(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液相系のバイオセンサとして、特許文献1に記載のSAW(Surface Acoustic Wave;弾性表面波)センサが知られている。特許文献1記載の弾性表面波センサでは、2つの弾性表面波センサ素子を設け、それぞれの弾性表面センサに個別に基準信号を与え、出力信号(第1の測定信号、第2の測定信号)の差分に基づいて、検体である液体中に含まれる抗原を特定する方式を採用している。
【0003】
図5は、検体である液体中に含まれる抗原を特定する方式に用いるSAWセンサ100の平面構造を示す図である。また、
図6は、検体である液体中に含まれる抗原を特定する方式について説明するための図である。
図5において、SAWセンサ100_1は、圧電素子基板上に形成される、IDT11−1(送信電極11−1a、送信電極11−1b)、IDT11−2(受信電極11−2a、受信電極11−2b)、チャネル領域(反応領域薄膜)Aを含んで構成される。また、SAWセンサ100_2は、圧電素子基板上に形成される、IDT11−3(送信電極11−3a、送信電極11−3b)、IDT11−4(受信電極11−4a、受信電極11−4b)、チャネル領域(反応領域薄膜)Bを含んで構成される。ここで、圧電素子基板とは、SAWを伝播する基板であり、例えば、水晶基板である。また、検体である液体が導入される検出領域(センサ表面となる領域)は、圧電素子基板と反応領域薄膜との重なる部分となるが、ここでは反応領域薄膜の全面が検出領域となるものとする。すなわち、SAWセンサ100は、SAWセンサ100_1とSAWセンサ100_2とを有し、チャネル領域A、及びチャネル領域Bが、それぞれの検出領域である。
【0004】
図6を参照して、SAWセンサ100を用いた溶液測定に使用するセンサ回路20は、交流信号源21、RFスイッチ22、位相・振幅検出回路23、PC24(Personal Computer)を含んで構成される。
図6において、センサ回路20には、SAWセンサ1に代えてSAWセンサ100が取り付けられ、抗原が特定される。
交流信号源21は、正弦波交流信号を生成し、RFスイッチ22を介してSAWセンサ100の送信電極IDT11−1または送信電極IDT11−3のいずれか一方、及び位相・振幅検出回路23に出力する。
位相・振幅検出回路23は、SAWセンサ100の受信電極IDT11−2または受信電極IDT11−4のいずれか一方から入力された検出信号、及び交流信号源21からの正弦波交流信号に基づいて、検出信号の入力までに要した伝播時間による位相変化と振幅の減衰量を検出する。位相・振幅検出回路23は、検出した位相変化と振幅の減衰量をPC24に出力する。PC24は、位相・振幅検出回路23から入力された位相変化と振幅の減衰量に基づいて、表面の抗体と特異的に反応した溶液中の抗原の量と種類を特定する。
【0005】
上記の構成により、SAWセンサ100は、以下に説明するように、検体である液体中に含まれる抗原を特定することができる。すなわち、SAWは、圧電素子基板の表面近傍に集中して伝播する音響波である。圧電素子基板は、その表面に物質が吸着すると、その表面の単位体積当たりの質量と粘性が変化する。その結果、SAWの伝播速度と振幅が変化する。従って、SAWの伝播時間が変化し、振幅の減衰量が変化する。検体である液体中に含まれる抗原を特定するには、位相の変化量と振幅の減衰量の変化量を利用して溶液中に含まれる抗原を測定する。
【0006】
まず、SAWセンサ100の測定者は、抗原を含まない溶媒をSAWセンサ100のチャネル領域Bに滴下し、反応領域薄膜上を溶媒で濡らし、SAWの伝播時間による位相変化を測定する(ブランクテスト)。次に、測定者は、抗原を含んだ溶液を、SAWセンサ100のチャネル領域Aに滴下し、その伝播時間による位相変化を測定する。溶媒に対応する位相変化と溶液に対応する位相変化との差が、抗原抗体反応によって反応領域薄膜に生成した抗原抗体結合物に起因する位相の変化量となる。PC24は、ブランクテストをした時の位相変化をメモリ内に記憶しておき、この位相変化と、溶液を滴下して得られる位相変化との差を算出することで、位相の変化量を算出する(差動検出)。PC24は、位相の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する。振幅の減衰量についても同様であり、振幅の減衰量の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する(例えば、非特許文献1参照)。
