特許第6286909号(P6286909)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286909
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】多孔質シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20180226BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   D21H11/18
   D21H11/20
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-152693(P2013-152693)
(22)【出願日】2013年7月23日
(65)【公開番号】特開2015-21210(P2015-21210A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−330640(JP,A)
【文献】 特開2001−084986(JP,A)
【文献】 特開2012−167406(JP,A)
【文献】 特開2010−121265(JP,A)
【文献】 特開平10−071774(JP,A)
【文献】 特開昭54−101979(JP,A)
【文献】 特表2009−500463(JP,A)
【文献】 特開2000−030529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00− 27/42
D21B 1/00− 1/38
D21C 1/00− 11/14
D21D 1/00− 99/00
D21F 1/00− 13/12
D21G 1/00− 9/00
D21J 1/00− 7/00
D06N 1/00− 7/06
B32B 1/00− 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細セルロース繊維を含む水系分散液に、水、無機酸水溶液及び無機アルカリ水溶液のいずれかからなる洗浄液に溶解する溶解性物質を、溶解又は懸濁させて混合スラリーを調製するスラリー調製工程と、
前記混合スラリーを乾燥して、微細セルロース繊維及び前記溶解性物質の粒子を含む混合シートを得るシート化工程と、
前記混合シートを、前記洗浄液を用いて洗浄し、乾燥して多孔質化する多孔質化工程と、を有する多孔質シートの製造方法。
【請求項2】
前記溶解性物質が無機塩である、請求項1に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項3】
前記洗浄液が水である、請求項2に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項4】
前記微細セルロース繊維の電子顕微鏡で観察して求めた平均繊維幅が2〜1000nmである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維を含む多孔質シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細繊維を含有する多孔質シートは機械的強度が高いなどの利点を有し、様々な用途への適用が検討されている(特許文献1)
特許文献2には、微細繊維を含む多孔質シートの製造方法として、微細セルロース繊維を含む水系分散液に有機溶媒を添加した後、抄紙し、乾燥する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−24788号公報
【特許文献2】特開2012−111849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献2に記載の多孔質シートの製造方法では、有機溶媒を使用するため、作業環境が損なわれることがあった。そのため、作業環境を改善するための排気装置を設置することがあり、また、有機溶媒が大気中に放出することを防ぐために、有機溶媒の回収装置を設置することもあった。これらの装置の設置は多孔質シートのコストを上げる要因になっていた。
本発明の課題は、有機溶媒を使用しなくても多孔質シートを製造できる多孔質シートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多孔質シートの製造方法は、微細繊維を含む水系分散液に、水、無機酸水溶液及び無機アルカリ水溶液のいずれかからなる洗浄液に溶解する溶解性物質を、溶解又は懸濁させて混合スラリーを調製するスラリー調製工程と、前記混合スラリーを乾燥して、微細繊維及び前記溶解性物質の粒子を含む混合シートを得るシート化工程と、前記混合シートを、前記洗浄液を用いて洗浄し、乾燥して多孔質化する多孔質化工程と、を有する。
本発明の多孔質シートの製造方法においては、前記溶解性物質が無機塩であることが好ましい。
前記溶解性物質が無機塩である場合には、前記洗浄液が水であることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の多孔質シートの製造方法によれば、有機溶媒を使用しなくても多孔質シートを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<多孔質シート>
