(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る新規オリゴ糖は、下記式(1)で表されるマンノポリオーシルフラクトースである。式(1)中、nは0〜8の整数を表す。
【0013】
前記式(1)で表されるマンノポリオーシルフラクトース(以下、単に「マンノポリオーシルフラクトース」ということがある。)は、マンノースとフラクトースから公知の化学合成によって合成してもよく、天然のマンナン等を原料として得てもよい。
【0014】
マンノポリオーシルフラクトースの製造方法としては、コーヒー豆(焙煎したコーヒー豆を含む。)及び/又はコーヒー豆絞り滓を180〜250℃で加熱処理した後、得られたオリゴ糖組成物(構成単糖の種類や数が異なる複数のオリゴ糖の混合物)から、カラムクロマトグラフィー法等により分離精製する方法が好ましい。コーヒー豆等を加熱処理することにより、マンノースのみが重合してなるマンノオリゴ糖と、マンノポリオーシルフラクトースの含有量が極めて高いオリゴ糖組成物が得られるため、当該オリゴ糖組成物から分離精製することにより、マンノポリオーシルフラクトースを容易に製造し得る。
【0015】
ビフィズス菌や乳酸菌はマンノポリオーシルフラクトースを資化できるが、大腸菌やクロストリジウム菌等は資化できない。このため、マンノポリオーシルフラクトースは、腸内細菌叢改善剤として有用である。
【0016】
さらに、マンノポリオーシルフラクトースを含有する培地中では、癌細胞は顕著に増殖が抑制される。このため、マンノポリオーシルフラクトースは、抗癌剤として有用である。
【0017】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤は、マンノポリオーシルフラクトースのみからなるものであってもよく、他の成分を含むものであってもよい。例えば、本発明に係る腸内細菌叢改善剤は、有効成分のマンノポリオーシルフラクトースとして、前記コーヒー豆(焙煎したコーヒー豆を含む。)及び/又はコーヒー豆絞り滓を180〜250℃で加熱処理した後に得られたオリゴ糖組成物を用いてもよい。本発明に係る腸内細菌叢改善剤におけるマンノポリオーシルフラクトースの含量は、総固形分に対して30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましい。
【0018】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤は、さらに、マンノースを主体とした単糖類が1〜10分子結合したオリゴ糖類、すなわち、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」のうち、構成単糖の数が1〜10分子である組成物を含有することも好ましい。
【0019】
本発明及び本願明細書において、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」とは、単糖であるマンノースを主たる構成要素とするオリゴ糖類を意味する。ここで「オリゴ糖類」なる語は、一般に単糖類と多糖類との間に位し、一定の小数量の単糖類分子のグリコシル結合からなる物質を指す。すなわち、結合している単糖の数が比較的少ないポリマーのことである。「オリゴ糖『類』」という場合、構成単糖の種類や数が様々である複数のオリゴ糖が含まれる組成物であることを意味する。「マンノースを主体としたオリゴ糖『類』」という場合は、オリゴ糖類のうち、特に、組成物全体の構成単糖に占めるマンノースの割合が50%以上である組成物を指す。本発明及び本願明細書において「マンノオリゴ糖類」の語は、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」の語と同様の意味において用いられる。
【0020】
本発明及び本願明細書において、オリゴ糖類の重合度を表すために「DP」と記載することがある。DPとは、オリゴ糖類を構成している単糖の数を意味する。すなわち単糖であるマンノースは「DP1」と表され、4つのマンノースから構成されたマンノオリゴ糖は重合度4、すなわち「DP4」と表される。学術的観点からは、重合度1(DP1)の糖は単糖であって、オリゴ糖ではない。しかし、本発明に用いるオリゴ糖類(組成物)中には、単糖が含まれる場合があるので、本願明細書においてはこのような場合であっても総称して「オリゴ糖類」と呼ぶものとする。すなわち、「1以上10分子以下の、マンノースを主体とした単糖類が結合した、マンノースを主体としたオリゴ糖類」という場合には、この糖組成物中に重合度1の単糖も含まれている場合があると理解されたい。
