特許第6287033号(P6287033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287033
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ドラム
(51)【国際特許分類】
   G10H 3/14 20060101AFI20180226BHJP
   G10H 1/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G10H3/14 A
   G10H1/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-213600(P2013-213600)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-75728(P2015-75728A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners 特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100117466
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 渉
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 清人
【審査官】 上田 雄
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/070832(WO,A1)
【文献】 特開平11−237877(JP,A)
【文献】 特開平11−173876(JP,A)
【文献】 特開昭55−018689(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0272490(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00−7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のシェルと、
前記シェルの一方の開口端に取り付けられるドラムヘッドと、
前記ドラムヘッドおよび前記シェルの内側であって前記シェルの中心軸の近傍に設置され、前記ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音を検出する第1のドラム音センサと、
前記第1のドラム音センサよりも口径が大きく、前記ドラムヘッドおよび前記シェルの内側の任意の位置に設置され、前記アタック音が減衰した後に継続する前記ドラムヘッドの振動によって生じるボディ音を検出する第2のドラム音センサと、
を備えるドラム。
【請求項2】
前記第1のドラム音センサは、前記ドラムヘッドの近傍に設置される、
請求項1に記載のドラム。
【請求項3】
前記中心軸の近傍は、前記ドラムヘッドに対して打撃が加えられる範囲を前記中心軸方向に投影した範囲であり、
前記ドラムヘッドの近傍は、前記ドラムヘッドに対して打撃が加えられた場合における当該ドラムヘッドの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置である、
請求項1または請求項2のいずれかに記載のドラム。
【請求項4】
前記シェルの前記ドラムヘッドが取り付けられた開口端と反対側の開口端に取り付けられるスネアサイドヘッドおよびスネアワイアと、
前記ドラムヘッドと前記スネアサイドヘッドと前記シェルの内側であって前記スネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置に設置され、前記スネアワイアによって生じるスネアワイア音を検出する第3のドラム音センサと、をさらに備える、
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のドラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドラムによる演奏が行われている際の音を増幅、調整等するために、ドラムから出力された音をセンシングする技術が開発されている。例えば、特許文献1には、複数のマイクをドラムの内部に設置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7297863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術においては、ドラムによって生成される特定の種類の音を正確に集音することができなかった。すなわち、ドラムにおいては、ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音、アタック音が減衰した後に継続するドラムヘッドの振動によって生じるボディ音、スネアワイアによって生じるスネアワイア音など、各種の音が生成される。