特許第6286717号(P6286717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286717
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】オフショア掘削または生産船
(51)【国際特許分類】
   B63B 35/44 20060101AFI20180226BHJP
   B63B 21/16 20060101ALI20180226BHJP
   B63B 21/20 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B63B35/44 D
   B63B21/16
   B63B21/20 Z
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-536113(P2015-536113)
(86)(22)【出願日】2013年10月9日
(65)【公表番号】特表2015-531330(P2015-531330A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2013071052
(87)【国際公開番号】WO2014056982
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年9月6日
(31)【優先権主張番号】12188166.8
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503220392
【氏名又は名称】ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】フラスブルーム, マーティン ピーテル
(72)【発明者】
【氏名】ブーステン, ヨルン
(72)【発明者】
【氏名】ボスマン, リゴベル
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/107939(WO,A1)
【文献】 特表2009−527408(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/104310(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/44
B63B 21/16 − 21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラットフォームと、それに取り付けられた係留システムとを含み、前記係留システムが、
i.ウインチドラムが搭載された支持フレームと、
ii.前記プラットフォームを海洋底に係留させるための、第1の部分および第2の部分を含む係船索と
を含み、前記第1の部分が前記ウインチドラムによって繰入れおよび繰出しされ、前記第2の部分が海洋底に固定される、オフショア掘削または生産船であって、
前記係船索が高強度ポリオレフィン繊維を含む単一長さの係船索であり、前記係船索の第1の部分が単位長さ当たり第1の質量(M1)のポリオレフィン繊維を有し、前記係船索の第2の部分が単位長さ当たり第2の質量(M2)のポリオレフィン繊維を有し、M1/M2比が1よりも大きく、前記第1の部分が前記係船索のテーパー状部分を介して前記第2の部分まで連続的に延在することを特徴とする船。
【請求項2】
前記第1の部分が実質的に前記ウインチドラムから最大で1メートル延在する、請求項1に記載の船。
【請求項3】
前記第2の部分が実質的に水位線よりも少なくとも100メートル下方から延在する、請求項1または2に記載の船。
【請求項4】
前記M1/M2比が1.3〜3.0の間である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の船。
【請求項5】
前記係船索の第1の部分が少なくとも1.3kN/(g/m)の比強度を有する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の船。
【請求項6】
前記係船索の第2の部分が少なくとも1.5kN/(g/m)の比強度を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の船。
【請求項7】
前記第1の部分の比強度前記第2の部分の比強度に対する比率が0.50〜0.98の間である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の船。
【請求項8】
前記ポリオレフィン繊維が、ポリプロピレンまたはポリエチレンのホモポリマーまたはコポリマーから製造された繊維である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の船。
