特許第6286947号(P6286947)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6286947細胞凝集塊の製造方法、及び薬剤のスクリーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6286947
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】細胞凝集塊の製造方法、及び薬剤のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20180226BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20180226BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12N5/09
   C12Q1/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-179075(P2013-179075)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-47083(P2015-47083A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100123733
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 大樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
(72)【発明者】
【氏名】中島 史雄
(72)【発明者】
【氏名】山田 智
【審査官】 中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】 再公表特許第2005/001019(JP,A1)
【文献】 特開2008−061609(JP,A)
【文献】 特開平04−304882(JP,A)
【文献】 特開平09−003132(JP,A)
【文献】 特開平07−083923(JP,A)
【文献】 山本宣之 他,再生医療と膜学の接点 胚様体形成に適したリン脂質ポリマーコート細胞非接着型培養容器(Lipidure‐Coat),膜,2012年 5月 1日,Vol.37, No.3,,Page.132-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成する
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の細胞凝集塊の製造方法であって、
前記培地における前記共重合体の濃度が0.01重量%以上5重量%以下の範囲内である
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の細胞凝集塊の製造方法であって、
前記共重合体における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合組成比が10モル%以上90モル%以下である
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞凝集塊の製造方法であって、
前記共重合体の質量平均分子量は、5,000以上10,000,000以下の範囲内である
細胞凝集塊の製造方法。
【請求項5】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成し、
前記細胞凝集塊に薬剤を添加し、
前記細胞凝集塊に対する薬剤の作用を評価する
薬剤のスクリーニング方法。
【請求項6】
請求項5に記載の薬剤のスクリーニング方法であって、
前記細胞は癌細胞である
薬剤のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凝集塊の製造方法、及び薬剤のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種試験や研究に利用される動物細胞は、シャーレやマルチウェルプレートなどの培養容器内で培養されることが多い。培養容器内の細胞は、例えば、培養容器の表面に接着し、培養容器の培養面上で伸展することにより二次元的に増殖する。
【0003】
一般的な培養容器は、ポリスチレンなどの生体内に存在しない材料で形成される。このような培養容器内は生体内と環境が大きく異なるため、培養容器の表面に接着して増殖した細胞は生体内における形態や機能を発現しない場合がある。
【0004】
そのため、細胞が培養容器に接着しない培養技術が注目されている。このような技術で培養された細胞は細胞凝集塊となる。細胞凝集塊は、生体内の細胞に近い形態や機能を発現するため、広く利用されている。
【0005】
細胞凝集塊を形成する技術として、垂れ下がった液滴の中で細胞を培養するハンギングドロップ法や、非特許文献1に記載された旋回培養法や遠心法が知られている。しかし、これらの方法では、培養条件の設定が煩雑である。
【0006】
そこで、細胞が接着しにくい培養容器が注目されている。このような培養容器内の細胞は、培養容器に接着することなく細胞凝集塊を形成する。
【0007】
例えば特許文献1には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとブチルメタクリレートとの共重合体がコーティングされた培養容器が開示されている。また、特許文献2には、ポリヒドロキシルエチルメタクリレートやエチレンビニルアルコール共重合体などで形成された培養容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2005/001019号パンフレット