【0007】
ブランクテストによる測定以外に差動検出としては、以下の方法を用いることが可能である。チャネル領域Aは検体である抗原を検出するため、抗原に対応した分子認識を行う抗体を固定しておく。また、チャネルB領域は、抗原に対応した分子認識を行わない膜を固定しておく、または、分子認識を行う抗原に対応した抗体を固定した後にその抗体の抗体としての機能を不活性化させる膜を固定しておく。
【0008】
測定者は、抗原を含んだ溶液を、SAWセンサ100のチャネル領域Aとチャネル領域B共に滴下し、その伝搬時間による位相変化を測定する。チャネル領域Bは分子認識を行わないため抗原を含まない溶媒のみの変化となり、チャネル領域Aはチャネル領域Bでの溶媒の変化と抗原抗体結合物に起因する位相の変化量となる。上記、チャネル領域Aとチャネル領域Bの変化は抗原抗体結合物に起因する位相の変化量のみとして検出可能である(差動検出)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本実施形態に係るSAWセンサ1(弾性表面波センサ)の概略的な上面図である。また、
図2は、SAWセンサ1の概略的な断面図である。なお、
図1において、
図5と同一の部分には同一の符号を付している。また、
図2は、
図1に示すSAWセンサ1_1(第1弾性表面波素子)をSAWの伝搬方向に沿って切断した場合の断面図を示している。
図1に示すように、SAWセンサ1は、同じ圧電素子基板10上に形成されるSAWセンサ1_1、及びSAWセンサ1_2(第2弾性表面波素子)を有している。また、
図1、及び
図2を参照して、SAWセンサ1_1は、送信電極11−1a、送信電極11−1b、受信電極11−2a、受信電極11−2b、反応領域薄膜12(チャネル領域A)、多孔性基材13、封止構造14_1、及び封止構造14_2を含んで構成される。また、SAWセンサ1_2は、送信電極11−3a、送信電極11−3b、受信電極11−4a、受信電極11−4b、反応領域薄膜(チャネル領域R)、多孔性基材13、封止構造14_3(
図1、2において不図示)、及び封止構造14_4(
図1、2において不図示)を含んで構成される。
圧電素子基板は、SAWを伝播する基板であり、例えば、水晶基板である。
【0019】
送信電極11−1a、及び送信電極11−1bは、送信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。また、送信電極11−3a、及び送信電極11−3bは、送信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。以下、送信電極11−1a、及び送信電極11−1bを総称してIDT11−1と呼び、送信電極11−3a、及び送信電極11−3bを総称してIDT11−3と呼ぶものとする。
また、受信電極11−2a、及び受信電極11−2bは、受信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。また、受信電極11−4a、及び受信電極11−4bは、受信側電極部を構成する櫛歯状のパターンにより形成された金属電極である。以下、受信電極11−2a、及び受信電極11−2bを総称してIDT11−2と呼び、受信電極11−4a、及び受信電極11−4bを総称してIDT11−4と呼ぶものとする。
IDT11−1、及びIDT11−2(総称してIDT11_1と呼ぶ)、IDT11−3、及びIDT11−4(総称してIDT11_2と呼ぶ)は、それぞれ圧電素子基板上に構成される電極である。IDT11_1、IDT11_2は、それぞれ対向した一対の電極である。IDT11_1、IDT11_2、IDT11−3、及びIDT11−4は、それぞれ例えばアルミニウム薄膜によって構成される。
【0020】
