特許第6287422号(P6287422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287422
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20180226BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20180226BHJP
【FI】
   G02B27/01
   B60K35/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-60075(P2014-60075)
(22)【出願日】2014年3月24日
(65)【公開番号】特開2015-184432(P2015-184432A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000100768
【氏名又は名称】アイシン・エィ・ダブリュ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】特許業務法人ネクスト
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 賢二
【審査官】 右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−150947(JP,A)
【文献】 特開2008−094377(JP,A)
【文献】 特開2011−121401(JP,A)
【文献】 特開2010−096874(JP,A)
【文献】 特開2010−221830(JP,A)
【文献】 特開2011−073466(JP,A)
【文献】 特開2012−030611(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0199198(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00 − 37/06
B60Q 1/00 − 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置され、
スクリーンと、
光源から出力される光に基づいて生成される映像を前記スクリーンに投射するプロジェクタと、
前記スクリーンに投射された前記映像から前記映像の虚像を生成する虚像生成手段と、
前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させる移動手段と、
前記移動手段によって前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させることにより、前記虚像を視認する前記車両の乗員から前記虚像生成手段により生成される前記虚像までの距離である生成距離を変更する虚像位置変更手段と、
停車状態にある前記車両が走行を開始する為に前記乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点を特定する対象特定手段と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、
車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記虚像が前記注視対象地点へと接近する方向へ移動するように前記生成距離及び前記スクリーンにおける映像の表示位置を変更することを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記虚像位置変更手段は、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記生成距離を長くすることによって前記虚像を前記注視対象地点へと接近する方向へ移動させることを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
停車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記生成距離を変更するのに伴って前記虚像のサイズを徐々に小さく変更することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記車両の進行方向前方にある信号機を検出する信号機検出手段を有し、
前記注視対象地点を前記信号機検出手段によって検出された前記信号機とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記信号機検出手段によって前記信号機が検出されなかった場合に、前記注視対象地点を前記車両の進行方向前方にある所定地点とすることを特徴とする請求項4に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記車両が交差点で停車する状態で、前記車両の進行方向前方にある信号機が進行不可状態から進行許可状態へと切り換わった場合に、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となったと判定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記車両が交差点で停車する状態で、前記車両の進行方向前方に位置する前方車両が走行を開始した場合に、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となったと判定することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記虚像位置変更手段によって前記生成距離が変更されてから所定時間経過した後に、前記生成距離を変更前の距離に復帰する復帰手段を有することを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載可能であって、車両の乗員が視認する各種映像を生成するヘッドアップディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両等の移動体の乗員に対して経路案内や障害物の警告等の運転情報を提供する情報提供手段として、様々な手段が用いられている。例えば、移動体に設置された液晶ディスプレイによる表示や、スピーカから出力する音声等である。そして、近年、このような情報提供手段の一つとして、ヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUDという)がある。
