(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、シールドガスの流速や流量にムラが生じると、アークを維持するのが困難になると共に、大気を遮蔽することができなくなるので、シールドガスを整流する必要がある。シールドガスを整流するために、特許文献1に記載されているように、溶接ガスノズルの内面に螺旋形状のガス整流用溝や螺旋形状のガス整流用突起を設けるような場合には、ノズル構造が複雑となるのでノズルの成形が困難になる可能性がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、より簡易な構造でシールドガスを整流することができる溶接ガスノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る溶接ガスノズルは、溶接ワイヤを保持して給電するチップと、筒状に形成され、前記チップを収容し、筒内周面と前記チップとの間に形成されるガス流路を流れるシールドガスを吐出する吐出口を有するノズルと、を備え、前記ノズルの吐出口側に前記ガス流路と対向して設けられ、前記チップを挿通するためのチップ穴を含み、前記シールドガスを差圧で整流するための穴開き部材を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記穴開き部材は、前記ガス流路における前記シールドガスが流れにくい側に対応する領域の圧力損失係数が、前記シールドガスが流れやすい側に対応する領域の圧力損失係数よりも小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記穴開き部材は、前記ガス流路における前記シールドガスが流れにくい側に対応する領域の開口率が、前記シールドガスが流れやすい側に対応する領域の開口率よりも大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る溶接ガスノズルは、前記ノズルは、湾曲して形成されており、前記穴開き部材は、前記ガス流路における前記ノズルの曲率半径の小さい側に対応する領域の開口率が、前記ノズルの曲率半径の大きい側に対応する領域の開口率よりも大きいことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記穴開き部材は、金属メッシュ材、パンチングメタルまたはセラミックス多孔体で形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記ノズルは、ノズル本体と、前記ノズル本体の先端側に設けられ、前記吐出口を有するノズル先端部とを備え、前記穴開き部材は、前記ノズル本体と前記ノズル先端部とにより挟持されることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記チップは、前記ノズルの曲率半径の大きい側に偏心させて配置されていることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る溶接ガスノズルにおいて、前記ノズルは、円筒体または楕円筒体で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の溶接ガスノズルによれば、ノズルの吐出口側にガス流路と対向してシールドガスを差圧で整流するための穴開き部材を設けることにより、シールドガスの流速分布等をより均一にすることができるので、簡易な構造でシールドガスを整流することが可能となる。
【0016】
また、上記構成の溶接ガスノズルによれば、ノズルの吐出口側に穴開き部材を設けてシールドガスを整流するので、例えば、ノズルが湾曲している場合や、チップがノズルの中心から偏心して配置されている場合でもシールドガスの整流が可能となり、ノズル構造における設計の自由度が高くなる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、溶接ガスノズル10の構成を示す断面図である。溶接ガスノズル10は、溶接ワイヤ12を保持して給電するチップ14と、円筒状に湾曲して形成されており、チップ14を収容するノズル16と、を備えている。
【0019】
チップ14は、ノズル16内に湾曲して配置されたライナ17で誘導された溶接ワイヤ12を保持すると共に、溶接ワイヤ12に溶接電流を給電する機能を有している。チップ14は、溶接ワイヤ12をチップ14の先端から、例えば、19mmから20mm突出するように保持している。また、チップ14及びライナ17は、ノズル16の曲率半径が大きい側に偏心して配置されている。
【0020】
ノズル16は、円筒状に湾曲して形成されたノズル本体18と、ノズル本体18の先端側に嵌合された円筒状のノズル先端部20とを有している。ノズル本体18は、その基端側が、例えば、溶接トーチ等のホルダ(図示せず)に取り付けられている。ノズル先端部20は、ノズル16内を流れるシールドガスを吐出する吐出口22を有している。ノズル先端部20には、その先端側の外周面にテーパが形成されている。
【0021】
ノズル先端部20の基端側の内周面には、ノズル本体18の先端側を嵌合するための嵌合溝23が設けられている。例えば、ノズル本体18の先端側の外周面と、ノズル先端部20の嵌合溝23とにネジ加工を施して、ノズル本体18とノズル先端部20とを螺合させて嵌合することができる。また、ノズル本体18とノズル先端部20とを別体で形成するのではなく、一体的に形成することも可能である。
