(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(A)バナジウム化合物、(B)酸、及び、(C)酸化剤の存在下で、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び/又は、置換もしくは未置換のチオフェノールを含むモノマーを重合する重合反応工程を有し、
前記重合反応工程において、全重合反応時間を1として、重合反応時間が0.2〜0.8である重合反応途中に前記(A)バナジウム化合物及び/又は前記(B)酸を追加添加し、
前記(A)バナジウム化合物の初期配合量が、前記置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、前記置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜3モルである、ポリアリーレンスルフィドの製造方法。
前記(B)酸の初期配合量が、前記置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、前記置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜3モルである、請求項1に記載のポリアリーレンスルフィドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、(A)バナジウム化合物、(B)酸、及び、(C)酸化剤の存在下で、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び/又は、置換もしくは未置換のチオフェノールを含むモノマーを重合する重合工程を有し、上記重合工程において、全重合時間を1として、重合時間が0.2〜0.8である重合途中に上記(A)バナジウム化合物及び/又は上記(B)酸を追加添加する方法である。この製造方法では、重合途中の所定の期間内に(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を追加添加することより、重合を継続することができる。
【0021】
重合工程においては、ポリアリーレンスルフィドの原料となるモノマーとして、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び/又は、置換もしくは未置換のチオフェノールを用いる。なお、ジフェニルジスルフィド及びチオフェノールはそれぞれ、置換のものと未置換のものとを併用してもよい。すなわち、ポリアリーレンスルフィドの原料となるモノマーは、置換ジフェニルジスルフィド、未置換ジフェニルジスルフィド、置換チオフェノール、及び、未置換チオフェノールからなる群より選択される一種又は二種以上のモノマーを含む。
【0022】
置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドとしては、例えば、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【化3】
[式(I)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7及びR
8は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。]
【0023】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例としては、ジフェニルジスルフィド、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタメチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジエチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサエチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタエチルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’−ジイソプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサイソプロピルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタイソプロピルジフェニルジスルフィドなどが挙げられる。これらの中でも、原料の入手性の観点から、ジフェニルジスルフィド、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド、3,3’−ジメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,6,6’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,6,6’−ヘキサメチルジフェニルジスルフィド、2,2’,3,3’,5,5’,6,6’−オクタメチルジフェニルジスルフィドが好適に使用できる。
【0024】