【0003】
しかしながら、HUD等の情報提供手段の問題点として、表示された情報を乗員が注視することによって進行方向前方への注意が散漫となり、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことに気付かないことがある。そこで、例えば特開2011−73466号公報では、特に車両の前方に前方車両がある場合に、該前方車両の位置と前方車両までの距離を案内する虚像を生成するHUDについて記載されている。この特許文献に記載された発明によれば、前方車両が動き出した場合に、HUDにより表示された虚像によって前方車両が動き出したこと、即ち停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に対して案内することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−73466号公報(第3−4頁、図5、6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているHUDでは、車両の乗員は前方車両が存在する場合には走行可能な状態となったことを把握できるが、前方車両が存在しない場合(例えば先頭で信号待ちをしている場合)には、走行可能な状態になったか否かに関わらず表示内容は変化しないので、走行可能な状態となったことを把握することができない。
【0006】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に確実に把握させることを可能にしたヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置(1)は、車両(2)に設置され、スクリーン(20、21)と、光源(19)から出力される光に基づいて生成される映像を前記スクリーンに投射するプロジェクタ(4)と、前記スクリーンに投射された前記映像から前記映像の虚像を生成する虚像生成手段(11、12)と、前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させる移動手段(24)と、前記移動手段によって前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させることにより、前記虚像を視認する前記車両の乗員から前記虚像生成手段により生成される前記虚像までの距離である生成距離を変更する虚像位置変更手段(31)と、停車状態にある前記車両が走行を開始する為に前記乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点を特定する対象特定手段(31)と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記虚像が前記注視対象地点へと接近する方向へ移動するように前記生成距離及び前記スクリーンにおける映像の表示位置を変更することを特徴とする。
尚、「注視対象地点」としては、交差点や車両前方の任意の場所であっても良いし、信号機、標識等の構造物でも良いし、車両や人等であっても良い。
【発明の効果】
【0008】
前記構成を有する本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置によれば、停車状態にある車両が走行可能な状態となった場合に、生成された虚像を車両の乗員に注視させる必要がある注視対象地点へと移動させることによって、移動する虚像を目で追う乗員に対して必然的に注視対象地点を視認させることが可能となる。その結果、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に確実に把握させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係るHUDの車両への設置態様を示した図である。
図2】本実施形態に係るHUDの内部構成を示した図である。
図3】プロジェクタの構成を示した図である。
図4】第2投射レンズの移動態様を示した図である。
図5】第1スクリーンと第2スクリーンをそれぞれ示した図である。
図6】第1スクリーンと第2スクリーンに対するプロジェクタの映像の投射態様を示した図である。
図7】第2スクリーンの光路に対する前後方向への移動態様を示した図である。
図8】第1スクリーンと第2スクリーンに投射された映像によって生成される虚像をそれぞれ示した図である。
図9】第1スクリーン及び第2スクリーンの光路に対する交差方向への移動態様を示した図である。
図10】第1スクリーンと第2スクリーンを上下方向に移動させた場合におけるプロジェクタの映像の投射態様を示した図である。
図11】本実施形態に係るHUDの構成を示したブロック図である。
図12】本実施形態に係る走行開始処理プログラムのフローチャートである。
図13】本実施形態に係る走行開始処理プログラムのフローチャートである。
図14】位置設定テーブルの一例を示した図である。
図15】停車状態にある車両の乗員から視認できる虚像の一例を示した図である。
図16】車両の進行方向前方に信号機がある場合の注視対象地点の設定方法について説明した図である。
図17】車両の進行方向前方に信号機は無いが前方車両がある場合の注視対象地点の設定方法について説明した図である。
図18】第2スクリーン及び第2投射レンズの移動態様を示した図である。
図19】停車状態にある車両が走行を開始した場合に、乗員から視認できる虚像の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置について具体化した一実施形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0011】
先ず、本実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置(以下、HUDという)1の構成について図1を用いて説明する。図1は本実施形態に係るHUD1の車両2への設置態様を示した図である。
【0012】
