特許第6287197号(P6287197)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6287197ドリル用インサートおよび刃先交換式ドリル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287197
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ドリル用インサートおよび刃先交換式ドリル
(51)【国際特許分類】
   B23B 51/00 20060101AFI20180226BHJP
【FI】
   B23B51/00 T
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-270205(P2013-270205)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-123552(P2015-123552A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100129403
【弁理士】
【氏名又は名称】増井 裕士
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 隆広
(72)【発明者】
【氏名】林崎 弘章
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−171040(JP,A)
【文献】 特開2009−178787(JP,A)
【文献】 米国特許第05771763(US,A)
【文献】 特表2012−525987(JP,A)
【文献】 特開平10−315023(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00−51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線回りに回転させられるドリル本体の先端部に着脱可能に取り付けられるドリル用インサートであって、
多角形板状のインサート本体の多角形面がすくい面とされているとともに、このすくい面の周りに配置される上記インサート本体の側面が逃げ面とされていて、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されており、
この切刃には、少なくとも該切刃の両端部のうち一方の端部に連なる第1の切刃部に、上記逃げ面から上記すくい面に向かうに従って漸次隆起するホーニング面が形成されていて、
このホーニング面は、上記すくい面に連なる第1の凸曲面部と、上記逃げ面に連なる第2の凸曲面部とを備えており、
上記切刃に直交する断面において、上記第1の凸曲面部の曲率半径が上記第2の凸曲面部の曲率半径よりも大きくされているとともに、
上記切刃の両端部のうち他方の端部に連なる第2の切刃部には、上記逃げ面側からすくい面に向かうに従って漸次後退するランドが形成されていることを特徴とするドリル用インサート。
【請求項2】
上記第1の切刃部は、上記切刃の長さの1/2以上の長さとされていることを特徴とする請求項1に記載のドリル用インサート。
【請求項3】
上記すくい面には、上記ホーニング面に連なる底面を有するブレーカ溝が形成されており、このブレーカ溝の上記底面は、上記ホーニング面から離間するに従って漸次後退するように傾斜していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドリル用インサート。
【請求項4】
上記第2の切刃部には、上記逃げ面と上記ランドとの間に第3の凸曲面部が形成されており、上記切刃に直交する断面において、上記第3の凸曲面部の曲率半径は、上記ホーニング面における上記第1の凸曲面部の曲率半径よりも小さくされていることを特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載のドリル用インサート。
【請求項5】
軸線回りに回転させられるドリル本体の先端部に、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のドリル用インサートが、上記切刃を上記ドリル本体の先端に突出させるとともに、上記ドリル本体の回転方向から見て、上記切刃の上記一方の端部を上記軸線近傍に位置させるとともに、該切刃の両端部のうち他方の端部を上記ドリル本体の外周側に位置させ、上記第1の切刃部を上記軸線と交差させて着脱可能に取り付けられていることを特徴とする刃先交換式ドリル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刃先交換式ドリルのドリル本体先端部に着脱可能に取り付けられるドリル用インサート、および該ドリル用インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式ドリルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
