【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、筒状のシェルと、シェルの一方の開口端に取り付けられるドラムヘッドと、ドラムヘッドおよびシェルの内側であってシェルの中心軸の近傍に設置され、ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音を検出する第1のドラム音センサと、を備えるドラムを構成する。
【0006】
すなわち、アタック音はドラムヘッドの継続的な振動による所定の音高のボディ音ではないため、ドラムヘッドへの打撃の直後にアタック音が生じた後、速やかに減衰する。また、筒状のシェルに取り付けられるドラムヘッドは円形の打撃面を有するため、打撃点はその中央である場合が多い。従って、アタック音は、ドラムヘッドの中央近傍の打撃点から発生した後、打撃点からの距離が遠ざかるに従って速やかに減衰する。
【0007】
このため、シェルの中心軸の近傍に設置された第1のドラム音センサによってアタック音を検出する構成とすることで、アタック音が減衰する前にアタック音を集音することができる。すなわち、集音対象であるアタック音に最適化した位置で集音することが可能になる。また、第1のドラム音センサによって集音された音をドラムの外部に演奏音出力として取り出し、再生することにより、アタック音を高音質で再現することができる。
【0008】
ここで、シェルは筒状の部材であり、少なくとも一方の開口端にドラムヘッドを所定の張力で保持することができればよい。ドラムヘッドをシェルに対して取り付けるための構成としては種々の構成を採用可能であり、例えば、シェルの外周に取り付けられるラグおよび当該ラグに取り付けられるフープによってドラムヘッドの保持部材を構成し、ラグにフープを取り付け、フープにドラムヘッドを取り付ける構成等を採用可能である。なお、筒の形状は円筒であっても良いし、他の形状(例えば、開口部が多角形の筒)であってもよい。
【0009】
ドラムヘッドはシェルの一方の開口端に取り付けられる打撃対象となる振動膜である。従って、当該ドラムヘッドがスティック等で打撃されることにより、ドラムの演奏音が生成されれば良い。むろん、ドラムヘッドが取り付けられるシェルの開口端と逆側の開口端に対して他のヘッド(レゾナンスヘッド、スネアサイドヘッド)を取り付ける構成であっても良いし、他のヘッドを取り付けない構成であっても良い。
【0010】
第1のドラム音センサは、ドラムヘッドおよびシェルの内側であってシェルの中心軸(シェルが形成する筒の中心軸)の近傍に設置されるとともに、アタック音を検出するセンサであれば良い。従って、第1のドラム音センサは、マイクであっても良いしダイナミックスピーカであってもよい。なお、同一周波数帯域の音を集音するマイクとダイナミックスピーカとを比較した場合に、一般的にはダイナミックスピーカの方が小型であるため、ダイナミックスピーカを使用すれば、マイクを使用するよりもドラム内の音場形成を阻害する程度が抑制される。
【0011】
第1のドラム音センサはドラムの内部においてシェルの中心軸の近傍に設置されれば良く、第1のドラム音センサをシェルの中心軸の近傍に設置するための構成としては、種々の構成を採用可能である。例えば、シェルの内壁やラグに対して中心軸付近まで延びる保持部材を取り付けるとともに、当該保持部材に対して第1のドラム音センサを取り付けることで、第1のドラム音センサをシェルの中心軸の近傍に配置する構成等を採用可能である。また、保持部材の形状や材質は任意であり、弾性のある材料で保持部材の少なくとも一部を構成することにより、保持部材を介してドラム音センサに対して振動が伝達されないように構成しても良い。
【0012】
なお、アタック音は、ドラムヘッドの中央近傍の打撃点から発生した後、打撃点からの距離が遠ざかるに従って速やかに減衰するため、第1のドラム音センサを取り付ける範囲であるシェルの中心軸の近傍の範囲としては、中心軸に近いほど好ましいが、ドラムの外部での音と比較して、第1のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。具体的には、アタック音の音圧は、ドラムヘッドへの打撃の直後に立ち上がり、ボディ音と比較して早期に減衰する特性があるため、立ち上がりの期間において音圧が減衰しているとアタック音の音質が顕著に悪化する。そこで、ドラムヘッドの中央を打撃点とした場合におけるアタック音の立ち上がりがドラムの外部で認識されるアタック音と比較して過度に遅れない範囲をシェルの中心軸の近傍の範囲とする構成とすれば良い。