図1に示すようにHUD1は、車両2のダッシュボード3内部に設置されており、内部にプロジェクタ4やプロジェクタ4からの映像が投射されるスクリーン5を有する。そして、スクリーン5に投射された映像を、後述のようにHUD1が備えるミラーやフレネルレンズを介し、更に運転席の前方のフロントウィンドウ6に反射させて車両2の乗員7に視認させるように構成されている。尚、スクリーン5に投射される映像としては、車両2に関する情報や乗員7の運転の支援の為に用いられる各種情報がある。例えば障害物(他車両や歩行者)に対する警告、ナビゲーション装置で設定された案内経路や案内経路に基づく案内情報(右左折方向を示す矢印等)、現在車速、案内標識、地図画像、交通情報、ニュース、天気予報、時刻、接続されたスマートフォンの画面、テレビ番組等がある。
【0013】
また、本実施形態のHUD1では、フロントウィンドウ6を反射して乗員7がスクリーン5に投射された映像を視認した場合に、乗員7にはフロントウィンドウ6の位置ではなく、フロントウィンドウ6の先の遠方の位置にスクリーン5に投射された映像が虚像8として視認されるように構成される。尚、乗員7が視認できる虚像8はスクリーン5に投射された映像であるが、ミラーを介するので上下方向は反転する。また、フレネルレンズを介することによってサイズも変更する。
【0014】
ここで、虚像8を生成する位置、より具体的には乗員7から虚像8までの距離(以下、生成距離という)Lについては、HUD1が備えるミラーやフレネルレンズの形状や位置、光路に対するスクリーン5の位置等によって適宜設定することが可能である。特に、本実施形態では後述のようにスクリーン5の位置を光路に沿って前後方向に移動可能に構成する。その結果、生成距離Lを適宜変更することが可能となる。例えば生成距離Lを2.5m〜20mの間で変更することが可能である。
【0015】
また、車両2のフロントバンパの上方にはフロントカメラ9が設置される。ここで、フロントカメラ9は、例えばCCD等の固体撮像素子を用いたカメラにより構成され、光軸方向を車両2の進行方向に向けて設置される。そして、車両2の進行方向前方の周辺環境を撮像する。尚、HUD1は、後述のようにフロントカメラ9により撮像した撮像画像に基づいて、停車状態にある車両2が走行可能な状態となったか否かを判定する。また、停車状態にある車両2が走行を開始する為に乗員7に対して注視させる必要がある注視対象地点(例えば信号機)の特定も行う。
【0016】
次に、図2を用いてHUD1のより具体的な構成について説明する。図2は、本実施形態に係るHUD1の内部構成を示した図である。
【0017】
図2に示すようにHUD1は、プロジェクタ4と、スクリーン5と、反射ミラー10と、ミラー11と、フレネルレンズ12と、制御回路部13と、CANインターフェース14とから基本的に構成されている。
【0018】
ここで、プロジェクタ4は光源としてLED光源やランプ光源やレーザ光源を用いた映像投射装置であり、例えばDLPプロジェクタとする。尚、プロジェクタ4としては液晶プロジェクタやLCOSプロジェクタやレーザ走査式プロジェクタを用いても良い。尚、レーザ走査式プロジェクタを用いた場合には後述の投射レンズは不要となる。
【0019】
図3はプロジェクタ4の構成を示した図である。図3に示すようにプロジェクタ4は、内部に光源19を備えており、例えば単板式のDLPプロジェクタでは光源19から出力される光を不図示のカラーホイールに通過させた後にデジタルミラーデバイスで反射させ、投射レンズ15を通してスクリーン5へと映像を投射する。
【0020】
また、プロジェクタ4は映像を投射する為の投射レンズ15を備えているが、本実施形態では投射レンズ15は第1投射レンズ16と第2投射レンズ17の2つの投射レンズから構成され、それぞれ異なる映像を投射可能に構成する。
【0021】
図3に示すように第1投射レンズ16及び第2投射レンズ17は、一の円形状のレンズを上下方向に分割した分割形状を有する。更に、下方にある第2投射レンズ17は、光路に沿って前後方向に移動可能に構成されている。一方、第1投射レンズ16の位置は固定とする。具体的には、第2投射レンズ17の背面側にあるレンズ駆動モータ18を駆動させることによって、図4に示すように第2投射レンズ17を光路に沿って前後方向に移動させることが可能となる。特に、本実施形態では、後述のようにスクリーン5を光路に沿って前後方向に移動させる場合において、第2投射レンズ17から投射される映像の焦点を移動後のスクリーン5の位置に一致させる為に、第2投射レンズ17も追従して移動させる構成とする。
【0022】
また、レンズ駆動モータ18はステッピングモータからなる。そして、HUD1は、制御回路部13から送信されるパルス信号に基づいてレンズ駆動モータ18を制御し、第2投射レンズ17の位置を設定位置に対して適切に位置決めすることが可能となる。
【0023】
また、スクリーン5は、プロジェクタ4から投射された映像が投射される被投射媒体であり、例えばすりガラス等の拡散板やマイクロレンズアレイ等からなる透過型スクリーンが用いられる。また、本実施形態ではスクリーン5は、第1スクリーン20と第2スクリーン21の2枚のスクリーンから構成される。ここで、図5は第1スクリーン20と第2スクリーン21をそれぞれ示した図である。
【0024】
図5に示すように第1スクリーン20は、上方に映像が投射される被投射エリア22を有しており、通常時においては図6に示すようにプロジェクタ4の第1投射レンズ16から投射された映像が表示される。一方、第2スクリーン21は、下方に映像が投射される被投射エリア23を有しており、通常時においては図6に示すようにプロジェクタ4の第2投射レンズ17から投射された映像が表示される。即ち、プロジェクタ4による映像の投射範囲は第1スクリーン20と第2スクリーン21に跨って設定される。また、後述のように本実施形態では第1スクリーン20と第2スクリーン21は一体に光路に対して交差する方向に移動可能に構成されており、その結果、第1投射レンズ16から投射された映像の一部が第2スクリーン21に投射されたり、第2投射レンズ17から投射された映像の一部が第1スクリーン20に投射される場合もある(図10参照)。
【0025】
また、第1スクリーン20と第2スクリーン21は、図2及び図6に示すように被投射エリア22、23が重ならないように、光路に沿って前後方向に所定間隔で並べて配置される。従って、本実施形態では虚像8は、第1スクリーン20に投射された映像の虚像(以下、第1虚像8Aという)と、第2スクリーン21に投射された映像の虚像(以下、第2虚像8Bという)から構成されることとなる。
【0026】
