特許第6286821号(P6286821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286821フレキシブルデバイス用基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286821
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイス用基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/02 20060101AFI20180226BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180226BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20180226BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   H05B33/02
   H05B33/14 A
   C25D5/50
   C25D7/00 G
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-257541(P2012-257541)
(22)【出願日】2012年11月26日
(65)【公開番号】特開2014-107053(P2014-107053A)
(43)【公開日】2014年6月9日
【審査請求日】2015年10月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 茂嘉
(72)【発明者】
【氏名】下村 洋司
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−228647(JP,A)
【文献】 特開2008−243772(JP,A)
【文献】 特開平06−002104(JP,A)
【文献】 特開2012−133944(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/067146(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0155093(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50 − 51/56
H01L 27/32
H05B 33/00 − 33/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、
該金属基材の表面に形成されたNiめっき層と、
該Niめっき層の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層と、
前記Niめっき層と前記ガラス層との間に形成された、前記Niめっき層の表面の酸化物成分と前記ビスマス系ガラスのガラス成分との反応成分を有する密着層と、
を有することを特徴とするフレキシブルデバイス用基板。
【請求項2】
前記金属基材と前記Niめっき層との間にFe−Ni合金層を有することを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルデバイス用基板。
【請求項3】
前記ガラス層は、軟化点温度が330℃以上450℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルデバイス用基板。
【請求項4】
金属基材の表面にNiめっき層を形成するめっき工程と、
前記Niめっき層の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスのガラス層を形成するガラス層形成工程と、
を含み、
前記ガラス層形成工程では、前記Niめっき層の表面の酸化物成分と、前記ビスマス系ガラスのガラス成分とが反応することにより、前記Niめっき層と前記ガラス層との間に密着層が形成される
ことを特徴とするフレキシブルデバイス用基板の製造方法。
【請求項5】
前記めっき工程では、前記Niめっき層を形成した後に、熱処理を行い、前記金属基材と前記Niめっき層との間に合金層を形成することを特徴とする請求項4に記載のフレキシブルデバイス用基板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス層形成工程では、430℃以上580℃未満の焼成温度でかつ5分以上30分以内の焼成時間でガラスフリットを焼成することを特徴とする請求項4又は5に記載のフレキシブルデバイス用基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のフレキシブルデバイス用基板と、
該フレキシブルデバイス用基板の前記ガラス層上に形成された電極層と、
該電極層の上に形成された有機薄膜発光層と、
該有機薄膜発光層の上に形成された透明電極層と、を有することを特徴とする有機EL照明用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば有機EL照明や有機ELディスプレイ、有機太陽電池などの有機EL関連の基板に用いられるフレキシブルデバイス用基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラスチックフィルム基材上に、透明導電層、有機発光媒体層、陰極層を順次積層し、接着層を介して金属箔が積層された有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子の構造が示されている。
【0003】
特許文献2には、ステンレス基材上にポリイミド樹脂を平坦化した平坦化層を設けたフレキシブルデバイス用基板の構造が示されている。
【0004】
特許文献3には、ステンレス基材にシリカ系ガラスを成膜したフレキシブル太陽電池基板の構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−171806号公報
【特許文献2】特開2011−97007号公報