【特許文献2】特開平6−327462号公報
【特許文献3】特開2005−8607号公報
【特許文献4】特開平4−304882号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biotechnol. J. 2008, 3, 1172−1184
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、培養容器にコーティング処理を加えるための手間及びコストが増大する。また、特許文献2に記載の技術では、汎用の培養容器を使用することができないため、コストが増大する。
【0011】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、コストや手間の増大を伴わない新規な細胞凝集塊の製造方法、及びこれを用いた薬剤のスクリーニング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係る細胞凝集塊の製造方法は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成することを含む。
【0013】
本発明の一形態に係る薬剤のスクリーニング方法は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成することを含む。
上記細胞凝集塊に薬剤が添加される。
上記細胞凝集塊に対する薬剤の作用が評価される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コストや手間の増大を伴わない新規な細胞凝集塊の製造方法、及びこれを用いた薬剤のスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】細胞凝集塊を撮像した画像である。
図2】接着した細胞を撮像した画像である。
図3】細胞活性率の測定結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る細胞凝集塊の製造方法は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成することを含む。
この構成により、コストや手間の増大を伴わずに細胞凝集塊を形成することが可能となる。
【0017】
上記培地における上記共重合体の濃度が0.01重量%以上5重量%以下の範囲内であってもよい。
上記共重合体における2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンの共重合組成比が10モル%以上90モル%以下であってもよい。
上記共重合体の質量平均分子量は、5,000以上10,000,000以下の範囲内であってもよい。
この構成により、細胞凝集塊をより良好に形成することが可能となる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る薬剤のスクリーニング方法は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体を添加した培地で細胞を培養して細胞凝集塊を形成することを含む。
上記細胞凝集塊に薬剤が添加される。
上記細胞凝集塊に対する薬剤の作用が評価される。
この構成により、薬剤のスクリーニングを良好に行なうことができるようになる。
【0019】
上記細胞は癌細胞であってもよい。
この構成により、抗癌剤などのスクリーニングを良好に行なうことができるようになる。
【0020】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施形態に係る細胞凝集塊は、例えば、新薬のスクリーニング、人工臓器の開発、動物実験代替キットの開発に利用可能である。
【0022】
また、本実施形態に係る細胞凝集塊の製造方法は、再生医療の分野にも適用可能である。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)を効率的に各種組織細胞(神経や心筋、肝臓、膵臓など)に誘導するために、これらの細胞から胚様体と呼ばれる細胞凝集塊を形成することが可能である。
【0023】
[細胞凝集塊の製造方法]
本実施形態に係る細胞凝集塊の製造方法では、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」とも呼ぶ。)とn−ブチルメタクリレート(以下、「BMA」とも呼ぶ。)との共重合体(以下、「MPC−BMA共重合体」とも呼ぶ。)を培地に添加する。
【0024】
MPC−BMA共重合体を培地に添加することにより、細胞が培養容器に接着しなくなる。そのため、本実施形態に係る製造方法では、静置培養にて細胞凝集塊を容易に形成することができる。
【0025】
MPC−BMA共重合体は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン単量体(以下、「MPC単量体」とも呼ぶ。)とn−ブチルメタクリレート単量体(以下、「BMA単量体」とも呼ぶ。)とを重合させることにより得られる。MPC単量体とBMA単量体との重合方法としては、例えば、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などが挙げられる。
【0026】