また、第2スクリーン21は、光路に沿って前後方向に移動可能に構成されている。一方、第1スクリーン20の位置は前後方向に対して固定とする。具体的には、第2スクリーン21の背面側にあるスクリーン前後駆動モータ24を駆動させることによって、図7に示すように第1スクリーン20と第2スクリーン21との間の距離を変更し、第2スクリーン21を光路に沿って前後方向に移動させることが可能となる。その結果、第2スクリーン21に投射された映像の虚像である第2虚像8Bが生成される位置(具体的には乗員7から第2虚像8Bまでの距離である生成距離L2)を変更することが可能である。尚、生成距離L2は、ミラー11から第2スクリーン21までの距離に依存する。即ち、生成距離L2は、ミラー11から第2スクリーン21までの距離に応じて長短を変更される。例えば、ミラー11から第2スクリーン21までの距離が長くなると生成距離L2が長くなり、ミラー11から第2スクリーン21までの距離が短くなると生成距離L2が短くなる。
【0027】
例えば、第2スクリーン21をプロジェクタ4側(ミラー11までの距離が長くなる側)に移動させると、生成距離L2が長くなる(即ち、乗員7からはより遠くに第2虚像8Bが視認されるようになる)。一方、第2スクリーン21をプロジェクタ4と反対側(ミラー11までの距離が短くなる側)に移動させると、生成距離L2が短くなる(即ち、乗員7からはより近くに第2虚像8Bが視認されるようになる)。尚、第1スクリーン20の位置は前後方向に対して固定であるので、第1スクリーン20に投射された映像の虚像である第1虚像8Aが生成される位置(具体的には乗員7から第1虚像8Aまでの距離である生成距離L1)は固定である。即ち、生成距離L2を変更することによって、第1虚像8Aから第2虚像8Bまでの距離(|L2−L1|)が変更されることとなる。
【0028】
従って、仮に第1スクリーン20と第2スクリーン21が光路に沿ってミラー11から同距離にある場合には、車両2の前方の同位置に第1虚像8Aと第2虚像8Bが生成されることとなるが、第1スクリーン20と第2スクリーン21がミラー11から光路に沿って異なる距離にある場合には、図8に示すように第1虚像8Aと第2虚像8Bとがそれぞれ異なる位置に生成されることとなる。また、図5及び図6に示すように、第1スクリーン20の被投射エリア22は、第2スクリーン21の被投射エリア23よりも上方に位置するように各スクリーンは配置されるが、ミラー11によって映像が上下反転されるので、光路に対して交差する方向を基準にして、第2虚像8Bが第1虚像8Aの上方に生成されることとなる。
【0029】
また、本実施形態では第1スクリーン20及び第2スクリーン21を、光路に交差する方向に一体に移動可能に構成されている。具体的には、第1スクリーン20の側面にあるスクリーン上下駆動モータ25を駆動させることによって、図9に示すように第1スクリーン20と第2スクリーン21とスクリーン前後駆動モータ24とを一体に光路に交差する方向(より具体的には第1スクリーン20と第2スクリーン21の並び方向である鉛直方向)に移動させることが可能となる。その結果、図10に示すように、第1スクリーン20と第2スクリーン21を対象としてプロジェクタ4からの映像を投射する第1投射態様と、第1スクリーン20のみを対象としてプロジェクタ4からの映像を投射する第2投射態様との間で、スクリーン5への画像の投射態様を切り換えることが可能となる。
【0030】
そして、HUD1は、投射態様が第1投射態様にある場合には、基本的に第1投射レンズ16と第2投射レンズ17とで異なる種類の映像(例えば、第1投射レンズ16では車両の現在車速の映像、第2投射レンズ17では案内情報や警告情報の映像)をそれぞれ各スクリーンに投射する。一方、投射態様が第2投射態様にある場合には、基本的に第1投射レンズ16と第2投射レンズ17とでそれぞれ投射された映像を組み合わせた一の映像(例えば、第1投射レンズ16ではテレビ画面の下半分の映像、第2投射レンズ17ではテレビ画面の上半分の映像)を第1スクリーン20に投射する。それによって、第2投射態様では、分割線の無いより大きいサイズの映像を虚像として生成することが可能となる。尚、第2投射態様であっても第1投射レンズ16と第2投射レンズ17とで異なる種類の映像を投射する構成とすることも可能である。
【0031】
また、スクリーン前後駆動モータ24及びスクリーン上下駆動モータ25はそれぞれステッピングモータからなる。そして、HUD1は、制御回路部13から送信されるパルス信号に基づいてスクリーン前後駆動モータ24を制御し、第2スクリーン21の前後位置を設定位置に対して適切に位置決めすることが可能となる。また、HUD1は、制御回路部13から送信されるパルス信号に基づいてスクリーン上下駆動モータ25を制御し、第1スクリーン20及び第2スクリーン21の上下位置を設定位置に対して適切に位置決めすることが可能となる。
【0032】
一方、反射ミラー10は、図2に示すようにプロジェクタ4から投射された映像を反射して光路を変更し、スクリーン5へと投射する反射板である。
【0033】
また、ミラー11は、図2に示すようにスクリーン5からの映像光を反射させ、フロントウィンドウ6を介してスクリーン5の映像を乗員7に視認させることにより、乗員7の前方に虚像8(図1参照)を生成する虚像生成手段である。ミラー11としては、球面凹面鏡や、非球面凹面鏡、若しくは投影映像の歪みを補正するための自由曲面鏡が用いられる。尚、第1スクリーン20や第2スクリーン21に対して投射された映像は、反射ミラー10やミラー11によって反射されるので、生成される虚像は第1スクリーン20や第2スクリーン21に対して投射された映像と上下左右がそれぞれ反転した像となる。
【0034】
また、フレネルレンズ12は、図2に示すようにスクリーン5に投射された映像を拡大して虚像8を生成する為の拡大鏡である。そして、本実施形態に係るHUD1では、スクリーン5に投射された映像を、ミラー11やフレネルレンズ12を介し、更にフロントウィンドウ6に反射させて乗員7に視認させることによって、フロントウィンドウ6の先の遠方の位置にスクリーン5に投射された映像が拡大され、虚像8として乗員に視認される(図1参照)。
【0035】
また、制御回路部13は、HUD1の全体の制御を行う電子制御ユニットである。ここで、図11は本実施形態に係るHUD1の構成を示したブロック図である。
【0036】
