(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287060
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】スクライビング工具、スクライビング工具の製造方法、およびスクライブラインの形成方法
(51)【国際特許分類】
B28D 1/22 20060101AFI20180226BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20180226BHJP
C03B 33/12 20060101ALI20180226BHJP
B28D 5/04 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
B28D1/22
B28D5/00 Z
C03B33/12
B28D5/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-222127(P2013-222127)
(22)【出願日】2013年10月25日
(65)【公開番号】特開2015-83347(P2015-83347A)
(43)【公開日】2015年4月30日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】曽山 浩
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−289703(JP,A)
【文献】
特開2011−246347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/22
B28D 5/00
B28D 5/04
C03B 33/12
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャンクと、
前記シャンクに取り付けられたダイヤモンド粒と、を備え、前記ダイヤモンド粒には、端を有する稜線が設けられており、前記ダイヤモンド粒は、
前記稜線の前記端に設けられた第1の突起と、前記第1の突起から前記稜線に沿って延びる第1の直線部と、を有する第1の部分と、
前記稜線上に前記第1の直線部につながって配置された凹部が設けられた第2の部分と、を含み、
前記第1および第2の部分の間において前記第1の直線部と前記凹部とが合わさることにより第2の突起が構成されており、前記第1の直線部は30μm超100μm未満の長さを有するスクライビング工具。
【請求項2】
前記ダイヤモンド粒は、前記凹部から前記稜線に沿って延在する第2の直線部を有する第3の部分をさらに含み、前記第1および第2の直線部は一の仮想直線上に位置する、請求項1に記載のスクライビング工具。
【請求項3】
前記凹部は前記稜線に沿って30μm超100μm未満の長さを有する、請求項1又は2に記載のスクライビング工具。
【請求項4】
前記凹部は10μm超50μm未満の深さを有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクライビング工具。
【請求項5】
突起が設けられた端を有する稜線が設けられたダイヤモンド粒を準備する工程と、
前記突起から30μm超100μm未満離れた位置において前記稜線と交差するレーザ光を前記ダイヤモンド粒へ照射することによって、前記稜線上に凹部を形成する工程とを備える、スクライビング工具の製造方法。
【請求項6】
縁を有する主面が設けられた基板にスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、
端を有する稜線が設けられたダイヤモンド粒を準備する工程を備え、前記ダイヤモンド粒は、前記稜線の前記端に設けられた第1の突起と前記第1の突起から前記稜線に沿って延びる第1の直線部とを有する第1の部分と、前記稜線上に前記第1の直線部につながって配置された凹部が設けられた第2の部分とを含み、前記第1および第2の部分の間において前記第1の直線部と前記凹部とが合わさることにより第2の突起が構成されており、前記第1の直線部は30μm超100μm未満の長さを有し、さらに
前記基板の前記主面の前記縁に初期亀裂を形成する工程を備え、前記初期亀裂を形成する工程は、前記縁に前記ダイヤモンド粒の前記凹部を引っ掛ける工程と、前記凹部に引っ掛かった前記縁を前記第2の突起によって引っかく工程とを含み、さらに
前記主面上において前記ダイヤモンド粒の前記第1の部分を前記初期亀裂から走行させることによってスクライブラインを伸展させる工程を備える、スクライブラインの形成方法。
【請求項7】
前記ダイヤモンド粒は、前記凹部から前記稜線に沿って延在する第2の直線部を有する第3の部分をさらに含み、前記第1および第2の直線部は一の仮想直線上に位置しており、