一例として、溶液重合では、まずMPC単量体及びBMA単量体を低級アルコールなどの有機溶媒に溶解させた溶液を作成する。そして、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中で、過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤を添加した溶液を加熱しつつ攪拌することにより、MPC−BMA共重合体が得られる。
【0027】
なお、MPC−BMA共重合体として、市販品(商品名「リピジュア」(登録商標)、日油株式会社製)を用いることも好ましい。また、MPC−BMA共重合体は、粉状であっても、溶液状であってもよい。
【0028】
MPC−BMA共重合体は、MPCの共重合組成比が10モル%以上90モル%以下の範囲内となるように調整される。MPC−BMA共重合体は、MPCの共重合組成比が30モル%以上80モル%以下の範囲内である場合に、細胞の培養容器への接着をより効果的に防止することができる。
【0029】
MPC−BMA共重合体の質量平均分子量は、5,000以上10,000,000以下の範囲内で適宜決定することができる。また、MPC−BMA共重合体は、質量平均分子量が10,000以上1,000,000以下の範囲内である場合に、培地への優れた溶解性が得られるとともに細胞凝集塊を特に良好に形成することができる。
【0030】
MPC−BMA共重合体の添加量は、培地に対して0.01重量%以上5重量以下%の範囲内で適宜決定することができる。MPC−BMA共重合体の添加量が培地に対して0.06重量%以上の場合に細胞凝集塊を特に良好に形成することができる。また、培地への溶解性及び経済性の観点から、MPC−BMA共重合体の添加量は培地に対して1重量%以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る細胞凝集塊の製造方法を適用可能な動物細胞は特に限定されない。このような動物細胞としては、例えば、ヒト、マウス、ラットなどの哺乳類由来細胞が挙げられる。
【0032】
本実施形態に利用可能な培地は特に限定されない。このような培地としては、例えば、市販されている各種培地(αMEM、MEM、DMEM、IMDEM、RPMI1640、DMEM/F12等)や、これらの組み合わせが挙げられる。
【0033】
培地には、必要に応じて、各種増殖因子(上皮成長因子やインスリン様成長因子、神経成長因子、肝細胞増殖因子、血管内皮増殖因子、塩基性繊維芽細胞増殖因子、トランスフェリン、ステロイドホルモン、2−メルカプトエタノール等)や各種動物血清(ウシ胎児血清(FBS)やウシ血清等)、血清代替物などが添加される。
【0034】
本実施形態に適用可能な培養容器としては、一般的な培養容器を採用することができる。このような培養容器としては、例えば、マルチウェルプレートやシャーレや培養フラスコが挙げられる。これらの培養容器の材質としては、例えば、ポリスチレンが挙げられる。
【0035】
本実施形態における培養条件は、通常の動物細胞の培養条件でよく、例えば、5%CO雰囲気で、温度が37℃である条件とすることができる。
【0036】
[薬剤のスクリーニング方法]
本実施形態で得られる細胞凝集塊を用いた薬剤のスクリーニング方法について説明する。
【0037】
まず、本実施形態に係る製造方法で細胞凝集塊を用意し、細胞凝集塊に対して薬剤を添加する。そして、薬剤が細胞凝集塊を形成する細胞に対して目的とする作用を及ぼしているか否かを判定する。これにより、薬細胞凝集塊を形成する細胞に対して目的とする作用を及ぼしている薬剤を抽出することができる。
【0038】
本実施形態に係るスクリーニング方法を適用可能な薬剤としては、例えば、マイトマイシンCやパクリタキセル、フルオロウラシル、ブレオマイシン、デキサメサゾンといった抗癌剤や、各種増殖因子や抗体を含むタンパク質などが挙げられる。
【0039】
薬剤が細胞凝集塊を形成する細胞に対して目的とする作用を及ぼしているか否かは、薬剤が、細胞凝集塊の増殖挙動や、タンパク質の発現や、遺伝子の発現などに影響を与えているか否かにより判定する。
【0040】
細胞凝集塊の増殖挙動は、例えば、WST−8アッセイ、アラマーブルーアッセイ、MTTアッセイで評価することができる。また、タンパク質の発現及び遺伝子の発現は、例えば、RT−PCR、ELISA、免疫染色等の方法で評価することができる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0042】
1.重合体の合成
まず、本実施例に係るMPC−BMA共重合体、及び比較例に係る重合体を合成した。比較例に係る重合体としては、MPCとメタクリル酸(MAc)との共重合体(MPC−MAc共重合体)、MPCとn−ステアリルメタクリレート(SMA)との共重合体(MPC−SMA共重合体)、MPCとベンジルメタクリレート(BzMA)との共重合体(MPC−BzMA共重合体)、及びMPC単独重合体を合成した。
【0043】
具体的には、以下の6種類の重合体1〜6を合成した。
重合体1:MPC−BMA共重合体A(MPC/BMA=30/70)
重合体2:MPC−BMA共重合体B(MPC/BMA=80/20)
重合体3:MPC−MAc共重合体(MPC/MAc=30/70)
重合体4:MPC−SMA共重合体(MPC/SMA=80/20)
重合体5:MPC−BzMA共重合体(MPC/BzMA=80/20)
重合体6:MPC単独重合体
(括弧内には各重合体の仕込み組成におけるモル比が示されている。)
【0044】
各重合体の合成方法について説明する。いずれの重合体も以下に示す方法によって合成される。
【0045】
まず、各重合体のモノマーを重合容器に秤量する。反応溶媒としては、エタノールと水との混合溶媒を用い、総モノマー濃度が1.0mol/リットルとなるように調整する。そして秤量したモノマーに、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加する。重合開始剤の濃度は1mol%とした。
