(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーとして、芳香族系ポリイソシアネートを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる請求項2記載のゴルフボールの製造方法。
上記合成工程における耐熱酸化防止剤の配合量を、基材樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部、上記混練工程における耐熱酸化防止剤の配合量を、基材樹脂100質量部に対して0.1〜1.0質量部とする請求項1〜4のいずれか1項記載のゴルフボールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールの製造方法は、コアと該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを有するゴルフボールのカバーを成形するに際して、
カバー材料の基材樹脂を合成する合成工程、
上記で合成された基材樹脂に添加剤を配合し、混練する混練工程、及び
上記で混練されたカバー材料を用いてカバーを成形するカバー成形工程
を含み、上記合成工程及び混練工程の両工程で耐熱酸化防止剤を配合することを含むものである。本発明では、上記合成工程及び混練工程の両工程で耐熱酸化防止剤を配合することにより、耐熱酸化防止剤の効果を有効に発揮させることができ、カバー材料の調製及びカバー成形工程における材料の劣化や変色を効果的に抑制することができるようになる。
【0013】
本発明の製造方法により製造されるゴルフボールの構造は、従来のゴルフボールと同様に目的とする性能に応じて適宜設定することができ、特に制限されるものではない。即ち、必要に応じて、ソリッドコアの周囲に1層のカバーを形成してツーピースソリッドゴルフボールとしたり、上記ソリッドコアと2層以上のカバーを形成してスリーピース構造以上のマルチピースソリッドゴルフボールとすることができる。なお、カバーが2層以上形成される場合、最も外側に形成された層を最外層、上記コアと最外層との間に形成された層を中間層と表記することもある。なお、上記のコアは単層に限られず、2層以上形成することもできる。また、上記最外層の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルが多数形成される。
【0014】
まず、合成工程について説明する。
この合成工程は、カバー材料に使用する基材樹脂を合成する工程であるが、本発明の製造方法では基材樹脂の合成時に耐熱酸化防止剤を配合することを特徴とする。ここで合成される基材樹脂は、特に制限されるものではなく、熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂等を例示することができる。熱可塑性エラストマーの具体例としては、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。本発明では、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましく、芳香族系ポリイソシアネートを含む熱可塑性ポリウレタンエラストマーがより好ましい。なお、上記の基材樹脂を合成する際の方法及び条件は、合成時に耐熱酸化防止剤を所定量配合すること以外は、通常の方法及び条件を採用すればよい。
【0015】
上記耐熱酸化防止剤は、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではないが、具体的にはヒンダードフェノール系耐熱酸化防止剤、アミン系耐熱酸化防止剤、リン系耐熱酸化防止剤、イオウ系耐熱酸化防止剤等が挙げられる。本発明においては、これらの耐熱酸化防止剤の中でも特にヒンダードフェノール系耐熱酸化防止剤を好適に使用することができる。なお、これらの耐熱酸化防止剤は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。以下、上記の耐熱酸化防止剤について説明する。
【0016】
ヒンダードフェノール系耐熱酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)]、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、3,3’,3”,5,5’,5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート](50質量%)とポリエチレンワックス(50質量%)との混合物、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、4,6−ビス(ドデシルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、N−フェニルベンゼンアミンと2,4,4−トリメチルペンテンとの反応生成物(CAS−No.:68411−46−1)及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール等を例示することができる。
【0017】
上記のヒンダードフェノール系耐熱酸化防止剤は、市販品を用いることができ、例えば、IRGANOX 1010、IRGANOX 1035、IRGANOX 1076、IRGANOX 1098、IRGANOX 1135、IRGANOX 1330、IRGANOX 1425 WL、IRGANOX 1520L、IRGANOX 1726、IRGANOX 245、IRGANOX 259、IRGANOX 3114、IRGANOX 3790、IRGANOX 5057、及びIRGANOX 565(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0018】
リン系耐熱酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが挙げられる。この化合物の市販品としては、IRGAFOS 168(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0019】
イオウ系耐熱酸化防止剤としては、例えば、ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、ジオクタデシル3,3’−チオジプロピオネートが挙げられる。これらの化合物の市販品としては、IRGANOX PS 800 FDやIRGANOX PS 802 FD(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0020】
合成工程における耐熱酸化防止剤の配合量は、特に制限されるものではないが、基材樹脂100質量部に対して0.05〜3.0質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量部とすることができる。配合量が多すぎると、物性の低下やブリードアウトを引き起こしたり、材料のコストアップに繋がる場合がある。配合量が少なすぎると、樹脂の酸化防止効果が十分に発揮されないことがある。
【0021】
次に、混練工程では、上記合成工程で得られた耐熱酸化防止剤を含む基材樹脂に対して、追加分の耐熱酸化防止剤を含む各種添加剤を配合する。
【0022】
混練工程において、耐熱酸化防止剤は上記合成工程で用いられるものと同様のものを使用することができる。そして、その配合量は、特に制限されるものではないが、基材樹脂100質量部に対して0.05〜3.0質量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.0質量部とすることができる。配合量が多すぎると、物性に悪影響を及ぼしたり、材料のコストアップに繋がる場合がある。配合量が少なすぎると、樹脂の酸化防止効果が十分に発揮されないことがある。このように、耐熱酸化防止剤を複数回配合することにより、その効果を有効に発揮させることができ、材料が不要な熱履歴を受けることを回避することができる。
【0023】
なお、上記の「基材樹脂100質量部」とは、合成工程で合成された樹脂のみの質量を意味し、耐熱酸化防止剤の質量を含まないものとする。これは以下の記載においても同様である。
【0024】
本発明では、上記の耐熱酸化防止剤の他に、耐久性を向上させるために紫外線吸収剤や光安定剤を配合することもできる。
【0025】