【0021】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤に含まれる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、構成単糖がマンノース、グルコース、ガラクトース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖が1〜10分子結合したオリゴ糖が複数種類含まれており、かつ構成単糖全体に占めるマンノースの割合が50%以上であるオリゴ糖類(組成物)が好ましく、構成単糖がマンノース及びフルクトースからなる群より選択される1種以上の単糖が1〜10分子結合したオリゴ糖が複数種類含まれており、かつ構成単糖全体に占めるマンノースの割合が50%以上であるオリゴ糖類(組成物)がより好ましい。
【0022】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤に含まれる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、オリゴ糖類中のマンノース残基の割合(構成単糖全体に占めるマンノースの割合)が70質量%以上であるオリゴ糖類(組成物)が好ましく、オリゴ糖類中のマンノース残基の割合が80質量%以上であるオリゴ糖類(組成物)がより好ましい。マンノース残基の割合が充分に高いことにより、マンノオリゴ糖による作用をより効果的に得ることができ、また、グルコース等の他の単糖類の含有割合が比較的低いことにより、甘味度等を低く抑えることができ、飲食品やサプリメント、医薬品等へ幅広く適用しやすくなる。
【0023】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤に含有させる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、単糖のマンノース由来の苦味を抑えることができるため、遊離のマンノース含量が50質量%以下に抑えられたものが好ましい。また、当該「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、2〜9分子の単糖類が結合したオリゴ糖の含量が多いものが好ましく、2〜6分子の単糖類が結合したオリゴ糖の含量が多いものがより好ましい。また、当該「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、各構成単糖がβー1,4結合したオリゴ糖の含有割合が50質量%以上であるものが好ましい。
【0024】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、構成単糖がマンノースのみからなる(マンノースのみを構成単位とする)マンノオリゴ糖類、すなわち、マンノースが1〜10分子結合したオリゴ糖類であることも好ましい。この場合には、マンノースが1〜10分子結合したβ−1,4−マンノオリゴ糖類であることがより好ましい。
【0025】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、マンナンを加水分解処理することによって得られるものが好ましい。なお、本発明及び本願明細書において、単に「マンナン」という場合は、D−マンノースのみを構成単位とする多糖であるマンナンの他、マンノースとガラクトース又はグルコースと構成単位とした多糖であるガラクトマンナン、グルコマンナンも広義に含めるものとする。D−マンノースはアルドヘキソースであり、D−グルコース中のカルボキシル基に隣接する炭素に結合している水酸基の立体配置が逆になっているものである。
【0026】