図11に示すように制御回路部13は、演算装置及び制御装置としてのCPU31、並びにCPU31が各種の演算処理を行うにあたってワーキングメモリとして使用されるRAM32、制御用のプログラムのほか、後述の走行開始処理プログラム(図12参照)等が記録されたROM33、ROM33から読み出したプログラムや後述の位置設定テーブルを記憶するフラッシュメモリ34等の内部記憶装置を備えている。また、制御回路部13は、プロジェクタ4、レンズ駆動モータ18、スクリーン前後駆動モータ24、スクリーン上下駆動モータ25とそれぞれ接続され、プロジェクタ4や各種モータの駆動制御を行う。
【0037】
また、CAN(コントローラエリアネットワーク)インターフェース14は、車両内に設置された各種車載器や車両機器の制御装置間で多重通信を行う車載ネットワーク規格であるCANに対して、データの入出力を行うインターフェースである。そして、HUD1は、CANを介して、各種車載器や車両機器の制御装置(例えば、ナビゲーション装置48、AV装置49等)と相互通信可能に接続される。それによって、HUD1は、ナビゲーション装置48やAV装置49等の出力画面を投影可能に構成する。
【0038】
続いて、前記構成を有するHUD1においてCPU31が実行する走行開始処理プログラムについて図12及び図13に基づき説明する。図12及び図13は本実施形態に係る走行開始処理プログラムのフローチャートである。ここで、走行開始処理プログラムは車両のACCがONされた後に実行され、停車状態にある自車両が走行を開始する際に、車両の乗員に注視対象地点を視認させる為の虚像を生成するプログラムである。尚、以下の図12及び図13にフローチャートで示されるプログラムは、HUD1が備えているRAM32やROM33に記憶されており、CPU31により実行される。
【0039】
先ず、走行開始処理プログラムではステップ(以下、Sと略記する)1において、CPU31は、車両に搭載された車速センサにより車両の現在車速を検出し、車速が0か否か、即ち自車両が停車状態にあるか否かを判定する。
【0040】
そして、自車両が停車状態にあると判定された場合(S1:YES)には、S2へと移行する。それに対して、自車両が停車状態にないと判定された場合(S1:NO)には、自車両が停車状態になるまで待機する。
【0041】
S2においてCPU31は、フラッシュメモリ34から位置設定テーブル(図14)を読み出し、固定表示位置とする為の第2スクリーン21の位置を決定する。ここで、固定表示位置は、乗員7から第2虚像8Bまでの距離である生成距離L2が、乗員7から第1虚像8Aまでの距離である生成距離L1(例えば2.5m)と同距離、即ち生成距離L2が変更可能な範囲で最も短い距離となる位置をいう。更に、S3においてCPU31は、位置設定テーブルに基づいて固定表示位置とする為の第2投射レンズ17の位置についても決定する。尚、位置設定テーブルでは、図14に示すように生成距離L2毎に、該生成距離L2に第2虚像8Bを生成する為の第2スクリーン21の位置が規定されている。また、第2スクリーン21の位置に対応付けて第2投射レンズ17の位置について規定されている。
【0042】
次に、S4においてCPU31は、第2スクリーン21を現在位置から前記S2で特定された位置まで移動させるのに必要なスクリーン前後駆動モータ24の駆動量(パルス数)を決定する。同じく、S4においてCPU31は、第2投射レンズ17を現在位置から前記S3で特定された位置まで移動させるのに必要なレンズ駆動モータ18の駆動量(パルス数)を決定する。
【0043】
その後、S5においてCPU31は、前記S4で決定された駆動量だけスクリーン前後駆動モータ24を駆動させる為のパルス信号をスクリーン前後駆動モータ24へと送信する。同じく、前記S4で決定された駆動量だけレンズ駆動モータ18を駆動させる為のパルス信号をレンズ駆動モータ18へと送信する。そして、パルス信号を受信したスクリーン前後駆動モータ24やレンズ駆動モータ18は、受信したパルス信号に基づいて駆動を行う。その結果、第2スクリーン21は固定表示位置に移動し、第2投射レンズ17は固定表示位置にある第2スクリーン21上に焦点を合わせた位置に移動する。
【0044】
次に、S6においてCPU31は、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17の移動が完了したか否かを判定する。具体的には、第2スクリーン21や第2投射レンズ17から駆動を完了したことを示す信号を受信した場合に、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17の移動が完了したと判定する。
【0045】
そして、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17の移動が完了したと判定された場合(S6:YES)には、S7へと移行する。それに対して、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17の移動が完了していないと判定された場合(S6:NO)には、移動が完了するまで待機する。
【0046】
次に、S7においてCPU31は、プロジェクタ4によるスクリーン5への映像の投射を開始する。ここで、プロジェクタ4により投射される映像としては、車両2に関する情報や乗員7の運転の支援の為に用いられる各種情報がある。例えば障害物(他車両や歩行者)に対する警告、ナビゲーション装置で設定された案内経路や案内経路に基づく案内情報(右左折方向を示す矢印等)、現在車速、案内標識、地図画像、交通情報、ニュース、天気予報、時刻、接続されたスマートフォンの画面、テレビ画面等がある。特に本実施形態では車両が停車した通常の状態では、上記映像の内、車両の現在車速の映像とテレビ画面を投射する構成とする。また、プロジェクタ4により投射対象とするスクリーンは、第1スクリーン20であっても良いし第2スクリーン21であっても良いが、以下では第1スクリーン20に投射した例を示す。
【0047】
その結果、図15に示すように、フロントウィンドウ6の下縁付近で且つフロントウィンドウ6の前方2.5m先に、第1虚像8Aとして現在車速を示す数値とテレビ画面がそれぞれ生成され、停車した車両の乗員から視認可能となる。
【0048】
次に、S8においてCPU31は、フロントカメラ9の撮像画像を取得する。尚、フロントカメラ9は、図1に示すように車両2の進行方向前方の周辺環境を撮像するように光軸と撮像範囲が設計されている。
【0049】