このようなドリル用インサートおよび刃先交換式ドリルとして、特許文献1には、多角形平板状のインサート本体の多角形をなすすくい面の1つの頂部に連なる一対の辺稜部に切刃が形成され、これらの切刃のうち一方に連なるすくい面上には内周側チップブレーカが突設されるとともに、他方にはすくい面から陥没した外周側チップブレーカが形成されたドリル用インサートが提案されている。
【0003】
この特許文献1に記載されたドリル用インサートは、同形同大のものがドリル本体先端部の内周側と外周側とに取り付けられて、内周側のドリル用インサートでは内周側チップブレーカが形成された切刃が穴明け加工に使用され、外周側のドリル用インサートでは外周側チップブレーカが形成された切刃が穴明け加工に使用される。
【0004】
また、特許文献2にも、ドリル本体先端部の内周側と外周側とに取り付けられるドリル用インサートのうち内周側に取り付けられる中央インサートとして、正方形の中央インサートの作動縁(切刃)のすくい角が、内外周のドリル用インサートの重なり領域においてドリルの回転軸線におけるよりも大きくなっているものが提案されている。この特許文献2に記載のドリル用インサートでは、回転軸線上において切刃に面取り縁(ネガランド)が形成され、その角度は約15°の負の角度とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3022002号公報
【特許文献2】特許第4394180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような刃先交換式ドリルでは、例えば特許文献2にも記載されているように、ドリル本体の外周から内周側に向かうに従いドリル本体の回転による周速が小さくなり、ドリル本体の回転軸線上において周速および切削速度は0となる。このため、ドリル本体の内周側に取り付けられるドリル用インサートでは、特に回転軸線近傍において切刃が被削材を押し潰しながら切削を行うような形態となり、切削負荷や切削抵抗が大きくなってしまう。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載されたドリル用インサートでは、内周側ドリル用インサートとして切削に使用されるときに回転軸線近傍に配置される一方の切刃と上記内周側チップブレーカとの間には平坦なすくい面が形成されているだけである。このため、切刃の強度が不十分となり、このような大きな切削負荷や切削抵抗に対する十分な耐欠損性を確保することは困難となる。
【0008】
一方、特許文献2に記載されたドリル用インサートおよび刃先交換式ドリルでは、ドリル本体の回転軸線上においては、切刃に負の角度のネガランドが形成されていて切刃の強度をある程度は確保することはできるものの、回転軸線から僅かに離れたドリル本体の内周側では、すくい面にブレーカ溝が形成されてすくい角は5°〜20°の範囲の正の角度となっているため、特許文献1に記載されたドリル用インサートにも増して、耐欠損性を確保することは困難となる。
【0009】
さらに、穴明け加工を施す被削材がステンレス鋼などの場合には、特に上述のように切刃が被削材を押し潰しながら切削を行うような形態となるドリル本体の回転軸線近傍で、切削抵抗の増大に伴う切削熱の上昇によって切刃の刃先に切屑や切粉の溶着が生じ易く、このような溶着に起因して溶着物が剥離した際に切刃が欠損してしまうことがある。とりわけ、特許文献2に記載されたドリル用インサートのように、ドリル本体の回転軸線上において切刃にネガランドが形成されていると、切刃強度は確保できても切削抵抗が増大して切削熱が上昇するため、溶着に起因した欠損が発生し易くなってしまう。
【0010】