前記初期亀裂を形成する工程は、前記凹部に引っ掛かった前記縁を前記第2の突起によって引っかく工程の前に、前記稜線上において前記第2の直線部上から前記凹部中へ前記基板の前記主面の前記縁を滑り込ませる工程をさらに含む、請求項6に記載のスクライブラインの形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクライビング工具、スクライビング工具の製造方法、およびスクライブラインの形成方法に関し、特に、ダイヤモンド粒を用いたスクライビング工具、スクライビング工具の製造方法、およびスクライブラインの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットディスプレイパネルまたは太陽電池パネルなどの電気機器の製造において、たとえば、ガラス板、半導体ウエハ、サファイアウエハ、またはセラミックス板など、脆性材料から作られた基板を切断することがしばしば必要となる。この際に、スクライブ装置により基板にスクライブがしばしば行われる。すなわち基板表面にスクライブラインが形成される。スクライブラインは、基板の厚さ方向に少なくとも部分的に進行したクラックが、基板の表面上においてライン状に延びているもののことをいう。
【0003】
クラックが厚さ方向に完全に進行している場合は、スクライブラインの形成のみでスクライブラインに沿って基板が完全に切断される。クラックが厚さ方向に部分的にしか進行していない場合は、スクライブラインの形成後に、ブレーク工程と称される応力付与がなされる。ブレーク工程によりクラックを厚さ方向に完全に進行させることで、スクライブラインに沿って基板が完全に切断される。
【0004】
スクライブラインを形成するためのスクライビング工具として広く用いられているものとして、ダイヤモンドスクライビング工具がある。たとえば特開2011−219308号公報(特許文献1)によれば、ダイヤモンドスクライビング工具は、合成ダイヤモンド砥粒と、それを保持するシャンクとを有する。合成ダイヤモンド砥粒は、(100)面と、隣接する2面の(111)面との交点をポイントとして有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−219308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スクライブラインを形成するためには、まずそのきっかけとなる基板内部への亀裂(以下、起点クラックと称する)を発生させる必要がある。いったん起点クラックが形成されれば、そこからスクライブラインを基板上において容易に伸展させ得る。逆に言えば、起点クラックの形成なしには、基板上でスクライビング工具を走査しても、基板上に傷がつくだけに過ぎない。この傷のみでは、前述したブレーク工程において応力を付与しても基板を切断することはできず、そのような構成は本明細書における「スクライブライン」に相当するものではない。
【0007】
起点クラックは基板の縁において特に形成しやすい。なぜならば、縁においては端面へスクライビング工具が傷をつけることにより基板内部への亀裂の発生が特に起こりやすいためである。しかしながら、たとえ縁上であっても、十分な傷が生じずに起点クラックが形成されないことがあった。言い換えれば、起点クラックを形成する工程の歩留まりが100%ではなかった。よって起点クラックをより確実に形成する方法が望まれていた。
【0008】
本発明は以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、スクライブラインを形成するための起点クラックをより確実に形成することができるスクライビング工具、スクライビング工具の製造方法、およびスクライブラインの形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のスクライビング工具は、シャンクと、シャンクに取り付けられたダイヤモンド粒とを有する。ダイヤモンド粒には、端を有する稜線が設けられている。ダイヤモンド粒は、第1および第2の部分を含む。第1の部分は、稜線の端に設けられた第1の突起と、第1の突起から稜線に沿って延びる第1の直線部とを有する。第2の部分には、稜線上に第1の直線部につながって配置された凹部が設けられている。第1および第2の部分の間において第1の直線部と凹部とが合わさることにより第2の突起が構成されている。
前記第1の直線部は30μm超100μm未満の長さを有する。
【0010】
好ましくは、ダイヤモンド粒は、凹部から稜線に沿って延在する第2の直線部を有する第3の部分をさらに含む。第1および第2の直線部は一の仮想直線上に位置する。
【0011】
好ましくは、凹部は稜線に沿って30μm超100μm未満の長さを有する。好ましくは、凹部は10μm超50μm未満の深さを有する。
【0012】
本発明のスクライビング工具の製造方法は、次の工程を有する。突起が設けられた端を有する稜線が設けられたダイヤモンド粒が準備される。突起から離れた位置において稜線と交差するレーザ光をダイヤモンド粒へ照射することによって、稜線上に凹部が形成される。
【0013】
本発明のスクライブラインの形成方法は、縁を有する主面が設けられた基板にスクライブラインを形成するスクライブ方法であって、以下の工程(1)〜(3)を有する。
