特許第6286727号(P6286727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286727
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】金属ナトリウムの不活化方法
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/08 20060101AFI20180226BHJP
   C23G 1/24 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B08B3/08 Z
   C23G1/24
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-525147(P2016-525147)
(86)(22)【出願日】2015年5月29日
(86)【国際出願番号】JP2015065639
(87)【国際公開番号】WO2015186637
(87)【国際公開日】20151210
【審査請求日】2016年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-115803(P2014-115803)
(32)【優先日】2014年6月4日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-81912(P2015-81912)
(32)【優先日】2015年4月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 英明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 徹
(72)【発明者】
【氏名】相羽 孝弘
【審査官】 大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−273802(JP,A)
【文献】 特開2000−246002(JP,A)
【文献】 特開2002−097159(JP,A)
【文献】 特開2004−095602(JP,A)
【文献】 特開2011−255010(JP,A)
【文献】 特開2001−294539(JP,A)
【文献】 特開2001−234208(JP,A)
【文献】 特開昭49−119467(JP,A)
【文献】 特開2007−254870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/08
C23G 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナトリウムを不活性油に浸け、
次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、
金属ナトリウムの不活化方法において、
前記水分は界面活性剤を含む、金属ナトリウムの不活化方法
【請求項2】
水分の添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えることをさらに有する、
請求項1に記載の不活化方法。
【請求項3】
不活性油の温度を0℃〜98℃に調整することをさらに有する、請求項1または2に記載の不活化方法。
【請求項4】
前記不活性油の温度を0℃〜40℃に調整する、請求項3に記載の不活化方法
【請求項5】
金属ナトリウムが付着した装置を不活性油に浸け、
次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、
金属ナトリウムが付着した装置の洗浄方法において、
前記水分は界面活性剤を含む、洗浄方法
【請求項6】
金属ナトリウムが付着した貯槽に不活性油を入れ、
次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、
金属ナトリウムが付着した貯槽の洗浄方法において、
前記水分は界面活性剤を含む、洗浄方法
【請求項7】
付着した金属ナトリウムを不活性油に掻き落とすことをさらに有する、請求項5または6に記載の洗浄方法。
【請求項8】
水素ガス濃度を測定し、測定された水素ガス濃度に基いて、時間あたりの水分の添加量を調整する、請求項5〜7のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【請求項9】
水分の添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えることをさらに有する、
請求項5〜8のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【請求項10】
不活性油の温度を0℃〜98℃に調整することをさらに有する、請求項5〜9のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記不活性油の温度を0℃〜40℃に調整する、請求項10に記載の洗浄方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナトリウムの不活化方法、および金属ナトリウムが付着した装置または貯槽の洗浄方法に関する。
