(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、遮音性を確保するためには、遮音材の比重や質量(質量=比重×体積)が大きな要素となる。すなわち、遮音性を向上させるためには、一般的に、薄くて軽い部材よりも、厚くて重い部材が適している。
【0007】
したがって、遮音性を向上させるためには、比重の大きい金属等を遮音材に適用することが好ましい。この点、特許文献1の技術では、空気層を用いて遮音を実現しているため、金属等よりも比重が小さい空気では遮音性が十分ではない。
【0008】
このように、比重の大きい金属は、遮音性に優れているため、エンジンアンダーカバーそのものを、樹脂製の部材から金属板に変更することも考えられる。しかし、金属板のみで構成されたエンジンアンダーカバーでは、自動車組み立てラインの作業員が持ち運びづらいため、金属板のみの構成はなるべく避けたい。
【0009】
そこで、作業員の作業性を向上させるために、金属板を何らかの樹脂材料で包み込むことも考えられるが、金属板と樹脂部材とは根本的な原料が異なるため、溶着することが困難であるという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、優れた遮音性を確保しながらも作業性がよく、かつ、製造も容易とすることがきる技術の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、自動車部品用カバー及び自動車部品用カバーの製造方法を採用している。なお、以下に示す括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
〔自動車部品用カバー〕
解決手段1:本解決手段の自動車部品用カバーは、遮音材と、保持部材と、樹脂部材とを備えている。このため、本解決手段の自動車部品用カバーでは、主に3つの部材を用いることになる。
【0013】
遮音材は、所定の値(例えば2.0)以上の比重(例えば2.0〜11.5)を有する。このような比重の数値範囲は、下限値未満の値となると、遮音性が低下し、上限値よりも大きい値となると、遮音材が重くなりすぎてしまう。所定の値は、実現したい遮音の性能に応じて決定することができる。例えば、所定の値を高い値に設定すればそれだけ遮音性は向上するし、所定の値を低い値に設定すれば遮音性は低下する。このように、所定の値以上の比重を有しているということは、一定の遮音性を有する部材であるということになる。なお、この点については、以下の特定の値についても同様である。
【0014】
保持部材は、規定の値以下の見かけ密度(例えば0.9g/cm
3以下であることが好ましく、0.01〜0.5g/cm
3であることがより好ましい)を有し、所望の樹脂(PP、PE等)と接着が可能であり、遮音材を包み込んで保持する。このため、遮音材は、保持部材によって被覆されている。また、上記の密度の数値範囲は、下限値未満の値となると、材料の調達がしづらく製造が困難になり、上限値よりも大きい値となると、アンカー効果が充分に発揮することができなくなってしまう。ここで、見かけ密度とは、外形寸法による単位体積あたりの質量である。また、接着とは、熱による溶着や、アンカー効果による固着を含む。
【0015】
樹脂部材は、特定の値(例えば0.8)以上の比重(例えば0.8〜1.1)を有し、所望の樹脂(PP、PE等)によって構成され、遮音材を包み込んでいる保持部材を包み込んでいる。このため、遮音材を包み込んでいる保持部材は、樹脂部材によって被覆されている。したがって、本解決手段の自動車部品用カバーでは、中心に遮音材が配置され、その周りに保持部材が配置され、さらにその周りに樹脂部材が配置されている。なお、上記の比重の数値範囲は、下限値未満の値となると、遮音性が低下し、上限値よりも大きい値となると、樹脂材料が重くなりすぎてしまう。
【0016】
このように、本解決手段によれば、所定の値以上の比重を有する遮音材を用いているため、空気層による遮音等と比較して、十分な遮音性を確保することができる。