【請求項9】
前記ポリオレフィン繊維が超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)繊維である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の船。
【請求項10】
前記ポリオレフィン繊維が少なくとも0.5GPaの引張強度を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の船。
【請求項11】
前記ポリオレフィン繊維が0.5〜20の範囲のデニールを有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の船。
【請求項12】
前記ポリオレフィン繊維が、オレフィン分枝(OB)を含むと共に伸長応力(ES)を有するUHMWPEを紡糸することによって得られるクリープ最適化UHMWPE繊維であり、炭素原子1000個当たりの前記オレフィン分枝の数(OB/1000C)と前記伸長応力(ES)の比率
【数1】

が少なくとも0.2であり、前記UHMWPE繊維が、70℃の温度で600MPaの負荷を受けたときに、少なくとも90時間、好ましくは少なくとも100時間のクリープ寿命を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の船。
【請求項13】
コイル状に巻かれた状態で前記ウインチドラムが前記係船索の第1の部分のいくつかの層を含むように、前記ウインチドラムがヘリカル巻きを作るための幅を有し、ロープのヘリカル巻き間の間隔が前記係船索の第1の部分の直径の少なくとも0.5倍である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の船。
【請求項14】
高強度ポリオレフィン繊維を含む単一長さの係船索であって、
前記単一長さの係船索が第1の部分および第2の部分を有し、前記係船索の第1の部分が単位長さ当たり第1の質量(M1)のポリオレフィン繊維を有し、前記係船索の第2の部分が単位長さ当たり第2の質量(M2)のポリオレフィン繊維を有し、
M1/M2比が1よりも大きく、前記第1の部分の比強度の前記第2の部分の比強度に対する比率が0.50〜0.98の間であり、前記第1の部分が係船索のテーパー状部分を介して前記第2の部分まで連続的に延在する、係船索。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、プラットフォームと、それに取り付けられた係留システムとを含み、前記係留システムが、
i.ウインチドラムが搭載された支持フレームと、
ii.前記プラットフォームを海洋底に係留させるための、第1の部分および第2の部分を含む係船索と
を含み、前記第1の部分が前記ウインチドラムによって繰入れおよび繰出しされ、前記第2の部分が海洋底に固定される、生産プラットフォームとも呼ばれるオフショア掘削または生産船に関する。
【0002】
本発明はさらに、上記のものなどの係留システムおよび係船索に関する。
【0003】
オフショア掘削または生産船は本質的に、石油およびガスのオフショア探査、掘削および生産において使用される巨大な浮遊船である。広い意味では、典型的なオフショア掘削または生産船は、一般に、少なくとも2つの大型ポンツーンハル(pontoon hull)を含み、これは、水に浮遊して、種々の掘削、探査または生産装置を含有するデッキを有するプラットフォームを支持する。船は海洋底に係留または固定されなければならず、通常、その角はそれぞれ少なくとも1つの固定のための係留システムを含有し、多くの場合、前記システムは、通常水位線よりも上方で、前記プラットフォームのデッキ上またはその付近に配置される。この位置では、前記係留システムに含有される係船索は、デッキから海底まで延在する。
【0004】
オフショア掘削または生産船などの大型船を固定するための通常の係留システムには基本的に、(1)大直径ワイヤロープを使用してアンカーを上昇および下降させる係留ウインチ、(2)大型の鎖を使用してアンカーを上昇および下降させる係留ウインドラス、ならびに(3)ウインチおよびウインドラスの両方を含有し、ワイヤロープおよび鎖を併用してアンカーを上昇および下降させる併用係留システムの3つのタイプがある。
【0005】
さらに、重くて大直径のワイヤロープまたは鎖の代わりに、高性能ポリエチレン繊維(例えば、DSM Dyneema,NLにより販売)から製造されたロープなどの合成ロープを係船索として使用することは周知である。合成係船索は、例えば、国際公開第2007/096121号パンフレットから知られており、これは、ロープの複数の種々のセグメントまたはモジュールを含み、種々のセグメントは、異なる組成の合成繊維を有する。このような係船索は、水流、風または波により発生するオフショア船の上下運動によって誘発される種々の応力をうまく緩和する。
