特許第6287225号(P6287225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タカタ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000002
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000003
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000004
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000005
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000006
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000007
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000008
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000009
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000010
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000011
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000012
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000013
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000014
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000015
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000016
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000017
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000018
  • 特許6287225-脚部用エアバッグ装置及び自動車 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287225
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】脚部用エアバッグ装置及び自動車
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/206 20110101AFI20180226BHJP
   B60R 21/2338 20110101ALI20180226BHJP
   B60R 21/2334 20110101ALI20180226BHJP
   B60R 21/237 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   B60R21/206
   B60R21/2338
   B60R21/2334
   B60R21/237
【請求項の数】12
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-2887(P2014-2887)
(22)【出願日】2014年1月10日
(65)【公開番号】特開2015-131524(P2015-131524A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】306009581
【氏名又は名称】タカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】安部 和宏
【審査官】 岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−126974(JP,A)
【文献】 特開2008−265660(JP,A)
【文献】 特開2012−096780(JP,A)
【文献】 特開2011−136682(JP,A)
【文献】 特表2008−521686(JP,A)
【文献】 特表2013−510032(JP,A)
【文献】 特開2003−205818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車乗員脚部の前方を含む領域に展開するエアバッグと、折り畳まれたエアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有する脚部用エアバッグ装置において、