【0014】
(1)端を有する稜線が設けられたダイヤモンド粒が準備される。ダイヤモンド粒は第1および第2の部分を含む。第1の部分は、稜線の端に設けられた第1の突起と、第1の突起から稜線に沿って延びる第1の直線部とを有する。第2の部分には、稜線上に第1の直線部につながって配置された凹部が設けられている。第1および第2の部分の間において第1の直線部と凹部とが合わさることにより第2の突起が構成されている。
前記第1の直線部は30μm超100μm未満の長さを有する。
【0015】
(2)基板の主面の縁に初期亀裂が形成される。初期亀裂を形成する工程は、縁にダイヤモンド粒の凹部を引っ掛ける工程と、凹部に引っ掛かった縁を第2の突起によって引っかく工程とを含む。
【0016】
(3)主面上においてダイヤモンド粒の第1の部分を初期亀裂から走行させることによって、スクライブラインが伸展させられる。
【0017】
上記スクライブラインの形成方法において好ましくは、ダイヤモンド粒は、凹部から稜線に沿って延在する第2の直線部を有する第3の部分をさらに含む。第1および第2の直線部は一の仮想直線上に位置している。初期亀裂を形成する工程は、凹部に引っ掛かった縁を第2の突起によって引っかく工程の前に、稜線上において第2の直線部上から凹部中へ基板の主面の縁を滑り込ませる工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、スクライブラインを形成するための起点クラックをより確実に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施の形態1において初期亀裂からスクライブラインが伸展させられている様子を示す部分平面図である。
【
図2】
図1の線II−IIに沿う概略部分断面図である。
【
図3】
図2の矢印IIIの視点から見たダイヤモンド粒の平面図である。
【
図4】
図3の線IV−IVに沿う概略部分断面図である。
【
図6】本発明の実施の形態1におけるスクライブラインの形成方法の第1工程を概略的に示す部分断面図である。
【
図7】本発明の実施の形態1におけるスクライブラインの形成方法の第2工程を概略的に示す部分断面図である。
【
図8】本発明の実施の形態1におけるスクライブラインの形成方法の第3工程を概略的に示す部分断面図である。
【
図9】本発明の実施の形態1におけるスクライブラインの形成方法の第4工程を概略的に示す部分断面図である。
【
図10】本発明の実施の形態1におけるスクライブラインの形成方法の第5工程を概略的に示す部分断面図である。
【
図11】本発明の実施の形態2におけるスクライビング工具の製造方法の一工程を概略的に示す平面図である。
【
図12】本発明の実施の形態3におけるスクライビング工具が有するダイヤモンド粒の構成を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0021】
(実施の形態1)
図1および
図2を参照して、はじめに本実施の形態の概要について説明する。シャンク59とそれに取り付けられたダイヤモンド粒51とを有するスクライビング工具50が準備される。また縁EGを有する主面FCが設けられた基板4が準備される。ダイヤモンド粒51が縁EGに乗り上げることによって初期亀裂ICが形成される。スクライビング工具50が主面FC上をさらに走行することによって(図中、矢印V4)、初期亀裂ICからスクライブラインSLが伸展される。これによりスクライブラインSLが形成される。
【0022】
次にダイヤモンド粒51の構成について詳述する。
【0023】
図3を参照して、ダイヤモンド粒51には、面P0と、面P0を取り囲む面P1a〜P1dとが設けられている。面P1aおよびP1bは、互いに隣り合った1対の面である。面P1aおよびP1bの境界においてダイヤモンド粒51には稜線ELが設けられている。稜線ELは、面P0につながる一方端(後述する突起D1の位置)と、他方端(図示せず)とを有する。稜線EL上の、一方端および他方端の各々から離れた位置に、凹部RAが形成されている。凹部RAの詳細については後述する。
【0024】
なお面P1bとP1cとの対、面P1cとP1dとの対、および面P1dとP1aとの対の各々についても同様である。好ましくは、結晶学的に言って、面P0は(001)面であり、面P1a〜P1dのそれぞれは、(111)面、(−111)面、(−1−11)面および(1−11)面である。
【0025】
図4を参照して、ダイヤモンド粒51は部分P1〜P3(第1〜第3の部分)を含む。部分P1は、稜線ELの一方端に設けられた突起D1(第1の突起)と、突起D1から稜線ELに沿って延びる直線部L1(第1の直線部)とを有する。部分P2には、稜線EL上に直線部L1につながって配置された凹部RAが設けられている。部分P1およびP2の間において直線部L1と凹部RAとが合わさることにより突起D2(第2の突起)が構成されている。
【0026】