本願は、2014年6月4日に日本に出願された特願2014−115803号及びに2015年4月13日に日本に出願された特願2015−081912号基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
金属ナトリウム分散体(以下、SD薬剤ということがある。)は、金属ナトリウム粒子を不活性油に分散させてなるものである。金属ナトリウム分散体は、PCBの除去などに使用される。SD薬剤を貯槽に保管している間に、槽内天面または槽内側面に金属ナトリウムが堆積して氷柱状などの塊りになることがある。その塊りをそのまま放置していると、貯槽に亀裂が入り、水と金属ナトリウムとの反応で爆発や火災を起こす危険がある。
【0003】
金属ナトリウムの付着した機器部品の洗浄方法として、非特許文献1は、空気中での水蒸気洗浄、不活性ガス中での水蒸気洗浄、アルコール洗浄、高温度オイル洗浄、液化アンモニア洗浄、低温合金による洗浄、布などによる洗浄、水洗、サンドプラストなどを開示している。
【0004】
非特許文献1などによれば、水蒸気洗浄は、ナトリウム洗浄の最も一般的な方法である。貯槽がナトリウムを取出しにくい形状の場合にも有効である。しかし、ナトリウムが多量にある場合には時間がかかる。ナトリウムが水蒸気で吹き飛ばされて水溜りに落ち、過度に反応が進行する可能性もある。
アルコール洗浄に用いられるアルコールは水に比べて金属ナトリウムとの反応が遅い。金属ナトリウムが多量にある場合には時間がかかる。またアルコールは引火性がある。
【0005】
高温オイル洗浄は、200℃程度で鉱物油により機械的に洗い流す方法である。しかし、十分な洗浄は不可能である。
人による拭き取り方法は、極少量の水またはアルコールで湿らせた布などで拭き取るため、多量のナトリウム洗浄には不向きである。不活性ガス雰囲気下での作業のため、重装備が必要である。
水を掛け流して失活させる方法は、発生する水素のコントロールが難しく、金属ナトリウムと水の反応熱で加熱された金属ナトリウムが一度に溶融して、反応が一気に加速するおそれがあり、失活の制御が難しくなる恐れがある。
【0006】
また、特許文献1は、金属ナトリウムの付着した機器表面を、加圧、大気圧、減圧等の圧力変動下に炭酸ガスを混入した湿り不活性ガスで、一段階で洗浄することにより、付着している金属ナトリウムを炭酸ナトリウムに転化し、安定化することを特徴とする機器表面に付着残存した金属ナトリウムの処理方法を開示している。
【0007】
特許文献2は、金属ナトリウムが用いられるナトリウム使用設備に用いられ、金属ナトリウムが付着している前記ナトリウム使用設備の構成部品をナトリウムの融点以上の温度の不活性油で洗浄することにより前記付着している金属ナトリウムの除去を実施することを特徴とするナトリウム使用設備の洗浄方法を開示している。
【0008】
特許文献3は、金属ナトリウムが付着した被洗浄部材の洗浄方法であって、洗浄装置を構成する洗浄容器に洗浄液を貯留して液相を設け、その液相に金属ナトリウムが付着した被洗浄部材を浸漬させることを特徴とする金属ナトリウムの洗浄方法、ならびに金属ナトリウムが付着した被洗浄部材を洗浄する洗浄装置内に不活性ガスを吹き込み、洗浄装置内の酸素濃度を爆発限界濃度以下とすることを特徴とする金属ナトリウムの洗浄方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−75396号公報
【特許文献2】特開2007−254870号公報
【特許文献3】特開2003−121593号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「液体ナトリウム取扱い安全指針」日本原子力研究所、17〜19頁、1968年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記目的を達成するために検討した結果、以下の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0012】
〔1〕 金属ナトリウムを不活性油に浸け、次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、金属ナトリウムの不活化方法。
〔2〕 水分の添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えることをさらに有する、〔1〕に記載の不活化方法。
〔3〕 不活性油の温度を0℃〜98℃に調整することをさらに有する、〔1〕または〔2〕に記載の不活化方法。
【0013】
〔4〕 水分および不活性油のいずれか一方または両方が界面活性剤を含むものである、〔1〕〜〔3〕のいずれかひとつに記載の不活化方法。
【0014】
〔5〕 金属ナトリウムが付着した装置を不活性油に浸け、次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、金属ナトリウムが付着した装置の洗浄方法。