【0017】
また、本解決手段では、遮音材、保持部材及び樹脂部材の3つの部材それぞれが遮音性を発揮することができ、3つの部材にて相乗的に遮音性を向上させることができる。
【0018】
さらに、本解決手段によれば、最外層が樹脂部材となっているため、遮音材がむき出しになっている状態と比較して、自動車部品用カバーが持ち運びやすくなり、自動車組み立てラインの作業員の作業性を向上させることができる。
【0019】
さらにまた、本解決手段によれば、遮音材が保持部材に包み込まれているため、遮音材が樹脂部材とを接着することができなくても、保持部材を介して遮音材と樹脂部材とを一体化させることができる。このため、遮音材の選定に際して樹脂部材との接着性(溶着性)を考慮する必要がなくなり、遮音の要求度合いに応じた任意の遮音材を選択して使用することができる。
【0020】
その上、本解決手段によれば、保持部材と樹脂部材とが確実に接着されるため、保持部材が樹脂部材の内部でしっかりと位置決めされ、接着後に樹脂部材の内部で保持部材の位置がずれてしまうということがなくなる。
【0021】
解決手段2:遮音材は、金属板又は高密度樹脂シートである。
本解決手段によれば、遮音材が金属板又は高密度樹脂シートとなるため、一般的な樹脂材料と比較して、比重の値を高く設定することができる。そして、遮音材の比重の値を高く設定することにより、遮音材の遮音性が高まり、結果として自動車部品用カバー全体としての遮音性も向上させることができる。
【0022】
ここで、保持部材には、遮音材と樹脂部材とを一体化させるための媒介になるという役割がある。このような保持部材の役割は、遮音材に対して金属板を採用した場合には、より効果的である。一方、遮音材に対して高密度樹脂シートを採用した場合には遮音材と樹脂部材とが樹脂同士となるため、金属板と比較すると、遮音材と樹脂部材とは接着しやすくなり、保持部材の必要性は金属板を採用した場合よりも低いようにも思われる。
【0023】
この点は、成形方法にも依存することであるが、相当な高温で高密度樹脂シートと樹脂部材とを密着させることができれば、ある程度の結合性は確保することができる。ただし
、樹脂部材をシート状に押し出して、シート状樹脂を垂下させた状態で成形を行う成形方法を採用した場合、シート状樹脂があまりにも高温になりすぎると、垂下させている段階でシート状樹脂が溶けて伸びて落下してしまうため、成形することができる溶融温度は、範囲が狭い限られたものとなる。そうなると、遮音材に対して高密度樹脂シートを採用した場合であっても、保持部材を間に介在させることにより、安定した結合性を提供することができる。
【0024】
また、遮音材に対して高密度樹脂シートを採用した場合には、遮音材に対して金属板を採用した場合よりも遮音性の点では劣るが、自動車部品用カバー全体を樹脂で構成したいという要求がある場合に好適である。
【0025】
解決手段3:保持部材は、発泡材、ガラスウール又は不織布である。
本解決手段によれば、保持部材が発泡材、ガラスウール又は不織布であるため、保持部材の表面に比較的大きな凹凸が存在していることになる。このため、保持部材の表面に対して溶融状態の樹脂部材が入り込みやすく(アンカー効果が発生しやすく)、保持部材と樹脂部材との密着性を向上させることができる。
【0026】
解決手段4:樹脂部材は、タルク、マイカ又はガラスファイバーが含有された樹脂である。
本解決手段によれば、樹脂部材には、タルク、マイカ、ガラスファイバー等の無機フィラーといった、一般的な樹脂に比べて密度が高い(比重が大きい)ものを含有させているため、樹脂部材の比重も大きくなり、樹脂部材の遮音性を向上させることができる。
【0027】
解決手段5:自動車部品用カバーは、自動車のエンジンの下方に配置されるエンジンアンダーカバーである。
本解決手段によれば、自動車部品用カバーをエンジンアンダーカバーに適用することができ、エンジンの下方からエンジン音が車外に聞こえてしまうという現象を低減させることができる。