また、これらの置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドは、置換もしくは未置換のチオフェノールの酸化によっても容易に調製できる。そのため、重合工程においては、上述した置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドの前駆体として、置換もしくは未置換のチオフェノールも使用することができる。置換もしくは未置換のチオフェノールとしては、例えば、下記一般式(II)で表される化合物が挙げられる。
【化4】
[式(II)中、R
9、R
10、R
11及びR
12は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基を表す。]
【0025】
上記一般式(II)で表される化合物の具体例としては、上記一般式(I)で表される化合物の具体例の前駆体となる化合物が挙げられるが、それらの中でも、原料の入手性の観点から、チオフェノール(ベンゼンチオール)、2−メチルベンゼンチオール、3−メチルベンゼンチオール、2,3−ジメチルベンゼンチオール、2,5−ジメチルベンゼンチオール、2,6−ジメチルベンゼンチオール、3,5−ジメチルベンゼンチオールが好適に使用できる。これらの置換もしくは未置換のチオフェノールは、上述した置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドと同様に使用することができる。なお、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィドを用いた場合でも、その前駆体である置換もしくは未置換のチオフェノールを用いた場合でも、置換基の有無や種類が同じであれば、PASとしては同等のものが得られる。
【0026】
また、重合工程において、モノマーとして置換基を有するジフェニルジスルフィド及び/又は置換基を有するチオフェノールを用いた場合、合成されたポリマーのモノマーに対する溶解度が向上し、より高分子量体が得られる傾向がある。特に、置換基が炭素数1〜8のアルキル基、アラルキル基又はアリール基であると、合成されたポリマーがモノマーにより一層溶解しやすくなり、より高分子量化するため好ましい。アラルキル基は炭素数7〜14であることが好ましく、アリール基は炭素数6〜14であることが好ましい。炭素数が上記範囲内であると、合成されたポリマーがモノマーにより一層溶解しやすくなり、より高分子量化するため好ましい。また、置換基を有さないジフェニルジスルフィド及び/又は置換基を有さないチオフェノールを用いた場合、置換基を有するものに比べて原料の入手性が極めて高く、工業的に有利であるとともに、従来のポリフェニレンスルフィドと同じポリマーを合成することができる。本発明の製造方法は、置換基を有さないポリフェニレンスルフィド、及び、置換基を有するポリフェニレンスルフィドのいずれの製造にも適した方法である。上述した置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド及び置換もしくは未置換のチオフェノールは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、モノマーは、未置換ジフェニルジスルフィド及び未置換チオフェノールのうちの少なくとも一方(以下、「未置換モノマー」と言う)と、置換ジフェニルジスルフィド及び置換チオフェノールのうちの少なくとも一方(以下、「置換モノマー」と言う)とを含んでいることも好ましい。このように、入手容易な未置換モノマーに置換モノマーを共重合させることにより、工業的に有利でありながら、未置換モノマーを単独で用いた場合と比較して、生成するポリマーの、モノマー及び/又は溶媒に対する溶解度を向上させることができ、より高分子量のポリマーを得ることができる。未置換モノマーと置換モノマーとを併用する場合の両者の比率は特に限定されない。所望の物性を有するポリマーを得るために、未置換モノマーと置換モノマーの割合を適宜決めればよい。
【0028】
(A)バナジウム化合物は、上記モノマーの酸化重合触媒として機能するものである。(A)バナジウム化合物としては、好ましくは、分子内にV=O結合を有するオキソバナジウム化合物が使用される。オキソバナジウム化合物として具体的には、N,N’−ビスサリチリデンエチレンジアミンオキソバナジウム、フタロシアニンオキソバナジウム、テトラフェニルポルフィリンオキソバナジウムなどが挙げられる。その他に下記一般式(III)で表されるバナジウム化合物も使用される。
【化5】
[式(III)中、R
13、R
14、R
15及びR
16はそれぞれ独立に、炭素数1〜6のアルキル基、又は、炭素数6〜8のアリール基を表し、R
17及びR
18はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は、炭素数6〜8のアリール基を表す。]
【0029】
上記一般式(III)で表されるバナジウム化合物としては、4価のオキソバナジウムに、β−ジケトンのアニオンが2分子付加した構造を持つものであれば使用することができる。具体例を示すと、バナジル(IV)アセチルアセトネート、バナジル(IV)ベンゾイルアセトネート(R
13=R
16=メチル基、R
14=R
15=フェニル基、R
17=R
18=水素原子)が挙げられる。
【0030】