【0006】
係船索は、使用に適するために一連の厳しい要求を履行する必要があり、この要求は、係船索が動作する環境によって決まる。例えば、その推定運用年数は、特定の場所に一時的に配置されるオフショア船(例えば、探査または掘削オフショア船)については通常少なくとも5年であり、生産において使用される船については25年を超える。他の要求では、係船索はその破壊強度の約20%の負荷で動作しなければならないこと、そして破壊に対する設計耐用年数を通してその安全率が3x〜10xの間の範囲でなければならないことが規定される。このような大きい安全率(係留モバイルプラットフォームについては通常3であり、長期係留については5〜8の間である)は通常、係船索が過剰設計される必要があることを意味する。
【0007】
オフショア船のための係船索として合成ロープを使用することの不都合は、特に水位線よりも上方での高温、摩耗および他のタイプの損傷などのかなり厳しい環境においてこれらに作用する因子に対するその応答が穏やかなことである。特に、プラットフォームのデッキから海底まで延在する係船索は、異なる特徴を有する異なる環境に同時にさらされる(例えば、少数を例に挙げると、水位線よりも上方では、高温および損傷確率の増大、そして水位線よりも下方では、低温および塩水または腐食環境)。これらの差異を緩和するために、国際公開第2007/096121号パンフレットは、特定の環境に対して調整されたモジュールを有するモジュラー係船索、すなわち、水位線よりも上方で使用するための鎖部分と、水位線の直下の環境のための第1の低伸長合成繊維から作られたモジュールと、大深度のための高強度ポリエチレン繊維を用いるモジュールとを含む係船索を使用することを提唱している。
【0008】
国際公開第2007/096121号パンフレットの係船索は、厳しい要求の大部分を上手く緩和するが、さらに改善することが可能である。特に、いくつかのオフショア船については、モジュラー係船索を含有する係留システムを有することが望ましくないこともある。従って、本発明の目的は、モジュールを必要とせずに係船索が動作する異なる環境によって課せられる要求を緩和することができる係船索を含む係留システムを有するオフショア船を提供することであり得る。
【0009】
本発明は、プラットフォームと、それに取り付けられた係留システムとを含み、前記係留システムが、
i.ウインチドラムが搭載された支持フレームと、
ii.前記プラットフォームを海洋底に係留させるための、第1の部分および第2の部分を含む係船索と
を含み、前記第1の部分が前記ウインチドラムによって繰入れおよび繰出しされ、前記第2の部分が海洋底に固定される、オフショア掘削または生産船を提供しており、係船索は、高強度ポリオレフィン繊維を含む単一長さの係船索であり、係船索の第1の部分は単位長さ当たり第1の質量(M1)のポリオレフィン繊維を有し、係船索の第2の部分は単位長さ当たり第2の質量(M2)のポリオレフィン繊維を有し、M1/M2比は1よりも大きく、前記第1の部分は、係船索のテーパー状部分を介して前記第2の部分まで連続的に延在する。
【0010】
本発明のオフショア船は、通常の風、波および水流の影響に対して良好な動的応答を有することが観察された。また、係留システムの存在、特に、本発明に従って使用される単一長さのテキスタイル係船索の存在のために、より容易な検査および保守が利用され得る。単一長さの係船索とは、本明細書では、前記ウインチドラムによって繰入れおよび繰出しされる係船索の部分も含めて、少なくともウインチと海底との間の長さに等しい連続長さを有する非断続係船索であると理解される。本発明によると、非断続係船索は連続ラインであり、例えば接続手段(例えば、リング、フック、シャックル、ノットなど)によって導入されるものなどの、例えばその構造中の中断または妨害はその長さに沿って全く存在しない。
【0011】
本発明に従って使用される係船索は第1の部分および第2の部分を有し、前記第1の部分は前記ウインチドラムによって繰入れおよび繰出しされ、前記第2の部分は海洋底に固定される。前記第1の部分は、単位長さ当たり第1の質量(M1)の高靱性ポリオレフィン繊維を有し、前記第2の部分は、単位長さ当たり第2の質量(M2)の高靱性ポリオレフィン繊維を有する。好ましくは、前記第1の部分は実質的に、水位線よりも最大で10メートル下方まで、より好ましくは水位線よりも最大で5メートル下方まで、さらにより好ましくは水位線よりも少なくとも5メートル上方、最も好ましくはウインチドラムから最大で1メートル延在する。好ましくは、前記第2の部分は実質的に、水位線よりも少なくとも10メートル下方、より好ましくは水位線よりも少なくとも50メートル下方、最も好ましくは水位線よりも少なくとも100下方から延在する。水位線は、本明細書では、通常の条件下で海水が到達するレベルを示す仮想的な線であると考えられ、潮流の影響を受ける場所では、水位線は水が到達する最高レベルであると理解される。