【0015】
〔6〕 金属ナトリウムが付着した貯槽に不活性油を入れ、次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有する、金属ナトリウムが付着した貯槽の洗浄方法。
【0016】
〔7〕 付着した金属ナトリウムを不活性油に掻き落とすことをさらに有する、〔5〕または〔6〕に記載の洗浄方法。
〔8〕 水素ガス濃度を測定し、測定された水素ガス濃度に基づいて、時間あたりの水分の添加量を調整する、〔5〕〜〔7〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
〔9〕 水分の添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えることをさらに有する、〔5〕〜〔8〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
〔10〕 不活性油の温度を0℃〜98℃に調整することをさらに有する、〔5〕〜〔9〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【0017】
[11]
水分および不活性油のいずれか一方または両方が界面活性剤を含むものである、〔5〕〜〔10〕のいずれかひとつに記載の洗浄方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一実施形態に係る金属ナトリウムの不活化方法によれば、金属ナトリウムを、工業的に、安全に、不活化することができる。
本発明の別の一実施形態に係る洗浄方法によれば、貯槽や装置内に付着する金属ナトリウムを、工業的に安全かつ確実に不活化し、洗浄することができる。本発明の洗浄方法によれば、貯槽や装置の内面に固まりとなって付着した多量の金属ナトリウムであっても、段階的に失活させ、安全に、確実に取り除くことができる。本発明の不活化方法および洗浄方法は、実験室レベルの小規模なものから工場レベルの大規模なものまでの幅広いものに適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第一の実施態様に係る金属ナトリウムの不活化方法は、金属ナトリウムを不活性油に浸け、次いで、該不活性油に水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有するものである。
【0020】
本発明に使用される不活性油は、金属ナトリウムを保管する際に使用されるものであれば特に限定されない。不活性油としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、ケロシン、デカリン、トランス油(JIS C 2320−1993に記載のトランス油)、重油(JIS K2205に記載)、流動パラフィン又は洗浄油(フロン、トリクロロエタン、灯油などの代替品として、自動車、電子部品、精密機器の洗浄用に用いられる炭化水素系を主成分とした溶剤)などを挙げることができる。不活性油の温度は、金属ナトリウムから苛性ソーダへの転化反応効率および安全性の観点から、0℃〜98℃であることが好ましく、0〜60℃であることがより好ましく、0〜40℃であることがより更に好ましい。
【0021】
本発明の方法が適用される金属ナトリウムは、その状態によって制限されない。例えば、装置や貯槽に付着した金属ナトリウム、金属ナトリウム分散体などの媒体中に分散された金属ナトリウム、金属ナトリウムと他の物質との混合物、空気に触れて酸化したような劣化金属ナトリウムなどが挙げられる。装置は、ニーダー、ポンプ、攪拌翼などの機械設備に加えて、それら機械設備間を繋ぐ管、弁、フランジ、ストレーナなどを包含するものである。
【0022】
不活性油に対する金属ナトリウムの量は、水分を添加したときにも不活性油が金属ナトリウムに触れていれば、特に制限されない。例えば、装置に付着した金属ナトリウムを不活化する場合には、金属ナトリウムが付着した装置全体が不活性油に浸かる程度の量にすることができる。貯槽に付着した金属ナトリウムを不活化する場合には、貯槽内面に付着した金属ナトリウムが不活性油の液面下になる程度の量にすることができる。
【0023】
添加する水分は、その状態において特に制限されない。水分としては、氷、水(液体)、水蒸気、加湿不活性ガス、霧、ミスト、ヒュームなどが挙げられる。
水分(H2O)の添加量は、転化反応効率の観点から、Na1モルに対して好ましくは3モル以上(不活性油の温度:0〜98℃)、さらに好ましくは4モル以上(不活性油の温度:0〜40℃)である。水分(H2O)の添加量の上限値は、発生する水素ガス濃度が4vol%未満となるように適宜設定される。
【0024】