【0022】
ノズル16の内周面と、チップ14及びライナ17の周囲との間には、不活性ガス等のシールドガスが流れるガス流路24が湾曲して形成されている。
【0023】
穴開き部材26は、シールドガスを差圧で整流するために、ノズル16の吐出口22側にガス流路24に対向して設けられている。穴開き部材26は、例えば、円板状に形成されており、その外径が約20mmである。穴開き部材26は、その周縁がノズル先端部20の嵌合溝23に当接するようにして配置されており、ノズル本体18とノズル先端部20とにより挟持されて保持されている。
【0024】
シールドガスは、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側では流れやすく、ノズル16の曲率半径の小さい側では流れにくくなる。そのため、ノズル16の吐出口22側に穴開き部材26を設けることにより、ノズル本体18側とノズル先端部20側との間に差圧が生じるので、ノズル16の曲率半径の大きい側を流れてきたシールドガスと、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れてきたシールドガスとを整流して流速分布及び流線分布をより均一にし、ノズル先端部20の吐出口22から整流されたシールドガスを吐出させることが可能となる。
【0025】
ノズル本体18側とノズル先端部20側との間の差圧は、穴開き部材26の圧力損失係数を変えることにより調整可能である。穴開き部材26の圧力損失係数については、例えば、穴開き部材26の開口率を変えることにより調整される。穴開き部材26の開口率は、ガス流路24に対向する単位面積当たりの開口面積の割合である。差圧をより大きくする場合には、穴開き部材26の開口率をより小さくして抵抗を大きくすればよく、差圧をより小さくする場合には、穴開き部材26の開口率をより大きくして抵抗を小さくすればよい。ノズル本体18側とノズル先端部20側との間の差圧は、穴開き部材26の開口率を変えることにより、例えば、2.2Paから8.2Paに調整されることが好ましい。なお、穴開き部材26の圧力損失係数については、穴開き部材26の開口率だけでなく、穴開き部材26を構成するメッシュ材料の線形状やメッシュの織り方等を変えることにより調整されるようにしてもよい。
【0026】
穴開き部材26は、ガス流路24に対向する面全体の圧力損失係数を一定としてもよいし、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域の圧力損失係数を、ノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域の圧力損失係数よりも小さくしてもよい。例えば、穴開き部材26は、ガス流路24に対向する面全体の開口率を一定としてもよいし、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域の開口率を、ノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域の開口率よりも大きくしてもよい。
【0027】
穴開き部材26におけるガス流路24に対向する面全体の開口率を一定とすることにより、穴開き部材26の形成が容易になる。また、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域の開口率を、ノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域の開口率よりも大きくすることにより、ノズル16の曲率半径の大きい側を流れるシールドガスの穴開き部材26による抵抗がより大きくなり、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れるシールドガスの穴開き部材26による抵抗がより小さくなるので、チップ先端部20の吐出口22から吐出されるシールドガスの整流性が更に向上する。
【0028】
穴開き部材26には、チップ14を挿通させるためのチップ穴28が設けられている。チップ穴28は、例えば、丸穴で形成されており、その内径が約7mmから8mmである。穴開き部材26が導電性材料で形成されている場合には、穴開き部材26とチップ14とを絶縁するために、穴開き部材26とチップ14との間に絶縁部材を設けることが好ましい。
【0029】
穴開き部材26の穴形状は、丸穴、角穴(例えば、三角形、四角形、六角形等)であってもよく、メッシュ状やスリット状であってもよく、これらの形状の穴の組み合わせでもよい。穴開き部材26は、同じ大きさの穴で構成されていてもよいし、異なる大きさの穴を組み合わせて構成されていてもよい。穴開き部材26は、穴の分布が一定で構成されていてもよいし、穴の分布を異なるように構成されていてもよい。
【0030】
穴開き部材26は、ステンレス鋼等の金属材料や、コージェライト(2MgO
2・Al
2O
3・5SiO
2)やアルミナ(Al
2O
3)等の無機材料で形成される。穴開き部材26は、例えば、コージェライト等の熱膨張係数が低く、耐熱衝撃性を有する材料で形成されることが好ましい。穴開き部材26には、例えば、金属網等の金属メッシュ材、パンチングメタル、焼結粉体、セラミックス多孔体、発泡体、フェルト、不織布等を用いることができる。
【0031】
図2は、穴開き部材26をメッシュ材で形成した場合における