本発明の多孔質シートの製造方法により得られる多孔質シートは、微細繊維を含むシートである。
【0008】
本発明で用いる微細繊維は、繊維原料を化学的、生物的、機械的処理のいずれか、またはこれらの組合せにより微細化して得られる繊維である。
【0009】
繊維原料としては特に限定されないが、例えば、無機繊維、有機繊維、合成繊維等、半合成繊維、再生繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、岩石繊維、金属繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。有機繊維としては、例えば、セルロース、炭素繊維、パルプ、キチン、キトサン等の天然物由来の繊維等が挙げられるがこれらに限定されない。合成繊維としては、例えば、ナイロン、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリウレタン、アクリル、ポリ塩化ビニル、アラミド等が挙げられるがこれらに限定されない。半合成繊維としては、アセテート、トリアセテート、プロミックス等が挙げられるがこれらに限定されない。再生繊維としては、例えば、レーヨン、キュプラ、ポリノジックレーヨン、リヨセル、テンセル等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0010】
また、本発明で用いる繊維原料は特に限定されないが、後述する置換基導入が容易になることからヒドロキシル基またはアミノ基を含むことが好ましい。
【0011】
繊維原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプから選ばれる。木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、などが挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしては、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻、麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロース、キチン、キトサンなどが挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本発明のパルプは上記1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも、化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細セルロース繊維の収率が高く、また、パルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維が得られる点で特に好ましいが、特に限定されない。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択されるが、特に限定されない。軸比の大きい長繊維の微細セルロース繊維を含有するシートは強度が高くなる。
【0012】
(微細セルロース繊維)
微細セルロース繊維は、通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに細く且つ短いI型結晶構造のセルロース繊維あるいは棒状粒子である。
微細セルロース繊維の、X線回折法によって求められる結晶化度は、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは70%以上である。結晶化度が前記下限値以上であれば、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。
結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求めることができる。
【0013】
微細セルロース繊維は、電子顕微鏡で観察して求めた平均繊維幅が2〜1000nmのセルロースである。微細セルロース繊維の平均繊維幅は2〜100nmが好ましく、2〜50nmがより好ましく、2〜30nmがさらに好ましく、2〜15nmが特に好ましい。微細セルロース繊維の平均繊維幅が前記上限値を超えると、微細セルロース繊維としての特性(高強度や高剛性、高寸法安定性、樹脂と複合化した際の高分散性、透明性)を得ることが困難になる。微細セルロース繊維の平均繊維幅が前記下限値未満であると、セルロース分子として分散媒に溶解してしまうため、微細セルロース繊維としての特性(高強度や高剛性、高寸法安定性)を得ることが困難になる。
【0014】