紫外線吸収剤としては、公知のものを配合することができ、特に制限されるものではないが、例えば、サリチル酸誘導体、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、トリアジン系、ニッケル錯体等が例示される。サリチル酸誘導体としてフェニルサリシレート、p−t−ブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレート等を挙げることができる。より具体的には、上記ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤として、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2,2−ジヒドロキシ−4,4’−メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。また、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール等を挙げることができる。シアノアクリレート系の紫外線吸収剤としては、2−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、エチル−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート等が挙げられる。トリアジン系の紫外線吸収剤としては、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5[(ヘキシル)オキシ]−フェノール、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル]−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3−5−トリアジン及び2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2’−エチル)ヘキシル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。本発明では、カバーの変色を効果的に抑制する観点から、240〜400nmの紫外線を吸収するものが好ましく、サリチル酸誘導体、トリアジン系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系及びシアノアクリレート系が好ましく、ベンゾトリアゾール系が特に好ましい。なお、これらの紫外線吸収剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記の紫外線吸収剤は、市販品を用いることもでき、ベンゾフェノン系の紫外線吸収剤としては、スミソープ130、及びスミソープ140(住友化学社製)等が挙げられ、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤としては、TINUVIN 234、TINUVIN 900、TINUVIN 326、及びTINUVIN P(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。また、シアノアクリレート系の紫外線吸収剤としては、Uvinul N−35(BASF社)等が挙げられる。トリアジン系の紫外線吸収剤としては、TINUVIN 1577、TINUVIN 460、及びTINUVIN 405(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等が挙げられる。
【0027】
上記の紫外線吸収剤の配合量は、特に制限されるものではないが、基材樹脂100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上とすることができる。また、その上限も特に制限されないが、基材樹脂100質量部に対し、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下とすることができる。配合量が多すぎると、物性に悪影響を及ぼしたり、材料のコストアップに繋がる場合がある。一方、配合量が少なすぎると、樹脂の劣化防止効果が十分に発揮されない場合がある。
【0028】
光安定剤は、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではないが、ヒンダードアミン系光安定剤を好適に使用することができる。この光安定剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ヒンダードアミン系耐熱光安定剤として、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)[〔3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル〕メチル]ブチルマロネート、及び1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等を例示することができる。本発明では、カバーの変色を抑制する観点から、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンを好適に使用することができる。
【0029】
上記ヒンダードアミン系光安定剤は、市販品を用いることができ、例えば、サノールLS−2626、TINUVIN 111FDL、TINUVIN 123、及びTINUVIN 144(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等を例示することができる。
【0030】
上記の光安定剤の配合量は、特に制限されるものではないが、基材樹脂100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上とすることができる。また、その上限も特に制限されないが、基材樹脂100質量部に対し、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下とすることができる。配合量が多すぎると、物性に悪影響を及ぼしたり、材料のコストアップに繋がる場合がある。配合量が少なすぎると、樹脂の劣化防止効果が十分に発揮されない場合がある。
【0031】
更に、混練工程では、必要に応じて酸化チタン等の無機充填剤を配合することができる。その配合量は、特に制限されるものではないが、基材樹脂100質量部に対して0.01〜5質量部とすることができる。
【0032】
上記混練工程では、必要に応じて種々の添加剤を配合することができ、例えば、顔料、分散剤、離型剤、上記以外の充填剤等を適宜配合することができる。
【0033】
また、上記混練工程では、特に制限されるものではないが、上記の合成工程で合成した耐熱酸化防止剤を含む基材樹脂以外にも、通常の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂を更に配合することができる。この場合、これらの熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂は、上記の各種添加剤と共に配合することはもちろん、上記の各種添加剤をマスターバッチ化する際のバインダーとして用いることもできる。なお、本発明では、混練工程において上記の熱可塑性エラストマーや熱可塑性樹脂を配合する場合でも、上記各種添加剤の配合量は、合成工程で合成された基材樹脂の質量(耐熱酸化防止剤の質量を含まない)を基準に定めるものとする。
【0034】
上記混練工程では、特に制限されるものではないが、一軸型混練押出機、二軸型混練押出機、ミキシングロール及びバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いることができる。この場合、加工温度は特に限定されるものではないが、通常、150〜250℃とすることが好ましく、より好ましくは170〜230℃とすることができる。
【0035】
混練工程において、上記の各種添加剤は、そのまま配合しても、予め基材樹脂を用いてマスターバッチ化したものを配合してもよい。なお、上記添加剤をマスターバッチ化する場合、バインダーとして用いる基材樹脂は、必ずしも合成工程で合成したものと同一である必要はない。
【0036】
カバー成形工程では、上記混練工程で得たカバー材料を用いてゴルフボールのカバーを成形する。該カバー成形工程では、特に制限されるものではないが、射出成形や圧縮成形等の公知の成形方法を採用することができる。成形温度は、特に限定されるものではなく、形成するカバーの厚みや樹脂の溶融粘度の関係から適宜設定することができ、樹脂自体の熱劣化を引き起こさない範囲で行うことが好ましい。本発明においては特に射出成形を採用することが好適である。この場合、成形温度は、材料の配合等によって異なるが、通常150〜250℃の範囲とすることができる。なお、上記の成形温度は射出成形機の加熱筒設定温度を意味する。
【0037】