図1のX−X方向の断面図であり、
図2(a)は、メッシュ材の目開きの大きさを均一にした穴開き部材26aの構成を示す断面図であり、
図2(b)及び
図2(c)は、メッシュ材の目開きの大きさを変えた穴開き部材26b、26cの構成を示す断面図である。なお、図中の点Aは穴開き部材26a、26b、26cの中心を示しており、点Bはチップ穴28の中心を示しており、点Cはノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置を示しており、点Dはノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置を示している。
【0032】
図2(a)の穴開き部材26aでは、メッシュ材の目開きの大きさが均一になるように構成されている。
【0033】
図2(b)の穴開き部材26bでは、穴開き部材26bの中心Aを通り、ノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線29を境界線として、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域30aの目開きが、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域30bの目開きより大きくなるように構成されている。
【0034】
図2(c)の穴開き部材26cでは、チップ穴28の中心Bを通り、ノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線31を通る直線を境界線として、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域32aの目開きが、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域32bの目開きより大きくなるように構成されている。
【0035】
また、
図3は、穴開き部材26をパンチングメタルで形成した場合における
図1のX−X方向の断面図であり、
図3(a)は、パンチングメタルの孔の分布を均一にした穴開き部材26dの構成を示す断面図であり、
図3(b)及び
図3(c)は、パンチングメタルの孔の分布を変えた穴開き部材26e、26fの構成を示す断面図である。なお、図中の点Aは穴開き部材26d、26e、26fの中心を示しており、点Bはチップ穴28の中心を示しており、点Cはノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置を示しており、点Dはノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置を示している。
【0036】
図3(a)の穴開き部材26dでは、パンチングメタルの孔の分布が均一になるように構成されている。
【0037】
図3(b)の穴開き部材26eでは、穴開き部材26eの中心Aを通り、ノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線29を境界線として、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域34aのパンチングメタルの孔の割合が、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域34bのパンチングメタルの孔の割合より大きくなるように構成されている。
【0038】
図3(c)の穴開き部材26fでは、チップ穴28の中心Bを通り、ノズル16の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル16の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線31を通る直線を境界線として、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域36aのパンチングメタルの孔の割合が、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域36bのパンチングメタルの孔の割合より大きくなるように構成されている。
【0039】
次に、溶接ガスノズル10の作用について説明する。
【0040】
図4は、溶接ガスノズル10の作用を示す断面図である。シールドガス40a、40bはノズル本体18内の軸方向に沿ってノズル先端部20に向けて流れる。このとき、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の大きい側を流れるシールドガス40aは、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れるシールドガス40bよりもガス流速が速くなる。そして、ノズル16の曲率半径の大きい側を流れるシールドガス40aと、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れるシールドガス40bとは、穴開き部材26で抵抗を受ける。その結果、穴開き部材26のノズル本体18側とノズル先端部20側との間で圧力差が生じることにより、ノズル16の曲率半径の大きい側を流れるシールドガス40aと、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れるシールドガス40bとが整流されるので、ノズル先端部20の吐出口22からより均一なガス流速で整流されたシールドガス40cが吐出される。