【0046】
次に、重合容器内を十分に窒素置換した後に、重合容器を60℃で24時間保持することにより重合反応を行なう。そして、得られた反応混合物を氷冷した後、ジエチルエーテルに滴下することによりポリマーを沈殿させる。沈殿したポリマーを濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後に、減圧乾燥させる。これにより、白色粉末状の各重合体が得られる。得られた各重合体は、純水に溶解させ、5重量%の水溶液として保存する。
【0047】
得られた各重合体の元素分析を行ったところ、仕込み組成どおりの共重合体が得られていることがわかった。
【0048】
また、各重合体をテトラヒドロフランに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いて各重合体の分子量を測定した。
【0049】
重合体1〜6の分子量の測定結果を以下に示す。
重合体1:93,000
重合体2:600,000
重合体3:680,000
重合体4:43,000
重合体5:240,000
重合体6:1,030,000
【0050】
2.細胞凝集塊の形成
本実施例では、マウス胚性癌細胞P19.CL6(RCB2318)の細胞凝集塊を形成する。
【0051】
2.1 細胞懸濁液の作製
培地には、10体積%のウシ胎児血清(FBS)を添加したαMEM(以下、「10%FBS−αMEM培地」とも呼ぶ。)を用いた。FBSにはGIBCO社製のものを用い、MEMαにはInvitrogen社製のものを用いた。
【0052】
マウス胚性癌細胞P19.CL6は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから分譲されたものを用いた。マウス胚性癌細胞P19.CL6は、予め10%FBS−αMEM培地で培養した。
【0053】
10%FBS−αMEM培地にマウス胚性癌細胞P19.CL6を加え、マウス胚性癌細胞P19.CL6の濃度が500cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。
【0054】
2.2 細胞凝集塊の形成
以下のサンプル1〜7を作製した。
【0055】
(1)サンプル1
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体A(重合体1)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Aの終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0056】
(2)サンプル2
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体B(重合体2)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Bの終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0057】
(3)サンプル3
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−MAc共重合体(重合体3)の5重量%水溶液を添加した。MPC−MAc共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0058】
(4)サンプル4
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−SMA共重合体(重合体4)の5重量%水溶液を添加した。MPC−SMA共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0059】
(5)サンプル5
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BzMA共重合体(重合体5)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BzMA共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0060】
(6)サンプル6
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC単独重合体(重合体6)の5重量%水溶液を添加した。MPC単独重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0061】
(7)サンプル7
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。そして、重合体を添加せずに、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0062】
2.3 各サンプルの評価
サンプル1〜7について、ウェル内の細胞を位相差倒立顕微鏡によって観察した。
【0063】
図1及び図2はウェル内の培養後の細胞を撮像した画像の一例である。図1では細胞凝集塊の形成が確認できる。一方、図2では細胞がウェルの底面に接着しており、細胞凝集塊の形成が確認できない。このように、細胞凝集塊の形成の有無は目視にて判別可能である。
【0064】