カバー成形工程では、混練工程で混練されたカバー材料のペレットを射出成形機に投入するが、この際、必要に応じて上記ペレットの投入と同時に他の添加剤を別途投入することもできる。しかし、この場合、成形機のシリンダー内における混練性に注意する必要があることや、添加剤用の計量混合機等の外部機器が別途必要になることから、本発明では、混練工程においてカバー材料に必要な全ての成分を含有するペレットを作製しておくことがより好ましい。
【0038】
なお、ここでいうカバーとは、ソリッドコアの周囲に形成される層を意味し、ツーピースソリッドゴルフボールのカバー(最外層)や、2層以上のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールの中間層(最外層以外の層)及び最外層を含む。本発明の製造方法は、上記のいずれの層を成形する場合にも適用することができるものであるが、特にツーピースソリッドゴルフボールのカバーや、マルチピースソリッドゴルフボールの最外層を形成する場合において好適に採用することができる。
【0039】
また、マルチピースソリッドゴルフボールを作製する場合、上記合成工程及び混練工程で耐熱酸化防止剤を配合した上記カバー材料は、そのうちの1層の成形に用いるだけでなく、同種又は異種の配合のものを2層以上の層に用いることも任意である。
【0040】
上記カバー成形工程においては、成形時に発生したランナー等の屑を粉砕したものを再生材料として再利用することができる。カバー材料の一部に再生材料を配合する場合、その配合量は、特に制限されるものではないが、カバー材料全体の20〜50質量%とすることが好ましく、より好ましくは25〜45質量%とすることができる。再生材料の配合量が多すぎると、ボールの物性や外観に悪影響を及ぼすおそれがある。なお、一般的には、上記再生材料の配合量は、カバー材料全体の約23質量%(バージン材料100質量部に対し30質量部程度)までとすることが推奨されている。しかし、本発明では、基材樹脂の合成工程、カバー材料の混練工程及びカバー成形工程の各工程において、材料の劣化や変色が効果的に抑制されているので、成形時に発生する屑も劣化や変色が少ないものとなる。従って、本発明の製造方法を採用することにより、より多くの再生材料を配合することができるようになるため、再生材料の使用効率を向上させることができる。更には、複数回の再利用も可能となる。
【0041】
本発明では、上記のカバー材料において、基材樹脂として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いる場合、下記に示したポリウレタン材料(I)又はポリウレタン材料(II)を好適に使用することができる。これらの材料について以下に詳述する。
【0042】
ポリウレタン材料(I)
この材料(I)は、下記(A)成分及び(B)成分を主成分とするものである。
(A)熱可塑性ポリウレタン材料
(B)1分子中に官能基として2つ以上のイソシアネート基を持つイソシアネート化合物(b−1)を、イソシアネートと実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたイソシアネート混合物
【0043】
カバーをこの材料(I)によって形成した場合には、より優れたフィーリング、コントロール性、耐カット性、耐擦過傷性、繰り返し打撃したときの割れ耐久性を有するゴルフボールを得ることができる。
【0044】
次に、上記の各成分について説明する。
(A)熱可塑性ポリウレタン材料の構造は、高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、本発明では、ポリエステル系ポリオール及びポリエーテル系ポリオールを好適に使用し得る。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)等が挙げられる。
【0045】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2〜12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4−ブチレングリコールを好適に使用することができる。
【0046】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0047】
上述した材料からなる熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、ディーアイシーバイエルポリマー社製の商品名「パンデックス」や、大日精化工業社製の商品名「レザミン」などを挙げることができる。
【0048】
(B)イソシアネート混合物は、1分子中に官能基として2つ以上のイソシアネート基を持つイソシアネート化合物(b−1)を、イソシアネートと実質的に反応しない熱可塑性樹脂(b−2)中に分散させたものである。ここで、上記イソシアネート化合物(b−1)としては、従来公知のものを好適に用いることができ、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ただし、反応性、作業安全性の面から、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最適である。
【0049】
また、前記熱可塑性樹脂(b−2)としては、吸水性が低く、熱可塑性ポリウレタン材料との相溶性に優れた樹脂が好ましい。このような樹脂として、例えばポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエラストマー(ポリエーテル・エステルブロック共重合体、ポリエステル・エステルブロック共重合体等)が挙げられるが、反発弾性、強度の点からポリエステルエラストマー、中でもポリエーテル・エステルブロック共重合体が特に好ましい。
【0050】
(B)イソシアネート混合物における熱可塑性樹脂(b−2):イソシアネート化合物(b−1)の配合比は、質量比で100:5〜100:100、特に100:10〜100:40であることが好ましい。熱可塑性樹脂(b−2)に対するイソシアネート化合物(b−1)の配合量が少なすぎると、(A)熱可塑性ポリウレタン材料との架橋反応に十分な添加量を得るためにはより多くの(B)イソシアネート混合物を添加しなくてはならず、熱可塑性樹脂(b−2)の影響が大きく作用することで材料の物性が不十分となる。一方、熱可塑性樹脂(b−2)に対するイソシアネート化合物(b−1)の配合量が多すぎると、イソシアネート化合物(b−1)が混練り中にすべり現象を起こし、(B)イソシアネート混合物の合成が困難となる。
【0051】
(B)イソシアネート混合物は、例えば、熱可塑性樹脂(b−2)にイソシアネート化合物(b−1)を配合し、これらを温度130〜250℃のミキシングロール又はバンバリーミキサーで十分に混練して、ペレット化又は冷却後粉砕することにより得ることができる。イソシアネート混合物(B)としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、商品名「クロスネートEM30」(大日精化工業社製)等が挙げられる。
【0052】
上記材料(I)は、前述した(A)熱可塑性ポリウレタン材料及び(B)イソシアネート混合物を主成分とするものである。この材料(I)において、(A)熱可塑性ポリウレタン材料100質量部に対する(B)イソシアネート混合物の配合量は、1質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、100質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは30質量部以下とすることができる。(A)熱可塑性ポリウレタン材料に対する(B)イソシアネート混合物の配合量が少なすぎると架橋効果が十分に発現せず、多すぎると未反応のイソシアネートが成形物に着色現象を起こさせるので好ましくない。
【0053】
材料(I)には、必須成分ではないが、上述した(A)成分及び(B)成分に加えて他の成分(C)を配合することができる。このような他の成分としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン材料以外の熱可塑性高分子材料を挙げることができ、より具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、ポリエチレン、ナイロン樹脂等が例示される。上記(C)成分を配合する場合、その配合量は、カバー材の硬度の調整、反発性の改良、流動性の改良、接着性の改良などに応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、上記(A)成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上とすることができる。また、配合量の上限も特に制限されないが、上記(A)成分100質量部に対して、100質量部以下、好ましくは75質量部以下、更に好ましくは50質量部以下とすることができる。
