(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287034
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ガス発生器
(51)【国際特許分類】
F02K 9/52 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
F02K9/52
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-213725(P2013-213725)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-75071(P2015-75071A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2016年8月25日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】多屋 公平
(72)【発明者】
【氏名】石川 康弘
【審査官】
倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03603092(US,A)
【文献】
特開2012−189018(JP,A)
【文献】
米国特許第03446024(US,A)
【文献】
米国特許第06351939(US,B1)
【文献】
特開2012−189014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/52
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射器から噴射した燃料及び酸化剤を燃焼器において混合燃焼させて、発生した燃焼ガスをターボポンプにタービン駆動流体として供給するガス発生器であって、
前記噴射器は同一面上に配置した複数の噴射エレメントを備えており、
前記各噴射エレメントは、
前記燃焼器における前記面の前方の前記ターボポンプ寄りの燃焼箇所において、燃料及び酸化剤の各噴流を混合燃焼させる1又は複数の燃焼用燃料噴射ノズル及び1又は複数の燃焼用酸化剤噴射ノズルと、
前記燃焼器における前記燃焼箇所よりもさらに前記面の前方の前記ターボポンプ寄りの希釈箇所に向けて噴射した希釈用の燃料又は酸化剤を、前記燃焼箇所で発生した燃焼ガスに混合させて、該燃焼ガスを燃料リッチ状態又は酸化剤リッチ状態とする1又は複数の希釈用噴射ノズルと、
をそれぞれ有している、
ことを特徴とするガス発生器。
【請求項2】
前記1又は複数の燃焼用燃料噴射ノズル及び1又は複数の燃焼用酸化剤噴射ノズルは、前記燃焼箇所において燃料及び酸化剤の各噴流を衝突させ異種衝突型の噴射ノズルであり、前記希釈用噴射ノズルは、前記燃焼箇所における前記燃料及び酸化剤の各噴流が衝突して発生した衝突噴流の飛翔方向の延長線上に存在する混合点に向けて、前記希釈用の燃料又は酸化剤を噴出することを特徴とする請求項1記載のガス発生器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料及び酸化剤を混合し燃焼させるガス発生器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばロケットエンジンにおいては、燃料と酸化剤をそれぞれのターボポンプにより加圧して主燃焼室に供給する。その際、燃料と酸化剤の一部をガス発生器に導入して燃焼させ、その燃焼ガスを燃料と酸化剤の各ターボポンプのタービン駆動流体として供給するようにしている。
【0003】
ターボポンプに供給するガス発生器の燃焼ガスは、ターボポンプのタービンの耐久性の観点から低温とする必要がある。そこで、ガス発生器では、燃料と酸化剤を燃料過多の低い混合比で燃焼させて燃焼ガスの温度を抑えている。
【0004】
ここで、燃料と酸化剤の混合比とは、酸化剤の質量流量を燃料の質量流量で除した値のことである。適切な範囲を外れて燃料過多とした場合は低混合比(燃料リッチ)となり、適切な範囲を外れて酸化剤過多とした場合は超高混合比(酸素リッチ)となる。
【0005】
なお、燃料過多の状態では可燃限界が近く着火性や保炎性が悪いので、不着火や消炎による燃焼ガスの出力不足を避けるために、適切な範囲内の混合比で燃焼させた燃料と酸化剤の燃焼ガスを燃料で希釈し混合比を下げることで、燃焼ガスの温度を下げている(例えば、非特許文献1)。
【0006】