【0028】
ここで、自動車部品用カバーは、トラックのエンジンの下方に配置されるトラック用エンジンアンダーカバーとすることもできる。
一般に、乗用車の場合は、エンジン音の吸音、走行音の吸音といったように、吸音性が重要視されているが、トラックについては、エンジン音が乗用車に比べて大きいので、エンジン音の吸音性というよりも、エンジン音の遮音性が求められている。
【0029】
そして、自動車部品用カバーをトラック用エンジンアンダーカバーに適用することにより、エンジン音の遮音性を高めることにより、トラックのエンジンの下方からエンジン音が車外に聞こえてしまうという現象を低減させることができる。
【0030】
解決手段6:樹脂部材は、保持部材の一部を露出させる開口を有する。
本解決手段によれば、樹脂部材に形成された開口によって保持部材の一部を露出させることができるので、樹脂部材を形成しない箇所を設けることができる。そして、その開口位置を耐熱性が必要な部位に合わせることにより、熱によって樹脂部材が溶けてしまうことを回避することができる。
【0031】
〔自動車部品用カバーの製造方法〕
解決手段7:本解決手段の自動車部品用カバーの製造方法は、垂下工程と、配置工程と、接着工程とを含んでいる。
【0032】
垂下工程では、所定の間隔を隔てて配置された分割金型の間に、溶融状態のシート状の第1樹脂及び第2樹脂を下方に垂下させる。第1樹脂及び第2樹脂は、同一材料の樹脂であってもよく、異なる材料の樹脂であってもよい。第1樹脂と第2樹脂とは、対向しながら一定の間隔を隔てて垂下される。
【0033】
配置工程では、垂下されている第1樹脂と第2樹脂との間に保持部材を配置する。保持部材は、所定の値(例えば2.0)以上の比重(例えば2.0〜11.5)を有する遮音材を包み込んで保持するとともに、規定の値以下の見かけ密度(例えば0.9g/cm
3以下であることが好ましく、0.01〜0.5g/cm
3であることがより好ましい)を有し、第1樹脂及び第2樹脂と接着が可能である。
【0034】
接着工程では、分割金型を型締めすることにより、垂下されている第1樹脂及び第2樹脂と、保持部材とを接着させる。
【0035】
このように、本解決手段では、垂下工程にて第1樹脂及び第2樹脂を下方に垂下させ、配置工程にて第1樹脂と第2樹脂との間に遮音材を包み込んだ保持部材を配置し、接着工程にて第1樹脂及び第2樹脂と、保持部材とを接着させているので、遮音材を包み込んだ保持部材を用意してそれを第1樹脂と第2樹脂との間に配置するだけの簡単な工程で、複雑な構成の自動車部品用カバーを容易に製造することができる。
【0036】
解決手段8:本解決手段では、垂下工程よりも前に、梱包工程が含まれている。梱包工程は、保持部材に形成された凹状の収納部に遮音材を嵌め込むことによって、保持部材で遮音材を包み込む工程である。この場合、保持部材は、2つの部材に分割することができる。
【0037】
このように、本解決手段では、保持部材の収納部に遮音材を嵌め込むことによって、保持部材で遮音材を包み込んでいるため、遮音材と保持部材とを接着する必要がなくなる。すなわち、遮音材と保持部材とは、嵌め合いの構造によって一体化させることができる。これにより、接着剤が接着時(溶着時)に熱の影響を受けてしまい、遮音材と保持部材との結合状態を維持することができなくなるという状況を回避することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、遮音材を保持部材で包み込み、さらにその保持部材を樹脂部材で包み込んでいるため、優れた遮音性を確保しながらも作業性がよく、かつ、製造も容易とすることがきる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態のエンジンアンダーカバーを備える自動車の側面図である。
【0041】
〔自動車〕