本発明は、このような背景の下になされたもので、特にドリル本体先端部の内周側に取り付けられるドリル用インサートとして、切削負荷や切削抵抗に対する十分な耐欠損性を確保することができるとともに、溶着に起因する欠損も防ぐことが可能なドリル用インサート、およびこのようなドリル用インサートを着脱可能に取り付けた刃先交換式ドリルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明のドリル用インサートは、軸線回りに回転させられるドリル本体の先端部に着脱可能に取り付けられるドリル用インサートであって、多角形板状のインサート本体の多角形面がすくい面とされているとともに、このすくい面の周りに配置される上記インサート本体の側面が逃げ面とされていて、これらすくい面と逃げ面との交差稜線部に切刃が形成されており、この切刃には、少なくとも該切刃の両端部のうち一方の端部に連なる第1の切刃部に、上記逃げ面から上記すくい面に向かうに従って漸次隆起するホーニング面が形成されていて、このホーニング面は、上記すくい面に連なる第1の凸曲面部と、上記逃げ面に連なる第2の凸曲面部とを備えており、上記切刃に直交する断面において、上記第1の凸曲面部の曲率半径が上記第2の凸曲面部の曲率半径よりも大きくされているとともに、上記切刃の両端部のうち他方の端部に連なる第2の切刃部には、上記逃げ面側からすくい面に向かうに従って漸次後退するランドが形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の刃先交換式ドリルは、軸線回りに回転させられるドリル本体の先端部にこのように構成されたドリル用インサートが、上記切刃を上記ドリル本体の先端に突出させるとともに、上記ドリル本体の回転方向から見て、上記切刃の上記一方の端部を上記軸線近傍に位置させるとともに、該切刃の両端部のうち他方の端部を上記ドリル本体の外周側に位置させ、上記第1の切刃部を上記軸線と交差させて着脱可能に取り付けられていることを特徴とする。
【0013】
従って、このようにドリル本体に取り付けられた上記構成のドリル用インサートにおいては、上記切刃のうち逃げ面からすくい面に向かうに従って漸次隆起するネガティブ状のホーニング面が形成された第1の切刃部がドリル本体内周側の軸線近傍に位置させられることになる。このため、第1の切刃部の刃物角を大きくすることができるとともに、このホーニング面は、すくい面に連なる第1の凸曲面部と、上記逃げ面に連なる第2の凸曲面部とを備えているので、実質的に切刃のエッジとして作用するホーニング面と逃げ面との交差稜線部における切刃強度を第2の凸曲面部によって確保することができ、切削負荷や切削抵抗に対して十分な耐欠損性を得ることができる。
【0014】
その一方で、ホーニング面のすくい面側には、第2の凸曲面部よりも曲率半径が大きくて緩やかな弧を描く第1の凸曲面部が形成されており、切屑や切粉が擦過する際の抵抗を低減することができる。このため、被削材がステンレス鋼などであっても、ドリル本体内周側に位置する第1の切刃部において切削熱が上昇して溶着が発生するのを抑制することができ、このような溶着に伴う切刃の欠損も防止することができる。
【0015】
ここで、上記第1の切刃部は、上記切刃の長さの1/2以上の長さとすることにより、ドリル本体に取り付けたときに軸線近傍の切削負荷や切削抵抗が大きくなる部分において確実に耐欠損性を確保することが可能となる。すなわち、第1、第2の凸曲面部を備えたホーニング面が形成された第1の切刃部の長さが切刃の長さの1/2未満であると、作用する切削負荷や切削抵抗によっては、この第1の切刃部よりも切刃の他方の端部側で耐欠損性を確実に確保することができなくなるおそれがある。
【0016】
また、上記すくい面に、上記ホーニング面に連なる底面を有するブレーカ溝を形成し、このブレーカ溝の上記底面を、上記ホーニング面から離間するに従って漸次後退するように傾斜して形成することにより、ネガティブ状に隆起したホーニング面によって必要以上に切削抵抗が増大しすぎるのを避けることができる。
【0017】
さらに、本発明のドリル用インサートでは、上記切刃の両端部のうち他方の端部に連なる第2の切刃部には、上記逃げ面側からすくい面に向かうに従って漸次後退するランドが形成されている。これにより、ドリル本体の先端に突出させられる切刃のうち切削速度が速くなるドリル本体外周側において、切刃の切れ味を鋭くして切削抵抗の一層の低減を図ることが可能となる。
【0018】
ただし、このようにランドを備えた第2の切刃部を切刃の他方の端部側に設ける場合でも、特にステンレス鋼のような被削材に穴明け加工を行う場合には、上記第2の切刃部の上記逃げ面と上記ランドとの間に第3の凸曲面部を形成して切刃の強度を確保することが望ましい。そして、切刃に直交する断面において、この第3の凸曲面部の曲率半径を、上記第1の凸曲面部の曲率半径よりも小さくすることにより、第2の切刃部においても十分な耐欠損性を確保しつつ、必要以上に切削抵抗が増大するのは防ぐことができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、ドリル本体の軸線近傍において切刃に作用する切削負荷や切削抵抗に対して十分な耐欠損性を確保することができるとともに、ステンレス鋼のような被削材に穴明け加工を行う場合に、溶着に起因する欠損も防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のドリル用インサートの第1の実施形態を示す斜視図である。