水分の添加方法は、水分の状態に応じて選択することができる。水分が固体である場合は、例えば不活性油に投げ入れることができる。水分が液体である場合は、例えば、不活性油の液面より高い位置から滴下したり、降り注いだり、掛け流したりすることができ、または不活性油の液面より低い位置から管を経由して送り込むことができる。水分が気体である場合は、不活性油の液面より高い位置から管を経由して吹き込むことができ、または不活性油の液面より低い位置から管を経由して吹き込むことができる。不活性油の液面より低い位置から管を経由してバブリングが生じるように水分を送り込むと金属ナトリウムと水分との接触性を向上させることがある。本発明においては、水分の添加に並行して、不活性油の液面レベルを変えることが好ましく、水分添加積算量に比例するように、不活性油の液面レベルを増大させることがより好ましい。ここで、液面レベルとは、不活性油の底面から液表面までの鉛直方向の高さを意味する。不活性油の液面レベルは、不活性油を貯槽から徐々に抜き出したり、徐々に添加することにより変えることができる。液面レベルの変更によって、付着していた金属ナトリウムが露出したり、沈没することになり、水分(H2O)と金属ナトリウム(Na)との接触性を変えることができ、付着していた金属ナトリウムの不活化が進みやすくなる傾向にある。
【0025】
水分の添加は不活性ガス雰囲気下で不活性油を撹拌しながら行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。撹拌は攪拌機で行ってもよいし、水蒸気または加湿不活性ガスの吹き込みによるバブリングで行ってもよい。不活性ガスは、発生する水素ガス濃度が4vol%未満となるように流量を調節しながら、連続的に貯槽または不活性化を実施する容器内に導入することが好ましい。
【0026】
本発明においては、前述の水分および不活性油のいずれか一方または両方が、界面活性剤を含むものであることが好ましく、少なくとも水分が界面活性剤を含むものであることがより好ましい。界面活性剤は、水と不活性油との親和性を高めることができるものであれば特に限定されない。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを挙げることができる。
【0027】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(C11-15)エーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアリールエーテル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキレングリコール、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
【0028】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、アルキルアリールスルホン酸カルシウム、アルキルアリールスルホン酸アンモニウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩のホルムアルデヒド重縮合物、リグニンスルホン酸塩、ポリカルボン酸塩などが挙げられる。
【0029】
カチオン性界面活性剤としては、アルキル第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩などを挙げることができる。
両性界面活性剤としては、アルキルベタイン、アミンオキサイド、アルキルアミノ酸塩などを挙げることができる。
これらの界面活性剤は、1種単独で若しくは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アニオン性界面活性剤、またはノニオン性界面活性剤が好ましい。
界面活性剤の含有量は水と不活性油との親和性を高めることができる範囲であれば特に限定されない。例えば、界面活性剤は、水分の質量に対して、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%、より更に好ましくは5〜10質量%を含有させることができる。例えば、界面活性剤は、不活性油の質量に対して、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは1〜10質量%を含有させることができる。
【0030】
水分(H2O)とNaとの反応によって苛性ソーダ(NaOH)と水素が生成する。水素ガス濃度を測定して、時間あたりの水素生成量を算出することができる。例えば、貯槽の排気ラインにて水素ガス濃度を測定することができる。時間あたりの水素生成量から反応の進行状況を把握することができる。安全性向上のため、時間あたりの水素生成量が多い場合は、時間あたりの水分の添加量を減らすことが好ましい。具体的には、水素ガス濃度が4vol%未満となるように、排気中の水素ガス濃度をモニターしながら、時間あたりの水分添加量を調整することが好ましい。例えば、時間あたりの水分添加量は、Na1モルに対して、10〜100ml/時程度、より好ましくは15〜90ml/時程度、更に好ましくは35〜70ml/時程度の範囲で、水素ガス濃度に基づき適宜設定されることが好ましい。
【0031】