また、適切な範囲内の混合比で燃焼させた燃料と酸化剤の燃焼ガスを燃料で希釈するガス発生器として、同種衝突型の燃料噴射ノズルを有する複数の噴射エレメントを燃焼器の中央部と外周部に同心円上に配置し、その間に、同種衝突型の酸化剤噴射ノズルを有する複数の噴射エレメントを同心円上に配置したものが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
この提案では、燃焼器の中央部に燃料及び酸化剤が等量噴射される高温燃焼域が形成され、燃焼器の外周部に燃料及び酸化剤が燃料過多の状態で噴射される低温燃焼域が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2012−189014号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】NASA SP-8081 『LIQUID PROPELLANT GAS GENERATORS』 p.8-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来のガス発生器によれば、高温燃焼域において保炎性を担保しつつ、その燃焼ガスを低温燃焼域において燃料で希釈し混合比を下げることで、燃焼ガスの温度を下げることができ、保炎性と燃焼ガスの低温化とを両立して駆動流体としての燃焼ガスをターボポンプに安定供給することができる。
【0011】
本発明は、上述した従来のガス発生器をさらに改良し、着火性や保炎性が担保される適切な範囲内の混合比の高温燃焼域における燃焼状態と、適切な範囲を外れた低混合比(燃料リッチ)や超高混合比(酸素リッチ)の低温燃焼域における燃焼状態とをより均一化し、かつ、その評価を簡便に行って開発コストを低減することができるガス発生器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため請求項1に記載した本発明のガス発生器は、
噴射器から噴射した燃料及び酸化剤を燃焼器において混合燃焼さ
せて、発生した燃焼ガスをターボポンプにタービン駆動流体として供給するガス発生器であって、
前記噴射器は同一面上に配置した複数の噴射エレメントを備えており、
前記各噴射エレメントは、
前記燃焼器における前記面の前方
の前記ターボポンプ寄りの燃焼箇所において、燃料及び酸化剤の各噴流を混合燃焼させる1又は複数の燃焼用燃料噴射ノズル及び1又は複数の燃焼用酸化剤噴射ノズルと、
前記燃焼器における前記燃焼箇所よりもさらに前記面の前方
の前記ターボポンプ寄りの希釈箇所に向けて噴射した希釈用の燃料又は酸化剤を、前記燃焼箇所で発生した燃焼ガスに混合させて、該燃焼ガスを燃料リッチ状態又は酸化剤リッチ状態とする1又は複数の希釈用噴射ノズルと、
をそれぞれ有している、
ことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載した本発明のガス発生器によれば、各噴射エレメントにおいて、燃焼箇所において燃焼用燃料噴射ノズルからの燃料と燃焼用酸化剤噴射ノズルからの酸化剤とが、着火性や保炎性が担保される適切な範囲内の混合比で混合されて、高温で燃焼する。これにより発生した高温の燃焼ガスは、燃焼箇所よりも前方の希釈箇所において希釈用噴射ノズルからの燃料又は酸化剤により希釈され、低温の燃焼ガスとなる。
【0014】
つまり、燃焼箇所で適切な混合比で混合された燃料と酸化剤の高温燃焼と、それにより発生した高温の燃焼ガスを希釈箇所で燃料又は酸化剤により希釈して燃料過多(燃料リッチ)又は酸化剤過多(酸素リッチ)とした燃焼ガスの低温燃焼とが、各噴射エレメントにおいて完結して行われることになる。このため、高温燃焼域での燃焼状態と低温燃焼域での燃焼状態とを、燃焼器単位でなく噴射エレメント単位で個別に均一化し、さらに、評価することができる。
【0015】
よって、1つの噴射エレメントの燃焼状態を評価することで燃焼器全体の燃焼状態を評価することができ、高温燃焼域と低温燃焼域の燃焼状態をより均一化し、かつ、その評価を簡便に行って開発コストを低減することができる。
【0016】
また、請求項2に記載した本発明のガス発生器は、請求項1に記載した本発明のガス発生器において、前記1又は複数の燃焼用燃料噴射ノズル及び1又は複数の燃焼用酸化剤噴射ノズルは、前記燃焼箇所において燃料及び酸化剤の各噴流を衝突させ異種衝突型の噴射ノズルであり、前記希釈用噴射ノズルは、前記燃焼箇所における前記燃料及び酸化剤の各噴流が衝突して発生した衝突噴流の飛翔方向の延長線上に存在する混合点に向けて、前記希釈用の燃料又は酸化剤を噴出することを特徴とする。