図2を参照して、多孔性基材13は、反応領域薄膜12に接して設けられる基材である。多孔性基材13は、例えばニトロセルロースなどの物質から構成される。多孔性基材13は、反応領域薄膜12を完全に覆うように固定される。多孔性基材13は、例えば、反応領域薄膜12の外側の四隅に接着して固定される。多孔性基材13は、滴下された溶液を保持し、その内部、及び表面に溶液を浸潤させる。
多孔性基材13は、滴下された溶液を、毛細管現象により多孔性基材13内及び反応領域薄膜12の表面に移送し、保持する。
つまり、SAWセンサ1_1は、滴下された溶液を多孔性基材13内部及び反応領域薄膜12の表面に保持する。
【0021】
SAWセンサ1_1では、多孔性基材13内を移送された溶液は、反応領域薄膜12の特定の領域を濡らす。ここで、特定の領域とは、多孔性基材13と反応領域薄膜12との重なる部分によって面積が定められる領域である。例えば、反応領域薄膜12の全面を多孔性基材13で覆う場合、反応領域薄膜12の全領域となる。本実施形態では、反応領域薄膜12の全領域を、
図1に示すように、チャネル領域Aと呼ぶものとする。
溶液中の抗原は、チャネル領域A上に担持された抗体と反応し、チャネル領域A上の特定領域に抗原抗体結合物を生成する。
すなわち、チャネル領域Aでは、その表面に抗原を含んだ液体試料を滴下することにより、チャネル領域A上に担持された抗体と、液体試料中の抗原との間で抗原抗体反応が起こる。その結果、チャネル領域A上には、チャネル領域A上に担持した抗体と抗原が結合した抗原抗体結合物が生成する。なお、チャネル領域Aは、金以外であっても抗体を担持できるものであればいかなるものでもよい。
【0022】
SAWセンサ1_2においては、SAWセンサ1_1と同様に、多孔性基材13内を移送された溶液は、反応領域薄膜の特定の領域を濡らす。例えば、反応領域薄膜の全面を多孔性基材13で覆う場合、反応領域薄膜の全領域となる。本実施形態では、反応領域薄膜の全領域を、
図1に示すように、チャネル領域Rと呼ぶものとする。
溶液中の抗原は、チャネル領域Aと同じように、チャネル領域R上に担持された抗体と反応し、チャネル領域R上の特定領域に抗原抗体結合物を生成する。
すなわち、チャネル領域Rでは、チャネル領域Aと同じように、その表面に抗原を含んだ液体試料を滴下することにより、チャネル領域R上に担持された抗体と、液体試料中の抗原との間で抗原抗体反応が起こる。その結果、チャネル領域R上には、チャネル領域R上に担持した抗体と抗原が結合した抗原抗体結合物が生成する。なお、チャネル領域Rは、金以外であっても抗体を担持できるものであればいかなるものでもよい。
【0023】
また、本実施形態において、チャネル領域A、及びチャネル領域RのSAWの伝搬方向の長さは、チャネル領域Aに比べてチャネル領域Rの方が短く設定されている。以下では、
図1に示すように、チャネル領域AのSAWの伝搬方向の長さを長さL1、チャネル領域RのSAWの伝搬方向の長さを長さL2とする。なお、長さL2の長さL1に対する比率の設定の仕方については後述する。
【0024】
図2を参照して、SAWセンサ1_1における送信電極部側の封止構造14−1は、封止壁15−1と封止天井16−1とを備えている。なお、封止壁15−1と封止天井16−1との間には両者を接着するための接着層が設けられるが、
図2においては省略している。封止壁15−1は、IDT11−1を覆う壁であり、圧電素子基板10上に矩形状に形成される。封止壁15−1は、例えば感光性樹脂により構成される。
また、封止天井16−1は、封止壁15−1の上側を塞ぎ、IDT11−1を外部から密閉するための天井である。封止天井16−1は、封止天井16−1の平面領域内に封止壁15−1が収まるように封止壁15−1の上側に配置される。封止天井16−1は、例えばガラス基板で構成される。なお、封止壁15−1と封止天井16−1との間には、不図示の接着層が設けられ、封止壁15−1と封止天井16−1との間を密封して接着する。
封止構造14−1は、IDT11−1を外部から密閉してIDT11−1上に空間を形成するように覆い、IDT11−1が液体と接触することを防ぐ封止構造である。
【0025】