【0012】
M1/M2比は1.0よりも大きく、好ましくは、前記比は少なくとも1.1であり、より好ましくは少なくとも1.2、最も好ましくは少なくとも1.3である。本発明の利点は、このような好ましい比が使用される場合により顕著であることが観察された。実用的な理由から、前記比は最大で5.0、最も好ましくは最大で4.0、最も好ましくは最大で3.0である。
【0013】
高靱性ポリオレフィン繊維の第1および第2の質量(M1およびM2)は、好ましくは、本発明のオフショア船が動作する場所を十分に考慮して選択される。
【0014】
好ましい実施形態では、前記プラットフォームは、水位線よりも上方の環境の温度が少なくとも15℃、より好ましくは少なくとも20℃、最も好ましくは少なくとも25℃である環境において動作し、前記温度は、例えば、その特定の場所の気象通報を配信する測候所により報告されるような通常の天候条件下で測定される。好ましくは、係船索の第1の部分は、少なくとも0.80、より好ましくは少なくとも1.00、さらにより好ましくは少なくとも1.15、より好ましくは少なくとも1.30、最も好ましくは少なくとも1.50の比強度を有し、好ましくは、前記第1の部分の前記比強度は最大で3.00、より好ましくは最大で2.00、最も好ましくは最大で1.60である。係船索の比強度はkN/(g/m)で表すことができ、その破壊強度(kN単位)とその線質量(linear mass)(g/m単位)の比率である。係船索の破壊強度は前記係船索が破壊する負荷であり、Zwick1474ワインディンググリップ/800kN水平引張試験機(Mennens b.v.,NLから)を用いて測定することができる。
【0015】
さらに好ましい実施形態では、前記プラットフォームは、水位線から1メートルの深度の水の温度が最大で25℃、より好ましくは最大で20℃、最も好ましくは最大で16℃である環境において動作する。好ましくは、係船索の第2の部分は、少なくとも1.2、より好ましくは少なくとも1.4、最も好ましくは少なくとも1.6の比強度を有し、好ましくは、前記第1の部分の前記比強度は最大で3.0、より好ましくは最大で2.0である。
【0016】
好ましくは、前記第1の部分の比強度の前記第2の部分の比強度に対する比率は、0.50〜0.98の間、より好ましくは0.65〜0.94の間、最も好ましくは0.75〜0.88の間である。
【0017】
本発明によると、前記第1の部分は、テーパー状部分を介して前記第2の部分まで連続的に延在する。テーパー状部分とは、本明細書では、単位長さ当たりのポリオレフィン繊維の質量がM1とM2の間で徐々に低下する係船索の部分であると理解される。好ましくは、前記テーパー状部分は式1
L=L+L 式1
により算出される長さL(メートル単位)を有し、式中、Lは係船索の第1の部分の第1の長さであり、前記第1の長さは、水位線と、環境の温度がその最大値である高さとの間で動作する係船索の長さに等しく、Lは係船索の第2の部分の第2の長さであり、前記第2の長さは、水位線と、水温が約16℃である水深との間で動作する係船索の長さに等しい。テーパー状部分は、例えば、ポリオレフィン繊維を係船索からその選択された部分に沿って漸進的に除去して、単位長さ当たりのポリオレフィン繊維の質量に、その選択部分に沿ってM1からM2まで勾配をつけることによって達成することができる。
【0018】
好ましいポリオレフィン繊維は、ポリプロピレンまたはポリエチレンのホモポリマーまたはコポリマーから製造された繊維である。より好ましくは、ポリオレフィンはポリエチレンであり、最も好ましくは超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)である。UHMWPEとは、本明細書では、少なくとも3dl/g、より好ましくは少なくとも4dl/g、最も好ましくは少なくとも5dl/gの固有粘度(IV)を有するポリエチレンであると理解される。好ましくは、前記IVは最大で40dl/g、より好ましくは最大で25dl/g、より好ましくは最大で15dl/gである。IVは、ASTMD1601(2004)に従い、デカリン中135℃において、16時間の溶解時間、酸化防止剤として2g/l溶液の量のBHT(ブチル化ヒドロキシトルエン)を用いて、異なる濃度で測定された粘度をゼロ濃度まで外挿することによって決定され得る。