次に、S9においてCPU31は、前記S8で取得したフロントカメラ9の撮像画像に対して画像認識処理を行うことによって、撮像画像に含まれる前方車両と信号機を検出する。尚、画像認識処理としては例えばテンプレートマッチング方式を用いる。尚、テンプレートマッチング方式を用いた画像認識処理については公知であるので詳細は省略する。また、フロントカメラ9の撮像画像から前方車両を検出した場合には、自車両から前方車両までの距離についても検出する。更に、信号機を検出した場合には、信号機の表示色についても検出する。
【0050】
続いて、S10においてCPU31は、前記S8で取得したフロントカメラ9の撮像画像から信号機が検出できたか否か、即ち、車両の進行方向前方に信号機があるか否かを判定する。
【0051】
そして、車両の進行方向前方に信号機があると判定された場合(S10:YES)には、S11へと移行する。それに対して、車両の進行方向前方に信号機が無いと判定された場合(S10:NO)には、S14へと移行する。
【0052】
S11においてCPU31は、車両の進行方向前方にあると判定された信号機の表示色が青(進行許可状態)であるか否かを判定する。
【0053】
そして、車両の進行方向前方にあると判定された信号機の表示色が青(進行許可状態)であると判定された場合(S11:YES)、即ち、信号機が進行不可状態から進行許可状態へと切り換わることによって、停車状態にある車両が走行可能な状態となったと判定された場合には、S12へと移行する。それに対して、車両の進行方向前方にあると判定された信号機の表示色が黄や赤(進行不可状態)であると判定された場合(S11:NO)には、S8へと戻り、信号機の表示色が青となるまで待機する。
【0054】
S12においてCPU31は、車両の進行方向前方にあると判定された信号機の位置座標を取得する。例えば、図16に示すフロントカメラ9の撮像画像51が取得された場合においては、車両の進行方向前方に信号機52があるので、信号機52の位置座標(より具体的には信号機52の点灯箇所の位置座標)Xが取得される。
【0055】
次に、S13においてCPU31は、前記S12で取得された信号機の位置座標Xを、停車状態にある車両が走行を開始する為に乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点として特定する。その後、図13のS17へと移行する。
【0056】
一方、S14においてCPU31は、前記S8で取得したフロントカメラ9の撮像画像から前方車両が検出できたか否か、即ち自車両の進行方向前方に前方車両があるか否かを判定する。
【0057】
そして、自車両の進行方向前方に前方車両があると判定された場合(S14:YES)には、S15へと移行する。それに対して、自車両の進行方向前方に前方車両も無いと判定された場合(S14:NO)には、信号機や前方車両が検出できず停車状態にある車両が走行可能な状態となったか否かの判断が困難であるので、前記S7で生成された虚像8の位置を変更することなく当該走行開始処理プログラムを終了する。
【0058】
S15においてCPU31は、車両の進行方向前方にあると判定された前方車両までの距離が変化したか否かを判定する。
【0059】
そして、車両の進行方向前方にあると判定された前方車両までの距離が変化したと判定された場合(S15:YES)、即ち、前方車両が走行を開始し、停車状態にある車両が走行可能な状態となったと判定された場合には、S16へと移行する。それに対して、車両の進行方向前方にあると判定された前方車両までの距離が変化していないと判定された場合(S15:NO)には、S8へと戻り、信号機の表示色が青となるまで待機する。
【0060】
S16においてCPU31は、車両の進行方向前方の上方の任意の地点Yを、停車状態にある車両が走行を開始する為に乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点として特定する。その後、図13のS17へと移行する。尚、地点Yは例えば図17に示すようにフロントカメラ9の撮像画像51において検出された前方車両53の所定距離上方の地点としても良いし、仮想の信号機の点灯箇所がある地点としても良い。
【0061】
次に、S17においてCPU31は、第2虚像8Bの生成距離L2を最大距離である20mに設定する。
【0062】
その後、S18においてCPU31は、フラッシュメモリ34から位置設定テーブル(図14)を読み出し、生成距離L2を20mとする為の第2スクリーン21の位置を決定する。更に、S19においてCPU31は、位置設定テーブルに基づいて第2投射レンズ17の位置についても決定する。尚、位置設定テーブルでは、前記したように第2スクリーン21の位置に対応付けて第2投射レンズ17の位置について規定されている。
【0063】
続いて、S20においてCPU31は、第2スクリーン21の現在位置から前記S18で決定された位置まで、第2スクリーン21を移動させるのに必要なスクリーン前後駆動モータ24の駆動量(パルス数)を決定する。同じく、第2投射レンズ17の現在位置から前記S19で決定された位置まで、第2投射レンズ17を移動させるのに必要なレンズ駆動モータ18の駆動量(パルス数)を決定する。
【0064】
その後、S21においてCPU31は、前記S20で決定された駆動量だけスクリーン前後駆動モータ24を駆動させる為のパルス信号をスクリーン前後駆動モータ24へと送信する。同じく、前記S20で決定された駆動量だけレンズ駆動モータ18を駆動させる為のパルス信号をレンズ駆動モータ18へと送信する。そして、パルス信号を受信したスクリーン前後駆動モータ24やレンズ駆動モータ18は、受信したパルス信号に基づいて駆動を行う。その結果、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17は固定表示位置から移動を開始し、生成距離L2は2.5mから20mへと徐々に変化する。
【0065】
ここで、第2スクリーン21及び第2投射レンズ17の位置は、図18に示すようにプロジェクタ4の光源19の光路55に沿って移動可能に構成される。そして、ミラー11から第2スクリーン21までの距離に生成距離L2が依存する。従って、第2スクリーン21が光路に沿ってミラー11から離間する方向(即ち第2投射レンズ17に近づく方向)に移動すれば、乗員7から第2スクリーン21に投射された映像に基づいて生成される第2虚像8Bまでの距離である生成距離L2は徐々に長くなる。また、生成距離L2を長く変更する為に、第2スクリーン21を第2投射レンズ17側に移動させた場合であっても、第2スクリーン21の移動に伴って第2投射レンズ17も第2スクリーン21側に移動することにより投射される映像の焦点を第2スクリーン21上に合わせた状態を維持できる。それによって、第2スクリーン21を移動させた後においても鮮明な映像を投射することが可能となる。