該エアバッグは、乗員前方において膨張する本体部と、該本体部から車体幅方向の外方にのみ張り出す張出部を有しており、
該エアバッグが膨張した状態において、エアバッグの乗員中心線から前記張出部の車体幅方向外方端までの長さが車体幅方向内方端までの長さよりも大きく、
前記張出部と本体部とを区画する区画部が設けられており、該区画部の上部又は上下方向の中間部に、該張出部と本体部とを連通する連通部が設けられており、
インフレータからのガスが該本体部に供給され、次いで該本体部から該連通部を介して該張出部に流入し、
前記区画部は、前記エアバッグの乗員側のパネルと反乗員側のパネルとを逢着するシームであり、
前記シームは、エアバッグが膨張するときに断裂するテアシームであり、
前記テアシームの上部は、車体幅方向の内方に向って延在していることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項2】
自動車乗員脚部の前方を含む領域に展開するエアバッグと、折り畳まれたエアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有する脚部用エアバッグ装置において、
該エアバッグは、乗員前方において膨張する本体部と、該本体部から車体幅方向の外方にのみ張り出す張出部を有しており、
該エアバッグが膨張した状態において、エアバッグの乗員中心線から前記張出部の車体幅方向外方端までの長さが車体幅方向内方端までの長さよりも大きく、
前記張出部と本体部とを区画する区画部が設けられており、該区画部の上部又は上下方向の中間部に、該張出部と本体部とを連通する連通部が設けられており、
インフレータからのガスが該本体部に供給され、次いで該本体部から該連通部を介して該張出部に流入し、
前記区画部は、前記エアバッグの乗員側のパネルと反乗員側のパネルとを逢着するシームであり、
前記シームは、エアバッグが膨張するときに断裂するテアシームであり、
前記テアシームの上部は、車体幅方向の内方に向って延在し、次いで下方に向って延在していることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記張出部は前記本体部の少なくとも上部から車体幅方向の外方に張り出すことを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記エアバッグが膨張した状態において、エアバッグの乗員中心線から前記張出部の車体幅方向外方端までの長さが車体幅方向内方端までの長さよりも80〜170mm大きいことを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記エアバッグが膨張した状態において、前記張出部は、前記本体部よりも車体後方に突出することを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項6】
請求項において、前記エアバッグが膨張した状態において、前記張出部は前記本体部よりも80〜170mm車体後方に突出することを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項7】
請求項又はにおいて、前記エアバッグの乗員側に、前記張出部と本体部とを結ぶテザーが設けられており、該テザーにより、前記エアバッグが膨張した状態において、前記張出部が車体後方に突出するよう構成されていることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項8】
請求項又はにおいて、前記エアバッグの乗員側のパネルのうち前記張出部と本体部との境界部付近にタック部が設けられることにより前記張出部が車体後方に突出するよう構成されていることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記本体部内は、車体幅方向に延在するインナーテザーによって複数の室に区画されていることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれか1項において、前記エアバッグは、前記張出部が前記本体部の反乗員側に折られた後、折り畳まれていることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか1項において、前記インフレータが作動した場合、前記本体部が膨張完了した後、前記張出部が膨張完了するように構成されていることを特徴とする脚部用エアバッグ装置。
【請求項12】