【0017】
請求項2に記載した本発明のガス発生器によれば、請求項1に記載した本発明のガス発生器において、異種衝突型の燃焼用燃料噴射ノズル及び燃焼用酸化剤噴射ノズルからの燃料及び酸化剤は、燃焼箇所において衝突混合して衝突噴流となる。燃焼箇所から飛翔する衝突噴流の向きは、燃焼用燃料噴射ノズル及び燃焼用酸化剤噴射ノズルからの燃料及び酸化剤の噴射方向や噴射速度によって定まる。
【0018】
そして、衝突噴流の飛翔方向の延長線上に存在する混合点において、希釈用噴射ノズルからの希釈用の燃料又は酸化剤が衝突噴流の燃焼ガスと衝突し、燃焼ガスが燃料又は酸化剤により希釈されて低混合比(燃料リッチ)化又は超高混合比(酸素リッチ)化される。これにより、高温の燃焼ガスの希釈とそれによる燃焼ガスの低温化が効率よく行われる。
【0019】
このため、高温燃焼域における着火性及び保炎性の確保と、低温燃焼域における燃焼ガスの低温化及び均一化とを効率よく両立させ、タービン駆動流体として適した状態の燃焼ガスをターボポンプに安定供給することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、着火性や保炎性が担保される適切な範囲内の混合比の高温燃焼域と、適切な範囲を外れた低混合比(燃料リッチ)や超高混合比(酸素リッチ)の低温燃焼域の燃焼状態とをより均一化し、かつ、その評価を簡便に行って開発コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明が適用される液体ロケットエンジンの概略構成を示す説明図である。
【
図2】
図1の液体ロケットエンジンに適用される本発明の一実施形態に係るガス発生器の説明図である。
【
図4】(a)は
図3の噴射エレメントの拡大正面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【
図5】(a)〜(c)は
図4(a)の燃焼箇所で衝突した燃料及び酸化剤の噴流の飛翔状態を燃焼用酸化剤噴射ノズルの数及び配置別に示す説明図である。
【
図6】
図2の燃焼器における燃料及び酸化剤の衝突噴流と希釈用燃料の噴流との位置関係を示す説明図である。
【
図7】本発明の他の実施形態に係るガス発生器の噴射器に用いられる噴射エレメントを示すもので、(a)は拡大正面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明が適用される液体ロケットエンジンの概略構成を示す説明図である。
【0023】
図1に示す液体ロケットエンジンは、主噴射器Iを有する主燃焼室Cと、主燃焼室Cに連続するノズルNを備えると共に、主噴射器Iに燃料を加圧供給するためのターボポンプTP1と、同主噴射器Iに酸化剤を加圧供給するためのターボポンプTP2を備えている。なお、燃料としては、例えば液化天然ガス(LNG:液化メタン)を用いることができ、酸化剤としては、例えば液体酸素(LOX)を用いることができる。ターボポンプには、燃料用と酸化剤用とが一体となった1軸形式ものを用いることもできる。
【0024】
また、液体ロケットエンジンは、主噴射器Iに導入される燃料及び酸化剤の一部を取り入れて混合燃焼させるガス発生器GGを備え、このガス発生器GGで発生させた燃焼ガスを各ターボポンプTP1,TP2の駆動流体として用いるようになっている。
【0025】
このとき、ガス発生器GGでは、ターボポンプTP1,TP2のタービンの熱保護だけでなく、強度や寿命低下の観点からリスク無く運用するために、燃料及び酸化剤を燃料過多(燃料リッチ)とした低混合比の状態、又は、酸化剤過多(酸素リッチ)とした超高混合比の状態で混合燃焼させて、発生する燃焼ガスの温度を低く(例えば500℃程度)している。
【0026】
ガス発生器GGは、
図2の説明図に示すように、燃料及び酸化剤の噴射器1と、噴射器1から噴射した燃料及び酸化剤を混合燃焼させる筒状の燃焼器2を備えており、燃焼器2には、燃焼ガスをターボポンプTP1,TP2に導くための配管接続部4が連続して設けてある。
【0027】
ガス発生器GGにおける噴射器1は、
図3の正面図に示すように、同一の構造を有する複数の噴射エレメント11を円形の基板10の表面10a上(同一面上)に設けた構造を有している。各噴射エレメント11は、本実施形態では、基板10の表面10aの中央を中心とする同心円の各円周上に間隔をおいて配置されている。運用によっては、各噴射エレメント11を必ずしも同心円の各円周上に配置しなくてもよい。