【0041】
また、穴開き部材26について、ガス流路24におけるノズル16の曲率半径の小さい側に対応する内側領域の開口率を、ノズル16の曲率半径の大きい側に対応する外側領域の開口率よりも大きく構成する場合には、ノズル16の曲率半径の大きい側を流れるシールドガス40aの穴開き部材26による抵抗がより大きくなり、ノズル16の曲率半径の小さい側を流れるシールドガス40bの穴開き部材26による抵抗がより小さくなるので、チップ先端部20の吐出口22から吐出されるシールドガスの整流性が更に向上する。
【0042】
なお、上記構成では、ノズルが円筒状の円筒体で形成されているが、ノズルの形状は円筒状に限定されることなく、楕円筒状の楕円筒体等でもよい。また、ノズルの形状が楕円筒状である場合には、穴開き部材は楕円形状に形成される。
図5は、穴開き部材50a、50b、50cをメッシュ材で楕円形状に形成した構成を示す断面図である。
図1に示す溶接ガスノズル10とは、ノズル42が楕円筒状であり、穴開き部材50a、50b、50cが楕円形状である点が相違しており、その他の構成については同じである。なお、図中の点Aは穴開き部材50a、50b、50cの中心を示しており、点Bはチップ穴28の中心を示しており、点Cはノズル42の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置を示しており、点Dはノズル42の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置を示している。
【0043】
図5(a)の穴開き部材50aでは、メッシュ材の目開きの大きさが均一になるように構成されている。
【0044】
図5(b)の穴開き部材50bでは、穴開き部材50bの中心Aを通り、ノズル42の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル42の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線51を境界線として、ガス流路24におけるノズル42の曲率半径の小さい側に対応する内側領域52aの目開きが、ガス流路24におけるノズル42の曲率半径の大きい側に対応する外側領域52bの目開きより大きくなるように構成されている。
【0045】
図5(c)の穴開き部材50cでは、チップ穴28の中心Bを通り、ノズル42の最も内側(最も曲率半径の小さい側)に対応する位置Cと、ノズル42の最も外側(最も曲率半径の大きい側)に対応する位置Dとを結ぶ直線に対して直交する直線53を通る直線を境界線として、ガス流路24におけるノズル42の曲率半径の小さい側に対応する内側領域54aの目開きが、ガス流路24におけるノズル42の曲率半径の大きい側に対応する外側領域54bの目開きより大きくなるように構成されている。
【0046】
上記構成では、ノズルが湾曲して形成されているが、ノズルは直線状に形成されていてもよい。例えば、ノズルが直線状に形成されており、チップ及びライナをノズルの中心から偏心させて配置している場合には、シールドガスは、ガス流路におけるチップ及びライナの偏心側では流れにくくなり、チップ及びライナの偏心側と反対側では流れやすくなる。そのため、穴開き部材には、ガス流路におけるチップ及びライナの偏心側に対応する領域の開口率を、チップ及びライナの偏心側と反対側に対応する領域の開口率より大きくしたものを用いることが好ましい。
【0047】
また、上記構成では、チップ及びライナがノズルの曲率半径の大きい側に偏心させて配置されているが、チップ及びライナがノズルと同心円上に配置されていてもよいし、チップ及びライナがノズルの曲率半径の小さい側に偏心させて配置されていてもよい。
【0048】
以上、上記構成の溶接ガスノズルによれば、溶接ワイヤを保持して給電するチップと、筒状に形成され、チップを収容し、筒内周面とチップとの間に形成されるガス流路を流れるシールドガスを吐出する吐出口を有するノズルと、を備え、ノズルの吐出口側にガス流路と対向して設けられ、チップを挿通するためのチップ穴を含み、シールドガスを差圧で整流するための穴開き部材を有するので、より簡易な構造でシールドガスを整流することが可能となる。
【0049】
上記構成の溶接ガスノズルによれば、ノズルの吐出口側に穴開き部材を設けてシールドガスを整流するので、例えば、ノズルが湾曲している場合や、チップがノズルの中心から偏心して配置されている場合でもシールドガスの整流が可能となり、ノズル構造における設計の自由度が高くなる。
【0050】
上記構成の溶接ガスノズルによれば、穴開き部材は、ガス流路におけるシールドガスが流れにくい側に対応する領域の開口率が、シールドガスが流れやすい側に対応する領域の開口率よりも大きく形成されているので、ガス流路におけるシールドガスが流れにくい側では穴開き部材での抵抗を小さくし、シールドガスが流れやすい側では抵抗を大きくして、シールドガスの流速分布等をより均一にすることが可能となる。
【0051】
上記構成の溶接ガスノズルによれば、ノズルが湾曲して形成されている場合において、穴開き部材は、ガス流路におけるノズルの曲率半径の小さい側に対応する領域の開口率が、ノズルの曲率半径の大きい側に対応する領域の開口率よりも大きく形成されているので、ガス流路におけるノズルの曲率半径の小さい側であるシールドガスが流れにくい側では穴開き部材での抵抗を小さくし、ノズルの曲率半径の大きい側であるシールドガスが流れやすい側では抵抗を大きくして、シールドガスの流速分布等をより均一にすることが可能となる。