【0013】
さらに、第1のドラム音センサが、ドラムヘッドの近傍に設置されるように構成しても良い。すなわち、アタック音はドラムヘッドへの打撃の直後に発生した後、速やかに減衰する。そこで、第1のドラム音センサをドラムヘッドの近傍に設置することで、アタック音が減衰する前にアタック音を集音することができる。従って、集音対象であるアタック音に最適化した位置で集音することが可能になる。ここでも、ドラムヘッドの近傍の範囲としては、ドラムヘッドに近いほど好ましいが、第1のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。
【0014】
さらに、ドラムヘッドに対して打撃が加えられる範囲を中心軸方向に投影した範囲を中心軸の近傍と見なして第1のドラム音センサの設置可能範囲とし、ドラムヘッドに対して打撃が加えられた場合における当該ドラムヘッドの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置をドラムヘッドの近傍と見なして第1のドラム音センサの設置可能範囲とする構成を採用しても良い。
【0015】
すなわち、ドラムヘッドに対して打撃が加えられる範囲は、統計的に特定可能である。例えば、所定の打撃回数で打撃が行われた場合に特定の打撃回数以上で打撃点が当該範囲に含まれるように範囲を規定することが可能である。この場合、所定の打撃回数のうち、特定の打撃回数以上で打撃される範囲がドラムヘッドの打撃面で特定されるため、その直下、すなわち、当該範囲を中心軸方向に投影した範囲に第1のドラム音センサを設置すれば、一定の信頼性で打撃が行われる範囲の直下に第1のドラム音センサを設置することができる。
【0016】
また、ドラムヘッドに対して打撃が加えられた場合における当該ドラムヘッドの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置に第1のドラム音センサを設置すれば、打撃によるドラムヘッドの動作と干渉しない範囲において、できるだけドラムヘッドに近くなるように第1のドラム音センサを設置することができる。従って、アタック音の立ち上がりの遅れが極めて小さい状態でアタック音を集音することができる。
【0017】
さらに、アタック音が減衰した後に継続するドラムヘッドの振動によって生じるボディ音を検出する第2のドラム音センサは、ドラムヘッドおよびシェルの内側の任意の位置に設置可能である。すなわち、ボディ音はドラムヘッドの振動によって継続的に発生する音であり、アタック音と比較して長期にわたって発生する音であるため、ドラム内部の位置によって音の減衰の程度が大きく異なることはない。従って、任意の位置に設置した第2のドラム音センサによって高音質でボディ音を集音することが可能であり、集音対象であるボディ音に最適化した位置で集音することが可能になる。
【0018】
さらに、シェルのドラムヘッドが取り付けられた開口端と反対側の開口端にスネアサイドヘッドおよびスネアワイアを取り付ける構成において、ドラムヘッドとスネアサイドヘッドとシェルの内側であってスネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置に設置され、スネアワイアによって生じるスネアワイア音を検出する第3のドラム音センサをさらに備える構成としても良い。すなわち、ドラムの内部にスネアワイア音を検出するための第3のドラム音センサを設置する場合に、スネアサイドヘッドの中心の近傍には配置しないように構成する。
【0019】
スネアワイア音は、スネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置におけるエネルギー分布が高い波形を形成するため、スネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置に第3のドラム音センサを設置することにより、スネアドラムの外部で認識されるスネアワイア音の減衰特性に近い音で集音することが可能である。従って、集音対象であるスネアワイア音に最適化した位置で集音することが可能になる。なお、スネアサイドヘッドの中心の近傍は、スネアワイア音のエネルギー分布が他の位置と比較して相対的に低い範囲として予め規定された範囲であり、ドラムの外部での音と比較して、第3のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。