部分P3は、凹部RAから稜線ELに沿って延在する直線部L2(第2の直線部)を有する。部分P3およびP3の間において凹部RAと直線部L2とが合わさることにより突起D3(第3の突起)が構成されている。直線部L1およびL2は仮想直線VL(一の仮想直線)上に位置する。これにより凹部RAは仮想直線VL上に局所的に設けられている。上述した突起D1〜D3はいずれも、稜線ELと平面または曲面とがなす角部であり、その先端は点状または微小な曲面とされている。
【0027】
図5を参照して、好ましくは直線部L1は30μm超100μm未満の長さM1を有する。好ましくは凹部RAは稜線ELに沿って30μm超100μm未満の長さM2を有する。好ましくは凹部RAは10μm超50μm未満の深さM3を有する。
【0028】
次に、スクライブラインSLを形成するスクライブ方法の詳細について、以下に説明する。
【0029】
まず、スクライビング工具50(
図2)が準備される。具体的には、シャンク59(
図2)に取り付けられたダイヤモンド粒51(
図5)が準備される。
【0030】
図6を参照して、基板4が準備される。シャンク59(
図2)を移動させることによってダイヤモンド粒51が待機位置に配置される。具体的には、ダイヤモンド粒51の突起D1が基板4の主面FCよりも高くに配置される。また突起D1〜D3が、主面FC上から外れて配置される。凹部RAは縁EGに面するように配置される。
【0031】
図7を参照して、図中矢印V1に示すように、凹部RAの全体が主面FCよりも下に位置するようにダイヤモンド粒51が下降される。このときの主面FCから突起D1までの距離を切り込み量といい、通常100μm以上に設定される。
【0032】
図8を参照して、図中矢印U2に示すように、ダイヤモンド粒51が基板4に向かって水平移動される。これによりダイヤモンド粒51の直線部L2が基板4の縁EGに接触する。この結果、ダイヤモンド粒51が基板4に乗り上げる(図中矢印V2)。なおこの接触時に過度の衝撃が生じないようにするために、上記水平移動(
図8の矢印U2)の速度は、スクライブラインSL形成時(
図10の矢印V4)の速度よりも十分に小さくされることが好ましい。たとえば、前者が5mm/秒以上20mm/秒以下程度であり、後者が300mm/秒以上500mm/秒以下程度である。ダイヤモンド粒51が基板4に乗り上げた後の主面FCから突起D1までの距離(実際にダイヤモンド粒が基板4に食い込む深さ)は1〜7μm程度となる。
【0033】
次に、基板4の主面FCの縁EGに初期亀裂ICが形成される。具体的には、以下の工程が行われる。
【0034】
さらに
図9を参照して、水平移動(図中矢印U3)が継続されることで、稜線EL上において直線部L2上から凹部RA中へ基板4の主面FCの縁EGが滑り込む。この際に、突起D3が縁EGを引っかくことで縁EGに傷を形成し得る。水平移動のさらなる進行とともに、縁EGにダイヤモンド粒51の凹部RAが引っ掛けられ、そして、凹部RAに引っ掛かった縁EGが突起D2によって引っかかれる(図中、矢印V3)。
【0035】
図10を参照して、上記により、基板4の主面FCの縁EGに初期亀裂ICが形成される。次に主面FC上においてダイヤモンド粒51の部分P1の一部を(具体的には突起D1と直線部L1の一部とを)初期亀裂ICから走行させることによって(図中矢印V4)、スクライブラインSL(
図1および
図2)が伸展させられる。初期亀裂ICの形成後、スクライブラインSLの形成中は、図示されているように、凹部RAが基板4の外部に位置することが好ましい。
【0036】
なお初期亀裂ICおよびスクライブラインSLの各々は、ダイヤモンド粒51を基板4の主面FC上へ適当な荷重で押しつけつつ水平方向(
図8〜
図10における右方向)に移動させることによって連続的に形成し得る。矢印V2(
図8)およびV3(
図9)が含む微小な上下動は、上記荷重が適当に選択されていれば、特段の制御なしに自動的に生じる。
【0037】
本実施の形態によれば、凹部RAに引っ掛かった縁EG(
図9)が突起D2によって引っかかれる。これにより初期亀裂IC(
図10)をより確実に形成することができる。また凹部RAに引っ掛かった縁EGを突起D2によって引っかく前に、直線部L2上から凹部RA中へ基板4の縁EGが滑り込む。この際に、突起D3が縁EGを引っかくことで傷を形成してもよい。この傷の発生により、初期亀裂ICをさらにより確実に形成することができる。
【0038】
直線部L1が30μm超の長さM1(
図5)を有することにより、初期亀裂IC形成完了後、スクライブに適切な荷重および切り込み深さでスクライブラインSLが形成される際(
図10)に、凹部RAが基板4から十分に離れる。これにより凹部RAがスクライブラインSLの形成に影響することを避けやすくなる。直線部L1が100μm未満の長さM1(
図5)を有することにより、突起D2が縁EGに確実に接触することとなる。仮に長さM1が過度に大きいと、スクライブに適切な荷重および切り込み深さを設定した時点で突起D2が基板4の主面FCよりも上に位置する可能性が高く、その場合、縁EGに傷をつけることができなくなる。