ここで、原料のマンナンは、例えばココナッツ椰子から得られるコプラミール、フーク、南アフリカ産椰子科植物HuacraPalm、ツクネイモマンナン、ヤマイモマンナンより抽出することにより得ることができる。このように得たマンナンを、酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、好ましくは活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製して、糖混合物を得ることができる。かかる当混合物中には、上述した「マンノースを主体としたオリゴ糖類」が含まれている。したがって、このようにして得た組成物は、本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤の有効成分として用いられる。さらに、「マンノースを主体としたオリゴ糖類」は、コンニャクイモ、ユリ、スイセン、ヒガンバナ等に含まれるグルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム等に含まれるガラクトマンナンを酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で分離精製し構成糖としてマンノースの比率を高めることにより製造したものであってもよい。
【0027】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」としては、コーヒー生豆又は焙煎したコーヒー豆を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることができる。あるいは、使用済みコーヒー残渣を酸加水分解、高温加熱加水分解、酵素加水分解、微生物発酵の中から選択される1種又は2種以上の方法で処理し、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理等の方法で精製することによって得ることも可能である。一般に、焙煎粉砕コーヒーを商業用の抽出器にて抽出すると、その際に焙煎コーヒーに含まれるガラクトマンナンの側鎖であるガラクトースが可溶化したり、アラビノガラクタンが加水分解によって可溶化する。従って、コーヒー残渣中にはマンナンが豊富であり、しかも直鎖構造をとっているものと推定される。一方、セルロースは分解されにくく残渣として残っているが、セルロースを分解せずにマンナンを特異的に加水分解する条件を適宜選択することにより、マンノースを主体とするオリゴ糖を得ることができる。
【0028】
特にコーヒー抽出残渣を分解する方法としては、酸及び/又は高温により加水分解する方法、酵素により分解する方法、微生物発酵により分解する方法が挙げられるが、これらに限定されない。酸及び/又は高温により加水分解する方法としては特開昭61−96947号公報、特開平2−200147号公報等に開示されている。商業用のコーヒー多段式抽出系において出てくる使用済みコーヒー残渣を反応容器中において酸触媒を添加して加水分解することもでき、酸触媒を添加せずに高温で短時間処理して加水分解することによっても得ることができる。管形栓流反応器を使用する方法が便利であるが、比較的高温で短時間の反応を行わせる方法に向いているものであれば、いかなる反応器を使用しても良好な結果が得られる。反応時間と反応温度を調節し、可溶化して加水分解させることによってDP10〜40のマンナンをDP1〜10のマンノオリゴ糖に分解し、その後コーヒー残渣と分離してマンノオリゴ糖類を得ることができる。なお、ここでコーヒー抽出残査とは、大気中あるいは加圧条件下で焙煎粉砕コーヒーを水などの溶媒で抽出した後の、いわゆるコーヒー抽出粕を意味する。
【0029】
「マンノースを主体としたオリゴ糖類」として、コーヒー豆(焙煎コーヒー豆、及び焙煎粉砕コーヒー豆を含む。)及び/又はコーヒー抽出残渣の加水分解処理により得られたものを用いる場合、使用するコーヒー豆の種類や産地に特に制限はなく、アラビカ種、ロバスタ種、リベリカ種等いずれのコーヒー豆でもよく、さらにブラジル、コロンビア産等いずれの産地のコーヒー豆も使用することができ、1種類の豆のみを単独で使用してもよく、ブレンドした2種以上の豆を使用してもよい。通常、商品価値がないとして廃棄処分されるような品質の悪いコーヒー豆又は小粒のコーヒー豆であっても使用することができる。上記コーヒー豆を一般的に用いられている焙煎機(直火、熱風、遠赤、炭火式など)による極浅炒り、浅炒り、中炒り、深炒りに焙煎したコーヒー豆、及びこの焙煎コーヒー豆を、一般的な粉砕機、ロールミルなどを用いて粉砕することにより得た、焙煎粉砕コーヒー(粗挽き、中粗挽き、中挽き、中細挽き、細挽きなどの種々の形状のものを含む)を用いることもできる。
【0030】
また、コーヒー抽出残渣としては、通常の液体コーヒーあるいはインスタントコーヒー製造工程において、焙煎粉砕コーヒーを抽出処理した後のものであれば、常圧下、加圧下抽出であろうと、またいかなる起源、製法のコーヒー抽出残渣であっても使用することができる。