【0054】
本発明では、上記材料(I)を調製する場合、合成工程で(A)成分中に耐熱酸化防止剤や必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、離型剤等の添加剤を配合し、混練工程で更に耐熱酸化防止剤を追加配合すると共に必要に応じて種々の添加剤、例えば顔料、分散剤、離型剤、充填剤、熱可塑性ポリウレタン材料以外の熱可塑性高分子材料等を適宜配合することができる。
【0055】
上記材料(I)を用いてカバーを成形する場合、公知の成形方法を採用することができ、例えば、(A)熱可塑性ポリウレタン材料に(B)イソシアネート混合物を添加してドライミキシングし、得られた混合物を射出成形機に供給し、コアの周囲に溶融した樹脂組成物を射出する方法を採用することができる。この場合の成形温度は(A)熱可塑性ポリウレタン材料の種類によって異なるが、通常150〜250℃の範囲である。
【0056】
上記のようにして得られたゴルフボールカバーの反応形態、架橋形態としては、熱可塑性ポリウレタン材料の残存OH基にイソシアネート基が反応してウレタン結合を形成したり、熱可塑性ポリウレタン材料のウレタン基にイソシアネート基の付加反応が生じ、アロファネート架橋形態を形成すると考えられ、また水分の存在下ではウレア結合やビュレット架橋形態を形成したりすると考えられる。この場合、材料(I)の射出成形直後は架橋反応が十分に進んでいないが、成形後にアニーリングを行うことにより架橋反応が進行し、ゴルフボールカバーとして有用な特性を保持するようになる。アニーリングとは、カバーを一定温度、一定時間で加熱熟成したり、室温で一定期間熟成したりすることを言う。
【0057】
ポリウレタン材料(II)
この材料(II)は、(D)熱可塑性ポリウレタンエラストマー及び(E)ポリイソシアネート化合物を主成分とする単一な樹脂配合物である。このようなポリウレタン材料(II)を主成分としてカバーを形成すると、反発性を損なうことなく、優れたフィーリング、コントロール性、耐カット性、耐擦過傷性、繰り返し打撃したときの割れ耐久性を得ることができる。
【0058】
ここで、「単一な」樹脂配合物とは、樹脂配合物を複数種のペレットとして供給するのではなく、複数の成分を1つのペレットに調製した1種類のペレットとして射出成形機等に供してカバーを成形することを意味する。
【0059】
本発明の効果を十分有効に発揮させるためには、必要十分量の未反応のイソシアネート基がカバー樹脂材料中に存在すればよく、具体的には、上記の(D)成分と(E)成分とを合わせた合計質量が、カバー全体の質量の60%以上であることが推奨され、より好ましくは70%以上であることが推奨される。以下、上記(D)成分及び(E)成分について詳述する。
【0060】
上記(D)熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ポリウレタン材料(II)の基材樹脂である。その構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。
【0062】
また、ポリエーテルポリオールとしては、例えば、環状エーテルを開環重合して得られるポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、ポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等を挙げることができる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0063】
これらの長鎖ポリオールの数平均分子量は、600〜5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、800〜4,000の範囲内であることがより好ましく、1,000〜3,000の範囲内であることが更に好ましい。
【0064】
なお、上記の数平均分子量とは、JIS K 1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である(以下、同様。)。
【0065】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する数平均分子量1,000以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4−ブチレングリコール、1,2−エチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2〜12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4−ブチレングリコールがより好ましい。
【0066】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0067】
上記(D)成分の熱可塑性ポリウレタンとして最も好ましいものは、長鎖ポリオールとしてポリエーテルポリオール、鎖延長剤として脂肪族ジオール、ポリイソシアネート化合物として芳香族ジイソシアネートを用いて合成される熱可塑性ポリウレタンであって、上記ポリエーテルポリオールが数平均分子量1,000以上のポリテトラメチレングリコール、上記鎖延長剤が1,4−ブチレングリコール、上記芳香族ジイソシアネートが4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートのものであるが、特にこれらに限られるものではない。
【0068】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は、上記した反発性、スピン性能、耐擦過傷性及び生産性などの種々の特性がより優れた熱可塑性ポリウレタン組成物からなるゴルフボールを得ることができるよう、好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤とを反応させて熱可塑性ポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95〜1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0069】
上記(D)成分の熱可塑性ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸又は単軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0070】
次に、上記(E)成分として用いられるポリイソシアネート化合物については、単一な樹脂配合物中において少なくとも一部が、一分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存していることが必要である。即ち、単一な樹脂配合物中に一分子中のすべてのイソシアネート基が完全にフリーな状態であるポリイソシアネート化合物が存在すればよく、このようなポリイソシアネート化合物と、一分子中の一部がフリーな状態のポリイソシアネート化合物とが併存していてもよい。
【0071】
このポリイソシアネート化合物としては、特に制限はないが、各種のイソシアネートを採用することができ、具体的には、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5−ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。上記のイソシアネートの群のうち、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート及びイソホロンジイソシアネートを採用することが、(D)成分との反応に伴う粘度上昇等による成形性への影響と、得られるゴルフボールカバー材料の物性とのバランスとの観点から好適である。
【0072】
本発明ゴルフボールのカバーにおいて、必須成分ではないが、上記(D)成分及び(E)成分に加えて、更に(F)成分として、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(F)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0073】