【0039】
凹部RAが稜線ELに沿って30μm超の長さM2(
図5)を有することにより、基板4の縁EGにダイヤモンド粒51の凹部RAをより確実に引っ掛けることができる。凹部RAが稜線ELに沿って100μm未満の長さM2(
図5)を有することにより、稜線EL上において直線部L2上から凹部RA中へ基板4の主面FCの縁EGが滑り込むことで突起D3が縁EGを引っかくことにより傷を形成する位置と、突起D2によって引っかかれる位置とのずれを小さくすることができる。これにより、両作用を縁EGの同一箇所に与えやすくなる。よって初期亀裂ICをさらにより確実に形成することができる。
【0040】
凹部RAが10μm超の深さM3(
図5)を有することにより、初期亀裂ICを形成するのに十分に突出した突起D2によって基板4の縁EGが引っかかれる。これにより初期亀裂ICをさらにより確実に形成することができる。凹部RAが50μm未満の深さM3(
図5)を有することで、凹部RAをより容易に形成することができる。
【0041】
なお本実施の形態においては、
図7に示すように、凹部RAの全体が主面FCよりも下に位置するようにダイヤモンド粒51が下降されるが、その代わりに、凹部RAの一部が主面FCよりも下に位置するようにダイヤモンド粒51が下降されてもよい。この場合、その後のダイヤモンド粒51の水平移動(
図9:U3)によって、縁EGが凹部RA内に侵入する。その後、上述した
図9以降の工程が行われる。
【0042】
この変形例によれば、基板4への突起D3の接触なしに、突起D2が縁EGを引っかくという1回の作用のみによって初期亀裂ICが形成される。よって、2回以上の作用によって初期亀裂ICを形成しようとする場合と異なり、位置ずれに起因して2カ所以上に初期亀裂ICを形成してしまうことがない。不必要な箇所に初期亀裂ICが形成されていると、意図しない亀裂の伸展が生じ得る。
【0043】
なお上記の説明においては基板4に対してダイヤモンド粒51が移動するが、同様の相対移動が得られる限り、ダイヤモンド粒51に対して基板4が移動したり、または両方が移動したりしてもよい。
【0044】
(実施の形態2)
本実施の形態においては、上述した実施の形態1のスクライビング工具50(
図2)の製造方法について説明する。
【0045】
図11を参照して、シャンク59(
図2)に取り付けられたダイヤモンド粒51が準備される。ダイヤモンド粒51には、実施の形態1で説明したように、突起D1が設けられた端を有する稜線ELが設けられている。なおこの時点では未だ凹部RA(
図3)は形成されていない。
【0046】
次に、突起D1から離れた位置において稜線ELと交差するレーザ光LLが、ダイヤモンド粒51へ照射される。これにより生じるレーザアブレーションによって、稜線EL上に凹部RA(
図3)が形成される。
【0047】
本実施の形態によれば、ダイヤモンド粒51を容易に製造することができる。なおダイヤモンド粒51は、上述したレーザアブレーションの後にシャンク59(
図2)に取り付けられてもよい。
【0048】
(実施の形態3)
図12を参照して、本実施の形態のスクライビング工具は、ダイヤモンド粒51(実施の形態1:
図4)の代わりに、ダイヤモンド粒52を有する。ダイヤモンド粒52には、凹部RA(
図4)の代わりに、凹部RBが設けられている。言い換えれば部分P2には、稜線EL上に直線部L1につながって配置された凹部RBが設けられている。部分P1およびP2の間において直線部L1と凹部RBとが合わさることにより突起D2が構成されている。本実施の形態においては、凹部RBは、稜線ELのうち突起D1が位置する一方端と反対の他方端(
図12において図示せず)まで延びている。言い換えれば、部分P3(
図4)が設けられておらず、よって突起D3(
図4)も設けられていない。
【0049】
なお、上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0050】
本実施の形態によれば、ダイヤモンド粒52は突起D3を有さず、突起D2が縁EGを引っかくという1回の作用のみによって初期亀裂ICが形成される。よって、2回以上の作用によって初期亀裂ICを形成しようとする場合と異なり、位置ずれに起因して2カ所以上に初期亀裂ICを形成してしまうことがない。不必要な箇所に初期亀裂ICが形成されていると、意図しない亀裂の伸展が生じ得る。
【0051】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0052】
4 基板
50 スクライビング工具
51,52 ダイヤモンド粒
59 シャンク
D1〜D3 突起(第1〜第3の突起)
EG 縁
EL 稜線
FC 主面
IC 初期亀裂
L1,L2 直線部(第1および第2の直線部)
LL レーザ光
P1〜P3 部分(第1〜第3の部分)
RA,RB 凹部
SL スクライブライン
VL 仮想直線