請求項1ないし11のいずれか1項に記載の脚部用エアバッグ装置を備えた自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突時に乗員の脚部を拘束するための脚部用エアバッグ装置及びこの脚部用エアバッグ装置を備えた自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の正面衝突時等に乗員の脚部の前方にエアバッグを膨張させて拘束するための脚部用エアバッグ装置として、車両乗員脚部の前方に膨張するエアバッグと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを備えたものがある(特許文献1〜3)。
【0003】
特許文献1には、自動車の衝突時に乗員の脚部が開き出すことを防止するために、エアバッグの幅方向の両端側に、座席に向って突出した凸部を形成させることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、エアバッグの内部に該エアバッグの乗員側の基布とインストルメントパネル側の基布とを結合するテザーを設けた乗員脚部保護装置が記載されている。この乗員脚部保護装置にあっては、該テザーにより、エアバッグの膨張厚みが規制される。
【0005】
特許文献3には、ダッシュボードの下部から下方に向って膨らみ、次いでダッシュボードに沿って上方へ膨張するニーエアバッグが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−208653号公報
【特許文献2】特開2005−239054号公報
【特許文献3】特開2011−136682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車が斜め衝突もしくはオフセット衝突(スモールオーバーラップ斜突)した場合、乗員脚部は斜め前方に動こうとする。特許文献1〜3のエアバッグにおいて、左右幅を大きくすると、オフセット衝突時に斜め前方へ動こうとする脚部が拘束される。しかし、この場合、エアバッグの容積が著しく大きくなり、インフレータとして出力容量の大きいものを採用することが必要となる。
【0008】
本発明は、自動車が斜め衝突もしくはオフセット衝突した場合に斜め前方へ動こうとする乗員脚部を拘束することができると共に、出力の大きなインフレータを用いるまでもなくエアバッグが早期に膨張展開する脚部用エアバッグ装置と、この脚部用エアバッグ装置を備えた自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の脚部用エアバッグ装置は、自動車乗員脚部の前方を含む領域に展開するエアバッグと、折り畳まれたエアバッグを収容したリテーナと、該エアバッグを膨張させるためのインフレータとを有する脚部用エアバッグ装置において、該エアバッグは、乗員前方において膨張する本体部と、該本体部の少なくとも上部から車体幅方向の外方にのみ張り出す張出部を有しており、該エアバッグが膨張した状態において、エアバッグの乗員中心線から前記張出部の車体幅方向外方端までの長さが車体幅方向内方端までの長さよりも大きいことを特徴とする。
【0010】
前記張出部は、本体部の少なくとも上部から車体幅方向の外方に張り出すことが好ましい。張出部は、本体部の最上端を含む上部又は上部近傍から車体幅方向の外方に張り出してもよく、本体部の最上端を除く上部又は上部近傍から車体幅方向の外方に張り出してもよい。
【0011】
本発明では、前記エアバッグが膨張した状態において、エアバッグの乗員中心線から前記張出部の車体幅方向外方端までの長さが車体幅方向内方端までの長さよりも80〜170mm大きいことが好ましい。
【0012】
本発明では、前記エアバッグが膨張した状態において、前記張出部は、本体部よりも車体後方に突出することが好ましい。この場合、該張出部は該本体部よりも80〜170mm車体後方に突出することが好ましい。
【0013】
本発明の一態様では、前記エアバッグの乗員側において、前記張出部と本体部とを結ぶテザーが設けられており、該テザーにより、エアバッグ膨張時に前記張出部が車体後方に突出するよう構成されている。
【0014】
本発明の一態様では、前記エアバッグの乗員側のパネルのうち前記張出部と本体部との境界部付近にタック部が設けられることにより、エアバッグ膨張時に前記張出部が車体後方に突出するよう構成されている。
【0015】
本発明の一態様では、前記張出部と本体部とを区画する区画部が設けられており、該区画部の上部又は上下方向の中間部に、該張出部と本体部とを連通する連通部が設けられており、インフレータからのガスが該本体部に供給され、次いで該本体部から該連通部を介して該張出部に流入する。
【0016】
本発明の一態様では、前記区画部は、前記エアバッグの乗員側のパネルと反乗員側のパネルとを逢着するシームである。このシームは、エアバッグが膨張するときに断裂するテアシームであってもよい。
【0017】
本発明の一態様では、前記テアシームの上部は、車体幅方向の内方に向って延在している。
【0018】