図2図1に示す実施形態の平面図である。
図3図1に示す実施形態の側面図である。
図4図2におけるXX断面図である。
図5図2におけるYY断面図である。
図6図2におけるZZ断面図である。
図7図4における下側の切刃(第1の切刃部)の拡大断面図である。
図8図6における下側の切刃(第2の切刃部)の拡大断面図である。
図9図1ないし図8に示した実施形態のドリル用インサートを取り付けた本発明の刃先交換式ドリルの一実施形態を示すドリル本体先端部の平面図である。
図10図9に示す刃先交換式ドリルの正面図である。
図11図9に示す刃先交換式ドリルの側面図である。
図12図9に示す刃先交換式ドリルの底面図である。
図13】本発明のドリル用インサートの第1の実施形態に対する参考例を示す斜視図である。
図14図13に示す参考例の平面図である。
図15図13に示す参考例の側面図である。
図16図14におけるXX断面図である。
図17図14におけるYY断面図である。
図18図14におけるZZ断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1ないし図8は、本発明のドリル用インサートの第1の実施形態を示すものであり、図9ないし図12はこの第1の実施形態のドリル用インサートを取り付けた本発明の刃先交換式ドリルの一実施形態を示すものである。本実施形態のドリル用インサートは、そのインサート本体1が、超硬合金等の硬質材料によって多角形板状に形成されていて、具体的に本実施形態では概略正方形板状に形成されている。
【0022】
このインサート本体1の一方の正方形面はすくい面2とされているとともに、このすくい面2の周りに配置される4つの側面は逃げ面3とされていて、これらすくい面2と4つの逃げ面3との交差稜線部には切刃4がそれぞれ形成されている。また、インサート本体1の他方の正方形面は着座面5とされていて、すくい面2の中央から着座面5の中央にかけては、インサート本体1を貫通する取付穴6が形成されている。インサート本体1は、この取付穴6の中心を通るインサート中心線C回りに90°ずつ回転対称な形状とされており、着座面5はこのインサート中心線Cに垂直な平坦面とされている。
【0023】
なお、逃げ面3は上記インサート中心線C方向に切刃4から着座面5に向かうに従い、インサート本体1の内側に漸次後退するように傾斜していて、切刃4に一定の逃げ角が付されており、本実施形態のドリル用インサートはポジティブタイプのインサートとされている。また、逃げ面3は切刃4から着座面5に向けて複数の段差をなしてインサート本体1の内側に後退するように傾斜している。
【0024】
すくい面2の中央における上記取付穴6の周辺には、インサート中心線Cに垂直な平面状のボス面7が形成されており、このボス面7がすくい面2上においてインサート中心線C方向に最も突出した位置とされている。さらに、このボス面7の周りには、すくい面2の内側に向かうに従いインサート中心線C方向に漸次後退するように傾斜して凹んだ後に凹曲面を介して隆起するように切れ上がる底面8Aを有するブレーカ溝8が、すくい面2の全周に亙って形成されている。
【0025】
一方、切刃4は、インサート本体1が後述するドリル本体11の先端部に取り付けられたときに、4つの切刃4のうちの1つがドリル本体11の先端に突出してドリル本体11内周側の軸線O近傍から外周側に延びるように配置され、この切刃4の上記軸線O近傍に位置する端部が一方の端部Aとされているとともに、ドリル本体11の外周側に位置する端部が他方の端部Bとされている。さらに、切刃4は、上記一方の端部Aに連なる部分が第1の切刃部4Aとされているとともに、他方の端部Bに連なる部分が第2の切刃部4Bとされており、インサート中心線C方向にすくい面2に対向する方向から見て、第1の切刃部4Aは直線状に延びている一方、第2の切刃部4Bは曲率半径の大きな凸曲線状または直線状、あるいはそれらを組み合わせた形状をなしている。
【0026】