微細セルロース繊維の電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。微細セルロース繊維含有スラリーを調製し、該スラリーを親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストして透過型電子顕微鏡(TEM)観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面の操作型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍、20000倍、50000倍あるいは100000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線Xと垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記のような電子顕微鏡観察画像に対して、直線Xに交錯する繊維、直線Yに交錯する繊維の各々について少なくとも20本(すなわち、合計が少なくとも40本)の幅(繊維の短径)を読み取る。こうして上記のような電子顕微鏡画像を少なくとも3組以上観察し、少なくとも40本×3組(すなわち、少なくとも120本)の繊維幅を読み取る。このように読み取った繊維幅を平均して平均繊維幅を求める。この平均繊維幅は数平均繊維径と等しい。
【0015】
微細セルロース繊維は、アニオン基を有してもよいし、カチオン基を有してもよい。アニオン基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられ、カチオン基としては、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウムなどのオニウムを有する基が挙げられる。微細セルロース繊維がアニオン基またはカチオン基を有する場合、その含有量は、0.1〜2.0mmol/gであることが好ましく、0.1〜1.5mmol/gであることがより好ましい。
カチオン基またはアニオン基の含有量が前記範囲であれば、微細セルロース繊維の水和性が高くなり過ぎず、スラリー化した際の粘度が低くなる。アニオン基またはカチオン基の含有量が前記上限値を超えると、水和性が高くなりすぎて微細セルロース繊維が溶解するおそれがある。
なお、セルロースは、カルボキシ基を導入する処理を施さなくても、少量(具体的には0.1mmol/g未満)のカルボキシ基を有している。
【0016】
アニオン基の含有量は、米国TAPPIの「Test Method T237 cm−08(2008):Carboxyl Content of pulp」の方法に準じて定量することができる。
カチオン基の含有量は、微細セルロース繊維に含まれる特定の元素の量を測定することで定量できる。例えば、アンモニウム塩の構造を有するカチオン基であれば、窒素量を、窒素測定装置を用いて測定することで定量することができる。
【0017】
微細セルロース繊維は、セルロースを含む繊維原料(例えば、各種パルプ)を解繊処理して微細化することにより得られる。セルロースを容易に微細化できる点では、解繊処理の前に、セルロースにアニオン化処理、カチオン化処理又は酵素処理を施すことが好ましい。
アニオン化処理は、アニオン化剤を添加してセルロースにアニオン基を導入する処理である。アニオン化剤としては、複数のカルボキシル基を有するカルボン酸またはその無水物、あるいはそれらの塩、リン原子を含むオキソ酸またはその塩、オゾン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル等が挙げられる。
カチオン化処理は、カチオン化剤を添加してセルロースにカチオン基を導入する処理である。カチオン化剤としては、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライド又はそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
酵素処理は、セルラーゼによってセルロースを分解する処理である。
解繊処理の際に使用する解繊装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を適宜使用することができる。
【0018】
(空隙率)
多孔質シートの空隙率は10体積%以上であることが好ましく、20〜80体積%であることがより好ましい。多孔質シートの空隙率が小さいと、多孔質シートに樹脂を含有させて複合材料を得る際に樹脂が入り込みにくいことがある。一方、多孔質シートの空隙率が高いと、樹脂を含有させた複合材料において、微細セルロース繊維による充分な補強効果が得られず、また、線熱膨張率が大きくなる傾向にある。
【0019】
ここでいう空隙率とは、多孔質シート中における空隙の体積率を示し、空隙率は、多孔質シートの面積、厚み、質量から、下記式によって求めることができる。
空隙率(体積%)={(1−B/(M×A×t)}×100
ここで、Aは多孔質シートの面積(cm)、t(cm)は厚み、Bは多孔質シートの質量(g)、Mはセルロースの密度である。本発明ではM=1.5g/cmと仮定する。多孔質シートの膜厚は、膜厚計(例えば、PEACOK社製 PDN−20)を用いて、多孔質シートの種々な位置について10点の測定を行い、その平均値を採用する。
空隙率は、例えば、後述する多孔質シートの製造方法において、溶解性物質の添加量によって調整できる。すなわち、溶解性物質の添加量を多くする程、空隙率が高くなる。
