(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6287438
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月7日
(54)【発明の名称】金属部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25F 3/04 20060101AFI20180226BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20180226BHJP
C22C 1/00 20060101ALI20180226BHJP
C22C 13/00 20060101ALN20180226BHJP
【FI】
C25F3/04 A
C22C21/00 E
C22C1/00 S
!C22C13/00
【請求項の数】11
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-63261(P2014-63261)
(22)【出願日】2014年3月26日
(65)【公開番号】特開2015-183274(P2015-183274A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2016年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北山 功志郎
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】岩田 靖
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−266492(JP,A)
【文献】
特開2013−014819(JP,A)
【文献】
特公昭46−024122(JP,B1)
【文献】
特開昭51−137630(JP,A)
【文献】
特開2011−157579(JP,A)
【文献】
特開平10−193090(JP,A)
【文献】
特開昭55−131166(JP,A)
【文献】
特開2013−007071(JP,A)
【文献】
特開平10−226865(JP,A)
【文献】
特開昭61−027069(JP,A)
【文献】
特開平06−207260(JP,A)
【文献】
特開平03−017283(JP,A)
【文献】
特開2013−159834(JP,A)
【文献】
米国特許第05013614(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25F 1/00−7/02
C22C 1/00−1/02
C22C 21/00−21/18
C22C 13/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純金属または合金からなる基体の表面上で該基体の主たる構成元素である主金属元素と一種以上の合金元素とからなる溶融液を該基体の表面に対して一方向に凝固させた凝固層を形成する凝固工程と、
該凝固層から該合金元素を選択的に溶出させて該基体の表面に晶出した樹枝状晶を残存させる溶出工程とを備え、
前記基体と、該基体の表面に該基体と一体的に形成された表面部と、を有する金属部材が得られる金属部材の製造方法であって、
前記表面部は、前記基体の主たる構成元素である主金属元素の純金属もしくは合金からなると共に該基体の表面から起立している基幹と該基幹から連なって分岐した分枝とからなる樹枝状突起が複数並存した突起群を有することを特徴とする金属部材の製造方法。
【請求項2】
前記突起群は、前記基幹毎の根元から先端までの高さ(Hi)を平均した平均幹高(Hm)が該基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)よりも大きい柱状突起群である請求項1に記載の金属部材の製造方法。
【請求項3】
前記突起群は、前記基幹毎の根元における外径(dri)を平均した平均根元径(drm)が該基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)よりも小さいアンダーカット状突起群である請求項1または2に記載の金属部材の製造方法。
【請求項4】
前記突起群は、前記分枝毎の根元から先端までの長さ(Li)を平均した平均枝長(Lm)が前記基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)に対して0.1以上である請求項1〜3のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項5】
前記突起群は、前記基幹毎の根元から先端までの高さ(Hi)を平均した平均幹高(Hm)が1mm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項6】
