(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る半導体装置の構造を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る半導体装置と比較例のオフ時の立ち上がり電圧の波形を示す模式的なグラフである。
【
図3】本発明の実施形態に係る半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る半導体装置の不純物濃度の例を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その1)。
【
図6】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その2)。
【
図7】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その3)。
【
図8】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その4)。
【
図9】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その5)。
【
図10】本発明の実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明するための模式的な工程断面図である(その6)。
【
図11】本発明の実施形態の第1の変形例に係る半導体装置の構造を示す模式的な断面図である。
【
図12】本発明の実施形態の第1の変形例に係る半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示す模式図である。
【
図13】本発明の実施形態の第2の変形例に係る半導体装置の不純物濃度プロファイルの例を示す模式図である。
【
図14】本発明のその他の実施形態に係る半導体装置の構造を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各部の長さの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る半導体装置1は、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT)であり、
図1に示すように、第1導電型のコレクタ領域10と、コレクタ領域10上に配置された第2導電型のフィールドストップ領域20と、フィールドストップ領域20上に配置された、フィールドストップ領域20よりも不純物濃度の低い第2導電型のドリフト領域30と、ドリフト領域30上に配置された第1導電型のベース領域40と、ベース領域40上に配置された第2導電型のエミッタ領域50とを備える。複数のエミッタ領域50が、ベース領域40の上面の一部に選択的に埋め込まれている。なお、詳細は後述するが、フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配は、ドリフト領域30に隣接する領域よりもコレクタ領域10に隣接する領域で大きく設定されている。
【0012】
第1導電型と第2導電型とは互いに反対導電型である。すなわち、第1導電型がn型であれば、第2導電型はp型であり、第1導電型がp型であれば、第2導電型はn型である。以下では、第1導電型がp型、第2導電型がn型の場合を例示的に説明する。
【0013】
半導体装置1は、ドリフト領域30とエミッタ領域50との間でベース領域40に面して配置されたゲート絶縁膜60と、ゲート絶縁膜60を介してベース領域40に対向して配置されたゲート電極70とを更に備える。ゲート電極70と対向するベース領域40の表面が、チャネル領域100である。
【0014】
図1に示した半導体装置1は、トレンチゲート構造である。即ち、エミッタ領域50の上面から延伸し、エミッタ領域50及びベース領域40を貫通する溝が形成されている。ゲート絶縁膜60は溝の内壁上に配置され、ゲート電極70はゲート絶縁膜60を介して溝の内部に埋め込まれている。
【0015】
ゲート電極70の上面には、層間絶縁膜80が配置されている。層間絶縁膜80を介してゲート電極70の上方に、ベース領域40とエミッタ領域50とに接続するエミッタ電極90が配置されている。層間絶縁膜80によって、ゲート電極70とエミッタ電極90とは電気的に絶縁されている。また、フィールドストップ領域20に接する一方の主面と対向するコレクタ領域10の他方の主面上に、コレクタ電極95が配置されている。
【0016】
以下に、半導体装置1の動作について説明する。エミッタ電極90とコレクタ電極95間に所定のコレクタ電圧を印加し、エミッタ電極90とゲート電極70間に所定のゲート電圧を印加する。例えば、コレクタ電圧は300V〜1600V程度、ゲート電圧は10V〜20V程度である。このようにして半導体装置1をオン状態にすると、チャネル領域100がp型からn型に反転してチャネルが形成される。形成されたチャネルを通過して、エミッタ電極90から電子がドリフト領域30に注入される。この注入された電子により、コレクタ領域10とドリフト領域30との間が順バイアスされ、コレクタ電極95からコレクタ領域10を経由して正孔(ホール)がドリフト領域30、ベース領域40の順に移動する。更に電流を増やしていくと、コレクタ領域10からの正孔が増加し、ベース領域40の下方に正孔が蓄積される。この結果、伝導度変調によってオン電圧が低下する。
【0017】
半導体装置1をオン状態からオフ状態にする場合には、ゲート電圧をしきい値電圧よりも低くし、例えば、ゲート電圧をエミッタ電圧と同じ電位又は負電位となるように制御してチャネルを消滅させる。これにより、エミッタ電極90からドリフト領域30への電子の注入が停止する。コレクタ電極95の電位がエミッタ電極90よりも高いので、ベース領域40とドリフト領域30との界面から空乏層が広がっていくと共に、ドリフト領域30に蓄積された正孔はエミッタ電極90に抜けていく。
【0018】