【特許文献3】特開2006−80370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で用いられているフィルム基材は、耐水分バリア性に乏しく、水分が有機EL素子の劣化を促進する可能性がある。特許文献2で用いられているポリイミド樹脂は吸水性が高く、有機EL基板に用いた場合、吸収した水分が有機EL素子の劣化を促進する可能性がある。特許文献3で用いられているシリカ系ガラスは、一般的に鉄やステンレスに比べて熱膨張係数が小さく、ステンレス基材に対する密着性に劣る。また、シリカ系ガラスは、曲げ加工や衝撃に弱いという問題を有している。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐水分バリア性がよく、且つ絶縁層の密着性が良好なフレキシブルデバイス用基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明のフレキシブルデバイス用基板は、金属基材と、該金属基材の表面に形成されたNiめっき層と、該Niめっき層の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスが層状に形成されたガラス層と、を有することを特徴としている。
【0009】
そして、本発明のフレキシブルデバイス用基板の製造方法は、金属基材の表面にNiめっき層を形成するめっき工程と、該Niめっき層の表面に電気絶縁性を有するビスマス系ガラスのガラス層を形成するガラス層形成工程と、を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属基材の表面にNiめっき層を形成し、そのNiめっき層の表面にガラス層を形成しているので、耐水分バリア性に優れ、金属基材との密着性に優れたビスマス系ガラスを積層した、軽量でフレキシブル性があるフレキシブルデバイス用金属基板を得ることができる。さらに、電気絶縁性のビスマス系ガラスを積層しているので、絶縁性、平坦性にも優れており、有機EL用基板に用いることができる。なお、上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態におけるフレキシブルデバイス用基板の断面構造を示す模式図。
図2】本実施の形態におけるフレキシブルデバイス用基板を用いた有機EL照明用基板の断面構造を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0013】
図1は、本実施の形態におけるフレキシブルデバイス用基板の一例について断面構造を模式的に示す図である。
【0014】
フレキシブルデバイス用基板11は、金属基材12と、金属基材12の表面に形成されたNiめっき層13と、Niめっき層13の表面に形成されたガラス層14を有する。
【0015】
金属基材12の厚みは、25μm以上200μm以下、より好ましくは50μm以上150μm以下、Niめっき層13の厚みは、0.1μm以上10μm以下、より好ましくは0.5μm以上5μm以下、ガラス層14の厚みは、1μm以上50μm以下、より好ましくは1μm以上20μm以下である。
【0016】
フレキシブルデバイス用基板11の製造方法は、金属基材12の表面にNiめっき層13を形成するめっき工程と、Niめっき層13の表面にガラス層14を形成するガラス層形成工程とを含む。
【0017】
金属基材12は、例えば、鋼板、ステンレス、チタンなどによって構成されており、熱膨張係数が、8×10−6/℃以上14×10−6/℃以下、より好ましくは9×10−6/℃以上13×10−6/℃以下のものを用いている。
【0018】
フレキシブルデバイス用基板11は、金属基材12の表面とNiめっき層13との間に、熱処理により形成された合金層を有する構成としてもよい。熱処理は、金属基材12にNiめっき層13を形成した後に行われる。熱処理は、300℃以上900℃以下、より好ましくは400℃以上800℃以下で、10分以内、より好ましくは0.1分以上3分以下の条件で行われる。
【0019】
Niめっき層は、Niめっきによって形成される層であればよく、電気めっき、無電解めっきのいずれで形成してもよい。連続生産性の観点から電気めっきを使用することが好ましい。めっきの工程は基材によって変化するが、例えば、鋼板上にNiめっきを施す場合、金属基板12にアルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、Niめっきを施す。Niめっき浴はワット浴、スルファミン酸浴など一般に広く使用されている浴を使用することができる。
【0020】
ガラス層14は、軟化点温度330℃以上450℃以下、より好ましくは360℃以上420℃以下の電気絶縁性を有するビスマス系ガラスによって構成されている。ビスマス系ガラスは、ガラス組成としてBiが70wt%以上を主成分としたものが好ましい。
【0021】
脱バインダを行なう温度が330℃であるため、330℃付近の低温で軟化するガラスの場合、バインダの分解ガスがガラス中に入り込み、ピンホールの原因となる。また、360℃より低温で軟化するビスマス系ガラスは、本焼成時に結晶化を起こしやすく、結晶化を起こしたビスマス系ガラスの表面は表面平滑性が失われてしまう。
【0022】
そして、450℃よりも高温の軟化点を有するガラスの場合、本焼成時に高い温度が必要となり、Niめっきの耐熱温度付近での製膜が困難となる。また、比較的低温で本焼成した場合、ガラスの溶けが不十分となり、表面の平滑性が失われる。
【0023】
ガラス層14は、粒径1μm以上10μm以下、より好ましくは、1μm以上5μm以下のガラスフリットを用いて、焼成することにより形成される。ガラス層14のガラス形成の焼成温度および焼成時間としては、430℃以上580℃未満、より好ましくは480℃以上520℃以下で、5分以上30分以下、より好ましくは10分以上20分以下の条件で行われる。焼成温度が430℃未満の場合は、ガラスの溶けが不十分になりやすく、580℃以上の場合は、ビスマス系ガラスの結晶化を抑制できず、表面粗度(Ra)が粗くなる。ガラス層形成後は、表面粗度(Ra)が10nm以下であることが好ましい。表面粗度(Ra)が10nmを超えると、フレキシブルデバイスとしたとき、電気的に短絡するおそれがある。