【0020】
また、多孔質シートの空隙率を求める場合、分光分析や、複合材料の断面のSEM観察を画像解析することにより空隙率を求めることもできる。
【0021】
(透気度)
多孔質シートの透気度は70000秒以下であることが好ましく、500〜60000秒であることがより好ましく、1000〜50000秒であることがさらに好ましい。透気度は、王研式透気度:JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000(王研式)に準じて測定した値である。
透気度は、例えば、後述する多孔質シートの製造方法において、溶解性物質の添加量によって調整できる。すなわち、溶解性物質の添加量を多くする程、透気度が低くなる。
【0022】
<多孔質シートの製造方法>
本発明の多孔質シートの製造方法は、スラリー調製工程とシート化工程と多孔質化工程とを有する。
【0023】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程は、微細繊維を含む水系分散液に溶解性物質を溶解又は懸濁させて混合スラリーを調製する工程である。
【0024】
微細繊維を含む水系分散液は、微細繊維が水中に懸濁した分散液である。該水系分散液には、アルコールやケトン等の水溶性有機溶媒が少量、好ましくは30質量%以下含まれても構わない。
該水系分散液における微細繊維の濃度は、0.05〜20質量%であることが好ましく、0.1〜10質量%であることがより好ましい。水系分散液における微細繊維の濃度が前記下限値以上であれば、多孔質シートの製造効率に優れ、前記上限値以下であれば、水系分散液の分散安定性に優れる。
【0025】
本発明における溶解性物質は、洗浄液に溶解可能なものである。具体的に、溶解性物質は、洗浄液に溶解する溶解性化合物、洗浄液に溶解する溶解性金属の少なくとも一方である。ここで、溶解性物質は、洗浄液に少なくとも一部が溶解すればよく、具体的には、洗浄液100gに対して1g以上溶解すればよい。
溶解性化合物としては、無機塩、無機酸化物、無機水酸化物等が挙げられ、溶解性が高い点では、無機塩が好ましい。
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム等が挙げられる。
上記無機塩は、水(ただし、無機酸及び無機アルカリを含まない。)、無機酸水溶液、無機アルカリ水溶液のいずれにも溶解する。
溶解性金属としては、アルミニウム、亜鉛、鉄、銅等が挙げられる。アルミニウム、亜鉛は無機酸にも溶解するし、無機アルカリにも溶解する。鉄、銅は無機酸に溶解する。
【0026】
溶解性物質の好ましい添加量は種類に応じて異なる。例えば、溶解性物質が塩化ナトリウムの場合、その好ましい添加量は、微細繊維100質量部に対して1〜10000質量部であることが好ましく、10〜3000質量部であることがより好ましい。塩化ナトリウムの添加量が前記下限値以上であれば、充分に空隙率が高い多孔質シートを製造でき、前記上限値以下であれば、多孔質化工程において容易に溶解させて除去できる。
【0027】
本発明における洗浄液は、水(ただし、無機酸及び無機アルカリを含まない。)、無機酸水溶液及び無機アルカリ水溶液のいずれかからなる。無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が挙げられる。無機酸は2種以上を併用しても構わない。無機アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。無機アルカリは2種以上を併用しても構わない。
溶解性物質が無機塩である場合には、洗浄液が水であることが好ましい。洗浄液が水であれば、洗浄後の廃液を処理しやすくなり、また、低コストである。
【0028】
(シート化工程)
シート化工程は、前記混合スラリーを乾燥して、微細繊維及び前記溶解性物質の粒子を含む混合シートを得る工程である。
シート化工程では、乾燥前に、混合スラリーをシート状又は液膜状することが好ましい。混合スラリーをシート状にする方法としては、抄紙法が挙げられ、液膜状にする方法としては、塗工法が挙げられる。
【0029】
抄紙法では、通常の紙の製造で使用される抄紙機を用いることができる。抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機が挙げられる。
抄紙の際に使用する濾材としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリマーからなる多孔質膜又は織物が挙げられる。濾材の孔径は、微細繊維が通過しなければよく、具体的には、0.1〜20μmの範囲で適宜選択される。
抄紙後には、ロールプレスを用いて搾水してもよい。
【0030】
塗工法では、工程基材上に混合スラリーを塗工する。
工程基材としては、シート、板または円筒体を使用することができる。工程基材の材質としては、樹脂または金属が使用され、混合シートを容易に製造できる点では、樹脂が好ましい。また、工程基材の表面は疎水性であってもよいし、親水性であってもよい。
樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル樹脂等が挙げられる。