【0028】
図4(a)の説明図に示す例では、各噴射エレメント11に、1つの燃焼用酸化剤噴射ノズル13と3つの燃焼用燃料噴射ノズル15とを設けている。燃焼用酸化剤噴射ノズル13は同心円の中心に配置され、3つの燃焼用燃料噴射ノズル15は同心円のうち小径の円周上に等間隔で配置されている。
【0029】
また、
図4(a)に示す例では、各噴射エレメント11に3つの希釈用噴射ノズル17をさらに設けている。3つの希釈用噴射ノズル17は、同心円のうち大径の円周上に等間隔で配置されている。
【0030】
図4(a)のA−A線断面図である
図4(b)に示すように、燃焼用酸化剤噴射ノズル13は、基板10の前方に向けて酸化剤を噴射する。各燃焼用燃料噴射ノズル15は、燃焼器2の燃焼箇所CPに向けて燃料を噴射する。燃焼箇所CPは、燃焼用酸化剤噴射ノズル13からの燃料の噴射軸線上に位置している。
【0031】
このため、燃焼用酸化剤噴射ノズル13からの酸化剤と各燃焼用燃料噴射ノズル15からの燃料は、燃焼器2の燃焼箇所CPにおいて衝突する。即ち、本実施形態の噴射エレメント11は、異種衝突型の噴射器を構成している。
【0032】
また、各希釈用噴射ノズル17は、燃焼器2の希釈箇所DPに向けて希釈用の燃料又は酸化剤を噴射する。希釈箇所DPは、燃焼用酸化剤噴射ノズル13からの燃料の噴射軸線上にあり、燃焼箇所CPよりもさらに基板10の前方に位置している。
【0033】
ここで、
図5(a)〜(c)の説明図に示すように、燃焼箇所CPにおいて衝突した燃焼用酸化剤噴射ノズル13からの酸化剤と各燃焼用燃料噴射ノズル15からの燃料は、混合されて衝突噴流CJとなる。燃焼箇所CPから飛翔する衝突噴流CJの向きは、燃焼用酸化剤噴射ノズル13及び燃焼用燃料噴射ノズル15からの酸化剤及び燃料の噴射方向や噴射速度によって定まる。
【0034】
衝突噴流CJは、燃料と酸化剤とが全体の混合比よりも高い比で混合された高混合比のガスであり、着火されて燃焼ガスとなる。これにより、燃焼箇所CPの近傍に、衝突噴流CJを囲む高温燃焼域HA(
図4(b)参照)が形成される。
【0035】
なお、
図5(a)は、各噴射エレメント11に燃焼用燃料噴射ノズル15を2つ設けた場合、(b)は3つ設けた場合、(c)は4つ設けた場合をそれぞれ示している。いずれの場合も、各燃焼用燃料噴射ノズル15は周方向に等間隔で配置される。
【0036】
図5(a)〜(c)から明らかなように、衝突噴流CJは、燃焼用燃料噴射ノズル15が配置される円周の径方向において、燃焼用酸化剤噴射ノズル13から、円周上における隣り合う2つの燃焼用燃料噴射ノズル15の中間位置に向かう方向に、強い指向性を有している。つまり、衝突噴流CJの指向性が強い方向(数)は、燃焼用燃料噴射ノズル15の数(配置)に応じて変わる。
【0037】
そこで、各噴射エレメント11には、
図5(a)〜(c)に示すように、各燃焼用燃料噴射ノズル15に対応して希釈用噴射ノズル17が設けられ、衝突噴流CJの指向性が強い方向の延長線上にそれぞれ配置される。なお、
図5(a)〜(c)では、1つの燃焼用燃料噴射ノズル15に対応して1つの希釈用噴射ノズル17を設けた場合を示しているが、1つの燃焼用燃料噴射ノズル15に対応して複数)の希釈用噴射ノズル17を設けてもよい。
【0038】
そして、
図4(b)に示す希釈箇所DPに向けて噴射された各希釈用噴射ノズル17からの希釈用の燃料又は酸化剤は、
図6の説明図に示すように、衝突噴流CJの飛翔方向の延長線上に存在する混合点MPにおいて衝突噴流CJと衝突する。この衝突により、燃焼ガスが希釈用燃料又は希釈用酸化剤により希釈されて低混合比(燃料リッチ)化又は超高混合比(酸素リッチ)化され、配管接続部4の近傍に低温燃焼域LA(
図4(b)参照)が形成される。
【0039】
このように、本実施形態では、噴射器1の基板10に複数配置した各噴射エレメント11に、基板10の前方の燃焼箇所CPに酸化剤及び燃料を噴射する異種衝突型の燃焼用酸化剤噴射ノズル13及び燃焼用燃料噴射ノズル15と、燃焼箇所CPよりもさらに前方の希釈箇所DPに希釈用の燃料又は酸化剤を噴出する希釈用噴射ノズル17とを設けた。
【0040】
そして、燃焼箇所CPの近傍の高温燃焼域HAにおいて燃料と酸化剤を、着火性や保炎性が担保される適切な範囲内の混合比で燃焼させ、これにより発生した高温の燃焼ガスを希釈用燃料又は希釈用酸化剤で希釈して、配管接続部4の近傍の低温燃焼域LAにおいて燃焼ガスを低混合比(燃料リッチ)又は超高混合比(酸素リッチ)の状態で燃焼させて低温化させる構成とした。