【0031】
ここで、上記加水分解処理について、いくつか詳細に説明する。酵素により分解する方法としては、例えばコーヒー抽出残渣を水性媒体に懸濁させ、ここへ、例えば市販のセルラーゼ及びヘミセルラーゼ等を加えて撹拌しながら懸濁させればよい。酵素の量、作用させる温度及びその他の条件としては、通常の酵素反応に用いられる量、温度、条件であれば特に問題はなく、使用する酵素の最適作用量、温度、条件及びその他の要因によって適宜選択すればよい。
微生物発酵により分解する方法としては、例えば水性媒体に懸濁させたコーヒー抽出残渣にセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを産出する微生物を植菌して培養させればよい。使用する微生物は、細菌類や担子菌類などコーヒー抽出残渣中のマンナンを分解する酵素を産出するものであれば良く、使用する微生物によって培養条件などは適宜選択すればよい。
【0032】
上記の方法によって得られた「マンノースを主体としたオリゴ糖類」を含む反応液は、必要に応じて精製することができる。精製法としては、骨炭、活性炭、炭酸飽充法、吸着樹脂、マグネシア法、溶剤抽出法等で脱色・脱臭を行い、イオン交換樹脂、イオン交換膜、電気透析等で脱塩、脱酸を行うことが挙げられる。精製法の組み合わせ及び精製条件としては、マンノースを主体とするオリゴ糖類を含む反応液中の色素、塩、及び酸等の量や、その他の要因に応じて適宜選択すればよい。
【0033】
本発明において用いられる「マンノースを主体としたオリゴ糖類」は、原料として使用される前に、予め必要に応じて活性炭、イオン交換樹脂、溶剤等で脱色、脱臭、脱酸等の精製処理をしておいてもよい。
【0034】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤が前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」を含む場合、マンノポリオーシルフラクトースと前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」の含量の総和は、総固形分に対して60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
【0035】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤は、マンノポリオーシルフラクトースによる腸内細菌叢改善効果を損なわない限り、その他の成分を含有していてもよい。例えば、賦形剤、結合剤、流動性改良剤(固結防止剤)、安定剤、保存剤、pH調整剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、粘稠剤、矯味剤、甘味料、酸味料、香料、着色料等として用いられている各種物質を、所望の製品品質に応じて適宜含有させてもよい。
【0036】
本発明に係る抗癌剤は、マンノポリオーシルフラクトースによる癌細胞増殖抑制効果を損なわない限り、その他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、腸内細菌叢改善剤において列挙したものが挙げられる。
【0037】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤の剤型は、特に限定されるものではなく、各種の剤型を適用できる。本発明に係る腸内細菌叢改善剤は、経口摂取することによって腸内細菌叢改善効果を奏するため、経口投与に適したものが好ましい。当該剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0038】
本発明に係る腸内細菌叢改善剤及び抗癌剤は、オリゴ糖類を主成分とするものであり、非常に安全に経口接種可能である。そこで、本発明に係る腸内細菌叢改善剤は、医薬品として以外にも、飲食品中に原料として配合させてもよい。例えば、本発明に係る腸内細菌叢改善剤を配合させた飲食品を継続的に摂取することにより、腸内において、ビフィズス菌や乳酸菌等野有用菌を優先的に増殖され、腸内細菌嚢のバランスが改善される。本発明に係る腸内細菌叢改善剤は、その他、飼料や化粧品の原料とすることも好ましい。
【0039】