自動車10は、エンジン等の原動機の動力を利用して車輪を回転させて路上を走行する乗り物である。自動車10は、小型、中型又は大型のトラックであり、前方に配置された運転台(キャブ)12と、後方に配置された荷台14とを備えている。
【0042】
運転台12の下方には、エンジン20が配置されており、エンジン20の駆動力は、図示しない車軸を介して、前輪16又は後輪18に伝達される。
【0043】
また、エンジン20の下方には、自動車部品用カバーとしてのトラック用のエンジンアンダーカバー30が配置されており、エンジン20の下側の領域を全体的に覆っている。
エンジンアンダーカバー30の形状は、エンジン20の下面の形状に沿った形状となっている。
【0044】
次に、エンジンアンダーカバー30の積層構造について説明する。
図2は、エンジンアンダーカバー30の断面図である。なお、以下の図中における各部材の厚みや形状は、理解を容易にするために誇張して示してある。
【0045】
〔遮音材〕
エンジンアンダーカバー30の中心部分には、遮音材32が配置されている。
遮音材32は、所定の値(例えば2.0)以上の比重(例えば2.0〜11.5)を有する部材であり、例えば、金属板又は高密度樹脂シートである。金属板としては鉄の板金が挙げられ、高密度樹脂シートとしては複合プラスチック(例えば、PVC:PolyVinyl Chloride)のシートが挙げられる。
【0046】
また、遮音材32の厚みは0.4〜2.0mmであることが好ましく、より詳細には、金属板の厚みは0.4〜1.0mmであることが好ましく、高密度樹脂シートの厚みは0.8〜2.0mmであることが好ましい。
【0047】
〔保持部材〕
遮音材32の周りには、保持部材34が配置されている。
保持部材34は、規定の値以下の見かけ密度(例えば0.9g/cm
3以下であることが好ましく、0.01〜0.5g/cm
3であることがより好ましい)を有し、樹脂部材36と溶着(接着)が可能であり、遮音材32を包み込んで保持する。
【0048】
保持部材34は、例えば、発泡材、ガラスウール又は不織布である。発泡材としては、10倍〜30倍のEPP(Expanded PolyproPylene)が挙げられる。不織布としては、PET(PolyEthylene Terephthalate)やPP(PolyPropylene)を用いたものが挙げられる。
【0049】
また、保持部材34の厚みは、5.0〜20.0mmであることが好ましい。ここで、エンジンアンダーカバー30に耐熱性が要求される場合には、保持部材34にガラスウールやPETを用いた不織布(PET繊維)を適用することが望ましい。
【0050】
〔樹脂部材〕
保持部材34の周りには、樹脂部材36が配置されている。
樹脂部材36は、特定の値(例えば0.8)以上の比重(例えば0.8〜1.1)を有し、遮音材32を包み込んでいる保持部材34を包み込んでいる。樹脂部材36は、例えば、タルク、マイカ又はガラスファイバー等の無機フィラーを20〜30%程度含有させたPET又はPPである。無機フィラーを含有させることにより、樹脂部材36の比重を1.1以上とすることができ、これによって遮音性をより向上させることができる。また、樹脂部材36の厚みは、1.0〜2.5mmであることが好ましい。
【0051】
樹脂部材36は、保持部材34の一部を露出させる開口を有することもできる。樹脂部材36に開口を形成することにより、樹脂部材36の内側に配置された保持部材34の一部を外部に露出させることができるので、その開口位置を耐熱性が必要な部位(例えば、エンジンの中でもより高温になる部位)に合わせることにより、熱によって樹脂部材36が溶けてしまうことを回避することができる。
【0052】
〔成形装置〕
次に、エンジンアンダーカバー30の成形装置について説明する。
図3は、エンジンアンダーカバー30の成形装置を概略的に示す図である。
成形装置40は、2つの押出装置50と、押出装置50の下方に配置された型締装置70とを有する。