本発明の一態様では、前記テアシームの上部は、車体幅方向の内方に向って延在し、次いで下方に向って延在している。
【0019】
本発明の一態様では、前記区画部はパネルよりなる。
【0020】
本発明の一態様では、前記エアバッグは、前記本体部を構成する主バッグと、前記張出部を構成する副バッグとを有し、該副バッグが該主バッグに縫着されている。
【0021】
本発明の一態様では、エアバッグの前記本体部内は、車体幅方向に延在するインナーテザーによって複数の室に区画されている。
【0022】
本発明の一態様では、前記エアバッグは、前記張出部が前記本体部の反乗員側に折られた後、折り畳まれている。
【0023】
本発明では、インフレータが作動した場合、本体部が膨張完了した後、張出部が膨張完了するよう構成されることが好ましい。
【0024】
本発明の自動車は、本発明の脚部用エアバッグ装置を備えたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の脚部用エアバッグ装置のエアバッグは、乗員脚部の前方を含む領域に展開する本体部と、この本体部の車体幅方向の外方側にのみ位置する張出部とを有する。この張出部により、自動車が斜め衝突もしくはオフセット衝突したときに斜め前方に動こうとする乗員脚部が拘束される。このエアバッグでは、張出部を本体部の車体幅方向の外方側にのみ設けたので、エアバッグの容積が過大とならない。従って、インフレータとして大きな出力のものを用いなくても、エアバッグが早期に膨張展開する。
【0026】
本発明の一態様では、エアバッグは、張出部が本体部よりも車体後方に突出するように膨張する。この後方に突出した張出部は、乗員脚部の斜め前方への動きを拘束する。
【0027】
本発明の一態様では、張出部と本体部とを区画する区画部が設けられ、この区画部の上部又は上下方向の中間部に本体部と張出部とを連通する連通部が設けられ、インフレータのガスが先に本体部に供給されるよう構成されている。この態様のエアバッグにあっては、インフレータからのガスが本体部を早期に膨張させ、それに引き続いて張出部を膨張させる。
【0028】
この区画部をテアシームで構成した場合、膨張したエアバッグ本体部のエアバッグ内圧が所定圧以上となったときにテアシームが断裂し、張出部が積極的に膨張する。このことで、張出部の膨張完了時間と本体部の膨張完了時間を調整することができる。また、脚部用エアバッグをスムーズに乗員の膝、脛とロアインパネとの間に膨張させることができる。
【0029】
この場合、テアシームの上部を車体幅方向の内方に向って延在させたり、さらに下方に向って延在させた場合、エアバッグ内圧が上昇したときにテアシームの上部に応力が集中し、テアシーム上部からテアシームの断裂が開始する。
【0030】
このエアバッグが、張出部を本体部の反乗員側に折った後、折り畳まれたものである場合、エアバッグが膨張展開するときに、張出部が乗員脚部と車両内装部材との間に割り込むようにして膨張展開するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施の形態に係る脚部用エアバッグ装置のエアバッグの正面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3】自動車のインストルメントパネルに沿って膨張展開したエアバッグの車体前後方向の縦断面図である。
図4】別の実施の形態に係るエアバッグの水平断面図である。
図5】別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。
図6図5のVI−VI線断面図である。
図7】(a)図は別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
図8図7のVIII−VIII線断面図である。
図9】別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。
図10】別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。
図11】別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。
図12】別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。
図13】(a)図は別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。(b)図及び(c)図はそれぞれ(a)図のB−B線断面図、C−C線断面図である。
図14】(a)図は別の実施の形態に係るエアバッグの正面図である。(b)図及び(c)図はそれぞれ(a)図のB−B線断面図、C−C線断面図である。(d)図は(b)図のD−D線断面図である。
図15】別の実施の形態に係るエアバッグの縦断面図である。
図16】別の実施の形態に係るエアバッグの縦断面図である。