上述した(A)バナジウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(A)バナジウム化合物の添加量は、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜5モルであることが好ましく、0.015〜3モルであることがより好ましく、0.02〜2モルであることが更に好ましい。この添加量が0.01モルを下回ると、重合反応が進行しにくくなる。添加量が5モルを上回ると、得られるポリマー中に(A)バナジウム化合物が残存しやすくなり、重合は進行するものの残存した(A)バナジウム化合物の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0032】
(B)酸としては、硫酸、酢酸、メタンスルフォン酸、ベンゼンスルフォン酸、トルエンスルフォン酸などの酸のほか、下記一般式(IV)で表される有機酸を使用することができる。
【化6】
[式(IV)中、Rfは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。]
【0033】
上記一般式(IV)で表される有機酸の具体例としては、トリフルオロメタンスルフォン酸、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸、ペンタフルオロエタンスルフォン酸、ヘプタフルオロプロパンスルフォン酸、ヘプタフルオロイソプロパンスルフォン酸、ノナフルオロブタンスルフォン酸、ナフィオン(登録商標)などが挙げられる。これらの中でも、入手性の観点から、トリフルオロメタンスルフォン酸、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を用いることが好ましい。
【0034】
また、(B)酸としては、下記一般式(V)で表される有機酸を使用することもできる。
Rf−CO
2H (V)
[式(V)中、Rfは炭素数1〜8のパーフルオロアルキル基を示す。]
【0035】
上記一般式(V)で表される有機酸の具体例としては、トリフルオロ酢酸、パーフルオロプロピオン酸、パーフルオロ酪酸などが挙げられる。これらの中でも、入手性の観点から、トリフルオロ酢酸が好ましい。
【0036】
(B)酸としては、酸化重合に必要な酸素、あるいは空気を流通させる際に、酸が揮散してしまうと反応が進行しにくくなるので、なるべく高沸点の酸を用いることが好ましい。
【0037】
上述した(B)酸は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(B)酸の添加量は、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜5モルであることが好ましく、0.015〜3モルであることがより好ましく、0.02〜2モルであることが更に好ましい。この添加量が0.01モルを下回ると、重合反応が進行しにくくなる。添加量が5モルを上回ると、得られるポリマー中に(B)酸が残存しやすくなり、重合は進行するものの残存した(B)酸の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0039】
(C)酸化剤は、(A)バナジウム化合物を酸化重合触媒として有効に機能させるために用いられる。(C)酸化剤として具体的には、ジシアノジクロロベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、1,4−ジフェノキノン、テトラメチルジフェノキノン、テトラシアノキノジメタン、テトラシアノエチレン、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、四酢酸鉛、酸酢酸タリウム、セリウム(IV)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネートの如き酸化性化合物のほか、酸素ガスや空気などの酸素分子を含むガスなどが挙げられる。これらの中でも酸素分子を含むガスが好ましい。酸素分子を含むガスとして具体的には、空気、酸素ガスの他、酸素と、窒素、アルゴンなどの不活性ガスとの混合物などが挙げられる。これらの中でも酸素ガス、空気のほか、酸素と窒素との混合物が好ましく使用される。酸素と窒素との混合物を使用する場合、酸素濃度は任意である。
【0040】
上述した(C)酸化剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
重合工程において、反応温度は任意である。しかしながら、本重合反応では水が副生され、水はバナジウム化合物に影響を与えるため、本系から除去することが好ましい。反応温度が100℃以下の場合は、先に記載した(B)酸の無水物を併用して副生する水を分解することが好ましい。反応温度を100℃を超える温度に設定すれば、(B)酸の無水物を使用することなく重合を進行させることができる。高分子量体を得るためにも、反応温度は100℃を超える温度とすることが好ましく、140℃以上の温度とすることがより好ましい。なお、反応温度をモノマーの融点以上とすれば、溶媒を用いることなく溶融重合することが可能となる。モノマーの融点未満であれば、溶媒を用いて溶液重合することが好ましい反応形態である。