【実施例】
【0041】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0042】
1.重合体の合成
まず、本実施例に係るMPC−BMA共重合体、及び比較例に係る重合体を合成した。比較例に係る重合体としては、MPCとメタクリル酸(MAc)との共重合体(MPC−MAc共重合体)、MPCとn−ステアリルメタクリレート(SMA)との共重合体(MPC−SMA共重合体)、MPCとベンジルメタクリレート(BzMA)との共重合体(MPC−BzMA共重合体)、及びMPC単独重合体を合成した。
【0043】
具体的には、以下の6種類の重合体1〜6を合成した。
重合体1:MPC−BMA共重合体A(MPC/BMA=30/70)
重合体2:MPC−BMA共重合体B(MPC/BMA=80/20)
重合体3:MPC−MAc共重合体(MPC/MAc=30/70)
重合体4:MPC−SMA共重合体(MPC/SMA=80/20)
重合体5:MPC−BzMA共重合体(MPC/BzMA=80/20)
重合体6:MPC単独重合体
(括弧内には各重合体の仕込み組成におけるモル比が示されている。)
【0044】
各重合体の合成方法について説明する。いずれの重合体も以下に示す方法によって合成される。
【0045】
まず、各重合体のモノマーを重合容器に秤量する。反応溶媒としては、エタノールと水との混合溶媒を用い、総モノマー濃度が1.0mol/リットルとなるように調整する。そして秤量したモノマーに、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を添加する。重合開始剤の濃度は1mol%とした。
【0046】
次に、重合容器内を十分に窒素置換した後に、重合容器を60℃で24時間保持することにより重合反応を行なう。そして、得られた反応混合物を氷冷した後、ジエチルエーテルに滴下することによりポリマーを沈殿させる。沈殿したポリマーを濾別し、ジエチルエーテルで洗浄した後に、減圧乾燥させる。これにより、白色粉末状の各重合体が得られる。得られた各重合体は、純水に溶解させ、5重量%の水溶液として保存する。
【0047】
得られた各重合体の元素分析を行ったところ、仕込み組成どおりの共重合体が得られていることがわかった。
【0048】
また、各重合体をテトラヒドロフランに溶解し、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC:Gel Permeation Chromatography)を用いて各重合体の分子量を測定した。
【0049】
重合体1〜6の分子量の測定結果を以下に示す。
重合体1:93,000
重合体2:600,000
重合体3:680,000
重合体4:43,000
重合体5:240,000
重合体6:1,030,000
【0050】
2.細胞凝集塊の形成
本実施例では、マウス胚性癌細胞P19.CL6(RCB2318)の細胞凝集塊を形成する。
【0051】
2.1 細胞懸濁液の作製
培地には、10体積%のウシ胎児血清(FBS)を添加したαMEM(以下、「10%FBS−αMEM培地」とも呼ぶ。)を用いた。FBSにはGIBCO社製のものを用い、MEMαにはInvitrogen社製のものを用いた。
【0052】
マウス胚性癌細胞P19.CL6は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから分譲されたものを用いた。マウス胚性癌細胞P19.CL6は、予め10%FBS−αMEM培地で培養した。
【0053】
10%FBS−αMEM培地にマウス胚性癌細胞P19.CL6を加え、マウス胚性癌細胞P19.CL6の濃度が500cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。
【0054】
2.2 細胞凝集塊の形成
以下のサンプル1〜7を作製した。
【0055】
(1)サンプル1
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体A(重合体1)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Aの終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0056】
(2)サンプル2
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体B(重合体2)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Bの終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0057】
(3)サンプル3
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−MAc共重合体(重合体3)の5重量%水溶液を添加した。MPC−MAc共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0058】
(4)サンプル4
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−SMA共重合体(重合体4)の5重量%水溶液を添加した。MPC−SMA共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0059】
(5)サンプル5
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BzMA共重合体(重合体5)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BzMA共重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0060】
(6)サンプル6
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC単独重合体(重合体6)の5重量%水溶液を添加した。MPC単独重合体の終濃度を、0.25重量%、0.125重量%、0.0625重量%の3通りとし、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0061】