図17図16のXVII−XVII線断面図である。
図18】別の実施の形態に係るエアバッグの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、前後及び左右方向は、脚部用エアバッグ装置を搭載した自動車の前後及び左右方向を表わす。以下の実施の形態の脚部用エアバッグ装置は、いずれも自動車の左座席の前方に設置されるものである。右座席の前方に設置される脚部用エアバッグ装置は、以下の脚部用エアバッグ装置と左右対称に構成される。
【0033】
図1〜3は第1の実施の形態を示している。図3の通り、座席3の前方のインストルメントパネル2に脚部用エアバッグ装置1が設置されている。
【0034】
この脚部用エアバッグ装置1は、車室面側が開放した容器状のリテーナ4と、このリテーナ4内に収納されたエアバッグ10と、このエアバッグ10を膨張させるためのインフレータ(ガス発生器)5等を備えている。
【0035】
該リテーナ4は、インストルメントパネル2の下部に設けられた開口2a内に配置されている。エアバッグ10は折り畳まれて該リテーナ4内に収納されている。該エアバッグ10の折り畳み体を覆うように該リテーナ4の前面にリッド6が装着されている。このリッド6は、平常時には該インストルメントパネル2と略面一となるように配置されており、エアバッグ10が膨張するときには、図3に示す通り、その前端側を支端として車両室内側に開き出す。
【0036】
該開口2aは、座席3の座面付近の高さよりも下位となる高さに設けられている。この実施の形態では、インストルメントパネル2の下向きの面に開口2aが設けられているが、それよりも乗員側に設けられてもよい。
【0037】
インフレータ5は、ボルト7及びナット8によってリテーナ4に取り付けられている。ボルト6は、インフレータ5から立設されたものでよく、インフレータ5を保持したホルダから立設されたものでもよい。インフレータ5はエアバッグ10内に配置されている。ボルト7は、エアバッグ10に設けられた小孔又はスリットと、リテーナ4のボルト挿通孔とに挿通され、ナット8が締め込まれる。これにより、インフレータ5がリテーナ4に固定されると共に、エアバッグ10もリテーナ4に連結される。
【0038】
エアバッグ10は、乗員前方に膨張展開する本体部11と、それよりも車体幅方向外方に張り出す張出部12とを有する。張出部12は、本体部11の上部から車体幅方向の外方に張り出している。張出部12の上面と本体部11の上面とは同一高さとなっている。ただし、後述の図7のように、張出部12の上面は本体部11の上面よりも若干低くなっていてもよい。
【0039】
エアバッグ10は、乗員対峙面側が第1パネル13にて構成され、反乗員面が第2パネル14にて構成されている。第1パネル13と第2パネル14の周縁部は縫合糸15によって縫合されている。
【0040】
本体部11の膨張厚みを規制するために、パネル13,14同士を繋ぐ複数のインナーテザー16が設けられている。インナーテザー16はそれぞれ左右方向に延在しており、各パネル13,14に対し縫合糸17によって縫合されている。インナーテザー16にはガス通過用の孔16aが複数個設けられている。
【0041】
インナーテザー16の右端と、エアバッグ10の右辺との間には間隙18があいている。
【0042】
エアバッグ10の上半部は左右幅が同等である。エアバッグ10の下半部は、下方ほど左右幅が小さくなっている。このエアバッグ10にあっては、本体部11の左右方向の中心線Cは、自動車座席3の左右方向の中心の前方に位置する。本体部11は、この中心線Cに対しほぼ左右対称の形状を有する。張出部12がこの本体部11から左方に張り出しているため、エアバッグ10の膨張完了状態において、中心線Cからエアバッグ10の上半部の左端までの長さWは、中心線Cから上半部右端までの長さWよりも大きい。WはWよりも80〜170mm特に100〜150mm大きいことが好ましい。
【0043】
この実施の形態にあっては、本体部11の乗員対峙面と張出部12の乗員対峙面とを結ぶアウターテザー19が設けられている。このアウターテザー19の右辺及び左辺はそれぞれ縫合糸20によって第1パネル13に対して縫合されている。アウターテザー19の左右の縫合糸20,20間の長さは、第1パネル13の左右の縫合糸20,20間の長さよりも短い。これにより、衝突時にインフレータ5が作動してエアバッグ10が膨張した場合、張出部12は縫合糸11よりも車体後方に突き出す。
【0044】
なお、この実施の形態では、図3に示す通り、エアバッグ10がインストルメントパネル2に沿って湾曲するように、第2パネル14にタック部21を形成している。このタック部21は、パネル14をつまんで縫合糸22によってタック部21の基端側を縫合することにより形成されている。タック部21は左右方向に延在している。図3では、タック部21は上下2箇所に設けられているが、1箇所又は3箇所以上でもよい。また、タック部21は省略されてもよい。
