波受信手段を備えており、電磁波発信手段は高圧の洗浄水を送る高圧ホース及び該高圧ホースの先端に設けられた機能部本体から成り、機能部本体は該機能部本体の先端に備えられたカメラと、洗浄水を後方に噴射して推進する噴射ノズルと、電磁波発信手段とを備え、電磁波受信手段は地表において電磁波発信手段の電磁波を受信することにより該機能部本体の位置を特定する手段を有し、
管内洗浄手段は、暗渠排水管に突き刺し切開する掘削手段と、該管内に高圧洗浄水を噴射する洗浄手段を備え、
該掘削手段は、下向きの先端側に先端が尖った円錐又は角錐状の切開手段を有した棒状の掘削棒で成り、該洗浄手段は、前記掘削棒が軸心部が中空の管で成り元部側に高圧水注入口を有し、かつ該切開手段に続く元部側に、一又は複数の、軸心より外側に傾斜させて斜め前方に向かう高圧水噴射口を備えて成る、ことを特徴とする暗渠排水管洗浄装置とする。
【0007】
また、前記切開手段が、管状剛体下端部、中間部材、円錐状剛体で構成され、前記管状剛体先端側に軸心下方に頂点を向けた基部が管状剛体直径より適宜小さい直径の円柱部とで成る円錐状剛体を設け、該円錐状剛体の円柱部の上面端と前記管状剛体下端部との間に円柱部直径よりさらに小径の頂点下向きの円錐台又は円柱形状の中間部材を設け、該中間部材に一又は複数の
軸心先端方向から外側に傾斜して斜め前方に向かう高圧水噴射孔を備えたことを特徴とする暗渠排水管洗浄装置とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、掘削棒を暗渠排水管に突き刺すなどの工事のみで地上での作業範囲は一部で済むため、圃場の広範囲な開削が不要であって、この範囲の土壌構造の破壊は少なく、作物があっても被害は最小限に留めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】暗渠排水管の検査・洗浄に係る工事全体の説明図である。
【
図8】本発明の掘削棒のその他の例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図を用いて本発明を実施する形態を詳細に説明する。
図3に圃場Aの地下に埋設された暗渠排水管30の状況が、部分の断面図で示す。ここでは幹管30a、これに分岐する分岐管30bが示され、幹管の排水側先端30aeが圃場法面Dから露出し、法面の下側に排水溝Eがある場合の状況を示す。
【0011】
地下に埋設した暗渠配水管内の敷設位置を地表で検出する位置検出手段は、電磁波発信手段と電磁波受信手段を備える。
電磁波発信手段は、高圧の洗浄水を送る高圧水ホース11及び高圧ホースの先端に設けられた機能部本体10から成る。
機能部本体10が幹管の排水側先端30aeから挿入されて、機能部本体10の一部を構成する噴射ノズル12から洗浄水を噴射して噴射水Gの推進力で管内を推進し、噴射水によって管内に堆積した土砂等は排水側先端30aeから排水溝Eに流れ出る。機能部本体10は、後述のように、カメラを先端に備え、カメラの映像を観察して進行方向を制御できるようにしているので、幹管30aから分岐管30bに進行していくことができる。高圧水ホース11の元部はこの例では、トラック21で移動できるホース巻き取り装置22、高圧ポンプ23に繋がれ、洗浄水は水タンク24から供給される。図には操作する人員の配置の例が示され、機能部本体に備えられたカメラ映像をモニター25で監視しながら操作する。
【0012】
図4に高圧水ホース先端側に設けられる機能部本体10部分の構成を示す。
機能部本体10は、後述のようにカメラ13と噴射ノズルと、電波発信手段とを備える。
機能本体10は、照明14を備えたカメラ13を先端に配し、首振りと称する進行方向を制御する機構部15、洗浄水を後方に噴射して推進する噴射ノズル16を有する。
電波発信手段として、制御機構部15には制御用信号ケーブル17が繋がれ配線の一つに電磁波信号を流して電磁波発信装置18を構成する。
【0013】
つぎに電磁波受信手段について説明する。電磁波受信手段は地表において前記電磁波発信手段の電磁波を受信することにより機能部本体10の位置を特定する。
図5に従来の分岐管の管内堆積土砂の除去工事の状況を示す。機能部本体10に繋がれた信号ケーブル17に電磁波信号を流して電磁波を発信し、地表での電磁波受信装置19により機能部本体の位置を観測し、
カメラの映像で管内の土砂堆積の位置を特定する。この管位置を覆っている土を開削して管を切開し堆積土砂Fを手作業で除去する。その後管を補修して土を埋め戻す。
この方法は、覆っている土の開削に手間がかかり、効率の低下、施工費の増加となる。また、圃場を傷め土壌構造の破壊となる。また、作物がある場合には、開削範囲の作物は売り物にならなくなるため、重機の乗り入れ自体ができないなどの課題がある。
【0014】
これに対し、
図6及び図7に本発明の管内堆積土砂の
除去を行う、管内洗浄手段を説明する。