好ましくは、UHMWPE繊維は、ゲル紡糸繊維、すなわちゲル紡糸プロセスにより製造された繊維である。UHMWPE繊維の製造のためのゲル紡糸プロセスの例は、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4413110号明細書、英国特許出願公開第2042414A号明細書、英国特許出願公開第A−2051667号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレット、欧州特許第1,699,954号明細書を含む多数の公報、および「Advanced Fibre Spinning Technology」,T.Nakajima編、Woodhead Publ.Ltd(1994年)、ISBN1855731827に記載されている。
【0019】
繊維とは、本明細書では、長さ寸法および横断寸法(例えば、幅および厚さまたは直径)を有し、長さ寸法が横断寸法よりもはるかに大きい長尺体であると理解される。また繊維という用語は、規則的または不規則な横断面を有する種々の実施形態、例えば、フィラメント、リボン、ストリップ、バンド、テープなども含む。繊維は連続した長さを有していてもよいし(フィラメントとも呼ばれる)、あるいは不連続な長さを有していてもよい(この場合、当該技術分野ではステープル繊維と呼ばれる)。本発明に従って使用するために好ましい繊維は、好ましくは本質的に円形の断面を有するフィラメントである。本発明の目的のための糸は、複数の繊維を含有する長尺体である。
【0020】
本発明に従って使用される高強度ポリオレフィン繊維は、好ましくは、少なくとも0.5GPa、より好ましくは少なくとも1.2GPa、さらにより好ましくは少なくとも2.5GPa、最も好ましくは少なくとも3.1GPaの引張強度を有する繊維である。ポリオレフィン繊維がUHMWPE繊維である場合、前記UHMWPE繊維は、好ましくは、少なくとも1.2GPa、より好ましくは少なくとも2.5GPa、最も好ましくは少なくとも3.5GPaの引張強度を有する。好ましくは、ポリオレフィン繊維は、少なくとも30GPa、より好ましくは少なくとも50GPa、最も好ましくは少なくとも60GPaの引張係数を有する。好ましくは、ポリオレフィン繊維は、少なくとも50GPa、より好ましくは少なくとも60GPa、最も好ましくは少なくとも80GPaの引張係数を有するUHMWPE繊維である。
【0021】
好ましくは、本発明により用いられるポリオレフィン繊維、特にUHMWPE繊維は、0.5〜20、より好ましくは0.7〜10、最も好ましくは1〜5dpfの範囲のデニールを有する。前記繊維を含有する糸を使用して繊維の鞘が製造される場合、好ましくは、前記糸は100den〜3000den、より好ましくは200den〜2500den、最も好ましくは400den〜1000denの範囲のデニールを有する。
【0022】
特別な実施形態では、本発明に従って使用されるポリオレフィン繊維はテープ様の形状を有し、すなわち言い換えると、前記ポリオレフィン繊維はポリオレフィンテープである。好ましくは、前記ポリオレフィンテープはUHMWPEテープである。本発明の目的のためのテープ(あるいは、フラットテープ)は、断面アスペクト比、すなわち幅対厚さの比が好ましくは少なくとも5:1、より好ましくは少なくとも20:1、さらにより好ましくは少なくとも100:1、またさらにより好ましくは少なくとも1000:1である繊維である。テープは、好ましくは、1mm〜600mmの間、より好ましくは1.5mm〜400mmの間、さらにより好ましくは2mm〜300mmの間、またさらにより好ましくは5mm〜200mmの間、最も好ましくは10mm〜180mmの間の幅を有する。テープは、好ましくは、10μm〜200μmの間、より好ましくは15μm〜100μmの間の厚さを有する。断面アスペクト比とは、本明細書では、幅対厚さの比であると理解される。
【0023】
好ましい実施形態では、ポリオレフィン繊維は、オレフィン分枝(OB)を含むと共に伸長応力(ES)を有するUHMWPEを紡糸することによって得られるクリープ最適化UHMWPE繊維であり、炭素原子1000個当たりのオレフィン分枝の数(OB/1000C)と伸長応力(ES)の比率
【数1】