【0045】
このエアバッグ10を折り畳むには、エアバッグ10を平たい作業台上に平たく広げた状態とし、まず張出部12を本体部11の反乗員側に折る。この張出部12の本体部11側への折りは、反乗員側に1回だけ折り返すものであってもよく、複数回折り畳むロール折り又はZ折りであってもよい。このように張出部12が折り重なった本体部20を上側から下方に向ってロール折りしてロール状折り畳み体とする。このときのロール折りのロール方向は、自動車の左側面から見て反時計回り方向とする。その後、エアバッグ10の下部を蛇腹折りして横長の折り畳み体とし、この横長折り畳み体の左端側及び右端側を中央側に折ってリテーナ4内に納め込む。この左端側及び右端側の中央側への折りは、1回だけ中央側に折り返すものであってもよく、複数回折り畳むロール折り又はZ折りであってもよい。
【0046】
このように折り畳んだエアバッグ10の折り畳み体をリテーナ4内に収容した後、リッド6をリテーナ4に取り付けることにより、脚部用エアバッグ装置1が構成される。
【0047】
この脚部用エアバッグ装置1を搭載した自動車が斜め衝突、オフセット衝突又は正面衝突した場合、インフレータ5が作動し、エアバッグ10が乗員前方を含む領域に膨張展開する。エアバッグ10は、まずリテーナ4から下方に向って膨張し、次いでインストルメントパネル2に沿って座席3に着座した乗員の脚部Lよりも上方にまで膨張展開する。この実施の形態では、本体部11が張出部12よりも先行して膨張し、それから張出部12が本体部11から左方向に張り出すと共に、アウターテザー19によって引っ張られることにより、本体部11よりも車体後方へ突出するように膨張展開する。
【0048】
前述の通り、張出部12が折り重なった本体部11をロール折りしたことにより、エアバッグ10は乗員脚部とインストルメントパネル2との間をインストルメントパネル2に沿って上方に膨張展開する。また、張出部12は、本体部11の反乗員側に折られているところから、乗員の左脚部とインストルメントパネル2及び車体内装側面パネルとの間に割り込むようにして膨張展開する。この張出部12及び本体部11の左端側が、オフセット衝突時における乗員の左脚部特に左膝及び左脛の左斜め前方への動きを拘束する。
【0049】
このエアバッグ10は、張出部12が本体部11の左側にのみ設けられているので、張出部12を左右両側に設ける場合に比べてエアバッグ10の容積が小さい。従って、インフレータ5として大出力のものを用いるまでもなく、エアバッグ10が早期に展開する。
【0050】
エアバッグ10をフリーに膨張させて膨張完了させた状態、例えば車体に搭載する前の脚部用エアバッグ装置のエアバッグ10を膨張完了させた状態においては、上部の左右幅Lは500〜700mm特に550〜650mm、張出部12の左右幅Lは100〜220mm特に120〜200mm、張出部12の本体部11からの車体後方への突出長さLは80〜170mm特に100〜150mm程度であることが好ましい。
【0051】
上記エアバッグ10では、アウターテザー19によって張出部12を本体部11よりも車体後方へ突出させているが、図4のエアバッグ10Aのように、乗員側パネル13に縦方向タック部23を、本体部11と張出部12との境界部に沿って上下方向に延設することにより、張出部12が本体部11よりも車体後方へ突出するようにしてもよい。タック部23は、パネル13をつまみ、その基端側を縫合糸24で縫合することにより形成される。
【0052】
このエアバッグ10Aのその他の構成はエアバッグ10と同一である。
【0053】
上記エアバッグ10,10Aでは、本体部11と張出部12内とは全体として連通しているが、図5,6のエアバッグ10Bのように、本体部11と張出部12の上部同士を連通させ、それよりも下側には、本体部11と張出部12とを区画する区画部を設けてもよい。図5,6では、この区画部として縫合糸によるシーム26を設けている。シーム26の上端はエアバッグ10Bの上端から離隔しており、この部分で本体部11と張出部12とが連通している。シーム26の下端はエアバッグ10Bの下縁にまで延在しているが、下縁から離隔してもよい。シーム26とインナーテザー16との間には間隙27があいている。
【0054】
この区画部を設けたエアバッグ10Bは、インフレータ5が作動して膨張する場合、インフレータ5からのガスが本体部11内に流入して本体部11を先行して膨張させ、それから張出部12を膨張させる。特に、この実施の形態では、インナーテザー16の両側に間隙18,27を設けており、インフレータ5からのガスがこれらの間隙18,27を上方へ抜けるようにして流れるので、本体部11が上方へ向って早期に展開する。本体部11の上部にまで到達したガスが、シーム26の上側の連通部を介して張出部12内に流入し、張出部12を上部から下方に向って膨張させる。自動車が斜め衝突もしくはオフセット衝突したときには、乗員脚部Lのうち膝及び脛上部が左斜め前方へ動こうとするが、張出部12の上部が早期に膨張することにより、左脚の膝及び脛上部が早期に拘束される。