また、SAWセンサ1_1における受信電極部側の封止構造14−2は、封止構造14−1と同様に、封止壁15−2と封止天井16−2とを備え、IDT11−2を外部から密閉してIDT11−2上に空間を形成するように覆い、IDT11−2が液体と接触することを防ぐ封止構造である。
これら封止構造14−1、及び封止構造14−2により、検出領域における雰囲気(例えば湿度)の変化があったとしても、IDT11−1、及びIDT11−2は、その影響を受けにくくなる。
SAWセンサ1_2は、SAセンサ1_1と同様に、IDT11_3を保護するため、封止構造14−1と同様の封止構造14−3、IDT11_3を保護する封止構造14−2と同様の封止構造14−4を有している。
【0026】
IDT11−1、及びIDT11−3のいずれか一方は、RFスイッチ22を介して正弦波交流信号が入力される。IDT11−1、及びIDT11−3のいずれか一方は、入力された正弦波交流信号に対応するSAWを圧電素子基板の表面に励起する。IDT11−2、及びIDT11−4のいずれか一方は、圧電素子基板10の表面を伝播してきたSAWを電気信号に変換する。IDT11−2、及びIDT11−4のいずれか一方は、受信した電気信号(検出信号と呼ぶ)を後述する位相・振幅検出回路23に出力する。
SAWセンサ1の測定者が、例えば、チャネル領域A、チャネル領域Rの上の多孔性基材に溶液を滴下すると、それぞれの多孔性基材は、滴下された溶液を、毛細管現象により多孔性基材の内部及びチャネル領域A、チャネル領域Rのそれぞれの表面に移送し、保持する。
つまり、多孔性基材が、平面視において検出領域に重ならない部分を有していても、多孔性基材が溶液をチャネル領域A、チャネル領域Rの表面に移送し、保持することで、チャネル領域A、チャネル領域Rを、滴下された溶液により濡らすことができる。
【0027】
SAWセンサ1を用いた溶液測定には、
図6に示すセンサ回路20が使用される。
センサ回路20は、SAWセンサ1、交流信号源21、RFスイッチ22、位相・振幅検出回路23、PC24を含んで構成される。
交流信号源21は、例えば、250MHzの正弦波交流信号を発生する。この正弦波交流信号は、RFスイッチ22によりSAWセンサ1のIDT11−1、及びIDT11−3のいずれか一方と、位相・振幅検出回路23とに出力する。
なお、SAWセンサ1から出力される信号に含まれる主とする信号以外の直達波や他のバルク波などを含むノイズ等の妨害信号が十分に小さい場合には、交流信号源21からの正弦波交流信号は連続波でよい。しかしながら、直達波やバルク波などを含むノイズ等の妨害信号が大きい場合には、正弦波交流信号を周期的なバースト信号に変換して、SAWセンサ1に入力してもよい。このバースト信号の周期は、例えば、SAWが圧電素子基板10の表面のIDT11−1からIDT11−2までの間を進行するのに要する時間より大きくなるようにする。バースト信号に変換するには、図示しない既知のバースト回路を交流信号源21の直後に直列に挿入する。
【0028】
位相・振幅検出回路23は、SAWセンサ1のIDT11−2、及びIDT11−4のいずれか一方から入力された検出信号、及び交流信号源21から入力された正弦波交流信号に基づいて、SAWが圧電素子基板を伝播するのに要した時間である伝播時間による位相変化と振幅変化を算出する。具体的には、位相・振幅検出回路23は、正弦波交流信号の入力から、検出信号の入力までに要した伝播時間による位相変化と振幅の減衰量を検出する。位相・振幅検出回路23は、検出した位相変化と振幅の減衰量をPC24に出力する。
PC24は、位相・振幅検出回路23から入力された位相変化と振幅の減衰量に基づいて、表面の抗体と特異的に反応した溶液中の抗原の量と種類を判定し、判定結果を表示する。
【0029】
ここで、SAWの位相変化と振幅の減衰量について説明する。SAWは、圧電素子基板10の表面近傍に集中して伝播する音響波である。圧電素子基板10は、その表面に物質が吸着すると、その表面の単位体積当たりの質量と粘性が変化する。その結果、SAWの伝播速度と振幅が変化する。従って、SAWの伝播時間が変化し、振幅の減衰量が変化する。本実施形態では、位相の変化量と振幅の減衰量の変化量を利用して溶液中に含まれる抗原を測定する。
具体的には、SAWセンサ1の測定者は、従来と相違して、