そして、ドラムの内部においては、各種の音を効果的に集音可能な位置が音の種類によって異なる。従って、特許文献1に開示された技術のように、ドラムの内部においてシェルが形成する円筒の中心軸から離れた位置にマイクが設置される場合、特定の種類の音については正確に集音することが困難である。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、集音対象の音の種類に最適化した位置で集音する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、筒状のシェルと、シェルの一方の開口端に取り付けられるドラムヘッドと、ドラムヘッドおよびシェルの内側であってシェルの中心軸の近傍に設置され、ドラムヘッドへの打撃の直後に生じるアタック音を検出する第1のドラム音センサと、を備えるドラムを構成する。
【0006】
すなわち、アタック音はドラムヘッドの継続的な振動による所定の音高のボディ音ではないため、ドラムヘッドへの打撃の直後にアタック音が生じた後、速やかに減衰する。また、筒状のシェルに取り付けられるドラムヘッドは円形の打撃面を有するため、打撃点はその中央である場合が多い。従って、アタック音は、ドラムヘッドの中央近傍の打撃点から発生した後、打撃点からの距離が遠ざかるに従って速やかに減衰する。
【0007】
このため、シェルの中心軸の近傍に設置された第1のドラム音センサによってアタック音を検出する構成とすることで、アタック音が減衰する前にアタック音を集音することができる。すなわち、集音対象であるアタック音に最適化した位置で集音することが可能になる。また、第1のドラム音センサによって集音された音をドラムの外部に演奏音出力として取り出し、再生することにより、アタック音を高音質で再現することができる。
【0008】
ここで、シェルは筒状の部材であり、少なくとも一方の開口端にドラムヘッドを所定の張力で保持することができればよい。ドラムヘッドをシェルに対して取り付けるための構成としては種々の構成を採用可能であり、例えば、シェルの外周に取り付けられるラグおよび当該ラグに取り付けられるフープによってドラムヘッドの保持部材を構成し、ラグにフープを取り付け、フープにドラムヘッドを取り付ける構成等を採用可能である。なお、筒の形状は円筒であっても良いし、他の形状(例えば、開口部が多角形の筒)であってもよい。
【0009】
ドラムヘッドはシェルの一方の開口端に取り付けられる打撃対象となる振動膜である。従って、当該ドラムヘッドがスティック等で打撃されることにより、ドラムの演奏音が生成されれば良い。むろん、ドラムヘッドが取り付けられるシェルの開口端と逆側の開口端に対して他のヘッド(レゾナンスヘッド、スネアサイドヘッド)を取り付ける構成であっても良いし、他のヘッドを取り付けない構成であっても良い。
【0010】
第1のドラム音センサは、ドラムヘッドおよびシェルの内側であってシェルの中心軸(シェルが形成する筒の中心軸)の近傍に設置されるとともに、アタック音を検出するセンサであれば良い。従って、第1のドラム音センサは、マイクであっても良いしダイナミックスピーカであってもよい。なお、同一周波数帯域の音を集音するマイクとダイナミックスピーカとを比較した場合に、一般的にはダイナミックスピーカの方が小型であるため、ダイナミックスピーカを使用すれば、マイクを使用するよりもドラム内の音場形成を阻害する程度が抑制される。
【0011】
第1のドラム音センサはドラムの内部においてシェルの中心軸の近傍に設置されれば良く、第1のドラム音センサをシェルの中心軸の近傍に設置するための構成としては、種々の構成を採用可能である。例えば、シェルの内壁やラグに対して中心軸付近まで延びる保持部材を取り付けるとともに、当該保持部材に対して第1のドラム音センサを取り付けることで、第1のドラム音センサをシェルの中心軸の近傍に配置する構成等を採用可能である。また、保持部材の形状や材質は任意であり、弾性のある材料で保持部材の少なくとも一部を構成することにより、保持部材を介してドラム音センサに対して振動が伝達されないように構成しても良い。
【0012】
なお、アタック音は、ドラムヘッドの中央近傍の打撃点から発生した後、打撃点からの距離が遠ざかるに従って速やかに減衰するため、第1のドラム音センサを取り付ける範囲であるシェルの中心軸の近傍の範囲としては、中心軸に近いほど好ましいが、ドラムの外部での音と比較して、第1のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。具体的には、アタック音の音圧は、ドラムヘッドへの打撃の直後に立ち上がり、ボディ音と比較して早期に減衰する特性があるため、立ち上がりの期間において音圧が減衰しているとアタック音の音質が顕著に悪化する。そこで、ドラムヘッドの中央を打撃点とした場合におけるアタック音の立ち上がりがドラムの外部で認識されるアタック音と比較して過度に遅れない範囲をシェルの中心軸の近傍の範囲とする構成とすれば良い。