【0024】
上記構成を有するフレキシブルデバイス用基板11は、従来使用されていたガラス基板よりも軽量化を図ることができる。
【0025】
フレキシブルデバイス用基板11は、有機EL照明、有機ELディスプレイ、有機太陽電池などの有機EL関連の基板に用いることができる。
【0026】
図2は、本実施の形態におけるフレキシブルデバイス用基板11を用いた有機EL照明用基板の断面構造を示す模式図である。
【0027】
有機EL照明用基板21は、フレキシブルデバイス用基板11の絶縁膜であるガラス層14の上に、電極層(Ag、Al)22、有機薄膜発光層23、透明電極層24、透明封止層25、透明封止材26が積層され、フレキシブルデバイス用基板11の金属基材12の下に耐食性層27が積層されて構成されている。
【0028】
上記構成を有するフレキシブルデバイス用基板11によれば、金属基材の表面にNiめっき層を形成し、そのNiめっき層の表面にガラス層を形成しているので、耐水分バリア性に優れ、金属基材との密着性に優れたガラスを積層した、軽量でフレキシブル性があるフレキシブルデバイス用金属基板を得ることができる。さらに、電気絶縁性のビスマス系ガラスを積層しているので、絶縁性、平坦性にも優れており、有機EL用基板に用いることができる。
【0029】
有機系のポリマーなどの有機系高分子材料は網目構造を有しており、水蒸気化した水分が透過することを本質的に避けられない。これに対してガラスのような無機材料は有機系材料と異なり、密な構造で、水分の透過を完全に防ぐことが可能である。したがって、フレキシブルデバイス用基板11は、耐水分バリア性に優れている。
【0030】
金属基材とガラスを良好な密着状態にするには、金属基材表面で酸化物化した構成成分がガラス成分中の元素と反応することが必要である。フレキシブルデバイス用基板11は、ガラス層14のビスマス系ガラスとNiめっき層の表面に生じた酸化物が反応することにより、密着層が形成されることで良好な密着状態が得られる。
【実施例】
【0031】
[実験1]
フレキシブルデバイス用基板におけるガラス層の形成直後の密着性についての評価実験を行った。
【0032】
1.金属基材
(1)試料1、2(Niめっき鋼板)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼の冷間圧延板(厚さ0.35mm)を焼鈍脱脂して得られた鋼板を準備した。
【0033】
組成:C;0.03重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.25重量%、P;0.008重量%、S;0.005重量%、Al;0.051重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0034】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.32mm、表面粗さ(Ra)0.24μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてNiめっきを行い、厚さ2μm、表面粗度0.24μmのNiめっき層を両面に形成した。
【0035】
浴組成:硫酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル40g/L、ほう酸35g/L、ピット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム)0.4mL/L
pH:4〜4.6
浴温:55℃〜60℃
電流密度:25A/dm
【0036】
(2)試料3〜5(Niめっき鋼板+熱処理)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼を冷間圧延と焼鈍を繰り返して得られた冷間圧延板(厚さ0.12mm)を準備した。
【0037】
組成:C;0.02重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.42重量%、P;0.006重量%、S;0.007重量%、Al;0.053重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0038】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.12mm、表面粗さ(Ra)0.10μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてNiめっきを行い、厚さ2μm、表面粗度0.10μmのNiめっき層を基材両面に形成した。
【0039】
浴組成:硫酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル40g/L、ほう酸35g/L、ピット抑制剤ラウリル硫酸ナトリウム0.4mL/L
pH:4〜4.6
浴温:55℃〜60℃
電流密度:25A/dm
【0040】
次いで、Niめっき層を形成した鋼板について、温度800℃、0.2分、還元雰囲気で熱処理を行い、Niめっき層について熱拡散処理を行なうことで、金属基材12の表面とNiめっき層13との間にFe−Ni合金層を有する表面処理基材を得た。
【0041】
(3)試料6(比較例:Crめっき鋼板)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼の冷間圧延板(厚さ0.32mm)に焼鈍、調質圧延を行って得られた鋼板を準備した。
【0042】