上記(F)成分の上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー以外の熱可塑性エラストマーとして具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、スチレンブロックエラストマー、水添スチレンブタジエンゴム、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体又はその変性物、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体又はその変性物、ABS樹脂、ポリアセタール、ポリエチレン及びナイロン樹脂から選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。特に、生産性を良好に維持しつつ、イソシアネート基との反応により、反発性や耐擦過傷性が向上することなどの理由から、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー及びポリアセタールを採用することが好適である。
【0074】
上記(D)、(E)及び(F)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(D):(E):(F)=100:2〜50:0〜50であることが好ましく、更に好ましくは、(D):(E):(F)=100:2〜30:8〜50(質量比)とすることである。
【0075】
本発明では、(D)成分と(E)成分、更に任意成分の(F)成分を混合してカバー形成用の樹脂配合物を調製するが、その際、ポリイソシアネート化合物の少なくとも一部に、分子中の全てのイソシアネート基が未反応状態で残存するポリイソシアネート化合物が存在するような条件を選択する必要がある。例えば、窒素ガス等の不活性ガスや真空状態で混合すること等の処置を講ずる必要がある。この樹脂配合物は、その後に金型に配置されたコア周囲に射出成形されることになるが、その取り扱いを円滑かつ容易に行う理由から、長さ1〜10mm、直径0.5〜5mmのペレット状に形成することが好ましい。この樹脂ペレット中には、未反応状態のイソシアネート基が十分に残存しており、コアに射出成形している間やその後のアニーリング等の後処理により、未反応イソシアネート基は(D)成分や(F)成分と反応して架橋物を形成する。
【0076】
本発明では、上記材料(II)を調製する場合、合成工程で(D)成分中に耐熱酸化防止剤や必要に応じて紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤、離型剤等の添加剤を配合し、混練工程で上記(E)成分、任意の(F)成分、更に耐熱酸化防止剤を追加配合すると共に必要に応じて種々の添加剤、例えば顔料、分散剤、離型剤、充填剤を適宜配合するようにするとよい。
【0077】
上記樹脂配合物の210℃におけるメルトマスフローレート(MFR)値は、特に制限はないが、流動性及び生産性を高める点から、5g/10min以上が好ましく、より好ましくは、6g/10min以上である。樹脂配合物のメルトマスフローレートが少ないと流動性が低下してしまい、射出成形時に偏芯の原因となるだけでなく、成形可能なカバー厚みの自由度が低くなるおそれがある。なお、上記のメルトマスフローレートの測定値は、JIS K 7210(1999年版)に準拠した測定値である。
【0078】
上記材料を用いてカバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂配合物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂配合物を射出する方法を採用することができる。この場合、成形温度は、熱可塑性ポリウレタン等の種類によって異なるが、通常150〜250℃の範囲である。
【0079】
なお、射出成形を行なう場合、樹脂供給部から金型内に至る樹脂経路の一部又は全ての個所において、窒素等の不活性ガス又は低露点ドライエア等の低湿度ガスによるパージ又は真空処理等により低湿度環境下で成形を行なうことが望ましいが、これに限定されるものではない。また、樹脂搬送時の圧送媒体としても、低露点ドライエア又は窒素ガス等の低湿度ガスが好ましいが、これらに限定されるものではない。上記の低湿度環境下で成形を行なうことにより、樹脂が金型内部に充填される前のイソシアネート基の反応の進行を抑制し、ある程度イソシアネート基が未反応状態の形態のポリイソシアネートを樹脂成形物に含めることにより、不要な粘度上昇等の変動要因を減少させ、また、実質的な架橋効率を向上させることができる。
【0080】
なお、コア周囲に射出成形する前の樹脂配合物中における未反応状態のポリイソシアネート化合物の存在を確認する手法としては、該ポリイソシアネート化合物のみを選択的に溶解させる適当な溶媒により抽出し、確認する手法等が考えられるが、簡便な方法としては不活性雰囲気下での示差熱熱重量同時測定(TG−DTA測定)により確認する手法が挙げられる。例えば、本発明で用いられる樹脂配合物(カバー材料)を窒素雰囲気下、昇温速度10℃/minにて加熱していくと、約150℃程度から緩やかなジフェニルメタンジイソシアネートの重量減少を確認することができる。一方、熱可塑性ポリウレタン材料とイソシアネート混合物との反応を完全に行った樹脂サンプルでは約150℃からの重量減少は確認されず、230〜240℃程度からの重量減少を確認することができる。
【0081】
上記のように樹脂配合物を成形した後、アニーリングを行って架橋反応を更に進行させ、ゴルフボールカバーとしての特性を更に改良することも可能である。アニーリングとは、一定環境下で一定期間熟成させることをいう。
【0082】
本発明の製造方法により2層以上のカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールを作製する場合、そのうちの1層以上を公知のアイオノマー樹脂、ポリウレタン等の各種熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーの樹脂材料を主材とする従来の材料を用いて形成することができる。これらの従来材料は、上記マルチピースソリッドゴルフボールのいずれの層にも使用することができるが、特に該ゴルフボールの中間層の形成において好適に採用することができる。また、上記の従来材料は、ボールの仕様等に応じて、同種又は異種の材料を2層以上の層に用いることもできる。この層の成形方法は、特に制限されるものではなく、射出成形等の公知の方法を適宜選択すればよい。なお、コアの周囲に被覆されるカバーが1層である場合は、この層は形成されない。
【0083】
本発明の製造方法により得られるゴルフボールにおいて、特に制限されるものではないが、上記カバーの厚さは0.3〜3.0mmの範囲とすることが好ましい。また、上述した通り、上記ゴルフボールのカバーは1層に限らず、2層以上の多層構造に形成することができるが、多層構造に形成する場合はカバー全体の厚さを上記範囲内とすることが好ましい。
【0084】
また、特に制限されるものではないが、上記の従来材料で形成した中間層と、上述した合成工程及び混練工程で耐熱酸化防止剤を配合したカバー材料(特に基材樹脂として熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いた場合)との密着性を高めるために、カバーを形成する前に予め中間層の表面を研磨することが好適である。更に、研磨処理後に中間層の表面にプライマー(接着剤)を塗布したり、中間層材料(従来材料)に公知の密着強化剤を添加することにより、密着性の更なる向上を図ることができる。なお、上記材料中に配合する密着強化剤としては、1,3−ブタンジオール、トリメチロールプロパンなどの有機化合物やポリエチレングリコール、ポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマーなどのオリゴマーが挙げられる。特にトリメチロールプロパンやポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマーが好適に用いられる。これらは市販品を用いることができ、具体例として、三菱ガス化学社製トリメチロールプロパンや、三菱化学社製ポリヒドロキシポリオレフィンオリゴマー(主鎖の炭素数が150〜200、末端に水酸基を有する。商品名ポリテールH)等を挙げることができる。
【0085】
本発明において、ソリッドコアは公知のゴム組成物を用いて形成することができ、特に制限されるものではないが、好適なものとして以下に示す配合のゴム組成物を例示することができる。
【0086】
上記コアを形成する材料としては、ゴム材を主材として用いることができる。例えば、基材ゴムに、共架橋剤、有機過酸化物、不活性充填剤、硫黄、老化防止剤、有機硫黄化合物等を含有するゴム組成物を用いて形成することができる。
【0087】