また、反応温度の上限は特に限定されないが、得られるポリマーの劣化を抑制する観点から、反応温度は300℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、250℃以下であることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、(C)酸化剤として酸素分子を含むガスなどの気体を使用する場合、圧力は特に限定はなく、常圧〜10MPaまでが好ましく選定される。過度の圧力は肉厚の装置が必要となり、コストを上昇させるため、好ましくない。また、特に圧力を高く、かつ温度を高くした場合、得られるポリアリーレンスルフィドのスルフィド部位を酸素が酸化して、スルフォキシドやスルフォンを与えるので、注意を要する。その点を考慮すると、圧力は常圧〜1MPa程度が好適である。なお、ガスの供給方法は、連続式でもバッチ式でもよい。
【0043】
本発明において、重合工程での反応時間は特に限定されないが、通常、0.1〜240時間である。反応時間が0.1時間よりも短い場合には、所望の重合が進行しない傾向がある。一方、反応時間が240時間を越えると、スルフォキシドやスルフォンが形成される可能性が高くなる。適切な反応時間は1〜100時間であり、より好ましくは2〜80時間である。
【0044】
本発明においては、必要に応じて反応に溶媒を使用することができる。反応には強酸を使用することから、酸に影響を与えるような溶媒、例えばN−メチルピロリドンなどは好ましくない。好ましい溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1,3−ジクロロベンゼンなどが挙げられる。これらの溶媒の沸点が反応温度以下である場合には、密閉容器を使用しての反応が好ましい。
【0045】
本発明においては、上述した条件でモノマーの重合を行っている最中に、(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を反応系に追加添加して重合を継続することが必須である。本発明者らは従前の重合方法において、反応時間を長時間にすると、分子量が低下してくる現象を触媒の劣化が原因と捉え、(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を追加添加して、劣化した触媒の悪影響を新たに添加した触媒((A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸)が覆い隠すことで、分子量が向上した高分子量体を得ることができるようにした。より優れた分子量向上効果を得る観点から、モノマーの重合途中に少なくとも(A)バナジウム化合物を追加添加することが好ましく、(A)バナジウム化合物及び(B)酸の両方を追加添加することがより好ましい。
【0046】
(A)バナジウム化合物を追加添加する際の添加量は、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜3モルであることが好ましく、0.02〜2モルであることがより好ましく、0.03〜1であることが更に好ましい。この追加添加量が0.01モルを下回ると、追加添加の効果が現れにくくなる。追加添加量が3モルを超えると、得られるポリマー中に(A)バナジウム化合物が残存しやすくなり、残存した(A)バナジウム化合物の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0047】
また、(A)バナジウム化合物を追加添加する場合、重合開始前に配合する初期の(A)バナジウム化合物の量をAモル、追加添加量をBモルとして、B/Aが0.1〜10であることが好ましく、0.1〜9であることがより好ましく、0.3〜5であることが更に好ましい。追加添加を複数回行う場合、Bは合計の追加添加量を示す。B/Aが0.1を下回ると、追加添加の効果が現れにくくなる。B/Aが10を超えると、得られるポリマー中に(A)バナジウム化合物が残存しやすくなり、残存した(A)バナジウム化合物の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。なお、B/Aが10を超える場合でも、(A)バナジウム化合物の初期配合量と追加添加量の合計量が過剰でなければ、上記コストアップの問題は生じないが、その反面、相対的に初期配合量が少なくなるため、追加添加を行う前の重合反応が進行しにくくなる。
【0048】
また、(A)バナジウム化合物の初期配合量と追加添加量との合計量(A+B)は、0.02〜5モルであることが好ましく、0.03〜3モルであることがより好ましく、0.04〜2モルであることが更に好ましい。この合計量が0.02モルを下回ると、重合反応が進行しにくくなる。合計量が5モルを上回ると、得られるポリマー中に(A)バナジウム化合物が残存しやすくなり、残存した(A)バナジウム化合物の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0049】