そして、このうち第1の切刃部4Aにおいては、切刃4に丸ホーニングが施されてホーニング面9が形成されており、このホーニング面9は逃げ面3からすくい面2に向かうに従って、インサート中心線C方向に漸次隆起するように形成されている。さらに、このホーニング面9は、すくい面2に連なる第1の凸曲面部9Aと、逃げ面3に連なる第2の凸曲面部9Bとを備えており、切刃4に直交する断面においては図7に示すように、第1の凸曲面部9Aの曲率半径R1が第2の凸曲面部9Bの曲率半径R2よりも大きくなるように形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態では、第1、第2の凸曲面部9A、9Bは、それぞれ一定の上記曲率半径R1、R2の断面円弧状に形成されており、ホーニング面9は、これら第1、第2の凸曲面部9A、9Bによって形成されている。すなわち、図7に示すように第1の凸曲面部9Aは、ホーニング面9から離間してすくい面2の内側に向かうに従いインサート中心線C方向に漸次後退傾斜するブレーカ溝8の上記底面8Aに接するとともに、第2の凸曲面部9Bは逃げ面3に接し、さらにこれら第1、第2の凸曲面部9A、9B同士も互いに接するように形成されている。また、切刃4に直交する断面における第1、第2の凸曲面部9A、9Bの円弧に沿った長さも、第1の凸曲面部9Aの長さが第2の凸曲面部9Bの長さよりも長くなるように形成されている。
【0028】
さらに、第2の切刃部4Bにおいては、図8に示すように逃げ面3側からすくい面2に向かうに従って上記インサート中心線C方向に漸次後退するランド(ポジランド)10が形成されて、ブレーカ溝8の底面8Aに平角に近い鈍角で交差している。また、このランド10と逃げ面3との間には第3の凸曲面部9Cが形成されていて、この第3の凸曲面部9Cも切刃4に直交する断面において一定の曲率半径R3の円弧状をなしており、ただしこの第3の凸曲面部9Cの曲率半径R3は、第1の凸曲面部9Aの曲率半径R1よりも小さく設定されている。
【0029】
また、第1の切刃部4Aと第2の切刃部4Bとは、インサート中心線C方向にすくい面2に対向する方向から見て、これらがともに直線状である場合には僅かに鈍角に折れ曲がるようにして交差し、第2の切刃部4Bが凸曲線状である場合には、同様に鈍角に折れ曲がって交差するか、あるいは第1の切刃部4Aと接するように形成されている。一方の端部Aからこの第1、第2の切刃部4A、4Bの交点または接点までの長さは、該交点または接点から他方の端部Bまでの長さよりも長く、すなわち第1の切刃部4Aは切刃4の長さの1/2以上の長さとされている。なお、これら第1、第2の凸曲面部9A、9Bが交差する部分には、第1の切刃部4Aのホーニング面9から第2の切刃部4Bのランド10および第3の凸曲面部9Cに向けて切刃4の断面形状が連続的に変化する遷移領域が形成されていてもよい。
【0030】
さらに、すくい面2がなす正方形面(多角形面)の各角部には、すくい面2に対向する方向から見て1/4円弧等の凸曲線をなすコーナ刃4Cが、隣接する2つの切刃4の両端部A、Bにおいて第1、第2の切刃部4A、4Bに接するように形成されている。また、第1の切刃部4Aのホーニング面9は第2の切刃部4Bのランド10よりも幅広に形成され、ブレーカ溝8の溝幅は切刃4の一方の端部Aから他方の端部Bに向かうに従い漸次広くなるように形成されている。
【0031】
このような第1の実施形態のドリル用インサートが着脱可能に取り付けられる本発明の一実施形態の刃先交換式ドリルでは、そのドリル本体11が鋼材等の金属材料により形成されて、ドリル本体11の先端部は軸線Oを中心とした外形円柱状をなしている。このような刃先交換式ドリルは、図示されない後端部がシャンク部とされて工作機械の主軸に把持され、軸線O回りにドリル回転方向Tに回転させられつつ該軸線O方向先端側(図9図11図12において下側)に送り出されて、ドリル本体11先端部に取り付けられたドリル用インサートによりステンレス鋼等の被削材に穴明け加工を行う。
【0032】
ドリル本体11の先端部外周には、本実施形態では一対の切屑排出溝12A、12Bが周方向に間隔をあけて互いに反対側に、それぞれ後端側に向かうに従い軸線O回りにドリル回転方向Tの後方側に僅かに捩れるように形成されている。このうち、一方の切屑排出溝(図10において右上側の切屑排出溝)12Aのドリル回転方向Tを向く壁面の先端内周部には、ドリル本体11の先端面に開口する内周側インサート取付座13Aが、また他方の切屑排出溝(図10において左下側の切屑排出溝)12Bのドリル回転方向Tを向く壁面の先端外周部には、ドリル本体11の先端面と外周面に開口する外周側インサート取付座13Bがそれぞれ形成されている。
【0033】