【0013】
さらに、第1のドラム音センサが、ドラムヘッドの近傍に設置されるように構成しても良い。すなわち、アタック音はドラムヘッドへの打撃の直後に発生した後、速やかに減衰する。そこで、第1のドラム音センサをドラムヘッドの近傍に設置することで、アタック音が減衰する前にアタック音を集音することができる。従って、集音対象であるアタック音に最適化した位置で集音することが可能になる。ここでも、ドラムヘッドの近傍の範囲としては、ドラムヘッドに近いほど好ましいが、第1のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。
【0014】
さらに、ドラムヘッドに対して打撃が加えられる範囲を中心軸方向に投影した範囲を中心軸の近傍と見なして第1のドラム音センサの設置可能範囲とし、ドラムヘッドに対して打撃が加えられた場合における当該ドラムヘッドの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置をドラムヘッドの近傍と見なして第1のドラム音センサの設置可能範囲とする構成を採用しても良い。
【0015】
すなわち、ドラムヘッドに対して打撃が加えられる範囲は、統計的に特定可能である。例えば、所定の打撃回数で打撃が行われた場合に特定の打撃回数以上で打撃点が当該範囲に含まれるように範囲を規定することが可能である。この場合、所定の打撃回数のうち、特定の打撃回数以上で打撃される範囲がドラムヘッドの打撃面で特定されるため、その直下、すなわち、当該範囲を中心軸方向に投影した範囲に第1のドラム音センサを設置すれば、一定の信頼性で打撃が行われる範囲の直下に第1のドラム音センサを設置することができる。
【0016】
また、ドラムヘッドに対して打撃が加えられた場合における当該ドラムヘッドの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置に第1のドラム音センサを設置すれば、打撃によるドラムヘッドの動作と干渉しない範囲において、できるだけドラムヘッドに近くなるように第1のドラム音センサを設置することができる。従って、アタック音の立ち上がりの遅れが極めて小さい状態でアタック音を集音することができる。
【0017】
さらに、アタック音が減衰した後に継続するドラムヘッドの振動によって生じるボディ音を検出する第2のドラム音センサは、ドラムヘッドおよびシェルの内側の任意の位置に設置可能である。すなわち、ボディ音はドラムヘッドの振動によって継続的に発生する音であり、アタック音と比較して長期にわたって発生する音であるため、ドラム内部の位置によって音の減衰の程度が大きく異なることはない。従って、任意の位置に設置した第2のドラム音センサによって高音質でボディ音を集音することが可能であり、集音対象であるボディ音に最適化した位置で集音することが可能になる。
【0018】
さらに、シェルのドラムヘッドが取り付けられた開口端と反対側の開口端にスネアサイドヘッドおよびスネアワイアを取り付ける構成において、ドラムヘッドとスネアサイドヘッドとシェルの内側であってスネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置に設置され、スネアワイアによって生じるスネアワイア音を検出する第3のドラム音センサをさらに備える構成としても良い。すなわち、ドラムの内部にスネアワイア音を検出するための第3のドラム音センサを設置する場合に、スネアサイドヘッドの中心の近傍には配置しないように構成する。
【0019】
スネアワイア音は、スネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置におけるエネルギー分布が高い波形を形成するため、スネアサイドヘッドの中心の近傍以外の位置に第3のドラム音センサを設置することにより、スネアドラムの外部で認識されるスネアワイア音の減衰特性に近い音で集音することが可能である。従って、集音対象であるスネアワイア音に最適化した位置で集音することが可能になる。なお、スネアサイドヘッドの中心の近傍は、スネアワイア音のエネルギー分布が他の位置と比較して相対的に低い範囲として予め規定された範囲であり、ドラムの外部での音と比較して、第3のドラム音センサによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設定されていれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(1A)は本発明の一実施形態にかかるドラムの上面図、(1B)は本発明の一実施形態にかかるドラムの断面図、(1C)はタムタムから発生する音の音圧の時間特性を示す図である。