図1に示すチャネル領域A、及びチャネル領域Rのいずれの領域にも、その上にある多孔性基材に抗原を含んだ溶液を滴下し、チャネル領域A、及びチャネル領域Rの上を溶液で濡らし、SAWの伝播時間による位相変化をチャネル毎に測定する。チャネル領域Aにおける位相変化とチャネル領域Rにおける位相変化との差が、抗原抗体反応によってチャネル領域Aに生成した抗原抗体結合物に起因する位相の変化量となる。
【0030】
PC24は、チャネル領域Aの位相変化をメモリ内に記憶しておき、この位相変化と、チャネル領域Rの位相変化との差を算出することで、位相の変化量を算出する。PC24は、位相の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する。振幅の減衰量についても同様であり、振幅の減衰量の変化量に基づいて、溶液に含まれる抗原を特定する。
【0031】
次に、チャネル領域RのSAWの伝搬方向の長さL2を、チャネル領域AのSAWの伝搬方向の長さL1に対して、どのような比率で設定するかについて、詳述する。
なお、以下の説明において、実測のデータとして非特許文献1に記載の実験データを用いる。
まず、本実施形態のチャネル領域Aを例にとると、負荷が空気である状態(溶液が滴下されず、SAWセンサ1が空気に晒されている初期状態、以下空気負荷ともいう)から、負荷が試料用水である状態(例えば、SAWセンサ1に純水を滴下した状態、以下純水負荷ともいう)に移行すると、入力信号に対する出力信号の位相の変化量は20.4dBから38.4dBへと変化する(非特許文献1のFig.3.(a)参照)。すなわち、外乱を受けることによるチャネル領域Aの位相の変化量は18dB(=38.4dB−20.4dB)である。
【0032】
また、チャネル領域Aを、抗原としてHSA(ヒトの血清アルビン)を含む溶液で濡らしたことによる位相の変化量が、Fig.7.(b)に示す検量線に示されている。この検量線は、横軸はHSAの濃度(μg/ml)を示し、縦軸は単位辺りの損失Δα/kを示している。例えば、HSA濃度10μg/mlでは、単位辺りの損失Δα/kは、30ppmとなっている。単位辺りの損失Δα/kは、下記式により、チャネル領域Aにおける位相の変化量である損失A[dB]に変換可能である。
すなわち、
Δα/k=−Aλ×10
6/(L×8.686×2π)
である。
ここで、Lは滴下する表面の伝搬距離(すなわち、上記L1)であり、λはSAWの波長であり、8.686は所謂Napaerと呼ばれるエネルギー量の単位変換の際の定数である。なお、これらの変換は、
図6に示す位相・振幅検出回路23で行うものとする。
例えば、単位辺りの損失Δα/kが30ppmの場合、上記変換式により、チャネル領域Aでの位相の変化量は0.5dBとなる。
【0033】
ここで、チャネル領域Aでは目的の変化である、抗原抗体反応による小さな変化(上記例では0.5dBの変化量)を検出し、チャネル領域Rでは外乱による大きな変化(上記例では18dBの変化量)を検出するためには、長さL2は長さL1に対して1/36倍の比率であればよい。
例えば、非特許文献1に記載のバイオセンサでは伝搬距離6mmのため、チャネル領域Aの長さL1をL1=6mmとして、チャネル領域Rの長さL2を6mm×1/36=0.167mmとすればよい。このようにすれば、
図6に示すセンサ回路20によるSAWセンサ1の測定限界を0.05dB/divとした場合、チャネル領域Rでの抗原抗体反応による位相の変化量は0.5dB×1/36=0.0193dBとなり、チャネル領域Rにおけるバイオ変化(抗原抗体反応)による位相の変化量は測定系により無視することが可能となる。
【0034】
以上を概念的にまとめるため、センサ1において、チャネル領域Aでの外乱による位相の変化量(センサ回路20による検出値)をCPext、チャネル領域Aでの抗原抗体反応による位相の変化量(センサ回路20による検出値)をCPreaとする。
すなわち、チャネル領域Aにおける位相の変化量CP_Aは、
CP_A=CPext+CPrea
となる。
一方、位相の変化量CP_Bは、
CP_B=(チャネル領域Rでの外乱による位相の変化量)+(チャネル領域Rでの抗原抗体反応による位相の変化量)