これら内外周側インサート取付座13A、13Bのドリル回転方向Tを向く底面にはネジ穴13Cが形成されており、上記第1の実施形態のドリル用インサートは、すくい面2をドリル回転方向Tに向けるとともに、上述のように4つの切刃4のうちの1つをドリル本体11の先端に突出させて内周側インサート取付座13Aに着座させられ、取付穴6に挿通されたクランプネジ14がネジ穴13Cにねじ込まれることによって着脱可能に取り付けられる。
【0034】
そして、こうして取り付けられた第1の実施形態のドリル用インサートにおいては、すくい面2に対向するドリル回転方向Tから見て図9に示すように、ドリル本体11先端に突出した切刃4のうち、上記一方の端部Aが上記軸線O近傍に位置させられるとともに、他方の端部Bがドリル本体11の外周側に位置させられ、上記第1の切刃部4Aが軸線Oと交差して軸線O近傍に配設されている。なお、このドリル本体11の先端に突出した切刃4は、その他方の端部Bが最も軸線O方向先端側に位置して、一方の端部Aに向かうに従い軸線O方向後端側に向けて緩やかに傾斜するように配設されている。また、第1の切刃部4Aは第2の切刃部4Bとの交点からドリル本体11内周側に軸線Oを越えて延びており、すなわち一方の端部Aは上記交点に対して軸線Oの反対側に位置している。
【0035】
一方、外周側インサート取付座13Bには、外周ドリル用インサートがやはりクランプネジ14によって着脱可能に取り付けられている。この外周ドリル用インサートは、第1の実施形態のドリル用インサートと同様にそのインサート本体15が超硬合金等の硬質材料により正方形板状に形成されたものであるものの、第1の実施形態とは異なるドリル用インサートであって、本実施形態では第1の実施形態のようなホーニング面9を有する第1の切刃部4Aを備えておらず、そのドリル回転方向Tに向けられるすくい面には図12に示すように切刃16に沿ってチップブレーカ17が形成されている。
【0036】
このような外周ドリル用インサートは、その1つの切刃16をドリル本体11の先端に突出させて、この1つの切刃16が図9に示すように第1の実施形態のドリル用インサートの突出した切刃4に対して僅かに後端側に位置して軸線O回りの回転軌跡が互いに重なり合うように取り付けられる。また、こうして取り付けられた外周ドリル用インサートの上記1つの切刃16の外周端は、ドリル本体11の先端部の外周よりも僅かに外周側に突出させられている。
【0037】
従って、このように構成された本発明の一実施形態の刃先交換式ドリルでは、図9に示したように被削材に穴明け加工される加工穴の内周部を第1の実施形態のドリル用インサートにより、また外周部は外周ドリル用インサートにより切削加工する。このため、内周側の第1の実施形態のドリル用インサートのドリル本体11先端に突出した切刃4では、特に軸線Oと交差する該軸線O側の第1の切刃部4Aにおいて周速および切削速度が0に近くなって切削負荷や切削抵抗が増大するが、この第1の切刃部4Aには、すくい面2に連なる第1の凸曲面部9Aと逃げ面3に連なる第2の凸曲面部9Bとを備えて逃げ面3からすくい面2に向かうに従い漸次隆起するホーニング面9が形成されているので、このような切削負荷や切削抵抗に対して十分な耐欠損性を確保することができる。
【0038】
すなわち、このホーニング面9は逃げ面3からすくい面2に向かうに従ってインサート中心線C方向に漸次隆起しているので、まず第1の切刃部4Aの実質的に切刃エッジとして作用するホーニング面9と逃げ面3との刃物角を大きくすることができる。そして、この第1の切刃部4Aのホーニング面9と逃げ面3との交差稜線部には、逃げ面3に連なる第2の凸曲面部9Bが形成されているので、これらによって切刃強度を確保して切削負荷や切削抵抗に対する十分な耐欠損性を得ることができる。
【0039】
また、このホーニング面9のすくい面2側には、該すくい面2に連なる第1の凸曲面部9Aが形成されており、この第1の凸曲面部9Aの曲率半径R1は、第2の凸曲面部9Bの曲率半径R2よりも大きくされている。このため、第1の凸曲面部9Aは切刃4に直交する断面において第2の凸曲面部9Bよりも緩やかな弧を描くことになるので、切屑や切粉がホーニング面9を擦過する際の摩擦抵抗を低減して摩擦による切削熱の上昇を抑えることができ、被削材がステンレス鋼であっても溶着が発生するのを抑制して、このような溶着に伴う切刃4の欠損も防ぐことができる。
【0040】
さらに、上記第1の実施形態のドリル用インサートでは、この第1の切刃部4Aが、ドリル本体11先端に突出する切刃4の長さの1/2以上の長さとされているので、ドリル本体11先端部の内周側に取り付けたときに十分な長さの第1の切刃部4Aを軸線O近傍に配設することができ、一層確実に耐欠損性の確保を図ることができる。すなわち、第1の切刃部4Aの長さが1つの切刃4の全長の1/2未満であると、過大な切削負荷や切削抵抗が作用したときには、第1の切刃部4Aよりも切刃4の他方の端部B側で耐欠損性を確実に確保することができなくなるおそれがある。