【0055】
このエアバッグ10Bでは、上部にのみアウターテザー19Aを設けている。シーム26を設けたことにより、張出部12の下部は、図6の如く、シーム26を回動中心として乗員側へ回動し易く、自動車の内装側面パネルに沿って容易に車体後方へ突出する。ただし、このエアバッグ10Bにおいても、アウターテザー19Aの代りに、エアバッグ10のように上下に長いアウターテザー19を設けてもよい。
【0056】
図5,6のエアバッグ10Bではシーム26によって区画部を構成しているが、図7,8のエアバッグ10Cのように、区画パネル28によって区画部を構成してもよい。
【0057】
区画パネル28は、本体部11と張出部12との境界部に沿って上下方向に延在している。区画パネル28には孔28aが設けられているが、この孔28aは省略されてもよい。区画パネル28の両辺部は縫合糸29によってパネル13,14にそれぞれ縫合されている。区画パネル28の上端及び下端とエアバッグ10Cの外周縁との間は、本体部11内と張出部12内とを連通する連通部となっている。
【0058】
この実施の形態では、乗員側のパネル13に区画パネル28に沿ってタック部23が設けられており、エアバッグ10Cが膨張したときにタック部23に沿って屈曲し、張出部12が本体部11よりも車体後方へ突出するよう構成されている。なお、このエアバッグ10Cにおいても、タック部23の代りに、又はタック部23と共に、本体部11と張出部12とを繋ぐアウターテザー19が設けられてもよい。
【0059】
このエアバッグ10Cにあっては、張出部12の上面は本体部11の上面よりも若干低くなっている。
【0060】
図7,8では、区画パネル28はインナーテザー16と別体であるが、図9のエアバッグ10Dのように、区画パネル28と最上段のインナーテザー16とを連続させてもよい。
【0061】
本発明では、図5,6のシーム26を、エアバッグ内圧が高くなったときに断裂するテアシームとしてもよい。図10はかかるテアシームを有したエアバッグ10Eを示すものであり、シーム26と同位置にテアシーム30が設けられている。このテアシーム30の上端はエアバッグ10Eの上辺から離隔しており、この部分が本体部11と張出部12とを連通している。エアバッグ10Eの乗員側面には、本体部11と張出部12とをつなぐアウターテザー19が設けられている。
【0062】
インフレータ5が作動してエアバッグ10Eが膨張する場合、まず本体部11が膨張し、次いで本体部11の上部から連通部を通って張出部12にガスが流入して張出部12も膨張する。このエアバッグ10Eが乗員脚部を受け止めてエアバッグ10Eの内圧が高くなると、テアシーム30が断裂し、衝撃が吸収される。この場合、エアバッグ10E上部の連通部に臨むテアシーム30の最上端に最も大きな張力が加えられるので、テアシーム30が上端部から断裂を開始し、この断裂が下方に伝播する。
【0063】
図10では、テアシーム30は上下方向にのみ延在する直線状であるが、図11のエアバッグ10Fのようにテアシーム30の上部に連なり、車体幅方向の内方に向って延在する横方向テアシーム31を設けてもよい。このテアシーム31は、最上段のインナーテザー16よりも上方に位置する。最上段のインナーテザー16の上側の室の内圧が高くなった場合、テアシーム31の右端に大きな張力が加えられ、テアシーム31が断裂する。この断裂がテアシーム31からテアシーム30へ伝播する。
【0064】
図12のエアバッグ10Gの通り、この横方向テアシーム31の右端から下方に延在する縦方向テアシーム32をさらに連ねてもよい。この縦方向テアシーム32は、最上段のインナーテザー16とテアシーム30との間のガス通路27においてパネル13,14同士を縫合している。
【0065】
ガス通路27の内圧が高くなったときに、この縦方向テアシーム32の下端に大きな張力が加えられ、断裂が開始する。この断裂は横方向テアシーム31を経てテアシーム30にまで伝播する。
【0066】
図13のエアバッグ10Hは、区画部を上下のシーム26,26で構成し、これらのシーム26,26間においてパネル13にタック部23を設けたものである。このタック部23を設けたことにより、エアバッグ10Hが膨張したときに張出部12が車体後方へ突出する。なお、シーム26はテアシームであってもよい。
【0067】
図14のエアバッグ10Iは、本体部11と張出部12とを別々の主バッグ41と副バッグ42とで構成し、該バッグ41,42を縫合糸43によって結合したものである。バッグ41,42は、1枚のパネルを折り返し、周縁をそれぞれ縫合糸44,45で縫合することによって袋状とされたものである。バッグ41,42の合わせ面にはそれぞれ開口46が設けられている。開口46同士を対面させて各バッグ41,42の合わせ面を縫合糸43によって縫合することにより、エアバッグ10Iが構成される。この開口46は、合わせ面の上部にのみ設けられているが、中間部や下部等にも設けられてもよい。