上記ゴム組成物の基材ゴムとしては、ポリブタジエンを使用したものが好ましい。このポリブタジエンとしては、そのポリマー鎖中に、シス−1,4−結合を好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上有するものを好適に使用することができる。分子中の結合に占めるシス−1,4−結合が少なすぎると、反発性が低下する場合がある。また、上記ポリブタジエンに含まれる1,2−ビニル結合の含有量は、そのポリマー鎖中に好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.7質量%以下、更に好ましくは1.5質量%以下である。1,2−ビニル結合の含有量が多すぎると、反発性が低下する場合がある。
【0088】
上記ポリブタジエンとしては、良好な反発性を有するゴム組成物の加硫成形物を得る観点から、希土類元素系触媒又はVIII族金属化合物触媒で合成されたものであることが好ましく、中でも特に希土類元素系触媒で合成されたものであることが好ましい。
【0089】
このような希土類元素系触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ランタン系列希土類元素化合物と、有機アルミニウム化合物、アルモキサン、ハロゲン含有化合物、必要に応じルイス塩基とを組み合わせてなる触媒を挙げることができる。
【0090】
上記ランタン系列希土類元素化合物としては、原子番号57〜71の金属ハロゲン化物、カルボン酸塩、アルコラート、チオアルコラート、アミド等を挙げることができる。
【0091】
本発明においては、特に、ランタン系列希土類元素化合物としてネオジム化合物を用いたネオジム系触媒を使用することが、シス−1,4−結合が高含量、1,2−ビニル結合が低含量のポリブタジエンゴムを優れた重合活性で得られるので好ましく、これらの希土類元素系触媒の具体例は、特開平11−35633号公報、特開平11−164912号公報、特開2002−293996号公報に記載されているものを好適に挙げることができる。
【0092】
ランタン系列希土類元素化合物系触媒を用いて合成されたポリブタジエンは、ゴム成分中に10質量%以上、特に20質量%以上、更には40質量%以上含有することが反発性を向上させるためには好ましい。
【0093】
なお、上記のゴム組成物には、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0094】
共架橋剤としては、例えば不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の金属塩等が挙げられる。
【0095】
不飽和カルボン酸として具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。
【0096】
不飽和カルボン酸の金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
【0097】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下、更に好ましくは40質量部以下、最も好ましくは30質量部以下とすることができる。配合量が多すぎると、硬くなりすぎて耐え難い打感になる場合があり、配合量が少なすぎると、反発性が低下してしまう場合がある。
【0098】
上記有機過酸化物としては市販品を用いることができ、例えば、パークミルD(日油社製)、パーヘキサ3M(日油社製)、パーヘキサC40(日油社製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いることが好ましい。
【0099】
上記有機過酸化物は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、最も好ましくは0.7質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な打感、耐久性及び反発性を得ることができない場合がある。
【0100】
不活性充填剤としては、例えば酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
不活性充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上とすることができ、配合量の上限は好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、更に好ましくは60質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な重量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0102】
更に、必要に応じて老化防止剤を配合することができ、例えば、市販品としてはノクラックNS−6、同NS−30、同200(大内新興化学工業社製)、ヨシノックス425(吉富製薬社製)等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0103】
該老化防止剤の配合量は0超とすることができ、好ましくは基材ゴム100質量部に対して0.05質量部以上、特に0.1質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は特に制限されないが、好ましくは基材ゴム100質量部に対して3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、最も好ましくは0.5質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0104】
また、本発明では、必要に応じて、コアの反発性向上を目的として、基材ゴムに有機硫黄化合物を配合することができる。有機硫黄化合物を配合する場合、その配合量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上することができ、配合量の上限は、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは2質量部以下とすることができる。有機硫黄化合物の配合量が少なすぎると、コアの反発性向上効果が十分に得られない場合があり、逆に、その配合量が多すぎると、コアの硬度が軟らかくなりすぎて、フィーリングが悪くなり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0105】
上記の各成分を含有するゴム組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練することにより調製される。また、該ゴム組成物を用いてコアを成形する場合、所定のコア成形用金型を用いて圧縮成形又は射出成形等により成形すればよい。得られた成形体については、ゴム組成物に配合された有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度条件で加熱硬化し、所定の硬度分布を有するコアとする。この場合、加硫条件は特に限定されるものではないが、通常、約130〜170℃、特に150〜160℃で10〜40分、特に12〜20分の条件とされる。
【0106】
上記コアの直径は、特に制限されるものでないが、30〜40mmに設定することができる。この場合、好ましい下限値は32mm以上であり、より好ましくは34mm以上、更に好ましくは35mm以上である。また、好ましい上限値は39mm以下とすることができ、より好ましくは38mm以下とすることができる。
【0107】
また、上記コアのたわみ量、即ち、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1275N(130kgf)まで負荷したときのたわみ量は、特に制限されるものではないが、2.0〜6.0mmの範囲内とすることができる。この場合、好ましい下限値は2.5mm以上であり、より好ましくは3.0mm以上、更に好ましくは3.5mm以上である。また、好ましい上限値は5.5mm以下とすることができ、より好ましくは5.0mm以下とすることができる。上記範囲よりもコアが硬すぎる(たわみ量が小さい)と、高HSで打撃した場合に、飛距離低減効果が十分に得られない場合がある。逆に、上記範囲よりもコアが軟らかすぎる(たわみ量が大きい)と、打感が軟らかくなりすぎたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0108】
本発明では、上記材料を用いてソリッドコアを形成することによって、反発性の向上を図ることができるため、安定した弾道を得ることができるゴルフボールを提供することができる。
【0109】
また、上記コアの構造については1層に限られず、2層以上の多層構造としてもよい。コアを多層構造とすることにより、ドライバー打撃時のスピン量を低減させることができ、更なる飛距離増大を図ることができる。また、打撃時のスピン特性及びフィーリング特性を更に改良することもできる。この場合、上記コアは、少なくとも内層コア(内芯球)及び外層コアを具備するものとなる。
【0110】