管内洗浄手段は、暗渠排水管に突き刺し切開する掘削手段と、管内に高圧洗浄水を噴射する洗浄手段を備える。
掘削手段は下向きの先端側に先端が尖った切開手段2dを有した棒状の掘削棒で成る。
さらに、掘削棒2は、
管内洗浄手段として、先端側と逆の元部側に高圧水注入口2bを備えた軸心部が中空の軸心部水路2cを有する管状剛体2pで成り、先端側の切開手段に続く基部側に一又は複数の高圧水噴射孔2aを備える。図では2個の高圧水噴射孔2aを示した。高圧噴射2aの向きは図に示すように、
軸心より外側に傾斜させて斜め前方に向けて設けるのがよい。本発明の実施の例として、管内洗浄補助装置1は、掘削棒2と携帯ができる大きさの携行ポンプ3及び水タンク5で構成される。
本例での切開手段は先端が尖った円錐形構造で示しているが、三角錐や四角錐などの形状であってもよい。また、掘削棒2には方向を定める翌を有する構造や、回転による掘削推進機能を有する螺旋構造を有してもよい。この場合は、掘削棒の上部に人の操作による回転用のハンドルを設けるのが好ましい。また、掘削棒2の上部には高圧水噴射孔2aの開口方向を示す方向指示機能を適宜備えるのが好ましい。
【0015】
図6を用いて、本発明の管内堆積土砂の除去工事の状況を説明する。まず、
電磁波発信手段として、機能部本体10に繋がれた制御用信号ケーブル17に電磁波信号を流して電磁波を発信し、
電磁波受信手段として、地表での電磁波受信装置19により機能部本体の位置を観測し、管内の土砂堆積の位置を特定する。つぎに掘削棒2の上端を押圧したり殴打して、掘削棒2を測定した位置の特定箇所に突き刺し、作土と疎水材を通して排水管に当接し管を切開して、高圧水噴射孔2aが管の敷設方向にかつ管内に位置するように貫通させる。その後、携行ポンプ3のホース4を高圧水注入口2bに繋いで高圧水噴射孔2aから高圧洗浄水を噴射して噴射水Hで、機能部本体10による噴射との相互作用により管内堆積土砂Fを軟化させ、洗浄、除去する。洗浄水は水タンク5により供給する。管内の堆積土砂の除去後の状況は、先の機能部本体30のカメラ13による映像をモニター25で観察する。
【0016】
つぎに、
図7で示した掘削棒2における切開手段の他の例を示す。
図8で示すように、本例の切開手段2dは、管状剛体2pの下部に備えた管状剛体下端部2pe、中間部材2h、先端側に設ける円錐状剛体2dtで構成される。管状剛体の下端部2peの角は曲面で形成するのがよい。管状剛体の先端側に、軸心下方に頂点を向けた、基部が管状剛体2pの直径より適宜小さい直径の円柱部とで成る円錐状剛体2dtを設ける。円錐状剛体2dtの円柱部の上面端2deと前記管状剛体下端部2peとの間に円柱部直径よりさらに小径の円柱又は頂点下向きの円柱台形状の中間部材2hを設ける。中間部材には図に示すように高圧噴射孔2aを設け軸心部水路2cからの高圧水を噴射する。高圧噴射孔2aは、
軸心より外側に傾斜させて斜め前方に向けて設けるのがよい。図では1個の高圧噴射孔2aの場合を示した。
【0017】
この例の使用方法についてつぎに説明する。
図7の例と同様に、本例の、掘削棒2の上端を押圧したり殴打して、掘削棒2を測定した位置の特定箇所に突き刺し、作土と疎水材を通して排水管を切開して、高圧噴射孔の方向を敷設方向に合わせて管内に挿入される。この際、まず、円錐状剛体2dtが排水管を切開して管内に進入し、その後、より小径の中間部2hを通過した後、管開口部外面がより大径の管状剛体下端部2peに当接するので、この時が適切な掘削棒位置として認識されることが期待される。つぎに、高圧水噴射孔2aから高圧洗浄水を噴射して洗浄、除去する。この後、掘削棒を上方に引き抜く作業に入るが、
図8において、掘削棒を上方に移動したとき、管の開口端部30heが円柱部の上面端2deに当接し、さらに上方に移動すると、開口端部30heが管の外側にめくり上がって、このことが開口部を塞ぐ要素となり、これによって開口した排水管の修復として期待される。
本発明によると、管内土砂堆積箇所周辺の広範な土の開削が不要なため、重機を入れず、開削に手間をかけず、土壌構造の破壊、作物の損傷を最小限にできる。
【符号の説明】
【0018】
1 管内洗浄補助装置
2 掘削棒
2a 噴射孔
2b 高圧水注入口
2c 軸心部水路
2d 切開手段
2h 中間部
2de 円柱部上面端
2pe 管状剛体下端部
3 携行ポンプ
4 高圧水ホース
5 水タンク
10 機能部本体
11 高圧水ホース
12 噴射ノズル
13 カメラ
14 照明
15 制御機構部
16 噴射ノズル
17 制御用信号ケーブル
18 電磁波発信装置
19 電磁波受信装置
21 トラック
22 ホース巻き取り装置
23 高圧ポンプ
24 水タンク
25 モニター
30 暗渠排水管
30a 幹管
30b 分岐管
30ae 排水側先端
A 圃場
B 作土層
C 疎水材層
D 法面
E 排水溝
F 管内堆積土砂
G 噴射水
H 噴射水