一方、生成した苛性ソーダは、金属ナトリウムの不活化を完了した後に、水(液体)などで洗い流すことができる。また、不純物に由来してスラッジなどが生成することがある。スラッジなどの固形分は水や油などにて洗い流すことができる。
【0032】
本発明の第二の実施態様に係る金属ナトリウムが付着した貯槽の洗浄方法は、金属ナトリウムが付着した貯槽に不活性油を入れ、次いで、水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有するものである。
以下に、本実施態様に係る洗浄方法の具体例について説明するが、前記第一の実施態様の不活化方法と同じ構成についてはその説明を省略することがある。
【0033】
(実施形態1)
前記洗浄方法の一実施形態においては、先ず、貯槽の状態を点検する。貯槽としては、例えば、金属ナトリウム分散体貯槽が挙げられる。貯槽の内面は監視カメラなどにて金属ナトリウムの付着状況を調査する。また、貯槽に金属ナトリウム分散体を系外に排出するための管が在るか否かを点検する。排出のための管が無い場合は抜出管を貯槽に仮設する。金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させる際に水素ガスが発生するので、貯槽に水素ガスを逃がすための排気ラインが在るか否かを点検する。排気ラインが無い場合は貯槽に排気ラインを仮設する。排気ラインにはデミスタや水洗塔を設けることが好ましい。不活性油ミストには金属ナトリウム粒子が含まれていることがあるので、不活性油ミストを水と接触させて、含まれている金属ナトリウムを不活化することが好ましい。また、水素の逆流を防止するための仕組みを排気ラインに設けることが好ましい。逆流防止の仕組みとして、例えば、シールポットが挙げられる。安全性向上のために、排気口に、窒素や水蒸気の導入装置、フレームアレスターなどの各種安全装置を設けることが好ましい。
【0034】
金属ナトリウム分散体が多量に貯槽内に残っている場合はそれを抜き出して貯槽を空にすることができる。金属ナトリウム分散体の抜き出しは、ポンプを用いて行うこともできるし、貯槽に不活性ガスなどを送り圧力を掛けて行うこともできる。不活性ガスとして窒素ガス、アルゴンガス等が好ましい。
【0035】
デッドスペースなどのために、貯槽から金属ナトリウム分散体をすべて完全に抜き出すことができないことがある。しかし、デッドスペースに残っている金属ナトリウム分散体の量が少ない場合は、貯槽は空になったとみなすことができる。
【0036】
本発明においては、空になった貯槽に不活性油を入れる。貯槽に不活性油を入れることによって、少量で残っていた金属ナトリウム分散体を洗い出すことができる。
【0037】
次に、水分を添加する。水分の添加は不活性ガス雰囲気下で不活性油を撹拌しながら行うことが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガスなどが挙げられる。撹拌は攪拌機で行ってもよいし、水蒸気または加湿不活性ガスの吹き込みによるバブリングで行ってもよい。貯槽に付着していた金属ナトリウムおよび少量残留していた金属ナトリウム分散体中の金属ナトリウムはH2Oと反応して苛性ソーダに転化し、不活化させることができる。反応の進行状態は、水素ガス濃度を測定することによって把握することができる。例えば、貯槽の排気ラインにて水素ガス濃度を測定することができる。急激な水素ガス濃度の上昇は安全性向上の観点から避けることが好ましい。空気中の水素爆発限界濃度は4vol%〜75vol%である。そこで、貯槽に排気ラインを設け、該排気ラインの水素ガス濃度を測定し、測定された水素ガス濃度に基づいて、時間あたりの水分添加量を調整することが好ましく、前記第一の実施態様に記載のように、時間あたりの水分添加量を調整することがより好ましい。また、不活性油の温度を0℃〜98℃、より好ましくは0〜60℃、より更に好ましくは0〜40℃に調整することが好ましい。
【0038】
その後、貯槽から水および苛性ソーダを含む不活性油を抜き出す。抜き出しは、例えば、予備ノズル閉止フランジあるいはサイトグラスを通してポンプ等で行うことができる。
次に、不活性油を抜き出した後、貯槽の内壁面に、必要に応じて、水を吹き付けることができる。水によって微量に残る金属ナトリウムを不活化することができる。また不活化で生じた苛性ソーダを水に溶出させ洗い流すことができる。なお、水の吹き付けに替えて、水を貯槽に充溢させてもよい。
【0039】
そして、貯槽の内面に残る水、苛性ソーダおよび油分を拭き取ることができる。拭き取りは、例えば、先ず貯槽内の酸素濃度を測定して安全を確認後に、必要に応じて槽内に足場を設置し、人が貯槽に入って行う。
【0040】
以上の洗浄方法によれば、貯槽内に在る金属ナトリウムの量が不明であっても、貯槽を切断分解することなく、付着した金属ナトリウムを、安全に、確実に取り除くことができる。
【0041】
(実施形態2)
デッドスペースに残っている金属ナトリウム分散体の量が多い場合は、貯槽を空にするために、以下の操作を行うことができる。