【0041】
さらにまた、すくい面2には、ホーニング面9に連なる底面8Aを有するブレーカ溝8が形成されており、このブレーカ溝8の底面8Aは、ホーニング面9から離間するに従ってインサート中心線C方向に漸次後退するように傾斜しているので、耐欠損性を確保するために第1の切刃部4Aにインサート中心線C方向に漸次隆起するホーニング面9を形成しても、必要以上に切削抵抗が増大するのは避けることができる。なお、この底面8Aはホーニング面9側に上記曲率半径R1の凸曲面部を有して上述のように第1の凸曲面部9Aと接していてもよく、また第1の凸曲面部9Aと鈍角に交差していてもよい。
【0042】
一方、本実施形態では、こうして耐欠損性が確保された切刃4の一方の端部A側の第1の切刃部4Aに対して、ドリル本体11先端の外周側に配置される切刃4の他方の端部B側の第2の切刃部4Bにおいては、逃げ面3側からすくい面2に向かうに従ってインサート中心線C方向に漸次後退するように傾斜したランド10が形成されている。このため、ある程度の周速が生じて切削速度が確保される切刃4の外周側では切れ味を鋭くすることができ、軸線O近傍よりも多くの切屑が生成されるのに対して切削抵抗の一層の低減を図ることが可能となる。
【0043】
さらに、こうして第2の切刃部4Bにランド10を形成した場合でも、本実施形態ではこのランド10と逃げ面3との交差稜線部に第3の凸曲面部9Cが形成されており、この第2の切刃部4Bにおける切刃4の欠損も防止することができる。そして、この第3の凸曲面部9Cの曲率半径R3は、第1の切刃部4Aにおける第1の凸曲面部9Aの曲率半径R3よりも小さくされているので、このように第2の切刃部4Bにおける切刃4の欠損は防止しつつ、必要以上に切削抵抗が大きくなるのは抑えることができる。
【0044】
また、本実施形態の刃先交換式ドリルでは、この第1の実施形態のドリル用インサートの第2の切刃部4Bよりもさらにドリル本体11の外周側に位置して加工穴の外周部を切削する外周ドリル用インサートが、第1の実施形態のようなホーニング面9を有する第1の切刃部4Aを備えたものではなく、すくい面に切刃16に沿ってチップブレーカ17が形成されたものであるので、この外周ドリル用インサートにおいては、軸線Oから離れているために第1の実施形態のドリル用インサートよりも多く切屑が生成させられるのに対して、その確実な処理を図ることが可能となる。ただし、加工条件等によっては、外周側インサート取付座13Bにも第1の実施形態のドリル用インサートを取り付けるようにしてもよい。
【0045】
さらにまた図13ないし図18に示すのは、上述した本発明の第1の実施形態のドリル用インサートに対する参考例であり、この参考例のドリル用インサートでは、切刃4の全長が、すくい面2に連なる第1の凸曲面部9Aと逃げ面3に連なる第2の凸曲面部9Bとを備えて逃げ面3からすくい面2に向かうに従い漸次隆起するホーニング面9が形成された第1の切刃部4Aとされている。なお、この参考例において、第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を配してある。
【0046】
従って、このような参考例のドリル用インサートにおいては、切刃4の全長に亙って、その断面が図7に示した形状となる。なお、この参考例においては、第1、第2の凸曲面部9A、9Bの曲率半径R1、R2やホーニング面9の幅も切刃4の全長に亙って略一定とされている。
【0048】
さらにまた、加工穴の内径が小さくてドリル本体11の先端部の外径も小さく、軸線O近傍だけに大きな切削負荷や切削抵抗が作用するような場合には、ドリル本体11には内周側インサート取付座13Aだけが形成された1枚刃の刃先交換式ドリルの構成として、第1の実施形態のドリル用インサートを取り付けるようにしてもよい
【符号の説明】
【0049】
1 インサート本体
2 すくい面
3 逃げ面
4 切刃
4A 第1の切刃部
4B 第2の切刃部
4C コーナ刃
8 ブレーカ溝
8A ブレーカ溝8の底面
9 ホーニング面
9A 第1の凸曲面部
9B 第2の凸曲面部
9C 第3の凸曲面部
10 ランド
11 ドリル本体
13A、13B 内外周側インサート取付座
A 切刃4の一方の端部
B 切刃4の他方の端部
C インサート中心線
R1〜R3 第1〜第3の凸曲面部9A〜9Cの曲率半径
O ドリル本体11の軸線
T ドリル回転方向
図1
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