前記突起群は、前記基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)が100μm以下である請求項1〜5のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項7】
前記溶出工程は、エッチング工程である請求項1〜6のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項8】
前記主金属元素は、前記溶融液から初晶を生じる元素であり、
前記合金元素は、該主金属元素中に実質的に固溶しない元素である請求項1〜7のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項9】
前記主金属元素はAlである請求項1〜8のいずれかに記載の金属部材の製造方法。
【請求項10】
前記樹枝状突起は、AlもしくはAl合金からなる請求項9に記載の金属部材の製造方法。
【請求項11】
前記合金元素はSnである請求項9または10に記載の金属部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹枝状突起群を表面に有する金属部材
の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接触面積増大による熱伝達性の向上、アンカー効果による密着性の向上、活物質や触媒等の担持性の向上、吸着面積増大による吸着性の向上など、種々の目的のために金属部材の表面を改質化、粗面化等することがなされる。このような一例として、下記の特許文献1および特許文献2に関連した記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−247800号公報
【特許文献2】特開2012−216513号公報
【特許文献3】特開2013−168375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、スパッタリング等により基板上に金属酸化物からなる突起物を形成した金属酸化物構造体に関する記載がある。また特許文献2には、直流通電により電気化学的に表面を粗面化したアルミニウム合金基材からなる集電体に関する記載がある。これらによって基材表面に形成される突起または凹凸は、比較的単純な形状に過ぎず、表面積やアンカー効果等を必ずしも十分に増大させるものではない。
【0005】
なお、特許文献3は、粒子形状をデンドライト状とした銅粉を提供しているが、当然ながら、部材を構成する基体の表面を粗面化するものではない。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、従来とは異なる形状の微細突起群を表面に形成した金属部材
の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、Al基材の表面上でAl−Sn溶湯を一方向凝固させた後、特定条件下でエッチングを行うことにより、その基材表面に純Alからなる樹枝状突起が多数起立した金属部材を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《金属部材》
(1)本発明の金属部材は、純金属または合金からなる基体と、該基体の表面に該基体と一体的に形成された表面部と、を有する金属部材であって、前記表面部は、前記基体の主たる構成元素である主金属元素の純金属もしくは合金からなると共に該基体の表面から起立している基幹と該基幹から連なって分岐した分枝とからなる樹枝状突起が複数並存した突起群を有することを特徴とする。
【0009】
(2)本発明の金属部材は、単なる粒状突起や柱状突起等とは異なり、基幹とその基幹から分岐した分枝とを有する複雑な形状をした樹枝状突起が多数存立した突起群を表面に有する。この突起群により本発明の金属部材は、従来の粗面化処理された部材よりも遙かに大きな表面積を有することが可能となる。また、この突起群は、基幹から横方向に延びた分枝を有するため、接触する他部材や被膜等との掛合性が良好であり、優れた密着性またはアンカー効果等を発揮し得る。さらに、その突起群は、隣接する基幹同士間や分枝同士間、一つの突起中における基幹と分枝の間などで様々な微小スペースを形成するため、種々の物質(粒子やイオン等)の保持性または担持性等にも優れる。
【0010】
本発明に係る樹枝状突起は、金属部材の基体と一体化している。具体的にいうと、先ず、基幹が基体表面から一体的に延在した状態、換言するなら基体と基幹の境界面を特定し難い状態となっている。このため各基幹は基体と容易に分離、折損等しない。このような状態は、基体と分枝の間でも同様であり、基幹とその基幹に連なる各分枝も容易に分離、折損等しない。このような樹枝状突起により表面部が形成されているため、本発明の金属部材は上述した各効果を安定的に発揮し得る。