図2】(2A)は第2のドラム音センサで集音される音の時間特性の位置依存性を示すグラフ、(2B)は第2のドラム音センサで集音される音の周波数特性の位置依存性を示すグラフである。
図3】(3A)は本発明の一実施形態にかかるスネアドラムの上面図、(3B)は本発明の一実施形態にかかるスネアドラムの断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)ドラムの構成:
(1−1)第1のドラム音センサの設置範囲:
(1−2)第2のドラム音センサの設置範囲:
(2)他の実施形態:
【0022】
(1)ドラムの構成:
図1Aは本発明の一実施形態にかかるドラムの上面図であり、ドラム1に取り付けられたドラムヘッド20a側から当該ドラム1を眺めた状態を示している。また、図1Bは本発明の一実施形態にかかるドラム1を示す断面図であり、シェル10およびドラムヘッド20aで切断した状態を示している。シェル10は内径がほぼ一定の筒状の部材である。シェル10の外壁には複数の位置にラグ10cが取り付けられる。本実施形態において、ラグ10cは、円周方向に沿って複数の位置(本例では6カ所)に取り付けられる。ラグ10cにはシェル10の高さ方向に平行に延びるチューニングピン10bが取り付けられる。
【0023】
チューニングピン10bには、フープ10aが取り付けられる。フープ10aは筒形の部材であり、当該フープ10aの内径はシェル10の外径より大きく、フープ10aの外径はシェル10の直径の延長線上に配置された2個のチューニングピン10bの距離より小さい。従って、フープ10aを、シェル10の外周とチューニングピン10bとの間に配置することができる。さらに、チューニングピン10bに対してフープ10aを取り付けた状態でチューニングピン10bを調整することにより、フープ10aの高さ方向の位置を調整することができる。
【0024】
ドラムヘッド20aは、薄い円形の部材であり、縁をフープ10aに取り付けることができる。従って、ドラムヘッド20aをフープ10aに取り付けた状態でチューニングピン10bによってフープ10aの高さ方向の位置を調整することにより、ドラムヘッド20aに作用している張力を調整しつつドラムヘッド20aをシェル10の開口端に取り付けることができる。なお、本実施形態においては、図1Bにおいて上方に示すドラムヘッド20aがスティック等によって打撃される面(バターヘッド)である。むろん、図1Bにおいて下方に示す開口端にスティック等によって打撃されないレゾナンスヘッドを取り付けるように構成しても良い。ドラムヘッド20aおよびシェル10の内側には、第1のドラム音センサ30aと第2のドラム音センサ30bとが設置される。
【0025】
(1−1)第1のドラム音センサの設置範囲:
本実施形態においては、シェル10の内壁に2本の棒状の保持部材31aが取り付けられる。各保持部材31aの両端は略直角に屈曲しており、各端部がシェル10の内壁に取り付けられ、保持部材31aの端部を除く中央部分はシェル10の直径と平行に配向される。また、2本の保持部材31aがシェル10に対して取り付けられる高さ(シェル10が形成する筒の中心軸方向の位置)は同一である。従って、保持部材31aの上部に第1のドラム音センサ30aを載せることができ、保持部材31aの上部に第1のドラム音センサ30aを載せた状態で、保持部材31aに対して第1のドラム音センサ30aが取り付けられる。
【0026】
本実施形態において、第1のドラム音センサ30aは、シェル10が形成する筒の中心軸Oの近傍であるとともに、ドラムヘッド20aの近傍の位置に設置される。具体的には、第1のドラム音センサ30aの中央(ダイヤフラムの中央)がシェル10の中心軸Oと一致するように第1のドラム音センサ30aが設置される。さらに、演奏のためにドラムヘッド20aに対して打撃が加えられた場合におけるドラムヘッド20aの最大可動範囲と干渉せず、かつ、当該最大可動範囲に最も近い位置に第1のドラム音センサ30aが設置される。
【0027】
図1Cはドラムの外部におけるドラムの音圧の時間推移の例を示すグラフであり、縦軸は音圧、横軸は時間(秒)である。同図1Cに示すように、ドラムヘッド20aが打撃されると、ドラムヘッド20aの継続的な振動によって当該ドラムヘッド20aの張力に応じた特定の音高(周波数)のボディ音が継続して出力される。また、ドラムヘッド20aへの打撃の直後にはボディ音より周波数が高いアタック音が生じ、速やかに減衰する。図1Cにおいては、立ち上がり〜0.005秒程度の期間においてアタック音とドラム音とが重畳された音が出力されており、0.005秒より後においてはアタック音がほとんど観測されず、ほぼボディ音のみとなることがわかる。このように、ドラムヘッド20aへの打撃の直後にアタック音が生じた後、アタック音は速やかに減衰する。
【0028】