成形装置40は、押出装置50から押出された溶融状態のシート状樹脂Pを型締装置70に送り、型締装置70により溶融状態のシート状樹脂Pを成形する。
【0053】
〔押出装置〕
押出装置50は、左右に並べて2つ配置されており、二条のシート状樹脂Pを垂下させることができる。
【0054】
押出装置50は、ホッパー52が接続されたシリンダ54と、シリンダ54内に設けられた図示しないスクリューと、スクリューに連結された油圧モータ56と、シリンダ54と内部が連通したアキュムレータ58と、アキュムレータ58内に設けられたプランジャ60とを有する。
【0055】
ホッパー52には、樹脂部材36の原料となる樹脂ペレットが投入される。
ホッパー52から投入された樹脂ペレットは、シリンダ54内で油圧モータ56によるスクリューの回転により溶融して混練され、溶融状態の樹脂がアキュムレータ58の室内に移送されて一定量貯留され、プランジャ60の駆動によりTダイ62に向けて溶融された状態で送られる。
【0056】
そして、溶融された樹脂は、スリット状の押出口64を通じて連続的なシート状樹脂Pとして押し出され、所定の間隔を隔てて配置された一対のローラ66によって挟み込まれながら下方へ向かい、分割金型72の間に垂下される。
【0057】
Tダイ62に設けられる押出口64は、鉛直下向きに配置されているため、シート状樹脂Pは、押出口64から鉛直下向きに一対のローラ66に向かう。押出口64には、図示しない熱膨張式又は機械式の隙間調整装置が配置されている。そして、この隙間調整装置によってスリットの間隔を変更することにより、シート状樹脂Pの厚みを変更することができる。
【0058】
〔型締装置〕
型締装置70は、左右に並べて配置された2つの分割金型72と、分割金型72をシート状樹脂Pの供給方向に対して略直交する方向に移動させる図示しない金型駆動装置とを有する。
【0059】
2つの分割金型72は、互いのキャビティ74を対向させた状態で配置され、それぞれのキャビティ74の長手方向が、略鉛直方向を向く状態で配置されている。キャビティ74の形状は、シート状樹脂Pに基づいて成形されるエンジンアンダーカバー30の外形及び表面形状に応じた凹凸形状となっている。
【0060】
2つの分割金型72のキャビティ74の周りには、ピンチオフ部76が形成されている。ピンチオフ部76は、キャビティ74の周りに環状に形成され、対向する分割金型72に向かって突出している。これにより、2つの分割金型72を型締する際には、それぞれのピンチオフ部76の先端部が当接する。
【0061】
金型駆動装置は、2つの分割金型72を水平方向に駆動する装置であり、例えば開位置にあるときは、2つの分割金型72の間にシート状樹脂Pを配置することができ、閉位置にあるときは、2つの分割金型72のピンチオフ部76を当接させて2つの分割金型72の内部に密閉空間を形成することができる。
【0062】
また、分割金型72の内部には、図示しない真空吸引室が設けられている。真空吸引室は、吸引孔を介してキャビティ74に連通しており、真空吸引室から吸引孔を介して空気を吸引することにより、キャビティ74の内壁にシート状樹脂Pを吸着させることができる。なお、シート状樹脂Pは、最終的に樹脂部材36(
図2参照)となる。
【0063】
次に、
図4〜
図8を参照しながら、本実施形態によるエンジンアンダーカバー30の製造方法について説明する。
図4は、エンジンアンダーカバー30の製造方法について説明する工程図であり、
図5〜
図8は、エンジンアンダーカバー30の製造方法について説明する模式図である。
【0064】
本実施形態の製造方法では、一次成形(押出成形)において、二条のシート状樹脂Pを成形し、二条のシート状樹脂Pを垂下させる。
そして、二次成形(真空成形)において、下方に押し出された二条のシート状樹脂Pを用いて分割金型72の型締を通じて樹脂成形品を成形する。
【0065】