組成:C;0.05重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.33重量%、P;0.010重量%、S;0.009重量%、Al;0.054重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0043】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦;12cm,横;10cm,厚み;0.32mm、表面粗度:0.24μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてクロムめっきを行い、めっき厚さ20nm、表面粗さ(Ra)0.24μmのクロムめっき層を基材両面に形成した。
【0044】
浴組成:クロム酸30〜200g/L、フッ化ナトリウム1.5〜10g/L、
pH:1以下、
浴温:30℃〜60℃
電流密度:10〜80A/dm
【0045】
(4)試料7(比較例:鋼板、めっき無し)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼を冷間圧延と焼鈍を繰り返して得られた冷間圧延板(厚さ0.30mm)を準備した。
【0046】
組成:C;0.05重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.30重量%、P;0.012重量%、S;0.011重量%、Al;0.048重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.30mm、
表面粗さ(Ra):0.22μm
【0047】
2.ガラス層の形成
脱脂工程:各試料1〜7の表面をアルコールに浸したガーゼで拭き取り、脱脂した。
【0048】
塗膜形成工程:有機溶剤とバインダとを混合したバインダ液を用意し、バインダ液と軟化温度405℃のガラスフリットとを重量比が25:75になるように乳鉢で混合し、セラミック製ロールにて分散処理を行ない、塗膜形成用ガラスペーストを作成した。ガラスフリットには、Biが70wt%以上を主成分として含有するビスマス系ガラスを使用した。そして、金属基材の片面をバーコーターで焼成後の膜厚が20μmになるようにガラスペーストを塗布し、塗膜を形成した。
【0049】
焼成工程:プログラム可能な電気炉を用いて、乾燥(温度:110℃、時間:20分)、脱バインダ(温度:330℃、時間:20分)、焼成(温度:430℃〜580℃、時間:10〜20分)を行なった。
【0050】
3.評価結果
表1は、各試料1〜7のめっき処理の内容、焼成温度(℃)、焼成時間(分)、焼成後の密着性を示したものである。ガラス層の密着性は、目視で評価した。そして、表面性状は、目視にて判断した。
【0051】
【表1】
【0052】
試料6の場合、密着力が弱く、焼成直後のガラス剥離に至った。これは、Crめっきは酸化されやすく、表層にクロム酸化層を作ってしまい、その酸化層がビスマス系ガラスと金属との反応を抑制させているためと考えられる。
【0053】
一方、試料1〜5、7の場合、焼成後のガラス層の密着性はいずれも良好であった。これは、鋼板及びNiめっき層も酸化されて酸化層が生成されるものの、クロム酸化層と鉄およびNiの酸化層では酸化層の厚み、ガラスとの間で起こる酸化還元等の反応挙動に違いがあり、これらの違いがビスマス系ガラスとの密着性に差を生じさせたためと考えられる。
【0054】
また、試料7ではピンホールが多発した。これは鉄の酸化層とビスマス系ガラスの反応によりガスが発生したためと考えられる。更に、フレキシブルデバイスを構成した場合、ガラスが積層されていない面に錆が生じるため、フレキシブルデバイス用基板として使用するには不適である。
【0055】
表面性状を目視にて確認した結果、いずれも許容範囲ではあるものの、試料1ではガラスの溶け不良に起因するマット調の光沢不良部分が観察された。
【0056】
[実験2]
ガラス焼成後の密着性、表面性状が良好であった試料3〜5について、平滑性の評価として表面粗さ(Ra)およびフレキシブルデバイス用基板の巻き付け密着性についての評価を行った。巻き付け密着性の評価方法は、ガラス層に引張応力がかかるようにフレキシブルデバイス用基板を各直径の丸棒に巻きつけて、クラックの有無や剥離を目視にて確認した。
【0057】
1.焼成後のガラス層の表面粗さの計測
ガラス層の焼成工程後、顕微鏡(オリンパス社製、ナノサーチ顕微鏡、品番;OLS3500)のSPM測定モードで表面粗さ(Ra)を計測した。
【0058】
(1)試料3
ガラスの表面粗さ(Ra)が8.3nmであった。
(2)試料4
ガラスの表面粗さ(Ra)が1.7nmであった。
(3)試料5
ガラスの表面粗さ(Ra)が0.8nmであった。
【0059】
2.評価結果
直径(Φ)が50mm、60mm、70mm、90mm、120mmの鉄の丸棒に、作成したフレキシブルデバイス用基板を巻きつけて、剥離発生の有無を目視にて観察した。表2は、その結果を示すものである。
【0060】
【表2】
【0061】
巻き付け試験による剥離、クラック発生の有無(目視観察)
○:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックなし
△:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックあり(程度極小)
×:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックあり(程度小)
【0062】
試料3〜5は、巻き付け試験によって、Niめっき層13とガラス層14との基板界面に剥離が生じることはなかった。しかしながら、直径が60mmまでの丸棒では、いずれも程度小のクラックがあり、試料3、4では、70mmまでの丸棒を用いた場合に、程度小のクラックと、程度極小のクラックが生じていた。一方、90mmおよび120mmの丸棒では、剥離およびクラックの発生は確認できなかった。
【0063】
本試験の結果、本基板をロールツーロールの工程に供した場合でも剥離などが起こらないことが示唆でき、かつフレキシブルデバイス用基板として利用可能な平滑性および密着性を得られることが明らかになった。
【符号の説明】
【0064】
11 フレキシブルデバイス用基板
12 金属基材
13 Niめっき層
14 ガラス層
21 有機EL照明用基板
図1
図2