上記の各層を形成して得られるゴルフボールの表面には、通常、多数のディンプルが形成される。更に、上記カバーの表面にはクリア塗装やマーキング等を施すことができる。
【0111】
本発明の製造方法を用いて製造させるゴルフボールにおいて、表面に形成されるディンプルの形状、個数及び配列等は、ボールの仕様に応じて適宜設定し得るものであり、特に制限されるものではない。例えば、ディンプルの形状については、円形に限られず、非円形の多角形、涙形、楕円形等から適宜選択することができる。また、上記ディンプルの直径については、特に制限されるものではないが、0.5〜6mmの範囲とすることが好ましい。そして、ディンプルの深さについても特に制限されるものではないが、0.05〜0.4mmの範囲とすることが好ましい。
【0112】
また、ディンプルがボール表面に占める表面占有率については、特に制限されるものではないが、空気力学的特性の観点から70%以上にすることが好ましく、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上とされる。
【0113】
ボールに対して、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量は、特に制限されるものではないが、好ましくは2.5mm以上とすることができる。また、該たわみ量の上限も、特に制限されないが、好ましくは7mm以下とすることができる。
【0114】
本発明の製造方法により製造されるゴルフボールは、ゴルフ規則に従うものとすることができ、直径は42.67mm以上、重量は45.93g以下とすることが好適である。
【実施例】
【0115】
以下、本発明の製造方法について、コアの周囲に中間層及び最外層の2層のカバーが形成されたスリーピースソリッドゴルフボールを製造する場合を例として詳細に説明するが、本発明は下記の例に制限されるものではない。
【0116】
まず、表1に示す配合のコア用ゴム組成物を常法に従って調製し、得られた組成物を157℃で15分の条件で加硫することにより、直径37.6mmのソリッドコアを作製した。
【0117】
【表1】
【0118】
表1の各成分の詳細は下記の通りである。
ポリブタジエンゴム:商品名「BR730」(JSR社製)
有機過酸化物:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
【0119】
次いで、表2に示した配合の材料を用い、上記で作製したコアの周囲に射出成形法により厚さ1.7mmの中間層を形成した。
【0120】
【表2】
【0121】
表2の各成分の詳細は下記の通りである。
ハイミラン1605、1706、1557:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
【0122】
次に、上記で形成した中間層の周囲に表3〜9に示した配合のカバー材料を射出成形して最外層を形成するが、ここで使用するカバー材料は、以下の方法で調製した。
【0123】
合成工程
合成時に樹脂の原料と共に耐熱酸化防止剤を配合し、基材樹脂100質量部に対して0.3質量部の耐熱酸化防止剤を含む熱可塑性ポリウレタンエラストマーTPU−1及びTPU−2をそれぞれ合成した。ここで、上記TPU−1はパンデックスT8283(ディーアイシーバイエルポリマー社製)に相当するポリマー組成を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、上記TPU−2はパンデックスT8290(ディーアイシーバイエルポリマー社製)に相当するポリマー組成を有する熱可塑性ポリウレタンエラストマーである。上記で得られた基材樹脂はいずれも長さ3mm、直径1〜2mmのペレット状であった。
【0124】
混練工程
表3〜9に示した配合で上記基材樹脂及び原料2〜8をスクリュー型押出機に投入して、窒素ガス雰囲気下で混練りし、長さ3mm、直径1〜2mmのペレット状のカバー材料(本材をバージン材料と称する。なお、ここでは最外層を形成するための材料を意味する。)を得た。
【0125】
カバー成形工程
上記で形成した中間層の周囲に、上記で得たカバー材料(バージン材料)及び必要に応じてこのカバー材料の再生材料を表3〜9に記載の比率で配合し、表3〜9に示した成形温度で射出成形法により最外層を形成し、コアの周囲に中間層及び最外層を備えたスリーピースソリッドゴルフボールを作製した。なお、この時、上記で得たペレット状のカバー材料(バージン材料)及び再生材料は、カバー成形工程に供されるまで低湿度環境下で取り扱われた。そして、射出成形時には、材料の搬送経路も低湿度環境とした。また、作製された全てゴルフボールのカバー表面には、カバーの成形と同時に同一の態様のディンプルが形成された。
【0126】
ここでは、上記の方法に従いながら再生材料の配合量、リサイクル回数、耐熱酸化防止剤の配合量、成形温度の条件を変えてゴルフボールを作製し、以下の特性について評価することによって、本発明の製造方法の効果を検証した。結果は表3〜9に示した。
【0127】
・ボールのたわみ量
ボールを硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)を負荷したときまでのたわみ量(mm)を測定した。
【0128】
・黄色度(YI)及び黄変度(ΔYI)
トップコートを施したボールの色調を、色差計(型式SC−P、スガ試験機株式会社製)を用い、JIS Z 8722 反射物体の測定方法(拡散光照明、8度受光の光学系:条件c)に準拠し、d/8(試料の正反射成分を含まないで測定:光トラップあり)により測定した。測定孔径はφ30mmを使用した。
Lab表色系における黄色度(YI)と表3〜9のそれぞれにおいてバージン材料のみ(再生材料配合比率:0)に該当するボール黄色度(YI)を基準とする黄変度(ΔYI)が1未満である場合を耐変色性に優れると判定した。
【0129】
1.バージン材料に対する再生材料の配合量(リサイクル効率)
まず、バージン材料100質量%のカバー材料を用いてNo.1のゴルフボールを作製した後、以下のNo.2及びNo.3のゴルフボールを作製することにより再生材料の配合量について検討した。
No.2:No.1のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の25.9質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を35質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.3:No.1のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
次に、混練工程における耐熱酸化防止剤の配合量を変えて調製したバージン材料100質量%のカバー材料を用いてNo.4のゴルフボールを作製した後、以下のNo.5及び6のゴルフボールを作製することにより再生材料の配合量について検討した。
No.5:No.4のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の25.9質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を35質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.6:No.4のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
【0130】
表3の結果より、一般的には、上記の再生材料の配合量は材料全体の約23質量%(バージン材料100質量部に対し30質量部程度)までとすることが推奨されているが、本発明の製造方法では再生材料を更に多く配合しても変色しにくいことが確認された。従って、本発明の製造方法を採用することにより、再生材料を多く配合しても、安定した品質でゴルフボールを得ることができることが確認された。即ち、本発明の製造方法は、従来の方法に比べてより多くの材料を再利用することができるようになり、リサイクル性に優れるものであることが裏付けられた。また、混練工程における耐熱酸化防止剤の配合量を増やすことにより、黄変度が低下し、耐変色性が向上していることが確認できた。
【0131】
【表3】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0132】
表1に記載した各原料の詳細は下記の通りである。
TPU−1:ディーアイシーバイエルポリマー社製、合成時に耐熱酸化防止剤が配合された芳香族イソシアネート−ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ポリマー組成はパンデックスT8283に相当する)、ショアA硬度83
