【実施例】
【0031】
[実験1]
フレキシブルデバイス用基板におけるガラス層の形成直後の密着性についての評価実験を行った。
【0032】
1.金属基材
(1)試料1、2(Niめっき鋼板)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼の冷間圧延板(厚さ0.35mm)を焼鈍脱脂して得られた鋼板を準備した。
【0033】
組成:C;0.03重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.25重量%、P;0.008重量%、S;0.005重量%、Al;0.051重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0034】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.32mm、表面粗さ(Ra)0.24μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてNiめっきを行い、厚さ2μm、表面粗度0.24μmのNiめっき層を両面に形成した。
【0035】
浴組成:硫酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル40g/L、ほう酸35g/L、ピット抑制剤(ラウリル硫酸ナトリウム)0.4mL/L
pH:4〜4.6
浴温:55℃〜60℃
電流密度:25A/dm
2
【0036】
(2)試料3〜5(Niめっき鋼板+熱処理)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼を冷間圧延と焼鈍を繰り返して得られた冷間圧延板(厚さ0.12mm)を準備した。
【0037】
組成:C;0.02重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.42重量%、P;0.006重量%、S;0.007重量%、Al;0.053重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0038】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.12mm、表面粗さ(Ra)0.10μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてNiめっきを行い、厚さ2μm、表面粗度0.10μmのNiめっき層を基材両面に形成した。
【0039】
浴組成:硫酸ニッケル300g/L、塩化ニッケル40g/L、ほう酸35g/L、ピット抑制剤ラウリル硫酸ナトリウム0.4mL/L
pH:4〜4.6
浴温:55℃〜60℃
電流密度:25A/dm
2
【0040】
次いで、Niめっき層を形成した鋼板について、温度800℃、0.2分、還元雰囲気で熱処理を行い、Niめっき層について熱拡散処理を行なうことで、金属基材12の表面とNiめっき層13との間にFe−Ni合金層を有する表面処理基材を得た。
【0041】
(3)試料6(比較例:Crめっき鋼板)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼の冷間圧延板(厚さ0.32mm)に焼鈍、調質圧延を行って得られた鋼板を準備した。
【0042】
組成:C;0.05重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.33重量%、P;0.010重量%、S;0.009重量%、Al;0.054重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
【0043】
そして、準備した鋼板(サイズ:縦;12cm,横;10cm,厚み;0.32mm、表面粗度:0.24μm)について、アルカリ電解脱脂、硫酸浸漬の酸洗を行った後、下記条件にてクロムめっきを行い、めっき厚さ20nm、表面粗さ(Ra)0.24μmのクロムめっき層を基材両面に形成した。
【0044】
浴組成:クロム酸30〜200g/L、フッ化ナトリウム1.5〜10g/L、
pH:1以下、
浴温:30℃〜60℃
電流密度:10〜80A/dm
2
【0045】
(4)試料7(比較例:鋼板、めっき無し)
基体として、下記に示す化学組成を有する普通鋼を冷間圧延と焼鈍を繰り返して得られた冷間圧延板(厚さ0.30mm)を準備した。
【0046】
組成:C;0.05重量%、Si;0.01重量%、Mn;0.30重量%、P;0.012重量%、S;0.011重量%、Al;0.048重量%、残部;Feおよび不可避的含有する成分を含む。