=CPext×(L2/L1)+CPrea×(L2/L1)
となる。
【0035】
チャネル領域Rでの外乱による位相の変化量は、CPext×(L2/L1)となり、この値はチャネル領域Aでの外乱による位相の変化量に比べ、測定値自体が小さいので、ばらつきの量が小さく、センサ回路20における位相・振幅検出回路23において検出され、PC24に入力される。
一方、チャネル領域Rでの抗原抗体反応による位相の変化量は、CPrea×(L2/L1)となり、この値はチャネル領域Aでの外乱による位相の変化量とは異なり、測定限界以下の値となるので、センサ回路20における位相・振幅検出回路23では検出されず、PC24には入力されない。
【0036】
PC24には、チャネル領域Rの位相の変化量として、ばらつきの小さいチャネル領域Rでの外乱による位相の変化量CPext×(L2/L1)が入力され、測定限界以下の値であるチャネル領域Rでの抗原抗体反応による位相の変化量CPrea×(L2/L1)は入力されない。PC24は、このように入力される、ばらつきの小さい外乱による位相の変化量CPext×(L2/L1)を、(L1/L2)倍して、つまりばらつきが少ないまま元の外乱の量に戻して、これをチャネル領域Aにおける位相の変化量CP_Aから減算する。これにより、PC24は、チャネル領域Aでの抗原抗体反応による位相の変化量(センサ回路20による検出値)から、抗原を特定することができる。
【0037】
上記のように、本実施形態のSAWセンサ1では、基準信号を入力し、抗原抗体反応が生じることにより第1の測定信号を出力するSA1センサ1_1と、基準信号を入力し、第1弾性表面波素子と同じ前記抗原抗体反応が生じることにより第2の測定信号を出力する第2弾性表面波素子と、を有している。SAWセンサ1は、第1の測定信号と第2の測定信号との位相差、及び振幅比とから抗原抗体反応における変化量を検出して抗原を特定する弾性表面波センサであって、SA1センサ1_1の基準信号を伝搬させる方向の長さL1とSA1センサ1_2の基準信号を伝搬させる方向の長さL2との比率が、SA1センサ1_1における抗原抗体反応において目標とする変化量と、SA1センサ1_1における負荷が空気である状態と負荷が試料用水である状態との間における変化量との比率に応じて設定される、ことを特徴とする。
【0038】
なお、測定限界の値の例えば5倍の値(弾性表面波センサの検出限界値に応じて定まる値)を、測定しやすい損失のレンジと設定して、上記例で言えば0.05dB×5/18dB以下の値とすれば、チャネル領域Bでのバイオ変化は上記と同様無視できる。すなわち、(長さL1/長さL2)を、弾性表面波センサの検出限界値に応じて定まる値の、チャネル領域Aにおける空気負荷と純水負荷との間における変化量に対する値(比率)以下とすれば、上記説明と同様、チャネル領域Aでの抗原の特定を行うことができる。
【0039】
本実施形態のSAWセンサ1によれば、チャネル領域Rにおける外乱による変化量のばらつきを抑えることができるので、チャネル領域Aにおける抗原抗体反応での変化量を検出しやすくなり、目的とする抗原を特定するための変化量を検出しやすくすることが可能となる。
また、上述した差動検出では、チャネル領域Aとチャネル領域Rとで、同じ表面構造にできるので、測定が簡易化できる。つまり、チャネル領域A、Bいずれの領域においてもチャネル領域上の多孔性機材に抗原を含んだ溶液を滴下すればよいため、測定を容易に行うことができる。
また、略同じ量の外乱による変換量をそのままキャンセルせず、チャネル領域Rの変化量の値を(長さL1/長さL2)倍すればよいため、チャネル領域Rはチャネル領域Aより小さい面積で構成できるため、SAWセンサ1の検出領域の占有率を低減できる。
このように、本発明によれば、測定の精度を向上できるとともに、簡易に測定でき、かつ、検出領域の小さい弾性表面波センサを提供することができる。
【0040】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について説明する。
なお、以下に示す各実施形態の説明では、図面において前述と同様な構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