例えば、コーヒー抽出残渣を酸及び/又は熱により加水分解しオリゴ糖類を高純度に含むように調製した「マンノースを主体としたオリゴ糖類」をそのまま、又は必要に応じて活性炭、イオン交換樹脂、溶剤等で脱色、脱臭、脱酸等の精製処理をした後に、液体コーヒー、インスタントコーヒー等に添加して使用することもできる。ここで、液体コーヒーとしては、缶又はいわゆるペットボトル容器に入れられて市販されているコーヒー飲料(若しくはコーヒー入り飲料と呼ばれるもの)が挙げられる。また、インスタントコーヒーとしては、焙煎粉砕コーヒーを熱湯で抽出した抽出液を噴霧又は凍結乾燥方法により水分を除去した可溶性粉末コーヒーと呼ばれるものが挙げられる。コーヒーミックス飲料としては、可溶性粉末コーヒーに砂糖、クリーミングパウダーなどを添加して混合した飲料などが挙げられる。
【0040】
また、マンノポリオーシルフラクトースは、その微生物による資化性の差を利用して、ビフィズス菌や乳酸菌を培養するための微生物培養用培地を有効成分とすることもできる。マンノポリオーシルフラクトースを含む培地は、大腸菌やクロストリジウム属菌等の腐敗菌よりも、ビフィズス菌や乳酸菌を優先的に増殖させることができる。
【0041】
前記腸内細菌叢改善剤と同様、本発明に係る微生物培養用培地は、有効成分のマンノポリオーシルフラクトースとして、前記コーヒー豆(焙煎したコーヒー豆を含む。)及び/又はコーヒー豆絞り滓を180〜250℃で加熱処理した後に得られたオリゴ糖組成物を用いてもよく、マンノポリオーシルフラクトースに加えて、さらに前記「マンノースを主体としたオリゴ糖類」を含有していてもよい。
【0042】
本発明に係る微生物培養用培地は、資化性糖として、前記マンノポリオーシルフラクトースのみを含有することが好ましい。これにより、大腸菌等の増殖を充分に抑制し、ビフィズス菌や乳酸菌を効率よく選択的に増殖させることができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
<マンノオリゴ糖の調製>
粉砕して粒径を約1mmにしたコーヒー抽出残渣を、総固形分濃度が約14質量%の水と粉砕物からなるスラリーに調製した後、4mの熱栓流反応器内において熱処理した。当該熱処理においては、当該スラリーを、滞留時間8分間に対応する速度で高圧蒸気とともに栓流反応器にポンプ輸送し、6.35mmφオリフィスを用いて約210℃に維持した。その後、当該スラリーを大気圧下に噴出することによって、反応を急止した。得られたスラリーを濾過して、不溶性固形分から可溶性固形分を含む液を分離した。この可溶性固形分含有液を、活性炭、次いで吸着樹脂で脱色し、さらにイオン交換樹脂で脱塩した後、濃縮、乾燥することによって、マンノースを主体とする単糖類が1〜10分子結合したオリゴ糖類の混合物(オリゴ糖組成物)を得た。
【0045】
<マンノポリオーシルフラクトースの分離精製>
このようにして得られたオリゴ糖組成物200gを10質量%濃度に溶解させた溶液を、活性炭充填した内径20cm、長さ2mのカラムに負荷し、毎分1Lの水で溶出した。重合度の小さいものから先に溶出し、重合度2〜5については2つのピークが検出された。重合度4、5のものについては、一部にピークの重なりが見られたため、完全に分離した部分についてのみ分画乾燥して以下の実験に用いた。
【0046】
まず、二糖をβ−マンノシダーゼで処理したところ、前記活性炭充填カラムから先に溶出した二糖からは等量のマンノースとフルクトースが生成され、後から溶出した二糖からはマンノースのみが生成された。この結果より、先に溶出したものはβ−マンノシルフラクトースであることが確認された。また、三糖を同様の処理したところ、先に溶出したものからはマンノース2当量に対し1当量のフラクトースが生成され、マンノビオーシルフラクトースであることが確認された。同様に、重合度4、5の糖を処理したところ、先に溶出したものは、それぞれマンノトリオーシルフラクトース、マンノテトラオーシルフラクトースであることが確認された。
【0047】
[実施例2]
実施例1で調製した還元末端をフラクトースとするオリゴ糖マンノポリオーシルフラクトースについて、腸内菌叢を構成する菌類に対する資化性を調べた。マンノポリオーシルフラクトースとしては、DP2のマンノシルフラクトースを用いた。
【0048】
<培地の調製>
まず、10gのトリプティケース(日本ベクトン・ディッキンソン社製)、5gの酵母エキス(日本ベクトン・ディッキンソン社製)、40mLのフィルズ溶液、40mLの塩類溶液、0.5gのL−システイン・HCl・H
2O、及び920mLの精製水(pH7.2)を混合し、Pepton−Yeast−Fildes solution(PYF)培地を調製した。