サイズ:縦12cm、横10cm、厚み0.30mm、
表面粗さ(Ra):0.22μm
【0047】
2.ガラス層の形成
脱脂工程:各試料1〜7の表面をアルコールに浸したガーゼで拭き取り、脱脂した。
【0048】
塗膜形成工程:有機溶剤とバインダとを混合したバインダ液を用意し、バインダ液と軟化温度405℃のガラスフリットとを重量比が25:75になるように乳鉢で混合し、セラミック製ロールにて分散処理を行ない、塗膜形成用ガラスペーストを作成した。ガラスフリットには、Bi
2O
3が70wt%以上を主成分として含有するビスマス系ガラスを使用した。そして、金属基材の片面をバーコーターで焼成後の膜厚が20μmになるようにガラスペーストを塗布し、塗膜を形成した。
【0049】
焼成工程:プログラム可能な電気炉を用いて、乾燥(温度:110℃、時間:20分)、脱バインダ(温度:330℃、時間:20分)、焼成(温度:430℃〜580℃、時間:10〜20分)を行なった。
【0050】
3.評価結果
表1は、各試料1〜7のめっき処理の内容、焼成温度(℃)、焼成時間(分)、焼成後の密着性を示したものである。ガラス層の密着性は、目視で評価した。そして、表面性状は、目視にて判断した。
【0051】
【表1】
【0052】
試料6の場合、密着力が弱く、焼成直後のガラス剥離に至った。これは、Crめっきは酸化されやすく、表層にクロム酸化層を作ってしまい、その酸化層がビスマス系ガラスと金属との反応を抑制させているためと考えられる。
【0053】
一方、試料1〜5、7の場合、焼成後のガラス層の密着性はいずれも良好であった。これは、鋼板及びNiめっき層も酸化されて酸化層が生成されるものの、クロム酸化層と鉄およびNiの酸化層では酸化層の厚み、ガラスとの間で起こる酸化還元等の反応挙動に違いがあり、これらの違いがビスマス系ガラスとの密着性に差を生じさせたためと考えられる。
【0054】
また、試料7ではピンホールが多発した。これは鉄の酸化層とビスマス系ガラスの反応によりガスが発生したためと考えられる。更に、フレキシブルデバイスを構成した場合、ガラスが積層されていない面に錆が生じるため、フレキシブルデバイス用基板として使用するには不適である。
【0055】
表面性状を目視にて確認した結果、いずれも許容範囲ではあるものの、試料1ではガラスの溶け不良に起因するマット調の光沢不良部分が観察された。
【0056】
[実験2]
ガラス焼成後の密着性、表面性状が良好であった試料3〜5について、平滑性の評価として表面粗さ(Ra)およびフレキシブルデバイス用基板の巻き付け密着性についての評価を行った。巻き付け密着性の評価方法は、ガラス層に引張応力がかかるようにフレキシブルデバイス用基板を各直径の丸棒に巻きつけて、クラックの有無や剥離を目視にて確認した。
【0057】
1.焼成後のガラス層の表面粗さの計測
ガラス層の焼成工程後、顕微鏡(オリンパス社製、ナノサーチ顕微鏡、品番;OLS3500)のSPM測定モードで表面粗さ(Ra)を計測した。
【0058】
(1)試料3
ガラスの表面粗さ(Ra)が8.3nmであった。
(2)試料4
ガラスの表面粗さ(Ra)が1.7nmであった。
(3)試料5
ガラスの表面粗さ(Ra)が0.8nmであった。
【0059】
2.評価結果
直径(Φ)が50mm、60mm、70mm、90mm、120mmの鉄の丸棒に、作成したフレキシブルデバイス用基板を巻きつけて、剥離発生の有無を目視にて観察した。表2は、その結果を示すものである。
【0060】
【表2】
【0061】
巻き付け試験による剥離、クラック発生の有無(目視観察)
○:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックなし
△:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックあり(程度極小)
×:ガラス/基板界面からの剥離なし、クラックあり(程度小)
【0062】
試料3〜5は、巻き付け試験によって、Niめっき層13とガラス層14との基板界面に剥離が生じることはなかった。しかしながら、直径が60mmまでの丸棒では、いずれも程度小のクラックがあり、試料3、4では、70mmまでの丸棒を用いた場合に、程度小のクラックと、程度極小のクラックが生じていた。一方、90mmおよび120mmの丸棒では、剥離およびクラックの発生は確認できなかった。
【0063】
本試験の結果、本基板をロールツーロールの工程に供した場合でも剥離などが起こらないことが示唆でき、かつフレキシブルデバイス用基板として利用可能な平滑性および密着性を得られることが明らかになった。