本実施形態では、チャネル領域Aを有するSAWセンサ2_1と、チャネル領域Rを有するSAWセンサ2_2とにおいて、入力電極を共通とする構成について説明する。
【0041】
図3は、本発明の第2の実施形態に係るSAWセンサ2の構成を示す模式図である。
図3に示すように、SAWセンサ2はSAWセンサ2_1とSAWセンサ2_2とを有する。
図3に示すSAWセンサ2では、
図1に示すSAWセンサ1に対して、SAWセンサ1_1のIDT11−1(送信電極11−1a、及び送信電極11−1b)とSAWセンサ1_2のIDT11−3(送信電極11−3a、及び送信電極11−3b)とを共通とし、IDT11−1としている。また、共通化されたIDT11−1を間に挟んで、チャネル領域Aとチャネル領域Rとが互いに反対側に配置されている。
測定に関する方法は、第1の実施形態において説明した測定方法と同じであり、
図6に示すセンサ回路20を用いて測定され、チャネル領域Aにおける抗原が特定される。
SAWセンサ2では、入力電極を削減できるので、サイズの小さい弾性表面波センサを提供することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第3の実施形態について説明する。
本実施形態では、SAWセンサ3_1と、SAWセンサ3_2とにおいて、入力電極を共通とし、また、チャネル領域についても共通とする構成について説明する。
図4は、本発明の第3の実施形態に係るSAWセンサ3の構成を示す模式図である。
図4に示すように、SAWセンサ3はSAWセンサ3_1とSAWセンサ3_2とを有する。
図4に示すSAWセンサ3では、
図1に示すSAWセンサ1に対して、SAWセンサ1_1のIDT11−1(送信電極11−1a、及び送信電極11−1b)とSAWセンサ1_2のIDT11−3(送信電極11−3a、及び送信電極11−3b)とを共通とし、IDT11−1としている。また、共通化されたIDT11−1と、SAWセンサ3_1のIDT11−2(受信電極11−2a、及び受信電極11−2b)、及びSAWセンサ3_2のIDT11−4(受信電極11−4a、及び受信電極11−4b)電極との間に、チャネル領域Aとチャネル領域Rとを共通化したチャネル領域Cが設けられる。
【0043】
なお、IDT11−2、及びIDT11−4の高さ(SAWの伝搬方向と垂直な方向の長さ)は、IDT11−1に比べておおよそ半分に設定され、SAWセンサ3の高さがIDT11−1の高さとなるように設定される。
測定に関する方法は、第1の実施形態において説明した測定方法と同じであり、
図6に示すセンサ回路20を用いて測定され、チャネル領域Aにおける抗原が特定される。
SAWセンサ2では、入力電極を省略できるとともに、チャネル領域を共通化できるので、さらにサイズの小さい弾性表面波センサを提供することができる。また、チャネル領域C上の多孔性基材に、抗原を含む溶液を滴下すれば、SAWセンサ3_1のチャネル領域とSAWセンサ3_2のチャネル領域において抗原抗体反応が起きるので、測定の際、抗原を含む溶液を滴下するという作業を繰り返し行う必要がなくなり、簡易な測定を行うことができる。
【0044】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。例えば、上記の各実施形態では、送信電極及び受信電極を用いた例を示したが、受信電極の代わりにSAWの反射体(反射器)を設け、送信電極が受信電極の機能を兼ねるようにしてもかまわない。
【0045】
また、実施形態の説明では、測定対象の変化を抗原抗体反応、外乱を空気と水の場合としている。しかしながら、測定対象の変化は、抗原抗体反応に限られることはない。また、外乱は、空気と水の場合に限らず、他に温度による特性変化や、対象以外の抗原による非特異的な変化、などであってもよい。すなわち、本願発明は、測定対象における目標の変化量が外乱による変化量に対して小さな場合において、適用可能な発明である。
【0046】
また、実施形態の説明では、
図2に示すように、多孔性基材13を設置しているが、これは必ずしも必要ではない。多孔性基材13を設けずに、溶液を反応領域薄膜12の表面へ滴下することは可能である。