さらに、この二次成形にて、二条のシート状樹脂Pの内部に中空部を形成し、この中空部内に別途用意された遮音材32を包み込んだ保持部材34を配置して、遮音材32を包み込んだ保持部材34を二条のシート状樹脂により挟み込んだサンドイッチ成形品を製造する。本実施形態のエンジンアンダーカバー30の製造方法は、以下の各工程を実行することで進行する。
【0066】
〔準備工程:ステップS100〕
準備工程では、
図5中(A)に示すように、遮音材32に用いる材料を用意する。この準備工程(ステップS100)と、次の梱包工程(ステップS110)とは、上述した成形装置40を使用する前の前工程として実行される。
【0067】
〔梱包工程:ステップS110〕
梱包工程では、保持部材34で遮音材32を包み込む。
具体的には、まず、
図5中(B)に示すように、周囲に凹部35aを有し、かつ、中央に遮音材32を収納するための凹状の収納部35bを有する第1保持部材34aを用意して、収納部35bに遮音材32を嵌め込む。
【0068】
ついで、
図5中(C)に示すように、周囲に凸部35cを有し、かつ、中央に遮音材32を収納するための凹状の収納部35dを有する第2保持部材34bを用意する。
【0069】
最後に、
図5中(D)に示すように、第1保持部材34aの凹部35aと、第2保持部材34bの凸部35cとを嵌め合わせて、保持部材34で遮音材32を包み込む。なお、遮音材32は、保持部材34の収納部35b,35dに嵌め合わされて固定されているが、接着はされていない。これにより、遮音材32を包み込んだ保持部材34が完成する。
【0070】
〔垂下工程:ステップS120〕
垂下工程では、
図6中(E)に示すように、所定の間隔を隔てて配置された分割金型72の間に、二条の溶融状態のシート状樹脂Pを垂下させる。なお、この垂下工程からは、上述した成形装置40を用いた工程となる。
【0071】
具体的には、押出装置50の押出口64から押し出されたシート状樹脂Pは、一対のローラ66(
図3参照)の回転によって下方に送り出される。これにより、シート状樹脂Pは、2つの分割金型72の間に配置される。なお、シート状樹脂Pは、図示しない枠部材で保持してもよい。
【0072】
〔密着工程:ステップS130〕
密着工程では、
図6中(F)に示すように、図示しない金型駆動装置を動作させてシート状樹脂Pに分割金型72を密着させる。
具体的には、金型駆動装置を動作させて分割金型72のピンチオフ部76をシート状樹脂Pに当接させる。これにより、シート状樹脂Pと、キャビティ74と、ピンチオフ部76とによって密閉空間が形成される。
【0073】
〔吸引工程:ステップS140〕
吸引工程では、
図6中(G)に示すように、図示しない真空吸引室から吸引孔を介して空気を吸引することにより、分割金型72の内壁にシート状樹脂Pを密着させる。
これにより、それぞれの分割金型72を通じて密閉空間内が吸引され、対応するシート状樹脂Pがキャビティ74に対して押圧され、シート状樹脂Pがキャビティ74の内壁に沿った形状に成形される。
【0074】
〔挿入工程:ステップS150〕
挿入工程では、
図7中(H)に示すように、図示しないマニピュレータの吸着盤80によって保持された保持部材34を、2つの分割金型72の間に側方より挿入する。この保持部材34は、先の梱包工程(ステップS110)にて製造された保持部材34であり、保持部材34は遮音材32を包み込んでいる。
【0075】
〔押付工程:ステップS160〕
押付工程では、
図7中(I)に示すように、マニピュレータを右側の分割金型72に向かって水平方向に移動させることにより、右側の分割金型72のキャビティ74に吸着されたシート状樹脂Pに対して遮音材32を包み込んだ保持部材34を押し付ける。これにより、遮音材32を包み込んだ保持部材34と、シート状樹脂Pとが溶着する。なお、この押付工程は、保持部材34とシート状樹脂Pとを溶着させるという点からすると、溶着工程にも該当する。
【0076】
〔退避工程:ステップS170〕
退避工程では、