金属としては、アルミニウム、ステンレス、亜鉛、鉄、真鍮等が挙げられる。
【0031】
混合スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができ、厚みを容易に均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましく、ダイコーターがより好ましい。
【0032】
乾燥方法としては、加熱したシリンダードライヤーにシートを接触させる方法、加熱したヤンキードライヤーにシートを接触させる方法、シートを熱風乾燥する方法、シートに赤外線を照射する方法、シートにマイクロ波を照射する方法、シートを真空乾燥する方法等が挙げられる。
乾燥の際に加熱する場合には、加熱温度は40〜150℃とすることが好ましい。加熱温度を前記下限値以上とすれば、速やかに乾燥させることができ、前記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及びセルロースの熱による変色を抑制できる。
【0033】
乾燥によって、混合スラリーに含まれていた溶解性物質が析出して粒子化する。乾燥によって形成される溶解性物質の粒子の平均粒子径は、0.001〜100μmであることが好ましく、0.005〜50μmであることがより好ましい。溶解性物質の平均粒子径は、電子顕微鏡の観察結果より求めることができる。電子顕微鏡の観察結果から求める平均粒子径は個数基準である。
溶解性物質の平均粒子径は、例えば、溶解性物質の種類、析出速度、核剤の有無、析出方法(均一沈殿法を用いて、粒径を制御した粒子を析出させる等)によって調整することができる。
【0034】
(多孔質化工程)
多孔質化工程は、前記混合シートを、前記洗浄液を用いて洗浄し、乾燥して多孔質化することによって多孔質シートを得る工程である。多孔質化工程では、混合シートに含まれる溶解性物質の粒子が溶解して空孔が形成される。
【0035】
混合シートの洗浄方法としては、容器に入れた洗浄液中に混合シートを浸漬させる方法(浸漬法)、混合シートに洗浄液を吹き付ける方法(吹き付け法)が挙げられる。洗浄のための装置構成が簡便になる点では、浸漬法が好ましい。
浸漬法においては、充分に洗浄するために、新しい洗浄液に繰り返し混合シートを浸漬することが好ましい。吹き付け法においては、混合シートの両面に洗浄液を吹き付けることが好ましい。浸漬法及び吹き付け法のいずれにおいても、洗浄中、混合シートを移動させても構わない。
洗浄後の乾燥方法としては、上記シート化工程における乾燥方法と同様の方法を適用することができる。
【0036】
(作用効果)
微細繊維を含む多孔質シートを、微細繊維を含む水系分散液をそのまま乾燥して得ることは難しい。乾燥と共に繊維が凝集して多孔質の網目構造が形成できないからである。このことは、微細繊維と水との親和性が高いとき、特に顕著であると考えられる。
本発明では、乾燥と共に微細繊維の間に溶解性物質が粒子として析出する。その析出した溶解性物質の粒子が、微細繊維の凝集を抑制するため、水系分散液を用いながらも、微細繊維の網目構造を形成できる。
微細繊維の間に存在する溶解性物質の粒子は、洗浄液に溶解するため、その後の洗浄液による洗浄によって除去できる。
洗浄後は、再度乾燥しなければならないが、いったん形成された微細繊維の網目構造は乾燥後にも維持される、または完全に消失することはないため、溶解性物質の粒子が除去された部分は、空孔として残る。
したがって、上記多孔質シートの製造方法では、有機溶媒を使用しなくても多孔質シートを製造できる。有機溶媒を使用しないため、多孔質シート製造の作業環境を容易に改善できる。
【実施例】
【0037】
(製造例1)
リン酸二水素ナトリウム二水和物26.4g及びリン酸水素二ナトリウム19.7gを、53.9gの水に溶解させて、試薬Aを得た。また、尿素44.3gを55.7gの水に溶解させて、試薬Bを得た。
乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートを、カッターミル及びピンミルを処理して、綿状の繊維を得た。この綿状の繊維を絶乾質量で10g採取し、その採取した綿状繊維に、試薬A10.5gと試薬B11.3gを混合した薬液を、霧吹きを用いて均一に吹きかけた。その後、薬液を吹きかけた綿状の繊維を手で揉んで薬液含浸パルプを得た。
得られた薬液含浸パルプを、ダンパー付送風乾燥機を用いて、130℃、1時間、乾燥及び加熱して、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプに300mlのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過、脱水した。次いで、再度、300mlのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過、脱水して、脱水シートを得た。得られた脱水シートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12〜13のパルプスラリーを得た。次いで、そのパルプスラリーを脱水して、脱水シートを得た後、300mlのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過、脱水して、脱水シートを得た。その後、再度、300mlのイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過、脱水して、リン酸化パルプの脱水シートを得た。