【0011】
なお、本発明で想定している樹枝状突起は、基本的には微細突起である。例えば、表面部(突起群)の厚さ(正確には後述する平均幹高)は1mm以下、0.5mm以下さらには0.2mm以下であり、基幹の太さ(正確には後述する平均幹径)が1mm以下、100μm以下、50μm以下さらには20μm以下である。また樹枝状突起の密度(単位面積あたりの基幹の本数)は、例えば、1mm
2あたり100本以上、500本以上さらには1000本以上である。
【0012】
《金属部材の製造方法》
(1)本発明は上述の金属部材としてのみならず、その製造方法としても把握できる。すなわち本発明は、純金属または合金からなる基体の表面上で該基体の主たる構成元素である主金属元素と一種以上の合金元素とからなる溶融液を該基体の表面に対して一方向に凝固させた凝固層を形成する凝固工程と、該凝固層から該合金元素を選択的に溶出させて該基体の表面に晶出した該主金属元素からなる樹枝状晶を残存させる溶出工程とを備え、上述した金属部材が得られることを特徴とする金属部材の製造方法としても把握できる。
【0013】
(2)本発明の製造方法によれば、基体の表面に一体化した主金属元素からなる樹枝状晶を含む凝固層が凝固工程で形成される。そして溶出工程でその凝固層から樹枝状晶以外の部分を溶出させて取り除くことにより、基体の表面に一体化した樹枝状突起が比較的容易に得ることができる。
【0014】
《その他》
(1)本発明に係る樹枝状突起または樹枝状晶は、主金属元素からなる純金属もしくは主金属元素と微量の不可避不純物と固溶・析出・分散状態で存在する合金元素とからなる合金であることが好ましい。このような合金元素として、Si、Mg、Zn、Cu、Fe等がある。
【0015】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】基材表面に形成された樹枝状突起群を観察したSEM写真である。
【
図1B】その基材側面から樹枝状突起群を観察したSEM写真である。
【
図1C】その樹枝状突起を拡大したSEM写真である。
【
図2A】本発明に係る樹枝状突起の形態を規定する各サイズを模式的に示した説明図である。
【
図2B】その樹枝状突起に係る基幹の外径を模式的に示した説明図である。
【
図2C】本発明に係る根元を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で説明する内容は、本発明の金属部材のみならず、その製造方法にも該当し得る。製造方法に関する構成要素は、プロダクトバイプロセスクレームとして理解すれば物に関する構成要素ともなり得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0018】
《樹枝状突起/樹枝状晶》
本発明に係る樹枝状突起は、基体の表面から起立している基幹と基幹から連なる分枝とからなる。樹枝状突起は、その詳細な形態を問わないが、通常、外径:100μm以下、高さ:1mm以下程度の微細突起である。個々の樹枝状突起の大きさや形態を詳細に規定することは困難であり、その意味も乏しい。そこで本明細書では、基本的に、複数の樹枝状突起からなる突起群全体の平均的な形態等を規定することとした。
【0019】
本明細書でいう「外径」は、一つの基幹(分枝も同様)に関して、その延在方向の特定位置における横断面の外形(外周)に接する外接円の直径(D)とする(
図2B参照)。「最大外径」とは、その外径(D)の最大値、つまり、一つの基幹に関して、その延在方向の各横断面における外径(D)の最大値である。一つの基幹の太さは、その最大外径(Di)により指標する。また突起群としては、特定領域内にある樹枝状突起の全て(総数:N)について、各基幹の最大外径(Di)を平均化した平均幹径(Dm=ΣDi/N)により基幹の太さを指標する(
図2A参照)。
【0020】
また、一つの基幹の高さは、その基幹が起立している面の法線方向に測定した基幹の根元(付け根)から先端までの長さとするが、突起群としては、特定領域内にある樹枝状突起(総数:N)について各基幹の高さ(Hi)を平均化した平均幹高(Hm=ΣHi/N)により基幹の高さを指標する(
図2A参照)。さらに、一つの分枝の長さは、その分枝の根元(付け根)から先端までの直線的な長さとするが、突起群としては、特定領域内にある樹枝状突起(総数:N)について各分枝の長さ(Li)を平均化した平均枝長(Lm=ΣLi/N)により分枝の長さを指標する(
図2A参照)。
【0021】
なお、本明細書でいう「根元」は、
図2Cに示すように各デンドライト(各基幹または各分枝)間の最も凹んでいる点(点a,b)を結んだ線と、デンドライトの頂点から基体に下ろした垂線との交点とする。また、突起群について平均値を求めるときの特定領域は、その領域中に基幹を100本以上、望ましくは1000本以上含むように選び、1mm