図7中(J)に示すように、吸着盤80による吸引を解除して、マニピュレータを左側の分割金型72に向かって水平方向に移動させる。
【0077】
〔引抜工程:ステップS180〕
引抜工程では、
図7中(K)に示すように、マニピュレータを2つの分割金型72の間から引き抜き、型締の準備を行う。
【0078】
〔溶着工程:ステップS190〕
溶着工程(接着工程)では、
図8中(L)に示すように、金型駆動装置により2つの分割金型72を互いに近づく向きに移動させて、型締する。これにより、一方のシート状樹脂P(図中右側)に溶着された保持部材34は、他方のシート状樹脂P(図中左側)に溶着されるとともに、シート状樹脂P同士の周縁が溶着される。なお、特に図示はしていないが、ピンチオフ部76同士が当接する部分には、シート状樹脂Pによるパーティングラインが形成される。
【0079】
〔抜取工程:ステップS200〕
抜取工程では、
図8中(M)に示すように、金型駆動装置により2つの分割金型72を互いに離れる向きに移動させて型開きし、完成品のエンジンアンダーカバー30を抜き取る。なお、特に図示はしていないが、その後にエンジンアンダーカバー30に形成されたバリ等を除去することにより、エンジンアンダーカバー30の製造が終了する。
【0080】
〔試験方法〕
図9は、エンジンアンダーカバーの遮音性についての試験方法を概略的に示す図である。
遮音性の試験では、まず、
図9中(A)に示すように、無響音室内に遮音ボックス90を設置する。
遮音ボックス90は、上部に開口を有する箱部材92と、箱部材92の内側に配置されたスポンジ等の吸音材94とを備える。
【0081】
ついで、
図9中(B)に示すように、遮音ボックス90の内部の底面にスピーカSを置き、箱部材92の開口を覆う位置に現行品サンプルを置き、現行品サンプルの表面から所定の高さX(例えば5〜10mm)の位置に集音マイクMを固定する。なお、現行品サンプルとは、
図2に示すエンジンアンダーカバー30を平らにして、遮音材32をなくしたものである。
【0082】
その後、現行品サンプルを撤去し、スピーカSから音を発生させ、音量を約90dB(デシベル)に設定する。
そして、箱部材92の開口を覆う位置にエンジンアンダーカバー30のサンプルを置き、音漏れがないように遮音ボックス90とエンジンアンダーカバー30のサンプルとの隙間を粘土等のシール材96で埋める。なお、エンジンアンダーカバー30のサンプルとは、
図2に示すエンジンアンダーカバー30を平らにしたものであり、材質や層構成等は同様である。
【0083】
そして、集音マイクMに接続された図示しない集音機本体を動作させ、スピーカSから発生する音の30秒平均での遮音性を測定する。
【0084】
このような試験方法により、以下の試験結果が得られた。
現行品サンプルを用いた場合の音の大きさは、66.0〜68.4dBであったため、遮音率は、23.6〜26.3%であることが分かった。
【0085】
一方、エンジンアンダーカバー30のサンプルを用いた場合の音の大きさは、51.2〜56.6dBであったため、遮音率は、36.8〜42.8%であることが分かった。なお、試験結果の数値の範囲に幅があるのは、遮音材32の厚みや使用する材質を変更して試験したためである。
【0086】
したがって、エンジンアンダーカバー30の中心部分に遮音材32を挿入すると、遮音材32を挿入していない現行品と比較して、遮音性が向上することが分かった。
【0087】
このように、本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)遮音材32は、所定の値以上の比重を有するため、空気層による遮音等と比較して、十分な遮音性を確保することができる。
【0088】
(2)遮音材32、保持部材34及び樹脂部材36は、それぞれが遮音性を発揮することができ、3つの部材にて相乗的に遮音性を向上させることができる。
【0089】