【実施例】
【0052】
次に、溶接ガスノズルにおけるシールドガスの流線分布及び流速分布について、有限体積法による汎用熱流体解析コードを用いて定常計算で解析した結果について説明する。
図6は、解析に使用した溶接ガスノズルの形状を示す断面図である。ノズルについては、寸法R1(ノズル内側の曲率半径)が24.5mmであり、寸法R2(ノズル外側の曲率半径)が51.7mmであり、寸法A(ノズル吐出口の内径)が19mmである。チップについては、寸法BがΦ5.1mmであり、寸法CがΦ8.7mmであり、寸法Dが18.2mmであり、寸法Eが5.0mmである。なお、チップについては、ノズル出口面においてノズル中心から2.35mm外側へ偏心させた。
【0053】
穴開き部材をメッシュ材で形成したと仮定して、穴開き部材の開口率を変えることにより圧力損失係数を1.0、1.8、3.4、6.7、13.2として解析した。なお、圧力損失係数が大きくなるほど開口率が小さくなり、圧力損失係数が1.0の場合が最も開口率が大きく、圧力損失係数が13.2の場合が最も開口率が小さい。また、比較のために穴開き部材を設けない場合についても解析した。
【0054】
図7は、シールドガスの流線分布の解析結果を示す図である。
図8は、ノズル先端から19mmのターゲット面における垂直方向におけるシールドガスの流速分布の解析結果を示すコンタ図である。
図9は、
図8のコンタ図のY方向におけるシールドガスの流速分布の解析結果を示す図である。なお、
図8に示すコンタ図において、シールドガスの流速が大きい領域には「H」と記載した。
【0055】
図7から
図9において、(a)が穴開き部材を設けない場合であり、(b)が圧力損失係数1.0の場合であり、(c)が圧力損失係数1.8の場合であり、(d)が圧力損失係数3.4の場合であり、(e)が圧力損失係数6.7の場合であり、(f)が圧力損失係数13.2の場合を示している。また、(a)の穴開き部材を設けない場合の圧力値は5.8Paであり、(b)の圧力損失係数1.0の場合の圧力値は7.2Paであり、(c)の圧力損失係数1.8の場合の圧力値は8.3Paであり、(d)の圧力損失係数3.4の場合の圧力値は10.3Paであり、(e)の圧力損失係数6.7の場合の圧力値は14.4Paであり、(f)の圧力損失係数13.2の場合の圧力値は22.5Paである。なお、各穴開き部材使用時のノズル出口のシールドガスの流速は、約1.5m/secである。
【0056】
図7に示すシールドガスの流線分布の解析結果において、(a)の穴開き部材を設けない場合のシールドガスの流線分布と、(b)から(f)の穴開き部材を設けた場合のシールドガスの流線分布とを比較すると、穴開き部材を設けることによりシールドガスの流線分布の乱れが抑えられて整流されることがわかった。また、(b)から(f)の穴開き部材を設けた場合のシールドガスの流線分布を比較すると、穴開き部材の圧力損失係数が大きくなるほど(開口率が小さくなるほど)シールドガスの流線分布の乱れが抑制されることがわかった。
【0057】
図8及び
図9に示すシールドガスの流速分布の解析結果において、(a)の穴開き部材を設けない場合のシールドガスの流速分布と、(b)から(f)の穴開き部材を設けた場合のシールドガスの流速分布とを比較すると、穴開き部材を設けることにより、シールドガスの流速分布の対称性が向上することがわかった。また、(b)から(f)の穴開き部材を設けた場合のシールドガスの流速分布で比較すると、圧力損失係数1.0から圧力損失係数6.7までは圧力損失係数が大きくなるほど(開口率が小さくなるほど)シールドガスの流速分布の対称性が向上し、圧力損失係数6.7より大きくなるとシールドガスの流速分布の対称性が低下することがわかった。
【0058】
次に、ガス流路におけるノズルの曲率半径の大きい側と、ノズルの曲率半径の小さい側とでメッシュの開口率(圧力損失係数)を変えて解析した。
【0059】
穴開き部材には、上述した
図2(b)に示す穴開き部材26bの構成をモデルとして用い、ガス流路におけるノズルの曲率半径の小さい側である内側領域30aの圧力損失係数1.8とし、ノズルの曲率半径の大きい側である外側領域30bの圧力損失係数3.4とした。すなわち、ガス流路におけるシールドガスが流れにくいノズルの曲率半径の小さい側では圧力損失係数を小さく(開口率を大きく)してシールドガスを流れやすくし、シールドガスが流れやすいノズルの曲率半径の大きい側では、圧力損失係数を大きく(開口率を小さく)してシールドガスを流れにくくして解析した。
【0060】
図10は、穴開き部材について、ガス流路におけるノズルの曲率半径の大きい側と、ノズルの曲率半径の小さい側とでメッシュの開口率(圧力損失係数)を変えた場合の解析結果を示す図であり、
図10(a)は、シールドガスの流線分布の解析結果を示す図であり、
図10(b)は、ノズル先端から19mmのターゲット面における垂直方向におけるシールドガスの流速分布の解析結果を示すコンタ図である。なお、
図10(b)に示すコンタ図において、シールドガスの流速が大きい領域には「H」と記載した。
図10(b)に示すように、穴開き部材に圧損分布を設けたとこにより、シールドガスの流速分布の対称性が向上した。