【0041】
このため、高温燃焼域HAにおける燃焼状態と低温燃焼域LAにおける燃焼状態とを、全ての噴射エレメント11の評価結果を総合した燃焼器2単位ではなく、各噴射エレメント11の単位で個別に評価することができる。換言すると、1つの噴射エレメント11の燃焼状態を評価することで燃焼器2全体としての燃焼状態を評価することができる。よって、燃焼器2における高温燃焼域と低温燃焼域の燃焼状態の評価を簡便に行うことができる。
【0042】
なお、同種衝突型の燃料噴射ノズルと酸化剤噴射ノズルとの組み合わせで噴射器を構成すると、燃料と酸化剤とを混合した燃焼ガスに、ノズルから噴射して同種衝突させた希釈用の燃料又は酸化剤を混合することになるので、燃焼ガスを希釈する箇所が噴射器の比較的近傍に設定されることになる。
【0043】
これに対し、本実施形態では、各噴射エレメント11が異種衝突型の噴射器を構成するものとした。そして、各噴射エレメント11にそれぞれ設けた希釈用噴射ノズル17が、燃焼用酸化剤噴射ノズル13からの酸化剤と各燃焼用燃料噴射ノズル15からの燃料とが衝突して燃焼する燃焼箇所CPよりも遠方の希釈箇所DPに、希釈用の燃料又は酸化剤を噴射する構成とした。
【0044】
このため、希釈用の燃料又は酸化剤が燃焼ガスと混合されて低混合比(燃料リッチ)化又は超高混合比(酸素リッチ)化される希釈箇所DPを、各噴射エレメント11単位で、燃料と酸化剤とが混合されて燃焼する燃焼箇所CPの遠方に配置することができる。よって、燃焼器2の燃焼空間の広い範囲で燃焼ガスを希釈用の燃料又は酸化剤で希釈する構成を実現することができる。
【0045】
しかも、希釈用の燃料又は酸化剤による燃焼ガスの希釈を、噴射器1の遠方で各噴射エレメント11単位に分散して個別に行うので、噴射器1付近での着火性を確保しつつ噴射器1全体での燃焼ガスの希釈をより確実に行えるようにすることができる。
【0046】
また、本実施形態では、燃焼箇所CPで衝突した燃料及び酸化剤の衝突噴流CJの飛翔方向の延長線上に存在する混合点MPに向けて希釈用燃料又は希釈用酸化剤を噴射する構成とした。このため、燃焼箇所CPにおける衝突で拡散して飛翔する衝突噴流CJの強い指向性の方向成分に、希釈用噴射ノズル17からの希釈用燃料又は希釈用酸化剤を効率よく衝突させて、燃焼ガスの低混合比(燃料リッチ)化又は超高混合比(酸素リッチ)化とそれによる燃焼ガスの低温化を、より均一的に、かつ、効率的に実現することができる。
【0047】
このため、高温燃焼域HAにおける着火性及び保炎性の確保と、低温燃焼域LAにおける燃焼ガスの低温化及び均一化とを効率よく両立させ、駆動流体として適した低温の燃焼ガスをターボポンプTP1,TP2に安定供給することができる。
【0048】
なお、上述した実施形態では、各噴射エレメント11に設ける燃焼用酸化剤噴射ノズル13及び燃焼用燃料噴射ノズル15を異種衝突型とした。しかし、例えば、
図7(a)の正面図とそのB−B線断面図である
図7(b)に示すように、燃焼用酸化剤噴射ノズル13及び燃焼用燃料噴射ノズル15を同軸型としてもよい。同軸型とする場合は、燃焼用燃料噴射ノズル15を、燃焼用酸化剤噴射ノズル13を中心とする円環状に形成する。
【0049】
この場合、
図7(a)中では図示を省略しているが、希釈用噴射ノズル17は、燃焼用燃料噴射ノズル15と同じく円環状に形成してその外側に配置してもよく、
図4(a)に示す先の実施形態の噴射エレメント11と同様に、燃焼用燃料噴射ノズル15の円周の外側に位置する同心円の円周上に複数配置してもよい。
【0050】
また、本実施形態では、液体ロケットエンジンのガス発生器GGを例に取って説明したが、本発明は、燃料及び酸化剤を燃料過多(燃料リッチ)とした低混合比の状態、又は、酸化剤過多(酸素リッチ)とした超高混合比の状態で混合し燃焼させるガス発生器に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 噴射器
2 燃焼器
4 配管接続部
10 基板
10a 表面
11 噴射エレメント
13 燃焼用酸化剤噴射ノズル
15 燃焼用燃料噴射ノズル
17 希釈用噴射ノズル
C 主燃焼室
CJ 衝突噴流
CP 燃焼箇所
DP 希釈箇所
GG ガス発生器
HA 高温燃焼域
I 主噴射器
LA 低温燃焼域
MP 混合点
N ノズル
TP1,TP2 ターボポンプ