は少なくとも0.2であり、前記UHMWPE繊維は、70℃の温度で600MPaの負荷を受けたときに、少なくとも90時間、好ましくは少なくとも100時間、より好ましくは少なくとも110時間、さらにより好ましくは少なくとも120時間、最も好ましくは少なくとも125時間のクリープ寿命を有する。好ましくは、UHMWPEは、少なくとも5dl/gの固有粘度(IV)を有する。好ましくは、オレフィン分枝は、1〜15の間、より好ましくは2〜10の間、最も好ましくは2〜6の間の数の炭素原子を有する。分枝がエチル分枝(C=2)またはブチル分枝(C=4)である場合に良好な結果が得られた。好ましくは、本発明のUHMWPE繊維、特にエチルまたはブチル分枝を有するUHMWPEから紡糸されたものは、600MPaの負荷および70℃の温度において、そのクリープ寿命の間、最大で20%、より好ましくは最大で15%、さらにより好ましくは最大で9%、またさらにより好ましくは最大で7%、またさらにより好ましくは最大で5%、最も好ましくは最大で3.7%である伸びを受ける。このような繊維は、例えば、参照によってその全体が本明細書中に含まれる出願PCT/EP2012/056079号明細書に記載されるものなどの方法を使用することによって得ることができる。PCT/EP2012/056079号明細書には、オレフィン分枝の量、伸長応力、クリープ寿命、IVおよびクリープ下の伸びのための測定方法も含まれる。
【0024】
本発明の利点は、本発明のオフショア船がある場所に永久的に係留される場合により顕著であることが観察された。永久的な係留とは、本明細書では、前記船が前記場所に少なくとも15年間、より好ましくは少なくとも25年間保持されることであると理解される。このような永久的に係留された船の場合、保守の必要性が低く、係留要求の履行が果たされることが観察された。
【0025】
本発明は、高強度ポリオレフィン繊維を含む単一長さの係船索にも関し、前記単一長さの係船索は第1の部分および第2の部分を有し、係船索の第1の部分は単位長さ当たり第1の質量(M1)のポリオレフィン繊維を有し、係船索の第2の部分は単位長さ当たり第2の質量(M2)のポリオレフィン繊維を有し、M1/M2比は1よりも大きく、前記第1の部分は、係船索のテーパー状部分を介して前記第2の部分まで連続的に延在する。本発明の係船索の好ましい実施形態は上文に記載されている。好ましくは、本発明の係船索は、少なくとも500メートル、より好ましくは少なくとも800メートル、最も好ましくは少なくとも1100メートルの長さを有する。本発明の係船索は、深海係留用途で使用される場合、好ましくは、上文に記載されるような実施形態と共に、水位線よりも上方に存在する部分と、水位線よりも下方に存在する部分とを有する。好ましくは、前記水位線よりも下方に存在する部分は海底に固定され、前記水位線よりも上方に存在する部分はウインチドラムに接続される。本発明の係船索は、意図される用途に対して同じ安全要求を提供するように容易に製造可能である、すなわち言い換えると、前記係船索は、同時に2つの別個の環境(例えば、水の外側および内側など)で使用される場合でも一定の安全率を有することが観察された。
【0026】
また本発明は、ウインチドラムと、アンカー部位と、ウインチドラムからアンカー部位まで延在する係船索とを含む、特に深海用途のための係留システムにも関し、係船索は本発明の係船索である。好ましくは、本発明の係留システムは、参照によってその全体が本明細書中に含まれる国際公開第2011/104310号パンフレットに記載されるものなどのウインチアセンブリを含む。
【0027】
好ましくは、本発明の係船索は、コイル状に巻かれた状態でウインチドラムが係船索の第1の部分のいくつかの層を含むように、ヘリカル巻きを作るための幅を有するウインチドラムに巻き取られ、ロープのヘリカル巻き間の間隔は、係船索の第1の部分の直径の少なくとも0.5倍である。好ましくは、係船索は、ウインチドラムの前記幅を横切って実質的に一定の速度で巻き取られる。好ましくは、前記間隔は、前記直径の最大7倍である。
【0028】
また本発明は、好ましくは本発明において使用されるものに従うテーパー状ロープの、オフショア掘削または生産船を係留させるための使用にも関する。
【0029】
[測定方法]
ポリオレフィン繊維の引張り特性、すなわち強度およびモジュラスは、500mmの繊維の公称ゲージ長、50%/分のクロスヘッド速度、およびFibre Grip D5618C型のInstron2714クランプを用いて、ASTM D885Mに規定されるようにマルチフィラメント糸において決定した。強度を計算するために、測定された引張力を、10メートルの繊維を秤量することにより決定されるタイターで除し、ポリマー、例えばUHMWPEの自然密度が0.97g/cmであると仮定して、GPa単位の値が計算される。
【0030】
ポリオレフィンテープの引張り特性:引張強度および引張係数は、440mmのテープの公称ゲージ長、50mm/分のクロスヘッド速度を用いて、ASTMD882に規定されるように2mm幅のテープにおいて25℃で定義および決定される。