なお、塩類溶液は、0.2gの塩化カルシウム(無水)、0.2gの硫酸マグネシウム、1gのリン酸水素二カリウム、1gのリン酸二水素カリウムと、10gの炭酸水素ナトリウム、2gの塩化ナトリウムを、1000mLの精製水に溶解させた溶液である。
また、フィルズ溶液は、150mLの生理食塩水(0.85(質量/容量)% 塩化ナトリウム)、6mLの濃塩酸、50mLの馬血液、及び1gのペプシン(1:1000)(日本ベクトン・ディッキンソン社製)を混合し、55℃の温浴槽水中で一夜保持し、消化させた後に、12mLの20(質量/容量)% 水酸化ナトリウム溶液を加えた後、水酸化ナトリウムによりpH7.6になるように調整して得た。
【0049】
次いで、マンノビオーシルフラクトースを10(質量/容量)%溶液として調製して濾過滅菌した後、最終濃度0.5(質量/容量)%となるように、滅菌PYF半流動寒天培地に添加した。また、マンノビオーシルフラクトースを10(質量/容量)%溶液に代えて、グルコース10(質量/容量)%溶液を添加したものを、対照とした。
【0050】
<菌類に対する資化性>
平板寒天板培地で培養した新鮮な菌を、前記で調製したマンノビオーシルフラクトース含有PYF培地(マンノビオーシルフラクトースを0.5(質量/容量)%添加したもの)又はグルコース含有PYF培地(グルコースを0.5(質量/容量)%添加したもの)に、各菌株が各々10
8CFU/チューブとなるように接種し、37℃で96時間嫌気培養した。菌数の増加をpHの低下を測定することにより求めた。判定基準は、下記のようにした。
【0051】
「−」:培養液のpHが6.0以上である、
「±」:培養液のpHが5.5以上6.0未満である、
「+」:培養液のpHが5.0以上5.5未満である、
「++」:培養液のpHが4.5以上5.0未満である、
「+++」:培養液のpHが4.5未満である。
【0052】
判定結果を表1に示す。この結果、マンノポリオーシルフラクトースを含有する培地は、ビフィズス菌・乳酸菌等の有用菌を資化し、腐敗菌は資化しないことを確認した。マンノポリオーシルフラクトースは、対照のグルコースに比し、明らかに選択資化性が高いことが判明した。
【0053】
【表1】
【0054】
[実施例3]
<腸内細菌叢改善剤含有レギュラーコーヒーの製造>
8gのレギュラーコーヒーに熱湯を加えてペーパードリップにて抽出して、140mLのコーヒー液を得た。これに、実施例1で調整したマンノポリオーシルフラクトースを主体とするオリゴ糖類を含有する組成物を5g添加した。本来のコーヒー味を持ち、僅かに甘味を有しコクの有るコーヒーが調製できた。このコーヒー液は腸内有用菌増殖促進作用を持つことが期待できる。
【0055】
[実施例4]
<マンノポリオーシルフラクトースの癌細胞増殖抑制試験>
実施例1で調製した還元末端をフラクトースとするオリゴ糖マンノポリオーシルフラクトースについて、癌細胞増殖抑制能を調べた。比較対象として、マンノビオース、フラクトオリゴ糖、及びキシロオリゴ糖を用いた。また、癌細胞として、マウス白血病病細胞P388(マウスリンパ球様がん由来)を用いた。
【0056】
具体的には、まず、マンノポリオーシルフラクトース、マンノビオース、フラクトオリゴ糖、及びキシロオリゴ糖を蒸留水に溶解させ、孔径0.2μmのメンブレンフィルターで濾過した。その後、各濾液をRPMI1640培地で1.0mg/mLになるように濃度調整をしたものを、試験液とした。また、陽性対照液として、カンプトテシンを5.0ng/mLとなるように含有させたRPMI1640培地を用いた。
【0057】
96ウェルプレートにP388細胞を播種し、各試験液を培地として3日間培養を行った。培養後、各ウェルにおけるP388細胞の数を、生細胞数の酸化還元酵素により生成するホルマザン色素量として測定した。具体的には、Cell Counting Kit−8((株)同仁化学研究所製)で処理を行った後、マイクロプレートリーダーで吸光度(450nm)を測定し、検体を共存させたときの色素生成量から未処置対照の生成量に対する相対値を計算し、細胞増殖抑制能を評価した。
【0058】
測定結果を
図1に示した。マンノポリオーシルフラクトース(MF)は、陽性対照であるカンプトテシンと同等の細胞増殖抑制能を示した。一方、試験に供した他の糖類は、ほとんど細胞増殖抑制能を示さなかった。この結果は、MFが癌細胞に対して高い増殖抑制能を有していることを示すものである。