【0068】
本発明では、1枚のパネルが乗員側、反乗員側及びインナーテザーを構成するものとしてもよい。その一例を図15に示す。
【0069】
図15のエアバッグ10Jは、最上部の第1室S、上から2段目の第2室S、上から3段目の第3室S、最下段の第4室Sの4室に区画されている。このエアバッグ10Jは5枚のパネル51〜55にて構成されている。パネル51は最上段の第1室Sの乗員側面、1段目のインナーテザー51b及び第2室Sの反乗員側面を構成している。パネル52は第1室Sの反乗員側面を構成している。パネル53は第2室Sの乗員側面と2段目のインナーテザー53bと第3室Sの反乗員側面を構成している。パネル54は、第3室Sの乗員側面と、3段目のインナーテザー54bと、第4室Sの反乗員側面を構成している。パネル55は、第4室Sの乗員側面を構成している。
【0070】
各インナーテザー51b,53b,54bには、上下の室同士を連通するための開口51a,53a,54aが設けられている。
【0071】
パネル51,52の上縁は縫合糸60によって縫合されている。パネル51,53の乗員側面は縫合糸61によって縫合され、パネル53,54の乗員側面は縫合糸63によって縫合され、パネル54,55の乗員側面は縫合糸65によって縫合されている。
【0072】
パネル51の反乗員側面とパネル52とは縫合糸62によって縫合され、パネル51,53の反乗員側面は縫合糸64によって縫合され、パネル53,54の反乗員側面は縫合糸66によって縫合されている。パネル54,55の下縁は縫合糸67によって縫合されている。
【0073】
このエアバッグ10Jでは、インフレータからのガスは、室Sから各開口54a,53a,51aを通って各室S〜Sを順次に膨張させる。このエアバッグ10Jが膨張完了した状態において、乗員側から正対して見たときの正面図は図1と同様である。図15では図示が省略されているが、このエアバッグ10Jにもアウターテザー19が設けられ、図2と同様に張出部が車体後方へ突出するよう構成されている。
【0074】
本発明では、図16,17に示すように、水平方向に延在した複数の小バッグを上下多段に連結したエアバッグ10Kを用いてもよい。図16,17では上下に4室S〜Sを有するように4個の小バッグ70,71,72,73が設けられている。各小バッグ70〜73は、1枚のパネルを折り返し、周縁部を縫合糸70a,71a,72a、73aによって縫合してバッグとされている。小バッグ70,71同士、小バッグ71,72同士、小バッグ72,73同士の重ね合わせ面がそれぞれ縫合糸74,75,76で縫合されている。各合わせ面に、上下の室同士を連通する開口70b,71b,71c,72b,72c,73bが設けられている。図17の通り、このエアバッグ10Kも、本体部11及びそれから左方に張り出す張出部12を有する。また、張出部12を本体部11よりも車体後方に突出させるためのアウターテザーが設けられている。
【0075】
このエアバッグ10Kにおいても、本体部11と張出部12とを区画する区画部を設けてもよい。
【0076】
図16,17のエアバッグ10Kでは、隣接する上側の小バッグの最底面と下側の小バッグの最頂面同士を縫合しているが、図18のように最底面、最頂面以外の部分で、隣接する小バッグ同士を縫合してもよい。
【0077】
図18のエアバッグ10K’では、1,2,3段目の小バッグ70、71,72同士は、最底面、最頂面よりも若干前後にずれた箇所同士で縫合され、3段目と4段目の小バッグ72,73同士は側面において縫合されている。これにより、膨張したエアバッグ10K’は、インストルメントパネルに沿って湾曲した形態となる。エアバッグ18K’のその他の構成はエアバッグ18Kと同様であり、同一符号は同一部分を示している。
【0078】
上記実施の形態は本発明の一例であり、本発明は上記以外の形態とされてもよい。例えば、上記実施の形態ではエアバッグ本体部内が4個の室に区画されているが、2,3又は5個以上の室に区画されてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 脚部用エアバッグ装置
2 内装パネル
4 リテーナ
5 インフレータ
10,10A〜10K,10K’ エアバッグ
11 本体部
12 張出部
19,19A アウターテザー
21,23 タック部
26 シーム
30,31,32 テアシーム
41 主バッグ
42 副バッグ
51〜55 パネル
70〜73 小バッグ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18