(B)酸を追加添加する際の添加量は、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び、置換もしくは未置換のチオフェノールの総量100モルに対して、0.01〜3モルであることが好ましく、0.02〜2モルであることがより好ましく、0.03〜1であることが更に好ましい。この追加添加量が0.01モルを下回ると、追加添加の効果が現れにくくなる。追加添加量が3モルを超えると、得られるポリマー中に(B)酸が残存しやすくなり、残存した(B)酸の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0050】
また、(B)酸を追加添加する場合、重合開始前に配合する初期の(B)酸の量をCモル、追加添加量をDモルとして、D/Cが0.1〜10であることが好ましく、0.1〜9であることがより好ましく、0.3〜5であることが更に好ましい。追加添加を複数回行う場合、Dは合計の追加添加量を示す。D/Cが0.1を下回ると、追加添加の効果が現れにくくなる。D/Cが10を超えると、得られるポリマー中に(B)酸が残存しやすくなり、残存した(B)酸の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。なお、D/Cが10を超える場合でも、(B)酸の初期配合量と追加添加量の合計量が過剰でなければ、上記コストアップの問題は生じないが、その反面、相対的に初期配合量が少なくなるため、追加添加を行う前の重合反応が進行しにくくなる。
【0051】
また、(B)酸の初期配合量と追加添加量との合計量(C+D)は、0.02〜5モルであることが好ましく、0.03〜3モルであることがより好ましく、0.04〜2モルであることが更に好ましい。この合計量が0.02モルを下回ると、重合反応が進行しにくくなる。合計量が5モルを上回ると、得られるポリマー中に(B)酸が残存しやすくなり、残存した(B)酸の除去に多大なエネルギーを割くため、コストアップの要因となる。
【0052】
(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を追加添加するタイミングは、全重合時間を1として、重合時間が0.2〜0.8の範囲である。例えば全重合時間が20時間とすれば、反応開始後4時間以降から16時間までに、少なくとも1回、(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を追加添加する。なお、追加添加は、重合時間0.2〜0.8の期間内に少なくとも1回行いさえすれば、それ以外の期間、すなわち0.2よりも前または0.8よりも後に更に行ってもよい。(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を追加添加するタイミングは、全重合時間を1として、好ましくは重合時間0.25〜0.75の範囲であり、より好ましくは重合時間0.3〜0.7の範囲である。重合時間0.2よりも短い時間で追加添加しても追加添加の効果はなく、追加添加した量を含めた量をはじめから加えた場合と実質的に同じになり、好ましくない。また、重合時間0.8以降に追加添加しても、実質的に追加添加効果はなく、後々除去する成分を添加するだけになり、好ましくない。
【0053】
(A)バナジウム化合物及び/又は(B)酸を添加する場合、それらの追加添加順序は任意であり、(A)バナジウム化合物だけ、あるいは(B)酸だけを追加添加しても、(A)バナジウム化合物の追加添加の後に(B)酸を追加添加しても、(B)酸の追加添加の後に(A)バナジウム化合物を追加添加してもよい。なお、追加添加する回数に何ら制限はなく、例えば、1度だけ追加添加する方法でも、1時間ごと等のように所定の時間を空けて複数回(断続的に)追加添加する方法でも、所定の期間に連続的に追加添加する方法でもよい。また、連続的に追加添加する期間を複数回設けてもよい。これらの追加添加は、モノマーや溶媒と一緒に添加することも可能である。
【0054】
重合工程では、重合反応中に、置換もしくは未置換のジフェニルジスルフィド、及び/又は、置換もしくは未置換のチオフェノールを含むモノマーを逐次的に添加することも可能である。反応後期には触媒である(A)バナジウム化合物が活性を維持しているにもかかわらず、反応するモノマー濃度が減少するため、重合反応が進行しにくくなるという問題がある。モノマーを適宜追加することで、重合停止を阻止することができる。
【0055】
重合工程で得られたポリマーには、(A)バナジウム化合物や(B)酸が残存している可能性があるため、得られたポリマーの洗浄を行うことが好ましい。洗浄方法に特に限定はない。例えば、得られたポリマーを粉砕して、有機溶媒で未反応モノマーやオリゴマー成分を抽出することができる。残ったポリマーは、水、酸、塩基などで洗浄することができる。また、得られたポリマーを溶媒に完全に、あるいは一部溶解し、水、酸、塩基などで洗浄することも可能である。その際使用できる溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼンなどに加え、N−メチルピロリドンなども挙げることができる。そのような溶媒には未反応モノマーやオリゴマーが溶出してくるので、必要に応じて精製をすることで、回収したオリゴマーやモノマーを原料として再利用することが可能である。一般にポリアリーレンスルフィドは溶媒に対する溶解度が低いため、少なくともポリマーの4質量倍の溶媒を加え、150℃以上に加熱することが必要である。その溶液状態で、水、酸、塩基などで洗浄することが好ましい。これらの洗浄剤として水系のものを使用する場合は、水の沸点以上の温度の溶液と接触させるため、圧力容器中で洗浄することが肝要である。実験室的には得られたポリマーを乳鉢などですりつぶし、ジクロロメタンに分散させて、メタノールと塩酸の混合液で洗浄する。このような方法で洗浄を行ってもよい。