新しい不活性油を貯槽に充溢させ、デッドスペースなどに残留する金属ナトリウム分散体を不活性油で洗い出す。そして、洗い出された金属ナトリウム分散体を貯槽から抜き出す。洗い出された金属ナトリウム分散体を含む不活性油の抜き出しは、貯槽に不活性ガスなどを送り圧力を掛けて行うことができる。なお、抜き出された金属ナトリウム分散体中の金属ナトリウム濃度を測定し、所定値よりも高い場合は不活性油による洗い出しおよび抜き出しを繰り返すことができる。不活性油の温度は、0℃〜98℃であることが好ましく、0〜60℃であることがより好ましく、0〜40℃であることがより更に好ましい。
【0042】
抜き出された金属ナトリウム分散体中の金属ナトリウム濃度が所定値を下回った場合は、貯槽は空になったとみなすことができる。空になった貯槽は、実施形態1と同じ方法で処理することができる。具体的には、不活性油を空の貯槽に充溢させ、次いで、水分を不活性油に添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させ、貯槽から水および苛性ソーダを含む不活性油を抜き出し、必要に応じて貯槽内面に水を吹き付け、さらに貯槽内面に残る水、苛性ソーダおよび油分を拭き取ることができる。
【0043】
(実施形態3)
貯槽に付着していた金属ナトリウムが塊りになっている場合は、効果的な不活化のために、以下の操作を行うことができる。
まず、貯槽を他の設備から取り外す。取り外しは閉止フランジなどを管に挿入することなどによって行うことができる。配管内や接続フランジの隙間等に残る金属ナトリウム分散体が、フランジボルトを緩めた時に、垂れてくることがあるので、金属製容器等をフランジの下に置き、金属ナトリウム分散体を受けるようにすることが好ましい。受けた金属ナトリウム分散体はメタノールなどで不活化することができる。貯槽の内圧を大気圧まで下げ、予備ノズル閉止フランジあるいはサイトグラスを開放する。内視鏡などで内部を観察し、金属ナトリウム分散体の付着状況を点検する。
【0044】
貯槽に不活性油を槽内底面が隠れるまで注入する。予備ノズル閉止フランジあるいはサイトグラスから金属製の冶具を入れ、槽内面に付着している金属ナトリウムの塊りを掻き落とす。なお、掻き落とされた金属ナトリウムの塊りは不活性油に落とし入れる。不活性油の温度は、0℃〜98℃であることが好ましく、0〜60℃であることがより好ましく、0〜40℃であることがより更に好ましい。
【0045】
掻き落とし作業完了後、取り外した予備ノズル閉止フランジあるいはサイトグラスを復旧する。貯槽に不活性ガスを流入させ、不活性ガス雰囲気にする。掻き落とされた金属ナトリウムの塊りの不活化は、実施形態1に記載した貯槽内面に付着している金属ナトリウムの不活化と同時並行して行うことができる。具体的には、不活性油を空の貯槽に充溢させ、次いで、水分を不活性油に添加して金属ナトリウム(掻き落とされた金属ナトリウムの塊りも含む。)を苛性ソーダに転化させ、貯槽から水および苛性ソーダを含む不活性油を抜き出し、必要に応じて貯槽内面に水を吹き付け、さらに貯槽内面に残る水、苛性ソーダおよび油分を拭き取ることができる。
【0046】
(実施形態4)
掻き落とされた金属ナトリウムの塊りの不活化は、実施形態1に記載した貯槽内面に付着している金属ナトリウムの不活化に先立って行うこともできる。
例えば、実施形態3に記載された方法で掻き落とされた金属ナトリウムを含む槽内底面が隠れる程度の量の不活性油を導入後、攪拌しながら、更に水分を添加することによって、掻き落とされた金属ナトリウムを不活性油中にてH2Oと反応させ、不活化することができる。該反応において、発生する水素ガス濃度を、第一の実施態様や実施形態1に記載したように、モニタリングしながら、添加する水分の量を調整することが好ましい。
【0047】
掻き落とされた金属ナトリウムの塊りの不活化が完了したのち、貯槽から不活化された金属ナトリウムを含む不活性油を抜き出してもよいし、そのままにしてもよい。該不活性油の抜き出しは、ポンプを用いて行うこともできるし、不活性ガスによる圧送で行うこともできる。
【0048】
次いで、実施形態1と同じ方法で処理することができる。具体的には、不活性油を空の貯槽に充溢させ、次いで、水分を不活性油に添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させ、貯槽から水および苛性ソーダを含む不活性油を抜き出し、必要に応じて貯槽内面に水を吹き付け、さらに貯槽内面に残る水、苛性ソーダおよび油分を拭き取ることができる。
【0049】
(実施形態5)
実施形態1において、水分の不活性油への添加に並行して、不活性油の液面レベルを変える操作を行うことが好ましい。不活性油の液面レベルを変えるために、不活性油を貯槽から徐々に抜き出したり、徐々に添加することができる。不活性油の液面レベルの変動度合いは、特に制限されないが、水分の添加積算量に比例させることが好ましい。不活性油の液面レベルの変動によって、付着していた金属ナトリムが露出したり沈没したりし、水分との接触状態が変わり、付着していた金属ナトリウムの不活化が進みやすくなることがある。不活性油の液面レベル低下で生じる気相には不活性ガスを送り込むことが好ましい。不活性ガスの送り込みによって、金属ナトリウムの苛性ソーダへの転化がより安全に実施される。