2程度の領域とする。また各樹枝状突起の各形態(大きさ等)の特定は電子顕微鏡を用いて断面観察を行った結果に基づく。
【0022】
これらに基づき本発明に係る突起群は、例えば、基幹毎の根元から先端までの高さ(Hi)を平均した平均幹高(Hm)が基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)よりも大きい柱状突起群であると好ましい。HmがDmより大きいと、粗面化による高いアンカー効果や担持効果が期待できるためである。
【0023】
また本発明に係る突起群は、基幹毎の根元における外径(dri)を平均した平均根元径(drm)が基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)よりも小さいアンダーカット状突起群であると好ましい。接合界面において顕著なアンカー効果が期待できるためである。なお、各基幹の根元における外径(dri)は、その根元近傍における外径の最小値である最小外径とする。平均根元径(drm)は、その根元外径(dri)を特定領域内にある樹枝状突起(総数:N)について平均した値(drm=Σdri/N)である(
図2A参照)。
【0024】
さらに本発明に係る突起群は、分枝毎の根元から先端までの長さ(Li)を平均した平均枝長(Lm)が基幹毎の最大外径(Di)を平均した平均幹径(Dm)に対して0.1以上、0.5以上さらには1以上であると好ましい。Lmが長いほど表面積が拡大され、粗面化効果も大きくなるためである。この枝長比(Lm/Dm)は、例えば、50以下さらには10以下が望ましい。LmがDmに比べ大きくなりすぎると基幹への負担が課題となり、また基幹の密度が低下するためである。
【0025】
《基体と主金属元素》
基体は、その形態を問わず、金属部材の用途に応じて適切な形態が選択される。本発明に係る突起群は、基体の元の表面に付加的に形成されたものでもよいし、基体の元の表面から内部(深部)に向かって樹枝状突起以外の部分を除去して残存的に形成されたものでもよい。
【0026】
基体は純金属でも合金でもよい。その主たる構成元素である主金属元素は、種々考え得るが、Alであると本発明の金属部材の幅広い利用が可能となり好ましい。なお、主たる構成元素とは、基体全体に対して50原子%以上存在する元素である。本発明の場合、樹枝状突起もその主金属元素(特にその純金属)からなると好ましい。これにより本発明の突起群は、基体と一体化して十分な強度を発揮し易く、また基体と同様な取扱いができて好都合である。
【0027】
《製造方法》
本発明に係る突起群は種々の方法により形成され得るが、既述した凝固工程と溶出工程によりなされると突起群が効率的に形成され得る。
【0028】
凝固工程では、主金属元素と一種以上の合金元素とをほぼ完全に溶融させた溶融液(合金溶湯)を基体の表面に導入(注湯)して、その表面上で凝固させる。この冷却過程中に、主金属元素が初晶として晶出し、その初晶が樹枝状晶として発達する。この際、溶融液が接触している基体表面近傍を冷却すると、溶融液の熱流方向が基体表面の反対方向となり、その熱流方向に沿って発達した樹枝状晶が基体の表面に形成される。
【0029】
こうして得られた凝固層から、樹枝状晶の形成に寄与していない合金元素を選択的に溶出させると、樹枝状晶以外の凝固組織が除去されて、主金属元素からなる樹枝状晶が基体表面に一体的に結合した状態で残存する。この残存した樹枝状晶(デンドライト状結晶)により本発明の樹枝状突起が形成される。ちなみに、樹枝状晶の一次アームが樹枝状突起の基幹となり、樹枝状晶の二次アームが樹枝状突起の分枝となる。なお、本発明に係る樹枝状突起は、樹枝状晶の三次アーム等を有するものでもよい。
【0030】
このような樹枝状晶は、合金溶湯から主金属からなる凝固相が成長する過程において、凝固相が自己組織化することにより形成される。それゆえ、前記合金溶湯の成分として凝固相に固溶する合金元素を用いると、樹枝状晶は合金元素を含む主金属、すなわち合金で構成される。逆に凝固相に固溶しない合金元素を用いれば、樹枝状晶は主金属からなる純金属で構成される。樹枝状晶の材質は、純金属もしくは合金のどちらかを用途に応じて選定できる。例えば、強度向上や不可避不純物の無害化などの改質目的であれば合金元素が凝固相に固溶するものを添加しても良い。高い熱伝導性や電気伝導性を必要とする場合には凝固相に固溶しない合金元素が好ましいが、固溶量が微量であれば固溶する元素であっても良い。その固溶限は一概に特定し難いが、例えば、凝固工程において主金属元素に対する最大の固溶量が0.1質量%以下、さらには0.01質量%以下であることが好ましい。
【0031】