IGBTのオフ時には、上記のように、ドリフト領域30の上面から空乏層がコレクタ領域10に向けて延伸する。フィールドストップ領域20によって、空乏層がコレクタ領域10に達することが防止される。フィールドストップ領域20の不純物濃度は、コレクタ領域側で高く、ドリフト領域側で低い。空乏層がコレクタ領域10に達するパンチスルーが生じないように、フィールドストップ領域20には、ある程度の厚みとある程度の総電子数量が必要である。
【0019】
しかし、ドリフト領域側から見たフィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が急峻である場合には、以下のような問題が生じる。即ち、IGBTのオフ時にドリフト領域30から広がる空乏層がフィールドストップ領域20に達すると、電圧に対する空乏層の伸びる割合が急激に減少する。その結果、オフ時の電圧立ち上がり波形に、
図2に特性T2として示すようなリンギングが発生する。
【0020】
このようなリンギングが生じるIGBTを搭載した機器では、種々の問題が生じる。例えば、雑音端子電圧試験などの電磁波妨害(EMI)試験においてスイッチング時のリンギングがコンセントに伝播され、規定値以上の電圧が発生する。このため、EMI試験の仕様を満たすために何らかの対策が必要になり、コストアップになるなどの問題が生じる。
【0021】
これに対し、本発明の実施形態に係る半導体装置1では、膜厚方向の不純物濃度勾配が緩やかであるようにフィールドストップ領域20が形成される。そのため、電圧に対する空乏層の伸びる割合が穏やかに小さくなる。その結果、
図2に特性T1として示したように、オフ時の電圧立ち上がり波形にリンギングが発生することが抑制される。
【0022】
図3に、半導体装置1の不純物濃度プロファイルの例を示す。
図3の横軸は、コレクタ領域10からドリフト領域30に向けた膜厚方向である(以下において同様。)。比較例の半導体装置のフィールドストップ領域20の不純物濃度を、
図3に破線S2で示した。破線S2のようにフィールドストップ領域20の不純物濃度勾配が急峻である場合には、オフ時の電圧立ち上がり波形にリンギングが発生する。
【0023】
一方、半導体装置1のフィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配は、
図3に実線S1で示したように緩やかである。このため、オフ時の電圧に対する空乏層の伸びる割合が緩やかに小さくなる。その結果、半導体装置1では、オフ時の電圧立ち上がり波形にリンギングが発生しない。特に、フィールドストップ領域20のドリフト領域30に隣接する領域にはオフ時にドリフト領域30から空乏層が伸びてくるため、この領域において不純物濃度勾配が緩やか設定されている。これにより、電圧に対する空乏層の伸びる割合が緩やかに減少することに効果的である。このため、フィールドストップ領域20の不純物濃度勾配は、ドリフト領域30に隣接する領域よりもコレクタ領域10に隣接する領域で大きく設定されている。
【0024】
図4に、フィールドストップ領域20の不純物濃度勾配の実施例を示す。
図4に示した例は、単位長当たりの不純物濃度勾配が7×10
13cm
-3/μm程度である。そして、不純物濃度勾配はドリフト領域30に隣接する領域(
図4中の領域A)よりもコレクタ領域10に隣接する領域(
図4中の領域B)で大きい。
【0025】
既に述べたように、電圧に対する空乏層の伸びる割合が緩やかに減少するように、ドリフト領域30に隣接する領域Aにおける不純物濃度勾配は緩やかに設定する。例えば、ドリフト領域30とフィールドストップ領域20との界面から膜厚方向に5μmの位置(
図4中の領域C)におけるフィールドストップ領域20の不純物濃度の勾配は、1×10
14cm
-3/μm以下であることが好ましい。
【0026】
本発明者らは検討を重ねた結果、
図4に示した不純物濃度プロファイルを有する半導体装置1では、オフ時の電圧立ち上がり波形にリンギングが発生しないことを見出した。
【0027】
また、フィールドストップ領域20の不純物濃度の勾配は、ドリフト領域30に隣接する領域からコレクタ領域10に隣接する領域に向けて徐々に増大することが好ましい。これにより、リンギングの発生を抑えつつ、空乏層がコレクタ領域10に達するのを防止できる。
【0028】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る半導体装置1では、フィールドストップ領域20の不純物濃度勾配を緩やかにすることにより、オフ時において電圧に対する空乏層の伸びる割合が緩やかに減少する。その結果、フィールドストップ領域を有し、且つオフ時の電圧立ち上がり波形でのリンギングの発生が抑制された半導体装置1を提供できる。
【0029】
図5〜
図10を用いて、本発明の実施形態に係る半導体装置1の製造方法を説明する。なお、以下に述べる製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0030】
図5に示すように、n型の半導体基体200上にp型のベース領域40を形成する。例えば、エピタキシャル成長法、又はイオン注入法と拡散を用いて、ベース領域40が形成される。次いで、
図6に示すように、ベース領域40の上面の一部に、例えばイオン注入法と拡散を用いてn
+型のエミッタ領域50を選択的に形成する。
【0031】
フォトリソグラフィ技術とエッチング技術を用いて、エミッタ領域50とベース領域40を貫通して半導体基体200に先端が到達する溝を形成する。そして、溝の内壁にゲート絶縁膜60を形成する。例えば、酸化シリコン(SiO
2)膜を熱酸化法で形成する。その後、不純物を添加したポリシリコン膜を溝の内部に埋め込む。更に、化学機械研磨(CMP)などの研磨工程によって、
図7に示すようにベース領域40の表面を平坦化してゲート電極70を形成する。
【0032】
ゲート電極70上に層間絶縁膜80を形成した後、
図8に示すようにエミッタ領域50とベース領域40に接続するエミッタ電極90を層間絶縁膜80上に形成する。
【0033】