表1は各サンプルにおける細胞凝集塊の形成の有無を示している。細胞凝集塊の形成が確認されたものを「○」と示し、細胞凝集塊の形成が確認されなかったものを「×」と示している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、本実施例に係る重合体(MPC−BMA共重合体A,B)を用いたサンプル1,2では、いずれも細胞凝集塊の形成が確認された。一方、比較例に係る重合体(MPC−MAc共重合体,MPC−MAc共重合体,MPC−BzMA共重合体,MPC単独重合体)を用いたサンプル3〜6では、いずれも細胞凝集塊の形成が確認されなかった。更に、重合体を用いないサンプル7では、細胞凝集塊の形成が確認されなかった。
【0067】
以上のように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いることにより、細胞凝集塊が形成されることが確認された。
【0068】
3.薬剤のスクリーニング
本実施例では、ヒト肝臓癌細胞Hep G2(RCB1886)を用い、抗癌剤として知られるマイトマイシンCの作用を確認することにより、抗癌剤のスクリーニング性を評価した。マイトマイシンCにはSigma社製のものを用いた。
【0069】
3.1 細胞懸濁液の作製
培地には、10体積%のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM(以下、「10%FBS−DMEM培地」とも呼ぶ。)を用いた。FBSにはGIBCO社製のものを用い、DMEMにはInvitrogen社製のものを用いた。
【0070】
ヒト肝臓癌細胞Hep G2は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから分譲されたものを用いた。ヒト肝臓癌細胞Hep G2は、予め10%FBS−αDMEM培地で培養した。
【0071】
10%FBS−αDMEM培地にヒト肝臓癌細胞Hep G2を加え、ヒト肝臓癌細胞Hep G2の濃度が20000cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。
【0072】
3.2 細胞凝集塊の形成
以下のサンプル8,9を作製した。
【0073】
(1)サンプル8
得られた細胞懸濁液100μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体A(重合体1)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Aの終濃度を0.125重量%として、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内でヒト肝臓癌細胞Hep G2を24時間培養した。これにより、ヒト肝臓癌細胞Hep G2の細胞凝集塊が得られた。
【0074】
(2)サンプル9
得られた細胞懸濁液100μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。そして、重合体を添加せずに、5%CO雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内でヒト肝臓癌細胞Hep G2を24時間培養した。これにより、ヒト肝臓癌細胞Hep G2がウェルプレートの接着し、接着培養系細胞が得られた。
【0075】
3.3 薬剤溶液の添加
薬剤溶液は、DULBECCO‘S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(以下、「D−PBS」とも言う。)にマイトマイシンCを溶解させて作製した。マイトマイシンCの濃度は25μg/mlとした。この薬剤溶液をサンプル8,9のウェル内にそれぞれ10μl添加し、ヒト肝臓癌細胞Hep G2を更に24時間培養した。
【0076】
3.4 スクリーニング性の評価
細胞凝集塊は生体内の腫瘍に近い性状(細胞間相互作用、酸素分圧、栄養分の浸透性など)を示すことが知られている。したがって、細胞凝集塊は接着培養系細胞よりも薬剤の作用をより明確に観察することができる。本実施例でも、サンプル8の細胞凝集塊では、サンプル9の接着培養系細胞よりも薬剤の作用を良好に確認することができた。
【0077】
さらに、サンプル8,9について、細胞凝集塊のうち生細胞の比率である細胞活性率について評価した。各サンプルについて、細胞活性率が高いほど生体内の性状に近い細胞でスクリーニングが実施されたことを示し、細胞活性率が低いほど生体内の性状とは異なる細胞でスクリーニングが実施されたことを示す。したがって、細胞活性率が高いほど、薬剤のスクリーニング性が高いことがわかる。
【0078】
細胞活性率は、細胞内脱水素酵素の量を測定する方法、及びアデノシン三リン酸(ATP:Adenosine Triphosphate)の量を測定する方法の2種類の方法により測定した。
【0079】
細胞内脱水素酵素の量を測定する方法には、キシダ化学社製のWST−8を用いた。ATPの量を測定する方法には、Promega社製のATP測定キット(CellTiter−GloTM Luminescent Cell Viability Assay)を用いた。
【0080】
図3は、サンプル8,9に係る細胞活性率の測定結果を示したグラフである。図3に示すように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いたサンプル8は、重合体を用いないサンプル9よりも細胞活性率が高い。以上のように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いることにより、抗癌剤のスクリーニング性の高い細胞凝集塊が得られることが確認された。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
図1
図2
図3