【0056】
また、重合工程で得られたポリマーを、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ニトロメタン、ニトロベンゼン、N−メチルピロリドン、トルエン、キシレンなどの溶媒で抽出することも可能である。上記抽出を行うことによって、ポリマー中の低分子量成分が抽出・除去され、結果的に残ったポリマーの平均分子量を向上させることができる。
【0057】
また、本発明においては、温度条件等の種々条件を変えて複数段で重合を行う多段重合を行ってもよい。多段重合は、二段重合又は三段重合であることが好ましい。多段重合を行う場合、反応器はそのままで温度条件を変えたり触媒などを追加する方法を採用してもよいし、内容物を別の容器に移送し、そこで別途条件を設定する方法を採用してもよい。なお、二段目、三段目の重合条件は、先に記載した一段重合に相当する重合条件がそのまま適応できる。一段目、二段目及び三段目の重合条件は、それぞれ全く同じ条件でもよいし、温度や圧力、撹拌条件などを変えても構わない。
【0058】
以上説明した本発明の製造方法によれば、分子量及び融点の高いポリアリーレンスルフィドを効率的に得ることができる。具体的には、分子量はポリスチレン換算で、重量平均分子量Mwが4000以上のポリアリーレンスルフィドを得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例1で得られたポリマーの融点及び実施例及び比較例で得られたポリマーの分子量の測定方法は以下の通りである。また、各実施例及び比較例で得られたポリマー(精製PPS)の収率、数平均分子量及び重量平均分子量を、各重合条件と共に表1に示した。
【0060】
(融点の測定)
融点は、示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)製)を用い、リファレンスとしてα−アルミナを使用して測定した。測定条件は、室温から20℃/分で310℃まで昇温した際の吸熱ピークの頂点を融点とした。
【0061】
(分子量の測定)
高温GPC装置(ポリマーラボラトリーズ社製、商品名:PL−220)にカラム(PL gel 10μm MIXED−B LS)2本を連結し、示差屈折率検出器とした。試料5mgに1−クロロナフタレン溶媒5mlを加え、220℃で約30分加熱撹拌した。このように溶解した試料を、流速1ml/分で分析することで、分子量(数平均分子量Mn及び重量平均分子量Mw)を測定した。
【0062】
[実施例1]
50mlの三口フラスコに、メタジクロロベンゼン(15ml)、ジフェニルジスルフィド(5.45g)を加え、さらに、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H、沸点:210℃)を、モル比でジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:1:1となるように加えた。フラスコ内をスターラーチップで撹拌しながら、オイルバスにて150℃に加熱し、常圧の酸素ガスを10ml/分の流量で三口フラスコに導入した。20時間後に酸素ガスの供給を止め、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H)を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:0.5:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに20時間重合を継続した。追加添加したタイミングは、全重合時間を1として重合時間0.5の時である。その後、オイルバスをはずして室温まで冷却した。得られたポリマーを粉砕し、200mlのジクロロメタンに分散し、塩酸酸性メタノールで沈殿精製した。沈殿物をろ過、減圧乾燥することで、精製ポリフェニレンスルフィド(PPS)を得た。得られたPPSの融点は217℃、Mnは2900、Mwは11000であった。ここで得られたPPSを、ジクロロメタンを溶媒としてソックスレー抽出して低分子量成分を除去したところ、Mnは5200、Mwは59000のPPSが得られた。
【0063】
[実施例2]
50mlの三口フラスコに、メタジクロロベンゼン(15ml)、ジフェニルジスルフィド(5.45g)を加え、さらに、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H、沸点:210℃)を、モル比でジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:1:1となるように加えた。フラスコ内をスターラーチップで撹拌しながら、オイルバスにて150℃に加熱し、常圧の酸素ガスを10ml/分の流量で三口フラスコに導入した。20時間後に酸素ガスの供給を止め、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2=100:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに20時間重合を継続した。追加添加したタイミングは、全重合時間を1として重合時間0.5の時である。その後、オイルバスをはずして室温まで冷却した。得られたポリマーを粉砕し、200mlのジクロロメタンに分散し、塩酸酸性メタノールで沈殿精製した。沈殿物をろ過、減圧乾燥することで、精製ポリフェニレンスルフィド(PPS)を得た。得られたPPSの収率、Mn及びMw、並びに、ソックスレー抽出後のMn及びMwを表1に示す。