さらに、ドラムヘッド20aは円形の打撃面を有するため、打撃点はその中央である場合が多い。従って、アタック音は、ドラムヘッド20aの中央近傍の打撃点から発生した後、打撃点からの距離が遠ざかるに従って速やかに減衰する。このため、シェル10の中心軸およびドラムヘッド20aの近傍に第1のドラム音センサ30aが設置されることにより、アタック音が減衰する前に第1のドラム音センサ30aにてアタック音を集音することができる。
【0029】
なお、第1のドラム音センサ30aは、ドラムの外部での音と比較して、第1のドラム音センサ30aによって集音された音において減衰が認識されない範囲に設置されていれば良い。上述のように、アタック音の音圧は、ドラムヘッド20aへの打撃の直後に立ち上がり、ボディ音と比較して早期に減衰する特性があるため、立ち上がりの期間において音圧が減衰しているとアタック音の音質が顕著に悪化する。そこで、ドラムヘッド20aの中央を打撃点とした場合におけるアタック音の立ち上がりがドラムの外部で認識されるアタック音と比較して過度に遅れない範囲をシェルの中心軸の近傍の範囲とする構成を採用可能である。
【0030】
また、ドラムヘッド20aに対して打撃が加えられる範囲を中心軸方向に投影した範囲(図1Aに示す範囲Rc)を中心軸の近傍と見なして第1のドラム音センサ30aの設置可能範囲(第1のドラム音センサ30aのダイヤフラムの中心点の設置可能範囲)としてもよい。すなわち、ドラムヘッド20aに対して打撃が加えられる範囲は、統計的に特定可能である。例えば、所定の打撃回数で打撃が行われた場合に特定の打撃回数以上で打撃点が当該範囲に含まれるように範囲を規定することが可能である。この場合、所定の打撃回数のうち、特定の打撃回数以上で打撃される範囲がドラムヘッド20aの打撃面で特定されるため、その直下、すなわち、当該範囲を中心軸方向に投影した範囲に第1のドラム音センサ30aを設置すれば、一定の信頼性で打撃が行われる範囲の直下に第1のドラム音センサを設置することができる。
【0031】
なお、第1のドラム音センサ30aには、配線32aが接続されており、配線32aはシェル10の内壁および外壁を貫通するコネクタ33aに接続されている。当該コネクタ33aに対してはアンプ40を接続することが可能であり、アンプ40においては配線32aによって取り出された演奏音出力を再生することができる。この結果、第1のドラム音センサ30aによって集音されたアタック音を高音質で再現することができる。
【0032】
(1−2)第2のドラム音センサの設置範囲:
第2のドラム音センサ30bは、ドラムヘッド20aおよびシェル10の内側の任意の位置に設置される。図1A図1Bに示す例において第2のドラム音センサ30bは保持部材31bによってシェル10の内壁に取り付けられる。すなわち、保持部材31bは板状の部材であるとともに一端が屈曲されており、当該一端がシェル10の内壁に取り付けられる。また、保持部材31bの他端に第2のドラム音センサ30bが取り付けられる。
【0033】
第2のドラム音センサ30bは、第1のドラム音センサ30aよりも口径が大きく、より低周波数の音に対して感度が高いため、主にボディ音を検出するためのセンサとなる。ボディ音は、図1Cに示すように、ドラムヘッド20aの振動によって継続的に発生する音であり、アタック音と比較して長期にわたって発生する音であるため、ドラム1の内部の位置によって音の減衰の程度が大きく異なることはない。
【0034】
図2Aは、ドラムヘッド20aの打撃音の音圧の時間特性を第2のドラム音センサ30bの設置位置を変更した場合について示したグラフであり、縦軸は音圧、横軸は時間(秒)である。図2Bは、ドラムヘッド20aの打撃音の音圧の周波数特性を第2のドラム音センサ30bの設置位置を変更した場合について示したグラフであり、縦軸は音圧、横軸は周波数(Hz)である。これらのグラフにおいて、シェル10の半径方向の2カ所(中央と端)およびシェル10の高さ方向の2カ所(高さ1/2を挟んで対称の2カ所:上下)での測定結果を示しており、実線は半径方向の端かつ高さ方向の下、長い線分で構成される破線は半径方向の端かつ高さ方向の上、短い線分で構成される破線は半径方向の中央かつ高さ方向の下、一点鎖線は半径方向の中央かつ高さ方向の上における測定結果である。これらのグラフによると、時間特性、周波数特性のいずれにおいても位置による音圧の差異が見られない。従って、第2のドラム音センサ30bで検出されるボディ音は、第2のドラム音センサ30bの設置位置によって減衰の程度が大きく異なることはない。このため、任意の位置に設置した第2のドラム音センサ30bによって高音質でボディ音を集音することが可能であり、集音対象であるボディ音に最適化した位置で集音することが可能になる。
【0035】