【0050】
本発明の第三の実施態様に係る金属ナトリウムが付着した装置の洗浄方法は、金属ナトリウムが付着した装置を不活性油に浸け、次いで、水分を添加して金属ナトリウムを苛性ソーダに転化させることを有するものである。
以下に本実施態様の洗浄方法の具体例について説明するが、前記第一の実施態様に係る不活化方法と第二の実施態様に係る洗浄方法と同様の構成についてはその説明を省略することがある。
【0051】
(実施形態6)
本実施形態では、先ず、ニーダー、ポンプ、配管などの装置の状態を点検する。そして、該装置を製造ラインから切り離す。切り離した装置に付着する金属ナトリウムの状況を調査する。切り離すときに装置または配管から金属ナトリウム分散体が垂れ落ちることがあるので、受け皿などで受け取るようにする。
【0052】
切り離された装置を不活性油に浸ける。不活性油への浸漬にはタンクなどの容器が用いられる。装置を容器に収納する前に容器に不活性油を溜めておいてもよいし、装置を容器に収納した後に不活性油を容器に溜めてもよい。不活性油は装置が浸かる程度であればその量に制限はない。水分を添加する方法等の金属ナトリウムを洗浄する残りの工程は、例えば、前述の第一または第二の実施態様に記載の方法で行うことができる。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
密閉可能な100ml容器に温度19℃の不活性油を満たし入れ、これに大きさ6mm×6mm×6mmの金属ナトリウム片を4つ入れた。容器を密閉し、該容器に窒素ガスを40ml/分で供給しながら、撹拌子で容器内の不活性油を撹拌した。これに水を0.6ml/時で1時間、1.2ml/時で0.5時間、2.4ml/時で1.3時間、合計で4.3mlを添加した。添加した水は不活性油中に水滴の状態で存在した。大きな水滴と金属ナトリウムとが間欠的に接触することがあるので、失活反応が急激で間欠的に進行することがあった。水の添加終了時に、入れた金属ナトリウムのすべてが失活していた。生成する水素ガスの濃度が激しく変動することがあるので、水の添加量を適宜制御することが好ましい。
【0054】
(実施例2)
5%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液(クエンチ剤A)を用意した。密閉可能な100ml容器に温度17℃の不活性油を満たし入れ、これに大きさ6mm×6mm×6mmの金属ナトリウム片を4つ入れた。容器を密閉し、該容器に窒素ガスを40ml/分で供給しながら、撹拌子で容器内の不活性油を撹拌した。これにクエンチ剤Aを0.6ml/時で1時間、1.2ml/時で0.5時間、2.4ml/時で1.5時間、合計で4.8mlを添加した。添加したクエンチ剤Aは不活性油中で乳化しミセルの状態で存在した。ミセルと金属ナトリウムとが間断なく接触するので、失活反応は温和で連続的に進行した。クエンチ剤Aの添加終了時に、入れた金属ナトリウムのうち約2/3が失活していた。生成する水素ガスの濃度がクエンチ剤Aの添加量に対応して徐々に変化するので、クエンチ剤Aの添加量の制御を水素ガス濃度の検出で容易に行うことができる。
【0055】
(実施例3)
10%ポリオキシアルキレンアルキル(C11-15)エーテル水溶液(クエンチ剤B)を用意した。密閉可能な100ml容器に温度21℃の不活性油を満たし入れ、これに大きさ6mm×6mm×6mmの金属ナトリウム片を4つ入れた。容器を密閉し、該容器に窒素ガスを40ml/分で供給しながら、撹拌子で容器内の不活性油を撹拌した。これにクエンチ剤Bを0.6ml/時で1時間、1.2ml/時で0.5時間、2.4ml/時で1.3時間、合計で4.3mlを添加した。添加したクエンチ剤Bは不活性油中で乳化しミセルの状態で存在した。ミセルと金属ナトリウムとが間断なく接触するので、失活反応は温和で連続的に進行した。クエンチ剤Bの添加終了時に、入れた金属ナトリウムのうち約2/3が失活していた。生成する水素ガスの濃度がクエンチ剤Bの添加量に対応して徐々に変化するので、クエンチ剤Bの添加量の制御を水素ガス濃度の検出で容易に行うことができる。
【0056】
本発明は前記のような実施形態に代表されるものであるが、本発明は前記実施形態によって限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の金属ナトリウムの不活化方法によれば、金属ナトリウムを、工業的に安全に不活化することができる。
本発明の洗浄方法によれば、貯槽や装置内に付着する金属ナトリウムの量が不明であっても、貯槽を移動させずに、貯槽が設置されている箇所にて、安全に貯槽を洗浄することができる。更に、内面に付着し、固まりとなった金属ナトリウムであっても、段階的に失活させ、安全に取り除くことができる。本発明の不活化方法および洗浄方法は、実験室レベルの小規模なものから工場レベルの大規模なものまでの幅広いものに適用できる。