得られたリン酸化パルプの脱水シートにイオン交換水に添加した後、攪拌して、パルプ濃度が0.5質量%のスラリーを得た。そのスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックスー2.2S)を用い、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊パルプスラリーを得た。
次いで、解繊パルプスラリーにイオン交換水を添加してスラリー固形分濃度0.2質量%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000G×10分間の条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収した。その上澄み液を、微細セルロース繊維水系分散液とした。
【0038】
(実施例1)
1.6gの塩化ナトリウムを52gの水に溶解させて塩化ナトリウム水溶液を得た。
製造例1で得た微細セルロース繊維水系分散液を、セルロース濃度が0.15質量%になるように水で希釈した後、希釈したスラリー105gを分取した。分取したスラリーを、マグネチックスターラーを用いて攪拌しながら、塩化ナトリウム水溶液を、ペリスターポンプを用いて少量ずつ添加した。このように塩化ナトリウムを添加したスラリーを、アドバンテック社製フィルターホルダーKG−90上で、アドバンテック社製の孔径0.5μmのポリポリテトラフルオロエチレン製メンブレンフィルターを用い、減圧濾過して湿紙を得た。この湿紙を、120℃に加熱したシリンダードライヤーを用いて乾燥してシートを得た。
得られたシートを、100mlの水を注いだシャーレの中に入れて、10分間静置した。静置後、シートをシャーレから取り出し、シャーレ中の水を入れ替えた後、再度、シートをシャーレの中に入れた。この操作を2回繰り返して、シートを洗浄した。
洗浄したシートを、120℃に加熱したシリンダードライヤーを用いて乾燥して、微細セルロース繊維シートを得た。
【0039】
(比較例1)
製造例1で得た微細セルロース繊維水系分散液を、セルロース濃度が0.15質量%になるように水で希釈した後、希釈したスラリー105gを分取した。分取したスラリーを、アドバンテック社製フィルターホルダーKG−90上で、アドバンテック社製の孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターを用い、減圧濾過して湿紙を得た。この湿紙を、120℃に加熱したシリンダードライヤーを用いて乾燥して、微細セルロース繊維シートを得た。
【0040】
(比較例2)
製造例1で得た微細セルロース繊維水系分散液を、セルロース濃度が0.15質量%になるように水で希釈した後、希釈したスラリー105gを分取した。分取したスラリーを、アドバンテック社製フィルターホルダーKG−90上で、アドバンテック社製の孔径0.5μmのポリ四フッ化エチレン製メンブレンフィルターを用い、減圧濾過して湿紙を得た。この湿紙に、3.8mlのエチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(有機溶媒)を注ぎ、さらに減圧濾過した。次いで、120℃に加熱したシリンダードライヤーを用いて乾燥して、微細セルロース繊維シートを得た。
【0041】
<評価>
各実施例及び各比較例で得た微細セルロース繊維シートについて、透気度、流動パラフィン含浸後の全光線透過率及びヘーズを下記の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0042】
[透気度]
微細セルロース繊維シートの透気度を、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.5−2:2000(王研式)に準じて測定した。透気度の値が小さい程、透気性が高い。また、透気性が高い程、樹脂の含浸性が高い。
【0043】
[流動パラフィン含浸後の全光線透過率及びヘーズ]
得られた微細セルロース繊維シートに、減圧下で流動パラフィンを含浸させた後、村上色彩技術研究所製ヘーズメーターHM−150を用い、JIS K7136に準拠して、全光線透過率及びヘーズを測定した。全光線透過率が高く、ヘーズが低い程、樹脂の含浸性が高い。
なお、比較例1については、シートに流動パラフィンが含浸しなかったので、全光線透過率及びヘーズを測定しなかった。
【0044】
【表1】
【0045】
実施例1の方法で得た微細セルロース繊維シートは、有機溶媒を使用して製造していないにもかかわらず、透気性が確保されていた。また、実施例1の方法で得た微細セルロース繊維シートは、有機溶媒を使用して得た比較例1の微細セルロース繊維シートと同等の含浸性を有していた。