なお、第2のドラム音センサ30bには、配線32bが接続されており、配線32bはシェル10の内壁および外壁を貫通するコネクタ33bに接続されている。当該コネクタ33bに対してはアンプ40を接続することが可能であり、アンプ40においては配線32bによって取り出された演奏音出力を再生することができる。この結果、第2のドラム音センサ30bによって集音されたボディ音を高音質で再現することができる。
【0036】
(2)他の実施形態:
以上の実施形態は本発明を実施するための一例であり、集音対称に最適化した位置にドラム音センサを設置する限りにおいて、他にも種々の実施形態を採用可能である。例えば、ドラムの内部に設置するドラム音センサの数は2個に限定されない。特に、スネアドラムにおいてスネアワイアに起因して発生するスネアワイア音は、一般に、アタック音よりも高い周波数の音である。そこで、スネアドラムに対しては、スネアワイア音を集音するための第3のドラム音センサを設置することが好ましい。
【0037】
図3Aはスネアドラムの上面図、図3Bはスネアドラムの断面図であり、図3A図3Bに示すスネアドラム100において、図1A図1Bに示すドラム1と同様の機能を有する部品は同様の符号を付して示している。図3A図3Bに示すスネアドラム100において、スネアサイド側にはフープ11aによってスネアサイドヘッド20bが取り付けられる。また、スネアサイド側には、シェル10の外面に取り付けられる各種の保持具によってスネアワイア15が取り付けられる。なお、図3Aではスネアワイアの保持具等を省略しており、図3Bではラグ10c等を省略して示している。
【0038】
スネアドラム100において、第1のドラム音センサ30aと第2のドラム音センサ30bの構成および設置位置は図1A図1Bに示すドラム1と同様である。第3のドラム音センサ30cの振動膜の口径は、第1のドラム音センサ30aの振動膜の口径以下である。従って、第1のドラム音センサ30aで集音される音の周波数成分以上の成分の音が集音される。そして、第3のドラム音センサ30cは、屈曲された板状の保持部材31cにより、スネアサイドヘッド20bの中心の近傍以外の位置に設置される。すなわち、図3Bに示す範囲Rs以外の位置に第3のドラム音センサ30cが設置される。
【0039】
ドラムヘッドのような円形の振動膜の振動モードであって半径方向のみに節を持つ振動モードは、高次のモードであるほどドラムヘッドの中央の振幅が小さくなり、端に近い部位が振動する振動モードになる。従って、高い周波数の音であるスネアワイア音は、スネアサイドヘッド20bの中心の近傍以外の位置(図3Bに示す半球状の範囲Rsの外側の位置)におけるエネルギー分布が高い波形を形成する。そこで、スネアサイドヘッド20bの中心の近傍以外の位置に第3のドラム音センサ30cを設置することにより、スネアドラムの外部で認識されるスネアワイア音の減衰特性に近い音で集音することが可能である。この結果、集音対象であるスネアワイア音に最適化した位置で集音することが可能になる。なお、スネアサイドヘッド20bの中心の近傍は、スネアワイア音のエネルギー分布が他の位置と比較して相対的に低い範囲として予め規定された範囲であり、ドラムの外部での音と比較して、第3のドラム音センサ30cによって集音された音において減衰が認識されない範囲(外部での音と同等のサステインが視聴される範囲)に設定されていれば良い。
【0040】
なお、第3のドラム音センサ30cには、配線32cが接続されており、配線32cはシェル10の内壁および外壁を貫通するコネクタ33aに接続されている。当該コネクタ33aに対してはアンプ40を接続することが可能であり、アンプ40においては配線32cによって取り出された演奏音出力を再生することができる。この結果、第3のドラム音センサ30cによって集音されたスネアワイア音を高音質で再現することができる。
【0041】
なお、スネアドラムによって発音されるアタック音とスネアワイア音はボディ音と比較して高い周波数の音であり、アタック音とスネアワイア音を比較すると、一般に、アタック音よりもスネアワイア音の方が高い周波数の音であるものの、比較的近い周波数の音である。従って、スネアドラムであれば、アタック音を検出するための第1のドラム音センサ30aとスネアワイア音を検出するための第3のドラム音センサ30cのいずれか一方とボディ音を検出するための第2のドラム音センサ30bとを備える構成としても良い。この構成であれば、より少ない数のセンサでスネアドラムの音を検出することが可能であり、スネアドラム内の音場形成をできるだけ阻害することなく音を検出することが可能である。
【符号の説明】
【0042】
1…ドラム、10…シェル、10a…フープ、10b…チューニングピン、10c…ラグ、11a…フープ、15…スネアワイア、20a…ドラムヘッド、20b…スネアサイドヘッド、30a…第1のドラム音センサ、30b…第2のドラム音センサ、30c…第3のドラム音センサ、31a,31b,31c…保持部材、32a,32b,32c…配線、33a,33b…コネクタ、40…アンプ
図1
図2
図3