図9に矢印で示すように、半導体基体200の下面から半導体基体200にn型不純物を注入し、アニール処理を行う。これにより、半導体基体200の下面側にn型のフィールドストップ領域20が形成される。半導体基体200のフィールドストップ領域20が形成された領域の残余の領域が、ドリフト領域30である。
【0034】
このとき、フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が、上記に説明したように緩やかに形成される。例えば、単位長当たりの不純物濃度勾配は7×10
13cm
-3/μm程度である。そして、ドリフト領域30に隣接する領域よりもコレクタ領域10に隣接する領域で不純物濃度勾配が大きいように、フィールドストップ領域20が形成される。
【0035】
次いで、
図10に矢印で示すように、フィールドストップ領域20の下面からp型不純物を注入し、コレクタ領域10を形成する。その後、コレクタ領域10上にコレクタ電極95を形成することにより、
図1に示した半導体装置1が完成する。
【0036】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る半導体装置1の製造方法によれば、フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が緩やかな半導体装置が製造される。特に、ドリフト領域30に隣接する領域よりもコレクタ領域10に隣接する領域で不純物濃度勾配が大きいようにフィールドストップ領域20を形成する。このため、オフ時の電圧立ち上がり波形でのリンギングの発生が抑制された半導体装置1を得ることができる。
【0037】
<第1の変形例>
図11に示すように、ベース領域40とドリフト領域30との間に、ドリフト領域30よりも不純物濃度が高いn型のキャリア蓄積領域35を配置してもよい。
【0038】
図12に、キャリア蓄積領域35からコレクタ領域10までの不純物濃度プロファイルの例を示す。フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が緩やかであるため、ドリフト領域30から見たキャリア蓄積領域35の膜厚方向の不純物濃度勾配よりもドリフト領域30から見たフィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が小さい。
【0039】
キャリア蓄積領域35の不純物濃度勾配を比較的大きくすることによって、ドリフト領域30内に正孔が蓄積される。コレクタ領域10からの正孔がエミッタ領域50に到達することが妨げられ、半導体装置1のオン電圧をより低減できる。更に、キャリア蓄積領域35から不純物濃度の低いドリフト領域30へと空乏層が速く達するので、空乏層を広がりやすくできる。このため、半導体装置1の耐圧を向上できる。
【0040】
図11に示す半導体装置1においても、ドリフト領域30から見たフィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配が小さいことにより、電圧立ち上がり波形のリンギングが抑制される。
【0041】
<第2の変形例>
上記では、フィールドストップ領域20の不純物濃度の勾配が、ドリフト領域30に隣接する領域からコレクタ領域10に隣接する領域に向けて単調増加する例を示した。しかし、
図13に示したように、フィールドストップ領域20の不純物濃度が増減を繰り返しながら、ドリフト領域側からコレクタ領域側に向けて徐々に増大するようにしてもよい。例えば、注入条件を変化させた複数回のイオン注入によってフィールドストップ領域20を形成することによって、
図13に示した不純物濃度プロファイルになる。
【0042】
図13に示した不純物濃度プロファイルにおいても、フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配は全体として緩やかに形成され、例えば単位長当たりの不純物濃度勾配の平均は7×10
13cm
-3/μm程度とする。そして、ドリフト領域30に隣接する領域よりもコレクタ領域10に隣接する領域で不純物濃度勾配が大きいように、フィールドストップ領域20が形成される。更に、ドリフト領域30とフィールドストップ領域20との界面から膜厚方向に5μmの位置におけるフィールドストップ領域20の不純物濃度の勾配が、1×10
14cm
-3/μm以下であることが好ましい。
【0043】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0044】
例えば、フィールドストップ領域20とコレクタ領域10との間に、n型のバッファ領域を配置してもよい。バッファ領域の不純物濃度は、例えば7×10
15cm
-3程度である。バッファ領域によって、仮にフィールドストップ領域20を越えて空乏層が伸びようとした場合でも、確実に空乏層の伸びをストップできるという効果を奏する。
【0045】
また、上記では半導体装置1がトレンチゲート構造である例を示した。しかし、半導体装置1がプレーナ構造である場合にも、本発明は適用可能である。
図14に、プレーナ構造の半導体装置1の一例を示した。
図14に示した半導体装置1では、ゲート絶縁膜60を介してゲート電極70がベース領域40上に配置されている。ゲート電極70とエミッタ電極90間には層間絶縁膜80が配置されている。ゲート電極70とゲート絶縁膜60を介して対向するベース領域40の表面がチャネル領域である。
【0046】
図14に示したプレーナ構造の半導体装置1の場合にも、フィールドストップ領域20の膜厚方向の不純物濃度勾配を緩やかに設定し、ドリフト領域側の領域よりもコレクタ領域側の領域で大きくする。これにより、電圧立ち上がり波形にリンギングが発生することを抑制できる。なお、
図14には半導体装置1がキャリア蓄積領域35とバッファ領域15を有する例を示したが、キャリア蓄積領域35とバッファ領域15のいずれか、或いは両方がなくてもよい。
【0047】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。