(7)サンプル7
得られた細胞懸濁液200μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。そして、重合体を添加せずに、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内で3日間培養した。
【0062】
2.3 各サンプルの評価
サンプル1〜7について、ウェル内の細胞を位相差倒立顕微鏡によって観察した。
【0063】
図1及び
図2はウェル内の培養後の細胞を撮像した画像の一例である。
図1では細胞凝集塊の形成が確認できる。一方、
図2では細胞がウェルの底面に接着しており、細胞凝集塊の形成が確認できない。このように、細胞凝集塊の形成の有無は目視にて判別可能である。
【0064】
表1は各サンプルにおける細胞凝集塊の形成の有無を示している。細胞凝集塊の形成が確認されたものを「○」と示し、細胞凝集塊の形成が確認されなかったものを「×」と示している。
【0065】
【表1】
【0066】
表1に示すように、本実施例に係る重合体(MPC−BMA共重合体A,B)を用いたサンプル1,2では、いずれも細胞凝集塊の形成が確認された。一方、比較例に係る重合体(MPC−MAc共重合体,MPC−MAc共重合体,MPC−BzMA共重合体,MPC単独重合体)を用いたサンプル3〜6では、いずれも細胞凝集塊の形成が確認されなかった。更に、重合体を用いないサンプル7では、細胞凝集塊の形成が確認されなかった。
【0067】
以上のように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いることにより、細胞凝集塊が形成されることが確認された。
【0068】
3.薬剤のスクリーニング
本実施例では、ヒト肝臓癌細胞Hep G2(RCB1886)を用い、抗癌剤として知られるマイトマイシンCの作用を確認することにより、抗癌剤のスクリーニング性を評価した。マイトマイシンCにはSigma社製のものを用いた。
【0069】
3.1 細胞懸濁液の作製
培地には、10体積%のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM(以下、「10%FBS−DMEM培地」とも呼ぶ。)を用いた。FBSにはGIBCO社製のものを用い、DMEMにはInvitrogen社製のものを用いた。
【0070】
ヒト肝臓癌細胞Hep G2は独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンターから分譲されたものを用いた。ヒト肝臓癌細胞Hep G2は、予め10%FBS−αDMEM培地で培養した。
【0071】
10%FBS−αDMEM培地にヒト肝臓癌細胞Hep G2を加え、ヒト肝臓癌細胞Hep G2の濃度が20000cells/mlとなる細胞懸濁液を作製した。
【0072】
3.2 細胞凝集塊の形成
以下のサンプル8,9を作製した。
【0073】
(1)サンプル8
得られた細胞懸濁液100μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。更に、各ウェルにMPC−BMA共重合体A(重合体1)の5重量%水溶液を添加した。MPC−BMA共重合体Aの終濃度を0.125重量%として、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内でヒト肝臓癌細胞Hep G2を24時間培養した。これにより、ヒト肝臓癌細胞Hep G2の細胞凝集塊が得られた。
【0074】
(2)サンプル9
得られた細胞懸濁液100μlを、滅菌されたポリスチレン製のU底96ウェルプレートの各ウェルに播種した。そして、重合体を添加せずに、5%CO
2雰囲気中で37℃に保持したインキュベーター内でヒト肝臓癌細胞Hep G2を24時間培養した。これにより、ヒト肝臓癌細胞Hep G2がウェルプレートの接着し、接着培養系細胞が得られた。
【0075】
3.3 薬剤溶液の添加
薬剤溶液は、DULBECCO‘S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(以下、「D−PBS」とも言う。)にマイトマイシンCを溶解させて作製した。マイトマイシンCの濃度は25μg/mlとした。この薬剤溶液をサンプル8,9のウェル内にそれぞれ10μl添加し、ヒト肝臓癌細胞Hep G2を更に24時間培養した。
【0076】
3.4 スクリーニング性の評価
細胞凝集塊は生体内の腫瘍に近い性状(細胞間相互作用、酸素分圧、栄養分の浸透性など)を示すことが知られている。したがって、細胞凝集塊は接着培養系細胞よりも薬剤の作用をより明確に観察することができる。本実施例でも、サンプル8の細胞凝集塊では、サンプル9の接着培養系細胞よりも薬剤の作用を良好に確認することができた。
【0077】
さらに、サンプル8,9について、細胞凝集塊のうち生細胞の比率である細胞活性率について評価した。各サンプルについて、細胞活性率が高いほど生体内の性状に近い細胞でスクリーニングが実施されたことを示し、細胞活性率が低いほど生体内の性状とは異なる細胞でスクリーニングが実施されたことを示す。したがって、細胞活性率が高いほど、薬剤のスクリーニング性が高いことがわかる。
【0078】
細胞活性率は、細胞内脱水素酵素の量を測定する方法、及びアデノシン三リン酸(ATP:Adenosine Triphosphate)の量を測定する方法の2種類の方法により測定した。
【0079】
細胞内脱水素酵素の量を測定する方法には、キシダ化学社製のWST−8を用いた。ATPの量を測定する方法には、Promega社製のATP測定キット(CellTiter−Glo
TM Luminescent Cell Viability Assay)を用いた。
【0080】
図3は、サンプル8,9に係る細胞活性率の測定結果を示したグラフである。
図3に示すように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いたサンプル8は、重合体を用いないサンプル9よりも細胞活性率が高い。以上のように、本実施例に係るMPC−BMA共重合体を用いることにより、抗癌剤のスクリーニング性の高い細胞凝集塊が得られることが確認された。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。