【0066】
次に、S23においてCPU31は、HUD1によって生成された虚像が前記S13又はS16で設定された注視対象地点へ接近するように、プロジェクタ4による映像の投射位置を変更させる。更に、映像の表示サイズについても、生成距離L2が長くなるに従って徐々に小さくなるように変更する。尚、前記S7でプロジェクタ4が映像を第1スクリーン20に投射していた場合には、先ず第1スクリーン20から第2スクリーン21へと映像の投射位置を変更した後に、前記S23の処理を行う必要がある。
【0067】
前記S22における第2スクリーン21の移動及び前記S23における表示制御を行った結果、図19に示すように、車両の進行方向前方の近距離(2.5m)に生成されていた虚像が、注視対象地点Xに設定された信号機52へと徐々に接近するように乗員から遠ざかることとなる。また、虚像の位置が乗員から遠ざかるに従って、虚像のサイズも徐々に小さくなる。即ち、注視対象地点Xに向かって虚像が徐々に近づき、集束していくこととなり、虚像を視認するユーザは必然的に注視対象地点Xを視認することとなる。その結果、信号機52が進行不可状態から進行許可状態へと切り換わったことを車両の乗員に確実に把握させることが可能となる。また、信号機が検出できなかった場合には、車両の進行方向前方の上方の任意の地点に虚像が近づき、集束することとなるが、その場合であっても乗員の視線を進行方向前方に向けることが可能となり、車両が走行可能な状態となったことを乗員に把握させることが可能となる。
【0068】
次に、S24においてCPU31は、前記S22で生成距離L2が変更されてから所定時間経過したか否かを判定する。
【0069】
そして、前記S22で生成距離L2が変更されてから所定時間経過したと判定された場合(S24:YES)には、当該走行開始処理プログラムを終了する。その後は、第2スクリーン21を再度移動させて生成距離L2を変更前の距離に復帰する。そして、車両の走行に応じた新たな虚像(例えば案内標識、地図画像、交通情報)を車両の状況に合わせて適切な位置に随時生成する。一方、前記S22で生成距離L2が変更されてから所定時間経過していないと判定された場合(S24:NO)には、継続して虚像の表示を行う。
【0070】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係るHUD1によれば、プロジェクタ4から、第1投射レンズ16及び第2投射レンズ17を介して夫々映像を第1スクリーン20及び第2スクリーン21に投射し、第1スクリーン20及び第2スクリーン21に投射された映像を車両2のフロントウィンドウ6に反射させて車両の乗員7に視認させることによって、車両の乗員7が視認する映像の虚像を生成する。また、第2スクリーン21は光路に沿って移動可能とし、光路に対して第2スクリーン21に投射された映像の虚像である第2虚像8Bが生成される位置を変更可能とする。そして、フロントカメラ9の撮像画像から停車状態にある車両が走行を開始する為に乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点を特定し(S13、S16)、停車状態にある車両が走行可能な状態となった場合に、虚像が注視対象地点へと接近する方向へ移動するように第2虚像8Bの生成位置を変更する(S22、S23)ので、移動する虚像を目で追う乗員に対して必然的に注視対象地点を視認させることが可能となる。その結果、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に確実に把握させることが可能となる。
【0071】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態ではHUD1によって車両2のフロントウィンドウ6の前方に虚像を生成する構成としているが、フロントウィンドウ6以外のウィンドウの前方に虚像を生成する構成としても良い。また、HUD1により映像を反射させる対象はフロントウィンドウ6自身ではなくフロントウィンドウ6の周辺に設置されたバイザー(コンバイナー)であっても良い。
【0072】
また、本実施形態では車両2に対してHUD1を設置する構成としているが、車両2以外の移動体に設置する構成としても良い。例えば、船舶や航空機等に対して設置することも可能である。また、アミューズメント施設に設置されるライド型アトラクションに設置しても良い。その場合には、ライドの周囲に虚像を生成し、ライドの乗員に対して虚像を視認させることが可能となる。
【0073】
また、本実施形態では注視対象地点へと接近するように移動させる虚像として、車両の車速やテレビ画面を例に挙げているが、移動させる虚像は他の虚像(例えば、案内標識、地図画像、交通情報、ニュース、天気予報、時刻、接続されたスマートフォンの画面等)であっても良い。また、生成されている全ての虚像を注視対象地点へと移動させるのではなく、一部の虚像のみを移動させる構成としても良い。
【0074】
また、本実施形態では第2スクリーン21の可動範囲を、生成距離L2が2.5m〜20mの間で変位するように設定しているが、生成距離L2の下限や上限は適宜変更することが可能である。
【0075】
また、本実施形態では、第2スクリーン21のみを光路に沿って前後方向に移動可能に構成しているが、第1スクリーン20についても移動可能に構成しても良い。同様に、第1投射レンズ16についても移動可能に構成しても良い。また、第2スクリーン21のみを光路に沿って前後方向に移動可能に構成し、第2投射レンズ17については位置を固定する構成としても良い。
【0076】
また、本実施形態では、スクリーンを第1スクリーン20と第2スクリーン21の2枚のスクリーンから構成し、プロジェクタ4のレンズを第1投射レンズ16と第2投射レンズ17の2つのレンズから構成しているが、スクリーンとレンズの数は1対又は3対以上としても良い。また、プロジェクタ4の光源としてはLED以外に、ランプやレーザを用いても良い。
【0077】
また、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置を具体化した実施例について上記に説明したが、ヘッドアップディスプレイ装置は以下の構成を有することも可能であり、その場合には以下の効果を奏する。