このような元素の組合せとして、例えば、主金属元素がAlで合金元素がSnであると好ましい。このときの溶融液(合金溶湯)の合金組成は、その全体を100質量%として、Sn:80〜95%、残部:Alおよび不可避不純物であると好ましい。Snが過少(Alが過多)では樹枝状晶を形成しにくいため好ましくない。Snが過多(Alが過少)では樹枝状晶の形成が困難となったり、その形成量が過少となり好ましくない。
【0032】
樹枝状晶は微細で複雑な形状をしていることから、溶出工程はエッチング工程であると好ましい。この際用いるエッチング液(エッチャント)は主金属元素および合金元素の種類に応じて適切なものが選択される。但し、少なくとも主金属元素の溶解速度よりも合金元素の溶解速度が大きいエッチング液が好ましい。
【0033】
凝固層が上述したAl−Sn合金からなる場合、エッチング液としてテトラフルオロホウ酸(HBF
4 )、硫酸(H
2SO
4)、水酸化ナトリウム(NaOH)等を用いることが考えられる。このようなエッチング液は、Alからなる樹枝状晶の表面に保護被膜となる酸化膜(Al
2O
3)を形成し易く、その樹枝状晶を残存させつつ、Snを選択的に溶出させ易い。なお、合金元素等の溶解速度を調整するために、適宜、被処理材(凝固層が形成された基体)に適切な通電(例えば、直流電圧の印加)をしてもよい。
【0034】
《用途》
本発明の金属部材は、あらゆる分野の種々の製品に利用することができる。例えば、その表面積の大きさに着目すると、熱交換器(ラジエータ等)やその構成部材(フィン等)、活物質の担持体やまたは担持電極等へ利用可能である。また、その表面形状の特異性に着目すると、超撥水部材、摺動部材、流動制御部材(層流化部材、乱流化部材)、汚れ付着抑止部材、水の相変化を利用したヒートパイプ、気液分離フィルター等へ利用可能である。さらに、樹枝状突起のアンカー効果等に着目すると、他部材や被膜との密着性を向上させることができ、異種材同士の接合部材、表面被膜を有する被覆部材等としても本発明の金属部材を利用できる。なお、各用途に応じて、本発明に係る樹枝状突起の形態や密度等が適宜調整されると好ましいことは当然である。
【実施例】
【0035】
基体上に樹枝状突起群を形成した試料を下記のように製造した。この試料に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0036】
《試料の製造》
(1)基体として市販の純Al板(A1050)からなる基材を用意した。この基材を電熱ヒーターを用いて550℃に加熱した(予熱工程)。次に、Al−90質量%Snに調製された合金溶湯(溶融液)を用意した。この合金溶湯は700℃以上に加熱して完全溶解させたものである。
【0037】
(2)基材の上面にSUS304(JIS)製の円環状(円筒状)鋳型を配置した。この鋳型も基材と同様に予熱した。この鋳型内に上記の合金溶湯を注湯した。注湯時の合金溶湯の温度は660℃とした。合金溶湯の注湯を完了してから2分間静置した。この際、合金溶湯の温度は560℃に維持した。
【0038】
その後、基材の下面(裏面)全体をウォータージャケットに接触させて、鋳型中の合金溶湯を冷却して一方向凝固させた。この合金溶湯の温度が240℃になったところで、残湯を鋳型から排出し、その後、基材を室温まで冷却した。こうして基材の表面にAl−Sn凝固層が形成された中間材を得た。
【0039】
この中間材をエッチング液中に浸漬し、中間材を陽極として直流電圧を印加した(エッチング工程、溶出工程)。この際、エッチング液には濃度3.5質量%のHBF
4水溶液を用いた。また陰極にはステンレス鋼(SUS304)を用いた。印加した直流電圧は10Vで一定とした。
【0040】
このエッチング処理を1分半(約90秒間)行った後、引き上げた試料をすぐさま純水で洗浄した。こうして本実施例に係る試料を得た。
【0041】
《観察》
得られた試料の表面(基材の上面側)を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真を
図1Aに、その断面(側面)を観察した写真を
図1Bに示した。また、その表面の一部を拡大した写真を
図1Cに示した。
【0042】
これらから明らかなように、樹枝状晶からなる樹枝状突起が無数に、基材上面に一体的に形成されることがわかる。これら樹枝状突起群を切断しSEMで観察を行った。解析した範囲は任意の100本からなる領域である。その結果、その樹枝状突起群は、平均幹高(Hm):43μm、平均幹径(Dm):9.3μm、平均根元径(drm):5.4μmであった。従って、本試料の突起群は、Hm>Dmとなる柱状突起群であると共に、drm<Dmとなるアンダーカット状突起群であることが確認された。
【0043】
また、本試料の突起群は、平均枝長(Lm):30μmであり、平均枝長比(Lm/Dm):1.5となることも確認できた。