【0064】
[実施例3]
50mlの三口フラスコに、メタジクロロベンゼン(15ml)、ジフェニルジスルフィド(5.45g)を加え、さらに、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H、沸点:210℃)を、モル比でジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:1:1となるように加えた。フラスコ内をスターラーチップで撹拌しながら、オイルバスにて150℃に加熱し、常圧の酸素ガスを10ml/分の流量で三口フラスコに導入した。20時間後に酸素ガスの供給を止め、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:CHF
2CF
2SO
3H=100:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに20時間重合を継続した。追加添加したタイミングは、全重合時間を1として重合時間0.5の時である。その後、オイルバスをはずして室温まで冷却した。得られたポリマーを粉砕し、200mlのジクロロメタンに分散し、塩酸酸性メタノールで沈殿精製した。沈殿物をろ過、減圧乾燥することで、精製ポリフェニレンスルフィド(PPS)を得た。得られたPPSの収率、Mn及びMw、並びに、ソックスレー抽出後のMn及びMwを表1に示す。
【0065】
[実施例4]
50mlの三口フラスコに、メタジクロロベンゼン(15ml)、ジフェニルジスルフィド(5.45g)を加え、さらに、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H、沸点:210℃)を、モル比でジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:1:1となるように加えた。フラスコ内をスターラーチップで撹拌しながら、オイルバスにて150℃に加熱し、常圧の酸素ガスを10ml/分の流量で三口フラスコに導入した。10時間後に酸素ガスの供給を止め、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:CHF
2CF
2SO
3H=100:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに10時間重合を継続した。反応開始から20時間後(反応再開から10時間後)に酸素ガスの供給を止め、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:CHF
2CF
2SO
3H=100:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに10時間重合を継続した。反応開始から30時間後(反応再開から10時間後)に酸素ガスの供給を止め、1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸を、モル比で初期ジフェニルジスルフィド:CHF
2CF
2SO
3H=100:0.5となるように追加添加し、酸素ガスの導入を再開してさらに10時間重合を継続した。全重合時間は40時間であり、追加添加したタイミングは、全重合時間を1として重合時間0.25、0.5、0.75の時である。その後、オイルバスをはずして室温まで冷却した。得られたポリマーを粉砕し、200mlのジクロロメタンに分散し、塩酸酸性メタノールで沈殿精製した。沈殿物をろ過、減圧乾燥することで、精製ポリフェニレンスルフィド(PPS)を得た。得られたPPSの収率、Mn及びMw、並びに、ソックスレー抽出後のMn及びMwを表1に示す。
【0066】
[比較例1]
50mlの三口フラスコに、メタジクロロベンゼン(15ml)、ジフェニルジスルフィド(5.45g)を加え、さらに、バナジル(IV)アセチルアセトネート(VO(acac)
2)及び1,1,2,2−テトラフルオロエタンスルフォン酸(CHF
2CF
2SO
3H、沸点:210℃)を、モル比でジフェニルジスルフィド:VO(acac)
2:CHF
2CF
2SO
3H=100:1.5:1.5となるように加えた。フラスコ内をスターラーチップで撹拌しながら、オイルバスにて150℃に加熱し、常圧の酸素ガスを10ml/分の流量で三口フラスコに導入し40時間重合を継続した。追加添加は行わなかった。その後、オイルバスをはずして室温まで冷却した。得られたポリマーを粉砕し、200mlのジクロロメタンに分散し、塩酸酸性メタノールで沈殿精製した。沈殿物をろ過、減圧乾燥することで、精製ポリフェニレンスルフィド(PPS)を得た。得られたPPSの収率、Mn及びMw、並びに、ソックスレー抽出後のMn及びMwを表1に示す。
【0067】
【表1】