【0078】
例えば、第1の構成は以下のとおりである。
車両に設置され、スクリーンと、光源から出力される光に基づいて生成される映像を前記スクリーンに投射するプロジェクタと、前記スクリーンに投射された前記映像から前記映像の虚像を生成する虚像生成手段と、前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させる移動手段と、前記移動手段によって前記スクリーンを前記光源の光路に沿って移動させることにより、前記虚像を視認する前記車両の乗員から前記虚像生成手段により生成される前記虚像までの距離である生成距離を変更する虚像位置変更手段と、停車状態にある前記車両が走行を開始する為に前記乗員に対して注視させる必要がある注視対象地点を特定する対象特定手段と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記虚像が前記注視対象地点へと接近する方向へ移動するように前記生成距離及び前記スクリーンにおける映像の表示位置を変更することを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、停車状態にある車両が走行可能な状態となった場合に、生成された虚像を車両の乗員に注視させる必要がある注視対象地点へと移動させることによって、移動する虚像を目で追う乗員に対して必然的に注視対象地点を視認させることが可能となる。その結果、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に確実に把握させることが可能となる。
【0079】
また、第2の構成は以下のとおりである。
前記虚像位置変更手段は、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記生成距離を長くすることによって前記虚像を前記注視対象地点へと接近する方向へ移動させることを特徴とする
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、車両の乗員に近い位置にある虚像が徐々に乗員から遠い位置にある注視対象地点へと移動するので、移動する虚像を目で追う乗員に対して無理な視線移動をさせることなく自然に注視対象地点を視認させることが可能となる。
【0080】
また、第3の構成は以下のとおりである。
停車状態にある前記車両が走行可能な状態となった場合に、前記生成距離を変更するのに伴って前記虚像のサイズを徐々に小さく変更することを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、車両の乗員に近い位置にある虚像が徐々に乗員から遠い位置にある注視対象地点へと移動することを虚像のサイズを変更することによって違和感なく表現することが可能となる。また、虚像が注視対象地点へと集束することとなるので、乗員に対してより確実に注視対象地点を視認させることが可能となる。
【0081】
また、第4の構成は以下のとおりである。
前記車両の進行方向前方にある信号機を検出する信号機検出手段を有し、前記注視対象地点を前記信号機検出手段によって検出された前記信号機とすることを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、停車状態にある車両が走行可能な状態となった場合に、走行可能な状態となったことを示す信号機を車両の乗員に視認させることが可能となる。その結果、走行可能な状態となったことを乗員に容易に把握させることが可能となる。
【0082】
また、第5の構成は以下のとおりである。
前記信号機検出手段によって前記信号機が検出されなかった場合に、前記注視対象地点を前記車両の進行方向前方にある所定地点とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、停車状態にある車両が走行可能な状態となった場合に、車両の進行方向前方に信号機が検出できなかった場合であっても、車両の視線方向を進行方向前方に向けることが可能となる。その結果、走行可能な状態となったことを乗員に把握させ易い状態とすることが可能となる。
【0083】
また、第6の構成は以下のとおりである。
前記車両が交差点で停車する状態で、前記車両の進行方向前方にある信号機が進行不可状態から進行許可状態へと切り換わった場合に、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となったと判定することを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、信号機の点灯状態から車両が走行可能な状態となったか否かを正確に判定することが可能となる。
【0084】
また、第7の構成は以下のとおりである。
前記車両が交差点で停車する状態で、前記車両の進行方向前方に位置する前方車両が走行を開始した場合に、停車状態にある前記車両が走行可能な状態となったと判定することを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、前方車両の走行状態から車両が走行可能な状態となったか否かを正確に判定することが可能となる。
【0085】
また、第8の構成は以下のとおりである。
前記虚像位置変更手段によって前記生成距離が変更されてから所定時間経過した後に、前記生成距離を変更前の距離に復帰する復帰手段を有することを特徴とする。
上記構成を有するヘッドアップディスプレイ装置によれば、停車状態にある車両が走行可能な状態となったことを車両の乗員に確実に把握させた後には、再び車両の走行に応じた新たな虚像を車両の状況に合わせて随時生成することが可能となる。
【符号の説明】
【0086】
1 ヘッドアップディスプレイ装置
2 車両
3 ダッシュボード
4 プロジェクタ
5 スクリーン
6 フロントウィンドウ
7 乗員
8 虚像
16 第1投射レンズ
17 第2投射レンズ
18 レンズ駆動モータ
19 光源
20 第1スクリーン
21 第2スクリーン
24 スクリーン前後駆動モータ
25 スクリーン上下駆動モータ
31 CPU
32 RAM
33 ROM
34 フラッシュメモリ
51 撮像画像
52 信号機
53 前方車両
55 光路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19