(3)エンジンアンダーカバー30の最外層は、樹脂部材36となっているため、遮音材32がむき出しになっている状態と比較して、エンジンアンダーカバー30が持ち運びやすくなり、自動車組み立てラインの作業員の作業性を向上させることができる。
【0090】
(4)遮音材32は、保持部材34に包み込まれているため、遮音材32が樹脂部材36と溶着することができなくても、保持部材34を介して遮音材32と樹脂部材36とを一体化させることができる。このため、遮音材32の選定に際して樹脂部材36との溶着性を考慮する必要がなくなり、遮音性の要求度合いに応じた任意の遮音材32を選択して使用することができる。
【0091】
(5)保持部材34と樹脂部材36とは、予め溶着可能な組み合わせとしているため、保持部材34と樹脂部材36とは確実に溶着される。このため、保持部材34が樹脂部材36の内部でしっかりと位置決めされ、溶着後に樹脂部材36の内部で保持部材34の位置がずれてしまうということがなくなる。
【0092】
(6)遮音材32は、金属板又は高密度樹脂シートであるため、一般的な樹脂材料と比較して、比重の値を高く設定することができる。そして、遮音材32の比重の値を高く設定することにより、遮音材32の遮音性が高まり、結果としてエンジンアンダーカバー30全体としての遮音性も向上させることができる。
【0093】
(7)保持部材34は、発泡材、ガラスウール又は不織布であるため、保持部材34の表面に比較的大きな凹凸が存在していることになる。このため、保持部材34の表面に対して溶融状態のシート状樹脂Pが入り込みやすく(密着しやすく)、保持部材34と樹脂部材36との密着性を向上させることができる。
【0094】
(8)樹脂部材36には、タルク、マイカ、ガラスファイバー等の無機フィラーといった、一般的な樹脂に比べて密度が高い(比重が大きい)ものを含有させているため、樹脂部材36の比重も大きくなり、樹脂部材36の遮音性を向上させることができる。
【0095】
(9)本実施形態では、エンジンアンダーカバー30をトラック用のものとしているため、エンジン音の遮音性がより一層要求されるトラックに好適に用いることができ、トラックのエンジン音が車外に聞こえてしまうという現象を低減させることができる。
【0096】
(10)本実施形態の製造方法によれば、遮音材32を包み込んだ保持部材34を用意してそれを溶融状態のシート状樹脂Pの間に配置するだけの簡単な工程で、複雑な構成のエンジンアンダーカバー30を容易に製造することができる。
【0097】
(11)本実施形態の製造方法によれば、2つの保持部材34a,34bの収納部35b,35dに遮音材32を嵌め込むことによって、保持部材34で遮音材32を包み込んでいるため、遮音材32と保持部材34とを接着する必要がなくなる。これにより、接着剤が溶着時に熱の影響を受けてしまい、遮音材32と保持部材34との結合状態を維持することができなくなるという状況を回避することができる。
【0098】
〔変形形態〕
本発明は、上述した一実施形態に制約されることなく、各種の変形や置換を伴って実施することができる。
自動車部品用カバーは、エンジンアンダーカバーに適用する例で説明したが、例えばトランスミッションアンダーカバー等のその他の自動車部品のカバーにも、遮音カバーとして用いることができる。
【0099】
自動車部品用カバーは、エンジンの下方に配置する例で説明したが、エンジンの上方や側方に配置してもよい。
【0100】
自動車部品用カバーは、トラックに適用する例で説明したが、トラック以外の大型車や、バス、小型の乗用車等にも広く適用することもできる。
【0101】
上述した実施形態では、成形装置40によってエンジンアンダーカバー30を製造する例で説明したが、エンジンアンダーカバー30の製造方法はこれに限定されるものではなく、その他の製造装置や成形装置を用いてエンジンアンダーカバー30を製造してもよい。
【0102】
上述した実施形態で説明したエンジンアンダーカバー30の構成や原料は、いずれも好ましい例示であり、これらを適宜変形して実施することができる。