TPU−2:ディーアイシーバイエルポリマー社製、合成時に耐熱酸化防止剤が配合された芳香族イソシアネート−ポリエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ポリマー組成はパンデックスT8290に相当する)、ショアA硬度93
耐熱酸化防止剤:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−ter−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、BASF社製「IRGANOX 1010」
ポリイソシアネート化合物:4,4’ジフェニルメタンジイソシアネート
熱可塑性エラストマー:熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー、東レ・デュポン社製「ハイトレル4001」
ポリエチレンワックス:三洋化成社製「サンワックス161P」
紫外線吸収剤:BASF社製「TINUVIN P」
ヒンダードアミン系光安定剤:BASF社製「TINUVIN 144」
【0133】
上記表1に示した各原料の詳細は、以下の表4〜9においても同様である。なお、上記のショアA硬度は、JIS K 6253(タイプAデュロメータ)に準拠して測定される硬度である。
【0134】
2.繰り返し使用
次に、バージン材料100質量%のカバー材料を用いてNo.7のゴルフボールを作製した後、以下のNo.8〜10のゴルフボールを作製することによりカバー材料を繰り返し使用した場合について検討した。結果は表4に示した。
No.8:No.7のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.9:No.8のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.10:No.9のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
【0135】
【表4】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0136】
表4の結果より、再生材料の配合量を40質量%以上とし、かつ材料を繰り返し使用した場合でも、その黄変度(ΔYI)は使用回数に関わらず0.6であり、変色しにくいことが確認された。従って、本発明の製造方法を採用することにより、カバー材料を繰り返し使用しても、安定した品質でゴルフボールを得ることができることが確認された。
【0137】
3.耐熱酸化防止剤の配合量
合成工程及び混練工程における耐熱酸化防止剤の配合量を変えてカバー材料を調製し、その影響について検討した。結果は表5に示した。
ここで、表5において、No.11、13及び15のゴルフボールは、この表に示された配合で調製されたバージン材料100質量%のカバー材料を使用してカバーを形成したものである。そして、No.12、14及び16のゴルフボールは、再生材料を使用してカバーを成形したものであり、詳細は以下の通りである。
No.12:No.11のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.14:No.13のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.16:No.15のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
【0138】
【表5】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0139】
表5の結果より、いずれの材料も耐変色性に優れていることが分かるが、合成工程で配合される耐熱酸化防止剤の配合量と混練工程で配合される耐熱酸化防止剤の配合量に応じて多少の優劣の差が生じることが分かる。一度変色した材料は元に戻らないため、各工程における熱の影響を考慮し、適切な配合量とすることが重要である。
【0140】
4.比較実験1
上記No.1〜10のゴルフボールに対する比較実験として、混練工程において耐熱酸化防止剤を配合せずに調製したカバー材料を用いて、カバーを成形すると共に、再生材料の配合量(No.17〜19)、及び繰り返し使用(No.17、及び19〜21)について検討した。また、再生材料を100質量%としてカバーを成形した場合(No.22及び23)についても検討した。結果は表6に示した。
【0141】
作製したゴルフボールの詳細は以下の通りである。
No.17:混練工程において耐熱酸化防止剤を配合せずに調製したバージン材料100質量部のカバー材料を使用してカバーを成形した。混練工程において耐熱酸化防止剤を配合しないこと以外は、上記No.1のゴルフボールと同じである。
No.18:No.17のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の25.9質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を35質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.19:No.17のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.20:No.19のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.21:No.20のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.22:No.21のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を、カバー材料全体の41.2質量%(バージン材料100質量部に対して再生材料を70質量部)配合した材料でカバーを成形した。
No.23:No.17のゴルフボールのカバー成形時に発生したランナーを粉砕して得た再生材料を100質量%使用してカバーを成形した。
【0142】
【表6】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0143】
表6の結果より、以下のことが確認された。
まず、再生材料の配合量を増やした場合(No.17〜19)、同じ再生材料の配合比率で耐熱酸化防止剤を複数回配合した場合(No.1〜3)と比較して黄変度が増しており、より変色しやすいことが分かる。
次に、材料を繰り返し使用した場合(No.17及び19〜21)、耐熱酸化防止剤を複数回配合した場合(No.7〜10)と比較してより変色しやすいことが分かる。特に、No.7〜10では3回の繰り返し使用の範囲においてほぼ一定の黄変度であるのに対し、No.17及び19〜21では繰り返し使用の回数が増すごとに黄変度が増加していることが分かる。
再生材料を100質量%してカバーを成形した場合(No.22及び23)、混練工程にて耐熱酸化防止剤が配合されているNo.23の方がNo.22対比変色性は良いものの黄変度(ΔYI)は1を超えてしまっている。
【0144】
5.比較実験2
No.1及び17のゴルフボールに対する比較実験として、合成工程において多量の耐熱酸化防止剤を配合し、混練工程において耐熱酸化防止剤を配合せずに調製したカバー材料を用いて、カバーを成形したゴルフボールを作製した。結果は表7に示した。
【0145】
【表7】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0146】
表7の結果より、合成工程で耐熱酸化防止剤を多量に配合しても、混練工程で耐熱酸化防止剤を配合しなければ、所望する耐変色性を得ることができず、材料の再利用が困難であることが確認された。
【0147】
6.成形温度
カバー成形工程における成形温度を変えて、その違いが生産性に与える影響を確認した。結果は表8及び9に示した。ここで、No.26〜29のゴルフボールは、合成工程で耐熱酸化防止剤を配合し、混練工程で耐熱酸化防止剤を配合せずに調製されたカバー材料を用いたものであり、No.30〜34のゴルフボールは合成工程及び混練工程の両工程で耐熱酸化防止剤を配合したカバー材料を用いたものである。
【0148】
【表8】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0149】
表8の結果より、成形温度を235℃以上とした場合、ランナーのちぎれ(破損)等が発生し、成形に支障をきたした。
【0150】
【表9】
※1:耐熱酸化防止剤を含まない樹脂のみの量。
※2:TPU−1及びTPU−2の合成時に配合された耐熱酸化防止剤の合計量。
【0151】
表9の結果より、220〜240℃の成形温度において特に問題を生じることなく生産することができた。ただし、240℃では変色する傾向が確認された。